★阿修羅♪ 現在地 HOME > 掲示板 > Ψ空耳の丘Ψ34 > 184.html
 ★阿修羅♪
次へ 前へ
原爆と『オイル』【こんなことを考える(生活雑感)】
http://www.asyura2.com/0403/bd34/msg/184.html
投稿者 エイドリアン 日時 2004 年 3 月 10 日 08:29:02:SoCnfA7pPD5s2
 

(回答先: 世代間の不公平?【こんなことを考える(生活雑感)】 投稿者 エイドリアン 日時 2004 年 3 月 10 日 08:00:39)

"アクエリアン"さん↑ が野田秀樹(現"NODA・MAP"、元"夢の遊眠社"主宰)の『オイル』を見た感想です。野田秀樹も、日本人の世代間ギャップを埋める戯曲を書いてる?

http://homepage2.nifty.com/aquarian/Essay/Es030812.htm

 8月は原爆の季節。広島・長崎の季節。

 そんな時期に、野田秀樹の『オイル』を見た。今春、チケットを入手できず、シアター・コクーンでの上演を見損なった。その舞台をWOWOWが放映してくれた。すさまじい原爆告発の演劇だった。

 現代劇らしく、さまざまなモチーフを、時空を越えてごちゃ混ぜにして、ストーリーは構成されている。古事記にでてくる出雲と大和の争いから、日米戦争、特攻、原爆、さらには現在のイスラムのテロ、9.11事件、そしてオイル。あるいは遺跡で石器を騙して見つける「神の手」。シリアスのようでいてドタバタの連続。

 それが最後に原爆の場面へと集約していく。電話交換手でありながら神の声を聞く巫女のような富士という女。それを松たか子が演じる。その弟で、特攻志願の飛行兵ヤマト。演じるは藤原竜也。

 8月6日、ヤマトは広島の産業奨励館(原爆ドームとなった)にいて、富士に電話をかける。その場面から、松たか子の独白が続く。時には絶叫するように、凛とした声で。その言葉が強烈だったので、録画したものから、その部分を書き取ってみた。

 その電話は何ごともなかったように、プツッと切れた。そのとき電話の向こうで10万人の人が熔けた。

 電話の向こうで人が熔けて、私の耳に声が残った。石段の上に腰をかけている人が熔けて、石の上にその人の影だけが残って、私の耳に声が残った。電話の向こうで10万人の人が熔けて、10万人の声が残った。

 残った声はまぼろし?
 この声がまぼろしというならそれでもいいの。

 ヤマト、もう一度教えて。復讐は愚かなこと?
 たった一度で何十万の人が殺された。その恨みは簡単に消えるものなの?

 一ヶ月しか経っていないのよ。あれから。(舞台は終戦後1ヶ月経った島根に設定されている) どうしてガムを噛めるの。コーラを飲めるの。ハンバーガーを食べられるの?

 この恨みにも時効があるの?
 人はいつか忘れてしまうの?
 原爆を落とされた日のことを。
 その翌日歩いたその町を?

   (富士は電話機を取り上げて、神様に電話をかける)
 もしもし、もしもーし。
 天国があるというのなら、なぜあの世に作るの?この世にないの?
 どうして天国が今ではなくて、アフターなの?
 それを教えてくれたら、信じてもいいよ。あなたのことを。

 ごめんなさい。嘘ついた。
 ほんとは、助けがほしいの。あなたの。
 聞こえていたら返事して!神様!

 舞台全面に瓦礫やぼろ切れが散乱している。その様子を見やりながら、富士は暗転した舞台の奥へとゆっくり立ち去り、劇は終わる。

 野田がこの舞台で提示したメッセージは、すさまじい。原爆への復讐である。原爆を投じたアメリカという国への復讐の呼びかけである。それを現在のイスラム過激派によるテロに結びつける。途中にはこんなセリフもある。

8月に原爆をふたつ落とされたから、9月に飛行機を2機飛ばす。
行き先はニューヨーク。
それが復讐ではないのか。

 島根に不時着した特攻機に、島根で湧きだしたというオイルを給油して、飛び立つ場面が続く。タイトルの『オイル』は復讐を表しているかのようだ。

 野田のあまりにも過激なメッセージに、演劇評論家たちは「たじろいだ」 と、ぴあ発行の「Invitation」誌9月号は伝えている。この衝撃作に今年の演劇賞が与えられるか、注目して見るといいだろう。

 広島、長崎、と原爆記念行事が行われた。小泉首相は就任以来、必ずこの行事に参列し、首相としての挨拶をしている。これと決めた原則を曲げずに律儀に実行するところが、この人のいいところだ。しかし、現在の世界情勢の中で、原爆犠牲者のことを想起するということが、どういうことか。そのことを深く考えないでいられることが、この人のいいところでもあり、限界でもある。

