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インテリジェンス情報力 自衛隊50年――通信傍受、米が主導[朝日新聞]
http://www.asyura2.com/0406/bd37/msg/205.html
投稿者 feel 日時 2004 年 9 月 28 日 00:40:58:/berAdga6DXu.
 

2004/09/21朝日新聞12ー13面 opinion news project
http://www.asahi.com/

インテリジェンス情報力 自衛隊50年

 イラク戦争の根拠となった大量破壊兵器に関する情報をめぐる問題やテロ対策を契に、情報機関のあり方が問われている。日本の情報機関はどのような経緯で発足し、何をやっているのか。日米同盟の下で、米国との関係はどうなっているのか。関係者の取材を重ね、秘密のベールに包まれている組織の実態に迫った。(敬称略)

通信傍受、米が主導

「影の組織」トップは警察

 ●誕生

 戦後、日本政府の情報組織は52年4月に誕生した。政府内で「内調」と呼ばれる内閣官房調査室(現内閣情報調査室)だ。発足当時は、警察官僚の村井順室長以下わずか7人だった。
 日本の情報機関に詳しい作家の吉原公一郎が内調関係者から入手したとされる極秘文書「内閣総理大臣官房調査室に関する事項」は、設立目的をこう記している。
 「内外重要国策の基礎となるべき諸般の情報を関係各庁と協力して収集し、……国際心理戦に対処する高度広報宣伝の機能を果たさしめる」
 発足を決めたのは、吉田茂首相。元秘書官の村井や戦時中に情報局総裁だった緒方竹虎らが進言した。
 その極秘文書には内調の「懸案事項」の一つとして、「外国特にソ連及び中共等の暗号電信を傍受、解読する特殊機関を設置」が盛られていた。
 それを受けて6年後に公式に誕生した「特殊機関」が、陸幕二部別室(二別)だった。大方の要員が自衛隊員であり、傍受施設も陸上自衛隊のものを使うため、形式上は陸自に属しているが、実質は内調の下部機関である。そのため代々のトップは内調と関係の深い警察官僚だ。
 「アンタッチャブルの世界ですよ」と、元防衛事務次官は言う。ほとんどの防衛官僚や自衛隊幹部は「二別」の活動内容を知らされなかった。

 ●実態

 米ソ冷戦下で「二別」は、陸幕調査部別室(調別)に名前を変えるとともに、組織拡大を続けた。70年代には千人を超え、傍受施設は北の稚内から南の喜界島まで9カ所。ソ連、中国、北朝鮮の軍事電波を傍受しやすい場所が選ばれた。
 東千歳通信所稚内分遣隊長を60年代に務めた田中賀朗が、傍受の現場の様子を明かす――。
 担当者は、方位測定と傍受の2グループからなる。前者はループアンテナで電波の発信位置を割り出す。後者が4時間交代でヘッドホンに耳を澄ませる。ソ連空軍のパイロットと基地との交信、軍事演習時の部隊間の会話などが聞こえる。
 ある時、ソ連の軍事演習をキャッチした。サハリン南端から上陸してくる部隊を途中で迎撃するという内容だった。「ソ連も日米の着上陸侵攻を恐れている」。田中はそう思ったという。
 別の元調別室員は、70年代のソ連のICBM(大陸間弾道弾)発射実験の様子を鮮やかに覚えている。約4カ月に1度、ウラジオストクから観測船が次々出港した。船と基地の交信を追った。「実験はほぼ100%の成功率。脅威を感じた」という。
 「調別」で得た情報は、高度な秘密を意味する特別の秘密指定がされる。その情報は、ジュラルミンの箱に入れられ、運搬要員が防衛庁の調査部署へと運ぶ。

