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【哲学クロニクル】イラク戦争:真の危険はどこにあるのか?(1)
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投稿者 愚民党 日時 2003 年 3 月 29 日 22:18:07:

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哲学クロニクル 第362号
(2003年3月28日)
イラク戦争:真の危険はどこにあるのか?(1)
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今回は、イラク戦争についてのいかにもジジェクらしいコメントをお読みいただ
きます。実は哲学クロニクルの読者で、大学で英語を教えておられる木原さんか
ら、訳稿をお寄せいただきました。木原さんの承諾を得て、この訳稿を数回にわ
けて連載させていただくことにしました。木原さん、ありがとうございました。
原文はhttp://www.lacan.com/iraq.htm
で読めます。

なお、先日お知らせしたメーリングリストglobalは参加者も100人をこえ、
さかんに情報交換が行われています。もしも申し込まれた方で、登録が行われて
いない方がおられれば、お知らせいただければ幸いです。

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イラク戦争:真の危険はどこにあるのか?(1)
(スラヴォイ・ジジェク、木原善彦訳)

私たちは皆、夢の奇妙な論理を表現するためにフロイトが引用した「借りたやか
ん」のジョークを覚えている。すなわち、返したやかんが壊れていたことを友人
に責められて、互いに相容れない言い訳を羅列するというものだ。(1)君から
やかんなんて借りてない。(2)君に返したときは壊れてなかった。(3)君に
借りたときにはすでにやかんは壊れていた。

フロイトにとっては、このような矛盾した議論の羅列は否定しようとしているこ
とを逆に否認によって追認するものである。すなわち壊れたやかんを相手に返し
たということを。合衆国高官たちがイラク攻撃を正当化しようとするとき同じよ
うな支離滅裂な論理が見られるのではないだろうか。

(1)サダム政権とアルカイダとの間にはつながりがある、したがってサダムに
は9・11の復讐の一環として罰を加えるべきだ。(2)イラクの政権とアルカ
イダとの間につながりがないとしても、どちらも合衆国を憎悪している点で同類
であり、サダム政権は本当にたちの悪いものであり、合衆国のみならず近隣諸国
にも脅威であり、われわれはイラク国民を解放しなければならない。(3)イラ
クの政権交代はイスラエル=パレスチナ問題の解決の条件を整える。問題は、イ
ラクを攻撃する理由があまりにもありすぎることだ……。

さらには、こうしたフロイト的な夢の論理に触れるついでに、合衆国の攻撃の正
当化の背後ではイラクの石油資源がかの有名な「へその緒」の機能を果たしてい
ると主張したくなる。攻撃には三つの「真」の理由があると主張したくなるので
ある。その方が理屈に合っているからだ。(1)イラクの石油資源のコントロー
ル。(2)合衆国の無条件の主導権[ヘゲモニー]を野蛮な形で誇示しようとす
る衝動。(3)合衆国が他国に民主主義と繁栄をもたらすのだという「誠実」な
イデオロギー的信念。

そしてこれら三つの「真」の理由が三つの公式な理由の真実だと思われる。イラ
ク国民を解放するという衝動の真相は(1)であり、イラク攻撃が中東問題の解
決に役立つという主張の真実は(2)であり、イラクとアルカイダの間に関係が
あるという主張の真実は(3)である。

ついでながら、戦争に反対する者たちも同様の矛盾した論理を繰り返しているよ
うに思われる。(1)サダムは本当にたちが悪いし、彼の体制が転覆されるのが
望ましいけれども、査察官の方が[戦争よりも]効率がよいのだから彼らにもっ
と時間を与えた方がよい。(2)本当の問題は石油利権とアメリカの主導権であ
り、他国に脅威を与えている本当のならず者国家は合衆国自身である。(3)か
りに成功してもイラク攻撃は反米テロの新たな波を作り、それに大きな力を与え
ることになる。(4)サダムは殺人者であり、拷問者であり、彼の体制は犯罪的
な災難であるが、サダムを打倒するためのイラク攻撃には費用がかかりすぎる……。

