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3種類の精神鑑定
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投稿者 クエスチョン 日時 2004 年 6 月 12 日 11:49:50:WmYnAkBebEg4M
 

(回答先: 精神鑑定とは何か 投稿者 クエスチョン 日時 2004 年 6 月 12 日 11:45:55)

3種類の精神鑑定
http://www.kms.ac.jp/~hsc/kugoh/kantei/kantei_3.htm

はじめに

裁判所の判例によれば,鑑定とは「裁判上必要な実験則等に関する知識経験の不足を補給する目的で,指示する事項につき第3者をして新たに調査をなさしめて,法則そのものまたはこれを適用して得た具体的事実判断等を報告せしめる」行為である.

司法鑑定は,法律が運用を規定している鑑定と定義できる.小田は,書画骨董の値踏みをする「開運なんでも鑑定団」というテレビ番組を取り上げ,これが本来の鑑定の用法であると指摘しているが,司法鑑定と司法精神鑑定は同義ではない.

司法鑑定には,法医学鑑定や理化学鑑定などの広範な領域が含まれる.司法精神鑑定は司法鑑定の一部であり,当事者の精神状態に焦点をあてた鑑定を意味する用語である.本稿では,現在の本邦で実施されている司法精神鑑定の種類と特徴を解説する.

司法精神鑑定の種類

 狭義の司法精神鑑定は,通常2種類に分類されている.刑法/刑事訴訟法の規定による刑事精神鑑定と民法/民事訴訟法の規定による民事精神鑑定である.

広義の司法精神鑑定は,精神保健福祉法の規定による精神保健鑑定を組み入れて,通常3種類に分類されている.

 視点を変えれば,精神鑑定は司法精神鑑定と精神保健鑑定に大別できるが,単純な2分法の採用を躊躇させる事情もある.刑事精神鑑定と民事精神鑑定の被鑑定人が常に異質であるのに対して,刑事精神鑑定と精神保健鑑定の被鑑定人は時に同質である.これらの鑑定の被鑑定人は,触法精神障害者を含んでいるからである.

 このような事実を考慮すれば,司法精神鑑定を3種類の類型に分類することが合理的と思われる.この連載の焦点は,狭義の司法精神鑑定(刑事鑑定と民事鑑定)にあてられているが,今回はこれら3種類の精神鑑定の概要を説明し,これらの精神鑑定を実施している鑑定人の現状と課題を検討する.

刑事精神鑑定

刑事精神鑑定とは,刑法に触れる行為のために勾留されている被鑑定人(被疑者/被告人)が対象になる精神鑑定であり,実質的な運用は刑事訴訟法に規定されている.刑事精神鑑定の主目的は,犯行時の責任能力を解明することであるが,時には訴訟能力が争点となることもある.

刑事訴訟法によれば,刑事精神鑑定は,裁判官の命令による正式鑑定と検察官の判断による起訴前鑑定に分類されている.前者は起訴後の被告人,後者は起訴前の被疑者を対象とする精神鑑定である.さらに,起訴前鑑定は嘱託鑑定と簡易鑑定を含んでいる.

 勾留/拘留という同音異義語は,しばしば混同して使用されている.拘留は拘置の異音同義語であり,被告人や被疑者を一定場所に留置する処分であり,刑罰ではない.拘留とは,犯罪者を拘置所に留め置く(1日以上30日未満)刑罰である.刑事精神鑑定の対象は勾留中の被鑑定人である.

正式鑑定

 刑事訴訟法は,「裁判官は学識経験ある者に鑑定を命ずることができる」と規定しているが,正式鑑定とは裁判官の命令によって公判の過程で実施される精神鑑定である.

 一般的な正式鑑定の手続きは,弁護人が被告人の精神鑑定の実施を要望する文書を裁判所に提出することから開始され,裁判官が弁護人の依頼を容認するという経緯で決定される.裁判官は,事前に検察官の意見も聴取するが,検察官は精神鑑定の必要性を否定することが多い.検察官は,被疑者の責任能力を認めて起訴したのであるから,精神鑑定の必要性を肯定することは例外的である.

 裁判官が弁護人の鑑定依頼を容認する正確な比率は不明である.依頼が再鑑定である場合は,弁護人の要望が否認される事例もあるが,依頼が初回鑑定である場合は,検察官の否認にもかかわらず,弁護人の要望が容認される事例が多い.十分な審議を尽く上で妥当な判断と思われる.

