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【JMM】from 911/USAレポート 「激戦区の実情」 冷泉彰彦
http://www.asyura2.com/0406/bd37/msg/514.html
投稿者 愚民党 日時 2004 年 10 月 18 日 01:49:53:ogcGl0q1DMbpk
 

                             2004年10月16日発行
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JMM [Japan Mail Media]                No.292 Saturday Edition
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                        http://ryumurakami.jmm.co.jp/
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▼INDEX▼
■ 『from 911/USAレポート』 第167回
   「激戦区の実情」

 ■ 冷泉彰彦   :作家(米国ニュージャージー州在住)

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 ■ 『from 911/USAレポート』 第167回
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「激戦区の実情」

私の住むニュージャージー州は、前回の2000年の大統領選ではゴア候補が56.
1%に対してブッシュ候補が40.3%と圧倒的に民主党が勝利しました。その後の
選挙でも、2001年秋の知事選挙、2002年の中間選挙での上院の改選議席と、
全州レベルの選挙では民主党が連勝しています。

今回の大統領選挙でも、ニュージャージーは、民主党の党派色をもじって「ブルー・
ステイト」として扱われていました。例えば、7月末の民主党大会を過ぎたころまで
は、「バトル・グラウンド(主戦場)」となる州は、オハイオ、ペンシルベニア、フ
ロリダの3州で、後はもう決まっているとされ、ニュージャージーについてはカリフォ
ルニア、ニューヨーク、マサチューセッツと並んで、民主党の優勢は動かないとされ
てきました。

ところが、8月末の共和党大会をきっかけとした一時的なブッシュの支持率挽回とい
う流れの中で風向きに変化が出て来ました。9月に入ってからは、各種の世論調査で
「接戦」もしくは「ブッシュややリード」という結果が続々と出始めたのです。人口
の多いこのニュージャージーは、投票人数で15ポイントを持っています。というこ
とは、この州が民主党から共和党へ流れると、一気に30ポイントの違いが出てしま
うのです。フロリダ(27ポイント)ほどではなくても、オハイオ(20)、ペンシ
ルベニア(21)とほぼ同じ大きなインパクトです。2000年には16%の大差で
あった、ここニュージャージーに何が起きているのでしょうか。

一つの解釈は以前にもお伝えした「セキュリティ・ママ」現象です。ニュージャージー
はNYの通勤圏であり、911の攻撃を受けた世界貿易センタービルは、ニュージャー
ジーとの州境を流れるハドソン川に沿っていることから、テロ被災という「経験」は、
NYのものであると同時に、ニュージャージーのものでした。911の犠牲者数でも、
ニュージャージーはNYに次いで大きなダメージを受けています。

そんな中、度重なるテロ警報によって再度のテロへの恐怖感が蘇り、更に共和党大会
以降、ブッシュ=チェイニー陣営が「弱腰のケリーではアメリカは防衛できない」と
いうメッセージを流すと、ニュージャージーならではの「現場感覚」が反応した、特
に子供や次世代を守ろうと意識の強い「ママ」たちが、一気にブッシュ支持に流れた、
そのような解釈が多いようです。

確かに、今現在、ラジオをつけると終日「ニュージャージーテロ対策協議会」なる団
体のコマーシャルが流されており、「港湾、空港、鉄道、公共施設などで怪しい光景
を見かけたらすぐに911(非常用番号)に電話を」と訴え「置き去りにされたカバ
ン、従業員専用口から出入りする怪しい人影」などを見たら「すぐに通報を」という
キャンペーンが続いています。8月末から9月初旬に行われた共和党大会に際しては、
NYへ乗り入れる鉄道や道路を中心に、州内でも確かにものものしい警戒ぶりが見ら
れました。

この夏に「ニューアーク市」にある「プルデンシャル金融グループ」の本部ビルに関
して、内部の見取り図がアフガンで逮捕された「アルカイダ系」の人物のラップトッ
プから発見されたという事件がありましたが、それ以来、ニューアーク市を含む州の
北部には「テロ警報」が出っぱなしになっています。

こうした情勢を受けて、共和党陣営としては「一旦捨てていた」ニュージャージーに
「見通し」が出てきた、ということで9月下旬以降、チェイニー大統領を2回送り込
んできて「ケリーでは危険」というキャンペーンを展開、これに対して民主党側は、
エドワーズ副大統領候補を1回、またエドワーズ夫人のエリザベス・エドワーズ女史
の単独での遊説を1回、ということで対抗しています。

