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【JMM-戦争による米経済悪化が日本に及ぼす影響は?】
http://www.asyura.com/0304/war30/msg/1082.html
投稿者 愚民党 日時 2003 年 4 月 07 日 22:20:12:

                            2003年4月7日発行
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JMM [Japan Mail Media]                 No.213 Monday Edition
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                           http://jmm.cogen.co.jp/
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▼INDEX▼

■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第213回目】

■ 回答者(掲載順):
  □真壁昭夫  :エコノミスト
  □山崎元   :UFJ総合研究所 金融本部主任研究員 兼 企業年金研究所取締役
  □菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 シニアストラテジスト
  □岡本慎一  :生命保険会社勤務
  □津田栄   :エクゼトラスト投資顧問株式会社 顧問
  □杉岡秋美  :生命保険会社勤務

■ 『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』

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 ■ 先週号の『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』
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 Q:403への回答ありがとうございました。イラクの戦争は情報が錯綜して、何
が事実なのかを知るのが簡単ではありません。湾岸戦争は戦場に初めてリアルタイム
でテレビカメラが持ち込まれた戦争だと言われました。わたしたちは、遠くで行われ
ている戦争について、それを知り得た気になりがちでした。わたしは今回のイラク戦
争で、戦場における正確な情報をつかむのは無理なのだということを知りました。イ
ラク戦争の現状について何かをわかったように話す人を、信頼しないようにしようと
思います。

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■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第213回目】
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====質問:村上龍============================================================

Q:404
 イラク戦争の戦費でアメリカの財政悪化が懸念されています。アメリカの財政悪化
 は、日本にどういう影響を及ぼすのでしょうか。

============================================================================
※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・
組織の意見・方針ではありません。
______________________________________

 ■ 真壁昭夫  :エコノミスト

米国のブッシュ政権は、既に戦費増大のため、747億ドルに上る補正予算を議会に
提出しています。今回の補正は、1ヶ月程度の戦闘を前提にしていると言われていま
す。今後、戦闘が長期化するようだと、さらに予算措置が必要になると考えられるで
しょう。これによって、赤字転落した米国財政の悪化傾向に、一段と拍車をかけるこ
とが懸念されます。

まず、米国の財政状況を整理します。80年代から90年代にかけて米国経済は、経
常赤字・財政赤字の双子の赤字に苦しみました。その後も、経常赤字は続きましたが、
財政赤字は90年代後半に黒字化しました。その主な理由は、経済が好調であったた
め、税収が増加したことが挙げられています。しかし、2000年春先、ITバブル
が崩壊して米国景気が減速した後、税収が減少したことに加え、減税などの景気刺激
策を打ったこともあり、財政状況は急速に悪化傾向を辿っています。

2002財政年度には、5年ぶりに財政赤字に転落し、2003年度には政府予想で
は3000億ドルを超える、史上最大の財政赤字が発生すると見られていました。た
だし、この赤字予想には戦費は含まれていません。今回、戦費のために補正予算が組
まれるわけですから、赤字幅は大幅に拡大することになると思います。こうしたシナ
リオが現実のものとなると、米国は80年代に経験した、双子の赤字問題と再び対峙
することになります。

次に、日本経済に与える影響を考えます。主な影響を、二つのカテゴリーに分けると
整理し易いと思います。一つは、米国政府から直接要請されると見られる、戦費の一
部負担やイラク復興費用の負担などです。これは、今のところ具体的な要請が来てい
るというわけではないようです。しかし、イラクでの戦闘が予想外に長期化する懸念
が発生しており、既に、米国政府の高官が主要同盟国に対して、戦費の一定額を負担
して欲しいという考え方を示唆しているようです。早晩、具体的な要請が出されるの
ではないでしょうか。

日本は自国の安全保障上の問題もあり、米国からの要請を断れないと考えられます。
日本は91年当時と違い、財政状況は顕著に悪化しており、多額の費用負担はかなり
大きな重荷になると考えられます。費用を負担するとなれば、財政から支出すること
になるはずですから、日本の財政状況を一段と悪化させることが懸念されます。国債
の増発という結果になると見られます。