電波部として公に認知

 ●秘密

 日本の電波傍受機関の最大の特徴は、米軍の影響下で生まれ、成長したことだ。
 占領時代の50年に、米軍はひそかに警察予備隊(自衛隊の前身)員らを集めて、電波傍受組織を作った。トップは旧軍出身の予備隊幹部だ。
 元陸上自衛隊幹部学校研究員の高井三郎によれば、この組織は埼玉県の大井通信所内で電波傍受活動をしていたという。
 この非公然の組織が、58年に「二別」に生まれ変わったのだ。傍受した録音テープは二つ作られ、その一つは在日米軍に渡された。通信手段が発達すると、ハワイの米太平洋軍司令部に直接送る場合も出てきた。
 日本政府はこの秘密の関係を知らなかった。だが、それを思い知らされる事件が起きる。83年の大韓航空機撃墜事件である。
 調別が撃墜の証拠となるソ連機パイロットによる交信を傍受した。そのテープが自動的に米軍に流された。米政府から「対ソ非難のために公開していいか」と打診され、初めて実態を知った。
 当時の後藤田正晴官房長官は「けしからん」と、防衛庁に怒りをぶつけた。だが、夏目晴雄防衛事務次官も「仰天した」のであった。事件を契機に、政府は首相官邸や防衛庁の高官の承諾なしに、米軍に記録を自動的に流さないようシステムを変えた、という。
 米軍は同じ83年に、青森県・三沢の空軍基地内に強力な傍受施設であるゴルフボール様のドームを建設した。「ゴルフボールを持つ米国は、自衛隊の情報力を圧倒している」と元自衛官は言う。自衛隊に頼らなくてもいい態勢作りとも言える。

 ●改編

 政府の電波傍受機関であった「調別」は、97年1月に発足した防衛庁情報本部の中で、電波部として改編される。
 情報本部設立を主導したのは、防衛局長、事務次官を務め「ミスター防衛庁」と呼ばれた故西広整輝だった。
 防衛局長時代の85年夏、この構想を提唱。89年に事務次官になると「陸海空の情報組織を一本化して、情報本部を新設したい」と政界の要路に訴えた。情報本部の中核として狙いを付けていたのは「調別」だった。
 当時、自衛隊内部には「警察が調別のトップを務めるのはおかしい」という不満がたまっていた。だが、内調や警察庁との合意なしに構想を実現することは出来ない。情報問題に精通し、警察人脈に大きな影響力を持つ後藤田に相談した。
 その結果、本部長には自衛隊の制服組がつき、副本部長には内局の背広組が入った。電波傍受情報を一手に握る電波部のトップは引き続き警察庁が獲得している。
 03年度末現在、情報本部の定員は2100人余り。うち電波関係者は1500人を超える。

戦後日本の情報組織の動き

 47年 9月 米中央情報局(CIA)発足
 50年 8月 警察予備隊発足
 52年 4月 内閣官房調査室(内調)発足
  同年10月 米国家安全保障局(NSA)発足
 54年 7月 防衛庁・自衛隊発足
 57年 8月 内閣官房調査室が内閣調査室に
 58年 4月 陸幕二部別室(二別)発足
 78年 1月 二別が調査部別室(調別)に
 83年 9月 大韓航空機撃墜事件で電波傍受記録公表
 86年 7月 内閣調査室が内閣情報調査室に
   同    合同情報会議発足
 97年 1月 防衛庁情報本部発足(調別を吸収)
 98年10月 内閣情報会議発足
 01年 1月 内閣情報官新設
 01年 4月 内閣衛星情報センター発足

