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ペッグ制離脱の最良な時期と手順 [中国経済新論]【長文だが外国為替相場制度論の概要を知るには重宝】
http://www.asyura2.com/0401/hasan33/msg/508.html
投稿者 あっしら 日時 2004 年 2 月 13 日 21:22:33:Mo7ApAlflbQ6s
 


中国社会科学院世界経済・政治研究所 何帆
中国社会科学院世界経済・政治研究所 ケ宝凌


一、背景

1973年のブレトンウッズ体制崩壊後、国際通貨制度は次第に多様化してきた。主要先進国は変動相場制に移行し、多くの途上国はペッグ制、すなわち自国通貨を先進国のひとつの通貨または通貨バスケットに連動させる制度を採用するようになった。IMFの統計によれば、80年代に、90数カ国がペッグ制を採用し、そのうち、単一通貨または複数通貨にペッグする国は60%以上を占める。

90年代以降、途上国はペッグ制を維持することが難しくなった。一方で、ペッグ制を採用する途上国が少なくなったことがある。現在、米ドルにペッグしている国・地域は23で、90年に比べ10減少した。部分的なペッグ制、すなわち一つの通貨または通貨バスケットにペッグしながら一定の範囲内での変動を認める国・地域の数はあまり変わらない。一定のルールに基づいて調整する柔軟な為替相場制度を採用しているのはニカラグアとチリの2カ国だけである。管理的変動相場制を採用する国・地域は1990年の23から44に増え、独自に変動相場制を採る国・地域は20から53に増えた。1994年にIMFが行った途上国調査によれば、1975年に、ペッグ制を採用した国が87%で、柔軟な変動相場制を採用した国は10%であったが、1985年にはそれぞれ71%と25%に変わり、さらに1996年にはペッグ制を採用する国が45%に低下し、半数以上の途上国は変動相場制を採用するようになった(注1)。一方で、国際資本移動のスピードが速くなり、規模が大きくなっている中、ペッグ制を採用する国にとって固定相場を維持できる期間が短くなっていることがある(注2)。Klein and Marion(1994)はペッグ制の採用期間について、1957〜90年の間にペッグ制を採用したラテン・アメリカ諸国とカリブ海の国々の87ヶ国のサンプルを分析した結果、ペッグ制の採用期間の中位数は10ヶ月で、3分の1の国がペッグ制を採用して7ヶ月目で放棄し、半数以上の国が1年以上維持することができなかった。たとえ外的なショックがない場合でも、固定相場制を廃止するケースも珍しくない。

現状から見て、ペッグ制の維持に成功した国は少数の例外である(Obstfeld and Rogoff, 1995)。多くの国は、自発的にペッグ制を廃止して比較的柔軟な為替相場制度に移行するか、通貨危機あるいは経済危機をきっかけにペッグ制を放棄せざるを得なかった。今まで、チリ、ポーランドとイスラエルはペッグ制の廃止に比較的成功した国である。タイミングとシーケンシング(手順)が適切であったため、為替制度の変更は経済に大きなマイナス影響を与えなかった。一方、廃止せざるを得なかった国、たとえばメキシコやタイは、通貨の大幅な切り下げ、金融システムの崩壊、経済成長の鈍化、政治の動揺などを経験した。

ペッグ制が最も盛んだった時期は80年代であった。多くの国々は高インフレに悩まされていた。当時流行っていた「名目アンカー」理論によると、この問題はペッグ制の採用により解決することができるとされていた。しかし、今日では、ペッグ制自身の欠陥に加え、国際経済環境の変化に伴い、ペッグ制のコストが高くなってきている。ペッグ制を採用する途上国にとって、最小のコストで最大の便益を得るには、早めにペッグ制廃止の計画を用意し、最も有利なタイミングで固定相場制を廃止すべきである。ここでは、ペッグ制が維持できない理由の分析から着手し、廃止のコストと便益の比較を通じて、廃止の最適なタイミングとシーケンシングを検討する。

