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【アメリカにこそ、国際査察を】アメリカの生物兵器開発疑惑〈粥川準二〉
http://www.asyura.com/0304/war26/msg/217.html
投稿者 medio 日時 2003 年 3 月 19 日 15:44:08:

===================2003年3月19日(16号)=====
 粥 川 準 二 の
 科┃ 学 ┃ ニ ┃ ュ ┃ ー ┃ ス ┃ & ┃ レ ┃ ヴ ┃ ュ ┃ ー ┃
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                         Science News & Review
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               編集・発行=粥川準二+科学ジャーナリズム研究所
                   http://www.jca.apc.org/~kayukawa/
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アメリカにこそ、国際査察を
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■アメリカの生物兵器開発疑惑

 ブッシュ大統領の演説報道を横目で見ながら、書評原稿を書くために、小林照幸『
検疫官』(角川書店)を読んでいると、その中で興味深い記述を見つけた。
 2002年7月、長野県松本市で「日米医学協力研究会ウイルス部会」という学会が開
催されたとき、アメリカからやってきた科学者たちは、本書の主人公・岩崎恵美子と
の会話の中でこのように口を揃えていたという。
「ブッシュは必ず、イラクに戦争を挑む。そのとき、アメリカはイラクと化学兵器、
生物兵器合戦をするのは間違いない」(同書269頁)
 イラクが生物兵器や化学兵器、いわゆる大量破壊兵器を持っている疑いをかけられ
ていることは周知の事実である。イラクは、イラン・イラク戦争中、イラン軍に対し
マスタードガスや神経剤等を使用し、自国民であるはずのクルド人に対しても化学兵
器を使用したとされている。イラクは湾岸戦争以前より、生物兵器を持っていた。ま
た、1995年にイラク軍中将のフセイン・カメルが亡命するまで、生物兵器を製造して
いた事実を認めなかった。カメルは亡命後、イラクが生物兵器を保有していたことを
明らかにした。そのなかには、炭疽菌やボツリヌス菌もあるという。湾岸戦争中、ス
カッドミサイルや空中投下爆弾等に生物製剤を装填し、生物兵器使用の準備をしてい
たことなど判明した。
 湾岸戦争終結後、イラクはUNSCOM(国連特別委員会)の査察を受け入れたが、大量
破壊兵器を所持し続けているという疑いは晴れなかった。

イラクの大量破壊兵器について(UNSCOMの査察結果等) (外務省 02/10)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/gunso/iraq.html

 UNSCOMの後を引き継いだUNMOVIC(国連監視検証査察委員会)の査察に対しても、イ
ラクは抵抗を示した。

イラク問題に関する国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)の概要 (外務省 02/10)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/un_cd/gun_un/unmovic_gai.html

イラクの何が問題なのか (外務省 02/10)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/un_cd/gun_un/unmovic_gai.html

 現在、生物兵器や化学兵器について語られるとき、その所有者として語られるのは
、上記のように、ほとんどイラクだ。
 3月14日には、アメリカのシンクタンク「自然資源防衛評議会」が、アメリカとイ
ラクの戦争次第では、炭疽菌の感染により30万人の、あるいはサリンにより3000人の
死者がイラク国内や周辺諸国に出るという試算結果を発表した。

イラク戦争、サリン死者3千人か 米シンクタンクが試算(朝日 3/14)
http://www.asahi.com/international/update/0314/005.html

 ここで前提とされているのは、イラクが所持している生物兵器や化学兵器である。
同評議会の結論は、大量破壊兵器の査察体制を強化するべきだということである。
 しかし----アメリカ(や国連)に、イラクに対して大量破壊兵器の処分をせまる資
格があるのか。冒頭の『検疫官』に記されていたアメリカ人科学者の発言は、彼ら専
門家のあいだでは、アメリカもまた生物兵器や化学兵器を開発・所有しており、米軍
がそれらを使用する可能性があることは常識だということを、はからずも示している
のではないか。  
 実際、少し調べてみると、その疑いは濃厚である。『イラク』(光文社新書)を上
梓したばかりのジャーナリスト田中宇は、かなり早い段階でそれを指摘している。

