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石油文明ということ 〜LCAから考える〜 [環境問題を考える]
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投稿者 なるほど 日時 2003 年 12 月 07 日 13:10:56:dfhdU2/i2Qkk2

No.105 (2003/12/03)
石油文明ということ 〜LCAから考える〜


 現在の日本の社会の産業構造は、工業化社会ないし石油文明として特徴付けられます。その謂いは、工業的な生産過程における基本的なエネルギー資源が石油(石炭、天然ガスなどの炭化水素燃料を含む)であるということです。
 昨今、二酸化炭素地球温暖化脅威説の蔓延とともに、『石油代替エネルギー』『新エネルギー』論議が盛んに行われていますが、そこに実効性が全くないのは、この石油文明というものに対する認識が欠如していることに起因していると考えられます。先にこのコーナーで扱った風力発電に対する妄信の原因も、まさにここにあります。概略については、既に§2-5地球温暖化脅威説批判の第二部の工業技術評価で触れていますが、ここでは、もう少し具体的に検討することにします。

 現在の(環境)技術の評価において、欠落している視点は、ある自然科学的な原理を実社会の中で実現する場合に、その技術を実現するための直接的な機械設備だけではなく、社会的なインフラとしてどのようなハードウェアが必要であり、それを制度として運用していくためにはどのようなソフトウェアの整備が必要であるかという視点であり、それらのコストの評価です。
 例えば、公式には原子力発電の発電原価は5.9円/kWhとされています。これに対してLNG火力発電は6.4円/kWh、石油火力では10.2円/kWhとされています。これが実態を反映したものであるならば、電力各社は原子力発電を導入すればするだけ利益は増大することになります。しかし実態は、このコーナーでも何度か触れたとおり、原子力関連の支出の増大が電力各社の経営状況を圧迫し始めているのです。
 電力会社側からすれば、発電のための経費としては計上していない部分があるからだ、ということになるのでしょうが、実社会の中である技術を評価する場合、その技術を利用するために必要な全ての経費を積上げた上で判断しなければ実態を反映しているとは言えません(これが全くの自由競争の経済原理に基づいた市場であるならば、このようなことは起こりえないことです。原子力の場合、国家の軍事戦略と結びついたところで、初めから経済性の評価抜きに原発の導入が図られ、国民を欺くために仕掛けられたトリックが、恣意的な経費の過小評価による原子力発電の『経済性』の宣伝だったのです。)。
 このような誤った技術評価が出来るだけ起こらないようにするためには、最低でも、ある工業的な技術を実社会に導入する場合、その技術を実現するために必要な機械設備、周辺インフラ整備のコスト(環境問題の評価においては、経済コストではなく、資源コスト・エネルギーコストを指す。ただし、工業的に生産された実用製品の経済コストは、資源コスト・エネルギーコストをかなり正確に反映するものと考えられる。)、運用段階における資源・エネルギーコスト(補修点検コストを含む)、耐用年数経過後の廃棄コストの全てを積算した上で評価しなければなりません。このような視点を、最近流行の言葉で言うと『ライフ・サイクル・アセスメント(=life cycle assessment)』『LCA』ということになるでしょうか。EICネットの用語説明を以下に引用しておきます。

 LCAと略称される。製品の生産設備から消費、廃棄段階の全ての段階において製品が環境へ与える負荷を総合的に評価する手法である。これまでの環境負荷評価は、製品の使用や廃棄に伴う特定物質や有害物質の排出の有無、処理の容易性、使用後のリサイクルの容易性などライフサイクルのあるプロセスだけを評価範囲としたものが多い。このため使用、廃棄の段階での環境への負荷が少なくても、原料採取、製造、流通の段階での環境への負荷が大きく、全体としては環境への負荷の低減には寄与しない製品が生産されてしまう可能性がある。そこで経済社会活動そのものを環境への負荷の少ないものに変革するために平成5年に制定された環境基本法において、「環境への負荷の低減に資する製品等の利用の促進」が規定された。LCAは近年世界的に注目を集め各地で研究が進められている。また、国際標準化機構(ISO)においても国際標準化の作業が進められている。

