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衆議院憲法調査会03.7.3 傍聴記 「憲法前文について」
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投稿者 なるほど 日時 2003 年 12 月 12 日 03:50:51:dfhdU2/i2Qkk2

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報告者T .O
衆議院憲法調査会03.7.3 傍聴記
「憲法前文について」
◇参考人質疑英正道氏(鹿島建設株式会社常任顧問)
◇自由討議
7 月3 日の午前中、衆議院憲法調査会最高法規としての憲法のあり方に関する調査小委
員会が開催された。
参考人として鹿島建設株式会社常任顧問であり、2001 年に、『憲法前文試案―君は自分の
国をつくれるか』という書を出版した英正道氏が、憲法前文について以下のような意見陳
述をした。
私が憲法改正を主張する理由は、第一に、現在の前文は既にその役割を終え、いわば「賞
味期限切れ」であって、私たち日本人は二十一世紀の日本にふさわしい新しい前文を必要
としているということ、第二に、憲法改正を行うのであれば、まず前文から始めるのが適
当であること、この二つにある。
日本国憲法の前文は、主権在民、国際の平和、普遍的な政治道徳などの理念に満ちてお
り、敗戦後の日本に国民主権の思想を定着させ、民主的な諸制度を確立したという大きな
功績がある。しかし、民主主義の定着後の日本に育った者たちにとっては、今の前文は、
日本の歴史・文化・伝統などについて全く無関心であり、どこの国の憲法前文としても通
用する、いわば無国籍で政治的な蒸留水のようなものとなっている。
今、日本人はアイデンティティの危機に直面し、自信を失っている。その原因は戦後の
改革と言われるものが、天皇制を除き、日本の諸制度や伝統を全て捨て去る、体制変革で
あったからである。それを端的に示すのが憲法前文である。憲法前文には、その国が誇り
とするような自国の歴史・文化が書き込まれるべきだが、日本国憲法前文にはそれがない。
憲法前文に明確な日本のアイデンティティを盛り込むことにより、日本人は現在のアイデ
ンティティの危機を乗り越えることができると考える。
世論調査によれば、国民の過半数が憲法改正を望んでいるが、改正すべきだと考えてい
る内容はそれぞれ異なる。従って、憲法を改正する道筋としては、国民の間に広範な合意
が存在するところから、部分的・段階的にこれを行うのが現実的である。
明治憲法も日本国憲法も、ともに上から与えられた憲法であり、国民の手による改正を
経験したことがない。教育水準が高く政治意識も健全な日本において、国民投票を経てい
ない憲法はふさわしくない。不磨の大典を誇るのではなく、一度憲法改正の経験を持つこ
とが賢明である。そのためには、誰にでも議論しやすく、良い意味での曖昧性のある憲法
前文から始めることが最適であろう。
新しい憲法前文に果たしてもらいたい役割としては、日本の伝統と文化の上に立つ「こ
の国のかたち」を示す役割、将来に向けて日本の進路を示す役割、現在の閉塞感を破らせ
る活力を与える役割、世界の中で日本の座標軸を明らかにする役割、包容力と普遍性のあ
る日本の理念を掲げる役割の五つである。
これらの役割を果たすため、憲法前文に書き込むべきだと思われるのは、日本の伝統と
文化、主権在民・民主主義・人権の尊重、地球社会の中の日本・相互依存の認識、文化多
元主義、平和の至高性と国際協調、以上の5 点である。
以上のような前文を持つ憲法の効果として、日本のアイデンティティがはっきりするこ
と、中高生が前文を素材として、日本の伝統・文化とは何か、個と社会の関係はどうある
べきか、社会の調和とは何か、歴史から何を学ぶべきか、といった議論ができるようにな
ることなどが挙げられる。
憲法前文を改正するにあたっては、国民を最大限に参画させることが望ましい。その結
果、憲法の意義について国民の関心が高まり、また国民は自らが参画して改正した憲法前
文に興味と愛着を感じるであろう。
続いて、参考人に対する質疑応答が行われた。
仙谷由人委員(民主)は、英氏の考える日本のアイデンティティとは何か、という質問
をした。これに対し英氏は、第一に自然と人間との関係に関する態度、つまり自然との共
生という考えを実践してきた点、第二に資源の有限性を知っており、物を大切にすること、
第三に宗教心の強さ、そして神でも仏でも受け入れる自在性にある、と答えた。
遠藤和良委員(公明)は、前文と各条項は密接不可分の関係にあると考えているが、前
文のみを改正することの意義は何かと質問した。英氏は、憲法前文の犯した罪は重いと考
えており、一日も早く日本の顔をした前文がほしいと考えているので、若干のことには目
をつぶってよく、また、本文の各条項を改正する方が他の条項との整合性を欠く可能性が
高く、その点前文はその関係がゆるいので問題となりにくい、と答えた。
また遠藤委員は、憲法が「賞味期限切れ」というが、これに対し、憲法の理念がまだ実
現されていないのではないかという議論があるがどう考えるかと質問した。英氏は、憲法
には先進的なところがあり、現実として追いつけなかった部分があるのは残念だが、それ
を取り除くべきだとは思っていない、と答えた。
