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グローバリゼーションの直撃受ける世界の農民【農協新聞】
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投稿者 エイドリアン 日時 2004 年 12 月 30 日 09:11:27:SoCnfA7pPD5s2
 

引用:グローバリゼーションの直撃受ける世界の農民より

家族農業経営と農協に何が起きているか

村田 武 九州大学大学院農学研究院教授


 米の国際価格は今や1俵1600円(タイ米)。東南アジアの農民にとってもコスト割れだ。まともな所得を得るためにコーヒー豆の生産に走ったが、世界のコーヒー豆供給量は重要を1000万袋(60kg)も上回る過剰生産に。当然価格は暴落、という悪循環を生んでいる。原因はどこにあるのか。九州大学の村田教授にグローバリゼーションの「陰」を分析してもらった。


むらた・たけし
 昭和17年福岡県生まれ。昭和41
年京都大学経済学部卒業。44年同
大学院経済学研究科博士課程中
退、同年大阪外国語大学(ドイツ語
学科)助手、講師、助教授を経て、
56年金沢大学経済学部助教授、61
年同大学教授、平成10年九州大学
農学部教授、12年より同大学大学
院農学研究院教授。経済学博士。
 主著に『問われるガット農産物自
由貿易』(編集、筑波書房、1995
年)、『世界貿易と農業政策』(ミネ
ルヴァ書房、1996年)、『農政転換
と価格・所得政策』(共著、筑波書
房、2000年)、『中国黒龍江省のコ
メ輸出戦略』(監修、家の光協会、
2001年)。

 先月、日本とメキシコの自由貿易協定(FTA)が基本合意に達し、「いよいよFTAが本格化する時代の到来だ」とするマスコミ論調がにぎやかだ。これは、昨年9月にメキシコのカンクンで開催された世界貿易機関(WTO)の第5回閣僚会議が、途上国グループの抵抗によって新ラウンド議長裁定案での合意に失敗したこともあって、「WTOでだめならFTAだ」とする動きがアメリカを先頭に高まっていることにもよる。
 しかし、FTAは2国間で基本的に関税を完全撤廃することをめざすものであって、WTO農業協定、つまりガット・ウルグアイラウンド農業合意による農産物自由貿易体制を土台にしている。いま、農業関係者にとって重要なのは、世界農業・農産物貿易のグローバリゼーションのもとで、家族農業経営・農協に何が起こっているかをしっかりつかむことだ。
 以下では、3月下旬に出版した『21世紀の農業・農村[第1巻]再編下の世界農業市場』、『21世紀の農業・農村[第2巻]再編下の家族農業経営と農協』(ともに筑波書房)にもとづいて、再編が進む世界の農業・農産物貿易の動きと、グローバリゼーションに直撃されている家族農業経営と農協の実態をみよう。


◆ メキシコや中国で進む 基礎食料の輸入依存

 WTO自由貿易体制とFTAのもとで、国民経済規模が大きく、工業化も一定程度進んだ中進国で、基礎食料農産物、とくにトウモロコシなど穀物の輸入依存、とくにアメリカに対する輸入依存が強まっている。その代表がメキシコである。メキシコは、アメリカ・カナダとの北米自由貿易協定(NAFTA)(1994年発効)で、アメリカからの直接投資による経済成長をめざしたものの、アメリカのワシントンポスト紙が報道したように、「NAFTAは米国農民と競争できないメキシコ農民を破産させ、マキラドーラ(アメリカとメキシコ国境沿いの保税加工区)や工場労働者、最大規模の農場に恩恵を与えはしたが、すでに衰弱していた小農民をいっそう痛めつけることになった」。アメリカからのトウモロコシ輸入は、国内が干ばつで不作の年に輸入していた200万トンを大きく超えて、600万トン台になっている。国民の主食ともいえるトルティーヤは、国産伝統品種の白トウモロコシ粉が原料であった。ところが、ダンピング輸出されてくる安いアメリカ産黄色トウモロコシ(主として飼料用のデントコーン種)が混ぜられた安いトルティーヤがあふれるようになった。その影響で国産トウモロコシの価格が下がり、メキシコ農民は苦境に陥ったのである。
 中国もいよいよ食料輸入国に転じ始めた。中国が、WTO加盟に関する米中交渉(1999年秋に妥結)で、アメリカの農産物市場開放要求に応じたのは、経済成長を外資導入とアメリカ市場の安定的確保に賭けたからである。大豆については、中国はすでに96年に純輸入に転じ、それ以降一貫して輸入を増やしている。すでに1000万トン台、世界貿易の15%前後を輸入する世界最大の大豆輸入国になった。中国は、麦や米、トウモロコシについても、まもなく純輸入国になると予測されている。21世紀は20世紀末とは異なって、世界的な農産物不足時代を迎え、その最大の要因が中国の穀物輸入国化にあるのではないかとする考えが生まれているのも不思議ではない。