二、ペッグ制が長続きしない理由

「名目アンカー」理論は80年代に始まった。当時、多くの国が高インフレに直面していたため、多くの経済学者は、ペッグ制がインフレ率を低下させることができると考えていた。この見方の理論的な根拠は名目アンカー理論である。これによると、自国通貨をある低インフレ国の通貨にペッグすれば、自国のインフレ圧力を有効に軽減することができる。なぜなら、固定名目為替レートは「アンカー」(anchor)のような役割を果たし、政府の信認(credibility)を高めながら、過度な拡張的マクロ経済政策の実施を制約することができるからである。さらに、柔軟な為替相場制度の下で、政府は為替レートを切り下げる動機がある。なぜならば、通貨を切り下げれば、輸出を拡大し、国際収支を改善することができるからである。このため、経済主体は価格を設定する時、先に対策を採り、価格を比較的高い水準に設定する。この結果、価格水準が高止まりする。しかし、ペッグ制の実施を発表すれば、政府は自分自身の「評判」を考え、突然あるいは予期せぬ切り下げを簡単に行うことができなくなる。このため、経済主体が価格を意図的に高めに設定し、切り下げの効果を相殺する必要がなくなる。これがいわゆる「信認効果」である。この効果を通じて、政府は、信認されたアンチ・インフレのシグナルを出し、これにより、公衆のインフレ期待が低下し、インフレ率が低下する。

80年代から90年代前半にかけて、ペッグ制は、ラテン・アメリカ、東欧と旧ソ連など高インフレ国に採用され、インフレを有効に抑制することができた。しかし、90年代半ば以降、新興国家の金融危機が相次いで発生したことをきっかけに、名目アンカー理論とペッグ制を見直す気運が高まった。タイ、マレーシア、インドネシアなど東南アジアの国々は、1997年の金融危機が発生するまでは事実上の米ドル・ペッグ制を採用していた。当初、円高のため、ペッグ制はこれら輸出志向型の国々に急速な発展をもたらしながら、為替相場の安定が国際貿易コストを低下させた。しかし、95年以降ドル高が進行するにつれて、東南アジア諸国は通貨が過大評価されるようになり、金融危機が勃発し、大きな代価を払うこととなった。

経済学者は、90年代以降の新興市場国の経済危機の経験と教訓を総括して、次のように指摘した。すなわち、為替相場を名目アンカーとする固定為替制度は、短期的・過渡的な措置にすぎず、いかなる状況下で名目アンカーの為替政策を採用しても、「退出の戦略」も同時に用意すべきである(Edwards, 2001)。

ペッグ制が長続きしない理由は次の点による。

第一に、途上国は金融政策の独立性を失い、外的なショックに迅速に対応できなくなる。「開放経済の政策トリレンマ」によれば、一つの国においては、自由な資本移動、為替相場の安定、金融政策の独立性という3つの目標のうち、2つだけを同時に達成することができ、1つは放棄しなければならない。基本的に資本自由化を実施した途上国は、ペッグ制を採用し為替安定の便益を享受する場合、金融政策の独立性を放棄せざるを得ない。ペッグ制の採用により、自国の通貨当局は為替安定を維持する義務が生じ、外貨を売買し為替相場を安定させなければならない。この結果、自国のベース・マネーの量が変化し、マネー・サプライは内生変数となる。また、途上国の資本市場は柔軟的でなく厚みもないため、金利など金融政策を通じて自国経済を調節する有効な手段を持たない。ペッグ制の下では、自国の金融政策は、ペッグ対象となる通貨の国の金融政策に追随せざるを得ず、経済依存が強まる。これは、事実上、内部均衡を犠牲にして外部均衡を維持するのに等しい。経済規模が小さい国あるいは対外依存度の高い国にとって、これは悪くない選択肢であるが、中の経済規模である多くの途上国にとって、内部均衡の放棄は耐えられないことである。Obstfeld and Rogoffによると、一国が外的なショックを受けた時、輸出需要が低下すれば、固定相場と、当分調整できない名目価格と賃金により、経済的被害は拡大する。短期的に輸出と輸入の相対価格を調整することができなければ、国内の就業率と生産の低下は必至である。