 【写真説明】
 米軍三沢基地の「象のオリ」と呼ばれる高感度無線傍受アンテナ=青森県三沢市で、本社機から

  後藤田正晴元副総理インタビュー
「制服だけに情報」は困る 政府全体の組織が不可欠  

 ――後藤田さんは自衛隊の前身である警察予備隊の50年発足から2年間、その警備課長兼調査課長でした。調査課とはまさに情報担当のことですが、当時はどんな状況だったのですか。
 「僕の時代は部隊の編成配備が中心でね、形の上ではシビリアン(文民)の情報担当の課長だったが、実質的な活動はほとんどありません。部隊の制服の方が作戦情報という観点から米軍の指導を受けてやっていたと、こう理解して間違いないのではないですか」
 「ただ、これは軍事情報です。それに対して政府全体のための政治情報をとる必要がある。それで出来たのが内閣調査室(内調)。そこで何をやっていたかというと、東西冷戦下におけるイデオロギー対立の国内への反映で、暴力革命阻止。だからもっぱら共産党関係の情報をとっていた」
 ――電波傍受の組織も誕生しています。
 「それは内調の情報の中心だった。最初の施設は埼玉県の大井通信所だな。あれはね、近隣諸国で軍の部隊や艦隊が集まったときには、無線による交信が非常に多くなるので、すぐ分かる」
 ――この「二別」「調別」という組織は、97年に発足した防衛庁情報本部に吸収され、内調から切り離されました。
 「西広整輝君が防衛事務次官だったとき(88〜90年)に来てね。『あれを充実したいから、防衛庁でやらせてください』と言ってきたんだ。僕はずいぶん考えたんだけど、『よかろう』と。ただし条件があるぞ、情報は全部内閣に上げろ。それと制服だけで防衛庁で運営するのはまかりならん。内閣の職員を入れろ。部長が制服なら、代理はシビリアンで内閣の職員。あるいはその逆、と。そしてこう言った。『なぜこんなつまらんことを言うかというとね、制服の兵隊さんだけが政府全体の情報を握ることになると、政府がそれに引きずられることになりかねない。それが一番困るんだよ。経験があるんだ』と。それが大韓航空機撃墜事件だよ」
 ――83年9月1日未明にサハリン沖で大韓航空機がソ連戦闘機に撃墜されて269人が死亡した事件ですね。当時、後藤田さんは内閣官房長官でした。
 「防衛庁が(ソ連戦闘機の無線傍受記録を)報告に来たのは、午前11時だった。その時にはすでに自衛隊から米軍を通じて米国政府に記録が流れていた。それで初めて分かったのは、(傍受した調別の)稚内の施設は、もともと米軍がやっていたのを自衛隊が引き継いだ。引き継いだ時に米軍の人間まで一緒にいるんですよ。だから、向こうの方が先に報告した。本当に腹が立った。米国が先、日本が後なんだ。これでは米国の隷下部隊。『こんな自衛隊ならいらん』と言ったんだよ」
 ――「政府全体の情報組織が必要だ」というのが、持論ですね。
 「絶対必要だ。内閣情報調査室は200人しかいないから、これではどうにもならない。いま日本に欠けているのは、国全体としての情報収集、分析、それへの対応をする機関。この必要性が皆まだ分かってない。どんな商売でも情報がなければ仕事にならない。ましてや国の運営となったら、情報は不可欠です」
 ――なぜ戦後の日本には政府全体の情報機関が育たなかったのですか。
 「米国依存だから。国の安全は全部米国任せだから、いまのように属国になってしまったんだ」
 ――新たな政府の情報機関を作るとして、どういう内容のものであるべきだとお考えですか。
 「謀略はすべきでない。かつて坂田道太防衛庁長官(74〜76年)が『ウサギは相手をやっつける動物ではないが、自分を守るために長い耳がある』と言ったが、僕は日本という国を運営するうえで必要な各国の総合的な情報をとる『長い耳』が必要だと思う。ただ、これはうっかりすると、両刃(もろは)の剣になる。いまの政府、政治でコントロールできるかとなると、そこは僕も迷うんだけどね」
 (聞き手・本田優編集委員)


日本の情報機関 独自情報源、弱い基盤 関係省庁の司令塔も不在

 日本政府の情報関係機関で形成する「情報共同体」は、情報本部を持つ防衛庁のほか、他国からのスパイ行為を防ぐ防諜(ぼうちょう)を主任務とする警察庁や公安調査庁や、内閣情報調査室、外務省からなる。情報共同体を統括する権限をもつ司令塔はなく、「緩やかな結びつきとなっている米国の情報共同体と比べても、さらに緩やかなのが特徴」(政府関係者)という。
 こうした情報機関の連携を強化するために、隔週に1度開かれるのが、合同情報会議。内閣官房副長官が議長を務め、内閣情報官のほか、外務、警察、防衛、公安調査の各省庁の局長らが出席する。
 議事録はつくられず、ほぼ毎回、外務省が重要人物の動向や政情などの国際情勢を報告。最近は、公安調査庁が朝鮮総連などからの情報をもとにした北朝鮮情勢、防衛庁がイラク情勢を報告することも多い。合同情報会議と交互に、隔週1回課長クラスがメンバーとなる情勢分析会議もある。
 この中で最も大きい組織である情報本部を持つ防衛庁は、電波情報のほか、商用衛星などから得る画像、沿岸監視隊などによる警戒監視などの各種情報を持つ。世界各地に派遣した防衛駐在官47人や在日米軍、米太平洋軍などを通じた軍事情報も入る。
 こうした内閣官房を中心とする各組織の情報持ち寄りのシステムが確立したのは、ここ数年のこと。しかし、その情報の中身は情報本部発足前と同じように、電波情報に頼る部分が大きい。
 もう一つの特徴は、米国の情報への依存である。警察、内調、外務省はいずれも米中央情報局(CIA)との情報交換を行っているが、日本側にはCIAの情報を検証する力がない。独自の外交政策を打ち出すには、各国との真の情報交換を可能にする独自情報源の確保が必要だが、その基盤はまだ弱いのが実情だ。

