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戦争と原油価格(JMM)
http://www.asyura.com/0304/war27/msg/176.html
投稿者 愚民党 日時 2003 年 3 月 24 日 16:28:30:

 ■ 真壁昭夫  :エコノミスト

イラクに対する攻撃で原油価格が上昇すると、確かに、インフレ要因になる可能性は
あります。原油は、いろいろな工業製品の原料として使われていますから、企業にとっ
ては原材料コストの上昇要因になります。そのコストアップ要因分を、企業は製品価
格を上げることで対応しようと考えるはずです。こうした企業の動きで、石油関連商
品の価格が軒並み上がることになると、物価水準も上昇する可能性があります。

しかし、現在のように、供給が需要を上回るデフレギャップが存在する状況で、企業
が原油価格の上昇分を製品価格に転嫁できるか否かは疑問の余地があります。製品を
購入する側の消費者とすれば、出来るだけ安い価格で買いたいと思うはずです。経済
学の理屈から考えると、生産能力に余裕があり、物を売りたい方が買いたいという人
よりも多い状況では、製品価格は上がり難いといえます。

昔、経済学を勉強したときに、インフレにはデマンド・プル型とコスト・プッシュ型
のインフレがあると教科書に出ていたことを覚えています。しかし、原材料価格が上
がって、企業の生産コストが上がったとしても、高い価格で買う消費者がいなければ、
継続的に価格が上昇することは想定できません。価格が継続的に上昇するというイン
フレになるためには、どのような場合でも基本的には、価格の上昇を許容するに十分
な需要が必要と言うことになります。

世界経済の現状を見ると、90年代のグローバリゼーションの進展で、供給能力が過
剰気味といえます。ものの値段=財価格は世界的に下落傾向を辿っています。例えば、
米国でも昨年一年間で、財価格は下がりました。その他の国や地域でも、一般的に、
財価格は下落傾向といわれています。そうすると、理論的には、原油価格が上昇して
も、コスト上昇分を製品価格に転嫁することは容易ではないはずです。消費者物価全
体が上昇傾向を辿ることは考えにくいでしょう。

ただ、今回のように戦争という不確定要素が発生している場合、企業はリスク負担を
軽減するために、原材料の絶対量を確保する動きをとることが考えられます。あるい
は、消費者サイドでも、不測の事態に備えて、生活必需品などを買いだめする可能性
もあります。これらの場合では、短期的に、価格に対する意識が低下しますから、一
部物資の値段が顕著に上昇することが考えられます。

なんと言っても、インフレやデフレは、人間の心理状況が作り出す側面もあります。
一時的に、人々の間で、インフレマインドが醸成されると、短期的に財価格が上昇す
ることは十分に考えられると思います。但し、大きなデフレギャップが存在する場合
には、一時的に価格が上がっても、それ以上に売りたい企業が多いわけですから、長
期的には、価格の上昇は続かないことになります。

また、このように、世界的にデフレギャップが存在するため、企業はコスト上昇分を
価格に上乗せできず、自分の儲け=収益を削って吸収しなければなりません。こうし
たケースでは、コスト上昇分だけ企業の収益率が落ち込むことになります。企業収益
が悪化すると、企業経営者は従業員をリストラすることになります。失業率が上昇し
て、所得・雇用環境が悪化します。そうなると、家計部門は収入の減少から、消費を
減らすことになり、経済全体を縮小させることになります。結果的に、物価水準は上
昇せず、インフレにはなりにくいという結論になります。

                           エコノミスト:真壁昭夫

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 ■ 菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 シニアストラテジスト

WTI原油価格は2月末に1バレル39.99ドル近くと2002年初めの水準から
約2倍近くに上昇した後、直近29.99ドルと高値から25%も下落しました。た
だ、91年湾岸戦争時には2日営業日で原油値段が4割も下落したことを考えると、
下落率はまだ小さいといえます。

