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「軍事革命」の革命たる所以について【岡本 智博】
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投稿者 愚民党 日時 2004 年 1 月 23 日 19:01:51:ogcGl0q1DMbpk
 

「軍事革命」の革命たる所以について


http://www.drc-jpn.org/AR-6J/okamoto-j02.htm

DRC研究委員

                                 岡本 智博

はじめに

 今世界には、RMA (Revolution in military affairs)―いわゆる軍事革命―が吹き荒れている。1991年、米国が主導する多国籍軍で戦われた湾岸戦争は、RMA の萌芽を世界各国に知らしめたが、爾来10年、先進諸国ではRMAへの取り組みが真剣に為されて来ており、21世紀に突入した現在、まさにRMAの嵐はいよいよその高潮期に入っていると言っても過言ではない。そしてまた、RMAの主体がコンピューター・ネットワークであるが故に、サイバー戦という新たな形態の戦闘も考慮しなければならなくなった。しかし我が国はこの間、国際貢献のあり方やその法制の整備、実行と教訓に基づく法制・態勢の見直し、さらには有事法制等、いわゆる国家安全保障の枠組み見直しに努力を傾注することとなり、軍事革命に利用されている技術が日本の得意とするIT分野の民用技術の軍事的応用であるが故に、なおさら残念に思えてならないが、結果的には、RMAに乗り後れていると言わざるを得ない状況にある。例えば、RMAに対応する措置としての「軍事力の統合運用」についても、米国、英国、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、スエーデン等ほとんどの先進国が既にこれを採用し、統合運用体制を確立しているにも拘わらず、日本だけが取り残されているし、また、各国はさらに、センサー、デジグネーター、シューター、さらには衛星システム等情報RMAにかかる研究開発に、そしてまた、サイバー戦を想定した攻撃防御にかかる開発に邁進しているのである。

 こうした我が国の対応の後れは、前述の理由もさることながら、軍事革命の「革命たる所以は一体何処にあるのか」という基本的な疑問に対して、これまで誰も答えてこなかったということにも起因するのではなかろうかとの危惧もあり、今般は、湾岸戦争及びアフガニスタンにおける国際テロ掃討戦等の戦闘を例にしつつ、RMAがもたらす革命的変化について考察してみることとする。

1.Network Centric Warfareとは

2001年9月11日、世界中の人々を震撼させた米国同時多発テロは、インターネットなくしては考えられない国際犯罪でもあった。ウサマ・ビンラーディンは、インターネットを利用して世界に広がるメンバーの意思統一を図り、資金を集めこれを洗浄して分配し、離陸直後の複数の民間機をハイジャックし、世界貿易センターや国防省等に突入させ、自分の意図通りに犯行に及んだのである。敢えて言うならば、正しくこれはNetwork Centric Warfare のひとつの形態であり、グローバルなネットの存在があったればこそ成立した犯罪であった。そしてこの事実は、見えない敵としての国際的な麻薬取引及び違法な武器取引並びにこれらを利用した国家騒擾、さらには大量破壊兵器等を使用した国際テロ・海賊活動、国家の主権への恫喝や死活的なエネルギー資源アクセスに対する妨害・混乱、社会インフラ破壊・混乱を企図したサイバー攻撃、平和維持活動妨害による国際不安の作為等々、21世紀が考慮しなければならない脅威のパラダイムの、限りない広がりの予兆ともなっていたのである。そしてまた、こうした脅威の広がりは、国家の警察・消防と軍隊の任務分担の境界を曖昧にし、国際間の協調体制のあり方にも混乱を引き起こすとともに、軍事力の役割の拡大という現実を引き出している。しからば、Network Centric Warfareとは一体何処が革命的変化なのか、どの様な戦闘様相になるのか、今後どの様な広がりを見せようとしているのか等について、紙片の許す限り述べてみたい。

