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感染症という名の新たな脅威:ローリー・ギャレット(『ニューズデイ』紙医学・科学担当記者)【生物兵器の話なども】
http://www.asyura.com/0304/health4/msg/349.html
投稿者 あっしら 日時 2003 年 5 月 06 日 19:15:13:


引用元:http://www.foreignaffairsj.co.jp/CFR-mustreads/G.htm

感染症という名の新たな脅威
The Return of Infectious Disease

    ローリー・ギャレット(『ニューズデイ』紙医学・科学担当記者)

  さまざまな抗生物質・薬品に対する耐性を備えた遺伝子をもつプラスミドの登場とともに、感染症という侮れない脅威が再び猛威をふるいだしている。人間が細菌・ウイルスに対抗していくために必要とする抗感染症薬という兵器庫は、新たな環境につねに変化・適応する細菌という脅威の前には、非現実的なまでに貧弱だ。さらに悪いことに、都市化、地球規模での人口移動の波は、人間の行動パターンだけでなく、細菌と人間のエコロジカルな関係も劇的に変化をさせている。性交渉によって感染が拡大し、しかも都市部のブラック・マーケットで抗菌薬・抗生物質が入手できるために、貴重な薬品が乱用・誤用され、その結果、新たな耐性菌や寄生虫が誕生している。耐性菌やウイルスの脅威に加え、生物兵器戦争を目的とした毒性の強い細菌をつくりための遺伝子研究さえ行われているのが現実だ。われわれは、感染症を「安全保障上の明確な脅威」ととらえ、これに対抗すべく、医学、法律、社会、経済的観点からの包括的な方策を模索していかなければならない。


--------------------------------------------------------------------------------    耐性菌、そしてプラスミドの登場

 戦後アメリカの公衆衛生政策は(感染症の原因となる)細菌の根絶をとくに重視してきた。アメリカおよび世界の政治・科学領域の指導者たちは、抗生物質、抗マラリア薬、予防ワクチンなどの戦後に開発された強力な薬品を武器に、ウイルス性、細菌性、寄生虫性の病気を根絶しようと、軍事戦略さながらの作戦を展開してきた。その目的は、感染症の時代をはるか彼方へと永遠に葬り去るための「保健衛生面での画期的変化」(health transition)を通じて、人間性をさらに高めることだった。実際、世紀の変わり目までには、世界の人々の寿命は伸び、たとえ病気で死亡するとしても、その死因は、(感染症ではなく)ガン、心臓病、アルツハイマーなどの慢性疾患になっているだろうと当時は考えられていた。
 こうした楽観主義を背景に、一九七八年に国連加盟諸国は、二〇〇〇年までに全ての人を健康にするという「ヘルス・フォー・オール二〇〇〇」プログラムに調印した。この合意は、西暦二〇〇〇年までに世界の再貧諸国でさえも「保健衛生面での画期的変化」を経験し、これらの地域で暮らす人々の平均寿命を大幅に伸ばすという野心的な目標を設定していた。実際、一九七八年当時は、人類と細菌との戦いの今後について楽観的になって当然の状況にあった。抗生物質、殺虫剤、(マラリアの特効薬である)クロロキン、その他の強力な抗菌薬、ワクチン、水処理や調理技術の改善のおかげで、保健衛生環境は大きく改善していた。その前年の一九七七年にWHO(世界保健機構)は、最後の天然痘患者がエチオピアで発見され完治したことを発表したばかりだった。
 だが、この壮大な楽観主義は二つの誤った前提の上に成立していた。当時、細菌は生物学的に変化せず、また、感染症は地域的に隔離できると考えれれていたのだ。こうした考えゆえに、北米、ヨーロッパの医学・保健衛生の専門家たちは、感染症を撲滅できるという独善的な考えに陥っていた。
実際には変化しないどころか、細菌も、人にそれを感染させる虫、ネズミ、その他の動物も、生物学的につねに変化し、進化している。ダーウィンは、動植物は特定の遺伝子の突然変異を通じて環境によりうまく適合する能力を備えており、これによって、より多くの子孫を残すことができると指摘した。つまり、この自然淘汰プロセスが進化のメカニズムである、と。
 米軍が太平洋戦線にいる軍医たちに初めてペニシリンを提供して一〇年も経たぬうちに、遺伝学者のジョシュア・レーダーバーグは、自然淘汰(変異を通じた適者生存の法則)がバクテリアの世界でも機能していることを確認することになる。ペニシリンに対する耐性をたまたまもっているブドウ球菌、連鎖球菌の遺伝子が登場し、それまでペニシリンが効き目を示していた菌株にはびこり始めたのだ。結局のところ、抗生物質の使用は、その分、耐性菌をもつ細菌を増やすことになった。

 細菌群は非常に大きく、膨大な染色体を使い分けつねに変化している。この人命を奪う小さな略奪者たちは、人間がいくらそれに対抗する薬品を発明しても、その上を行く数多くの手だてを備えている。