◆ サハラ以南のアフリカでは 貧困と飢餓がさらに深刻に

 さらにアフリカ諸国など周辺低開発国とよばれる国々は、深刻な飢餓問題を脱出できないでいる。世界食糧農業機関(FAO)が警鐘を鳴らし続けているように、飢餓は、リベリアやコートジボアール、コンゴなどにみられる内戦や、エリトリアやジンバブエなどの干ばつなど気象災害を直接の原因にしながらも、それにともなう住民の強制的移動、経済破綻、さらには部族間紛争や内戦による大量の難民の発生とも関わっている。21世紀の国際社会が、全力をあげて解決しなければならない問題である。


◆ 米欧のダンピング輸出が もたらす「コーヒー危機」

 メキシコや中国が穀物の輸入依存を強め、さらにはアフリカ諸国が食料援助から逃れられなくなっている原因はどこにあるのか。そのもっとも重大な原因が、米欧の過剰農産物のダンピング輸出競争、つまり輸出補助金による生産コスト以下での安値輸出による市場の奪い合いと、それがもたらしている国際穀物価格の長期低迷にあることはよく知られている。国際価格の低迷は、小麦やトウモロコシだけでなく、コメにもおよび、それが開発の遅れた途上国の国民食料農業に打撃を与えている。
 たとえば、米の国際価格の指標となっているタイ米(精米)の輸出価格は1トン当たり250ドル、すなわち60kg当たりでは15ドル(1600円程度)を切る水準になっている。インドネシアやベトナムなど東南アジア諸国の稲作農民にとっても、この値段ではコスト割れだ。
 こうして穀物を代表に自給用・国内販売用の農産物を生産していてはまともな所得を上げられないとなれば、途上国農業・農村が頼るのは、輸出向け農産物ということになる。その結果がコーヒー豆など熱帯産品の世界的な過剰生産であり、それがまた熱帯産品の国際価格を暴落させることになった。

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ベトナム・中部高原(ダクラク省)のコーヒー園。高木はシナモ
ン。日陰をつくる樹木としてシナモンノキが利用されている。
シナモンノキは同時に樹皮がシナモンに利用できる。


ベトナム・中部高原のコーヒー園。
ロブスタ種のコーヒーノキ。

 国際コーヒー機関(ICO)によれば、世界のコーヒー豆供給量は需要量を1000万袋(60kg袋)は上回っており、コーヒー国際価格は1997年以降急激な下落に見舞われ、過去30年の最低水準、1ポンド(454g)当たり50セントにまで下がっている。ベトナムは、中部ダクラク高原がアジア最大のコーヒー産地となったが、このベトナムの小農民経営のコーヒー生産コストは世界でも最も低い水準にあるとみられるが、それでも農家からの買付け価格は生産コストの6割以下といわれる。中南米、アフリカを含めコーヒー農業が重要である途上国は40カ国を超え、周辺最貧国のなかには、コーヒーに輸出外貨獲得の半分以上を依存している国が少なくないのである。

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インドネシア(南スマトラ)の小農民コーヒー園。
加工場で手選別されるコーヒー豆。