今回のイラク戦争は表向きイラクの大量破壊兵器の有無に焦点が当っているように見
えますが、原油埋蔵量世界2位を誇るイラクの油田を巡る米国、フランス、ロシアの
権益争いともいわれます。イラクの原油埋蔵量はサウジ以上の世界一との推計もあり
ますが、現在は国連の管理下による輸出しかできず、生産は日量200万バレル強と
サウジの4分の1にとどまっています。2001年9月の同時テロ事件以降テロとの
戦いやエネルギー供給で蜜月時代に入ったようにも見えた米露関係ですが、イラク原
油が米国の支配下に入れば、ロシア原油の戦略的価値が大きく低下するので、ロシア
も心中穏やかでないのかもしれないません。

OECDが2001年9月に発表したStandard Shocks in the OECD Interlink
Model
によると、原油価格が50%上昇すると、1年目に日本の消費者物価上昇率は0.4
%(OECD全体なら0.6%)上昇する結果になっています。ただ、よく知られて
いるように計量モデルの回帰係数の推計は過去10年以上のデータに基づいて行うた
め、経済の構造変化を巧く取り込めないという問題があります。即ち、現在のような
世界的不況期には原油価格が上がっても、流通段階で吸収され、最終消費者に十分転
嫁されなくなります。

実際に2003年2月の企業物価指数では素原材料価格が前年同月比10.5%上昇
したのに対し、最終財は2.9%下落しました。生鮮食品を除く消費者物価変化率は
2月に前年同月比0.7%の下落と、41カ月連続で前年割れが続いています。最近
の物価指数は、原油価格上昇だけでインフレになりにくいことを示しています。投入・
産出価格の変化率の差は、企業からみた交易条件が悪化し、マージンが圧迫されてい
ることを暗示します。時差相関係数をとれば、交易条件の悪化は4四半期後に経常利
益に最もマイナスとして響きます。

3月13日付け日経新聞は「ガソリンのスポット価格が9年5カ月ぶりの高値に上
昇」、しかし「新日本石油など国内石油元売り各社は原油高を製品価格に転嫁しきれ
ていないため、ガソリンの生産を抑制している」と報じました。日本の石油会社は川
上に強力な採掘権を持っている訳ではないので、原油高を川下のガソリン価格に転嫁
できなければ業績が圧迫されます。国内の製油所は33カ所、ガソリンスタンドも5
万2千もあり、まだ過剰感が強いことが問題になっています。

総合化学の株式時価総額はエチレンマージンとの相関が高くなっています。イラク戦
争開始により原油価格が低下すれば総合化学の業績は好調に推移しますが、同価格が
30ドル以上に高止まりすれば2003年度の増益に黄色信号が点滅すると試算され
ます。

企業業績全体でも原油価格が10ドル上昇すれば、日本の実質GDP成長率は約0.
4%低下、経常利益変化率はは約4%減少する計算になります。アナリスト予想では原
油価格26ドル程度を前提に2003年度の経常利益が15%程度の増益との予想が
多い訳ですが、原油高が30ドル以上で推移すれば、世界景気の鈍化やマージン悪化
を通じて減益に陥る可能性があるでしょう。ただ、足下は原油価格の急落、欧米株の
急反発、円安などが日本株にも良い影響を与えています。

            メリルリンチ日本証券 シニアストラテジスト:菊地正俊

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 ■ 三ツ谷誠  :三菱証券 IRコンサルティング室長

開戦前の「仏・独・露」と「米・英・西」による対立の様相を、「三国協商」対「三
国同盟」の構図で読み解こうとするマスコミ報道が見られましたが、私にはこの対立
は「ユーロ的世界」の「ドル的世界」に対する抵抗であるように感じられました。し
かし、戦端が開かれた現在、その抵抗は空しい抵抗として後世に語られるのではない
かと思います。

