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教科書に書いていない国際政治学 マガジンNo.140
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なぜ人間は戦争を起こすのか
フロイト心理学の説
なぜ人間は戦うのでしょうか。人間は歴史上、常に戦争をして
きました。人が他者と戦う理由は各学会における永遠の研究テー
マで、多くの論争を招いています。今週のメルマガは、心理学者
フロイトが唱えた一説を紹介します。
以前のメルマガで核兵器の技術について書きました。戦争に大
きなインパクトを与えた核技術ですが、基礎にあったのはアイン
シュタインの物理学です。このアインシュタインと戦争の原因に
ついて議論したのがフロイトです。
１９３１年から３２年、オーストリアの心理学者フロイトは、
ユダヤ系ドイツ人の物理学者アインシュタインと手紙を交換しな
がら戦争について論争を交わしました。
当時の学会のトップに君臨する二人が交わした議論は今でも全
文が残っており、ヨーロッパの大学では必ず取り上げられる教材
となっています。
アインシュタインはフロイトに宛てた手紙で、「近代科学の進
歩により一つの文明が破壊され得る時代になった」と近代戦争の
恐ろしさに警鐘を鳴らしました。
戦争の原因としてフロイトが手紙に書いたのは、人間が抱く死
への願望です。フロイトによると、この願望は全ての生き物が備
えている、その自滅を促すものです。そして、これが他者に向け
られると人は平気で相手を殺します。
◆ 生の本能と死の本能
フロイトの心理学は当時の学会で大変な注目を集めていたもの
ですが、彼は人間には二つの本能があると論じました。生きよう
とする「生の本能」（エロス）と、死を求める「死の本能」（タ
ナトス）です。
生物とは無機物から起こり有機体として発展・成長していくも
のですが、このような成長を促すのは生の本能です。
なお「エロス」とは今日、一般的に性的なものを指す言葉とし
て使われています。この言葉は本来、ギリシャ神話における「愛
の神」を指すものです。
愛の神は、美の神であるアフロディテ、通称ヴィーナスの子供
です。ミロのヴィーナスとか言う、あれです。愛の神、生の本能
という意味を考えると、性的なものをエロスと表現するのも何と
なく分かります。
さて、成長していく生物も、いつかは死んで無機物に帰ります。
それならば、生命の最終的な目標は死である筈だとフロイトは考
えました。死の本能とは、有機体が本来の無機的な状態に帰ろう
とする願望。人間が「無」に帰ろうとする本能です。
フロイトによると人間には死を望む本能があるのですが、それ
と同時に生の本能も働いています。したがって、直ぐに自殺する
ことはありません。
しかし、抑えられた死の本能は常に活動の機会を窺っています。
戦争は、この本能の表れ。破壊により全てを「無」に帰す願望の
表れです。そして、戦争で他人を殺めるのは、生の本能が抑えら
れている死の本能を他者に向けるからなのです。
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参考文献
小此木啓吾『フロイト』講談社学術文庫、７７−７９頁。
James E. Dougherty and Robert L. Pfaltzgraff, Jr.,
Contending Theories of International Relations, p. 265.
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教科書に書いていない国際政治学
発行者
Hiro
マグマグ・カテゴリー
「情報源」「時事ネタ」(http://www.mag2.com)
マガジンID
71858
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