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なぜ銀行改革が立ち遅れたのか:北京大学経済学院 王曙光 [中国経済新論]
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投稿者 あっしら 日時 2003 年 6 月 30 日 19:02:26:


一、移行期の経済安定を支えた国有商業銀行

中国における経済体制の移行は、国家が主体となって行う強制性を持った制度変遷であると同時に、一種の漸進的制度変遷でもある。強制性と漸進性は中国経済移行の主な特徴である。国家が制度選択と制度変革の主体である時、社会と政権の安定性が制度変遷の主要な目標となり、国家は当然、経済全体の移行の速度と規模をできるだけコントロールし、急激なビックバン方式ではなく、漸進的な増量改革によって制度変遷を推進するのである。それは結果的に、社会変動と組織崩壊を避けるために、国家が「体制内の産出」の安定を最大限に維持しなければならないことを意味する。そして国有企業が「体制内の産出」の主な担い手である以上、漸進的制度変遷を順調に展開させ、さらに、「体制内の産出」の安定を維持するために、国家は国有企業に対して、制度及び戦略上での傾斜政策を行い、国有企業改革にかかる巨額のコストを負担し、直接的または間接的に補填を与えなければならない。

しかし、中国の経済移行が進むにつれて、貯蓄と投資のメカニズムは大きく変化した。改革前には国家が(政府の財政を通じた)投資と貯蓄の主体であったが、改革以降、都市部の居住民が貯蓄の主体となり、それによって預金総額の対GDP比がこの20年間、絶えず上昇している。その反面、国家の財政収入の対GDP比は逆に年々減少する傾向を見せている。80年代なかばに「撥改貸」(財政資金交付から銀行融資への転換)が実施されるようになってから、国家(政府財政)の代わりに国有商業銀行が、次第に企業投資の資金源となってきている。このようにして生じた経済全体の貯蓄主体と投資主体の間の乖離は、国有企業を継続的に支えること、および「体制内の産出」を維持することに対して潜在的な脅威となっている。

経済における貯蓄と投資主体が乖離している中で、国有企業の制度変遷のコストを引き続き補填し、そして「体制内の産出」を維持するためには、投資主体である国有銀行に対して、国家がコントロールを強め、こうした役割を発揮してもらうことが、もはや残された唯一の解決方法である。このロジックに支配され、国家は国有銀行部門の改革に慎重な態度を取り、銀行システム全体の市場での独占性と所有権構造での単一性を最大限に維持し、国有銀行の市場競争における絶対的独占かつ有利な地位を最大限に確保しようとしてきた。これが中国における銀行部門の改革が経済移行の全体に比べ遅れたという現状を作り上げたロジックである。

このように、中国経済全体の移行過程において、金融部門改革の立ち遅れは漸進的制度変遷の当然の帰結である。それにより体制内部の安定性を維持し、大規模な経済と社会の混乱を防ぐことができた。その反面、金融システムの資源配置の機能が著しく損なわれ、資源配置の効率が低下し、金融部門(銀行部門)の所有権構造と市場構造が長期にわたり、歪んだ状態に留まるという結果を招いている。

「市場構造(structure)−企業行為(conduct)−経済効果(performance)」という分析の枠組みの中、市場構造が企業の行為を決定付け、企業の行為もまた市場運行の経済効果を決定付ける。市場構造は市場シェア、市場集中度と市場参入障害という三つの主な基準によって構成されている。もしこの三つの基準で評価するなら、中国の銀行システムが極めて未発達な状態にあることが分かる。国有銀行の市場シェアと市場集中度はいずれも高い水準にあり、銀行システムに対して、国家が設定した市場参入障害が競争性市場構造の発達を著しく制約している。銀行部門改革の立ち遅れは銀行自身の効率の向上をも妨げ、市場構造の独占性と所有権構造の単一性が存在するゆえに、銀行部門には経営管理の改善、資産品質の上昇、そして金融リスクを防止するインセンティブが欠けてしまっている。

政府は一貫して国有銀行を国有企業への資金提供者とマクロ経済に対する調整の執行者であると見なしている。従って、国有銀行は多くの政策性貸出と社会安定の役割を担っている。しかし、国有企業の資金運用の低効率とインセンティブの欠如が国有銀行の大量の不良債権をもたらしている。各銀行の資産利潤率と収入の利潤率から見ると、四大国有商業銀行とその他の国有商業銀行との営業力には大きな格差がある。1997年、十大非国有商業銀行の平均資産利潤率は1.82%であったのに対して、同時期の四大国有商業銀行のそれは0.12%に留まっており、15分の1未満である。これは国有銀行部門の改革の立ち遅れがその資金配分の効率を著しく阻害したことを証明している。一方、新興銀行は、不公平な競争環境に直面しているにもかかわらず、非常に高い営業力を発揮している。

