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答えは古典のなかにある。
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投稿者 謝寅 日時 2003 年 8 月 14 日 20:32:43:Bat5keDwZxjsQ

(回答先: やっぱり、甘いかな。 投稿者 エンセン 日時 2003 年 8 月 14 日 17:01:36)

 今から2千2百年以上前に書かれた中国の古典「韓非子」に答えがある。


 

六、法の目的

 韓非子はいう。

 今上急耕田墾草、以厚民産也。而以上爲酷。脩刑重罰、以爲禁邪也。而以上爲厳。徴賦銭粟、以實倉庫、且以救飢饉、備軍旅也。而以上爲貪。境内必知分而無私、併力疾闘、所以禽虜也。而以上爲暴。此四者、所以治安也。而民不知悦也。(『韓非子』顕学)

 もし、上に立つ者が、人民に田を耕せ草を刈らせるのを急ぎ、それで人民の生産を豊かにしようとすると、人民は上の者を過酷だと思う。刑を整え罰を重くし、邪な行爲を禁じようとすると、厳しいと思う。金銭・穀物を徴収し、倉庫を充たし、飢饉を救い戦争に備えようとすると、貪欲だと思う。國内の邪な者は必ず知り尽くし、賞罰を厳密に分け、私がないようにし、人民に力を合わせて戦わせるのを急ごうとするのは、敵を虜にするためである。それなのに、暴虐と思う。これらの四者は、治安のためである。しかし、人民はこれが喜ばしいことを分からない。

民の思惑と爲政者のそれとが食い違うことがあるを指摘し、「民之心」(同右)を得ることに批判的であるが、人民と爲政者との間にかような心理的乖離が存する以上、勢い人民統治の政策に新たな工夫が用意されねばなるまい。それが、法の實効手段たる刑罰・褒賞を駆使することなのである。すなわち、刑罰に対する人民の畏怖の感情を利用し人民を服従させ、褒賞を設けて人民の利心を喚起し、強制的に國家目的に追従させようとするのである(注1)。『韓非子』において、賞罰を掲げ法を制定する目的は、争亂を治め邪な者を取り締まるのみではなく、更に、小野沢精一氏が指摘しているように、「民の利を求める心を……國家目的に合致させる」ためでもあった(注2)。仁義は、半ば先天的なものであり、それを人民のすべてに望むのは不可能なのである(注3)。だから、「適然之善」(顕学)を期待し、仁義の徳を抱かせようとはせず、

 逆於世而順於道徳。(『韓非子』姦劫弑臣)

 世俗に逆らうけれども、道理に順う。

のような対處の仕方をせざるをえない。

 民者固服於勢、寡能懐於義。(『韓非子』五蠧)

 人民は、もともと権勢に服従するものであり、義に懐くことは少ない。

 人民は、もともと愛されることに対しては驕慢になり、脅されることに対しては服従するものである。

 民固驕於愛、聴於威。(『韓非子』五蠧)

と分析するのも、彼がどのようにしたら効率的に人民を統率し國家利益へと導くかを考えたからである。

 また、一方、君臣の間にあるのは、

 臣尽死力以與君市。君垂爵禄以與臣市。君臣之際、非父子之親也。計術之所出也。(『難一』) 

 臣下は命懸けで力を出して主君と取引をする。(一方、)主君は、高い身分や俸給を見せて臣下と取引をする。主君と臣下とは、父子の間柄のように親しい関係にあるのではない。打算によって成り立っているものなのである。

のように、父母のごとき慈愛の心や忠誠心などではなく、利を一義とする打算的な損得勘定なのである。だから、韓非子は上に立つ者の徳によって群臣・人民を教化することを重視しない。

 聖人之治國、不恃人之爲吾善也。而用其不得爲非也。(『韓非子』顕学)

 聖人の治國は、他人が自分のために善を行なうということを當てにせず、他人が誤ったことを行わせないようにした。

のように、善行を期待するより、誤った行爲をすることを禁じる政策を優先した。賞罰の中の賞の効力を利用し、人民・臣下を國家目的に挺身するようしむけ、罰により誤った行爲をなすことを禁じたのである。このような、上に立つ者の徳に依らず、法による政策こそ、法家の法家たる所以でもあるのである。

 遡れば、『尚書』の誓に、賞罰を駆使した例が見い出せ、牧誓・甘誓・湯誓などに現れる誓の形式には、@敵に勝った者には褒賞があることを言うA戦いに敗れた場合には戦いに負けた者にその責を負わせることを言う、などの共通点がある(注4)。法家は、これら賞罰を積極的に用いた。それは司馬遷をして「惨R」(『史記』老荘韓非列伝)・「厳而少恩」(『史記』太史公自序)と言わしめたほどの徹底さであった。手法は先に用いられていたものの、ここにこそ、法家の獨自性があるわけである。