日本の情報共同体

首相――内閣情報官  ――内閣衛星情報センター
    内閣情報調査室
  ――警視庁――外事課
  ――防衛庁――情報本部
  ――公安調査庁――調査第2部
  ――外務省――国際情報統括官
(国際情報を扱う部署を中心に掲載)

「在日大使館も拠点」

 防衛庁の情報本部電波部(旧・調別)にあたる通信傍受機関は、米英など海外でも、その実態が公になることは極めてまれだ。英語圏諸国の通信傍受システム「エシュロン」に代表されるこうした活動では、同盟国相手や、国連などの国際機関を舞台とした盗聴すら行われている。唯一の超大国として米国が牛耳っている闇に包まれた世界を探った。(敬称略)

カナダ機関元幹部が証言

 東京・赤坂にあるカナダ大使館。この建物が、「東京を舞台とした通信傍受情報作戦の最前線基地としてひそかに選ばれていた」。カナダ政府の通信・傍受情報機関、通信保安機構(CSE)の元幹部マイク・フロストが、朝日新聞に対してそう明かした。
 フロストは、CSEで在外大使館を拠点とする傍受・盗聴活動部門の次長だった。「私が最後に在職していた92年の時点ですでに、在東京カナダ大使館は傍受施設の設置を検討する対象に含まれていた」と言う。
 フロストは「当初は見送りになっていた。だが93年までには日本対象の傍受活動が始まっていたはずだ」と断言する。
 「92年ごろ、東京の大使館に大きな電子機器類が届いた。大使館には、要員3人が新たに派遣されてきた。ある外交官が使っていた窓のない個室から追い出され、その部屋は大使とナンバー2、3人の新顔以外は、立ち入り厳禁になった」。退職後の95年、カナダ外務省に勤める知人から聞いた話だという。
 しかも、その作戦はカナダのためだけでなく、米の通信情報機関、国家安全保障局(NSA)による要請に基づくものだった。「NSAは我々に、東京での作戦を実施するよう圧力をかけてきた」と、フロストは証言する。
 NSAは、3万人以上といわれる職員をかかえ、一般に情報機関として知られる中央情報局(CIA)を予算の面でも上回るとされる。NSAが盟主として動かす傍受情報システム「エシュロン」には、英国、オーストラリア、ニュージーランドの同種機関と並び、カナダCSEも組み込まれており、その関係は極めて密接だ。
 東京の電波状況が複雑で対象範囲も広いため、「傍受周波数を英、カナダと分担したい」というのがNSA側の意向だった。「機材も要員も予算も、こちらで出して構わない。偽のカナダのパスポートを持たせ、カナダ人職員という名目で、お宅の大使館に置かせてくれ」と持ちかけてきたこともあったという。カナダ側はさすがにこの提案は拒否したという。
 フロストの証言をめぐる朝日新聞の問い合わせに対し、カナダ政府の外務貿易省スポークスマンは「当省の職員でなかった人物の発言についてコメントすることは適切でない。それ以上何も付け加えることはない」と回答した。

対象「すべて経済情報」

 NSAやCSEが、東京でねらう対象は何か。「すべて経済情報に関することだ。我々は日本に軍事面では何の関心もなかった」とフロストは言い切る。ただし、「経済といっても政策面に関することだ。特定の会社のための商業スパイではない」という。
 エシュロンは、あらかじめ各国が登録したキーワードを含む会話や電子メールなどを自動的に拾い上げる「辞書」と呼ばれる電算処理システムに支えられている。だが、経済情報は軍事情報や対テロ情報と違い、通常はそれほど一刻を争うような性質のものでないため大使館で傍受した内容を直接エシュロンのデータベースに接続しないことも珍しくはない、とフロストは説明する。
 「米国にもカナダにも関係し、利害の対立があるような情報は、エシュロンには入れない」。フロストたちは81年に、オタワ駐在の米大使が自動車電話での館員と会話の中で、中国への小麦輸出入札額を口にしたのを偶然傍受し、カナダの落札につなげる成果を上げたことがあるという。