 より最近になって、科学者たちは、もって生まれた遺伝子とはあまり関係のない領域で細菌が示す驚くべき適応性と変化を発見した。一部の細菌はその遺伝子情報のなかに、困難な環境に置かれたときに変化・適応できるようなDNAとRNAコードをもっていて、これが、抗生物質やその他の薬品の作用から逃れるのを可能にし、集団としての生存をはかるような協調行動を指令し、さらに、細菌とその子孫たちの環境を、潜在的に有益な遺伝子物質に適したものへ変える力を与えている。こうした遺伝子はDNAやRNAの安定したリングとして存在し、プラスミド、あるいはトランスポゾンという名称で知られている。このプラスミドやトランスポゾンは細菌間を自由に移動し、異なる種のバクテリア、真菌、寄生虫へとジャンプすることさえある。なかには、五タイプ、あるいはそれ以上の異なる抗生物質、あるいは、十数種の薬品に対する薬剤耐性をもつプラスミドもある。また、より強い感染力をもち、より有毒で、殺菌剤や塩素にも耐性をもち、高温や強い酸にも耐えるというきわめてやっかいな特性を細菌に与えるプラスミドもある。石けんの上でも増殖し、ブリーチ(漂白液)の中を泳ぎ回り、一九五〇年当時は簡単にやられていたペニシリンの大量投与にも生きながらえることができる細菌もすでに登場している。
 つまり細菌群は、非常に大きく、膨大な染色体を使い分けてつねに変化しており、これが、この人命を奪う小さな略奪者たちに、人間が発明する薬品の、さらに裏をかく数多くの手だてを与えているのだ。薬品という人間が細菌に対してもっている兵器庫は、一見大きく思えるかもしれないが、実際にはごく限られている。一九九四年にFDA(アメリカ食品医薬品局)が新たに認可した抗感染症薬はわずかに三つだった。しかも、そのうちの二つはエイズ治療薬で、実際には抗菌薬はひとつもなかった。ウイルス、バクテリア、真菌、寄生虫に対抗するための簡単な方法―――つまり、人間の胃腸内でもろもろの細菌がお互いを殺しあう果てしない小さな戦いを真似ようとする医学的試み―――がすべてなされ(万策尽きた状態にあるために)、もはや開発・研究はほぼ停止状態に追い込まれている。数多くの細菌に対抗する研究者のアイディアも尽き、(基礎の応用によって得られる)利益も大きくないため、貧困諸国で集中的に発見されている細菌に対抗するための薬品開発はいまや困難な状況に追い込まれている。「いまや補給線は乾ききって、われわれは世界的な危機にさらされている」とは、アトランタのアメリカ疾病管理予防センター(CDC)の感染症研究所所長ジェームス・ヒューズが最近語った言葉である。

    人、そして細菌の移動

 毎日一〇〇万人が国境線を越えて移動し、しかも毎週一〇〇万の人々が先進世界と開発途上世界のあいだを往き来している。そして、人間が移動するとともに、歓迎されざる細菌も人についてまわっているのだ。

