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「構造的思考力」の欠落が日本をダメにする
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投稿者 佐藤鴻全@佐藤総研 日時 2004 年 1 月 24 日 15:16:48:Hz4fkf7CMFDjo
 

◆日本の現状
バブル崩壊後、我が国は低迷に襲われ、失われた10年と言われて久しい。
小泉首相が使い出してから聞かぬ日の無い「構造改革」と言う言葉は、国民、選良、
識者の議論に晒されて3年になろうとするのに、群盲象を評すの例え通り、未だに
それが何を指すのかについてすら、明確な共通認識がない。

自衛隊のイラク派兵はなし崩しに決まり、国民多数は先日まで派兵反対であったは
ずが、何時の間にか現状を追認している。
景気は燻り続け、国民の将来不安は消えず、向かうべき国の形が見えない。
この国は、方向性なく漂流している。

冷戦崩壊後の国際情勢、経済環境の激変がこの漂流の切っ掛けであるが、いつまで
もこの状況に対応できない責任は、当然ながら政治家、識者、マスコミを筆頭にし
た国民自身に帰する。

10年間も昏迷から抜け出せないのは、異常な事態である。
筆者は、この間の政治の流れ、それに付随した国民意識の動きをさながら長編ドラ
マのように観察して来て、何か日本人には根本的な欠点があるとの思いに至るよう
になった。

日本人は、全てを感情を交えつつ餅の様に一体的に捉えてしまい、物事を多面的に
捉え、要素に分解し、それらの性質と得失を踏まえた上で、結論を組み上げて行く
と言う当たり前の思考パターンが欠落しているのではないか。
この当たり前の思考パターンに大仰なネーミングをすれば、言わば「構造的思考力」
と言う事になろうか。

◆ 年金問題と国の形
これを、現在の政治テーマに当てはめてみる。
例えば、年金問題については、昨年末の与党合意で、負担の切り上げと給付の切り
下げで決着したが、見ての通り単に足して2で割るものに過ぎない。

年金は、先ず生活保護との関係を整理した上で、国民の生命安全を守る最低限の保
障と、ある程度の豊かな老後の保障の2つの機能に分けて考えるべきである。

そして前者の部分は、一定年齢になれば国民等しく受給できるものとして、保険料
徴収コストを省くためにも消費税等を財源にする税方式が合理的だろう。
その給付レベルは、消費税率等とセットで国民投票を導入して決定するのが望まし
い。
一方、後者は、自助努力の領域に属するものとして、支払った保険料に応じて受給
が決まる積み立て方式もしくは民営に移行させるのが適当である。

更に言えば、国民生活全体をナショナルミニマムとして必ず保障される領域と、市
場経済の原則に従う領域に一旦分離し、各分野でその範囲を明確化した上で、両者
を適宜組み合わせるべきである。
それは、介護・医療を含む社会保障全般、高速道路改革、郵政改革、地方分権等に
ついても、同様である。

このコンセプトによる諸問題の整理により、国民は一定レベルの安心を得ると同時
に自己責任によるある種の覚悟を持つ事になる。
それは、大きな方向として社会の発展と調和を同時に実現する事に繋がり、我が国
の繁栄の土台となるだろう。

◆イラク派兵と外交・軍事
自衛隊のイラク派兵問題では、安全保障、その他の国益、国際的な大義の3側面に
分けて捉えるべきである。
先ず、自国の安全保障を第一に考えるべきなのは、論を待たない。
イラク派兵をしない事により日米同盟の絆を希薄化する事は、北朝鮮等への牽制を
弱め日本の安全保障にマイナスに働く一方、イラク戦争に連なる占領統治に荷担す
る事もまた、国内テロまたは海外での邦人テロ可能性が高まる点ではマイナスに働
く。

次に、その他の国益の面では、自衛隊派兵が実際にイラクが安定し復興する事に資
すれば、石油の大部分を中東に依存する日本にプラスに働くが、逆に失敗し中東諸
国の恨みを買うリスクも大きい。

更に、国際的な大義の面で開戦動機の正統性に大きな疑問のあるイラク戦争は、今
後中東が民主化し安定する切っ掛けとなれば結果オーライで是とされ、中東発の世
界へのテロの蔓延を引き起こせば否とされる性質を持つ。

