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東京五輪も知らず洞穴生活43年…57歳男の半生(読売新聞)
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投稿者 へなちょこ 日時 2004 年 1 月 25 日 16:45:23:Ll6.QZOjNOr.w
 

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040124-00000315-yom-soci

 深いシワを刻んだ57歳の男性は、元号が平成であることも、40年前に東京でオリンピックが開かれたことも知らなかった。北関東の山野でヘビやカエルを捕りながら、人目につかない洞穴や河原で暮らして43年。無人島での自給自足生活を描いた小説「ロビンソン・クルーソー」を思わせる半生は、窃盗未遂の逮捕で終わった。(松本 英一郎)

          ◇

 「空腹に耐えられなかった」

 昨年12月12日、茨城県の土浦簡裁で行われた被告人質問。背中を丸めた男性は、消え入りそうな声で語った。身長約1メートル55。やせてシワの目立つ顔は、70歳をすぎた老人のように見えた。

 逮捕されたのは、その3か月前の9月の深夜。茨城県つくば市の路上で、小銭を盗もうと自動販売機をこじ開けているところを取り押さえられた。

 「埼玉県に住んでいたが、7歳で捨てられ、名も知らない」。男性の作り話に、警察は「氏名不詳」のまま身柄送検したが、土浦区検の調べで驚くべき暮らしぶりが判明する。

          ◇

 1946年、群馬県大間々町の農家の四男に生まれた。学校に弁当も持っていけない貧しい暮らし。8人兄弟の6番目で、内気な性格からよくいじめられた。

 14歳になった中学2年の秋、生活に嫌気がさし、カバンに干し芋と塩、マッチを詰め、家を出た。愛犬のシロが追いかけてきた。

 向かったのは、幼いころに行った約25キロ北の足尾銅山。鉱脈を探すために掘られた山頂付近の穴に住みついた。持参した食料はすぐなくなり、ヘビやカエル、カタツムリ、野ウサギを捕っては焼いて食べる生活に変わった。

 2年後にシロが死ぬと、足尾銅山から栃木県や茨城県の山々に移った。人里に下りて農作業を手伝い、食料や衣類などをもらったこともある。しかし、「素性が知れたら帰される」と、人との接触を避けた。歯は20歳過ぎになくなったが、病気はしなかった。

 腹が減っては野生の動物を追う生活に疲れ、6年前、「死のう」と思った。ヒッチハイクしたトラックの運転手に「死にたい」と話すと、富士山ろくにある山梨県の青木ヶ原樹海に連れて行ってくれた。が、樹海で見た死体に怖くなり、自殺を思いとどまった。

          ◇

 つくば市と水海道市の間を流れる小貝川。やぶが生い茂る河原に、釣り人が建てた小さな小屋がある。

 青木ヶ原樹海からヒッチハイクでたどりついたのがつくば市周辺。男性は流れてきたボートや、この小屋をねぐらにし、コイやナマズを川に石を積んで追い込んだり、捨てられた釣りざおを使ったりして捕った。

 以前と違ったのは、釣りの腕前を認める釣り人から「先生」と慕われ、仲間ができたことだった。釣り仲間の家に呼ばれ、カラーテレビを初めて見た。

 家出前にお金を使ったのは、紙芝居を見た時だけ。それが仲間に売った魚の代金でパンを買ったり、服を買ったりするようになった。「お金があれば、欲しいものが手に入る。便利さを知った」。懲役1年、執行猶予3年の判決を受けた男性は話した。

          ◇

 男性の戸籍は抹消されていた。大間々町に住む義理の姉(62)は「確かにそういう子がいたが、もう忘れた」と言う。結局、釣り仲間の古矢和夫さん(52)が身元引受人になり、男性は住み込みで内装業の手伝いを始めた。古矢さんは「人生のやり直しを支えたい」と見守る。

 今年の正月、男性は古矢さん宅のおせち料理を前に、どれから手をつけていいかわからなかった。

 「胸がいっぱいで、心も体も温かかった」。そう話す男性に、もう1つ新鮮だったものがある。古矢さんからもらった初月給だ。

 「まっとうに働いて金をもらったのは初めて。『ご苦労さま』と言われて感激した」。還暦を目前に新しい生活が始まった。

 ◆足尾銅山=栃木県足尾町の備前楯山(1272メートル)にあった銅採掘場。日本一の産出量で日本の近代化に貢献したが、鉱毒が農漁業に打撃を与え、社会問題にもなった。1973年に閉山した。(読売新聞)
[1月25日0時20分更新]

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