では、本当に「セキュリティ・ママ」旋風がこの大票田を揺り動かしているのでしょ
うか。私には、どうにも疑問に思えてなりません。この「From911/USAレ
ポート」では、2001年の911の直後から、ここニュージャージー州からアメリ
カの「世相定点観測」を続けています。続けてお読み頂いている方ならお気づきと思
いますが、911、そしてその直後に起きた炭疽菌テロ、そしてアフガンとイラクの
戦争、激動の続いた世相の中で、正に危機の中心にありながら、ニュージャージーの
人々は冷静でした。

少なくとも、「草の根保守」による「リベラル叩き」のような現象が州全体のトレン
ドになるようなことはありませんでした。冒頭お話ししたように、2001年の州知
事選、2002年の中間選挙と続けて民主党が勝利しましたが、そこには内政に関す
る争点と同時に、アフガンやイラクへのブッシュの一国主義的行動に対する批判票も
相当にあったと思われます。

そのトレンドは決して変わってはいません。私の勤務する州立のラトガース大学では、
教職員も学生も反ブッシュでほぼ固まっており、そのムードには全く変化はありませ
ん。例えば、子供の属している地域の野球リーグの試合を観戦に来ている「ママ」さ
んたちと話しても、「セキュリティ・ママ」的な心情に変わって来ている人はあまり
聞かないのです。

そう言えば、最近奇妙な事件がありました。10月の初旬にFBIが発表したのです
が、イラクで見つかったフロッピー・ディスクの中に、アメリカ各地の学校に関する
見取り図や建物の設計計画などのデータがあり、その中にニュージャージーのフラン
クリンビル町、ラムソン町の学校が含まれていたのだというのです。

発表後比較的すぐに、FBIや国土保安省から「このディスクはテロとは無関係」と
いう発表があったのですが、メディアはすぐに過剰反応をしました。近所の「ママ」
さんたちの話では、該当の教育委員会では緊急の保護者会を開いて「安全対策」を話
し合ったところもあったそうです。ですが、私の住む「ニュージャージー中部」の
「ママ」さん達は極めて冷静でした。「聞けば、イラクの大学院生が建築の論文を書
くための資料だそうよ。そんなものテロとは無関係、緊急保護者会なんてナンセンス
だわ」というのです。

とにかく「セキュリティ・ママ」という心理現象は、私にはどうにもマユツバに思え
てなりません。まず、ブッシュのような「お転婆娘の父で、軟派な二世政治家」が
「ママ」さんたちの琴線に触れるということは、どうにも考えにくいですし、「セキュ
リティ」を繰り返してケリーを非難し続けているチェイニー副大統領に至っては、一
種の「腹黒い」イメージが払拭できない以上、ニュージャージーの「ママ」さんたち
には受けるはずはないのです。男女別の世論調査を州内でしてみなくては分からない
のですが、「ママ」さんの層が、一斉にケリーからブッシュへ鞍替えしたというのは
どうしても信じられません。

では、ここニュージャージーに何が起きているのでしょうか。それは、民主党知事の
同性愛不倫スキャンダルの影響だと思います。他でもありません。大衆的な人気のあ
るエドワーズ上院議員を副大統領候補に指名し、民主党大会を成功させて、ケリーが
ブッシュに先行していた8月中旬に、この「ブルー・ステート」を襲った激震、その
影響が大きいのです。

前にこの欄でもお伝えしたように、2001年に当選したジム・マグリビー知事(民
主)は、8月13日に突如記者会見して「自分は同性愛者であること。にも関わらず
妻子があり、その一方で同性の相手と不倫関係があったこと」を告白、辞任を表明し
ました。何故、この8月に電撃辞任ということになったかと言うと、同性の「元愛人」
が「関係を明るみに出す」ことを材料として脅迫めいた行動に出、巨額の金銭を要求
してきたから、というのです。知事としては、恐喝には屈しない代わり、これ以上隠
せなくなったというのが説明でした。

更に、その「愛人」については、知事直属の「危機管理担当官」に任命していたとい
う事実が明るみに出る始末です。そんな情実で「危機管理」の担当官が決められるの
はいい加減だ、冷静でリベラルな州民もさすがに我慢がならなくなったのです。その
「愛人」氏は、マスコミを避けるようにイスラエルへ逃亡し、その後「恐喝」ではな
く「セクハラ訴訟」に切り替えると、知事は示談に応じた、そんなエピソードが加わっ
てみると実に「安っぽい」スキャンダルとしか言いようがないのです。