規模が大きく、営業利益が良好である国際的なメガバンクと比べると、中国の国有銀行は国有制という制約と国家の金融抑制政策の下で、非常に硬直した経営体制とインセンティブが形成されてしまい、国際競争力は極めて限られている。国際銀行業界はもはや多業種経営の時代に突入している。1998年、日本が金融改革法案を通過させ、アメリカでは、長い間金融業を支配してきた「グラス=スティーガル法」が廃止され、1999年11月に、「金融現代化法」(別名で「Gramm-Leach-Bliley法」とも呼ばれる)が通過した。しかも、ドイツとイギリスといったヨーロッパの国々では早々と他業種参入が許可されたことから、世界の主流は厳格な分業経営と分業監督・管理からユニバーサル・バンクを基礎とした多業種経営の段階へと転換している。ここでいうユニバーサル・バンクは、商業銀行、投資銀行、保険、証券など様々な金融サービスを提供していることから、非常に強い国際競争力を身につけている。これに対して、中国の銀行業界は依然として厳格な分業政策を実施し、政府の監督部門が銀行、証券と保険業務の分離を強調している。それは政府が管理しやすいというメリットを持っているが、長い目で見ると、銀行の効率を制約し、銀行業界の国際競争力を抑制することになる。

二、欠如する関係者の改革への動機

中国金融改革のプロセスは、中国全体の経済移行のそれと同様、体制外の成長による「増量改革」のモデルが採用されている。つまり、国有商業銀行の所有権構造と独占的地位を維持するという前提の下で、次第に部分的に市場競争と多元的な所有権構造を導入したことである。国有銀行改革が直面している大きな抵抗によって、銀行部門全体が市場構造と所有権構造の改善が長い間にわたって、停滞した状態に陥っている。制度経済学の角度から見ると、制度の選択と制度変革の始まりは、社会全体の各利益集団の制度変遷に対する巨大な需要に由来している。言い換えれば、利益集団の制度に対するニーズが制度変遷を決定付ける重要な要素であり、新しい制度に対する需要が不足した情況の中で、制度主体が制度変遷の推進を成功させることは非常に難しい。しかし、国有銀行の改革はまさしく典型的な「制度需要不足」の状態にある。

謝平(1994)は制度経済学のアプローチを使って、国有商業銀行改革に影響する四つの利益集団(国有商業銀行、中央政府、地方政府、国有企業)の制度需要に対し、次の結論を導いた。

まず、国有銀行の角度から見ると、国家が金融業界に対して厳格な市場参入制限を行い、実体経済では資金が不足し、政府の支配下にある金利の水準と市場均衡レートの間に、大きな格差が存在する以上、国有商業銀行は多くの独占利潤を獲得できる。しかし、こうした寡占体制の下で形成された関係者間での暗黙の約束が改革に対する大きな障害となっている。

次に、中央政府の角度から見ると、中央政府の重要な財政収入源の一つは相変わらず国有銀行の営業税と利潤の上納である。中央政府は、銀行を改革するとこうした安定した財源を失うのではないかと、非常に心配している。さらに重要なことは、国家が絶えず国有銀行を国有企業に対する「隠れ」補填の重要な資金源と見なしていることである。国有銀行は多くの政策性融資と社会安定化の義務を抱え、同時に国家は一貫して国有銀行の貸出総額をコントロールしており、それは社会の総需要を調整する重要な手段の一つであると見なされている。一旦、国有銀行が市場化改革を行うと、国家は国有企業に対して「隠れ」補填ができなくなり、「体制内の産出」の維持も社会総需要に対するコントロールも非常に困難となってしまうのである。

さらに、地方政府の角度から見ると、まず地方政府は国有銀行の地方支店に対して、比較的大きな業務支配権と人事権を持っている。さらに行政による国有銀行地方支店への介入は、地方の官僚幹部にとって、自らの実績を上げる重要な手段である。しかし、一旦国有銀行が完全な市場化改革を行うと、地方政府がもはやこうした地方支店の資金と人事に対する影響力を持てなくなる。

最後に、国有企業の角度から見ると、市場経済への移行が進む中で、国有銀行は一貫して国家の指令に基づき、国有企業に対して大量の政策性融資を行ってきた。その結果、国有企業はソフトな予算制約に甘えてしまい、国有銀行への依存体質から抜け出せない。しかも国有銀行改革が国有企業に深刻な資金難をもたらすだろう。従って、国有銀行部門改革に影響する四つの利益主体の中で、国有銀行、中央政府、地方政府と国有企業のいずれもが改革に対する強い意欲を欠いており、国有銀行改革に対する制度需要は明らかに不足している。こうしたことから、国有銀行改革には「ショック療法」ではなく、漸進的改革を行い、市場構造と所有権構造を徐々に改善することが要請されたのである。