第二に、名目アンカーとしてインフレ率を抑制するメリットが小さくなる。ペッグ制を支持する人たちは、ペッグ制の大きなメリットとしてインフレ率を有効に抑制できる点を挙げている。しかし、現在、インフレはもはや世界経済や途上国にとっての重要問題でなくなっている。80年代末期に、西半球の年間インフレ率は400%を超えていたが、10年後には1桁台に急速に低下した。他の途上国も同じである。皮肉にも、現在世界経済に影を落としているのはデフレである。確かにペッグ制はインフレを抑制することができるが、唯一の手段ではない。独立でかつ信認される中央銀行の存在などによってもインフレを抑制することができる。理論的には、ペッグ制を採用してマネー・サプライの調節を通じた場合でも、マネー・サプライの目標を守り為替相場の変動を通じた場合でも、インフレ率の目標を達成することができる(Tornell and Velasco, 2000)。実際、学界では、ペッグ制はインフレ期待を有効に抑制できるかどうかについて依然議論が多い。ペッグ制はインフレ期待を抑制できないと考える学者は、次のような理由を挙げている。(1)インフレ期待は多くの要因によるだけでなく、期待は常に任意に変わる(arbitrary change)ため、逆にペッグ制を左右し、ペッグ制の崩壊をもたらす。(2)インフレ期待の変化は、任意ではなく、財政政策の変化など経済的要因を反映しても、その変化がペッグ制を苦境に追い込むことになる。(3)政府の信認仮説は、公衆が経済の運営を十分に理解し、特に失業率や、短期のフィリップス曲線の傾き、政府の目標関数などを完全に把握できることを前提としている。このため、この仮説は現実の社会においてその実用性が限られている(張志超、2002)。

第三に、現行の国際通貨制度の下で、自国通貨を長期的にある通貨に固定しても実効為替レートの変動を抑えることができない。現在、主要先進国の通貨、たとえば米ドル、ユーロ、日本円などは変動相場制である。途上国の通貨がその中の一つにペッグしても、ほかの通貨に対しては変動するため、外部からの為替変動による経済への撹乱は依然生じることがある。東アジアの場合、伝統的な米ドル・ペッグの為替制度はこれら国のマクロ経済を不安定化させた。1985年のプラザ合意以降、円が上昇すれば、アジアの経済成長は加速し、円が下落すれば、アジアの経済成長は減速する。90年代半ば以降、米ドルはまず対円で大幅に上昇し、次いで対マルクも急激に上昇した。この結果、為替レートを調整しなかった東南アジア諸国の通貨も対円と対マルクで上昇した。自国通貨の上昇と賃金コストの上昇は、これら国の輸出競争力を低下させた。1996年に、タイの輸出伸び率は3%と、1995年の22.5%から低下し、経常収支赤字は162億ドルに膨らみ、対GDP比で8.5%に達した。輸出と経常収支の大幅な悪化は、通貨危機勃発の契機となった。

第四に、ペッグ制を採用する途上国は、「非対称的衝撃」を受けやすい。ペッグ対象の通貨には、一般的に、経済状況が良好でインフレ率が比較的低く、かつ自国との貿易関係が密接な先進国の通貨が選ばれる。ペッグ制では、自国とペッグ対象の通貨の国はマクロ政策と景気循環でなるべく一致する必要がある。そうすれば、ペッグ制のメリットが発揮できる。しかし、実際には、途上国と先進国は様々な面で差があり、政府のマクロ政策目標も異なるため、景気循環を一致させることは難しい。ペッグ制の採用により、自国経済はペッグ通貨の国に大きく依存することになり、独立した政策を採りにくくなるため、非対称的衝撃を受けやすい。関志雄(2003,『亜洲貨幣一体化研究』)によれば、1985年のプラザ合意以来、アジア諸国と米国の経済成長の同調性は大きく弱まっている。(日本を除く)東アジア経済と米国経済の相関係数は、1971〜84年の0.731から、1985〜98年には−0.193に低下した。このことはペッグ制を採用する東アジア諸国に不安定性をもたらした。香港を例に挙げる。香港は中国大陸との貿易・投資関係が日増しに緊密になっている一方、米国の経済成長率との相関は大幅に低下している。しかし、ペッグ制を採用しているため、香港は米国の金利政策に追随せざるを得ず、アジア金融危機後も拡張的金融政策で経済を刺激することができず、景気後退を深刻化した。