ですが、このマグリビー知事、現時点では辞任の日付が決まっていません。ニュージ
ャージーの州憲法によると、11月15日以前の辞任が確定しているならば、(今年
の場合は)11月2日の全国総選挙に合わせて知事の出直し選挙をしなければならな
いのですが、現時点(10月16日現在)では、この選挙が行われる気配はありませ
ん。

それどころか、州の民主党委員会からは「知事の辞意はあくまで非公式、公式に辞表
にサインしたことがない以上、辞意自体も最終的なものではない」という「見解」ま
で出る始末です。では、どうして民主党は11月2日の出直し選挙を避けたいのでしょ
う。それは、大統領選、下院議員選(上院は、今回ニュージャージーでは改選なし)
との「同日選挙」になるからです。

マグリビー知事辞任というのは、勿論スキャンダルですから、出直し選挙となれば民
主党には逆風になります。11月2日の投票日に、その逆風を吹かせては、大統領選
や下院議員選挙に良い影響があるはずがありません。そこで、とにかく、「同日選挙」
は避けたい、というのが民主党のなりふり構わぬ戦略になってきているのです。

一時は、金融マン出身で「経済はグローバリズム、人権感覚はリベラル」というニュー
ジャージーっ子の琴線に触れる人気政治家のジョン・コーザイン氏(現上院議員、任
期は06年まで)を知事候補にして戦う案も、民主党内にはあったのですが、本人が
固辞して立ち消えとなり、他に打つ手がないということになりました。

州の民主党がこの有り様では、さすがにリベラル州と言えども、有権者は黙っていま
せん。スキャンダルはスキャンダルとして、潔く辞任表明したところまでは何とか事
態について行けても、その後に党利党略から辞任を撤回するような形で同日選挙を回
避しようというのでは、白けるな、というのが無理でしょう。

では、ニュージャージーの有権者が「民主党離れ」を起こしたのは「同性愛不倫問題」
と「党利党略による出処進退のごまかし」というイメージの問題なのでしょうか。実
は、このマグリビー知事のスキャンダルには、もう一段奥があるのです。それは、こ
の知事の州政が必ずしも順調ではなかったという問題です。

マグリビー知事の前の知事は、共和党のクリスティン・ホイットマン女史でした。基
本的にリベラル州で、1988年以降、大統領選は全て民主党が取ってきた州で、2
期8年(実は任期満了前に退任したので7年)も共和党知事が州政を担ってきたのに
は、それなりの理由があるのです。

それは、その前の民主党のフローリオ知事時代にたまった、州の財政赤字という問題
でした。肥大化した州政府、経済的に豊かでない市町村にバラまかれる様々な補助金、
高速道路や通勤電車などの「第三セクター」の経営問題、世界中どの国でも、どの地
方でも起こりえる「大きな政府」の落とし穴に、このフローリオ州政は落ち込んでい
たのです。

そこへ彗星のように現れたのが、ホイットマン女史です。英国のサッチャー元首相を
少しだけ品良くしたような容貌、歯切れの良い演説もさることながら、「州政府のリ
ストラ」と「固定資産税減税」を目玉として選挙を戦い2期連続で州政府を手中に収
めたのがホイットマン知事でした。共和党員でありながら、女性や黒人の人権につい
ては、民主党の中道並みに「リベラル」であったのも、州民の琴線に触れるものがあっ
たのです。彼女の人気は最後まで衰えず、2001年1月のブッシュ政権発足に伴い、
環境長官としてワシントンに「引っこ抜かれた」ときには、彼女の転出を惜しむ声が
絶えなかったものです。

ですが、このホイットマン州政には「ごまかし」がありました。高速道路公社の労働
組合と正面切って対決し、リストラに取り組む「鉄の女」のイメージを売ったのは、
実は相当部分が「パフォーマンス」であって、州の財政は決して好転してはいなかっ
たのです。歳出カットが進まない一方で、「固定資産税の払い戻し制度」を柱とした
減税が行われたために、州都トレントンの政府では、財政危機が静かに進行していた
のでした。2000年以来の「ITバブル崩壊」による税収不足も追い打ちをかけて
いました。

そんな中、8年ぶりに州政を奪還したマグリビー知事を待っていたのは、歳入欠陥と
いう危機でした。また、「固定資産税の払い戻し」という減税を止めるかどうか、と
いう点も大きな問題になりました。ですが、元来労働組合を大きな支持母体とする民
主党政権に、ホイットマン女史もできなかったリストラができるわけもありません。
また、僅差で当選した知事には、共和党時代からの減税を止める勇気もありませんで
した。