 ここで、一つ大きな盲点が存在します。工業製品では、多くの場合最終製品製造のための原材料が既に工業的に製造された中間製品である点です。中間製品を輸入する場合、各国間で為替レートないし製造コストが異なる可能性があり、中間製品価格では単純に資源・エネルギーコストを評価することが出来ない部分があるのです。それ故、地球規模の環境問題を想定した技術評価を厳密に行うためには、こうした不確定要素を排除するために、資源・エネルギーコスト積算の起点を鉱物資源の採掘段階におくことが必要です。
 もう少し原子力発電を例に、LCA的な検討を行って見ます。とは言っても、私には原子力発電のLCAを行うための一次データを示す能力がありませんので、室田武氏などの研究成果を引用することにします。
 原子力発電についてのこの種の研究の歴史はかなり古く、既に30年前に行われています。イギリスの物理学者ピーター・チャップマンが1975年にエネルギー専門誌『エナジー・ポリシー』に発表したレポートにおいて、かなり原子力発電に都合の良い仮定をおいた分析においても、原子力発電の石油節約効果は10倍前後(石油を原子力発電プロセスに投入すると、火力発電プロセスに投入する場合の10倍程度の出力が得られる)であると報告しています。
 このレポートでは、核廃物の廃棄・保管のためのコストなどを考慮していなかったようです。その後チャップマンは、核廃物の長期保管に要するエネルギーを算入すると、原子力発電は火力発電以上に石油ないし石炭を消費することになると述べています。
 日本においては、室田武氏によって分析が行われています。室田氏の『原発の経済学』(朝日文庫1993年)から結論のみを以下に引用します。


廃炉までの産出エネルギー総量 608億kWh(52.2兆kcal)
原発における投入エネルギー量 81.1兆kcal(保管期間24000年)〜513.1兆kcal(保管期間240000年)
石油火力における投入エネルギー量 159.0兆kcal(産出比0.351)〜174.8兆kcal(産出比0.3)


 この結果、原子力発電の産出比(=産出エネルギー量/投入エネルギー量)は、0.10〜0.64<1.0 となり、エネルギー収支はマイナスになります。これは原子力発電単独ではエネルギーが縮小再生産過程であることを意味し、石油エネルギーの投入なしに原子力発電を維持することが出来ないことを示しています。
 勿論、通常の火力発電も含めて、全ての発電システムにおいて、エネルギー転換(=発電)の過程でエントロピーが発生しますから、エネルギー収支は必ずマイナスになります。しかし、石油については、石油自身の再生産の産出比が10倍のオーダーであり、たとえ石油を発電システムに投入しても総合的な産出比は1以上になるため、全体としてエネルギーの拡大再生産になり、石油文明が成立しているのです。
 以上の検討から、原子力発電という技術は石油文明下の技術であり、石油文明の終焉は原子力発電の終焉であり、原子力文明は将来的にもありえないのです。これは、原子力に限らず、現在検討されているほとんど全ての新エネルギーについて言えることです。『石油代替』を目指すならば、そのシステムを成立させる全てのハードウェアを、そのシステムから供給されるエネルギーだけを使って拡大再生産可能であることを実証しなくてはならないのです。現実にはこれは不可能であり、石油消費に支えられた工業生産システムの存在が必須です。これが『石油文明』ないし『工業化社会』の本質なのです。
 しかし、ここで一つ疑問が生じます。風力や太陽光エネルギーの起源は太陽で行われている核融合反応であり、これらのエネルギーは地球上の資源消費を伴わずに半永久的に供給されるのだから、地球上の資源消費という観点で見れば、『長期的には』エネルギー収支がマイナスになることなどありえないのではないか、ということです。
 問題は、この『長期的』という点です。風力発電や太陽光発電など、自然エネルギーを捕捉するシステムが、どんなにエネルギー転換効率が低くても、半永久的に使用可能であるならば、まさに持続可能なエネルギー供給システムになリます。ところが、こうした自然エネルギー発電システムは厳しい自然環境中に曝される結果、建屋内に設置された発電設備に比較して耐用年数が短くなります。この短い耐用年数期間中に低効率で捕捉される総エネルギー量では、自らを拡大再生産することは勿論、システムのライフサイクル中に投入された石油エネルギーを火力発電システムに投入した場合に得られる電力量を回収することすら困難なのです。
 では、少し観点を変えて見ます。原子力発電や、風力発電、太陽光発電では、『燃料』として石油を消費しません。投入された石油エネルギーはシステムの運用に必要なハードウェアの製造・維持のために投入されます(原子力では、核燃料製造のためにも大量のエネルギーが投入される。電力価格算定におけるレートベースの計算において、核燃料は固定資産として扱われる。)。その結果、同一の石油消費量に対してこれらの発電システムは、火力発電に比較して極めて大規模なハードウェア=固体廃棄物を必要とすることになります(これは、こうした発電システムを導入することによって、工業生産分野における需要を拡大します。)。これは総合的に見た環境負荷が増大することを意味します。ことに原子力発電では、核廃物という人間の歴史に対して半永久的とも言える厄介な毒物を生産するのです。
 以上、総合的に判断すると、現状の石油を中心とする火力発電による電力供給システムを部分的に原子力や新エネルギーで代替することは、資源利用効率だけでなく、環境問題の改善という視点から考えても全く無意味なことなのです。

