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【哲学クロニクル】イラク戦争:真の危険はどこにあるのか?(3)
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投稿者 愚民党 日時 2003 年 4 月 01 日 17:21:12:

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哲学クロニクル 第364号
(2003年3月31日)
イラク戦争:真の危険はどこにあるのか?(3)
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桜が開花して、あっという間に満開になりそうな気配の東京ですが、
クロニクルではイラク戦争についてのジジェクの秀逸なコメントの最後の部分を
ご紹介します。ぼくもジジェクのパラノイア的な誘惑に乗りそうです(笑)。
原文はhttp://www.lacan.com/iraq.htm
で読めます。
翻訳を提供してくださった木原さんに、心から感謝いたします。

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イラク戦争:真の危険はどこにあるのか?(3)
(スラヴォイ・ジジェク、木原善彦訳)


私たちは今自分たちが「静かなる革命」のただなかにいることに気づいているだ
ろうか。その過程でもっとも基本的な国際的論理を決める不文律が変わりつつあ
るのだ。合衆国が民主的に選ばれた指導者ゲルハルト・シュレーダーをしかりつ
ける。理由は、彼がドイツ国民の多数が支持する態度、加えて2月半ばの世論調
査によれば合衆国国民の59パーセント(国連の支持のないイラク攻撃に反対し
ていた)も支持する態度を表明したからだ。

トルコでは、世論調査によると、対イラク戦争のための合衆国軍駐留に国民の9
4パーセントが反対している。こうした状況のどこに民主主義があるのか。昔な
がらの左翼人なら誰でも『共産党宣言』の中のマルクスの返答を覚えている。共
産主義者は家族や財産などを危うくすることをもくろんでいるという批判者に対
してマルクスはこう答えた。大多数の人民から財産をはく奪し、伝統的な家族秩
序を破壊している(ついでながらこれはマルクスの時代よりも今日においてより
当てはまる事実だ)のはむしろ資本主義経済の力学のほうだ、と。

同じ調子で、今日地球規模での民主主義の守護者を気取っているまさにそのもの
たちこそ事実上民主主義をむしばんでいると言えるのではないか。ひねくれた言
い方をするなら、戦争肯定派の指導者が自分の政治的意見が大多数の国民とは異
なるという厳しい現実に直面したとき、彼らはありふれたパターンに訴えて「真
の指導者は人の前に立つ。人に付いて行ったりはしない」と言うのだ。いつもな
ら世論調査をひどく気にする指導者なのに。

真の危険は長期的なものだ。予想されるアメリカによるイラク占領の最大の危険
はどこにあるのか。イラクの現体制は、突き詰めると、イスラム原理主義という
民族主義の手を離れた世俗的な国家主義的体制だと言える。サダムが汎アラブ的
イスラムの感情に訴えているのはあくまで表面的なものでしかないことは明らか
だ。彼の過去がはっきり示しているように、彼は権力志向の実際的な支配者であ
り、目的に応じてさまざまな勢力と手を組んできた。最初は油田を求めてイラク
に挑み、次に同じ理由でクエートに挑み、合衆国と組んだ汎アラブ連合を敵に回
した。

彼を捕まえるためなら世界の破壊もいとわない「大いなる悪魔」に取りつかれた
原理主義者というイメージは、サダムには決して当てはまらない。しかしながら、
合衆国による占領の帰結として生まれるのはまさに本物のイスラム原理主義者の
反米運動であり、それは他のアラブ諸国やイスラム教徒のいる国々における同様
の運動と直接結びついたものになる。

イラクにおいてサダムの非原理主義的体制の時代が終わりに近づいていること、
またイラク攻撃はおそらくずっと過激な先制攻撃――サダムに対するものではな
く、サダムの政治的後継者の主なライバル、すなわち真に原理主義的なイスラム
体制に対する先制攻撃――であること、こうしたことを合衆国はよく知っている
と推測することができる。そう。こうしてアメリカ介入の悪循環はますます複雑
化するばかりだ。

危険なのは、アメリカの介入そのものがアメリカがもっとも恐れているものの出
現に貢献してしまうということだ。すなわち大規模な反米イスラム教戦線である。
主要なアラブの大国を直接アメリカが占領するのは今回が初めてのケースになる。
これが普遍的憎悪という反動を生まないはずがない。何千人もの若者が自殺テロ
を夢見ている姿は今からすでに想像できる。そうなると合衆国政府はテロ警戒レ
ベルを常時高いままに保たざるを得なくなる……。

しかし、ここで私たちは少しパラノイア的な誘惑に駆られてしまう。ブッシュの
周囲にいる連中がこうしたことをすべて承知しているとしたらどうだろうか。
「副次的被害(collateral damage)」こそが作戦全体の真の目的だとした
らどうだろう。「対テロ戦争」の本当の標的がアメリカ社会自身だとしたら。す
なわち、解放的過剰の統制が目的なのだとしたら。