そしてまた、全てを国家に還元するのではなく、「人間の盾」や世界各地で巻き起こっ
た「反戦デモ」も、テロリズムも、実はトニ・ネグリ、マイケル・ハート言うところ
の「帝国」支配に対する人民「マルチチュード」の抵抗と読み解いていくほうが、ずっ
とずっと本質的だとも感じています。「帝国」に対する個人の闘いこそが、21世紀
の「戦争」の形態であり、どのような帰結になるのかは分かりませんが、この最後の
国家間戦争が終われば、その構図はより一層鮮明になっていく気がします。

ところで、原油価格の高騰が我が国のデフレ状態からの脱出の契機になるかどうか、
という今回の設問ですが、原油価格の高騰が押し上げる生産コストを企業が末端価格
で吸収させる回路が働かない以上、その可能性は限りなく低いのではないかと考えま
す。結局、一次産品ではなく末端消費財の価格が上がってこなければ、今回のデフレ
を脱するのは難しいのではないでしょうか。その前提はおそらくは円安であり、どこ
か変異点で輸入品の価格が全般的に高騰していった時がデフレが終焉する時なのだと
思います。

また、第一次、第二次中東戦争が招いた石油ショックは、その戦争が「管理された」
戦争ではなかったことに由来する部分が大きいと思いますが、湾岸戦争も今回の「イ
ラクの自由」戦争も、戦争の帰趨自体に関しては読み違いが極めて少ない「管理され
た」戦争であり、よほど突発的なアクシデントが発生しない限りは、原油価格自体も
危機感を煽るような推移はしないのではないかと思います。

                三菱証券 IRコンサルティング室長:三ツ谷誠

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 ■ 山崎元  :UFJ総合研究所 金融本部主任研究員 兼 企業年金研究所取締役

 ついにイラク攻撃が始まりました。「独裁者に大量破壊兵器を与えることは危険で
ある」という開戦理由をアメリカ自身が証明する皮肉な構造の戦争です。今のところ
遠い国の出来事ですが、個人としても戦争の現実への対応を考えなければならない状
況になったと思っています。

 今回は、国連決議を経ないしかも一方的な開戦であり、日本がこれに賛成している
ということは、イラクに対して「敵国」となったことを意味すると理解されます。ま
た、アメリカが主張するようにテロリストとイラクが結びついているとすれば、テロ
リストから見ても日本は敵国ということになります。また、仮にイラク攻撃が短期間
で終わったとしても、次にアメリカの介入の対象になる可能性の大きな国に関連して
何らかのリスクが発生する公算が大きいとも思われます。こうした状況を招いてしまっ
た以上、個人で行うことが出来るリスクへの対策には限りがありますが、まずは考え
られる安全上、経済上のリスクに対する対応を考える必要があると思っています。

 また、今回は多くの国民がイラク攻撃に反対する中で、政府が強引かつ性急にアメ
リカへの賛意を表するという不本意な展開になりました。これは、組織としての日本
のガバナンスがうまく行っていないとうことでしょう。これまで及び現時点での日本
政府の対応は、倫理的にも正しいと思えませんし、国益(「国益」は平均的な国民の
利益と一応考えておきます)にかなうとも思えません。個人的には、少なくとも日本
政府のこうした動きをくい止めることが出来なかったことに関して国民の一人として
反省しなければならないと考えています。

 さて、ご質問の原油価格高騰によるデフレ脱却の可能性ですが、望ましい形でデフ
レから脱却することは難しいと思われます。理由は二つあります。

 まず、原油輸入国である日本の場合、原油価格の上昇によって増加せざるを得ない
支出は、保有する富に対してマイナスの影響を与えます。また、原油及び関連製品の
価格上昇は、国民の所得の実質価値の低下を意味します。これらの影響は、原油以外
の製品に対する需要の減少を意味するので、原油価格高騰は日本の経済活動を低下さ
せる要因として働くということです。原油及び関連製品の価格上昇で、統計上インフ
レ的な方向へのバイアスが掛かっても、実質値で見た経済活動にはマイナスの影響と
して働きますし、国民の経済厚生は悪化します。原油価格高騰を端緒とするインフレ
化は、次に述べるように実現性は高くないと思いますが、日本経済にとっては悪夢の
シナリオの一つと言っていいと思います。

