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【正論】「百人斬り」冤罪訴訟を我が事とせよ
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投稿者 裸一貫 日時 2003 年 7 月 15 日 06:50:24:3agFbz763.AuI

【正論】東京大学名誉教授・小堀桂一郎 「百人斬り」冤罪訴訟を我が事とせよ
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みたま祭に思う“否定せずの罪”

≪蘇る日米戦争の苦い思い≫

 ヒュー・バイアスの『敵国日本』が邦訳され、刊行になつたのは漸く一昨年九月のことである。同書には訳者の懇切な解題が付せられてゐるので、原著者と原書についての、おそらく日本では従来極く少数の人しか知らなかつたであらう情報も手短かに知ることができる。

 昭和二十年十一月、米軍占領下の日本で「週刊朝日」がこの書の紹介文を掲げ、翌昭和二十一年には雑誌「世界」の創刊号と第二号が本書の抄訳を掲載したが、あまり反響はなかつたらしい。今回の訳者でさへこの抄訳の存在を知らなかつた由である。

 この事情は又我々に、ヘレン・ミアーズ女史の名著『アメリカの鏡・日本』が平成七年に恰も本邦初訳である様な形で新訳が刊行された時まで長く世に忘れられた形になつてゐた、あの経緯を思ひ出させる。

 その一方で日本の読書界は、一文化人類学者の調査報告書にすぎないといふ程度の『菊と刀』などを、恰も極めて高度な知性の洞察の如くに思ひ做して長くもてはやしてゐたものである。日米戦争は、孫子の兵法に照らしてみても我々の知的完敗だつたといふ苦い思ひが改めてこみ上げてくる。

 さて、バイアスが見せてゐる昭和十六年開戦直後の時点までの戦時体制下の日本についての観察、洞見の鋭さと的確さには事々に敬服するのだが、その中に日本の軍人の性格を論じた一節があり、そこで彼は見過ごし難い或る問題にふれてゐる。即ち昭和十二年の秋、日本の支那大陸派遣軍が上海から南京へ進撃してゆく途上に生じたとされる二人の陸軍少尉による「百人斬り競争」事件である。

≪恥を知らぬ「嘘の上塗り」≫

 東京日日新聞(現毎日新聞)の記者、浅海特派員が自社に送稿した「百人斬り競争」の記事は要するに作り話である。「事実」を報道することが使命であり、その点で厳しい職業倫理の規制下にあつたはずの報道記者として、この創作記事は実に重大な罪を犯してゐるのだが、実は更に重大なことは、この記事を書いた浅海記者本人が、戦後、あれは創作だつたといふ罪状告白を遂にしてゐないことである。それだけではない。「百人斬り」が虚構であり、第一物理的に「あり得ぬ」話であるといふ事は鈴木明氏の『「南京大虐殺」のまぼろし』を始めとして多くの研究者が十分に論証し尽くしたことである。それにも拘らず朝日新聞の本多勝一記者は『中国の旅』といふルポルタージュの中で浅海記者の「嘘の上塗り」を敢へてして、それを少しも改めようとしてゐない。

 バイアスは〈実弾入りライフルを持つ兵士をそんなに日本刀で殺すことなど、だれにもできることではない〉と、正しく判断してゐる。たださうであればこそ、彼の推理は〈この二人の将校は明らかに、武器をもたない中国難民を殺害したのである〉といふ方向に進んでしまふ。精緻を極めたバイアスの日本論の中で瑕疵であらざるを得ない箇所だが、これは彼に責任があるのではない、悪質な虚構報道を流した新聞人の罪である。この部分でのバイアスの結論は、〈こういう人面鬼は日本軍将校の典型ではないが、それでも、陸軍は彼らを否認しなかった〉といふのであるが、この一句に接して筆者はふと気がついた。

≪報道訂正求めなかった軍≫

 「百人斬り」の冤罪によつて命を奪はれた向井、野田両少尉の禍の元来の原因は確かに新聞記者の罪深い功名心にある。しかし、バイアスの指摘通り、陸軍は日日新聞の報道を否定しなかつた。−−日本刀とはその様な殺人道具ではない、陸軍は第一線の将兵にその様な殺人の功業を認めてはゐない、といふ意味の訂正申し入れを、新聞社に対してなすべきであつた。何故それをしなかつたのか。軍はその様な殺戮行為を奨励するものではない、と何故声明しなかつたのか。

 折から、七月七日を第一回の公判として、「百人斬り競争」の汚名から両少尉の名誉を回復するための訴訟が起こされてゐる。名誉毀損を訴へる資格を有する両少尉の遺族が遂に勇気を揮つて毎日、朝日両社等と本多記者とを訴へたのである。私は、六十年前のバイアスの意見に触発されてのことだが、旧陸軍の人々には全て、この訴訟を支援し、以て日本陸軍全体にかかつてくる恥を雪ぐために尽力する義理があると思ふ。両少尉の霊も戻つてをられる靖国神社では恰度みたま祭も始まつた。旧軍の方々の一考を促したい。(こぼり けいいちろう)

http://www.sankei.co.jp/news/seiron.htm

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