2003年3月5日、NBCのニュース番組「ブキャナン&プレス」で、最近身
柄を拘束された「アルカイダのナンバー3」カリド・シャク・モハメドの姿がテ
レビ画面に映し出された。悪人面に口ひげを生やし、どこのものとも分からない
寝巻き風の囚人服をだらしなく着て、はっきりしないがあざのようなものが見て
取れた(すでに拷問されているというしるしか)。パット・ブキャナンは早口に
こう尋ねた。「合衆国に対するテロ攻撃の詳細と犯人の名前をすべて知っている
この男から情報を引き出すために彼に拷問を加えるべきか」と。

恐ろしいのは、アップになったその写真がすでにその答えを暗示していたという
ことだ。他のコメンテーターの反応や視聴者からの電話が圧倒的にイエスだった
のは驚くべきことではない。その様子を見ていると、フランス軍による拷問が汚
らわしい秘密とされていたアルジェリアにおける植民地戦争の古きよき日々が懐
かしく思い出される。これはオーウェルが『1984年』において「憎悪セッショ
ン」として想像したものがかなり現実に近づいた形だと言えないだろうか。市民
は「憎悪セッション」において裏切り者の写真を見せられて、彼らにブーイング
と悪口を浴びせかけるのだ。

話には続きがある。翌日、別のフォックス・テレビの番組で一人のコメンテーター
がこの囚人には何をしても許されると言っていた。睡眠を奪うことでも、指を折
ることでも何でも。なぜなら彼は「何の権利も持たない人間の姿をしたごみ」だ
からだと言うのだ。これが真の破局だ。公にこんな発言ができるということが。

したがって私たちは間違った戦いをしないように留意しなければならない。サダ
ムがいかに悪人か、戦争にどれだけ費用がかかるか、などといった問題は間違っ
た議論だ。焦点になるべき問題は次のような問題だ。私たちの社会において今事
実上何が起きているか、「対テロ戦争」の結果としてここでどんな社会が生まれ
ているか。隠された陰謀計画について語るのではなく、今起きていること、現在
この場所でどんな変化が起きているかに焦点を移すべきなのだ。戦争は最終的に
は私たちの政治的秩序の変化を生むのだから。

真の危険は、ヨーロッパの民族主義的右翼が実際に果たしている役割にそのいい
見本を見ることができる。ある種の話題(外国の脅威、移民制限の必要性など)
を持ち出すという役割である。あとはそれを保守的な政党のみならず「社会主義」
政権の現実的政治さえもが静かに取り上げるのだ。今日、移民の身分を「制限」
する必要性などが大方の合意となっている。

そうしたストーリーに従えば、ルペンは人々を苦しめている本当の問題を語り、
それを利用したということになる。フランスにルペンがいなかったら、ルペンを
作り上げる必要があった、とさえ言いたくなる。彼は憎悪の対象として愛される
完璧な人物だった。彼を憎悪していれば広い意味でのリベラルな「民主勢力」の
仲間であることが保証された。すなわち寛容と多様性尊重という民主主義的価値
と感情的な一体感を持つことができたのだ。

しかし、「恐ろしい。なんという無知、野蛮。まったく受け入れることができな
い。私たちの基本的な民主主義的価値観に対する脅威」と叫んだあとで、憤慨し
たリベラルたちは「人間の顔をしたルペン」のようにふるまい始め、「しかし人
種差別的な民族主義者は一般の人々の当然の懸念を巧妙に利用している。したがっ
て私たちは何らかの方策をとらなければならない」と言って、より「文明化され
た」やり方で同じことを始めるのだ。

ここにあるのは一種のヘーゲル的な「否定の否定」である。最初の否定において
民族主義的右翼が「外国の脅威」に対抗する議論を前面に出して過激な少数意見
に声を与えることによって無菌状態のリベラルな多数意見に動揺を与える。第二
の否定においては、「上品な」民主主義的中道が、この民族主義的右翼の意見を
哀れむように却下するジェスチャーを示しながら、同じメッセージを「文明化さ
れた」やり方で取り込むのである。

背景となる「不文律」の全体が両者の間ですっかり変わってしまっているために、
誰もそれに気が付かず、誰もが反民主主義的な脅威が去ったと思って安堵する。
そして真の危険は、同様のことが「対テロ戦争」に関して起きるのではないかと
いうことだ。ジョン・アシュクロフトのような過激派は見捨てられるだろうが、
彼らの遺産が残り、私たちの社会の目に見えない倫理的織物の中に知覚できない
形で編みこまれるのだ。彼らの敗北は究極的には彼らの勝利となる。彼らの存在
はもはや必要がなくなる。なぜなら彼らのメッセージは世論の主流に組み込まれ
るのだから。

(c)木原善彦


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(c)中山 元
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