 著者がこれまでに経験した正式鑑定は,弁護人と検察官のいずれもが精神鑑定の必要性を否定したために,裁判官の職権で精神鑑定が実施された1事例を除外すれば,すべてがこのような経緯で決定されていた.

 正式鑑定の実務に関しては,別稿で詳しく解説する予定であるが,正式鑑定を実施する鑑定人には,最も重い責任(宣誓義務と証人喚問など)が課せられることを認識しておかねばならない.

起訴前鑑定

 起訴前鑑定とは,検察官の判断によって実施される精神鑑定であり,嘱託鑑定と簡易鑑定に分類できる.類似点は,被鑑定人が被疑者であること,鑑定結果が検察官の起訴/不起訴の重要な資料となることなどである.相違点は,裁判官の許可,被疑者の同意,鑑定に費やすことのできる日時などである.

嘱託鑑定

 嘱託鑑定とは,検察官の嘱託によって実施される精神鑑定であるが,その実務は裁判官の命令によって実施される正式鑑定に近似している.嘱託鑑定を依頼された鑑定人は,正式には,「検察官の依頼/嘱託による鑑定受託者」と呼ばれるが,この用語は鑑定人と同義と考えることができる.

 嘱託鑑定であれば宣誓の義務はなく,鑑定書も検察官に提出する.これらが正式鑑定との主要な相違点であるが,起訴前鑑定(嘱託鑑定と簡易鑑定を含む)であっても,鑑定人は法廷に証人喚問される可能性があることを認識しておかなければならない.

嘱託鑑定の実施に際して,被疑者の同意は必要とされていないが,検察官は裁判官が発行する鑑定処分許可状を取得しなければならない.嘱託鑑定に要する時間は,最長23日間の勾留期間から除外される.これらが,簡易鑑定との主要な相違点である.

簡易鑑定

 検察官は,逮捕された被疑者を最長23日間にわたって勾留できる.その間に実施される捜査結果に基づいて,期限内に被疑者に対する処分(起訴ないし不起訴)を決定しなければならない.

簡易鑑定とは,最長23日間の勾留期間中に検察官の判断によって実施される精神鑑定であり,鑑定に要する時間も勾留期間に含まれる.簡易鑑定の実施に際しては,被疑者の同意が必要とされているが,裁判官の認可は不必要である.これらが,嘱託鑑定との主要な相違点である.

 簡易鑑定を実施しているのは,検察官の依頼を受けた鑑定人(大多数は精神科医)である.鑑定のための診察は通常1回(実際の所要時間は面接と検査を含めて1〜3時間程度)に過ぎず,鑑定結果は数日以内に文書(鑑定書)で提出される.このような簡便性のために“簡易”鑑定と呼ばれているが,このような鑑定書の結果が,検察官による被疑者の処分に重大な影響を及ぼしている.

 簡易鑑定は,今日の本邦における刑事精神鑑定の中核となっている.簡易鑑定の頻度の多さは,嘱託鑑定および正式鑑定の頻度の少なさと対照的である.このような現実が,簡易鑑定制度の問題点に直結している.

 現在の簡易鑑定制度は,相対的に少数の長所と多数の短所を有しているように感じられる.最大の長所は,触法精神障害者に対して迅速な精神医学的治療を可能とすることである.複数の短所は,触法精神障害者に対する現在の司法制度に内在する制約を反映しているので,稿を改めて詳細に解説する.

民事精神鑑定

 民事精神鑑定の主目的は,被鑑定人の意志能力と行為能力を解明することであるが,鑑定を実施する精神科医の視点からの刑事精神鑑定と民事精神鑑定は,精神医学的診断過程という意味で同質の行為である.

 従来,最も頻繁に実施されてきた民事精神鑑定は,家事審判法の規定による禁治産/準禁治産宣告請求事件であった.この種の裁判に際して,法律は家事審判官が精神鑑定を実施することを義務づけていたが,近年の老齢期人口の比率に連動して急増した.

この制度の主目的は,精神障害のために経済的権利を守れなくなった個体を法的に擁護することであったが,この種の裁判が増加するとともに新たな問題が出現した.事件本人の権利を擁護するためでなく,精神障害に罹患した老人の財産をめぐる家族/親族争いのために,禁治産/準禁治産宣告を求める傾向が顕在化したことであ る.