 一九六〇年代から八〇年代まで、世界銀行と国際通貨基金は、経済的近代化をまず実現させれば、保健衛生状態も改善されるはずだという前提のもとに、投資政策を立案してきた。だが今日では世界銀行も考えを改め、労働人口の一〇%以上が慢性疾患にかかっているような国の場合、公衆衛生インフラへの投資を行わないかぎり、彼らがより高い経済レベルへと達することはありえないことを認識している。さらに世界銀行は、感染症の流行がもっとも懸念される貧困層のために公衆衛生投資を効率的に用いている国がほとんどないことを認めている。感染症管理面での成果の多くは、(ユニセフの前身である)国連国際児童緊急基金による児童への予防注射プログラムや、世界保健機構(WHO)による天然痘撲滅作戦のような、大がかりな国際的努力によるもので、国レベルでの努力、とくに、政治的に不安定な国による努力が成功したケースは、ほんの数える程度しかない。
 地理的な隔離政策は、戦後のあらゆる公衆衛生計画の要とされてきたが、感染症が特定の国家や発生した地域にとどまるとはもはや考えにくい。民間の航空システムが整備されていなかった時代にも、たとえば、一九一七年から一九一八年に猛威をふるった(スペイン風邪として知られる)豚インフルエンザは、一八カ月間に地球を五回まわり、二二〇〇万の人を死亡させ、米国でも五〇万人が犠牲になった。いまや年平均で五億もの人々が飛行機で世界を移動している。したがって、もし一九九六年に、一九一七ー一九一八年に猛威をふるったものと同じくらい強力なインフルエンザが流行すれば、いったいどれくらいの人が犠牲になるだろうか?
 毎日一〇〇万人が国境線を越えて移動し、しかも毎週一〇〇万の人々が先進世界と開発途上世界のあいだを行き来している。そして、人間が移動するとともに、歓迎されざる細菌も人についてまわっているのだ。長い航海が遠距離を移動するおもな手段だった一九世紀当時は、旅行者が運ぶ病気や感染症は、保菌者が航海の途上で発病していたため、それは傍目にも明らかだった。当然、港湾当局はその症状を発見し、感染者の隔離その他の措置をとることができた。だが、ジェット機で人々が移動する現在、たとえば、その人物がエボラ出血熱のキャリアであっても、飛行機に乗り込み、一万二〇〇〇マイルを旅し、関税・移民局の審査を何事もなくパスできてしまう。つまり、特定の国のキャリアが遠隔地へ旅して、その後、数日間にわたって発病しない可能性もあり、発病が傍目に明らかになった時にはすでに多くの人物を感染させてしまっている場合もある。
空港での監視体制はどうしようもなく不適切なものだ。治療不可能な数多くの感染症の潜伏期が二一日を超えているとみられ、当然、現在の監視体制は生物学的にみて不合理である。また、たとえ特定の旅行者が空港を出て数日後、あるいは数週間後に発病したことを突き止めることができたとしても、その人物と同じ飛行機に乗り合わせた乗客たちがだれで、現在どこにいるかを割り出し、彼らを検査のために医療施設へと連れてくるには莫大なコストがかかり、それはときに不可能とさえ言える。
 一九七六年、おぞましい皮下出血をおこす致死性のきわめて高いラッサ熱ウイルスに感染していた平和部隊のボランティアが搭乗していたシエラレオネ発ワシントンDC行きの英国航空の飛行機に乗り合わせた五二二名の乗客の居場所を突き止めようと試みたイギリス政府とアメリカ政府は、これに数百万ドルを費やした。アメリカ政府は、二一の州に分散していた五〇五名の乗客を最終的に突き止め、英国航空とイギリス政府も、アメリカ側のリストとの重複はあったものの、同乗した九五名の乗客の居場所を突き止め、(幸いにも)だれも感染していなかったことが確認された。
 一九九四年秋、ニューヨーク市の保健局と移民帰化局は、インド発の飛行機の乗客がペストに感染していることを発見し、この人物がケネディ国際空港に入るのを阻止した。乗客と直接に接する可能性のある空港職員と連邦職員のすべては、ペスト感染者の症状がどのようなものかを判断できるように訓練されていたが、もし、まだ飛行機が滑走路にいる間に感染症の感染者を発見できていれば、同乗者たちを(その場で)検査することができたはずである。ニューヨークで感染症に感染している恐れがあるとみなされた一〇名の人物のなかで、空港で発見されたのはわずか二名である。つまり、ほとんどは、発見される前にニューヨーク近郊のコミュニティにはいりこみ、長期にわたって生活していたことになる。幸いなことに、この一〇名のなかで実際に感染症かかっていた者はだれもいなかった。 保健当局は、このケースを通じて、空港を拠点とした水際作戦はコストがかかるだけでうまく機能しないという教訓を学んだ。
 貧困、宗教、民族的な弾圧、そして、民間人をターゲットとする地域的な激しい紛争からのがれようと、人は世界規模で移動している。絶対数でも総人口に占める比率でみても、住み慣れた家を捨て新天地を求めて移動する人々の数はこれまでにない規模に達しており、国連難民高等弁務官事務所とワールドウォッチ研究所によれば、一九九四年だけで、少なくとも一億一〇〇〇万の人々が海外へと移住し、三〇〇〇万人が地方から都市へと国内移動し、さらに二三〇〇万人が、戦争や社会的混乱によって家を追われている。こうした人間の移動が、細菌が移動する機会を大幅に増やしていることは言うまでもない。

    病原菌媒介者としての都市

 地理的に移動している人々の多くの最初の目的地は、生活面での基本的快適さを提供できる状態にはない都市、たとえばインドのスラート(一九九四年肺ペストが流行した)や、ザイールのキクウィット(一九九五年にエボラ出血熱が流行した)のような(社会的インフラの整備されていない)発展途上の大都市である。