 もう一つの理由は、物の供給能力に対して、総需要が停滞する中で原材料費の大き
な構成要素である原油価格が上昇しても、製品価格への転嫁が難しく、また、先に指
摘した所得効果上のマイナスの影響もあって、石油関連以外の財の価格に対してはマ
イナスの影響が及ぶので、そもそも物価全般のインフレにはなりにくいだろうという
ことです。

 ところで、3月16日付けの日本経済新聞に、米国のシティグループが日本をカン
トリーリスク上の要注意国に指定して、消費者金融などの事業を縮小する方針という
ニュースが報じられていました(日経ネットの記事を参照↓)。
http://www3.nikkei.co.jp/kensaku/kekka.cfm?id=2003031601394
記事では、理由を「日本経済の先行き不透明感が高まり、従来のような成長が望めな
い」ためだと説明されていましたが、日本の金融ビジネスの市場規模がそれなりに大
きいことははっきりしており、日本の安全上のリスクに対する判断が働いているのだ
ろうと(あくまでも個人的な推測ですが)、この記事を見た時に嫌な感じがしました。
はじめに述べたことの繰り返しになりますが、経済に関する意思決定に限っても、我々
の「安全」が危機に晒されていることのリスクとコストを織り込む必要が急速に高まっ
たように思えます。

     UFJ総合研究所 金融本部主任研究員 兼 企業年金研究所取締役:山崎元

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 ■ 津田栄  :エクゼトラスト投資顧問株式会社 顧問

 結論からいうと、原油価格の上昇というインフレ要因があっても、デフレの要因で
ある大幅な需給ギャップが解消されない限り、デフレからは簡単に脱却できないとい
うことです。つまり、今の日本経済には、原油価格が高騰しても、その影響を当面価
格転嫁できないほど、需要が低迷しているという事実が厳然として存在しているとい
うことです。

 さて、20日早朝、米英軍によるイラク攻撃が始まりました。原油価格は、戦争へ
の高まりにより、11月以降WTI先物で25ドル/bl前後から上昇し続け、3月
に入って38ドル近くまで達しましたが、ブッシュ米大統領の最後通告で、戦争の現
実化・早期終結を予想して、一気に下落、20日現在28ドル前後まで下がっていま
す。市場は、戦争が起きるまでの間の不透明感で価格が上昇、事実で下落という動き
となっています。今後は、戦争の推移と戦後情勢による新たな事実が原油価格動向を
左右するでしょう。

 さて、イラクへの軍事攻撃で原油価格が高騰した場合、それが短期なのか長期なの
かで分けて物価への影響を考えてみます。原油価格の上昇が短期間で終わる場合の影
響は、原材料に波及するまでの間の時間で吸収されますので、物価上昇にはつながら
ないといえます。その意味でインフレ要因にはなりえません。この場合は、イラク攻
撃が短期で終了し、占領・戦後政治・復興が順調にいく場合といえましょう。

 では長期にわたって原油価格が上昇し、高値で推移した場合ですが、価格上昇の影
響は、ガソリンや灯油、輸送燃料、電力などのエネルギー価格に波及していきます。
原油からのコスト高が直接響き、競争が働きにくい面を考えると、原油価格の上昇分
は価格転嫁されますから、幾分か物価の上がる要素になるといえましょう(とはいっ
ても、すぐに物価が上がるとは思っていません。じわじわ広がるように上昇すると見
ています)。

しかし、そのほかの間接的な製品・商品・サービスについては、今の需要の低迷・供
給の過剰、企業間競争を考えると、企業は、原油価格の上昇分を簡単には製品・商品・
サービス価格に転嫁できないと見ています。ただし、その分、企業が原油価格上昇に
よるコスト高を負担することになり、企業収益を悪化させます。

