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【戦争の金に糸目はつけず】イブラヒム・ワード
http://www.asyura.com/0304/war32/msg/1069.html
投稿者 愚民党 日時 2003 年 4 月 26 日 00:38:07:

戦争の金に糸目はつけず
イブラヒム・ワード(Ibrahim Warde)
マサチューセッツ工科大学(MIT)国際研究センター研究員
訳・池田麻美
 リンゼイ米大統領経済顧問は禁を破って、イラク戦争の費用が2000億ドルに達する可能性があると口にした。その時まで公人の発言は、悪に対する善の勝利、イラク民衆の解放、アラブ世界を変革する民主主義の風、といったことにとどまっていた。民間人犠牲者や破壊など、その他はすべて「付随的被害」にすぎなかった。戦争がアメリカの納税者になにがしかの負担をかけるなどということは、特に触れてはいけない事柄だった。そのようなわけで、米軍の大規模展開が後戻りできない段階まで来ていながら、その戦費はいっさい2003年度の連邦予算には計上されていなかった。

 顧問はすぐさま解任された。しかし、この「失言」のおかげで、遅まきながら二つの問いが政治的に問題とされるようになった。戦争の費用はいかほどか。誰がそれを負担するのか。だが、ラムズフェルド国防長官はこれらの問いをなおも一蹴する。彼は厳密さにこだわって、正確な計算ができない以上は「支出金額をあれこれ考えて」も無駄であるという。「考慮すべき変数が六つや八つもあり、それができるほどの頭は私にはない(1)」。彼はしかしながら、最悪のケースでも戦費の総額が500億ドルを超えることはないだろうと断言した。全方位的な主戦論を説く副長官のウォルフォウィッツは、2月の時点で「現場に身をおかなければ必要額を見積もることなどできない」と述べていた。

 しかし、ペンタゴン(国防総省)の分析官たちは、イラク派兵の最初の半年間で600億ドルから950億ドルという数字を考えていた。他に、軍事作戦から派生する様々な支出を考慮した調査もある(2)。アメリカ芸術科学アカデミーが公表した調査によれば、支出は次の3種類に分けられる。第一は、500億ドルから1500億ドルに達するだろう狭義の軍事支出。第二は戦後の支出、つまり占領または「平和維持」活動、復興、住民の移動に関わる支出であり、1000億ドルから6000億ドルに上る見込みだ。第三は戦争の余波、例えば紛争が長引いた場合に石油価格の急騰がアメリカ経済に与える影響であり、これは1兆2000億ドルに達する可能性もある(3)。

 1990年から91年の湾岸戦争の時とは違って、同盟国の気前のよさを当て込むことはできそうにない。湾岸戦争の費用(620億ドル)は、サウジアラビア、クウェート、また両国ほどではないが日本、ドイツが出していた(4)。この戦争の「勘定」でアメリカが最終的に負担したのは、総額の5分の1にすぎなかった。現在の状況は異なっている。同盟国を募り、兵站支援を確保するだけでも、アメリカは次々と高価な約束や贈り物を取り揃えなければならなかった。

 戦争への協力(イスラエルの場合には参戦しないこと)を金づるにしようとした国もある。イスラエルは40億ドルの追加軍事援助と80億ドルの債務保証を要求した(5)。トルコとの交渉は数週間にわたり、金銭的利益(総額250億ドルの無償援助と融資)とともにイラクのクルド地域への派兵の権利が要求された(6)。結局は無意味に終わった国連安保理での票取り合戦でも、この種のアメが各国に示された。しかし、ラテンアメリカやアフリカの理事国を動かすほどのものではなかった。情報筋によると、米軍展開費用の一部はクウェートとアラブ首長国連邦が負担する見込みだが、大部分は確実にアメリカ自身が負担することになり、その支払いにイラクの石油をあてにすることはできないという(本号の記事参照)。

 この戦争は、経済状況が悪化の一途を辿るさなかに開始された。失業率はアメリカの労働力人口の6.4%に達し、ここ9年間で最も高いレベルにある。経済成長率は2002年第四四半期には1%前後にまで落ち、株式市場も低迷を続けている。ブッシュ大統領が選出されて以来、ドルはユーロに対して15%下落し、外国からの対米投資は85%減少した。家計支出は激減し、消費者景況感は落ち込み、工業部門は冷え込んでいて、見通しはどうしようもなく暗い。