もう一つは、米国の財政状況の悪化に伴う経済活動を通しての影響です。今回の補正
予算編成に際しても、米国の景気刺激策として計画されていた減税規模が、ほぼ半分
に削減される見通しです。この減税規模の縮小で景気の回復が遅れるようだと、日本
をはじめとする世界経済に大きな影響を与えます。と言うのは、現在、米国経済は世
界経済を牽引する役目を果たしています。その牽引車が減速してしまうのですから、
世界的に景気が減速したり、低迷することが予想されます。日本も例外ではいられま
せん。

米国の財政赤字が拡大すると、日本と同じように国債を発行することになるでしょう。
その場合、米国は日本と違って、国内に余剰資金がありません。ですから、米国市場
で国債を増発する場合、日本や欧州の投資家が米国債を購入すればよいのですが、そ
うでないと、米国市場の金利水準が上昇することになるはずです。金利が上昇すると、
クレジットカードを使って買い物をすることが多い米国の消費者にとっては、大きな
マイナスになります。また、住宅ローンの借入にも不利になります。こうした要件が
重なると、消費を冷やして景気を減速させてしまうことが考えられます。日本経済に
も、マイナス要因として働くことでしょう。

また、2002年度の経常赤字は5000億ドルを超えると見られ、財政の赤字とと
もに双子の赤字に苦しんだ、80年代の米国のことが頭に浮かびます。当時の米国は、
ドル安・金利高に苦しみ、経済活動も低迷を続けていました。今回、ブッシュ政権は
とても難しい経済運営を迫られていると考えます。90年代後半のITバブル期の後
始末であるバランスシート調整は、完全に終了したとは考えにくいと思います。特に、
家計部門は結果的には、金利低下による住宅ローンの借り増しで、堅調な消費を維持
してきました。

しかし、借金はいつか返さなければなりません。本格的な返済期を迎えて、キャッシュ
フローが足りなくなれば、自ずと、消費は低下すると考えられます。GDPの約70
%を占める個人消費が落ち込むようなことになれば、米国経済の先行きに黄色信号が
灯ることになります。牽引役の米国経済が減速すると、日本経済には大きなマイナス
の影響が出るでしょう。日本経済の需要項目を見ると、国内要因だけでは景気回復を
支えるエネルギーが見当たらないからです。米国経済の先行きは、世界経済にとって
最も重要な要素と言えると思います。

                           エコノミスト:真壁昭夫

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 ■ 山崎元  :UFJ総合研究所 金融本部主任研究員 兼 企業年金研究所取締役

 ブッシュ大統領は、最近になって、戦費及び将来のイラクの復興にイラクの石油の
売却代金を充てるので財政に与える圧迫は大きくないといったことを言い始めました。
また、米国企業には復興需要が期待されていますが、復興費用もイラクの油田の石油
売却代金と日本などの資金拠出で多くが賄われる算段のようです。当初は、「イラク
の石油はイラク国民のもの」「イラク国民の解放が目的であり、石油を目当てに戦争
をするわけではない」と言っていましたが、トーンが変わってきました。

 他国に攻め込んで、略奪品で戦費を賄い、相手の領土から利益を得るということで
すから、率直に言って、これは古典的な侵略と略奪の戦争です。日本で言えば戦国時
代と変わりません。強い方が正義を名乗るのだ、という世界の現実を認めざるを得な
いとしても、いよいよ釈然としない感じになってきました。

 イラク戦争は、どうやら当初米国政府が予定していたよりも長期化し且つ費用の掛
かるものになりそうです。地上軍を後から増派するよりは、最初から派遣しておいた
方が戦いは明らかに有利であったはずですし、相手に与えるプレッシャーも大きかっ
たはずですから、10万人もの兵力を新たに派遣するという展開は、何らかの誤算に
基づくものであることが確実です。

 イラク国民が米英軍を歓迎しなかったことが誤算の一つだったとの報道が一部にあ
りますが、これが本当だとすると、米国の戦略・戦術両面の齟齬は相当に深刻かも知
れません。ちなみに、外敵(米英軍)の存在が国民(イラク国民)・民族の結束を強
めるということは常識であり、これは911テロの際にブッシュ氏の(ブッシュ氏で
さえ)支持率が急上昇したことを見ても分かった筈です。ここまでのところ、米国政
府は間抜けだったか自信過剰だったと言わざるを得ないでしょう。

 さて、編集長のご質問との関係では、現在の状況は、イラク戦争による米国の財政
赤字が非常に大きなものになる可能性を示唆するものだということです。

 米国の財政赤字の拡大は、経済の面では大まかにいうとかつての「双子の赤字」の
時代への回帰を意味すると思われますが、日本の経済にとって、どう波及しても良さ
そうな影響はありません。

