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武士道描く米画『ラストサムライ』日本刀と弓矢で戦う玉砕を賛美く偏狭な国粋主義に資する困った映画[映画の鏡]
http://www.asyura2.com/0401/bd33/msg/128.html
投稿者 なるほど 日時 2004 年 1 月 08 日 00:57:35:dfhdU2/i2Qkk2
 

(2004.1.7)


日本文学専攻の俊英監督のズレ
 『ラストサムライ』と称する日米合作映画が、今年のお正月映画として公開され、ヒットしている。日米合作といっても、日本は渡辺謙、真田広之、小雪らの俳優が、出演協力しているだけで、ほぼ100パーセント、ハリウッド資本の映画である。監督のエドワード・ズウィックは、米ハーバード大出身の俊英で、日本文学を専攻、映画界に入ってからも、ずっと日本の文化や歴史に興味を持ち続けて来た人なのだそうだ。その監督と、親日家である俳優トム・クルーズが共鳴し、この映画の企画製作が実現したのだそうだ。しかし、ズウィックとクルーズの、この映画に現れた日本観は、風俗描写や装置・衣装の面では、随分正確に日本を勉強しているとはいえ、テーマとなる思想的バックボーンになると、やはりアメリカから見たエキゾティシズム、それも単細胞的なそれに支えられ、悪意ではないのだろうが、結果的に、偏狭な日本のナショナリズムに資する、困った考え方になっているのである。サムライ・スピリット=武士道なるものが、日本人のアイデンティティを考える上で、どういう意味を持つのか、日本人の精神性を考える上で、どういう位置を占めるのか、真摯な考察が抜け落ちているのである。
明治史を捏造し旧武士に肩入れ
 おまけにこの映画は、歴史を捏造している。時代背景として示されているのは、1876年から77年、明治9年から10年である。つまり薩長土肥らの雄藩の武士と公家が合体して、明治天皇を中心に据えて発足した明治新政府が、廃藩置県や佩刀禁止など、武士の既得権を次々と奪い、日本国民を平準化する一方で、要人が数多く洋行して急速な西洋化を進め、立憲議会制の研究もそろそろ始めたという時代である。しかし、完全に失業してしまった旧武士階級の欲求不満を解消する有効な施策は、何も出来ないでいた。新政府に協力していた西郷隆盛や江藤新平らが、旧武士の不満の鉾先をかわすため、征韓論をとなえ、洋行帰りの大隈重信や岩倉具視、大久保利通らが、世界情勢を踏まえて反対し、遂に西郷や江藤は野に下って、旧武士の反乱を準備する。江藤の佐賀の乱が起きたのは明治7年。熊本の神風連の乱と、それに呼応する萩の乱、秋月の乱が起きたのは明治9年。そして翌10年に、遂に西郷隆盛の西南戦争が起きるのである。
明治政府顧問が旧武士の一武将に
 この映画は、それらの旧武士の反乱を鎮圧するための、軍事顧問的傭兵として、南北戦争で活躍した、トム・クルーズ演じる米軍の大尉らが、明治新政府に雇われて来る所から始まる。それは日本政府に取り入ろうとする、アメリカ企業の後押しでもあり、何やら、現代の小泉政権とブッシュ政権、それにアメリカ経済界の新保守派ネオコンとの関係にも似た設定で、そのキャンペーンのために、この映画がつくられたのではないかとも、思えるくらい相似形なのだ。
 そしてトム・クルーズは、旧武士の反乱を指導する勝元盛次(渡辺謙)と、明治政府軍側で戦うことになるのだが、最初の紀州での戦いでは、政府軍側がかなり苦戦、結果的には政府軍側が勝つのだが、その過程で、クルーズは勝元の捕われの身となる。そして、勝元と蟄居で一緒に生活するうち、すっかり勝元の武士道精神に惚れ、勝元の最後の戦いには、鎧兜に身を固めて、勝元側の一武将として、明治政府軍と対峙することになる。
西南戦争で終焉の武士道が命脈を
 これらの部分は、ズウィック監督と、脚本に協力した劇作家のジョン・ローガン(00年に『グラディエーター』でアカデミー脚本賞候補)の、全くの創作で史実ではないが、そのこと自体は一向に構わない。しかし、明治9年から10年という以上は、勝元の反乱指導の中に、神風連の乱から西南戦争にいたる旧武士の反乱を想定し、その要にいた西郷を、勝元に体現させていることは、疑う余地がないのである。ということになれば、人物や場所の設定は創作でも、武器や装備や使った戦略は、歴史そのものに忠実でなければならない。にもかかわらず、勝元とクルーズは、西南戦争で、西郷側も明らかに使った当時の軍装備を一切無視して、砲火と銃器は全く使わず、日本刀と弓矢だけにこだわり、そのことこそが武士道なのだと強調し、政府側の砲弾と弾丸の雨あられの中に、玉砕して行く様を描く。これは歴史を下敷きにした創作ではなく、明らかな歴史の捏造である。そして、それに被さる詠嘆的なナレーションも良くない。「このようにして、日本の武士階級は終焉を迎えた。しかしその武士道は、日本人の精神的支柱として、その後も脈々と生きつづけ、現代も日本人の精神的伝統として、命脈を保っている」という意味のことが、朗々と語られる。私は、背筋に寒いものが走った。太平洋戦争末期の、神風特攻隊などを思い出して。
近代化と皇室と武士道を一体に
 さらに困った点をもう一点つけ加えると、天皇をまともに描けない日本映画と違って、明治天皇(中村七之助)を何度も登場させるのは、さすがアメリカ映画だが、その天皇が、政府軍の勝利をまともに喜ばず、武士道の権化であった勝元の死を悼み、生き残ったトム・クルーズの前で、近代化を進めても、日本の伝統はこれからも失わないようにしたいと、語るシーンだ。近代化と皇室と武士道を、一体のものとして捉えているわけで、おまけにこれを聞いたトム・クルーズが感泣する。ズウィック監督としては、多民族国家であるアメリカでは、ありえない一体感への憧れが、こういう形で結実したということなのかも知れないが、おそらく史実にはない、こういう安直な創作は、日本にとっては、危険で迷惑だということを知って欲しい。この一体感こそは、太平洋戦争に突っ走って行った軍国主義伸長の時代に、その底流に流れていた一体感と同じものであるはずだ。
ブッシュもイラク戦も肯定の監督?
 エドワード・ズウィックは、南北戦争で活躍した北軍の黒人部隊の、知られざる差別を掘り起こした『グローリー』(89)や、湾岸戦争で殉死した女性大尉の真相調査で、部下たちのエゴが明るみに出る『戦火の勇気』(96)で、ハリウッドの中では、比較的リベラルな考えをもつ監督と見られてきた人だが、大学で専攻し、最も深い興味を持っているとされる日本問題で、こんなに無批判に武士道にのめりこんでもらっては、困るのである。単細胞的に、単なるエキゾティシズムで、日本をとらえているのではないかと言われても、仕方がないであろう。尤も、『マーシャル・ロー』(98)では、テロリスト殲滅のためのCIAやFBIの協力を、何の疑問もなく礼賛したから、ブッシュ政権を批判したり、イラク戦争に反対したりする立場の人とは違うようだ。日本が、武士道精神を発揮して、イラクに派兵するなら、大いに結構といいたいのかもしれない。
批判喪失の映画ジャーナリズム
 いずれにしても武士道を、滅びの美学や玉砕精神でとらえるのは危険で、この映画のそうした欠点に触れた、日本の映画ジャーナリズムが殆んどないのも、嘆かわしいことである。
風俗描写や、衣装や装置の面で、そして俳優の演じる立ち回りのアクションで、随分よく日本を勉強した映画であるといった讃辞が並べられているが、そのレベルで、ジャーナリズムは止まってしまっているのである。広告の出稿がある映画会社に、遠慮しているとしか思えないのだ。
 世には、朝鮮総連や、教職員組合や、勝手に国賊と判断した外務省の役人の家などに、「征伐隊」を名乗って、銃弾を打ち込んだり送ったりして、会長らが逮捕された「刀剣友の会」という団体がある。そしてその団体の行動を当然という知事がいたり、その会の顧問に就任している国会議員がいたりする。こういう団体が、金科玉条のごとく信奉するのが武士道精神である。この映画は、こういう団体や、歴史教科書問題でもクローズアップされた、いわゆる偏狭なナショナリストたちに、勇気を与えかねない困った映画なのである。ことにイラクへの派兵が始まったいま、極右勢力に資する映画はゴメンである。