このような状況を改善する目的からも,禁治産/準禁治産制度は最近になり成年後見制度に改正された.新しい制度に関しては,別の稿で詳細に解説する.

頻度は稀であるが,民事訴訟法の規定による民事精神鑑定も実施されている.具体例をあげれば,遺言能力や養子縁組能力に関する民事精神鑑定であるが,この種の事件に際しては精神鑑定が必須でないこともあり,鑑定事例は少数にとどまっている.

精神保健鑑定

 本邦における戦後の精神医療は,1950年に公布された精神衛生法の規定に従って運用されてきたが,入院形態に占める強制入院の比率の高さが国際的に批判された.

 このような経緯から,2度の法改正(1988年と1995年)が実施され,従来の精神衛生法は,精神保健法を経て,精神保健福祉法になった.その結果,任意入院の比率が増加したが,強制入院である措置入院制度は,現在の精神保健福祉法でも維持されている.精神保健鑑定とは,措置入院の可否を判定するために実施される精神鑑定である.

 精神保健福祉法によれば,措置入院の対象となるのは,入院しなければ自身を傷つけるか他人に害を及ぼす恐れのある精神障害者であり,そのような精神障害者を措置入院させるには,2名以上の精神保健指定医の診察結果が一致しなければならない.

 要約すれば,措置入院が必要と判定される条件は「自傷ないし他害の恐れ」である.そして,他害に該当する基準は,刑法に触れるような行為と理解されているが,拡大解釈の危険性を回避するため,「最近の病状に基づく具体的な恐れの存在」が,措置入院に相当する重要な基準となっている.

鑑定人の現状と課題

 精神保健鑑定を実施する鑑定人は,精神保健指定医に限定されている.これは,厚生大臣が指定する資格である.一方,刑事精神鑑定と民事精神鑑定を実施する鑑定人は,法律によっても規定されていない.

 本法の精神鑑定に関しては,嘱託鑑定と正式鑑定が最も高い質を維持していると考えられる.相対的な基準であるが,これらの鑑定は限られた司法精神医学の専門家によって実施されているからである.

中谷は,アメリカには約30,000名の精神科医がいるが,その中で精神鑑定に常時携わっている医師は125名に過ぎないと指摘しているが,本邦でも司法精神医学の専門家は極めて少数である.

正式鑑定と嘱託鑑定の鑑定人は,裁判官と検察官が選任するが,その際に最も重要視される条件は過去の経験である.豊富な経歴を有する専門家が優先して指名されるという事実が,数の減少を加速させている.

一方,簡易鑑定と民事精神鑑定の質には問題が残されている.相対的に経験の乏しい鑑定人が実施しているからであるが,このことには鑑定費用という経済的要因が関与している可能性も否定できない.

おわりに

 本邦における精神鑑定の実状をみると,少数の専門家が嘱託鑑定と正式鑑定を実施しているのに対し,多数の非専門家が簡易鑑定と民事鑑定を施行している.そして,司法官の裁量に影響する程度は,前者より後者の鑑定結果の方が大きいという現実がある.

 著者が多数の正式鑑定を経験したのは多分に偶然の所産である.岡山大学神経精神科の助手時代に,教授の推薦により鑑定人に選任され,初回の正式鑑定を経験した.

著者は,限定責任能力に相当する内容の鑑定書を提出し,法廷に証人喚問された.検察官は,この鑑定が著者にとり初回の経験であることを強調する質問を繰り返した.法廷に立ち続けることは苦痛であったが,「真摯な態度で鑑定を実施された鑑定人の努力に敬意を表する」という,弁護人の最後の言葉に救われた気分になった.

司法精神鑑定の専門家が育つかどうかの鍵は,初回の証人喚問が握っているのかも知れない.過度の外傷体験は,司法精神医学に関する興味を喪失させる.司法官の職責は十分に承知しているが,このような現状に対する理解を求めたい.司法精神医学の指導的権威者であっても,最初から豊富な経験を有していたわけではない.

文  献

金澤 彰:禁治産鑑定の現状と問題点.臨床精神医学,26;1371〜1377,1997.


中谷陽二:精神鑑定の事件史.中公新書1389,中央公論,東京,1997.


小田 晋:刑事責任能力判定の基礎とその現代的諸問題.山上皓編:精神鑑定.精神医学レビュー第19巻.ライフ・サイエンス,東京,p.14〜27,1996.

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