日本、「協力国」にも名

 エシュロンを動かす英語圏5カ国の体制は、通信情報面での協力のため48年に米英が結んだ「UKUSA」と呼ばれる秘密協定が始まり。カナダ、豪、ニュージーランドは「第2次」メンバーとして加わった形だ。
 さらに、メンバーではないが「サードパーティー(第三国)」と呼ばれる協力国の一群がある。「傍受のための施設を提供していたり、独自に収集したデータを提供することがあったりする国々だ」と、元NSA職員、ウェイン・マドセンは説明する。
 日本は経済情報で「標的」とされる一方で、ドイツ、韓国、トルコなどと並び、この「第三国」の中にも含まれるとされている。マドセンは「協定自体が秘密である以上表に出にくいが、私がNSAにいた80年代も、日本政府の連絡官が本部を訪問することがあり、日本がそういう地位だということは、内部の人間は皆知っていた」という。
 第三国からのデータ提供に見返りはあるのか。フロストは「第三国が関心を持ち、かつ、5カ国側の不利益にならないと認められる情報は提供しましょうという約束はあるが、義務ではない」という。「特定の生データを買うこともあった。第三国情報はデータベース構築の資料に使われることが多かった」と述べ、ドライな取引関係であることを説明した。
 日本は、分析官も含み千人単位のNSA要員を擁するとされる三沢基地を提供しており、「第三国」の中でも密接な関係にあるといえそうだ。
 だがマドセンは「カナダや豪ですら、すべての情報を与えられるわけではない」。フロストも「あらゆる面でボスはNSA。米国が持つムチは大きい。我々が協力は嫌だと言えば『それなら情報は与えない』と言うだけだ」と口をそろえる。
 闇の世界では、「同盟国」であっても時には「標的」ともなる。盟主・米国との距離感をどの程度に保ち、自らの国益に役立つ情報を手に入れるのか。それは日本にも共通する課題だ。
 【写真説明】
 「在日カナダ大使館が通信傍受の拠点になっている」と証言する元職員マイ
ク・フロスト=カナダ・ニューブランズウィック州で、梅原季哉撮影


キャサリン・ガンさん(英) 国連舞台の盗聴を内部告発「戦争止めたかった」

 03年1月31日、金曜。職場に届いた一通の電子メールが、彼女の境遇を激変させた。
 英国政府通信本部(GCHQ)――それがキャサリン・ガン(30)の職場だった。英国外務省の下に置かれているが、日本の自衛隊情報本部電波部や米NSAと同様、通信傍受や暗号解読をする情報機関だ。彼女は母国語並みの中国語能力を生かし、01年から翻訳分析官として働いていた。
 見知らぬメール差出人の名は「フランク・コーザ」。肩書は、GCHQと密接な関係にある米NSAの標的選定部門長。「イラク関係討議を反映して」と題し、国連を舞台にした盗聴・傍受活動への協力を求めていた。
 当時、イラク戦争に踏み切ろうとしていた米国は、国際社会のお墨付きを得ようと英国と共に外交活動を活発化させていた。メールは、安全保障理事会で態度未定だった中間派6カ国がどんな立場を取りそうか、何でも情報を取ってほしいと呼びかけていた。GCHQ関係部署の職員に、一斉転送されたようだった。
 国益むきだしの活動の一端に触れたガンは衝撃を受け、怒りを覚えた。 「戦争賛成の票を取り付けるためなら彼らはここまでやる、と人々が知れば、戦争を止められるかもしれないと思った」
 熊本県への留学生、広島県の英語指導助手として2度にわたり暮らした日本で知った、原爆被爆の歴史も頭をよぎった。「ミサイルの閃光(せんこう)の陰には、誰かの人生がある」
 週明けに登庁すると、問題のメールをプリントアウトした。ハンドバッグに忍ばせ、夕刻、鉄条網に囲まれたゲートを出た。匿名で英オブザーバー紙に郵送した。2月下旬、同紙は国連安保理を標的とした盗聴作戦をスクープした。
 ガンは「自分の行為に責任をとらないのは耐えられない」と考え、直属の上司に自分が漏洩(ろうえい)源だと告げた。即座に解雇され、公共秘密法違反容疑で逮捕された。検察が「裁判維持できる十分な証拠がない」と起訴を取り下げたのは、今年2月末になってからだった。
 ガンは守秘義務を破れば再び訴追される恐れもあり、GCHQでの職務の具体的な内容は一切話さない。
 GCHQ内部には「5年勤めれば、一生残る」という定説がある。少ない勤務時間、充実した福利厚生……。「居心地が良い職場なのは確か」
 しかしガンは「以前からこの仕事の意味は何だろうと思っていた」という。同僚たちがいつも持ち出すのは「どの国もやっている。我々がやらなければ相手がしている以上優位に立てない」という論理だった。「でも、他の国がやっているからといって、正しいとは限らない」。告発は、いずれ避けられない道だったのかもしれない。
 【写真説明】
 内部告発に踏み切ったことを「今も後悔していない」と言い切るキャサリン・ガン=英チェルトナムで、梅原季哉撮影