 儒家は、人間の徳性を喚起することによって、家、國家ひいては天下を安寧の状態にしようとする。刑罰により人民を整えようとすることは、刑法の抜道ばかり捜させることにつながり、人民に「恥」の心、すなわち、悪いことをしたという羞恥心をなくさせてしまうことになる(注5)。孟子に言わせれば、羞悪の心は義の端緒(『孟子』公孫龍上)なのであった。しかし、韓非子は、儒家のこのような徳治主義に真っ向から対峙し、法の威力によって國家ひいては天下までもを安寧の状態にしようとするのである。

 畢竟ずるに、韓非子の考える法の目的は、姦邪を禁ずることと、國家の利の所在を明らかにすることによって、民をそれに追従させ、結果的に富國の状態にさせること、というの二点に絞られる。

七、韓非子の説く法の特徴

 韓非子の説く法の特徴を、整理することにしたいが、その前に韓非子は法を如何なる含意で使用しているかが問題となる。『尹文子』には法の四呈として「不変之法」「斉俗之法」「治衆之法」「平準之法」を擧げる。韓非子は、主君を脅かす臣下の行爲・臣下同士の越権行爲などを國家利益に反するものとして排斥しようとする。だから、韓非子は君臣間の階級・臣下の健全な職務執行を目的とした「不変之法」も重視する。しかし、韓非子が主に説く法は、「治衆之法」の方であり、賞罰を下す明確な規定という意味で多くは用いられている。「令行禁止之法」(難一篇)・「不可不刑者、法也」(五蠧篇)・「且夫以法行刑」(五蠧篇)と言い、姦劫弑臣に「賞罰之法」と言っているのも、その例であり、

 明吾法度、必吾賞罰者、亦國之脂澤粉黛也。(『韓非子』顕学)

 自分の國の法度を明確にし、自分の國の賞罰を確實に行なうのも、國にとっての口紅・白粉のような(實際の効果がある)ものである。

と法と賞罰とを対置しているのも、韓非子における法と賞罰との不分離性を物語るものである。刑法は、記述として存在していても、それがその本来の職能を果たさない限りは、画餅同然であって、韓非子が法を説く時、「法之用」(『管子』心術・尹知章注)たる刑罰・褒賞をこと更に言うのは、法の尊厳的存在性を堅固としたものにするためであった。法は善を勧めるものではない(注1)と考えるのが、一般的な見方であろうが、韓非子の説く「法」は、刑法と熟される時の「罰する規定」のみでなく、國家目的に見合った行爲をなす動機定着のための勧奨作用を持つ「褒賞の規定」という二方面が具備されてもいるのである。

 また、賞罰を法の既定通りに行使し法の威信を確立する前提として、法を周知徹底させておかなくてはなるまい。それには、

今、爲衆人法、而以上智之所難知、則民無従識之矣。(『韓非子』五蠧)

 もし、人民の法を作りながらも、それが知性の優れた人でさえ分かりにくいものであれば、人民は法を理解する手立てがなくなるであろう。

のように、法は分かり易いものでなくてはならないのである。韓非子は、このように人民を対象にした成文法を提唱する。そして、その法は、

 法者憲令著於官府、刑罰必於民心、賞存乎慎法、而罰加乎姦令者也。(『韓非子』定法)

 法とは、官庁から公表される命令であって、人民の心に賞は法を守るものに対し與えられ、罰は法を犯すものにたいして加えられるものだと、信じさせるものである。

というように、官府から公布されるものなのである。ただし、民衆の識字率が現在より遥かに劣る韓非子の時代において、法の公開が、どれだけ功を奏しえたかは疑問である。法文の簡易を尊ぶのは、韓非子の特徴の一つであるが、その理念が秦王朝において如何に具現されたのかは、秦律十八種に見て取れるが、

 明主之國、無書簡之文、以法爲教、無先王之語、以吏爲師。(『韓非子』五蠧)

 賢明な主君の國は竹簡に書き付けた文献などなく、法を教えとし、先王の語などもなく、官吏を師とした。

とあって、法が人民を導く教えであることと、官吏を師とすることを理想とする。

 ところで、法は人主が人民に垂れた最上の教えである以上、その法を犯すことは勿論その法について異議を唱えることは許されまい。梁啓超は、「法而不議」(『荀子』王制)は法家に共通する一要素であると指摘する(注2)。「法而不議」を『荀子』にある本来の意味から離れ、法に対する異議を禁ずることとするならば妥當な着想である。

 亂國之俗、其学者、則稱先王之道以籍仁、盛容服而飾弁説、以疑當世之法、而貳人主之心。(『韓非子』五蠧)

 亂れた國の風俗は、学者は先王の道を稱賛し、仁の名を借り、容貌・身なりを立派にし、弁説を飾り、當世の法を疑って、主君を惑わす。

儒家は、先王の道を稱し當世の法を疑い、君主を惑わしてしまう。そうすれば、法はないがしろにされ、いよいよ人民は亂れることになってしまうのである(注3)。

 韓非子にとって法とは、利害関係の相違する人民と君主を結び付ける紐帯のような存在であったので、法の徹底が當然、考えられるわけである。

 賞莫如厚而信、使民利之。罰莫如重而必、使民威之。法莫如一而固、使民知之。故主施賞不遷、行誅無赦、誉輔其賞、毀従其罰、則賢不肖倶尽其利矣。(『韓非子』五蠧)