2.革命としてのNetwork Centric Warfare ―何が革命的変化か―

(1) ネット化がもたらす革命

a.作戦速度の革命的変化

   米国は湾岸戦争において初めてネットを作戦に利用した。湾岸戦争において実現した約60機にも及ぶ航空機の空中集合による「パッケージ・アッタック」は、IT技術に起因するネットの存在なくして実現しなかった。すなわち、作戦に参加するパイロットに何日何時何分、どこの基地から発進してどの地点で空中給油を受け、どの地点で空中哨戒して時間調整を行ない、何分にどの位置に遷移・集合し、事後パッケージを組んでどの目標に対して何をもって攻撃を実施し、どこを経由してどの基地に帰投するかという命令を含んだ航空任務指令(Air Tasking Order)を、ネットを介して100名を越える兵員に対し瞬時に与えることに成功し、見事に空中集合を実現して、イラクに応戦の暇を与えず至短時間に強大な打撃力をその防空組織に対して与えるとともに、同様のパッケージ・アタックを数十回繰り返して所期の目的を達成したのである。このことは、軍隊の基本として10名からなる分隊が指揮命令の基本単位となり、4個分隊が1個小隊を、4個小隊が1個中隊を、4個中隊が1個大隊を形成し、連隊、師団と組織が積み上がっていくという、人類の歴史3000年以上の間全く変化しなかったピラミッド型の指揮命令・作戦運用系統を根底から覆し、フラット型の指揮命令・系統による作戦を実現したことを意味するのである。勿論このときのネットはまだ不完全で、米海軍にはフロッピーの形で手渡されたという。しかしこれがまさしくNetwork Centric Warfare のはしりであったことは間違いのないところであり、そしてまた、米空軍と米海軍が統一された命令で統合的に運用されたという事実も、その後の「統合」の趨勢を明確に示唆する出来事であったのである。

翻って今般のアフガニスタンにおける国際テロ掃討戦においては、前線の指揮官から統合参謀本部議長に至るまでの司令官等が参加するネットによる作戦会議を必要の都度実施し、衛星から得た偵察結果もしくは爆撃成果 (Bomb Damage Assessment) を示す画像や映像、敵情に関する諸々の動向と情報、目標等に関する必要なデータ等を、それぞれの指揮官が携帯パソコンで受信し、これらをベースに双方向の形式で各級指揮官がリアルタイムに議論を繰り返し、構想を共有しつつ作戦を実施していったのである。もちろんこのネット型作戦会議では各級指揮官が一堂に会する必要はなく、移動の時間を節約することが出来たことは言うまでもない。そしてまた、前線部隊の指揮官は、パソコンによって現下に行われている部下隊員の行動を掌握するとともに戦闘全般状況を逐一掌握し、また上級司令部の意図を確認しつつ、自らの部隊が今なにをしなければならないかを構想しながら作戦を展開することが出来たという。このように、いわゆるNetwork Centric Warfare では、各級指揮官が作戦会議のために同一場所に集合する時間を費やすことなく、しかも戦場認識(Situational Awareness)を完全に一致させて戦闘を実行していくのであるから、作戦遂行の6段階、すなわち状況判断・決心・計画・命令・実行・戦果と教訓等の確認、そしてまた状況判断というルーティンを、これまでより革命的に迅速化することが出来た訳であるし、指揮結節の局限、ITによる情報伝達の迅速性も加味されたこともあって、作戦速度(Operational Tempo)を革命的に迅速化することが出来たのである。今般のアフガニスタンにおける戦闘では、このようにしてラマダン及び冬の到来という時間的・時期的制約を克服し掃討戦を成功に導いた。そして敢えて言うなら、米国にはその成功に確信があったからこそ、ブッシュ大統領は10月8日に戦端を開いたのである。

b.戦場認識の革命的変化

   さてこの作戦会議では、米国の保有するGCCS(Global Command and Control System)が活用されたとされているが、GCCSは、偵察衛星が撮影した画像情報を即座に最前線の部隊に伝送するとともに、前線部隊の戦況示す映像情報もリアルタイムで上級部隊に伝送したので、既に述べてきた通り、統合参謀本部議長以下各級指揮官は、戦場認識(Situational Awareness)を始め各種の情報を共有し、部隊の状況を十分把握しつつ自らの次の任務を考えることが出来た訳である。そしてまた、これらの情報は、国防省やホワイトハウスに開設された指揮所において作成・配布され、その他の組織からも双方向的に伝送されるとともに、ホワイトハウスや国防省のメンバーは、政治的に微妙な軍事作戦や行動についても、前線部隊の指揮官と直接テレビ会議で意見を交換しながら、十分な相互理解と信頼の下に作戦の実施を命ずることが出来た。さらにまたホワイトハウスは、逐一、マスコミの反応を考慮しながら対応を勘案しつつ、国際世論を敵に回わさずに作戦を遂行することも出来たのである。こうした作戦を可能としたNetwork Centric Warfareには、画像偵察、警戒・監視、通信、航法、軍事用放送等々、多様・多岐にわたる衛星群が利用されていることは言うまでもない。まさしくITインテグレーションがもたらす革命なのである。そして、ITインテグレーションが「戦場認識の革命的向上」をもたらし、より確実な情報の下に作戦を遂行することを可能とした訳である。従来の作戦では、「状況の不明の中、敢えて戦機を捉えて判断を下すことが将の将たる所以なり云々…」などと言われたこともあったが、今日ではむしろ溢れるばかりの情報から、何に重要度を求めて判断するかが「将の将たる所以」になってきているのである。

