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「中国経済の奇跡」という虚構 ――政治改革なくして、近代化は完遂しない [フォーリンアフェアーズ]
http://www.asyura2.com/0406/hasan36/msg/1104.html
投稿者 あっしら 日時 2004 年 10 月 05 日 19:01:33:Mo7ApAlflbQ6s
 


 ジョージ・ギルボーイ/MIT国際研究センター研究員
The Myth Behind China's Miracle / George J. Gilboy


目次

・中国経済の奇跡の実像は  公開中
・中国脅威論は間違っている  公開中
・中国からの輸出の担い手は誰か  
・特例主義文化と中国企業の限界
・中国経済の未来は暗い
・米中の共有利益としての政治改革

・著者紹介  公開中

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論文の一部分を公開中です。邦訳文の全文は「論座」(朝日新聞社)2004年10月号、フォーリン・アフェアーズ日本語版および日本語インターネット版2004年9月号に掲載しております。

日本語版及び日本語インターネット版のお申し込みはこちら

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中国経済の奇跡の実像は

 グローバル貿易国家としての中国の急速な台頭を前に、人々は感嘆と恐れの入り交じった感情を抱いている。中国経済への期待を募らせるあまり、企業の活動実態も知らずに、中国株に血道をあげる投資家もいる。一方で、中国経済の実績と潜在能力を過大評価する人々もいる。グローバルな貿易と技術上のバランスが中国に有利な方向へと推移し、いずれ中国はアメリカにとっての経済・技術・軍事的な脅威になると彼らは考えている。

 しかし、こうした認識はいずれも間違っている。(過大な期待を抱く人々は)中国経済の「奇跡」の基盤が実際には脆いことを見落としている。また、(グローバル経済のなかで強大化する中国がアメリカの脅威になると考える人々は)中国がグローバル経済に組み込まれていることが、アメリカの戦略利益にかなう流れであることを見落としている。こうした間違った認識を正していかない限り、ワシントンが昨今の米中関係の改善を台なしにするような保護主義路線に走る恐れもある。そうなれば、アジアの同盟諸国との関係はますます悪化し、この地域でのアメリカの影響力も低下していく。

 ワシントンが長く夢みてきた良好な関係が米中間で築かれつつあることを忘れてはならない。現在の中国は、アメリカが半世紀をかけて何とか導入させようと試みてきた「法を基盤とするリベラルな経済システム」を確立していくことを自らの利益とみなしている。北京は外国からの投資(FDI)に国内市場を開放し、大規模な輸入も受け入れている。世界貿易機関(WTO)にも加盟し、国内全域で広く自由化が進み、繁栄を遂げている。グローバル経済への統合を段階的に進めていくという決断によって、中国は、アメリカをはじめとする先進民主主義国家が産業・技術上の優位を保っていることさえ前向きにとらえつつある。

 だが、市場経済への道を邁進しつつも、政治・社会改革の実施を先送りしたことによって、中国は二つの深刻な事態に直面している。

 第一に中国政府は、「政治的に独立した民間経済」が台頭するのを抑え込もうと、国有企業に有利に作用するような経済改革を実施し、資本、技術、市場へのアクセスを優遇した。一方、改革を進めるなか、中国は外資も優遇するようになった。現地に進出した外資系企業は、工業品輸出の多くを担っているだけでなく、中国の国内市場でも大きな影響力をもつようになった。その結果、中国の産業の多くは「効率に欠けるが、いまも大きな力をもつ国有企業」と「支配的な影響力を確立しつつある外資系企業」によって構成されており、中国の民間企業はいまも国有企業、外資系企業と同じ条件で競争していく力を確立できていない。

 第二に企業の経営陣が、改革の進んでいない政治制度の弊害がつくり出すビジネス・リスクを回避しようと、短期的な利益、地域的な自治、行き過ぎた生産の多様化を模索した結果、奇妙なビジネス戦略文化が育まれてしまった。少数の例外はあるが、中国企業は中国共産党幹部との特別な関係を築くことにばかり精を出し、企業間の横断的な連帯、相互ネットワーク形成には目もくれず、長期的展望に立った技術開発や技術のすそ野を広げていくことへの投資を怠っている。中国企業は外国からの技術や部品の輸入にひどく依存しており、投資によって自らの技術力を磨き、貿易上の影響力を培うことも忘れている。

 別の言い方をすれば、中国は外国の技術や投資への依存度を高めるような構図のままグローバル経済に参加し、先進工業国家に対する産業、技術上のライバルとなるための能力を自ら摘み取ってしまっている。こうした技術や経済上の弱さを克服していくには、北京が政治改革に本腰を入れて取り組むしかない。

 ワシントンは現在の好ましいトレンドを覆してしまいかねない短絡的な貿易保護主義路線に走るのではなく、「戦略的なエンゲージメント」路線をとるべきだろう。それは、アメリカの利益だけでなく、より大きな繁栄と安定が中国にもたらされることを約束しつつ、アメリカの技術、経済、軍事的リーダーシップの優位を前提にその強化を模索するものでなければならない。いまや政治改革を進めることが中国の経済的利益にかなう状況にあり、その必要性も高まっている。