 米国の財政赤字の拡大は、現在予定されている減税規模の縮小、さらに将来の増税
が予想されることから来る消費の手控え、将来景気が悪化した場合の財政的政策余地
の縮小、と何れも米国の景気を牽引している消費需要に対して直接に、かつ期待を通
して間接的にも、マイナスに働きます。もちろん、米国の需要減退は、日本の景気に
対して外需の後退を通じてネガティブな影響をもたらします。

 もちろん、米国の財政悪化は、日本の戦費負担増につながるので、日本の財政状態
も悪くなります。もともと悪いところが更に悪化するわけですから、米国で起こるの
と同様の経路の悪影響に加えて、国民が持つ将来への不安の拡大が消費や投資に抑制
的に働くでしょう。

 米国が財政赤字拡大のマイナス効果を金融政策で相殺することは困難でしょう。日
本のようにゼロ金利にまでは至っていませんが、米国でもこれ以上効果のある金融緩
和を行う余地は小さくなっており、しかもここまで金利に敏感な住宅や自動車への需
要増を相当程度実現してしまったので、金融緩和による景気後押しの効果はこれまで
よりも小さくなることが予想されます。

 加えて、米国での金融緩和はドル安をもたらす可能性が大きく、これも輸出減・輸
入増を通じて日本の景気の足を引っ張ることになるでしょう。

 また、戦争が長期化して戦費がかさむ状況では、石油価格が上昇している可能性が
大きく、これも米国、日本両国の経済にとってマイナスの所得効果として働くはずで
す。

 加えて、米国の景気が後退する状況では、米国企業の業績が悪化するはずですから、
米国の株価がさらに下がる可能性があり、これは負の資産効果として米国の景気に更
にマイナスに働きます。要は、90年代の米国経済の好循環の逆が起こるということ
です。米国株価の下落は日本の株価にも波及するので、日本でも資産効果を通じた景
気へのマイナス効果があるでしょう。

 米国の財政赤字そのものの影響、さらに米国の財政赤字が拡大するような状況の影
響、共に日本の経済にとって好ましくないと覚悟せざるを得ません。

 この戦争をするかしないか、日本が決定権を持っていたというわけではなかったと
は思いますが、これが日本が積極的に賛成した戦争の経済的帰結だということです。

     UFJ総合研究所 金融本部主任研究員 兼 企業年金研究所取締役:山崎元

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 ■ 菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 シニアストラテジスト

世界の金融資本市場はイラク戦争の行方に一喜一憂する展開が続いています。日本を
はじめ米国以外の内需が好調な時なら、米国景気への依存度が小さくなり、これほど
戦争の行方に一喜一憂しなかったかもしれません。4月2日付け英ファイナンシャル
タイムズが“The World economy relies on America's growing deficits”という記
事を掲載したように、世界景気の米国依存度が強いため、その前提条件としてイラク
戦争の行方が注目されています。中国経済は好調でしたが、謎の肺炎SARS発生に
より先行き懸念が出始めています。

確かに米国の双子の赤字に対する懸念は強まっています。米国の2002年の経常赤
字は5,034億ドルと過去最大になりました。03年度の財政赤字は2,870億
ドルの見通しでしたが、戦費増加により3,700億ドル前後と過去最大になる見込
みです。IMFの計量経済モデルによると、米国の賃金以外の政府支出が1%増える
と、1年目に米国のGDP成長率は1.1%(いわゆる乗数効果)、日本のGDP成
長率は0.5%(波及効果)、OECD全体でも0.7%高まります。このように米
国の財政赤字拡大が税収減ではなく財政支出拡大の結果ならば、世界経済に計算上は
プラス効果を与えます。

しかし、イラク戦争への懸念やITバブル崩壊の後遺症などを背景に、米国経済は足
下鈍化しています。米国の3月の消費者信頼感指数は4カ月連続低下し93年10月
以来の低水準、ISM指数も3カ月連続低下し5カ月ぶりに50を割り込みました。
2月の製造業受注も前月比1.5%減少しました。世界銀行は2日に発表した世界経
済見通しで米国の2003年の実質GDP成長率を2.6%から2.5%へ、日本も
0.8%から0.6%へ、世界全体を2.5%から2.3%へ下方修正しました。