それを避けるため、企業は、最終的にその他のコスト(仕入れ材料・商品の量・質・
価格、従業員の人員・給料など)の削減に動くことになり、それが限界に至るまで、
価格の上昇を抑え、価格上昇を図っても、小幅に止まらざるを得ないと思います(た
だ、それが、需要をさらに低迷させることになります)。結果として、需給ギャップ
と企業間競争が物価の上昇を限定させるといえます。

ただ、企業収益の悪化に限界が来るほど、高水準かつ長期にわたる原油価格上昇が続
くとなれば、製品・商品・サービス価格は上昇し始め、物価は上がることになります。
その意味では、インフレ要因ということになりますが、現在でさえ需要が低迷してい
る中で、一段と悪化することを考えると、予想ほどの物価上昇にはならないと思われ
ます。

あるいは、オイルショック時のように、長期にわたって原油価格が上昇する、または
原材料・製品・商品が手に入らないという予測や心理的不安が、他より早く手に入れ
ようと行動に駆り立てた場合、価格を急激に引き上げることになり、狂乱物価を再現
するとの予測もあります。ただ、今の段階ではIEA参加国は原油備蓄の放出を考え
ていますし、OPECも増産を約束していますから、可能性は小さいと見ていいでしょ
う(この点で気になるのは、アメリカにおける28年振りの低水準の原油在庫量です。
あるきっかけで、原油調達を急げば、原油価格は急騰します)。

 ここまでは、長期であっても、物価上昇がなく、インフレにならないという基本的
な考えですが、死角があるとしたら、今回の戦争が長期化し、イラク占領にてこずり、
戦後の政治的安定が得られない、イラク周辺国に動揺が走り、政治的に不安定になる、
原油生産施設が破壊され、当面回復しない、原油輸送タンカーに攻撃が加えられ、安
定的な輸送が出来なくなる、テロが世界各地に起き、不安心理が世界的に拡散するな
どです。

もうひとつは、ほとんど可能性がないと見ていますが、米欧間の亀裂、欧州内の亀裂、
大国間の亀裂、そして国連の機能低下が、世界協調意識を薄れさせ、政治的・経済的
に壁を作れば、戦略的な商品である原油を確保するために、世界的な緊張が起きて、
不安の増幅が現実となり、価格の上昇につながって、インフレになる可能性がありま
す。

 どちらにしても、今までの関係・状況が以前と変わらず、継続することになれば、
問題はありませんが、断絶した関係・状況が起きたときは、考えを変えざるを得ず、
全く異なった環境に身をおくことになります。そして、そのときの世界経済は、景気
低迷とインフレが同時進行する不幸な状況に入っていくのかもしれません。

 最後に、人間は欲望を持ち、相手との信頼のなかで、その欲望を抑え、平和の中で、
経済を発展させて来ました。しかし、人間が相手を信用できなくなったとき、疑心暗
鬼が、いがみ合いをつくり、戦争の引き金となり、経済を破壊することになります。
そして、人間は、破壊された経済を相当の時間と労力をかけて再生していきます。し
かし、そこに憎しみが残り、いつの日か、それが不信の芽になっていきます。

戦争は、破壊と創造という壮大な経済行為と言いますが、理由がどうであれ、最も避
けるべき行為です。しかし、歴史が示すとおり、避けることが出来る戦争でも、不信
からくる、つまらない理由で起こしています。そして、そこで犠牲になるのは、軍人
よりも民間人であることも事実です。今回起きてしまいましたが、出来うるならば、
戦争を早く終えて、罪のない民間人が極力犠牲にならず、破壊も少なく、結果として
憎しみが生まれないように願っています。

                エクゼトラスト投資顧問株式会社 顧問:津田栄

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 ■ 杉岡秋美  :生命保険会社勤務

 確かに、原油が値上がりすると、原油を生産のための原料としている企業は、製品
の価格をその分を上乗せしないと、自らの利益が無くなっしまいます。その企業は、
製品価格を上げたいと思うはずです。供給サイドはそう思うのは明らかですが、それ
が通るかどうかは、その製品の需要サイドの事情次第です。例えば石油を使って発電
している電力会社は、電力料金を上げなくては採算が取れなくなります。しかし、そ
の値上げ要求が、買い手にどれだけ受け入れられるかどうかは、買い手がどれだけ電
力を欲しているかによります。