米の情報機関 15部門が緩やかに連携、CIA長官も影響力限定

 米国政府の情報機関は一般にスパイ劇で知られる中央情報局(CIA)だけではない。
 NSAや、偵察衛星による画像情報を取り扱う国家空間情報局(NGA)、国防情報局(DIA)など国防総省傘下の機関、各軍情報組織、さらに国務省情報調査局、司法省傘下の連邦捜査局(FBI)、国土安全保障省など、15機関が、ゆるやかなグループとして「インテリジェンスコミュニティー(情報共同体)」を形作っている=図。
 ただし、組織上は国防総省傘下にある機関でもその活動は必ずしも軍事面にとどまらない。例えばNSAは、対麻薬取引の監視のための傍受など、他官庁からの要請に応じた作戦も実施する。一方で、CIAの中にも盗聴傍受工作を実施する部門があるなど、複雑に入り組んでいる。
 そうした重複を調整し、情報分析について異なる意見を整理するのは、CIA長官とされている。正式な職名が「局」抜きの「中央情報長官」であることをみて分かるように、法的には、CIAを率いるトップというだけでなく、15機関全体を「統括する」役職とされている。
 だが実際は予算約400億ドル(約4・4兆円)規模とされる情報共同体の中で、CIAは10分の1程度を費やす存在にすぎず、「『中央』情報局などでは全くない」(オドム元NSA局長)。CIA長官がほかの情報機関に持つ影響力も、現実的には限られたものになりがちだ。
 ターナー元CIA長官は「私は在任中、労力の4分の3は共同体全体の調整活動に費やした。NSAなど国防総省傘下の情報機関は、私の要請に対してノーと言うこともあり、時には大統領の決裁を仰がねばならなかった」と振り返る。
 こうした縦割りの弊害は以前から指摘されていたが、同時多発テロと共に、改革の声がいっそう高まった。今年7月に最終報告書を出した9・11独立調査委員会も、組織の壁がもたらす調整不足が、テロを防げなかった背景だと結論づけた。
 このため、ブッシュ大統領は同委員会の提言を受け入れ、情報共同体の長をCIA長官職と切り離し、国家情報長官(NID)ポストを新設すると決めた。今月8日には、NIDに「完全な予算上の権限を与える」とも発表した。
 しかし、NIDが実際にどれだけ力を持つことになるかは、議会で準備が進む新しい法案の内容次第で、なお不透明だ。
 いくつもの改革提案が飛び交う中、ロバーツ上院情報委員長(共和)は大胆な改革案を出した。CIAを情報収集、分析、科学、軍事支援の4部門に分け、NSAやNGAなどはこのうち情報収集部門の下に置く、というものだ。
 一方、ブッシュ政権内部でもラムズフェルド国防長官は消極派の代表だ。情報機関への予算配分の強い権限を持つNID構想に対しては、大統領の方針が発表されるよりも前の議会証言で、「対テロ戦争のさなかに拙速な改革をするとその代償は大きい」と反対する姿勢を示していた。
 国防総省側からみれば相当な予算を削られることになりかねないだけに「抵抗勢力」となる可能性もあり、情報共同体の改革は今後も曲折が予想される。

米国の情報共同体

大統領――中央情報長官(DCI)CIA長官兼務 [以下すべて統括]――中央情報局(CIA)

   ――国防長官
     ――各種情報組織
     ――国防情報局(DIA)
     ――国家安全保障局(NSA)
     ――国家空間情報局(NGA)
     ――国家偵察局(NRO)
     国防総省以外の情報組織

     司法省連邦捜査局(FBI)
     財務省調査室  
     エネルギー省調査室
     国務省情報調査室

     国土安全保障省
 

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