結果的に、財政危機は慢性化しています。歳入欠陥、資金ショートの危機は何度かあ
り、その都度、債券発行などで乗り切りつつ、景気の好転を祈るだけ、大ざっぱな言
い方をすれば、基本的にはそんな状態が続いていたのです。これに加えて、マグリビー
知事のどこか頼りない、お人好しだが決断力に欠けるキャラクターも、ローカルのメ
ディアでは散々の悪評が立っていました。

同性愛スキャンダルの告白と、州政権の投げだしという事件には、そんな背景があっ
たのです。このホイットマン(共和)からマグリビー(民主)へという州政の受け渡
しのパターンに、二大政党の「弱点」が継ぎ足されたような、「まずい」状況を見て
取った、ニュージャージー州の有権者の心理にはそんな側面があるように思います。

今正に戦われている、全国レベルの話、他でもない連邦政府の財政赤字とその再建問
題が、ニュージャージーの人々には、自分の州の失敗と重なるような不安があるので
す。保守を気取って、減税の大盤振る舞いをしながら、歳出のカットは全くしない共
和党政権の後に、巨額の財政赤字が残され、元来は「大きな政府」が党是のはずの民
主党にその処理を委ねて、本当に大丈夫なのだろうか、民主党の新政権には歳出カッ
トなどできないばかりか、前政権の行った減税を止める度胸もない、とするならば、
財政は更に奈落の底に落ちて行かざるを得ない、とこういうストーリーです。

ホイットマンからマグリビーという州政の失敗が、ブッシュからケリーに政権が移っ
た場合に、連邦の財政赤字はどうなるんだ、という不安感に正に重なって来るのです。
ニュージャージー州というのは、都市型の州です。ニューヨークとフィラデルフィア
という二大都市のマスメディアから、世界情勢から経済に至るまでの様々な情報が流
れ込む中、人々の政治経済への目は肥えていると言って良いでしょう。私は、そんな
中で「歳出増と減税で赤字を作ったブッシュの後に、民主党政権というのはどうも危
ない」という感覚があり、そんな心理が知事辞任と出直し選回避という醜悪な動きの
中で浮かび上がったというのが真相でしょう。

そんな中、10月15日の水曜日に大統領候補同士の第3回、最後の討論が行われま
した。今回は内政問題が中心ということで、医療保険、同性愛、宗教、少数民族優遇
策、雇用、貿易など様々な論点について、ブッシュ、ケリーの両候補はそれぞれの主
張を繰り広げました。各メディアの論調は、今回は第1回ほどではないものの、ケリー
優勢という評価のようです。

ただ、私には大きな不満が残りました。これまでの討論でもそうでしたが、財政再建
に関しては、両候補とも全く青写真が描けていないのです。ブッシュ候補は「減税効
果で景気が回復した」という主張から一歩も出ませんでしたし、ケリー候補の側も、
例によって「海外への外注化でアメリカの雇用を奪う多国籍企業への増税」の話ばか
りです。

後は、今週の大統領選の論戦はお寒い限りでした。先週末にNYタイムスの別冊「マ
ガジン」が取り上げたケリー候補の発言が話題になったのが一例です。「テロは減ら
せる。最終的には売春や非合法ギャンブルのような社会への迷惑行為というレベルに
まで抑え込むのが目標だ」という発言の中にあった「テロは迷惑行為」という部分へ
のバッシングをブッシュ大統領自身までが口にしました。「冗談じゃない、戦争だ」
といういつもの脅迫めいた言い方でです。

これに対するケリー候補の反論は「本土防衛は私の方が徹底的にやる。例えば、航空
機テロの防止のために、乗客と手荷物だけでなく、コンテナも徹底的に調べる。コン
テナに関して言えば、ブッシュ政権の下で現在は95%が素通りしているのだ」とい
うのです。これでは、まるで表面的な、そして実行すれば経済に打撃を与えかねない
「政策」と言わざるを得ないでしょう。

また、脊髄損傷と9年間戦い続けた末に週末に亡くなった俳優のクリストファー・リー
ブの悲報に関しての政争も話題になっています。リーブの闘病に関しては、先週の大
統領候補討論でケリー候補が、「SE細胞研究への情熱を傾けるリーブ氏の戦い」と
いう内容で、宗教的な理由から研究に消極的なブッシュ大統領を非難したばかりで、
リーブ死去というニュースが「民主党有利」に働くのでは、という観測がずいぶん流
れました。