 2004年の大統領戦が近づくなか、こうした状況はホワイトハウスの住人の心配をかき立てずにはおかない。なぜなら、ブッシュが父親から学び取った教訓があるとすれば、それは戦争に勝っても選挙で負けることもある、ということだからだ。父親は外交にばかり熱心で、膝元の経済問題に関心を向けなかったように思われる。党公認候補の座をねらう民主党の政治家も、さらに別の分野でブッシュを待ちかまえている。ブッシュは本土の安全保障(homeland security)を疎かにして対外的な冒険に出費しているという非難が、早くも出てきている(7)。

 ブッシュ政権の経済戦略は軍需ケインズ主義と大幅減税という、財政赤字の膨張を激化させるような二つの要素を含んでいる。ほんの2年前には、ホワイトハウスは2004年度に2620億ドルの黒字予算を見込んでいた。1年後、減税措置の第一弾と経済の失速を受け、この数字は下方修正された。潤沢な黒字だったはずが、若干の赤字(140億ドル)へと転じた。その後、赤字額は3070億ドルと言われるようになった。しかも、そこにはまだイラク戦争や、今後10年間で6370億ドルに上る減税の影響や、防衛予算の新たな増額分などは算入されていない(当初は2003年度についてのみ470億ドルの増額要求が出されていたが、大統領は3月24日、湾岸地域における戦争の費用としてさらに747億ドルの追加を要求せざるを得なかった)。この増額が実現すれば、アメリカの軍事支出はその他191カ国の合計を上回ることになる(8)。

アメリカの「歴史的使命」
 ブッシュ大統領はさしあたりヴェトナム戦争時のジョンソン大統領よりも上手く立ち回っている。民主党出身のジョンソン大統領は、民意にかなうとは言いがたい紛争の費用調達のための増税を実施する代わりに、「バター」か「大砲」かを選ばずにおくことに決めた。その後の数十年の間に起きたインフレ、金融危機、景気後退といった経済の機能不全については、この決定のせいにすることが常道となっている。ブッシュはそんなことは気にしない。ジャーナリストのルイス・ラファムが指摘したように、大統領は1095年に十字軍の出発を祝福したウルバヌス二世を気取っているふしがある(9)。彼の発言には、地上の心配よりも天の助けを語り、地上のことは顧問たちに任せておくと言わんばかりの姿勢が感じられる。
 共和党の活動家であり、ホワイトハウスとも親しいグローヴァー・ノーキストは、減税政策がイラク攻撃と完璧に両立すると請け合っている。この全米税制改革協議会の会長によれば、税負担が低いほど経済成長率が高まるという1980年代のレーガンの議論は現在でも通用する。

 大統領を取り巻く新保守主義陣営は、さらに楽天的な考えをもっている。サダム・フセインの失墜は民主化への第一歩となり、その波及効果によって地域全体が民主主義、自由、平和、繁栄を享受することになる(10)。さらに良いことに、経済的にもアメリカにとって有利な影響が生まれる。石油市場の支配を強め、武器や復興の契約の大半を獲得できるだろう(セイモア・ハーシュが3月17日付のニューヨーカー誌で、国防政策諮問委員会のパール委員長が中東への武器売却で個人的に利益を得ようとしていることをスクープした時(11)、彼はこの有名ジャーナリストを「テロリスト」呼ばわりするぐらいしかできなかった)。勝利、民主主義、平和、繁栄。ブッシュの再選は確実になる、というわけだ。

 タカ派が約束する(また軍事行動という考えを甘受したハト派も望んでいる)「すばやく勝利する」戦争のシナリオは、逆に泥沼と化していくかもしれない。2001年9月11日の攻撃が、長いこと練られてきた計画を実行に移す機会となったのとまったく同様に、電撃戦が実現されれば、範囲もあいまいな「悪の枢軸」をやっつけてやろうという人々の立場を強化することになりかねない。

 ジャーナリストのボブ・ウッドワードはブッシュの戦争について書いた本の中で、ウォルフォウィッツが早くも2001年9月15日の時点で、イラク攻撃をブッシュに進言したことを指摘している。「アフガニスタンに対する勝利は確かではありません。それに比べ、イラクはもろい独裁体制です。短期間で崩壊するでしょう。それは実現可能です(12)」。イラクとアル・カイダが結びついているという「証拠づくり」に、彼らが熱意を燃やす理由がよくわかる。

 2002年11月、新保守主義者たちへ影響力をもつイスラエルのシャロン首相が、アメリカはイラク戦争での勝利の後ただちにイランを攻撃すべきだと主張した(13)。ペンタゴンとホワイトハウスの照準には、初期の段階では(網羅的なリストではないが)シリア、リビア、サウジアラビアも入っていた(14)。

