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「2050年前後にはアメリカ帝国は存在しない」(『株式日記と経済展望』より)
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投稿者 まさちゃん 日時 2003 年 12 月 15 日 17:54:55:Sn9PPGX/.xYlo


「2050年前後にはアメリカ帝国は存在しない」

2003年12月15日 月曜日


◆訳者解題

対イラク戦争がついに開始されるまでの国連安保理の討議は、これまでの常識を覆すような驚くべき展開を見せた。アメリカに対する多数の理事国の頑強な反対である。その中心は言うまでもなくフランスで、非常任理事国のドイツの強硬な反対姿勢に支えられて真っ向から論陣を張り、伝統的なロシアと中国の反対姿勢を励ましつつ、イラク攻撃の明示的な決議をもぎ取ろうとしたアメリカの思惑を打ち砕き、アメリカを国際的孤立と正当性の欠如へと追い込んだ。トッドも「日本の読者へ」の中で指摘しているが、それはまさに本書末尾でトッドが提出しているいくつかの提案の一つ、すなわち安保理常任理事のポストをフランスとドイツが分かち合うという提案の、ほぼ完全な実現に他ならない。

このような事態を、例えぱ昨年のうちに想像し得た者は果して何人いるだろうか。私としては、このような事態はかなりの程度に本書のお蔭で実現した、という思い込みを禁じ得ない。一九九五年にシラクが初めて大統領に当選した時に客観的にトッドが果した役割は、フランスでは知らぬ者とていない。右派の大統領侯補としては、時の首相バラデュールに遅れをとっていたシラクは、トッドがサン“シモン財団主催の研究会で行なった発表からヒントを得た「社会的断層」というキャッチフレーズを掲げて、「疑似左派的な」キャンペーンを行ない、優勢を伝えられたバラデュールを破って当選したのである。

トッ ドはシラク陣営の「グル」などと呼ばれ、一躍時の人となった。実際はトッドはことさらシラクの参謀ないし顧問を務めたわけではなく、シラクが彼の発表からアイデアを盗み出して勝手に利用したというのが真相である。しかし結果的にシラクがトッドのお蔭で当選したことには変わりはない。そんな巧妙な利用をしたくらいであるから、シラクはもちろんトッドの真価をよく承知しているはずであり、当然、.本書も読んでいるはずである。

そういう訳で今回のフランスの、つまりシラク大統領の頑強な姿勢の背後には、トッドヘの「信頼」、彼の分析の正しさと先見性への確信が窺えるのである。イラクヘの武力攻撃への反対を貫いたことで、シラクの支持率はうなぎ上りのようであるが、だとすると彼は二度もトッドに救われたということになる。

もちろんシラクだけの力でそれが可能になったわけではない。何よりもドイツのアメリカに対する「独立宣言」に等しい外交姿勢の大転換が不可欠な要因となった。しかしこれにしても、本書の提案への積極的反応と考えることも不可能ではない。本書の刊行は昨年九月。ドイツでもベストセラーとなっていると聞く。当然、政権担当者たちも直接間接に読んでいると考えられる。

つまり本書はまさに顕在化しようとしていた潜在的状況を把握し、それを提示した。そして指導者たちは、いくぶんは本書を通して、いくぶんは本書から独立して、本書が分析した潜在的な事象の力に呼応した、ということではなかろうか。優れた書物が現実を変える、というのはそういうことなのであろう。そこまで考えると、中国は兎も角、ロシアの態度にも本書の影響が読み取れるとさえ言えそうであるが、どうであろうか。

本書は昨年九月に、同時多発テロの一周年に合わせて刊行されたが、あらゆる新聞・週刊誌に取り上げられ、たちまちベストセラーになった。一一月に『フィガロ・リテレール』誌が行なった一〇人の代表的な書評担当者のアンケートでも、一〇篇の評判のノンフィクションの中で、本書だけはすべての担当者から積極的な評価を得て一位にランクされている。また論争誌として定評のある『デバ』誌は「エマニュエル・トッドの『帝国以後』をめぐって」という特集を組んで、前外務大臣ヴェドリーヌを含む四人の論客に本書を論じさせている。またイラク問題の緊迫化の中で、トッドは頻繁にメディアに登場しているようである。