戦争に賛成する議論で唯一まともなのはクリストファー・ヒチェンスが最近挙げ
たものだ。すなわち、大多数のイラク人が事実上サダムの犠牲者であり、彼らは
サダム政権が取り除かれることを本当に喜ぶだろうということを忘れてはならな
い、という主張である。サダムはイラクにとってひどい災厄であり、日々の生存
と恐怖の軽減という意味では、どんな形であれアメリカによる占領はイラク国民
にとってはるかに明るい展望をもたらすものに思われるだろう。

ここで言っているのは「イラクに西洋的な民主主義をもたらす」という話ではな
く、サダムという名の悪夢を除去するという話である。こうした大多数のイラク
国民にとって、西洋リベラルの発している警告はどうしてもひどい偽善に見えて
しまう。彼らは本当にイラク人の気持ちを分かっているのか、と。

ここで、より一般的な主張をすることもできるだろう。キューバ革命に共感を持
ちながらキューバを離れた人々――キューバ人が「グサーノ(虫けら)」と呼ぶ
人々――を軽べつしているカストロ肯定の西洋左翼はどうか。典型的な中流階級
の西洋左翼に、政治的幻滅のみならず貧しくて腹が減るという単純な原因でキュー
バを去ることに決めたキューバ人を軽べつするどんな権利があるのか。

同じように、1990年代初頭から私自身も数十人の西洋左翼から面と向かって
「ユーゴスラビアは今でも存在するのだ」と言われたり、「君はユーゴスラビア
を維持する唯一の機会を逃した」と非難されたりしたことを覚えている。それに
対して私はいつもこう答えた。私は西洋左翼の夢を失望させないような生き方を
する覚悟がまだできていないのです、と。

西側の自由民主主義と消費者物資にあこがれる共産主義国出身の東欧人を終身的
地位にいる西洋のアカデミックな左翼がごう慢にも切り捨てる(見下したように
「理解する」のはさらに悪質だ)ことほど軽べつに値することはまずないし、こ
れほどイデオロギー的な態度もほとんどない(イデオロギーという語が今日でも
何かの意味を持っているとするなら、それがここに当てはまるはずだ)。しかし、
この事実から、「一皮むけばイラク人も私たちと同じ、私たちと同じものを望ん
でいるのだ」と考えるのは単純すぎる。

そうなると、いつものパターンが繰り返されることになる。すなわち、アメリカ
が人民に新しい希望と民主主義をもたらしたのに、恩知らずな人々は合衆国軍に
かっさいを送るどころか、本当に民主主義を望み、贈り物の中に何か変なものが
入ってないかを疑い、アメリカはわが身を省みず手助けをした人々に感謝をして
もらえず、気持ちを傷つけられた子どものようにふるまうというパターンである。

その底流にあるのは昔ながらの思い込みだ。私たちは誰でも一皮むけばアメリカ
人であり、私たちは本当はみんなそれを望んでいるのだから、必要なのは人々に
チャンスを与え、彼らを縛っているもろもろの制約から解放してやることだ、そ
うすれば彼らも私たちと同じイデオロギー的な夢を共有することになるのだとい
う思い込みである。

2003年2月にアメリカ政府代表が現在アメリカのやっていることを描写する
のに「資本主義革命」という言葉を用いたのは驚くべきことではない。アメリカ
は革命を世界中に輸出しているのだ。アメリカが敵を「囲い込む」戦略からより
攻撃的なスタンスに移行したのは驚くべきことではない。今は亡きソビエト連邦
が数十年前にそうであったように、世界革命の転覆的エージェントを現在務めて
いるのは合衆国だ。

ブッシュは先日「自由はアメリカから他の国への贈り物ではない、それは神から
人類への贈り物なのだ」と発言したが、一見謙虚なこの発言は、しかしながら、
最高に全体主義的なやり方でその正反対の事実を隠している。その通りだ、しか
し、世界のすべての国々にこの贈り物を届ける使者として自分が選ばれたと考え
ているのはアメリカ自身なのだ。