 根拠のなかったイラク戦争を勝手に始めた米国。それを全面的に支持した小泉首相を前に、秋葉忠利・広島市長は「平和宣言」を、高らかに読み上げた。その中で、イラク戦争を始めたアメリカと、日本に原爆を落としてアメリカとを、二重写しするかのように告発した。

 核兵器先制使用の可能性を明言し、「使える核兵器」を目指して小型核兵器の研究を開発するなど、「核兵器は神」であることを奉じる米国の核政策・・・・

 『戦争が平和』(オーウェルの言葉)だとの主張があたかも真理であるかのように喧伝(し、イラク戦争へ突き進んでいった米国)

 かつてリンカーン大統領が述べたように「全ての人を永遠に騙すことはできません」。そして今こそ、私たちは「暗闇を消せるのは、暗闇ではなく光だ」という真実を見つめ直さねばなりません。

 このような言葉を、小泉さんはどう受け止めたか。その日の記者との懇談では「いろいろな考え方がありますから」と例のごとく、はぐらかしていた。

 この平和宣言は、被爆国として、人々の大方の意見かと思ったら、やはり、産経新聞の産経抄は、けちをつけている。8月9日の分で、「相も変わらず大向こう受けをねらったパフォーマンスや、奇妙な政治イデオロギーの宣言がまかり通る」とくさし、「平和宣言は、反米・嫌米・憎米の表明だったといって言い過ぎではない」などと言っている。

 アメリカが国際協調による平和的解決よりも、武力というハードパワーを重視して、世界戦略を進めている。長崎以来58年間、存在はしても、使われることのなかった原爆を、使えるようにしようと小型化開発を計画している。イラクのような事態が再び起きた場合、次のサダムフセインが地下宮殿深く潜んでも、この小型原爆で一気にやっつけようとの意図だ。そのようなものを持つことが、脅しとして効くと考えるのだろう。

 北朝鮮は、核兵器しか自国を守るものがないと信じて、その開発にひた走っている。誰もそれを留めることができない。

 日本の一部強硬戦略家たちは、日本も核武装する時期だと、真剣に主張し始めている。

 NYTimesのコラムニスト、Nicholas D. Kristof は、広島の日にあわせて書いた「ヒロシマについての真実」(International Herald Tribune 8月7日)で、これまで何度も論じられた、広島への原爆投下の正当性を詳細に検討し直している。この時期にこの問題を取り上げたことと、それを論じる真摯な態度は見上げたものだが、結論は変わらない。広島なしには、当時の日本は、終戦の決断をしなかっただろうし、その結果、本土決戦となり、双方合わせて百万人の桁の犠牲者がでたことだろう。だから広島・長崎は仕方なかった。むしろ「天の配剤だった」(これは迫水久常のことば)。

 戦争というものを、計算問題として考えるなら、そうだろう。しかし、人間を物として計算してはいけない。戦争を始め、実行する指導者にとっては、兵員も敵の犠牲者も計算し、差し引きを考えるものなのだろう。イラクで毎日のように米兵に犠牲者がでている。それを、米国世論はまだ受けいれ可能だと、計算しているのだろう。

 アメリカの強権の発動、東北アジアの緊張、日本の追従外交・・・。そうした世界政治の現状に向かって、みんなものが言いたくても言えないでいる。何を言っても無駄だとわかってしまう。そんな風潮の中で、舞台を通して発せられた野田秀樹のメッセージは、言葉を越えるもので、力強く響いた。

 電話の向こうで人が熔けて、私の耳に声が残った。石段の上に腰をかけている人が熔けて、石の上にその人の影だけが残って、私の耳に声が残った。電話の向こうで10万人の人が熔けて、10万人の声が残った。

 復讐は愚かなこと?たった一度で何十万の人が殺された。その恨みは簡単に消えるものなの?

[2003/08/12]

 次へ  前へ

Ψ空耳の丘Ψ34掲示板へ



フォローアップ:


 

 

 

  拍手はせず、拍手一覧を見る


★登録無しでコメント可能。今すぐ反映 通常 |動画・ツイッター等 |htmltag可(熟練者向)
タグCheck |タグに'だけを使っている場合のcheck |checkしない)(各説明

←ペンネーム新規登録ならチェック)
↓ペンネーム(2023/11/26から必須)

↓パスワード(ペンネームに必須)

(ペンネームとパスワードは初回使用で記録、次回以降にチェック。パスワードはメモすべし。)
↓画像認証
( 上画像文字を入力)
ルール確認&失敗対策
画像の URL (任意):
投稿コメント全ログ  コメント即時配信  スレ建て依頼  削除コメント確認方法
★阿修羅♪ http://www.asyura2.com/  since 1995
 題名には必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
掲示板,MLを含むこのサイトすべての
一切の引用、転載、リンクを許可いたします。確認メールは不要です。
引用元リンクを表示してください。