第五に、資本移動が日増しに激しくなっており、金融市場の規制が次第に緩和されてきている点である。ペッグ制を維持するために、中央銀行は大量の外貨準備を保有して危機の発生に備えなければならない。経験則からみると、資本移動がない場合、外貨準備は輸入額の3ヶ月の相当分を保有すれば十分である。しかし、アジア金融危機の際、アジア諸国はこれよりも高い水準の外貨を保有していたが、大量に流入した投機資金に抵抗できなかった。また、投機的攻撃を受けた場合、中央銀行は短期金利を引き上げるため、資金調達コストが上昇し、借り入れ需要が減少し、銀行の収益に悪影響を与える。東アジアの金融システムは、銀行システムを中心としており、債券市場が成熟していないという共通の特徴をもっている。このため、企業は銀行からの短期借り入れに頼らざるを得ない。高金利は不良債権を増加させ、銀行危機の発生可能性を増大させると同時に、貸し渋りの発生や国内投資の減少を誘発する。最終的に、中央銀行はペッグ制を守れず、マクロ経済に対する国のコントロールが失敗したというシグナルが市場に送られ、投資家は自国経済に対する信頼を失い、大量な資金が国外に逃避する。返済できない巨額な債務により、銀行と企業が破産するだけでなく、連鎖反応を引き起こし、経済に甚大な損害を与える。

ペッグ制の離脱後は完全な変動相場制を採用すべきであろうか?実際、新興市場国にとって、完全に自由に変動する為替相場制度は受け入れたくない。この点について、Calvo and Reinhart (2002)は「変動恐怖仮説(the fear of floating hypothesis)」を提起した。すなわち、柔軟な為替相場制と分類された国さえ、自国通貨の為替レートを一つの通貨(一般的に米ドル)に対し狭いレンジ内に抑えているのは、これらの国は大きな為替変動について長期的な恐怖を持っているからである。その理由は、資本流入が発生した時、あるいは交易条件が改善した時、新興市場国は輸出競争力の低下を恐れて通貨の上昇を受け入れたがらないためである。また、通貨下落の場合、これらの国は長期にわたって信認が低いため、より深刻な結果になる。このように国際貿易に対する変動相場の影響力や、途上国の金融システムの未整備、為替相場に対する政府の調節能力の欠如などから、多くの途上国にとって、完全な変動相場制は最適の選択肢ではない。一方、ペッグ制からの離脱は、必ずしも完全な変動相場制の採用を意味せず、為替相場制度をより柔軟にするだけのことである。たとえば、単一通貨へのペッグから通貨バスケットへのペッグにシフトするか、または、一定のレンジ内での変動を容認するという選択肢もある。具体的にどのような選択肢を採用するかは各国の状況による。

三、ペッグ制離脱の最良なタイミングとシーケンシング(順序)

1994年のメキシコと97年のアジア諸国のように、通貨の大幅な下落、対外債務の返済不能、政府信認の喪失、景気後退などに見舞われ、離脱に失敗した国がある一方、チリや、ポーランド、イスラエル、台湾など、離脱に成功した国・地域もある。離脱前の準備と離脱後の対策が行き届き、適切なタイミングを把握しておけば、ペッグ制からの離脱を成功させることは十分可能である。

1.理論的な最適離脱時機

簡単に言えば、理論的にペッグ制離脱の最も良いタイミングは、ペッグ制の限界コストが限界便益を上回った時である(Edwards, 2001)。大多数の途上国にとって、ペッグ制の便益は主に2点ある。一つはインフレ期待の低下に伴いインフレ率が低下する点で、もう一つは国際貿易における取引コストが低下し、自国の対外貿易の安定した発展を促進する点である。この便益はペッグ制の初期に特に顕著である。しかし、時間の経過、およびインフレ率の低下に伴い、ペッグ制の便益も小さくなる。また、インフレの惰性などの要因を受け、自国通貨の実質為替レートは上昇しやすく、輸出商品の価格を高め、自国の国際競争力を低下させる。もし実質為替の上昇が生産性上昇など他の経済要因の変化に相殺されなければ、固定相場を維持するコストは時間と共に上昇する。便益の下降曲線とコストの上昇曲線が交差する時は固定相場制を離脱する最も良いタイミングである。便益曲線とコスト曲線の位置と傾きを決定する要因は開放の度合い、人々の期待、財政政策などであるが、これらの要因は国によって異なるため、各国にとってペッグ制離脱の最良のタイミングも異なる。

