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パソコンのない人生は考えられない IT技術が筋ジス患者の「生」を支える【この記事には感動しました。益々PCが好きになり】
http://www.asyura2.com/0401/it05/msg/350.html
投稿者 クエスチョン 日時 2004 年 4 月 07 日 07:45:21:WmYnAkBebEg4M
 

【パソコンがかなえる「クオリティー・オブ・ライフ」】

パソコンのない人生は考えられない IT技術が筋ジス患者の「生」を支える【この記事には感動しました。益々PCが好きになり】
http://www.asahi.com/tech/apc/040405.html

石橋悦子さんは父・勇男さんや支援者が作る電源ボタン(枕元の白いボタン)やマウス代わりのスイッチ(左手わき)などでパソコンを操作する

 筋力が衰え身体の自由が利かなくなる難病筋ジストロフィー。自力での呼吸も困難になり人工呼吸器を装着した石橋悦子さんは声も失った。「生」を支えるのは一台のパソコン。かろうじて動く右手で両親と、友人たちと会話する。そのPC活用は理解ある支援者と技術者の存在抜きには語れない。(文・神田憲行 写真・赤城耕一)

■ ■ ■ ■ ■

 人工呼吸器の規則正しいリズムがパコーン、シューと病室内に響き、大きな窓から鹿児島の陽光がさんさんと降り注いでいる。石橋悦子さん(35歳)は窓際のベッドにいた。

 「こんにちは」と挨拶をすると、ベッドサイドにおいてあったB5サイズぐらいの厚紙の板を示した。50音や数字がかいてある文字盤だ。それを悦子さんのわきにたてると、彼女はマドラーのようなスティックで1文字ずつ指し示した。

 事前にメールのやりとりをしていた編集者が

 「今日はいい天気になりましたね」

 というと悦子さんがまた指し示した。“わたし はれおんな(晴れ女)”

 室内に笑い声がどっとおき、彼女も脚をばたつかせた。おそらく彼女も笑っているのだろう。

 石橋悦子さんは声を出して笑うことができない。喉に人工呼吸器をつけているから、話すこともできない。両足で立つこともできず、左手も自由に動かない。なぜなら彼女は筋ジストロフィー患者だからだ。

 筋ジストロフィーとは、遺伝子欠失のために筋萎縮や筋力の低下をきたし、徐々に全身の自由が奪われていく病気である。現代ではまだ治療方法は見つかっていない。

 彼女は5歳のときにその病名がくだされ、7歳から入院生活を送っている。呼吸障害を併発し、「気管切開」して喉を裂いて人工呼吸器の装着を行ったのが24歳のとき。人工呼吸器は空気を通りやすくするが声帯を圧迫するため、ほとんどの患者は声を失う。

 彼女も装着後は他人とのコミュニケーションは文字盤が頼りになった。もちろん外に出かけることもできない。窓から見る空や週一回のシーツ交換でベランダに出た時の風だけが、彼女に季節の移ろいを実感させるだけだ。

 しかし彼女はこの状態で11年間ベッドの上で過ごしてきたにもかかわらず、

 《自分は一人きりでもないし、寂しくない》

 という。パソコンがあるからだ。

パソコンのない人生は考えられない
「身体の一部だから」

 悦子さんの一日は我々の日常と同じように、コンピューターの起動から始まる。ベッドわきに取り付けられたプラスチック製の弁当箱が、パソコンの起動ボタン。触れると「ゴンッ」という音とともにパソコン本体の起動スイッチが押される。

 まずはメールのチェックから。体に不自由な人用に開発されたソフトを使って、マウス代わりのスイッチを右手の指だけで操作してメールソフトを立ち上げる。文章はディスプレー上にキーボード画面が映し出され、入力していく。

 彼女はこうして、一日10通近いメールのやりとりをして、4〜5時間もパソコンに向き合うという。私とのメールのやりとりで、悦子さんはパソコンと自分をこう形容していた。

 《毎日寝た生活を送る者にとって、パソコンは身体の一部です。とくに私のように声が出ない人には自己表現の大切な手段で、パソコンがない生活は考えられません》

 悦子さんの生は、大げさでなくパソコンによるコミュニケーションに支えられていた。

 悦子さんがもっとも頻繁にメールのやりとりをする相手が、鹿児島の錦江湾近くに住む両親だ。お母さんの石橋丸子さん(63歳)は毎夕、悦子さんから送られてきたメールをチェックし、それに返信する。翌朝、悦子さんがまたそれをチェックして返信する。

 「たわいもない話なんですよ。私がお父さんについて愚痴ったりとか」

 ――悦子さんの反応は?