米国経済からの波及効果以外に米国の財政赤字が日本へ与える影響は、為替や株式市
場を通じた経路があります。3日の米国株式市場は戦争進展の見通しから急反発しま
したが、それまでは長期化見通しからドルや米国株が軟調な展開でした。1日に発表
された日銀短観で、日本企業は2003年度に1ドル=118円を前提に経常利益変
化率を13.5%と予想していましたが、米国の双子の赤字への懸念からドル安にな
ると、企業業績見通しも下方修正を迫られます。

別の経路は直接的に日本の戦費負担や財政赤字拡大につながるものです。後半国会で
は北朝鮮情勢の緊迫化を踏まえて、継続審議となっている有事関連3法案が主要議題
になる予定です。湾岸戦争時に日本は1.5兆円の戦費を負担、うち6,680億円
は法人臨時特別税や石油臨時特別税などの臨時増税で賄いました。今回も、3月24
日に日本経団連の奥田碩会長は日本企業も相応の負担すべきと、企業の負担増を容認
する発言を行いました。3月28日付けの日経新聞は、日本政府に対して米国政府が
6.6億ドルの復興支援を非公式に打診したと報じました。米国からの政治圧力次第
ですが、イラク戦争が終結する見通しが高まるにつれて、イラク戦争の資金や復興資
金の日本の負担問題が国会の大きな議題になるでしょう?っとも日本は構造的なデ
フレ圧力が強いので、多少財政赤字が膨らんでも、大型補正予算でも採用されない限
り、史上最低水準にある10年国債利回りが大きく上昇するとは予想されません。

            メリルリンチ日本証券 シニアストラテジスト:菊地正俊

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 ■ 岡本慎一  :生命保険会社勤務

財政赤字が恒常化すると政府債務が累積します。国債供給圧力の増大は金利を上昇さ
せ、民間投資を抑制してしまう可能性(クラウディング・アウト)があるといわれて
います。

私が以前行った分析によると、G7「全体」の総債務のGDP比が1%増大すると、
G7の実質金利は0.2%程度上昇します。この分析のポイントは、各国単位では債
務と金利の関係がハッキリしないことです。資本移動がグローバル化している世界で
は、一国の資金不足は他国の貯蓄で賄うことができ、各国毎のクラウディング・アウ
ト効果は小さくなっている可能性があるのでしょう。

しかし、先進国は2010年頃から本格的な高齢化社会に突入することがわかってい
ます(日本は高齢化の先頭ランナーです)。高齢化社会到来による社会保障費の増大
は先進国が共通に抱える「今そこにある危機」です。そこに戦費負担・軍事支出とい
う負担が大きく増えれば、先進国経済は長い将来にわたって大きな重石を背負うこと
になってしまいます。

アメリカの財政赤字や経常赤字の拡大は先進国内での影響にとどまりません。世界に
は資本の受け入れ国(経常赤字国)がたくさんあります。特に発展途上国は旺盛な投
資意欲から経常赤字国が多くなっています。先進国の財政赤字で世界的な資金需給が
逼迫すれば、発展途上国の収益性の高い投資が抑制されてしまう可能性もあります。

アメリカの経常赤字は2003年も5000億ドル大きくを突破すると予想されてい
ます。その5000億ドルは海外からの投資で賄わなくてはならないのです。これま
で、日本を含む海外投資家はアメリカ経済の繁栄を期待し、多くの資金を投資してき
ました。しかし、今アメリカは軍事目的で赤字を膨らまそうとしています。海外投資
家は軍事支出のファイナンスを喜んでするでしょうか。「衝撃と恐怖」で戦争や選挙
には勝てても、海外投資家の信頼を勝ち取ることは難しいのではないでしょうか。大
変不安です。

                         生命保険会社勤務:岡本慎一

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 ■ 津田栄  :エクゼトラスト投資顧問株式会社 顧問

 現在5000億ドルを超える経常赤字の状況のなかで、米国の財政悪化は、198
0年代の双子の赤字を抱えて低迷していた米国経済を連想させます。あの当時は、金
利高とドル高のなかにありましたが、今回、金融経済環境は大きく変わっています。
低物価のなか、金利は低下して低水準にあり、為替はドル安が相当進行した状況にあ
ります。この環境での米国の財政悪化は、米国経済だけでなく、世界経済にとっても
大きなリスク要因となります。とりわけ、日本がもっとも大きな影響を受けます。