これに関しては、共和党のフリスト上院院内総務が「SE細胞研究を大げさに扱うの
は、軽々しく瀕死の患者に空しい希望を与えるもの」という突き放したコメントを出
しました。ローラ・ブッシュ夫人もNBCのノラ・オドネルとのインタビューで、リー
ブ氏の死とSE細胞研究に関して問われて「そんな研究でもあの方は救えなかったと
思いますよ。悲しいですが」とファーストレディとしては、例外的な冷淡なコメント
を口にしていました。

討論の終わった後では「チェイニーの娘」問題が政争の材料になって政界もメディア
も数日を空費しました。「同性愛は選択か?」という質問に対して、ケリー候補は
「イエス。私はチェイニー副大統領のお嬢さんの選択(彼女はレズビアンであるとカ
ミングアウトしています)を尊重したい」と答えていたのですが、これにチェイニー
夫妻が「プライバシーの政治利用」だと猛然と噛みついたのです。「ケリーは言い過
ぎたか? この一言が命取りでは」などとメディアは騒いでいますが、民主党側は
「ご本人(娘さん)」が胸を張ってそう言っているのだから何が悪い、と意に介して
いません。

とにかく、政策論争の核心、つまり財政再建をどうするのかについては全くと言って
良いほど論戦はされませんでした。財政を本気で再建するためには、歳入を増やすた
めに新産業は何を育てるのか、歳出を抑制するために軍縮や福祉圧縮をやるのかどう
か、という点については、避けて通れないと思いますが、両候補ともに具体案はない
というわけです。

もう投票日までは残り少なくなりました。TV討論が終わった現在もどうやら「僅差」
が続くようで、これからはほんの少しの失態、ほんの一言の失言でモメンタム(勢い)
が動く、そんな中でナーバスな選挙戦が戦われるのでしょう。そんな中、問題のニュー
ジャージーへブッシュ大統領が今回の選挙戦で初めて乗り込んでくることになったよ
うです。

来週の月曜日、10月18日に州の南部に来るというのですが、果たしてどんな遊説
になるのでしょう。ただ、南部のバーリントン郡へ来るだけという現在の予定を見る
と、一回の遊説でニュージャージーのメディアと、お隣のペンシルベニアのメディア
の両方に取材をさせようというのが意図のようです。バーリントンは、3大ネットワー
クのTVについては、フィラデルフィアの放映対象地区だからです。要は一回の短時
間の訪問で、「バトルステート」2州のキャンペーンができると踏んだのでしょう。

私は、この戦術は誤りだと思います。バーリントンは、元来はリベラルな地域です。
空軍基地がありますが、基地といっても元来がNATOとの連携の強い民主党色のあ
る地域です。また、対岸の他州であるフィラデルフィアの通勤圏でもあります。その
一方で、NYからは遠いため911やテロの脅威とは距離があります。また、州政府
のあるトレントンには、近い割には親近感がない地域です。ということで、バーリン
トンへ来るということは、どんな切り口で自分の支持を広げようとしているのか、メッ
セージ性が見いだせていないということになると思うのです。

同じようないい加減さは、ケリー陣営にも見て取れます。製鉄業の栄枯盛衰を見てき
たペンシルベニア、製造業の不況に苦しむオハイオに行って「多国籍企業優遇策への
批判」を繰り広げても、本当に票になるのでしょうか。「チェイニーの娘」失言問題
への「回答」としてかどうかは知りませんが、死に体のマグリビー知事は辞任表明後
初めて公衆の面前に姿を現すようですが、それが「同性愛者の集会」だというのです。
辞任問題も、州財政もそっちのけでです。

いずれにしても、ニュージャージー州政の例、そして今回の大統領選と、イデオロギー
色が強すぎるために、両派が党利党略に走りすぎて、政策論が深まらないのです。そ
の結果として有効な政策が出てこない、したがって選挙というシステムを社会全体の
意志決定の機会として使いこなせていない、そんな政治の危機を感じます。

このまま、財政再建ができずに、怨念と党利党略の政争が続けば、ズルズルとアメリ
カ全体の競争力が落ちていくのかもしれません。そうならないための、何か覚醒のきっ
かけが11月2日の投票日前後に見えてくるのかどうか、私はそんな視点を持って選
挙を見守っていこうと思います。

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