c.ネットが統合する戦闘の革命的変化―統合運用の必要性―

   戦闘は目標の発見、識別、指定・要撃、撃破の4段階で構成されることはいつの時代においても変わらないが、これまでは発見・識別手段としてのセンサーの分離は見られたものの、指定・要撃と撃破段階は兵器運搬手段である戦車、艦船、戦闘機等がすべてその役割を担っていた。これは技術的限界に起因するものであり、人類5000年の歴史の中でいち早く分離されたのがセンサーであり、いまやそのセンサーは宇宙空間にまで広がりを見せているものの、その他の機能は分離不可能なものとして、また分離しても統合できない技術的限界を抱えたまま、人類は21世紀を迎えたのである。そのため陸・海・空軍はセンサーによる目標の発見を除き、識別、指定・要撃、撃破の段階を自己完結的に担い、他の軍種にその一部を委ねることはなかった。しかし、IT革命によりデジグネーターとシューターが分離可能となり、戦車・艦船・戦闘機等にはデジグネーターを搭載する必要がなくなるとともにシューターである射手・パイロット等も安全な場所に位置して戦闘を監視しつつ射撃が可能となった。そして、分離されたデジグネーターとシューターはネットを介して連接されることにより統合化されて、戦闘のルーティンを完成するといったことが出来るようになったのである。すなわち、戦闘のネットによる統合という革命的変化がネットによってもたらされた訳である。この革命的変化は無人戦車・無人機の開発、あるいは装軌車にレーダー搭載の、デジグネーター用の、ミサイル搭載の、あるいはシューター用のコンテナを必要に応じ載せ代えて運用するという、装備の効率的運用を図る工夫を生むに至っているのである。

 この様な戦闘の一例を今般のアフガニスタンにおける戦闘に見てみよう。すなわち、レーザー・デジグネーターを所持する米特殊作戦部隊隊員は、何日何時、どの位置に占位し、どの目標に向かって、携行しているレーザー・デジグネーターを何秒間照射せよというATO(航空任務命令)を受け、他方、AC-130のパイロットには同じく、何日何時、どの位置に飛翔し、コード化されたレーザーの反射光がミサイルを起動したら直ちにそのミサイルを発射せよというATOが与えられる。この2人には何の申し合わせもないが、例えば中央軍司令部のような統合司令部が策定した戦法を、ネットが連携を支援して統合化し、戦闘サイクルを完成し、目標を確実に撃破して大戦果を挙げた。そして、個人携帯のパソコンでこの成果を知らされた海兵隊陸戦部隊は、受領した命令の通り洞穴に向かって突撃を敢行し、残余のアル・カーイダの戦闘員を撃破したと言われている。

この様にIT革命の成果により、今や戦闘におけるセンサー、デジグネーター、シューターは完全に分離されているのみならず、それぞれの役目は、陸・海・空の区別なく、最も効率よく目的を達成できる手段を選定してネットにより組み立てられ、統合化されて戦闘のサイクルを完成するということも、今回の戦闘によって証明された。ここに「何故に統合なのか」という疑問に対する回答が含まれており、“統合運用による戦闘効率の革命的な向上”という新たな戦闘のあり方を示唆したのである。

d.ネット戦闘による運用の柔軟性―「防御側の優位」をもたらす革命―

    しかしここで十分注意しなければならないことがある。それは“ 軍事革命が過去の全ての装備、ドクトリン、戦法等を駆逐するというものではない”ということである。かつてミサイルが出現したとき、これで戦闘機時代は終わったと早合点して、誤った主張を行った戦術家が輩出したことを想起してほしい。軍事革命は、そのもたらす意味と限界を厳密に理解する必要がある。例えば、機能の分離とネットによる統合がもたらす戦闘という新たな戦法も、時と場所を勘案して適用しなければ、戦機を逃すという失敗を引き起こしかねないということなのである。