留意すべき点は、政府は政策を制定する時、短期の効果を重視するあまり経済への長期的な影響を見落とすことがある。また、現行政策に対して既得権益を持つ団体が、現行政策を守ろうとするため、仕方がない時にならないと、政府は現行政策を簡単に変更しない。政府のこのような短期行為により、しばしば離脱の最良のタイミングを逸してしまう。離脱が遅れた場合、政府信認の喪失、経済成長の鈍化、あるいは金融システムの崩壊など多大な代価を払うことはしばしばある。

2.離脱コストを左右する経済指標

ペッグ制からの離脱は、為替相場の名目アンカー、および為替の安定による輸出入の便益を放棄することを意味する。柔軟な為替相場制度の採用により、自国通貨の過大評価圧力が軽減され、為替相場が変動し経済の不均衡要因が是正される。その上、自国の金融政策が独立性をもつようになり、さらに適切な拡張政策が採用でき経済成長が刺激される。一国の為替相場制度が安定的なペッグ制から柔軟な変動相場制に移行する時、短期的な為替相場の上下変動は避けられない。為替相場の変動は、人々の経済に対する期待に影響を与え、このような期待はまた為替相場の趨勢にも影響する。為替相場の大幅変動を避けることができれば、為替相場制の移行による経済へのマイナス影響を低下させることができる。それでは、どのように人々の期待を誘導し、為替変動を抑えるのか。実は、ほかの経済指標を調節することによってこの目的を達成し、ペッグ制の離脱コストを最小に抑えることができる。

第一に、良好な財政状況を保つことである。すなわち、財政赤字や対外債務負担を比較的小さく抑えておくことである。これにより、まず、政府政策の信認が維持される。巨額な財政赤字を抱えている国に対しては、人々は、その経済の先行きを懸念し、政府の能力に疑問を持つ。次に、政府が間接的調節手段で為替を調節する時に受ける制約が小さくなる。さらに、対外債務負担が少ない場合、経済主体の受ける為替変動のショックも小さく、経済の安定に寄与し、投資家の信頼に動揺を与えることもない。要するに、良好な財政状況は、人々の期待など自国通貨の大幅な変動を誘発する要因を減らすことができる一方、為替変動による経済へのマイナス影響を軽減することができる。この時、ペッグ制の離脱コストは比較的小さい。

第二に、成熟した金融市場は為替変動のコストを低下させることができる。途上国の金融市場は一般的に未成熟で、各種長短期の投資手段が少なく、株式や債券など直接金融のチャンネルも円滑でないため、企業は外資に対する依存度が高い。為替が変動する時、企業は大きな財務リスクに直面することになる。また、金融市場が未成熟のため、企業は対外債務リスクをヘッジする手段も少ない。こうしたことから、金融市場の発展の度合いはペッグ制の離脱コストに影響する。離脱前に、投融資の手段を増やすなど金融市場を整備することができれば、ペッグ制を離脱する時に為替変動があっても経済に与えるダメージを最小に抑えることができる。

第三に、安定的な金融システムと有効な監督・管理は離脱コストを軽減することができる。ペッグ制を離脱する時、為替の変動や、自国の金融システムへの国際資本からの攻撃は疑いなく試練である。不良債権比率が比較的低く、資金の流動性が比較的高く、利潤が比較的高いなど運営状況が良好な金融システムでは、為替変動による不利の影響に対応し、あるいは吸収することができる。政府の有効な監督・管理は、金融システムの健全な発展を保証することができる。