 人口が増大すれば、人から人へ、あるいは虫、ネズミその他の媒介生物を介して、人が病原菌に感染する確率は当然高まるが、人口密度は世界的に急速に高まりつつある。一平方マイルの人口密度が二〇〇〇人を超える国は世界に七ヶ国あり、五〇〇人を超える国にいたっては四三ヶ国もある(これとは対照的に、アメリカの人口密度は七四人である)。
たとえ人口密度が高い地域でも、上下水道システム、住宅、公衆衛生基準さえ整っていれば、感染症やその他の疾病が猛威を振るうことはない。例えば、オランダは、人口密度は一平方マイルあたり一一八〇人と高いが、それにもかかわらず、公衆衛生の良さや寿命の長さでは、世界のトップ二〇に入っている。だが、急速に人口密度が高まっている地域は、こうしたインフラを提供できない国である場合が多い。実際、こうした地域は世界でもっとも貧しい国々である。国全体でみればそれほど人口密度の高くない国でも、公衆衛生上の観点からみて異常なまでに人口が膨張した都市を抱え込んでいる場合もある。こうした密集都市のなかには、七五〇人かそれ以上の数の人口に対して、トイレがたった一つというところもある。
 (海外移住、国内移住など)地理的に移動している人々の多くにとって、その最初の目的地は生活面での基本的快適さを提供できる状態にはない都市、例えば(一九九四年肺ペストが流行した)インドのスラートや、(一九九五年にエボラ出血熱が流行した)ザイールのキクウィットのような発展途上の大都市である。こうした新たな都市化の中心地は一般に、下水道システム、舗装道路、住居、安全な飲料水、医療施設などのインフラをまだ整備されず、裕福な家族の子供たちを通わせる学校さえととのっていない状態にある。一言で言えば、極貧の不潔な場所にほかならず、ここでは、あたかも貧しい村のような環境のなかで数十万の人がひしめきあって生活している。そして、村と違ってこうした場所では、空気、水を媒介とした感染、性交渉を通じた感染、接触による病原菌感染の確率が非常に高い。
 しかし、こうした都市化の中心地は、極貧状態に置かれている人々をひきつける第一の結集地にすぎない。彼らはつぎに、一〇〇〇万あるいはそれ以上の人口をもつ巨大都市へと移動する。十九世紀には、その規模に近い巨大都市は、地球上にわずか二つ、当時拡大途上にあったロンドンとニューヨークだけだった。だがいまから五年後には、世界には二四の巨大都市が誕生していると予測され、しかもその多くが第三世界に出現すると考えられる。
 具体的に言えば、サンパウロ、ボンベイ、イスタンブール、バンコク、テヘラン、ジャカルタ、カイロ、メキシコシティ、カラチ、等である。そこでは、現在インドのスラートのような中都市が直面している災厄が、数倍の規模で襲いかかるだろう。しかも、より快適な生活を求めて積極的に移動する人々にとって、こうした第三世界の巨大都市がその終着点というわけではない。これらの人々―――および彼らがもっているかもしれぬ病原菌―――が最終的な目指す地は、アメリカ、カナダ、西ヨーロッパなのである。
 都市化と地球規模での人口移動の波は、人間の行動パターンだけでなく、細菌と人間のエコロジカルな関係の劇的な変化を加速している。大都市では、ほぼ例外なくセックス産業が隆盛で、複数のセックス・パートナーをもつこともより一般的である。当然、性交渉を通じて感染する病気も広がる。しかも、都市化の中心地ではブラック・マーケットを通じて抗菌薬(あるいは、抗生物質)を入手する機会が存在するために、こうした貴重な薬品が乱用、あるいは誤用され、その結果、(新たな)耐性菌や寄生虫が誕生する。また、同じ注射器を回して麻薬を静脈に打つ常用者たちのやり方は、特定の人物がもっている病原菌をいとも簡単に他の人々に感染させてしまう。しかも、資金の十分でない都市の保健衛生施設は、しばしば病気の管理ではなく、その拡散センターとなっていることが多いのだ。

    エイズ

 一九七〇年代半ばまでは世界の人口の〇・〇〇一%の人しかHIVに感染していなかったが、その後、(都市化、人口移動、麻薬、性交渉などの)一連の社会的変化によって、このウイルスは猛烈な勢いで人間を感染していった。

 こうした状況が一九八〇年代を通じて劇的に蔓延したため、まだ完全に解明されていないあるウイルスが増殖・拡散した。WHOの発表によれば、すでに三〇〇〇万人がこのウイルスに感染し、このウイルスから逃れえている国は世界に一つもない。いわゆるエイズをひきおこし、人間の免疫を不全にする、このウイルスについての遺伝子学的研究レポートは、この病気がおそらくは一世紀以上前から地球上に存在していながら、一九七〇年代半ばまでは世界の人口の〇・〇〇一%しか感染していなかったことを指摘している。だが、このウイルスはその後、一連の社会的変化によって、猛烈な勢いで人間を感染させていった。ここで言う社会的変化とは、アフリカ社会の都市化、アメリカやヨーロッパでの麻薬の回し打ち、同性愛者の性行動、一九七七年〜一九七九年のウガンダ・タンザニア戦争で民族浄化作戦の一環としてレイプがその手段に用いられたこと、アメリカの血液製剤産業の発展につれ汚染された血液製剤が国際市場に広く出回ったこと、などである。世界各地での政府の拒絶的対応と社会的偏見のせいで、(エイズについての)公衆衛生プログラムは、妥当性を欠くか、あるいはまったく実施されぬままとなり、さらにエイズ感染を蔓延させ、この病気への対処療法、あるいは治療研究を遅らせてしまった。
 ハーバード大学のグローバル・エイズ政策連帯(GAPC)は、この病気による直接(=医療的)、間接(=生産的な労働力の喪失やそれが家族に与えた衝撃)のコストは、西暦二〇〇〇年までには五〇〇〇億ドルを上回ると試算している。また、アメリカ国際開発局は、二〇〇〇年までには、サハラ砂漠以南のアフリカでは十五歳以下の子供の一一%が両親をエイズでなくして孤児になり、親による世話を受けることもなくなるため、子供たちがもっとも一般的な感染症である結核に感染する確率が高まると予想されとし、その結果、アフリカ、アジア地域諸国の一部で乳幼児死亡率が現在の五倍になると予測している。また、国際開発局は、その結果アフリカ、アジア諸国の平均寿命が劇的に低下し、二〇一〇年までには驚くべきことに二十五歳程度にまで低下している可能性もあると予測している。
 いまや医学の専門家たちは、これまで科学的に知られていなかった細菌を含むすべての細菌が、エイズと同じく、人間社会の変化した状況につけ込みうること、これまで危険性を秘めながらも孤立した細菌が、世界的な脅威となるかもしれないことを認識している。また、古くから存在する細菌が、殺菌剤や薬品の人間による誤用に助けられる形で、より致死性の高い存在として新たに出現する可能性もある。
 ホワイトハウスが組織した、新たに出現、あるいは再出現しつつある感染症についての省庁間タスクフォースは、かつて知られていなかった病気が、一九七三年以来少なくとも二九出現しており、一方よく知られた二〇の病気が、しばしば薬剤に対する新たな耐性を備え、より有毒な形で再登場していると指摘している。また、この対策本部は、一九九三年一年間で感染症が直接・間接にアメリカに強いたコストは一二〇〇億ドルを超えると試算しているが、これに対して、連邦政府、州政府が感染症管理のために九三年に用いた支出額は七四二〇万ドルにすぎなかった(両方の数字とも、エイズその他の性感染症、あるいは結核のためのコストは含まれていない)。