インドネシア(南スマトラ)の小農民コーヒー園。
天日干しされるコーヒー豆。

 ところが、自由貿易主義のWTOは、コーヒーの国際価格の低迷にも、コーヒー生産国の危機に対しても無策なのである。このような事態だからこそ、WTOに対して途上国の幻滅が広がっているのである。コーヒー豆の国際価格低迷にともなう生産国農民の惨状については、オックスファム・インターナショナル著(日本フェアトレード委員会訳・村田武監訳)『コーヒー危機・作られる貧困』(筑波書房、2003年刊)を参照されたい。


◆ 世界で本格化する 反グローバリゼーションの動き

 この間において、多国籍企業の利益中心のグローバリゼーションと自由貿易一本槍のWTOに反対する非政府組織(NGO)の運動が世界的に成長している。「WTOから農業をはずせ」という声が世界の農民運動団体から上げられている。そして、ラテンアメリカを含むNGOの世界的な国際連帯運動が、ポルトアレグレの「世界社会フォーラム」運動にみられるように前進している。
 また、先進国の市民消費者の「フェアトレード運動」が広がっている。これは、途上国の小農民生産者やその協同組合から、生産コストを補てんする適正価格で熱帯産品の輸入を組織し、支援しようという運動である。今日の世界の食料安全保障と途上国農民の危機的状況を反映したものであろう。このようなWTO体制とグローバリゼーションに対抗する運動の波が本格的なものになりつつあり、それはガット・ウルグアイラウンド段階(1980年代後半から90年代半ば)とは本質的に異なるところに現代の特徴があるといえよう。


◆ 家族農業経営と 農業協同組合の危機が進む

 WTOとFTAの農産物自由貿易体制と、それを最大限に利用して利益を上げようとするアグリビジネス多国籍企業の支配力が高まるなかで、世界各地の農業および産地が、今や世界的な競争に巻き込まれている。
 それは、アメリカやEUの家族農業経営と農協も例外ではない。
 アメリカは農産物輸出を拡大し、同時に政府が農業経営への助成に巨額の財政を投じている。しかし、儲けているのは、巨大穀物商社や食肉メーカーであって、家族農業経営や農協は青息吐息の状態にある。その証拠に、近年のアメリカの農業経営の減りかたがすごい。1950年代には500万経営以上もあった農業経営数は、1998年には200万経営にまでになった。わが国の農家数300万戸より100万も少ないのである。農協の減少もすさまじく、1970年には8000あった農協は、2000年には合併や破算によって4000にまで半減している。総農場の1割弱の大型経営、それは農産物販売額25万ドル以上であって、その最上層は会社経営の巨大農場であるが、1割弱の経営で、全国の農産物出荷額の3分の2を占めている。他方で、家族経営らしい家族経営は規模拡大か離農かの厳しい選択を迫られているのである。後継者不足と高齢化、過疎化して「コミュニティの崩壊」といわれる農村が、アメリカのいたるところにみられるようになっている。
 西ヨーロッパ諸国の農業は、欧州連合(EU)の共通農業政策で保護されてきたが、WTOのもとでアメリカ農業やオセアニア(オーストラリアやニュージーランド)農業との国際競争を強いられている。コスト競争の可能性が乏しいだけに、農産物商品の価値を押し出した競争、たとえば有機農産物とか、「強いヨーロッパ産品」、「原産地表示」といった「わけあり農産物」に生き残りを賭ける方向を強めている。中小規模の家族農業経営や農業協同組合は、有機農業ネットワークやファーマーズマーケットなど新しい消費者により接近した農産物販売も含めて、大規模経営・大規模農協とは異なった農法やマーケティングを採用している。
 ダンピング輸出競争にしのぎを削るアメリカとEUであり、農業生産力において最も高い水準に達しているはずの家族農業経営とそれを支えてきた農協もまた、グローバリゼーションのもとにあって、いま深刻な危機に直面している。

(2004.5.10)



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