また昨秋のフランス読書界の主たる話題の一つは反アメリカ主義であったようで、ジヤンーフランソワ・ルヴェルの『反アメリカの強迫観念』やフィリップ・ロジェの『アメリカという敵』等、フランスにおける反米主義の歴史的検討の本が相次いで刊行され、話題を呼んだ。あたかもアメリカ帝国の崩壊を予言する本書の衝撃に対抗しようとする問題提起が、本書を取り巻くように布陣しているかの観がある。しかしフランスにおける反米主義という問題の枠組みに本書が収まらないのはもちろんである。

ソ連邦崩壊以来、唯一の超大国となったアメリカ合衆国が古代ローマ帝国にも匹敵する(しかも地球全体への支配権という点では人類史上未曾有の)帝国をなしているという認識は、このところ急速に広まっている。これについて論じる著作はいずれも、アメリカ帝国の強大さを前提としており、その世界支配を道徳的立場から告発する論も少なくない。アメリカ帝国論としての本書の基本的性格は、そうしな言わば反体制的ないし異議申し立て的著作とは、根本的なスタンスを異にするという点であろう。

科学者であるトッドにとって、道徳的告発は無縁な立場である。第二の特徴は、アメリカ帝国の強大さではなく、その脆弱さを分析・研究し、その崩壊を予告している点である。これこそ本書の真骨頂であるが、いままで何者がこのような挙をなし得たであろうか。アメリカ帝国の衰退という、この何ぴとも抱き得なかった観念によって、本書はフランス中に(おそらくはヨーロッパ中に)衝撃を与えた。まさに「予言者」の面目躍如というべきであろう。

アメリカ帝国の衰退という着想から遡ってみるなら、そのヒントはあるいはブレジンスキーやチャルマーズ.ジョンソンの著作の中に見つかったかも知れない。しかし複雑を極め錯綜するパズルを解く鍵を発見したのは、トッド自身であり、アメリカ帝国の衰退は本書の中で疑い得ない事実となり、次いで現実の中で確実な事実となりつつある。

なぜアメリカは脆弱なのか。トッドの挙げるその第一の理由は、貿易収支の赤字の急速な増大を通してうかがえる、工業生産の不振である。アメリカは半世紀前の旺盛な工業生産国ではなくなっており、自国製品の輸出によって輸入の代金を賄うことができない。ところがアメリカ人の消費はますます旺盛になって行き、輸入は増大の一途をたどっている。対等の国同士の対称的な交換関係を大幅に逸脱したこの輸入超過に、トッドは帝国としての構造の一端を見抜く。

つまり需要不足に喘ぐ世界全体にとってアメリカ合衆国は、あたかも国家予算によって需要を作り出してくれるケインズ的国家が一国の経済にとって果すのと同じ機能を果している。つまりアメリカ合衆国は世界全体にとっての国家なのである。ではそのような赤字はどのようにカヴァーされるのか。ドルという基準通貨の力が引き寄せる全世界からの資本の流入によってである。要するにアメリカ合衆国は全世界から集まった資金によって、消費の代金を支払っていることになるのであり、トヅドはそれをアメリカ合衆国の「略奪者」的性格と定義する。

このように世界から富を吸い上げる構造にトッドはローマ帝国のシステムと類似の帝国システムを見る。アメリカ合衆国は全世界からさまざまな形で貢納物を徴収し、それで自国民の過剰な消費を賄う帝国なのである。このシスナムによって消費を行うアメリカ国民は、あたかも帝国によって「パンと見世物」を無償で提供された古代ローマの市民にもなぞらえられる。しかしアメリカは帝国として成功するための重要な条件、すなわち普遍主義を持たない。本国の市民権を属領の住民にまで拡大する普遍主義こそが、ローマ帝国の安定の要因であった。アメリカも第二次世界大戦直後は豊かで寛大な国として、普遍主義への傾斜を見せたものだが、近年はその普遍主義が著しく後退している。

