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自分は誰で、どこにいて、何を知っているか〜イ・スヨン監督『4人の食卓』映画評(MIYADAI.com)
http://www.asyura2.com/0401/idletalk8/msg/543.html
投稿者 まさちゃん 日時 2004 年 3 月 29 日 14:59:10:Sn9PPGX/.xYlo
 

◆ 自分は誰で、どこにいて、何を知っているか〜イ・スヨン監督『4人の食卓』映画評
http://www.miyadai.com/index.php?itemid=87
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■韓国映画の実力を日本に知らしめた『シュリ』『JSA』など一連の映画は、38度線に
象徴される政治状況を「後景」に据えながら、「前景」において酷薄な人間模様──社会
状況によって引き裂かれる恋愛や友情──を描く、という語り口のパターンを示してきた。
■これに似ているが、本作は、ポン・ジュノ監督『殺人の追憶』などと同じく、を「後景」
に激動する成長社会を据えながら、「前景」において不透明な人間模様──「相手や自分
の正体の分からなさ(あるいは意外な正体)」──を描くという語り口のパターンを示す。
■日本でも60年代から70年代にかけてこの種のサブカル表現(映画や漫画)が量産された。
急激な都市化と郊外化によって共同体が空洞化していく時代。自分が住んでいる場所やそ
こに住んでいる人間の正体が分からないという不安が、数々のサブカル表現に刻印された。

■幸せに暮らすパパとママとあたし。ふと気付くとママの頬には鱗が生え、パパの犬歯が
伸びている。やがて蛇へと変身してゆく。それというのも、パパとあたしの乗った車が、
団地の側で白蛇を轢いたまま放置したからだ──古賀新一の漫画『白へび館』(65)だ。
■フィクションのみならず、現実にも似た出来事があった。団地で自殺者が頻出するので
調べてみると、勝手に墓や祠を移動していたのが分かり、団地住民を集めてエクソシスト
がお祓いすると以降自殺者は出なくなった、等。自分たちは一体どこに住む誰なのか──。
■これとは別に、「限界を知る者同士が引かれ合う」話も量産された。今村昌平『赤い殺
意』(64)から、70年代を席巻した日活ロマンポルノの数々まで、二十年前までの日本映
画には繰り返し描かれてきたモチーフだ。例えば『赤い殺意』は典型的な形を示している。
■新興住宅地で平穏な生活を送る人妻が強姦され、以降「限界状況」に陷る。強姦犯も「限
界状況」を生きてきた男。だが図書館勤めの夫はシステムの中で生きるだけで一度も「限
界」を試されたことのない人間。結局人妻は、むしろ強姦犯との間の絆を深めていく──。
■因みに高度経済成長期の60年代日本には、営利誘拐殺害の「吉展ちゃん事件」、全国を
股に掛けた連続射殺殺人の「永山則夫事件」、連続強姦殺人の「大久保清事件」などが日
本全国を震撼させた。さて、最近まで韓国は似た状況にあった。そこで『4人の食卓』だ。
■結婚を控えたジョンウォン。地下鉄内での母親による幼児毒殺の直前の姿を目撃して以
降、自室の食卓に佇む幼児の姿が見えるようになる。彼は、友人の子殺しを目撃して証言
台に立つヨンと知り合うが、彼女にも幼児が見えると言う。彼女には霊媒師の母親がいた。
■ジョンウォンもヨンもヨンの友人も共通して「限界状況」を知っている。ジョンウォン
には幼児期の記憶がない。ヨンの助けで記憶を取り戻すと、今の父親は本物でなく、実父
の幼児虐待や妹の死や轢き逃げ目撃など凄惨な体験ゆえに、記憶が封印されたのだった。
■子殺しの証言台に立つヨン。マンション管理人は真相を知っているとヨンの夫をゆすり、
夫はヨンを疑う。というのも、ヨンはかねて逆様に落下する投身自殺者と目が合ったと主
張するが、落下速度からして物理的にありえない。夫はヨンの精神状態を疑っているのだ。
■被告人である友人。ヨンの助けによって「母親の肉を食べて生き残った」という記憶が
甦ったのを機に精神状態を失調させていて、そもそも自白が当てにならない。結局、ヨン
の記憶も友人の記憶も怪しく、本当のところは誰が友人の子を殺したのかが分からない。
■映画には《人は受け入れられる経験しか信じない》《受け入れられない事実は事実じゃ
ない》というヨンの台詞が登場する。急成長する韓国。何でもありの社会。でも本当に何
があったのかは心の容量に収まる範囲でしか明らかにならない。そこで何が封印されたか。
■要は「限界の外」に何があるか。この疑問は「限界状況」を知る者のみが持ちうる。「限
界状況」を知る者は「自分の限界」を試されて「自分の限界」を知り、ゆえに「限界の外」
を知っている。だから「限界状況」を──隠蔽されたモノを──知る者同士が絆を結ぶ。
■過去の清算な記憶をリマインドし、記憶を封印した「自分の限界」を知ったジョンウォ
ンは、婚約者と疎遠になり、ヨンと絆を結ぶだろう。彼から見ると「自分の限界」を──
自分の不可能性を──知ってくれているのは婚約者ではなくヨンだけ。ならば当然なのだ。
■『4人の食卓』には、過去の日本のサブカル表現に頻出した二つのモチーフ──「いっ
たい私は誰で、どこにいるのか」&「限界状況を知り、限界の外を知る者同士の絆」──
が刻印される。和泉聖治監督『沙耶のいる透視図』(86)から直接のモチーフ引用もある。
■人は懐かしい思いがしよう。同時に、日本の過去を重ね、韓国映画の躍進の秘密を垣間
見よう。とするなら、韓国が38度線や徴兵制を失って「日本のように幸せで豊かな社会」
になり切った暁に、韓国映画は日本映画のように堕落しかねない。今から手を打つべし。

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