 電力会社にしてみれば、代替手段があったらそれに乗り換える選択肢もあるでしょ
うが、石油に変わるエネルギーとして原子力は限界を露呈し、風力や小型の水力発電
などの代替エネルギーはすぐには役に立ちません。電力会社は原料の値上げをカバー
するために電力料金を値上げするか、さらに効率を高めるしかないことになります。
電力料金は公共料金ですから、価格決定には公的機関が介入し、世の中の不景気を配
慮して、少しだけ値上げを認めるといったような決定となるでしょう。フルに値上げ
が通らないとするならば、その分効率を高めるために設備投資の抑制や更なるリスト
ラに走るかもしれません。このように、原料の値上がりは、少なくとも短期的にはデ
フレ要因となる可能性を秘めていることになります。

 公共財であろうと、普通の市場を通じて供給される財であろうと経済が好況で、経
済全体に需要が十分存在するのであれば値上げ要求はすんなり認められ、需要サイド
も投入を減らさずに生産活動や消費活動を維持しようとするでしょう。しかし、現在
の日本は需要そのものが足りない状況ですので、価格の上がった財の投入を減らし、
生産や消費そのものを縮小させてしまうかもしれません。デフレがはっきり定着した
経済では、エネルギー価格の上昇は更なるデフレ要因になる可能性が高くなると思わ
れます。

 一方で、インフレやデフレは貨幣の実物に対する相対的な価値しだいで決まるとい
う意味で、貨幣的な現象です。言い換えれば、原油の値上がりが、人々にインフレ期
待を持たせることが出来れば、貨幣価値は下がっていくはずですが、それが可能かど
うかが問題です。原油の値上がりが将来他の素材の上昇を生み、それが更に一般物価
や名目賃金や名目的な売上までも、長期にわたって上昇させ続けるという予想を人々
が持てば、原油高騰がきっかけになりインフレが発生するでしょう。そうなれば、企
業にとっても会計上の名目利益が増えたり、個人も名目賃金が増えたりといった現象
から、実質ではともかく経済主体にとって活動しやすい穏やかなインフレ状況が引き
起こされる可能性はゼロではないでしょう。

 しかし、デフレギャップが存在し、世界的に有効需要が生産力に比べて大きく不足
する状況でそれが実現する可能性はかなり低いのではないかと思います。「(原油の
高騰)→(一般物価の上昇期待)→(インフレ発生)→(名目売上の上昇)→(名目
所得の上昇)→(消費・投資の上昇)」というようなリンクを願っても、今の日本経
済にとってこのパスは相当な隘路であり、僥倖を期待するに近いものがあります。

                         生命保険会社勤務:杉岡秋美

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 ■ 米山章吾:国内投資信託会社 ファンドマネージャー

 原油価格が上昇し続ければ、少なからず国内の物価全般にも上昇圧力が働きます。
今回始まった戦争により、イラクを含め周辺国の原油採掘施設が大きなダメージを受
ければ、また戦争が一向に終息しないとなれば、原油需給は逼迫して価格は上昇を続
けます。若し今回の戦争が短期に終わり、採掘施設も大きなダメージを受けることが
なければ、直ちに原油供給が復元されなくとも、先行き価格下落期待も手伝い、原油
価格は低下してゆくと思われます(ベネズエラの状況は依然注意が必要か)。そんな
当たり前な事ぐらいしか言えない私ですが、状況が状況だけに、金融市場では原油需
給に関しては山のようなレポートが飛び交っており、俄か原油アナリストも急増中と
なっています。詳しくはそちらをどうぞというところでしょうか?