    その前提を踏まえつつ敢えてネット戦闘の本領を述べるとすれば、最も有効なネット戦闘は、対テロ・ゲリラ戦であると言えよう。すなわち、ネットで連携された戦闘員は散兵戦が可能であり、戦闘員の入手した敵に関する情報もネットを介して共有することが出来る。また、分隊長や小隊長は、上級部隊から多くの情報と部下からのリアルタイムの情報を同時に得て、最も正確な戦場認識を形成することが出来るし、これに基づいて部下に対して適時・適切な命令・指示を発し、散開している兵員を緊要な時期に緊要地点に集中させ、突撃戦闘を企図することが出来る。敵に対して「情報の優越」を確保しつつ遂行する防御側の戦闘は、ネットを持たないテロ・ゲリラ側よりも、極めて有利であるということなのである。逆に今日、何故に攻撃側がAWACSを随伴するのかの所以もここに存在する。すなわち、旧来の防空作戦では、防空側だけがレーダー情報を利用して情報の優位を確保して要撃を実施することが出来たが、これを不利と見た攻撃側は、AWACSを随伴することによって、いわば目無しの状態の攻撃を避けるようになった訳である。このようにテロ・ゲリラ戦では、ネットを介して連携された防御側が、時に通信機だけで相互に連絡するゲリラ側よりも遙かに有利な戦闘を仕掛けることが可能となっているのである。

    以上ネットを活用する新たな陸上戦闘の一例を縷縷述べてきたが、海上戦闘についてもこのような考え方は有効であることは言うまでもない。現在先進各国は、このような幾多のアイデアを研究・模索中であるし、また、それを実現するネットを含むシステムを開発中である。その代表的な例が、現在米国がフランスと共同で開発しているFuture Combat System(FCS)なのである。

e.精密誘導技術がもたらす革命的変化

      精密誘導技術は、テレビ誘導、地形照合誘導、さらにはGPSやレーザー・デジグネーターによる誘導と、IT技術の進歩に従って格段の進歩が見えられる分野の一つである。特にレーザー・デジグネーター誘導では、弾頭搭載のミサイルが目標に照射されたレーザー・デジグネーターからのレーザー光の反射波に乗って目標に向かうので、目標に収束する誘導を受けることとなり、その命中率は、目標に接近すればするほど誤差が大きくなるGPSの誘導とは逆で、目標に近づくほど高くなる。そして、命中率が革命的に向上するのであれば、目標撃破に必要な炸薬の量も削減され、小型弾頭の導入も考えられることとなる。

     GPSが初めて利用された湾岸戦争時に、1tの爆弾で破壊できた目標を、ベトナム戦争時代のテレビ誘導等による爆弾で破壊すれば190tを必要とし、第2次世界大戦で使用された照準具で誘導された爆弾では9000tも必要とするという比較は夙に有名であるが、この例示で行けばレーザー・デジグネーターの反射レーザー光に誘導された弾頭は、1tの2分の1でも4分の1でもよいということになる。このような考え方から、すでにスモール・ダイアメター・ボムという構想が出されており、RMA先進諸国では弾頭の小型化が進捗している。また、弾頭が小型であれば、戦車、艦船、戦闘機といった兵器運搬手段にもより多く搭載できるし、結果として1機の戦闘機等の効率が向上し、敢えて言うのであれば、もし同等の戦闘効率を求めるのであれば、戦車、艦船、航空機といった戦闘機等兵器運搬手段の量的削減も可能であるということなのである。

精密誘導技術の進歩はまた、目標に命中しなかった爆弾が引き起こす誤爆問題をクローズアップさせることにもなった。元来、指定された目標の取り違いによる誤爆と、命中しなかった弾による被害とは峻別されるべきであるが、国際世論は非戦闘員への被害という観点からこれらを同一視する傾向があり、在ユーゴ中国大使館への誤爆もアフガニスタンにおける目標に対する爆撃の照準誤差やGPS誘導誤差による爆撃誤差も、同じ誤爆として捉えられるようになってきている。確かにどちらも非戦闘員への被害をもたらすのだが、換言すればそれだけ命中率が向上した軍事革命の進行する社会では、これに対する真剣な配慮なくしては戦闘を遂行するための国際世論の支持をつなぎとめることが出来ない時代に入っていると認識しなければならない。従って、第2次世界大戦で多用された戦略爆撃といった非戦闘員への意図的な攻撃などは既に過去の戦術であり、現代では決して許されるものではないと言う厳格な認識も必要であり、後に述べるように、これに代わって社会インフラに対するサイバー攻撃は、被害者が非戦闘員であるということから、21世紀の戦略爆撃であるとの認識も生まれてきている。そしてまた、国際的なマスメディアの支持あるいは批判は、戦争には絶対不可欠な“大義”を左右する重要な要素になってきているということも、改めて認識しておく必要がある。ゴルバチョフが、バルト3国に侵攻できなかった所以もここに存在するし、こうした傾向が一段と高まるのが、軍事革命の進捗する世界の実相であるとも言えよう。