 まず、今の米国の財政状況ですが、2003会計年度で既に3000億ドルの赤字
に膨らむと見込まれ、これにイラク戦争の出費を加えると、財政赤字は4000億ド
ル近くに達するともいわれています。さらに、大統領の今後10年間総額7260億
ドルの大型減税政策(議会上院ではこれにつき財政赤字拡大を懸念して、減税規模を
3500億ドルに圧縮した決議案を可決)を加えると、財政はさらに膨大な赤字にな
ることは確実です。

 この戦費関連と減税の財源は、当面国債で賄われる事になるはずです。この結果、
米国国債の金利は上昇することになります。一方、米国経済は、ITバブルの崩壊、
9.11テロにより、以前のような力強さが見られません。雇用統計に悪化が見られ、
株価下落による逆資産効果が働き、それを補ってきた住宅価格の上昇も頭打ちになり、
個人消費は堅調さを失いつつあります。その上、海外需要も軟調となっています。そ
の結果、企業の設備投資にも回復の兆しが見られません。これに金利上昇リスクが加
わると、さらに景気を冷やします。そして、このことは、今後企業業績悪化となり、
米国株式の下落につながり、ドルが売られて、資金が海外に出て行きます。

(さらに、今回のイラク戦争による米欧で経済的な摩擦が強まっており、お互いに資
金を回帰させています。現実には、米国にドル安進行という形で、資金が米国から逃
避しています。もちろん、ブッシュ大統領の大型減税が今後効果を示し、景気回復に
つなげることが出来れば、これら一連のシナリオは杞憂になります。しかし、イラク
戦争の後遺症で、米国へのテロのリスクが強まれば、ドルが売られます。どちらにし
ても、ドル安、資金の海外逃避が広がり、米国景気を支える資金循環が機能しなくな
ります。つまり、海外から資金を調達吸収してはじめて回る米国経済では、海外から
資金が入らないと、資金不足に陥って、景気が一段と悪化します。)

 このように、米国景気が低迷している中で、FRBは、これまで金融緩和政策を採
用し、景気を刺激しようとしている状況で、国債の増発を起因とする金利上昇に対し
て、金融引き締め政策に転ずることが出来るか疑問です。また、EUをはじめ海外経
済が低迷しているなかで、今後の経済動向を考えても経済の回復は容易ではありませ
ん。したがって、財政悪化は国債の発行増につながり、ひいては金利上昇となって、
米国内の需要をさらに落ち込ませることになります。しかも、ドル安が同時進行する
という悪夢もあります。

 このことは、世界景気にとっても大きな減速要因となります。90年代から、世界
経済は米国に依存する傾向を強めてきた結果、米国の景気減速、中でも個人消費、企
業設備投資の低迷は、海外、特にアジア・中国の米国向け輸出に悪影響を与えます。
それはひいては、日本の、米国向け輸出だけでなく、最近まで堅調に推移していたア
ジア向け輸出までを減速させることになります。そして、EU向けの輸出も、一段の
景気低迷となる可能性から、期待できない状況といえます。

 このことは、デフレが進行している中で、過剰債務、過剰雇用、過剰投資の解消の
努力により弱まっている内需をカバーしてかろうじて外需で保ってきた日本経済は支
えを失います。また、デフレで内需が弱いなかで、何とか輸出で維持してきた日本企
業の収益にダメージを与え、しかも米国株式の下落とあいまって、日本株式の下落に
拍車をかけ、金融システムを危険にし、日本経済を一段とかつ加速度的に悪化させま
す。

 しかも、ほぼゼロ金利の中で、金融政策が効かない状況となっています。財政的に
も、700兆円近い政府債務から、余裕はありません。こうした中で、今回のイラク
戦争について、日本はアメリカを支持し、将来のイラク復興資金の拠出を公約してい
ますから、財政的な負担は国民にかかってきます。こうして内需を一段と冷え込ませ
ることになり、国民の限界が近づくなかで、需給ギャップによるデフレはスパイラル
的に進行し続けます。