第四に、国際収支が黒字の時、ペッグ制の離脱コストは比較的低い。経常収支が黒字の時に離脱する場合、自国通貨の切り下げ圧力がなく、為替変動に対する市場の反応も比較的理性的である。逆に、国際収支が赤字の場合、自国通貨は切り下げ圧力にさらされるため、ペッグ制の離脱は自国経済に対する人々の信頼を揺るがせ、自国通貨の大幅な切り下げを誘発する可能性がある。同様に、資本の対内移動の圧力がある時にペッグ制を離脱すれば、自国の経済ファンダメンタルズに対する信頼を守ることができ、大幅な切り下げを避けることができる。逆に、資本の対外逃避がある時にペッグ制を離脱する場合、更なる大規模なパニック的資本逃避を引き起こす。

第五に、中央銀行の外為市場への介入能力を高めることは、安定的な移行、移行コストの削減にとってプラスである。多くの途上国にとって、変動相場制の下で政府が為替相場に対する間接的な調節能力の不足は、経験が足りないという要因もあるが、調節手段が少ないという要因もある。離脱する前に、為替相場に対する中央銀行の調節能力を高めることができれば、為替変動の度合いを和らげ、経済が支払う代償を軽減することができる。

ペッグ制を離脱した後、為替相場では異なる度合いの変動が生じる。変動が激しすぎた場合、特に大幅な切り下げの場合、経済は高い代償を払わなければならない。このため、多くの経済学者が提案したように、為替レートが上昇する時、あるいは市場が比較的安定した時、および政府の信認が比較的高い時が比較的良い離脱のタイミングである。

国によって政府の政策目標や具体的な経済状況が異なるため、離脱のタイミングに対する選択も異なってくる。一部の国にとってペッグのコストが特に高くない状況下で、上述の条件(すべてではない)が整う時に離脱するのが最適の選択かもしれないし、一部の国にとってすでにペッグ制を維持できない場合、たとえマクロ経済構造が有利でなくても、離脱を決断すべきである。

3.離脱時機を逃した時のコスト

適時にペッグ制を離脱することは、経済の安定的な発展を持続させる最適の選択である。しかし、政府の短期的行為ゆえに、コストと便益を考慮する時、政治のニーズも考えるため、しばしばペッグ制の便益が過大評価され、コストが過小評価される。この結果、離脱のタイミングが遅れ、通貨の切り下げ、銀行の破産、景気後退など深刻な代償を払うことになる。ペッグ制を離脱した後、経済の安定を保証するほかの措置を採らなければならない。たとえば、新しい「名目アンカー」で自国の為替相場の期待を安定させることや、独立に政策を制定する権限を中央銀行に付与すること、為替相場に対する政府の調節・コントロール能力を強化すること、などである。

五、中国への示唆

現状の中国では、人民元は米ドルにペッグしており、基本的に固定相場制を採用している。資本規制を実施している現状下で、この制度は維持することが可能である。しかし、国際金融の融合とWTO加盟に伴い、資本規制のコストが高くなる一方、その有効性が低下している。これを背景に、資本勘定の開放はすでに審議の日程に上がっており、今後、漸進的に進められるだろう。「トリレンマ」論に基づき、資本自由化が実施された場合、金融政策の独立性と固定為替相場制のうち一つだけ選択することができる。発展途上の大国である中国にとって、金融政策の独立性を有することは非常に重要であるため、徐々に柔軟な為替相場制度に移行することが必要である。

一方、現状の米ドル・ペッグの為替制度は深刻な非対称性を抱えている(高海紅、2001)。現在、中国は対米ドルで固定相場になっているが、中国の貿易構造から見て米国は圧倒的なシェアを占めているわけではない。中国は日本やその他の周辺諸国・地域との貿易のウェイトがますます大きくなっている。人民元は対米ドルで固定しているが、米ドルは他の主要通貨と変動しているため、中国も為替不安定のリスクを抱えている。ただ、一気に完全変動相場制に移行することは望ましくない。逐次に為替規制を緩和し、企業と住民に準備の余裕をもたせることで、為替変動に伴うマイナス影響を軽減することができる。現在、中国は、通貨バスケットの中の他の通貨のウェイトを高め、変動幅を逐次に拡大し、適度に為替レートの水準を調節するなどの措置で、離脱の戦略を徐々に試みてもいいだろう。