 褒賞は間違いなく與え、それを人民に知らせるのが一番である。罰は重く必ず執行し、人民に恐れを抱かせるのが一番である。法は一定で確固たるものにし、それを人民に知らせるのが一番である。だから、主君は、褒賞を時を移さず實施し、誅罰を下すのに容赦はしない。名誉が褒賞の価値を支え、そしりがその罰に伴うようであれば、賢人不肖の区別なく各々自分の力を出し切ろうとすのである。

のように、法を人民の賢人不肖にかかわらず適用し、「信賞必罰」(外儲説右上)によって法の地位を確固たるものにしようと努めたことに留意したい。そのような法の徹底は逆に、人民が功績次第で抜擢されることも含意する。

 明主之吏、宰相必起於州部、猛将必発於卒伍。(『韓非子』顕学)

のように、卑賤な者でも出世の機会があるわけであるが、これは人民に功を立てようとする利心を喚起させる意図から説かれるものであって、現代的な意味合いの平等主義と懸隔がある。

 ただ韓非子は、法のみによっては國家の安寧は果たせないと見抜く。法は官府の官吏によって公布されるものであり、人民はその公布された法により居處を決め、官吏を手本とする。つまり、法が人民の行爲の基準となり、官吏は法を施行することによって人民から仰ぎ見られる存在となるわけであるが、古来、この官吏を統御するすべが確立されておらず、それゆえに、臣下が主君を弑するという事態も起りえたのである。ここに、韓非子が法のみならず「術」・「勢」をも説き、國家の政體を蝕む五蠧をも説かねばならない必然性があったのである。

 今人主處制人之勢、有一國之厚、重賞厳誅、得操其柄、以脩明術之所燭、雖有田常、子罕之臣不敢欺也。(『韓非子』五蠧)

 もし、主君が人を支配する立場に在り、一國の富みを保ち重賞と厳誅を施す権力を持って、賢明な統御法を身に着けたなら、田常、子罕などの臣下でさえも主君を欺こうとはしない。

とあるように、法の権威、つまりは法の實行手段たる賞罰の権限は君主が把握しておらねばならなかつたわけである。誇張して言えば

 明主治吏、不治民。(『韓非子』外儲説右下)

 明君は、臣下を治めて、人民は治めない。

なのであって、法の権威は官吏に委ねられることはない。かてて加えて、臣下、特に重職にあるものは、主君の権勢を借りて私利を肥やそうとするわけであるから、術によって臣下を統制してゆかなければならないのである。

 明主之道、一法而不求智。固術而不慕信。故法不敗、而羣官無姦詐矣。(『韓非子』五蠧)

 賢明な主君の方法は、法を第一にし、智者を求めるようなことはしない。臣下統制の術を堅固にして、信頼できる臣下などを慕おうとはしない。このようにして、法は権威を失い腐敗することなく、群官に主君を欺くような者はいなくなる。

臣下には、知者・信頼に足る者が必要ではない。功績をあげる者こそが、必要とされるのである。韓非子の思想の根幹を形成する一要素である術とは、

 術者、因任而授官、循名而責實、操生殺之柄、課群臣之能者也。(『韓非子』定法)

であり、それには幾つもの表現形態があり、形名参同・審合形名・循名責實・総核名實などと説明されたりするが、具體的には、

 主之所用也、七術。所察也六微。七術、一曰衆端参観。二曰必罰明威。三曰信賞尽能。四曰一聴責下。五曰疑詔詭使。六曰挟知而問。七曰倒言反事。(『韓非子』内儲説上)

と言うような内容を持つものである。人民を直接治めるのは、官吏であり、その官吏を統制するのが、主君の仕事である。主君は、臣下の功績により生殺與奪の権を把握し、臣下が徒党を組み、権力を獨占するのをも警戒しなければならない。それには、

 明君之道、一人不兼官、一官不兼事、卑賤不待尊貴而進。大臣不因左右而見。百官脩通、羣臣輻湊。有賞者君見其功、有罰者君知其罪、見知不悖於前、賞罰不弊于後。(『韓非子』難一)

 明君の道は、一人が官職を兼任せず、一つの官吏が仕事を兼任せず、卑賤な者は、尊貴な者に由らず昇進し、大臣は側近の者を通さず謁見ができるようにするものである。(かくて、)百官は整然とし主君に意志の疎通ができ、君臣の関係は君子を中心にまとまるのである。賞は、主君がその功績を見、罰は、主君がその罪状を知ってからであり、主君の知見が事前に狂わされず、賞罰の實施も後々うやむやにされることはない。

と言うように、主君を脅かす臣下を防ぐよう、主君が「術」を身につけることは固より、兼任を排除することも必要となってくるわけである。

http://www.sinfonia.or.jp/~akiaki/kanpishi/kanpiroom.html


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