「1945年の日本の例にならって」イラクに民主主義をもたらし、アラブ世界
全体の手本にし、人々が腐敗した政権を排除することを促すという考え方は、た
だちに乗り越えられない障害に直面することになる。すなわち、民主化されない
ことが合衆国の決定的利益となっているサウジアラビアはどうなのか。サウジア
ラビアが民主化していればその結果は、1953年のイランの繰り返し(反帝国
主義的な民族主義体制)か、「原理主義者」が自由選挙に勝った数年前のアルジェ
リアの繰り返しとなっただろう。

しかし、「古いヨーロッパ」と皮肉を言ったラムズフェルトの言葉には一片の真
実が含まれている。合衆国の対イラク政策に反対するフランス・ドイツ両陣営の
立場は一か月前の仏独首脳会談を背景にして考えなければならない。シラクとシ
ュレーダーはその会談において基本的にはヨーロッパ連合に対する一種の二元的
なフランス=ドイツ主導権を提唱したのである。したがって、反米主義がもっと
も強いのはヨーロッパの「大きな」国、特にフランスとドイツであるのは驚くべ
きことではない。反米主義はグローバリゼーションへの抵抗の一部なのだ。

近年のグローバリゼーションの潮流は国民国家に脅威を与えているという不平
を私たちはしばしば耳にする。しかしここではこの言い回しの意味を限定すべ
きだ。その脅威にもっともさらされているのはどの国なのか。それは小国では
なく、第二ランクにある(元)世界的列強、連合王国[イギリス]、ドイツ、フランス
などだ。彼らが恐れているのは、新しく出現しつつある地球規模の〈帝国〉に
いったん飲み込まれてしまうと、自分たちの国が、たとえばオーストリアやベ
ルギーやルクセンブルグと同じレベルに落ち込んでしまうのではないかという
ことだ。

フランスにおいて多くの左翼や右翼国家主義者に共通して見られる「アメリ
カ化」の拒否は、突き詰めていうと、フランス自身がヨーロッパでその主導的役
割を失いつつあるという事実を認めることの拒否なのである。こうして、
小の国民国家の重みが平均化しているのはグローバリゼーションの有益な効果
の一つと考えてよいだろう。元共産主義の新しい東欧国家に対するさげすんだ
ような嘲笑の裏には、ヨーロッパ「大国」の傷ついたナルシシズムの輪郭が容易
に見て取れる。

そしてこの大国ナショナリズムは、単に現在の対立(の失敗)の付随的な特徴で
はない。アメリカがまさに行っていること――「新しいヨーロッパ」諸国を同じ
政治軍事的土俵に引き込み動員し、共同の新しい前線を組織すること――
をより積極的に行う代わりに、フランスとドイツは傲慢にも単独で行動したのである。

対イラク戦争に対する最近のフランスの抵抗の中には、間違いなく「古い退廃的
な」ヨーロッパの残響が響いている。新決議に新決議を重ねながら、結局、行動
しないことによって、問題を逃れるという姿勢がそうだ。こうしたことは193
0年代の国際連盟がドイツに対して無力だったことを思い起こさせる。そして
「査察団に査察をさせろ」という平和主義者たちの呼びかけも明らかに偽善的だ。
査察が可能なのは信ずるに足りるだけの軍事的介入の脅威があるからなのだから。

アフリカにおけるフランスの新植民地主義(コンゴ=ブラザビルからルワンダ危
機と虐殺においてフランスが果たした黒い役割にいたるまで)については言うま
でもない。ボスニア戦争におけるフランスの役割も。さらには、数か月前に明ら
かになったように、フランスとドイツがヨーロッパにおける主導権を気にかけて
いることははっきりしているではないか。

(c)木原善彦


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(c)中山 元
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