演技賞も不滅の名画なら良いのに
 勝元役の渡辺謙は、トム・クルーズを上回る貫禄で、アメリカの映画賞各賞で、演技賞部門に次々とノミネートされそうな雲行きという。またトム・クルーズの護衛役に抜擢された福本清三は、東映京都撮影所の切られ役専門の大部屋俳優で、40数年それに徹した人生が、NHKのドキュメンタリーでも取り上げられた人だが、今回、引退直前の最後の仕事として、この映画への出演を依頼され、セリフは少ないが、殆んど出ずっぱりという幸運に恵まれている。これらのことを大きく取り上げているマスコミも多く、映画会社の話題作りの抜け目なさに舌を巻くが、出来れば、演技賞候補の渡辺謙も、引退の花道を飾った福本清三も、もっと歴史に忠実で、武士の終焉と武士道についての、正しい評価がなされた不滅の名画で、賞を得、花道も飾れたのなら、どれだけ良かったことだろう。(上映時間2時間34分)

(木寺清美)
■全国主要都市松竹東急系劇場、各地のシネコンで上映中。
■配給社 ワーナー・ブラザース映画 03−5251−6300

《公開サイト》http://www.lastsamurai.jp
[写真:(C)2003 Warner Bros.Ent.All rights Reserved]
http://www.jcj.gr.jp/cinema.html#20040107

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