 アメリカの財政悪化は、日本経済にとって最悪の結果を招きかねません。日本のよ
うに袋小路に陥らないためにも、アメリカに節度ある財政状況に戻ってほしいもので
す。

                エクゼトラスト投資顧問株式会社 顧問:津田栄

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 ■ 杉岡秋美  :生命保険会社勤務

日本の内需の自立的な上昇が見込めない今日、日本経済の回復を予想する大概のエコ
ノミストの経済予測の構造は、アメリカの経済が回復して、その旺盛な消費がアジア
諸国や中国経済をも活性化し、日本の輸出増というルートで景気が底を打ち、GDP
成長が見込める、というシナリオになっています。株式のストラテジストが日本株式
の上昇のために一様に期待する企業収益の上昇も、米国経済が低迷を脱すること、あ
るいはこれ以上落ち込まないことが前提となっています。

予想外に戦争が長引くこと、あるいは後始末に時間と費用がかかることによる、アメ
リカの財政赤字の増大により、そのシナリオは崩れざるを得ないでしょう。戦争によ
り個人消費が低迷する中、財政赤字の拡大が続き、これを抑える目処が付かないこと
で金利の上昇が懸念されます。アメリカの場合、国内の貯蓄が不足しているので、財
政赤字の拡大は即金利の上昇につながります。財政赤字が上昇することにより、さら
に対外収支の貿易赤字も必然的に拡大が予想されるので、アメリカが再び、景気低迷
のなか、双子の赤字に苦しむことになる可能性があります。これは、奇しくも先代の
ブッシュ大統領の苦しんだ問題に他なりません。

もともとアメリカの経済も低迷期を脱していなかったので、思い切った減税が発表さ
れ、その効果が期待されている状況での戦争開始となりました。その減税の半分が戦
費調達に回されることになりそうです。短期的には、戦費による軍事支出と減税と、
どちらが景気押し上げ効果があるか一概には言えませんが、ただでさえ戦争で消費ムー
ドが悪くなっているところで、減税の期待がしぼみ、将来の増税が見えてくることで、
長期的な個人消費の回復もあまり期待できないことになるでしょう。

アメリカのベストシナリオは戦争が短期で終結し、アメリカの利権が新イラクに確立
し、経済的見返りも獲得することでしょう。短期で終われば、消費支出の減少も短期
で済み、戦勝ムードから再び加速することも考えられます。戦費の支出は、単なるケ
インズ財政支出として、軍需企業に行き渡るわけですから、GDPにプラスの効果が
ある可能性もあります。

しかし、意に反して戦争が長期化し、戦費をアメリカ一国で支えることができなくな
るケース、あるいは戦闘は終結しても新イラクの政情が安定せず、アメリカ軍の長期
の駐留が必要になり、維持費が多大になるケースではアメリカの財政的な困難は拡大
するでしょう。戦費の更なる増大、あるいは駐留軍の費用がかかり、経済的見返りも
あまり期待できないとなると、アメリカはアメリカ流儀の秩序維持のためのコストを、
他国に支払うことを要求しだすことになるでしょう。

その場合、財政が疲弊しきった日本にも、請求書がまわってくることはほぼ確実です。
それを見越して財界や自民党幹部には補正予算と増税を先取りする動きが始っていま
す。戦前は天皇、戦後はマッカーサーの名前が出れば、意向に逆らうことは最初から
諦めてかかっていたのですが、再びその時代に逆戻りしたかのようです。アメリカは
好きなように、国際社会のコンセンサスを得ることなく世界の警察官として振る舞い、
そのコストは他国にも支払いを要求することになります。日本人は、いまのところ、
対岸の戦争として眺めていれば良かったのですが、どうやらその影響は近いうちに、
増税という形で、国民生活に跳ね返ってきそうな雲行きです。安全保障に関してはア
メリカが決定して実行し、日本が小切手を切るという構図を改めて認識せざるを得な
くなります。
                         生命保険会社勤務:杉岡秋美

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■■編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■

 Q:404への回答ありがとうございました。今週は、小説執筆と歯痛のため、
 このエッセイを書くことができませんでした。

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Q:405
 イラクの戦後復興事業は、世界と日本の経済にどのような影響を与えるのでしょう
か。まだ戦争が続いているのに不謹慎な話題ではありますが、復興需要は日本の民間
企業にもあるのでしょうか。

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                                   村上龍

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JMM [Japan Mail Media]                  No.213 Monday Edition
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                   独自配信: 81,506部
                   まぐまぐ: 19,447部
                   melma! : 15,067部
                   発行部数:116,020部(4月7日現在)

【WEB】    http://jmm.cogen.co.jp/
【MAIL】 jmm-info@cogen.co.jp
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【発行】 有限会社 村上龍事務所
【編集】 村上龍
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