こうした帝国的構造からトッドが引き出す命題は、アメリカ合衆国の世界に対する依存性に他ならない。すなわちアメリカにとって世界は不可欠だが、世界にとってアメリカは不可欠ではなく、むしろ不必要となっているということである。そもそもアメリカ合衆国は西半球の別天地で独自の自由な生活を調歌していたのが、ナチス・ドイツ(もっとも直接のきっかけは軍国日本だったが)、次いでソ連という、自由を脅かす全体主義から世界を護るために、懇願されてユーラシアヘと介入した。しかしソ連邦崩壊とともに自由のための守護者としてのアメリカ合衆国の役割は終わりを告げる。

そこであり得た選択は、ユーラシアから撤退し、通常の国(ネーション)として健全な貿易収支の均衡を図りつつ生きるという道であったが、アメリカ合衆国はその道を選択しきれず、奇妙な帝国の道を歩み始めた。そうなると不必要かも知れない己の存在を糊塗し、己が世界にとって不可欠なものであることを証明しなければならない。そこで選ばれたのが、「弱者を撃つ」という手である。イラクなどの弱小国を世界に対する脅威に仕立て上げ、それに対して武力を行使する「小規模軍事行動主義」によって、己の必要性を納得させようというのである。

しかしそのようにせわしなく軍事力をちらつかせるアメリカの態度は、いたずらに警戒心を掻き立てることになる。それも大国の警戒心を。ヨーロッパにとって、ロシアにとって、日本にとって、アメリカは世界秩序の守護者ではなく、世界秩序の安定の撹乱要因となるのである。その結果、それらの大国は互いに連携を深めつつ、アメリカからの離反・独立を志向することになる。

具体的にトッドが最も可能性が高いものとして予測するのは、仏独の連携の強化による、アメリカの後見からのヨーロッパの独立と、さらに共産主義崩壊後の混乱から立ち直ったロシアとヨーロッパの協調である。今回、安保理を舞台に繰り広げられたフランスとドイツとロシアの連携は、まさにその見取り図の現実化に他ならなかった。まさに書物が現実を促し、現実もどんどん前進して、書物に追い付き追い越さんぱかりであった。

こうした展望の果てにトツドがアメリカ合衆国に寄せる勧告は、帝国を諦めて、ユーラシアから手を引き、普通の強国として、他の大国との間に対等の関係を築くことを受け入れることである。その上でトッドが想定する未来の世界は、唯一の国に支配される帝国ではなく、複数の大国が均衡を保って共存する複合的なシステムに他ならない。トッドにとっては、それこそが真の戦後の終結なのである。(P289−P294)

トッドは一九五一年生まれの気鋭の人口学者、人類学者で、ケンブリッジ大学で歴史学の博士号を取得。現在、国立人口統計学研究所(INED)の研究員を務める傍ら、通称「シヤンス・ポ」で名高い政治学研究学院(IEP)で講義を持っている。一九七六年に弱冠二五歳にして、当時、隆盛の一途をたどりつつあると思われたソ連邦の崩壊を予言した衝撃的なソ連研究の書『最後の転落』を刊行して、著作家としてデビュー。一九八三年に『第三惑星』で全世界の家族制度の定義と分類を完成させ、家族制度によって近代のイデオロギー現象を説明しようとする方法を確立する。さらに一九九九年には『経済幻想』によって経済学に進出した。本書はその意味で、人類学と経済学というトッドの足場をなす学問分野が有機的に統合された研究をなしているわけである。すでに二度来目しており、二〇〇〇年六月の二度目の来目からは、『世界像革命』(藤原書店)が生まれた。