炭疽菌と米軍(田中宇 01/12/10)   
http://tanakanews.com/b1210anthrax.htm

炭疽菌とアメリカの報道 (田中宇 01/12/13 )
http://tanakanews.com/b1213anthrax.htm

 田中によると、米紙『ニューヨークタイムス』は、「9.11」アメリカ同時多発テロ
が起きる1週間前の同年9月4日、アメリカ国防総省が生物兵器として炭疽菌の開発
を行なっていることを暴露した。この計画は「クリアビジョン計画」と呼ばれ、当時
のクリントン大統領にも知らされぬまま進められていたという。

U.S. Germ Warfare Research Pushes Treaty Limits(THE NEW YORK TIMES 01/9/4)
http://www.nytimes.com/2001/09/04/international/04GERM.html

U.S. Seeks Duplicate Of Russian Anthrax (Washington Post 01/9/5)
http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn?pagename=article&node=&contentId=A42583
-2001Sep4

米国:少量の生物兵器製造を検討 攻撃から米兵を防護(毎日 01/9/5)
http://www12.mainichi.co.jp/news/search-news/873302/90b695a895ba8aed-100-117
.html

■生物兵器禁止条約とアメリカ

 1969年、ニクソン政権のアメリカは生物兵器の開発停止を宣言し、その後は自ら「
生物兵器禁止条約」の強化に務めた。生物兵器禁止条約とは、生物兵器の開発、生産
、貯蔵を禁止するとともに、既に保有する生物兵器を廃棄することを目的としてつく
られた条約である。1972年に採択、1975年に発効された。2002年11月現在、締約国数
は147か国である(外務省資料による)。なおイラクもこの条約に署名・批准している

生物兵器禁止条約(BWC)の概要(外務省 02/12)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bwc/bwc/gaiyo.html

 しかし、この条約には強制力がない。査察についての条項がないため、明らかに条
約に違反する国もあった。旧ソ連は相当量の生物製剤とその運搬装置を1990年代まで
持ち続けた。1995年には、国連の査察チームが、イラクが生物製剤と資材を備蓄して
いたことを発見した。後述するフィーリスとダンドは、やや意味深な表現でこう書い
ている。「そして機密情報によれば、そのほか複数の国家が攻撃的な生物戦を行なう
能力を所持または追求している。そのなかにはイスラエル、北朝鮮、イラン、シリア
、リビア、中国が含まれる」
 そうした状況のなか、条約の遵守を目的に、これを強化する必要性があるという議
論がなされるようになった。この条約が持つこうした欠陥が、1995年から条約の補遺
をつくるためにの交渉を開始させた。条約を遵守させるために、法的な力のある手段
を確立する議定書が必要になったのだ。主な要素は以下の通りである。
▼ 参加国による、生物防御施設およびその計画を確認・記述する毎年の申告。特定
量の微生物培養に使われうる工業施設も同様。
▼ 申告された施設への不定期訪問。もしある国が別の国の申告の完全さや正確さに
疑問を呈したならば、協議が行なわれる。
▼ 生物兵器使用の申し立て、違法施設からの微生物の漏出事故の結果だと疑われる
、疾病のアウトブレイクなど、生物兵器用製剤を違法に生産していると疑われた施設
に対しては、多国籍チームが速やかな調査を行なうとする条項。
 そうして議定書作成の交渉が続き、2001年7月には新しい制度が決定される見込み
だった。ところがアメリカは、査察という手法は条約強化のために有効ではない、と
して議定書作成に反対する姿勢を打ち出し、交渉は中断した。表向きの理由は、この
議定書では秘密裏に進む生物兵器拡散を適切に探知することができないこと、商業的
に所有している秘密をおびやかすおそれがあること(アメリカはバイオテクロノジー
の先進国でもあるからこの理由はもっともでもある)、生物兵器に対する防御計画が
危険にさらされること、であった。
 そして「9.11」後、アメリカ各地に炭疽菌が郵便で送られ、死亡者が出るという騒
動が起きた。いまだに犯人は明らかではないが、用いられた炭疽菌は、米軍が開発し
たものだという可能性が高いという説も出てきた。『ニューヨークタイムズ』同年12
月3日付によると、各地に送られた炭疽菌は、かつてアメリカの生物兵器計画で生産
された炭疽菌と同じくらい高濃度なものであることが調査によって判明した。外国産
のものである可能性が消えたわけではないが、これまでに知られている限り、他国で
生産された炭疽菌よりもずっと高濃度で、威力も高いものであるという。事務所に炭
疽菌入り郵便物を送り付けられたダシュル米上院民主党院内総務は、CNNテレビの
取材に対して、炭疽菌事件の犯人は軍関係者である可能性が高いと話した。その後、
それらの炭疽菌が、アメリカやイギリスの5機関が所持する「エームズ株」と呼ばれ
る菌の種類と遺伝子分析で一致したとも報じられた。