    生物兵器と細菌戦の脅威

 インドの科学者の多くが、スラートで起きた伝染病の病原菌は、本当は生物化学戦争のために開発されたものであり、自分たちはその証拠をもっていると発言した。

 一九九四年九月にスラートで伝染性の肺ペストが流行したが、それでも世界は幸運に恵まれていた。アメリカ、フランス、ロシアが行なったそれぞれの研究は、流行のきっかけとなった細菌の感染力が非常に弱く、正確な感染者数およびその犠牲者数については議論の余地があるにせよ、それが二〇〇以下だったことは間違いないと指摘している。だが、このインドでのケースは、感染症が国家安全保障上の三つの要因に関連していることを示唆している。すなわち、人の移動、政府による情報公開の欠如、そして、生物兵器戦争(細菌戦)の脅威を含むライバル諸国間の緊張である。
 (第一の人の移動について言えば)空気感染の恐れのある伝染病が発生しているという情報がスラート市民の耳に届くやいなや、約五〇万人が汽車に乗り込んで町を離れ、四八時間のうちにインド大陸のあちこちへと分散してしまったのだ。もしこの伝染病を発生源が細菌でなくウイルスか、薬品に対する耐性をもつ細菌だったとすれば、病気は瞬時にしてアジア全域に流行していただろう。また、これまでと同じくスラートのケースでも、伝染病流行の噂は世界的パニックを引き起こした。インド製品の輸入とインドへの旅行が国際的にボイコットされたことが大きく響いて、インド製品の売り上げとボンベイ株式市場の商いがいずれも低下し、インド経済に少なくとも二〇億ドルの損害を与えた。
 九四年の秋にインドとの貿易を禁止する国の数が増えはじめると、ヒンズー語の新聞は、ペストの流行など本当は存在せず、この噂はインド経済を陥れようとパキスタンが画策したキャンペーンであると主張した。国際的な科学調査団が、伝染病を引き起こした真犯人がペスト菌であると結論を出してやっと騒ぎは収まり、病原菌そのものに関心が向けられるようになった。だが昨年六月になって、インドの科学者の多くが、自分たちはスラートで起きた伝染病の病原菌が、本当は生物兵器のために開発されたものだという証拠をもっていると発言しはじめた。この主張を裏づけるような信頼に足る証拠は存在せず、インド政府当局もこれを強く否定しているが、この地域がこれまで長期にわたって軍事政治面での緊張した状態がつづいているところだけに、その嫌疑を完全に否定するのはほぼ不可能である。
(情報公開の欠落について言えば)たとえ生物兵器にまつわる嫌疑がいわれのないものだとしても、伝染病の発生、とくに海外からの投資、観光業、あるいはその双方に依存している国で伝染病が起きた場合、その発生状況に関する正確な情報を入手するのはほぼ不可能なほどに困難だ。この点での透明性(=情報公開)が実現されていないことは、(インドに限らず)一般的な難問である。そこに(生物兵器の開発などの)秘密計画が存在したり、国際的悪意が存在しない場合でも、多くの諸国は伝染病に関する情報を完全に公開することを躊躇しがちである。
 実際、ほぼすべての諸国は、当初、国内におけるHIVウイルスの存在を否定するか、あるいは、それを隠そうと試みた。現在でも、エイズ・ウイルス流行の渦中にあるとみられている諸国のうちの一〇ヶ国がWHOへの協力を拒否し、エイズに関する国内レポートを巧妙に曖昧なものとし、その統計の提出を拒んでいる。(この問題はエイズに限ったことではなく)たとえば、エジプトはナイル川におけるコレラ菌の存在を否定しているし、サウジアラビアは、メッカに生息する蚊が新タイプの致死性のより高いデング出血熱を起こすウイルスを人間に感染させる危険があることをWHOが巡礼者たちに警告するのをやめるよう要請している。また、人間を死に追いやる危険のある、抗生物質の効かない細菌が国内で確認されていることを報告している国は数少ない。(このほかに政治絡みの問題もある。)たとえば、WHOは、コソボ地区におけるクリミア・コンゴ出血熱の流行を阻止するために科学者の派遣を計画していたが、アメリカを敵視しているセルビア政府当局は、派遣される予定になっていた科学者のすべてがアメリカ人であることを知ると、この伝染病をめぐる国際的な警告を撤回するという行動に出たのだ。