春名直章委員(共産)は、英氏の前文は「無国籍」だという発言に対し、「政府の行為に
よって再び戦争の惨禍が起こることがないようにすることを決意し…」と規定しているこ
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とについて、他の国の憲法前文にこのような規定はあるのか、またいわゆる「平和的生存
権」をうたう憲法前文があるのか、と質問した。英氏は前者については、そのような規定
はないと答え、後者については学者でないので詳しくは知らないと答えた。
北川れん子委員(社民)は、平和主義について定める9 条と前文は一体不可分のもので
あると考えるが、英氏の前文試案を前提とした場合、9 条1 項、2 項は現在のまま存在し
得るのかと質問した。英氏は、日本には戦力というべき自衛隊がいること、そして国際法
をやった者にとって交戦権の否認は、相手国に攻められた場合に戦争が起こるのだから、
9 条2 項は意味をなさない、と答えた。
井上喜一委員(保守新)は、憲法の前文には規範性がないのだから意味がないのではな
いか、また前文に憲法制定の由来などを書くことに意味はないのではないか、むしろ前文
が本文の解釈を方向付けるのであれば解釈を制約するので問題ではないかと質問した。英
氏は、そもそも憲法解釈は自由に行ってよいものではなく、また前文に憲法解釈を左右す
る重要性をもたせるべきではないと考えており、その点は認識の違いだろう、と答えた。
これに引き続いて自由討議がなされた。
春名委員は、前文が「無国籍」であるという参考人の発言に対し、前文は憲法の基本原
則や理想を宣言するものである。日本国憲法のその前文は、国際的な潮流の中にあって必
要な基本原則を網羅しており、さらに、世界の憲法にはない先駆的な理想や原則もうたっ
ている、と主張した。また、条文に書かれていることがどこまで実現したかの検証を抜き
に前文の改正をしても、空文句になる、と指摘した。
仙谷委員は、明治憲法は近代国家の諸原則に即した制度を構築する一方で、告文や発布
勅語に近代国家の諸原則とは矛盾する王権や大権といった概念が反映されるなど中途半端
なものであったため、軍国主義やヒロシマ、ナガサキの悲劇を招来する一因となった。現
行憲法がマッカーサー三原則を基に構想されたことは事実であるが、当時の政府がそうい
ったものを押し付けられたとしても、押し付けられざるを得ないような政府であったこと
も認識しておくべきである、と主張した。
最後に簡単に感想を述べておく。
まず、憲法前文の位置づけが正しくないように思われる。学説上、憲法前文とは、本文
の前におかれるものであり、当該憲法典の成立の由来・経緯、制定の目的、基本原則など
を厳粛に宣言するものだと理解されている。そのような理解からすれば、国の歴史や伝統・
文化を書き込むべきであるとする主張には根拠がないだろう。仮に前文の性格を学説のと
おりに解さないとしても、その場合には自身の理解についての根拠を示すべきであろう。
次に、憲法前文の意義について、学説は二つの意義を持つと理解している。第一に、政
治的・象徴的意義である。つまり、憲法の主義・主張を、前文を通して明らかにするとい
う意義である。第二に、法的意義である。つまり前文の規定全体もしくは一部に法的効力
を認めるということである。もちろん法的効力の範囲などは、前文の内容や表現方法によ
り異なる。日本国憲法の前文について言えば、憲法の拠って立つ「人類普遍の原理…に反
する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する」と前文自身が述べていることから、一般論と
しては、これに反する法律・行政行為などが違憲とされることは肯定されよう。なお、裁
判規範性については、学説上は否定説と肯定説とがある。また判例でも、憲法判断に際し
て、本文各条項とともに前文を援用するものがある(例えば長沼ナイキ基地訴訟第一審判
決、札幌地判1974.9.7 )。このような学説・判例を踏まえないまま、何ら根拠を示すことな
く単に「前文には規範性がない」などと主張する委員は、委員としてふさわしいのかどう
か、疑問が残る。
また、憲法「改正」の戦略として、手のつけやすい前文から行うのがよい、という英氏
の考えは、そもそも本末転倒である。憲法の最高法規性、法的安定性の必要などに鑑みれ
ば、憲法改正は、制定当時には予想できなかった社会変動などがあり、改正が必要な場合
にのみ行われるべきものであると考えられるからである。
英氏は前文「改正」の根拠として、すなわち立法事実として、日本人がアイデンティテ
ィの危機に直面して自信を失っていること、そしてその原因は憲法前文に象徴される戦後
の改革にあることを挙げるが、何らの実証もなく、「改正」の必要があるとの主張には説得
力がない。さらに氏は、憲法前文の「改正試案」を提示し、そのように「改正」すれば、
氏が問題だと感じていることが解決するかのように考えているようであるが、文言を変え
れば社会も変わると考えるのは、いわば「条文フェティシズム」とも言うべき、楽観的な
考えであるように思われる。

http://www.itojuku.co.jp/magazine/pdf/1211_k01.pdf

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