f.ドクトリンの革命的変化

さて最後に、機能の分化とネットによる統合という新しい戦いでは、運用の基本原則のひとつである「集中」の原則についても、全く概念を変化させてしまうこととなるということに注意を喚起したい。すなわち、従来型であれば「集中」とは、キャリアー、シューター、デジグネーターという機能が一体化された戦力発揮の主体である戦闘機、艦船、戦車等が、要時・要点に「集中」することを意味したが、新しい戦いでは、「集中」の本質は戦闘の撃破の段階での爆発力・殺傷力、すなわち弾頭を集中することであり、その途中における兵器運搬手段(ウエポン・キャリア)の集中も、目標指定手段(デジグネーター)の集中も必要としないということとなった。むしろ、兵器運搬手段や目標指定手段の集中は、敵に自らの弱点を暴露することであり、極力避けるべきこととなったのである。つまり戦闘機、艦船、戦車等は散開した形から射撃を実施し、その弾頭が同時に目標に集中するという戦い方をするようになったのである。ここに戦いの原則、あるいはドクトリンの革命的変換の必要性が潜んでいる。敢えて言えば、理想的ではあったが各個撃破に弱かった散兵戦的用兵が、ネット型指揮命令系統の実現により可能となったということであり、かつてナポレオンがマスケット銃の発明をいち早く活用して散兵戦を編み出し、軍事革命の先端を突き進んだことに比肩される、それ以来の軍事分野における一大革命なのであるとも言えよう。軍事革命―すなわちNetwork Centric Warfareは、戦争の性格から国家としての安全保障戦略及び軍事戦略、軍事力運用の基本となるドクトリン、防衛力整備及び自衛隊の編制・組織のあり方、戦術・戦法、教育・訓練、研究開発の方向、特に指揮統制組織及び情報組織のあり方、さらには民間防衛、民間関連企業を含む国家としての研究開発のあり方等、多岐多様な分野にわたる抜本的な改革を伴う革命なのである。

(2)ネット化が引き起こす「新たな戦争」

a.サイバー戦争の性格―21世紀の戦略爆撃―

    さて、軍事革命の中心的課題である、いわゆるNetwork Centric Warfare の中核がコンピューターであるならば、そのコンピューターの作動あるいはネットを妨害して戦闘を有利に導こうとする戦術が出現するのは当然過ぎる程当然なことである。サイバー戦争は、RMAが生み出した革命のひとつなのである。サイバー戦は攻撃と防御に分別されるが、サイバー攻撃は、社会インフラを支えるコンピューターシステムやネットに拡大され、さらにその矛先は、ネットを形成する宇宙空間の衛星群にも向けられようとしている。このような攻撃をComputer Net Attack―CNAと呼称している。CNAの対象はコンピューター、通信網、そしてこれをつなぐプロトコール等である。コンピューターにはハードへの攻撃とソフトへの攻撃、通信網には衛星回線、グラスファイバー・ケーブル、伝統的な電線などへの物理的攻撃やその周波数自体への妨害・欺瞞といった攻撃も考えられる。これに対して軍隊は、通常独自の情報システムを保持しており暗号化によって内容を保護しているが、同時に商業用の情報技術やシステム及びそのサービスに大きく依存しているし、今後商業用のセンサー、コンピューター、通信システムが高性能になればなるほど、軍によるそれらの利用は多くなる。従って商業用情報技術と商業情報システム・サービスへの依存は、各国軍隊のアキレス腱になるといっても過言ではない。

    そしてまた、攻撃があればどのような方法でこれを防御しようかという Computer Net Defense―CNDが考えられることも当然なことである。CNA・CNDは、21世紀の軍事分野における極めて重要な課題である。サイバー戦争やCNA ・CND戦争の性格及び特徴等は次の通りである。

@ 敵が見えないということ、すなわちそれはまず意図的なのか事故なのか、対象となったシステムの従事者なのかテロ・グループなのか、個人なのか国家とかその他の集団なのかというように、行為者の特定が出来ない。しかも攻撃側は、能力集団を集めれば、極めて安価に、防御側の致命的な被害を引き起こすことができる。