三、WTO加盟で高まる金融改革への圧力

体制内部からの制度改革の原動力が欠けている情況で、外部からの衝撃で体制内の制度変遷を促すことが、中国における漸進的改革の重要な特徴の一つである。WTO加盟は、中国の金融部門の改革にとって間違いなく改革を促す意味を持っている。それは、未熟な中国の金融業界にとって、かつてないほどの巨大な挑戦であると同時に、改革を深化させる貴重なきっかけでもある。WTOの基準に合わせて、中国金融部門の市場構造と所有権構造を新たに再建することが求められている。今後の中国金融業の発展傾向はもはや明らかである。すなわち、市場競争と所有権多元化体制を目標とする改革を引き続き深化させ、そして経済全体の資源配置の向上を図ることである。これと同時に、WTO加盟が金融部門にもたらすショックをやわらげ、金融リスクを防ぐために金融監督部門を強化することである。これは、中国金融業界が今後数年間のうちに深刻な制度変遷を経験しなければならないことを意味する。具体的に、中国は金融業の発展のために、次の政策を採るべきである。

まず、金融システムに対する抑制政策を放棄し、市場参入の障害を取り除き、民間金融機関を大いに発展させ、そして本当の市場競争メカニズムを形成させることである。本当の市場競争は、当然、それぞれ所有権の帰属が異なる主体間で行われるもので、これは、単一的かつ独占的な国有所有権の下ではありえない。従って、非国有的な民間金融機関(特に民間銀行)の発展は、間違いなく中国の金融システムに本当の市場競争をもたらし、外部から国有商業銀行改革を促すことになる。それは中国の金融業界を国際競争に参加させ、外資系金融機関に対する中国の総体的な競争力の増強にもつながるのである。

第二は、中小金融機関を大いに発展させ、中小企業が抱える融資の問題を解決することによって、中国経済に新鮮な活力を注入することである。中国の資源賦存状況に鑑みると、労働集約型の中小企業が経済発展にとってベストの選択である。しかし、現在の銀行システムでは中小企業が抱える資金難の問題を解決することができず、中国経済成長に重要な戦略的地位を持つ中小企業の発展を著しく束縛している。従って、国家が政府から独立した商業性の中小銀行と協同組織金融機関の育成に力を入れ、これらの中小金融機関に対して支店の設立の認可を含めて、公平な競争環境を提供すべきである。

第三は、金融市場における価格と経営範囲に対する制限を徐々に緩和し、金利の市場化と金融機関の多業種経営を着実に推進すべきである。市場化によって決められた金利は金融機関が競争を効率的に展開する重要な手段であり、金融深化の理論では、歪んだ金利が資源配置の低効率をもたらしていることが証明されている。従って、金利の市場化を着実に推進することが、WTO加盟の挑戦に対抗する重要な一歩である。同時に、多業種経営という国際的な潮流に直面して、中国が長い間実行してきた各金融分野間の分業政策の下では、国内銀行はもはや外国金融機関の強大な圧力に対応できなくなっている。従って、徐々に金融業の多業種経営を行い、そして関連する法律規定を整備することは、これからの中国金融界改革にとって、避けて通れない道である。

最後は、国有商業銀行に対して株式制改造を行い、その資本を充実させ、所有権改革を促進することで、商業銀行には本当の現代企業制度、そして合理的なインセンティブと監督メカニズムを形成させ、国有銀行の総体的な効率と市場競争力を向上させることである。国有銀行の所有権改革は中国金融改革における最も重要な一環であり、その結果が中国金融業全体の所有権構造だけではなく、産業構造及び国際競争力にも大きな影響を与える。もちろん、金融体制改革が中国の体制移行の一部であり、金融システムの制度変遷は、必ず政府の役割の転換、国有企業改革の深化、そして競争的市場システムと法治社会の建設を伴わなければならないのである。

参考文献:謝平「論国家専業銀行的改革」『経済研究』、1994年第2期

(出所)「中国経済転軌進程中的金融自由化」『金融自由化与経済発展』(北京大学出版社、2003年)より一部抜粋。
和文の掲載にあたり著者の許可を頂いている。

2002年8月5日 「中国の経済改革」欄掲載 「WTO加盟後の中国の金融業改革」
2002年7月8日 「中国の経済改革」欄掲載 「改革を迫られる中国の国有銀行」
も併せてご覧下さい。

王曙光 Wang Shu Guang
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1971年山東省生まれ。1990年北京大学経済学院国際金融学科に入学、1995年、1998年、2002年経済学学士、修士、博士学位をそれぞれ取得。その間、2001−2002年アメリカのミネソタ大学にて客員研究員を務めた。現在、北京大学経済学院講師。『金融自由化と経済発展』をはじめとする著書や論文を多数発表している。


http://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/030630kaikaku.htm

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