 今回、このレポートを書くきっかけになったのは、既にこのコーナーのNo.87に紹介した東大のある学生氏からいただいたメールで、電力中研の『ライフサイクルCO2排出量による発電技術の評価』というレポートを紹介いただいたことです。このレポートによると、各発電システムの出力1kWhを産出するために排出されるCO2量は次のようになっています。

石炭火力発電 975(g/kWh)
石油火力発電 742(g/kWh)
原子力発電    28(g/kWh)
太陽光発電    53(g/kWh)
風力発電     29(g/kWh)

 チャップマンの研究や室田武氏の研究からは、石油火力発電と原子力発電を比較すれば、原子力発電の方がより大量の二酸化炭素を排出することになります。また、室田武氏の前掲書によれば、太陽光発電では、少なくとも石油火力発電の3倍程度の石油消費が必要だと述べられています。このホームページの§2-5の検討においても、太陽光発電は火力発電の4〜7倍程度の石油消費が必要だと推定しました。
 現実には、原子力発電関連の経費が電力各社の財政を悪化させていることを考えれば、原子力の発電コストは火力発電の発電コストを大きく上回っていると考えざるを得ず、その発電コストは石油消費量を反映していることを考えれば、電力中研のLCAによる原子力発電の二酸化炭素発生量の値はあまりにも実態とかけ離れているといわざるを得ません。太陽光発電、風力発電に関しても、電力中研のレポートの値はあまりにも過小評価になっているようです。
 電力中研のレポートがこのような結果になっているのは、恣意的にそのような分析を行ったのか、あるいはLCAにおいて何か重大な要素を見落としているのではないかと推察されます。
 また、このコーナーNo.90で紹介した、環境省のホームページに掲載された個人住宅用風力発電システムを導入した場合の二酸化炭素削減効果の算定は更に杜撰なもので、風力発電で発電される電力量に単に火力発電で排出される二酸化炭素量を乗じた値となっています。
 このように、原子力発電や新エネルギーの二酸化炭素削減効果に対する公的な算定値は、ほとんど実態を反映していないものです。もし本気で二酸化炭素排出量削減を目指した新エネルギーの導入を考えているのならば、まず資源採掘段階を起点とした厳密なLCAを試み、効果を検証することが不可欠です。自然エネルギーの導入を考えている大分県や地方自治体、APUの学生諸君やNGOの皆さん、どうお考えですか?

 石油文明ということは、全ての工業的な生産過程が石油(ないし石炭・天然ガス)エネルギー消費によって成り立っているのです。原子力や新エネルギーとてその例外ではなく、現状では石油エネルギーの利用効率は、石油火力発電を上回ることは考えられません。この事実を見れば、エネルギー供給において『原子力』『新エネルギー』は一次エネルギーではなく、二次エネルギーとして分類されるべきでしょう。むしろこれらのエネルギー供給システムを全て排して、最新鋭の火力発電システムに置き換えるほうが固体廃棄物量の削減効果によって環境負荷は確実に減少すると考えられます。

http://env01.cool.ne.jp/index02.htm

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