Terror Anthrax Linked to Type Made by U.S.(THE NEW YORK TIMES 01/12/3)
http://www.nytimes.com/2001/12/03/national/03POWD.html

炭疽菌事件:「軍関係者の可能性が高い」と上院民主党院内総務(毎日 01/12/10)
http://www.mainichi.co.jp/news/selection/archive/200112/10/20011210k0000e030049000c.html


郵送炭疽菌:米英の5機関が所持する株 遺伝子分析で一致(毎日 01/12/17)
http://www.mainichi.co.jp/news/selection/archive/200112/17/20011217k0000e030034000c.html


 もちろん、これらの炭疽菌騒動を米軍自体が引き起こした、と考えるのも早計であ
ろう。犯人は米軍関係者であるか、あるいは米軍が秘密裏に補完していた炭疽菌を盗
み出したか、米軍関係者が持ちだしたものを買ったか、可能性はいくつでも考えられ
る。
 一方でブッシュ大統領は同年11月1日、生物兵器禁止条約の違反を調査する枠組み
の確立などを求める7項目の提案を加盟国に示し、暗礁に乗り上げていた協議を再開
する方針を発表した。このときブッシュ大統領が発表した案には、個人による生物兵
器の売買や製造を犯罪として取り締まるよう各国に求めることなどが含まれている。
その後、11月14〜15日にジュネーブで開かれた「第5回運用検討会議」では、ハンガ
リーのトット議長が、議定書の交渉を棚上げする一方で、交渉の芽を絶やさないため
の代案を提示し、アメリカもそれに同意した。

生物兵器条約:米大統領、条約強化向け加盟国と協議開始を表明(毎日 01/11/2)
http://www12.mainichi.co.jp/news/search-news/873321/90b695a895ba8aed8ff096f1
-0-1.html

生物兵器:禁止条約の強化策で合意 毎年違うテーマで年次会合(毎日 01/11/15)
http://www12.mainichi.co.jp/news/search-news/873322/90b695a895ba8aed8bd68e7e8ff096f1
-0-1.html

 今年になってから、専門誌『ブリテン・オブ・アトミック・サイエンティスト』1
-2月号は「生物兵器に戻れ?」という論文を掲載した。「アメリカが生物化学兵器禁
止条約を拒否したのは、秘密の開発計画を継続・拡大してきたからだろう」というリ
ード文がその内容を要約している。著者はカリフォルニア大学のマーク・フィーリス
と、イギリスのブラッフォード大学のマルコム・ダンドであり、2人はアメリカの生
物兵器政策の不透明さを指摘したうえで、アメリカ議会は機密生物防御計画の全貌を
確認すべきである、と主張している。

Back to bioweapons?(Bulletin of the Atomic Scientists 2003/1-2)
http://www.thebulletin.org/issues/2003/jf03/jf03wheelis.html
 