結局、今後イラク・中東情勢がどう転ぶかによって、イラク派兵が吉と出るか凶と
出るかが決まるが、現時点で観測すれば、アメリカが今後もイラク復興で利権の独
占や傀儡政権樹立の模索等の恣意的行動を取るなら、今後中東が民主化し安定する
可能性は低く、国際協調に大きく舵を切るならその逆だと言えるだろう。

日本としては、国際協調の中で自衛隊派兵を含め復興支援を行い、かつアメリカを
孤立させない事により逆に日米同盟の絆を深めるのが、ベストシナリオである。

それが可能かは分からないが、国連の新安保理決議を通す事等に向け、本腰を入れ
て関係各国を仲介する努力をすべきだろう。
政府は、中東、ドイツ、フランス等に特使を派遣する等、一応の対応はして見せた
が、アメリカ従属が前提である事が明らかであり、国際政治上、歴史上のアリバイ
作りにすらなっていない。
イラク戦争を支持した小泉政権は、対米追従ありきの結論の下に、意識せずかどう
か国益と大義を全く定義しないままに、全てをぐちゃぐちゃにして論じている。

特に外交・軍事においては、結論がどうであれ、問題を要素に分解しメリットとリ
スクに荷重を付けて計算しそれらを組み上げた上で、ベストシナリオ及び優先順位
を付けた複数の代替シナリオを決定して置く事が不可欠である。
それは、その後の事態の変化に対する対応可能性にも繋がる。

◆神道と日本人
日本人の「構造的思考力」の欠落は、古代からの根深いものであると思える。
教義が無いと言われる日本神道の根本教義をあえて探すとすれば、「明き清き心」
という言葉になろうか。
この言葉は、内部に構造を持たなく、単一価値観、単線的思考、集団主義等につな
がる。
これらは、国民の一心不乱の努力により短期間の戦後復興をもたらす等ではプラス
に作用した一方、戦前の拡張主義と破綻、バブル発生と崩壊に続く今日の停滞等を
生み出している。

一方、例えば西洋はどうかと言うと、統合的に物事を観られる者は他の社会と同様
やはり限られるが、キリスト教的思考、特にプロテスタントは物事を善悪のように
2つに峻別する傾向があり、社会内の対立が激しく行なわれる結果、短期間で結論
が得られるという特徴がある。
これにより、主に社会全体が動的に「構造的思考力」を分有していると言える。

また、初期儒教にも「構造的思考力」が見られる。
例えば、論語に「学んで思はざれば罔く、思ふて学ばざれば殆し」という言葉があ
る。
これは、学習する事と思考する事それぞれに内在するメリットとリスクを読み取っ
て、それを踏まえ常に意識し組み合わせ、バランス良く学問に精進せよという程の
意味であるが、物事の本質を複眼で見抜いた孔子のこの言葉の鋭さは2千数百年を
経てなお出色のものである。
日本において、明治維新とそれに続く富国強兵、殖産興業が成功した背景には、志
士達とその後継者達に、朱子、陽明の別と対立はあれ、儒学の素養という共通土台
があった事は否定の仕様が無い。

◆ 日本の行方
日本人は、このまま「構造的思考力」を欠いたままでは、今後も押し寄せる内外の
諸問題に対し何ら有効な解決策を見出せず、刹那的な世の中の空気に主体性無く従
うのみで、低迷から抜け出す事は不可能である。
また、状況によっては極端から極端に走る危険を常に内在し続ける。

構造的に思考する事は、特別難しい事ではない。
しかし、現状を観るに、この簡単な事を日本人の多数が成し得るかと問われれば、
筆者は悲観的感覚に襲われもする。
だが、要は単に、物事を先入観と保身に囚われず虚心に観察する勇気、お上に依存
した意識を捨てて物事に主体的に取り組む責任感を持つ事に過ぎない。

明治維新による社会変革は、限られた志士達の力により成し遂げられた。
大衆社会となった今日の日本の変革には、何らかの形の「市民革命」が不可欠であ
る。
それが、外交・軍事での大事件、経済のクラッシュ等の災いを切っ掛けにする事無
く、もしその前に為されるのであれば、この国と国民にとって僥倖だろう。


佐藤総研 http://www.mag2.com/m/0000102968.htm

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