 イラン・コントラ事件(15)への関与で知られるマイケル・レディーンにとって、目的はこれらの諸国を安定させることではない。「安定を求めることはアメリカにふさわしくない。我々の国は創造的破壊をする国だ。イラン、イラク、シリア、レバノン、さらにはサウジアラビアについても安定を求めはしない。問題はこれらの国にいかに揺さぶりをかけるかなのだ。我々は歴史的使命を果たすためにこれらの国を破壊しなければならない」。そう、村を救うためにそれらを破壊しなければならなかったヴェトナム戦争の時のように。

 新保守主義の戦略家からも、また別の戦争拡大のシナリオが提示される。例えば2002年7月10日には、ランド研究所のフランス人アナリスト、ローラン・ムラヴィエックがペンタゴンの諮問機関である国防政策諮問委員会に報告に乗り込んだ。そのお膳立てをしたのはパール委員長である。かつて極右の売文家リンドン・ラルーシュと手を結んでいたムラヴィエックは、サウジアラビアを「悪の中核であり、テロ活動のあらゆるレベルで一枚かんでいる」と言い、アメリカの主要な敵であると決めつけた。この奇妙な「専門家」は、アメリカ政府がサウジアラビアに対し、次のような最後通牒を突きつけることを提案した。「もし、あなたがたがいつまでもテロを支援し、反アメリカ、反イスラエルの主張を許すようなら、我々はあなたがたの金融資産を没収し、油田を占領し、聖地を『標的とする』だろう」

 数週間後にワシントン・ポスト紙にすっぱ抜かれた報告会のやりとりには、ムラヴィエックが打ち上げた観測気球の意味合いもあった。彼はこの時、イラク(戦術上の要所)とサウジアラビア(戦略上の要所)にとどまらず、次に支配下におくべきはエジプトだとほのめかしていた。

(1) The Washington Post, 1 March 2003.
(2) See Steven M. Kosiak, << Potential Cost of a War with Iraq and its Postwar Consequences >> Center for Strategic and Budgetary Assessments, 25 February 2003, http://www.csbaonline.org
(3) Carl Kaysen et al., << War with Iraq : Costs, Consequences, and Alternatives >>, American Academy of Arts and Sciences, 2002, http://www.amacad.org/publications/monographs/War_with_Iraq.pdf
(4) 「『砂漠の盾』作戦の配当」(ル・モンド・ディプロマティーク1990年11月号)参照。
(5) Business Week, New York, 10 March 2003.
(6) 様々な駆け引き、そして議会での否決を経て、トルコ議会はアメリカに対して領空通過のみを許可した。その結果、トルコはアメリカによって約束された融資と無償援助を失った。
(7) The American Prospect, 7 February 2003, http://www.prospect.org/webfeatures/2003/02/gourevitch-a-02-07.html
(8) Fareed Zakaria, << Why America Scares the World >>, Newsweek, New York, 24 March 2003.
(9) ルイス・ラファム『アメリカの聖戦』(サン・シモン出版、パリ、2002年)参照。
(10) See William Kristol and Lawewnce Kaplan, The War on Iraq : Saddam's Tyranny and America's Mission, Encounter Books, San Francisco, 2003 ; Kenneth Pollack, The Threatening Storm : the case for invading Iraq, Random House, New York, 2002.
(11) その後に様々な事実が明るみに出され、彼は3月27日に委員長職を辞職した。[訳註]
(12) ボブ・ウッドワード『ブッシュの戦争』(伏見威蕃訳、日本経済新聞社、2003年)。訳文は仏文の引用による。
(13) << Attack Iran the day Iraq war ends, demands Israel >>, The Times, London, 5 November 2002.
(14) Michael Ledeen, The War against the Terror Master, St Martin's Press, 2002.
(15) 1985年から87年にかけ、イランにアメリカの兵器が秘密裏に売却された事件。ニクソン大統領に早期退陣を余儀なくさせたウォーターゲート事件にならい、英語では「イランゲート」と呼ばれる。その収入はニカラグアのコントラに回された。レーガン大統領をも含むアメリカの多くの高官が巻き込まれた。

(2003年4月号)
All rights reserved, 2003, Le Monde diplomatique + Ikeda Asami + Hemmi Tatsuo + Saito Kagumi

http://www.netlaputa.ne.jp/~kagumi/articles03/0304-2.html

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