 「ああ、お父さんのそういうところわかるわかる、いうて」

 丸子さんが笑い声を上げた。なにげない母子のキャッチボール。しかしそれが二人の見えない絆を確かめる行為になっている。実は丸子さんも48歳のときに筋ジストロフィーを発症。現在、車いすの在宅治療を余儀なくされているからだ。しかし二人のキャッチボールにはそんな病気の話は出ない。父親の石橋勇男さん(70歳)が、私に「メールでわからないところがある」と見せに来た。

 「(^_^;) 」

 「これ、汗をかいている顔文字ですよ。焦ったという意味です」

 「ああなるほど。悦子はどこでこういうのを覚えるんだろうねぇ」

 首を振りながら、勇男さんは楽しそうな表情を浮かべた。

 子供のころから文章を書くのは好きだった。9歳のときに書いた「おかあさん」という詩はボニージャックスによって歌にもなった。小説にも挑戦し、なんと不倫小説を書き上げた。その理由をメールでこういう。

 《自分もあんなスリルを味わいたいから(笑)と言うか、不倫する勇気はないのでせめて空想の中だけでも・・・ナーンテネ(爆)》

 悦子さんに文章を書くことを勧めたのが、愛称「葉っぱ」と呼ばれている臨床心理士の今村葉子さんである。葉っぱさんは、悦子さんのような難病患者にはコンピューターは欠かせない道具であるという。

 「寝たきりの難病患者にとってパソコンは嬉しいという感情だけでなく、嫉妬や辛さなどの感情もパアッと表現できる手段なんです。だから詩を書いたり、パソコンで絵を描いたりする人も多いですね」

 今村さんはターミナル・ケア(終末医療)に携わっている。死が目前に迫った患者さんたちに安らかに現実を受け入れていくよう寄り添う。そうやって何人もの難病患者さんを見送ってきた経験から、今村さんは患者たちの心境がわかる。

 「寝たきりの患者さんたちにとって何が寂しいかというと、自分のベッドから看護師さんや面会人たちが立ち去っていく足音らしいんですよね。まるで自分が忘れ去られた存在のように感じるそうです。コンピューターで自己表現をするというのは、忘れさせない手段でもあるわけですよ。悦子は小説を書いてますが、それが上手だと褒められなくてもいい。私のようにけなしに行くだけでも、コミュニケーションになるのですから」

意思を表現できるようにするのも医療

福永院長(右)は悦子さんを「悦子、悦子」と我が娘のように呼ぶ。主治医の園田至人(よしと)医師(左)には体調の相談をメールで送る

 悦子さんが入院している国立療養所南九州病院(現・国立病院機構。鹿児島県加治木町)には筋ジス専門病棟がある。約80人の入院患者の多くは自分専用のパソコンを導入している。病室には専用の高速回線が引かれ、メールを書いたりネットで好きなアーティストの情報を集めたりしている。なかには恋人を見つける人もいるという。

 これらはすべて同病院の福永秀敏院長の「難病患者のQOLを高める」という信念に基づいている。

 QOL(Quality Of Life:生活の質)とは1980年代にアメリカで起こった終末医療に対する概念だ。たとえばガンの末期患者が延命治療だけでベッドに縛り付けられているのではなく、人生の到達点に向けてより快適な、人間的な生活を送ろうというものである。QOLは福永さんによるとここ日本でも10年ほど前から盛んに取り上げられるようになり、とくに四肢の動きが奪われる筋ジスや筋萎縮性側索硬化症(ALS、宇宙物理学者のホーキング博士が罹患)患者などの延命措置でもある気管切開とは表裏一体の関係にある。

 かつて日本ではそのような患者に気管切開をして延命措置を施すことに議論があった。身体が動かせず、言葉もしゃべれない。ただ寝ているの人生を送らせて意味があるのか、というのだ。事実、欧米では気管切開はほとんど行われず、患者の多くは呼吸障害により死を迎えるという。