 オウム真理教は、東京の地下鉄で毒性のサリン・ガスを発生させただけでなく、教団メンバーたちは、テロ目的のために、膨大な量のクロストリジウム属の細菌を準備していた。

 いまや生物兵器を用いた戦争が現実の問題として取りざたされており、国際問題戦略研究所(CSIS)のブラッド・ロバーツは、中国、イラン、イラクのような生物(細菌)兵器生産の技術的ノウハウをもち、一方で、その使用を牽制するような市民社会をもたぬ発展途上諸国が、細菌兵器を使う誘惑に駆られることをとりわけ懸念している。現在までのところまだうまくいっていないが、アメリカ科学者連盟(FAS)は、世界のほとんどの諸国が調印した一九七二年の生物兵器条約(BWC)の査察と強制面での弱さを克服する科学的な方法を模索している。
 この条約が完全なものでないことと、一方で、生物兵器が使用される可能性が現に存在することが、今日の問題の焦点である。一九九〇年〜九一年の湾岸戦争でイラク側が生物兵器の使用を示唆したとき、現地に展開していた多国籍軍はまったく対応のしようのない無力な状況に追い込まれた。生物兵器の存在の有無がタイミングよく確認できたわけではなく、使用された場合に備えてとりうる措置と言えば、一タイプの細菌に対して一つのワクチンをそれぞれ打つことしかなく、防御装置や装具も、風によって巻き上げられた砂に耐えうる代物ではなかったからだ。さらに悪いことに、昨年六月国連安保理は、湾岸戦争後もイラクが生物兵器の貯蔵をさらに補強していると結論している。
 一九九五年に初めにカルト教団であるオウム真理教が日本で起こした行動は、この問題に関する危険へのもっともな明確な警鐘だった。教団メンバーたちは、三月二〇日に東京の地下鉄で毒性のサリン・ガスを発生させただけでなく、テロ目的のために、膨大な量のクロストリジウム属の細菌を準備していたのだ。クロストリジウム属の細菌に感染した場合、死に至ることは滅多にないが、抗生物質が不適切に使用されれば感染者の症状が悪化するし、出血性の下痢が長期的につづいて、危険な大腸炎を起こすことになる。実際、生物兵器テロにクロストリジウム菌を用いるのはテロリストにとっては優れた選択である。この細菌は数カ月にわたって生存できるし、噴霧装置によって拡散させることもできる。しかも、わずかでもこの菌に感染すれば、とくに子供や老人を中心にその体力を低下させ、日本のように人口密度の高い社会に対して莫大な医療費、そして生産性の低下というコストを負わせるに十分な力を持っている。
 アメリカ政府の技術アセスメント局は、生物兵器が使用されればどのようなことになるかをつぎのように指摘している。たとえば、農薬散布用の飛行機を用いて、炭疸菌のような毒性の強い胞子を作る菌を一〇〇キログラム程度ワシントン上空にまけば二〇〇万の人々が死亡するし、五〇〇万から六〇〇万の市民を殺すのに十分な炭疸菌をタクシーに積みこみ、マンハッタンを行きつ戻りつしながら排気管から噴霧することも可能だ、と。人口密度が高くなればなるほど、その分病気の自然発生やテロリストの攻撃に脆弱になってしまうのだ。