中国はペッグ制を離脱する時に以下の点に留意しなければならない。まず、切り下げ圧力のある時に離脱しないことである。切り下げは市場にパニックをもたらし、制御不可能な状態に陥る可能性がある。為替レートが長期均衡点あるいは切り上げの傾向にある時に離脱するのが最も良い。第二に、居住者が自国通貨に対する信頼が高い時に離脱すること。経済状況が良好で、インフレ率が比較的低い時、居住者の信頼は比較的高い。第三に、輸出構造を転換し、国内市場の調整も合わせ、経済成長の輸出依存を低下させることである。第四に、資本自由化の改革は慎重に行うべきである。順を追って徐々に進めると同時に、監督・管理を強化する。

現在、中国にとって為替相場の柔軟性を高めるには不利な要因として、(1)金融市場が未成熟で、リスクをヘッジする金融商品が少ない、(2)中央銀行は柔軟な為替相場制の下で金融政策を実施する経験がなく、その能力についてさらに検証する必要がある、(3)経済成長の輸出依存が高い、(4)国内金融機関の不良債権が多く、金融システムが脆弱であることが挙げられる。一方、有利な要因は、(1)中央銀行の外貨準備は潤沢である、(2)金融政策は一貫して比較的安定で、インフレ圧力が強くない、(3)財政状況が良好で、赤字が比較的少なく、通貨当局と人民元に対する人々の信頼が比較的高いことである。

(注1)残りの3%は部分的な変動相場制に分類されている。
(注2)この調査の中、東南アジア諸国については政府が変動相場制と発表しているため、変動相場制国に分類されたが、実際、1997年にアジア金融危機が起こるまで、これら国の為替相場は長期的に米ドルにペッグしていた。


参考文献

Calvo, Guillermo A., and Carmen M. Reinhart. 2002. "Fear of Floating" NBER Working Paper No.7993. Cambridge, Mass. : National Bureau of Economic Research.

Edwards, Sebastian, 2001, "Exchange Rate Regimes, Capital Flows and Crisis Prevention", NBER Working Paper No.8529.

Klein, Michael W., and Nancy P. Marion, 1994, "Explaining the Duration of Exchange-Rate Pegs", NBER Working Paper No.4615.

Obstfeld, Maurice, and Kenneth Rogoff, 1995, "The Mirage of Fixed Exchange Rates", NBER Working Paper No.5191.

Tornell, Aron and Andres Velasco, 2000, "Fixed Versus Flexible Exchange Rates: Which Provides More Fiscal Discipline?" Journal of Monetary Economics.

関志雄,2003,『亜洲貨幣一体化研究』,中国財政経済出版社
張志超,2002,「匯率制度理論的新発展:文献綜述」,『世界経済』,2002年第一期
張志超,2002,「匯率政策"新共識"及"中間制度消失論"」,中国社会科学院国際金融中心工作論文、No.10
高海紅,2001,「開放中国的資本項目」,中国社会科学院国際金融中心工作論文,No.04

(出所)『人民幣懸念――人民幣匯率的当前処境和未来変革』(中国青年出版社、2004年)より一部抜粋。
※和訳の掲載にあたり許可を頂いている。


2004年1月26日 「世界の中の中国」欄掲載 「高まる人民元の切り上げ圧力で露呈したドルペッグの限界」:http://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/040126world.htm
も合わせてご覧下さい。

 

何帆  He Fan
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1971年、河南省生まれ。1993年海南大学経済学院を卒業。1996年、2000年に中国社会科学院大学院より国際経済学修士と博士学位を獲得。1998年から2000年までの間、ハーバード大学経済学部に客座研究員として留学。現在、中国社会科学院世界経済・政治研究所において、当研究所が発行している専門誌「世界経済」の編集を務める。国際金融、国際政治経済学及び制度変遷理論などの領域において、研究活動を展開している。

ケ宝凌  Deng Bao Ling

2004年2月13日掲載

http://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/040213world.htm


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