 生物兵器を防御するための研究はそのまま生物兵器自体の研究にもつながることを
、2人は危惧しているのである。
 実際、ブッシュ大統領は2月3日、国立保健研究所(NIH)で演説し、生物兵器
攻撃に対応するワクチンの開発などに今後10年で60億ドルを費やすと発表した。『朝
日新聞』によると、ブッシュは、こうした研究により「他の病気の治療研究に新たな
基盤をもたらす」とも述べているという。バイオテクノロジー産業を意識したうえで
の発言であろう。

生物兵器対策に60億ドル計画 米大統領(朝日 2/4)
http://www.asahi.com/international/iraq/K2003020400319.html

 冒頭で紹介した『検疫官』のなかで、アメリカ人科学者たちが話していたことを思
い出してみよう。
 ブッシュに賛同する戦争支持派だけでなく、イラクへの査察継続が必要だという戦
争反対派も、前述のフィーリスとダンドの勇気ある声に真摯に耳を傾けるべきではな
いのか。
 アメリカにこそ、国際査察が必要である。

★そのほか参考資料

イラク:申告書に米企業名 化学・生物兵器開発の提供先に(毎日02/12/14)
http://www.mainichi.co.jp/news/selection/archive/200212/14/20021215k0000m030021000c.html


Anthrax attacks may be homegrown(The Christian Science Monitor 01/11/5)
http://www.csmonitor.com/2001/1105/p2s1-usju.html

Anthrax attacks' 'work of neo-Nazis' (The Observer 01/10/28)
http://www.observer.co.uk/international/story/0,6903,582222,00.html

FBI agents rebel over new powers (The Observer 01/12/2)
http://www.observer.co.uk/waronterrorism/story/0,1373,610413,00.html

米、生物兵器開発疑惑(ヤパーナ社会フォーラム)
http://www.kcn.ne.jp/~gauss/jsf/bioweaponnew.html

アメリカはイラクの過去の化学兵器使用を責められるか?(人道的停戦を呼びかけよ
う実行委員会)
http://www.geocities.com/ceasefire_anet/misc/iraq_heiki.htm

炭疽菌事件の真犯人はU.S.軍関係者?(MangaMegaMondo)
http://www.geocities.co.jp/Hollywood/1123/annex/anthrax.html

アメリカのイラク攻撃問題に関する論点整理(社民党外交防衛部会 2/13)
http://www5.sdp.or.jp/central/topics/ronten0213.html

●編集後記●————————————————————————————————
またもやずいぶんとあいだが空いてしまいました。ブッシュがフセインに48時間以内
の亡命を求めた期限である明日(20日)午前10時までに送ろうと思って急いで書きま
した。ジャーナリストとしてできることをやらずに後悔するのはいやなので。ヒント
を与えてくれた各記事の執筆者に感謝します。
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『クローン人間』(光文社新書)も全国書店にて発売中。アマゾンでは、読者による
レビューが読めます。
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bibid=02195666&volno=0000
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1.本誌の内容の著作権は粥川準二にあります。転送等は常識の範囲内でお願いしま
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●編集・発行●———————————————————————————————
○粥川準二(かゆかわじゅんじ)
1969年生まれ。フリーランス・ジャーナリスト。著書に『人体バイオテクノロジー』
(宝島社新書)、『フォービギナーズ 資源化する人体』(現代書館)がある。共訳
書にエドワード・テナー著『逆襲するテクノロジー』(早川書房)などがある。
○科学ジャーナリズム研究所(Institute of Science Journalism)
科学および科学ジャーナリズムにかかわる情報を収集・分析し、インターネットやマ
スコミを通じて発信するシンクタンク。所長・事務局・主任研究員・警備係を粥川が
つとめる。事務所は粥川の自宅兼仕事場(別名みずもり亭)。パトロン募集中。
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配信中止、アドレス変更、バックナンバー → http://www.melma.com/mag/04/m00067704

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粥川準二の公式ウェブサイト → http://www.jca.apc.org/~kayukawa/
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