エマニュエル・トッド著 「帝国以後ーアメリカシステムの崩壊」

(私のコメント)
昨日の夜のニュースでフセイン大統領の捕獲が報ぜられましたが、かつての独裁者の面影はなく、ひげ面の浮浪者に過ぎない老人だった。フセインを匿ってくれる国はあるはずもなく、7ヶ月も逃げ回っていたわけですが、ようやく身内の証言で隠れ場所を突き止めることが出来た。しかしフセイン一人をイラクから追放するのにアメリカは陸海空の大軍事力を動員した。

アメリカがアフガニスタンやイラクへ侵攻した理由としてはいろいろ挙げられていますが、一番大きな理由としては軍事的に弱体な国を見せしめのために血祭りにあげて、アメリカの軍事力の誇示にあったのだろう。しかし本書でエマニュエル・トッド氏が指摘するかごとく、この事は世界の国々の警戒心を掻き立てるだけに過ぎない。

アメリカな何故そこまで追い詰められてしまったのだろうか。弱者を攻撃するということが自分の強さを人に納得させる良い手とは言えない。人口2300万人足らずの低開発国に超大国アメリカが戦争を仕掛けることはみっともない事だという意識がアメリカ人の中から消えうせてしまった。第二次大戦以降アメリカは大国とは戦争をせず、北朝鮮や北ベトナムや中南米のパナマ・グレナダといった弱小国としか戦争をしていない。

はたしてそれらの国と戦争をする必要性が戦略的にいってあったのか疑問に思えるが、アメリカはソ連崩壊以降その存在意義を失ってしまっているから、よけいに血迷っているのだろう。ソ連が存在していてくれれば、ソ連が悪役を一手に引き受けてくれて、アメリカが正義の味方よろしくスーパーパワーを誇ることが出来た。

ソ連はなぜアフガニスタンへ侵攻したのであろうか。それは経済的ゆきづまりから国家的威信を見せつけるために、軍事的に弱体なアフガニスタンを手に入れて国家の威信を示すことにあった。経済的ゆきづまりを軍事力で打開しようとしたのである。これは現在のアメリカにそのまま当てはめることが出来る。まさにアメリカは経済的に行き詰まっている。

アメリカは自由世界のリーダーになることはおろか、世界と対決姿勢まで示し始めている。アメリカは国連が引き止めるのも聞かずにイラクへ侵攻した。湾岸戦争の頃のような世界の支持を取り付けることすら出来ないほど外交力は低下した。親米国家のトルコですら米軍の通過を拒否した。サウジやイランも協力を拒否した。

ロシアや中国はともかく、フランス・ドイツがアメリカの外交に反旗を翻すようになったことは、アメリカの孤立化を象徴するものだ。アメリカはもはやイデオロギー的にも外交的にも敗北は明らかになった。アメリカはこのような世界に対して報復するだけの力はもはやない。イギリスやオーストラリアやカナダといった伝統的友好国ですら国民の間では反米感情が高まっている。

唯一つ変わらない大国がある。それは日本だ。国民の間でも反米デモは起こらず、アメリカを支持し憲法を空文化してまでも自衛隊をアメリカ支援のために派遣しようとしている。世界の流れを読み取れない日本の政府と外務省の責任である。私自身「株式日記」でアメリカの没落を予言しているが、日本の識者でこのような見方をしている学者はごく少数だ。

エマニュエル・トッド氏はソ連の崩壊を予言して当てている。そのトッド氏が2050年前後にはアメリカ帝国は存在していないと予言している。その鍵となるのが日本の存在だ。アメリカの戦費に日本が協力しないだけでもアメリカ・システムの崩壊には十分かもしれないと指摘している。この意見には私も賛成だ。

アメリカは日本に見捨てられれば崩壊する運命にある。その事を知らないのは日本のバカ学者や評論家達だ。私はこの事を「株式日記」で何度も指摘している。素人の私が言っても信用されませんが、エマニュエル・トッド氏の「帝国以後」を読んでほしい。

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