    危機にさらされた世界

 それが自然発生的なものであれ、人為的に作り出されたものであれ、新たに出現しつつある感染症が国家安全保障上の脅威になる可能性がある。

 WHOは九五年に、「新たに出現しつつある病気」が作り出す脅威を見きわめ、それに対応する能力を世界がもっているかどうかをテーマとする調査を実施したが、その結論は憂鬱なものだった。エボラ出血熱、マールブルク病、ラッサ熱を含むきわめて致死性の高い細菌の研究を目的とし、しかも妥当な警備・安全基準を満たしている研究所は世界にわずか六つしか存在せず、しかも、政治的不安定さのためロシアは二つの研究所の安全基準で妥協せざるえないかもしれず、また予算の削減によって、アメリカの二つの研究所(フォート・デトリックの陸軍研究所、アトランタの米国疾病管理予防センター)、イギリスの研究所の一つも、同じく安全基準を弱めざるをえない危険な状況にある、というのだ。また他のレポートも、一九九三年にニューメキシコで伝染病を発生させたハンタ・ウイルス、さらにはデング熱、黄熱病、マラリア、その他の病気を起こす細菌のサンプルをWHOが世界の主要な感染症監視施設三五ヶ所に送ったものの、すべての細菌サンプルを完全に確認できたのは、アメリカの疾病管理予防センター(CDC)だけで、ほとんどの研究施設ではその半分も確認できなかった、と指摘している。
 それが自然発生的なものであれ、人為的に作り出された細菌によるものであれ、新たに出現しつつある感染症が国家安全保障上の脅威になる可能性があると確信したCDCは、一九九四年にアメリカ議会に対し、彼らの言葉を借りれば、「まったくずさんな状態にあるサーベイランスおよび対応システム」を改善するために一億二五〇〇万ドルの予算を計上するように求めたが、実際に認められたのは七三〇万ドルにすぎなかった。アメリカ科学アカデミーの一部である医学研究所(IM)は、専門家たちによる二年間にわたる詳細な検討の結果、(感染症という脅威を前にして)アメリカは危機的状況にあると宣言した。
 今日の現実は、ニューヨーク市当局の結核との戦いにもっともよく反映されている。一九九一年から九二年に最初に出現したW株系の結核は、入手可能な薬品の全てに耐性をもっており、すでに患者の半数が死亡している。ニューヨーク市はこの病気を制圧するためすでに一〇億ドルを投入しているが、九四年の時点でも三〇〇〇名の結核患者がおり、その一部はW株系の細菌に感染している。一九七〇年代と八〇年代の公衆衛生局長官による年次レポートでは、国内の結核は二〇〇〇年までには根絶できると想定されていた。ブッシュ政権期にはCDCでさえ、州政府に対して結核の根絶はもはや時間の問題で、結核菌制圧のための支出を低下させても危険はないだろうと報告していた。だが、実際には根絶とはほど遠い状態にあり、公衆衛生当局は、結核患者の数を一九八五年よりもなんとか減らせそうと躍起になっているというのが現実である。このニューヨークが直面しているこの危機は、国内移住者や海外からの移民がこの町に殺到していること、ニューヨーク市の公衆衛生インフラが崩壊していることの二つが原因となって引き起こされている。
 予算削減のあおりをうけて、この五年来、アメリカの公衆衛生システムは悪化の一途をたどっている。そもそも、伝染病に侵された国からの要請がなければWHOが介入できないのと同様に、CDCもまた、州政府からの要請がなければ州の問題に介入できないため、アメリカの公衆衛生システムはしだいに、州政府や(プエルトリコなどの)自治領政府の、ほころびの目立ち始めたサーベイランス体制や対応システムへの依存度を高めつつある。一九九二年にCDCの要請によって作成されたレポートによれば、米国の一二の州では、食料や飲料水の細菌汚染を監視する職員がひとりもおらず、六七%の州や自治領でも、一〇〇万人の市民に対して、食料や飲料水を管理する職員の数は平均で一人に満たない状態にある。加えて、非日常的な細菌、あるいは薬品への耐性をもつ細菌の出現について、病院との連絡・管理体制を敷いている州はほんの一握りしかない。
 こうした管理体制をめぐる州の能力は、郡や市の公衆衛生に関する能力しだいだか、このレベルでも状況も急速に悪化している。この八年来、ブラジルから着実に北上しつづけて各地で壊滅的な状況を引き起こしてきたデング出血熱は、九五年十月についにテキサスを襲った。ところが、テキサス州のほとんどの郡は、蚊を駆除するための予算を大幅に削減していたため、デング熱ウイルスの媒介生物である東南アジア産の攻撃的なタイガー・モスキートに対抗する準備が出来ていなかった。皮肉なことに、テキサスをデング熱が襲ったまさにその月、カリフォルニア州のロサンジェルス郡は二〇億ドル規模の予算不足のために、四五あった保健所のうちの三五ヶ所を閉鎖せざるをえない状況に追い込まれ、六つある郡立の病院の四つを売りに出した。現在議会は、メディケアとメディケイドへの支出の大幅な削減を検討しており、アメリカの公衆衛生協会(APHA)は、もしそんなことになれば感染症がひろく流行することになると予測している。(訳注−「メディケア」とは六五歳以上の高齢者を対象とした政府による医療保障制度で、一方の「メディケイド」は六五歳未満の低所得者、身障者に対する医療保障制度のこと)

    対応策はあるのか

 科学者たちは、バクテリアやウイルスの遺伝子を、さらに毒性と感染力の強いものにするために遺伝子を組み替える方法を研究しており、…遺伝メカニズムの解明がさらに進めばすでに存在する細菌を、より危険な能力を秘めた存在へと変化させることも可能になる。