 「イギリスでは気管切開は社会的コストの見地から公費負担が認められていません。自分の意志で気管切開をして、公費で人工呼吸器を装着できるのは日本だけなのです」

と福永さんはいう。

 人工呼吸器の発達によって、筋ジスなど難病患者の余命は昭和60年代の20歳前後から現在は30歳前後へと延びている。しかし、と福永さんは指摘する。

 「天井を見上げているだけの人生を残して、いいのでしょうか。もちろん人間はどのような状態でも生きているだけで尊厳はある。でも他人とコミュニケーションする能力がわずかでもあるのなら、文章を書いたり自分を表現したりできるようにするのが、QOLなのです。そしてQOLにとってコンピューターの存在は果てしなく大きい」

パソコンが延命以上のQOLを保証する。

 動かない四肢の奥に秘められた意欲があるならば、それを表現させるのが現代の医療だ。命の境界線のぎりぎりにあっても、その瞬間まで自己実現を支援しよう。それが福永さんの目指す医療であり、悦子さんは身をもって現している。

患者自らがPC支援操作できること
支援者の思いはひとつ

 個人情報の流出事件は頻繁に起きている。昨年3月から今年2月までに、「朝日新聞」などで報道された主な個人情報トラブルのうち、情報件数が約100件を超す例を表にまとめた。この表から、多くのことがわかる。簡単に分類してみよう。

 ひとくちに悦子さんがパソコンを使っていると書いても、もちろんそこには健常者が想像もできない苦労がある。いくらCPUが高速化しようとも、いくらOSのバージョンがあがろうとも、パソコンが人に近寄ってきて使いやすくはならないことはパソコン・ユーザーなら誰しも実感していることだろう。しかし悦子さんのような重度障害者は、そのわがままなパソコンに近寄ってきてもらわないといけないのだ。

 彼女がパソコンを利用する上で、欠かせない2人の技術者がいる。

 一人は日立製作所ソリューション統轄本部でアクセシビリティサポートを担当する小澤邦昭さんだ。小澤さんが開発した意思伝達装置『伝の心』は指一本でパソコンを操作することを可能にした。それによって、悦子さんはメールの読み書きが可能になったのである。

 そもそも小澤さんは身体障害者の問題に関心があったわけではない。お世話になっていた先輩社員が93年ALSで亡くなった。それから難病患者であってもコンピューターが使えるようになってほしいと『伝の心』の開発に専念するようになったのである。

 小澤さんが悦子さんと知り合ったのは2001年、石橋さんが一時視力が急激に衰えたため、メールの読み上げ機能を持つ『伝の心』を導入したのがきっかけだった。その後石橋さんの視力の低下は止まり、失明という最悪の事態は避けられた。

「難病の患者さんにとってパソコンは生き甲斐そのものなんです。『伝の心』がうまく使えたときはその生き甲斐をサポートできたようで、本当に嬉しいですね」

 とはいってもサポートは簡単ではない。重度障害者の障害の程度によってパソコンの利用効率は大きく変わるからだ。たとえばマウスのクリック速度ひとつをとっても1台1台微調整が必要になる。患者さんの近くにパソコンについて詳しい支援者がいなければ、わざわざ東京から駆けつけることもある。

「たとえ『伝の心』を導入したくても、パソコンそのものの敷居の高さに断念してしまう患者さんがいます。もしボランティアでパソコンを教えてくれる人がそばにいれば、どんなに違うでしょうか。患者さんたちにもっとパソコンが普及していくためには、サポートできる人材の確保が重要です」

 そのために小澤さんは日立のホームページから『伝の心』が無償でダウンロードできるようにし、支援者にも試せるようにした。

 悦子さんを支えるもう一人は筑波技術短期大学の岡本明教授だ。筑波技術短期大学は聴覚・視力障害を持つ学生のために設立された大学で、岡本さんは以前に勤めていたOAメーカーで、障害者にとって使いやすいOA機器のユーザーインターフェースを研究していた。岡本さんが悦子さんのために開発したのは、パソコンの電源を入れるスイッチだ。ただ電源を入れるという健常者にとってはなにげない日常の動作であっても、身体が不自由な重度障害者には大きな壁になる。