先日、日本リサーチ総研(内閣府、経済産業省の共管法人)より公表された「生活不
安度指数」は悪化の方向を辿りました。そして同時に付されたコメントは、『日本経
済にとってデフレからの脱却が喫緊の課題である一方で、消費者の視点に立てば、物
価の下落が防衛的な家計の消費生活を支えている面が少なからずある。雇用や所得面
での不安が解消されないまま物価が上昇すれば、消費者心理に少なからず悪影響を及
ぼす可能性はある。デフレ抑止策の強力な推進が求められていると同時に、そうした
政策の実施が消費者心理に及ぼす影響についても、慎重な配慮が必要であろう』とい
うものでありました。このところの原油価格上昇は、消費者心理にはマイナスに作用
しています。ガソリンスタンドでの価格上昇に関する消費者の不満も紙上ネタになっ
てきました。

日本にとって原油は先ずもっての原材料の代表選手であります。従ってその価格上昇
は川上産業から川下産業へと順次影響が及んでゆき、当然各生産段階では仕入れ価格
が先ず上がってゆくことで、コスト上昇要因が先に立ちます。各段階では所得が減少
するため、販売価格を引き上げることで所得の復元を図ります。しかし販売価格を引
き上げることによって、売上数量が減少するのではないか? 他社にシェアを奪われ
るのではないか? などの不確実性が邪魔し、原油価格上昇の全産業への波及は徐々
にしか進行しませんし、行き着く最終需要段階でも結局はコストの上昇だけが残りま
す。GDPで言えば輸入(所得の控除項目)が増加することで、GDP全体の水準が
低下することになります。

各経済主体は、世の中の一般物価水準上昇を予想し、製品・サービス価格を値上げす
ることが自らの首を締める事には繋がらないと確信するよりも前に、先ず手許の所得
の減少という現実に直面することになります。つまり所得の減少という形勢不利の状
況下で、製品価格値上げという不確実な戦略を恐る恐る採用しなければならないとい
うことです。そこでの行動としては、世の中のデフレが終焉するかも知れないという
曖昧な予想に基づいて生産設備増強を行うよりも、本当に値上げが上手くゆくかどう
かを確認するまで生産設備増強は手控えられる可能性が高いと言えます。需要の減退、
GDP全体の水準が低下すること、すなわち潜在GDPからのギャップが拡大、その
こと自体は次の段階での物価低下要因として作用します。原油価格上昇は、日本にとっ
て結局デフレ要因として作用してしまう可能性が高いと言えます。

各主体にとっては些細な様子見の姿勢を経済全体で集計、それがいわゆる「景気後退」
なのです。先の「生活不安度指数」の動きもそのようになっている訳です。最近議論
喧しいインフレターゲット政策ですが、原油価格上昇とは異なり、所得の減少からは
免れますが、実際に手許に余裕が出てくる以前に、各経済主体が果たして積極的な行
動に出るほどの期待改善がなされるか否かには甚だ疑問が残ります。

 最後に雑感。今回の戦争に絡み、戦争が経済に与える影響を小数点以下で精密に計
算されているレポートが、やっぱり金融市場では飛び交うことになっているのですが、
戦争がどのように展開するのか分からない状況の下で、いくらパタン分けをしたとし
ても、その計算に何の意味があるのか分からなくなってしまいます。過去に循環的に
発生していたことを前提にするのであればまだしもですが、突発的に発生している事
件の影響を計算できるほど人類のテクノロジーは進歩していないと思います。若しそ
のような試算をするのであれば、混乱している人々を落ち着かせるためか、為政者に
政策提言するためか、何らかの前向きな使い方をして欲しいと思います。かつて阪神
大震災の時には、私も経済分析の担当をしておりまして、まだ瓦礫の下で助けを待つ
方々がおられる最中、震災の復興需要を風が吹けば方式でレポートしたことがありま
す。レポート提出の夜、他の会社で同じ様な指示を受けた何人かのエコノミストと、
嫌悪感と悔し涙で苦い酒を飲んだ思い出があります。先般の9.11や今回の戦争な
ど、事件に絡んでの経済論議などでは、どうしてもそれが思い出されてしまいます。

              国内投資信託会社 ファンドマネージャー:米山章吾

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