 たとえ研究活動と疾病サーベイランス能力を強化し、ほころびの目立ち始めた公衆衛生システムを再活性化するとともに、耐性菌の新たな登場を阻止するために強力な薬品の投与を規制し、病院における感染管理システムを改善したとしても、それは一時しのぎの措置でしかない。感染症の猛威という国家安全保障上の脅威に対抗するには、もっと大胆な措置が必要だ。
 まず手をつけるべき事柄の一つは、(一般に遺伝子指紋として知られる)ポリメラーゼ連鎖反応を科学的に利用する確かな方法を見出し、基礎調査を行ない、化学・生物薬品の輸出記録を調べ、それが自然発生的なものであると生物化学兵器用に開発されたものであるとを問わず、人間を死にいたらしめる新たな、あるいは再出現した病原菌がどうして発生したかを突き止めるための、地方レベルでの法律の導入を図るべきだ。この努力は、人間にとって直接的に危険な細菌だけでなく、穀物や家畜を大きな危機にさらす恐れのある細菌に対してもなされるべきである。
 新種の病気のほとんどは、まず最初にプライマリー・ケア(一次診療)レベルで発見される。だが、アメリカにおいてさえ現在のところ、プライマリー・ケアの医療関係者が新たな感染症の兆候を発見した場合、関係当局に連絡し、その報告を当局が即座に調査するというシステムは確立されていない。むしろ世界各国の政府の多くは、感染症の発生を何とか隠して表沙汰にしないように望んでおり、これらの国々では、(新たな感染症の)医学的兆候を報告すれば、逆に懲罰の対象にされてしまう危険さえある。しかし、インターネットへのアクセスは世界的に拡大しており、いまや医学関係者たちは(コンピュータやネットサービスへの)わずかの投資をするだけで、電子ハイウェイを通じて、政府による妨害や事態を曖昧にごまかそうとする試みを超えて直接、国際的保健当局にアクセスできる。
 国際的な規制の対象となり、国境を越えた感染の広がりを阻止するために国連や政府当局によるモノやヒトの世界的な流れへの介入が認められている感染症は、コレラ、結核、黄熱病のわずかに三つである。WHOの立法組織である世界保健会総会(WHA)は、一九九五年にジョネーブで開かれた年次会議で、国連が規制対象とする感染症のリストを増やし、その広がりを監視できるような新たな方策を模索することを提言した。キクウィットでのエボラ出血熱のケースは、空気感染しない、すでに確認されている既存の細菌が引き起こした感染症の場合には、各国の科学者たちが国際的対策チームを迅速に組織し、遠隔の地で発生した伝染病を地域的に封じ込めることが可能なことを実証した。
 だが、もし強力な感染症という危機にアメリカが直面した場合、(アメリカの厚生省の一部である)緊急準備および国家災害医療システム局(OEPNDMS)は、陣頭指揮をとれるだろうか? この部局は、緊急事態が発生した場合には、全米五〇州、四二〇〇名の民間の医師や看護婦たちを自由に動員し、事に当たらせる権限をもっている。このシステムは基本的に健全なものだが、もっと強化する必要がある。例えば、医療関係者への感染を防ぐような防護服やマスクを提供し、移動型の防疫研究施設を導入し、適切な隔離施設を設立すべきである。
 生物兵器の潜在的に脅威に関して言えば、アメリカのエネルギー省はロシアとウクライナが生物兵器条約をきちんと守っていないことをすでに認識している。大量の生物兵器がいまだに存在する考えられているし、ソビエト時代からの細菌戦プログラムの研究者たちはいまも、(役人として)国家から給料を支給されている。不確かな情報とはいえ、その他の諸国も生物兵器を保有していると考えられる。そうした兵器がどこにあるかをつきとめそれを解体することが、重要な優先課題だろう。一方、アメリカやヨーロッパの科学者たちも、バクテリアやウイルスの毒性と感染力を強めるための遺伝子組み替えの方法を突き止めようと研究している。事実、遺伝メカニズムの解明がさらに進めば、科学者たちが、すでに存在する生物を、より危険な能力を秘めた存在へと変化させることも可能になる。したがって、アメリカおよび国際社会にとって、その潜在的な可能性を調べ、そうした研究とその成果を管理する方策を考えておくほうが賢明である。血液を介して感染する感染症の拡散を阻止するには、血液および動物の輸出産業の活動を細かに規制し、血液製剤用に献血を行なう人が病気に感染していないかどうかを検査すべきだし、血液関連の新型感染症発生のレポートを細かに監視することを目的とする、お目付役的な組織を国際的同意のもとに設立する必要もある。事実、ドイツで起きた、複数のワクチン研究者がマールブルク病のウイルスに感染するという深刻な事故は、研究用に輸出された動物がその原因の一つだったし、アメリカのバージニアでは、輸入されたサルがエボラ出血熱で死亡したことによって、エボラ熱騒動がすでに起きている。
 ノーベル賞受賞者でもあるロックフェラー大学のジョシュア・レーダーバーグは、「新たに出現しつつある病気」という脅威に対抗する方策について、つぎのように指摘している。方法は数多く存在し、その多くは直接的、一般常識的、国際協調的な性格のものだが、問題は「困ったことに、お金がかかりすぎることだ」と。
 予算、それも公衆衛生のための予算は、地方政府であると中央政府であるとを問わず、すべてのレベルで削減されつつある。ダスティン・ホフマンは『アウトブレイク』という映画で伝染病に取り組む科学者を演じたが、彼がそれによって得た収入のほうが、アメリカの国立感染症センターと国連のエイズ/HIVプログラムの両方を合わせた年間予算よりも多い、というのが現実なのである。●

ローリー・ギャレット 『ニューズデイ』紙の医学・科学担当記者で、ハーバード大学研究員として手がけた調査研究をもとにThe Coming Plague: Newly Emerging Disease in a World Out of Balanceを上梓。

Copyright 1996 by the Council on Foreign Relations, Inc.


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