A 敵対者が明確でないと言うことは「抑止の概念」が成立せず、サイバー戦争には抑止」は通用しない。従ってその対策としては、システムとしての抗堪性・障害回復能力の向上、テロ組織の資金の流れや人物の特定といった情報活動、集会・結社に関する動向の分析、教育やマスコミを通じてのコンピューター犯罪防止へのキャンペーン、あるいは後進国のコンピューター社会への移行促進など、間接的な活動によるものとならざるを得ない。

B そして先にも触れたように、国家の政・経・軍の中枢機関、水道・エネルギー・交通の中枢といった社会インフラへの爆撃による攻撃は、50年前は戦略爆撃という形態をとったのに対し、21世紀においては、これを支えるコンピューターシステムへの戦略攻撃という形態、すなわちサイバーに対する戦略爆撃となって再登場している。

C この様な観点からすれば、サイバーに対する戦略爆撃は、先進コンピューター社会に対して最も有効であり、テロリストはその社会に潜り込んでネットを利用し、全世界に張り巡らされたネットを利用して、ネットの主体である国家を打倒しようとする。彼らはまさしく先進ネット社会に巣喰う悪質な寄生虫なのである。

   このようにサイバー攻撃という「新たな戦争」は極めて悪辣な犯罪であり、防御手段が限定されているという点で先進諸国にとっては深刻な問題なのであるが、世界の論調には、未だにサイバー攻撃を企図する者の論理に理解を示そうとする類の議論が存在しており、極めて残念なことと言わざるを得ない。いずれにせよ再度指摘するが、21世紀の新たな戦争形態であるサイバー戦の出現は、正しくNetwork Centric Warfareがもたらすものであり、これまでに見られたことのない革命的な戦争形態なのである。

b.サイバー攻撃の実相

    さて、サイバー攻撃はどのように仕掛けられるのであろうか。既に現実化した態様を含め、この分野は創造の余地がまだまだ残っているが、これらの態様を全て述べることが本旨ではないので、ごく一例について簡単に触れてみる。例えば、ハッカーが単独又は複数で意味のないデータ等を同時に大量に送付して電話回線をパンクさせたり、新幹線等の運行管理や船舶・航空機の運行管制コンピューターネットにサチュレーションを起こさせる、いわゆる「DDOS攻撃」(分散型サービス拒否攻撃)やスパム(大量のEメール送付)あるいはdo―loopトリガー(反復繰り返し命令によるデータ等の送付)とか、「トロイの木馬」や「メリッサ」等のコンピューター・ウイルスを送り届けて銀行・金融機関・病院等のシステムに攪乱を引き起こす攻撃とか、遠隔操作によってガス輸送管路の圧力を異常に高めてガス管を破損させたり、ハッカーや他国のスパイ機関などが直接国防総省の機密情報を盗み出したり偽情報を故意に挿入したりする攻撃などがある。また、通信回線への物理的攻撃としては、爆撃による破壊やECM攻撃による周波数妨害を実施するという伝統的な手段から、Electromagnetic Pulse (EMP) と呼ばれる強力な電磁パルスによって回路を破壊したり、レーザーを照射したり炭素繊維を散布することによって回路にショートを起こさせたりする攻撃などがある。

c.現実化しつつあるサイバー戦

    サイバー戦はこれまでに現実化された戦闘ではないが、コンピューター社会にあっては極めて現実的な戦闘であり、しかもその被害者は非戦闘員である一般国民なのである。また、攻撃側は、その類の能力者を集めて想像力を発揮させれば、安価な費用で甚大な被害を防御側に与えることが出来る。すなわち、最新の武器・装備を持てないような貧困に苦しむような国家であっても、サイバー戦は可能なのである。最近、北朝鮮等の国々が、国家の総力を結集してその開発に取り組んでいることが判明している。注意を喚起したい。

おわりに

 21世紀を迎えて戦場は、在来の陸・海・空の物理的空間から宇宙空間へと、そしてサイバー空間へと広がりを見せている。加えて情報技術革命に多大な影響を受けた軍事革命は、新たな戦略・戦術・戦法を呼び起こし、戦闘様相は、これまでの常識を打ち破るように、複雑かつ多岐の様相を示し始めている。そして、これらに呼応するかのように軍事力の役割は各般の広がりを見せ、21世紀の脅威のパラダイムに対応しようとしている。  

  こうした時期を迎えた今、構造改革が最も必要なのは自衛隊である。RMAに対応する変革を自らのものとしなければ、「日米同盟」も形骸化するであろうことを改めて指摘し、結言とする。


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