「ベッドで寝たきりの人にとっては、パソコンのスイッチは看護師さんなど他人にお願いしなくてはならないわけですよ。しかも石橋さんは声を出して人を呼ぶこともできない。誰かがそばに来て自分のことをのぞき込んでくれるまで、じっと待っていなくてはならない。メールの読み書きを一日の大半の楽しみにしている人にとって、それがどれほど苦痛かわかるでしょう」

 しかし「パソコンの電源を入れる」という技術は単純に思えるが、実は難しい。各メーカーによってスイッチ部分の仕様が異なるからである。岡本さんは悦子さんのパソコンで試行錯誤した結果、秋葉原の電気街で買い求めた部品を応用して、電源スイッチを物理的に外から押すという機械を作り上げた。

障害者のPC活用は
健常者の未来の助けにつながる

両親に宛てられる悦子さんからのメールの書き出しは「おかぁへ」「おとぅへ」。言葉は話せなくとも血の通った会話がパソコンを通して毎日続けられる

 小澤さんにしても岡本さんにしても、目指すところはシンプルなのである。それは障害者であっても、健常者と同じようにパソコンが使えるようにしよう、ということだ。

 しかし障害者には技術に加えて制度上の壁がある。たとえば『伝の心』はパソコン本体と一括購入しなければならず、価格は50万円。障害者基本法の日常生活用具の給付制度により、重度障害者の場合は「意思伝達装置」として48万円まで給付され、自己負担は2万円ですむ。

 だが給付を受けるためには地方自体によって差はあるが、障害者1級、言語障害3級以上という認定を受けなければならない。障害が重くなってからパソコンを渡されても使用方法を習得する余裕があるだろうか。筋ジスやALSのように障害が重くなっていくのが明らかな患者にとって、それは不合理ではないか。

 また在宅で療養する患者を対象に昨年から「難病患者等日常生活用具給付事業」として意思伝達装置も給付対象に追加されたが、運用主体の地方自治体の福祉担当者が制度を知らず、手続きが滞ってしまう事例もある。さらには給付は地方自治体の財政から行われるため、財政が厳しい自治体によっては給付を「待ってくれ」というケースもあるという。

 平成15年の調査によると、悦子さんのように筋ジスで入院生活を送る患者は全国で約2200人。そのうち約400人が気管切開をしている。この患者さんたち全員に、最後の瞬間まで充実した人生が送られるように50万円のパソコンを渡せないほど、我々の社会は貧しいのだろうか。

 また、前述のように欧米では気管切開を施さない。意思伝達装置は日本が世界に誇るIT技術ともいえる。

 IT普及率というと携帯電話やネットの普及率ばかり話題になるが、障害を抱え、パソコンを本当に必要とする人たちの元へ届けられてこそ、IT先進国といえるのではないか。真のIT技術とは技術を誇るのでなく、人間性を回復させる手段であるべきだ。

 それはなにも障害者のためだけではない。「身体が不自由になる」というのは程度の差こそあれ、健常者が歳を重ねたときに誰もが体験するからである。『伝の心』で開発された音声システムは、高齢者用パソコン支援ソフト『心友』に転用されている。つまり障害者とパソコンを考えるというのは、我々自身の未来を考えることなのだ。

 石橋悦子さんはいま、友人たちに向けて自分の人生を振り返った文章を少しずつ綴っている。

 《振り返ると、友人に恵まれて楽しい人生だったと思えるから》

 人は尊厳を持って生きなくてはならない。それを支えてくれるのはパソコンだ。

 (ASAHIパソコン2004年4月15日号から)

 【神田憲行】(かんだ・のりゆき)
1963年生まれ。関西大学卒。「黒田ジャーナル」を経て、フリーライター。著書に『ハノイの純情、サイゴンの夢』(講談社文庫)など。

 【赤城耕一】(あかぎ・こういち)
1961年生まれ。東京工芸大学短期大学部卒。コマーシャルやPR誌などの写真で活躍するほか、アサヒカメラのコラムなどの執筆も手がける。著書に『ドイツカメラへの旅』(東京書籍)『カメラ至上主義!』(平凡社新書)など。

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