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「フセイン大統領機関説」というアイディア・ターリクアズィーズにかんして
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投稿者 talab 日時 2003 年 4 月 27 日 14:21:58:rUKgTLjKbFdJY

日刊ゲンダイにも登場していたアジア経済研究所主任研究員、酒井啓子氏が実証的なイラク政権の分析を出版しています。

プロパガンダの色合いが極めて少ないと感じられる著作で、「買ってよかった」と感じられる数少ない本のひとつでした。

この本の末尾に、ターリク・アズィーズにかんする興味深い話がのっています。

(引用開始:酒井啓子氏の「フセインイラク政権の支配構造」(岩波書店刊)p339「あとがき」より)

「フセイン大統領機関説」というアイディアが、私の頭の隅にひっかかっている。
イラクが世界を騒がせるたびに、「サッダーム・フセイン」という個人がその全責任を負っているような報じられ方がするが、本当にそうなのだろうか、というのが、私の漠然とした疑問だ。これだけ「フセインが諸悪の根源」といわれながら、実はそうした「フセイン」という像を操り、裏ですべての図柄を描いている人物や組織が存在していると考えてみたら、どうなのだろう?
こんなスパイ小説もどきの、陰謀論的な発想も、あながち根拠がないわけではない。ある亡命イラク人知識人から、「六八年のバアス党のクーデターはバクルやフセインたちではなくて、実はターリク・アズィーズやサアドゥーン・ハンマーディなどの党ブレーンたちが仕組んだものだ、という説を聞いたことがあるか」と尋ねられたことがある。アズィーズやハンマーディも、欧米のメディアではどちらかというと、「フセイン政権のなかでは話の通る相手」として扱われることの多い、知的なイメージの古参党員だ。湾岸戦争直後には、どこかのアラビア語紙でアズィーズが「これまでバアス党はサッダーム・フセインのカリスマ的指導能力に依存しすぎていた」、と「反省」しているのを読んだことがある(どの新聞だったか、手元に保管しておかなかったのが悔やまれるが)。
もうひとつ、ひっかかっていること。それは国外に亡命したイラク人がフセインを非難するときに言う、「彼は路上の子供だから」という表現である。ティクリートという貧しい町をでて、実父を早くに亡くし、後ろ盾となるような身分や財産や家柄や教育もなく、身ひとつで首都に出て党活動に入っていく。そうした一匹狼的なフセインの経歴を評して「路上の子供」というわけだが、しかしイラクの現代史において、「恵まれた」出自から縁遠く社会からはみ出た「路上の子供たち」が社会に台頭しようとしていた時期は、確実にあった。そして下克上のなかで「路上の子供」に蹴落される「恵まれた」家系の人々を見て、フセインの「成り上がり」振りに胸がすく思いをしたイラク人がいたことも、確かである。

(引用終り)


副島隆彦氏の「今日のぼやき」に酒井啓子氏の発言が紹介されています。

(引用開始:今日のぼやき「423」イラク戦争のさ中でも、私たちは普通の生活をしている。2003.4.7)

 それから、私が、注目するのは、酒井啓子さんという、イラク政治問題の専門家の女性学者の研究書である。酒井啓子さんは、アジア経済研究所(通称、「アジ研」 と呼ばれる日本政府が頼る、愛国派の、政府系の研究機関。だから、朝日新聞と、読売新聞から長年、目のかたきにされている。ここに優れたアジア諸国の日本人研究者がそろっている。)の主任研究員である。

 この酒井女史の研究に基づく発言が、イラク戦争の問題については、日本人によるものとしては、一番正確だと思う。著作は、『フセイン・イラク政権の支配構造』(岩波書店刊)と『イラクとアメリカ』(岩波新書)である。日本のテレビは、酒井啓子氏を出して、彼女に語らせるべきである。へんなアメリカの手先の軍事オタク評論家ばかりを、取って付けたようにして、利用している。

 2003年4月6日の毎日新聞で、酒井啓子女史は、そのインタヴュー発言を極めて簡潔にまとめられて、つぎのように言っている。

 「米英軍は、解放軍として歓迎されるどころか、イラクのナショナリズムを覚醒(かくせい)させてましった。米英の計算は幻想だった。イラク人の多くは、フセイン大統領を使って(利用して、過去に、イランからの)イラン革命のイラクへの歯止めをした。その首を(今回)すげかえようとしている」のだ、と酒井女史は分析している。

 この視点が一番正確だろう。オサマ・ビン・ラディーンらのアルカイーダも、ソビエト・ロシアのアフガン戦争の時に、アメリカが、資金も武器も与えて育てた集団である。イラク国内で開発されていた毒ガス兵器や生物化学兵器も、もともとはアメリカが軍事技術供与したものだ。アメリカが与えたのだ。

 アメリカ帝国は、自分が育てたくせに、やがて自分に刃向かうようになり、自分に都合が悪くなった集団や民族指導者たちの首を、すっぱりとすげかえてゆく。

(引用終り)

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