中国脅威論は間違っている

「米中の経済関係は好ましい状態にあり、基本的にアメリカに有利な形で推移している」。米中関係をめぐるアメリカでの議論はこの重要な事実を見落としている。人民元の通貨価値を引き合いに出して、中国は不公正な貿易を行っていると批判するのも間違っている。

 UBSのジョナサン・アンダーソン、そして国際経済研究所(IIE)のニコラス・ラーディやモーリス・ゴールドシュタインが指摘するように、穏当な人民元の切り上げを行っても、米企業や労働者の環境に好ましい変化はほとんど起きない(訳注:人民元は事実上ドルに固定されており、ワシントンではより柔軟な変動制への移行を求める声が多い)。それどころか、通貨の切り上げ問題にばかり執着すれば、現在アメリカが中国との関係から得ている経済的・戦略的利益を見えにくくしてしまう。

 モルガン・スタンレーのリポートによると、中国が改革路線をとり始めた一九七八年から現在までに、低・中所得層を中心に、(繊維製品、靴、玩具、家事用品など)低価格の中国製品の輸入によって、高い商品を買わずにすみ、ほぼ一千億ドルを節約している。

 例えば、九八年から二〇〇三年までの間に、赤ん坊のいるアメリカの家庭は中国からの安いベビー服の輸入によって四億ドルを節約している。ボーイング、フォード、GM、IBM、インテル、モトローラのようなアメリカの大企業も、低コストの部品を中国などの低賃金諸国から輸入することで、毎年数億ドルのコストを節約し、これを世界市場での競争力と国内での高付加価値部門への投資に回している。

 部品コストをグローバル・ソーシング(インターネットを通じたグローバルな応札)を通じて三〇%圧縮しようとしたフォードは、結果的に〇三年に中国から五億ドル規模の部品を輸入し、GMも中国の部品を用いることでカーラジオのコストを四〇%引き下げることに成功した。

 グローバル・ソーシングによる世界からの部品調達によって、国内で雇用の喪失と調整という痛みが生じる危険はあるが、こうした新しい部品調達法によって最終的にはアメリカの企業だけでなく、労働者も恩恵を手にできる。実際、全米IT協会が実施した最近の調査は、中国やインドへのアウトソーシングによって〇三年にはアメリカ内のIT産業に九万の新規雇用がもたらされ、〇八年までには三十一万七千の新規雇用が創出されると試算している。

 中国は輸出だけでなく、輸入もしている。中国は、北東アジアにおける最大の輸入大国だ。〇三年度の対米貿易黒字は千二百四十億ドルに達しているが、一方で中国は他の諸国との間で貿易赤字も抱えている。日本に百五十億ドル、韓国に二百三十億ドル、台湾に四百億ドル、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国に百六十億ドルという具合だ。

 中国が輸入品を消費しつつ、成長を遂げている巨大市場であることを認識しなければならない。一九九〇年代半ばには四百億ドルしかなかった国内消費のための輸入も、二〇〇三年には千八百七十億ドルに達していた。五年前の中国は二百億ドルの貿易黒字国だったが、〇三年には五十億ドルの貿易赤字国になっていた。電気製品、電子部品などのハイテク機器、製造機器の輸入によって、中国はこの十年にわたって年平均百二十億ドルの貿易赤字を計上し続けている。

 日本や韓国のように、アメリカからの製品や投資の受け入れに前向きでなかったアジアの貿易国とは違って、中国はアメリカ製品を受け入れる巨大市場なのだ。実際、アメリカの世界市場への輸出額がこの数年間停滞しているにもかかわらず、中国市場への輸出は、この十年間で三倍に伸びている。〇三年だけをみても、アメリカの世界市場への輸出総額がわずか五%の伸びにとどまっているのに対して、対中輸出は二八%も増加している。

 特に、アメリカの先端技術製品の輸出にとって中国は大切な市場だ。米政府の統計によれば、〇三年の米航空宇宙産業の対中輸出価値だけでも、世界市場への輸出総額のおよそ五%に相当する二十億ドルを超えており、これはアメリカのドイツへの輸出総額に匹敵する。同年、米企業による生産設備の対中輸出もアメリカからフランスへの輸出総額を上回り、五億ドルに達している。同様にアメリカの半導体チップメーカーは〇三年に、日本への輸出総額とほぼ同じ、二十四億ドル規模の半導体を中国に輸出している。

 中国は、過去における他のアジア市場とは違って、外国からの直接投資にも開放的だ。一九七八年に改革・開放路線を導入して以降、すでに五千億ドル規模のFDIを受け入れている。これは一九四五年から二〇〇〇年までに日本が受け入れたFDI総額の十倍規模の資金に相当する。中国の対外貿易経済省によれば、米企業は中国内で、四万を超えるビジネス・プロジェクトに対して四百億ドルを超える投資を行っている。FDIへの開放性からみても、中国が、急成長期の日本や韓国のように国内市場を国内企業のための牙城とすることはあり得ない。逆に中国は航空機、ソフトウエア、工業デザイン、先端機器、半導体や統合回路などの高付加価値産業を中心に外国の企業を招き入れ、こうした企業が自社の製品やサービスを吸収する市場を開拓することを認めている。

 この国ではとにかく輸入品は人気がある。当然、競争力のある中国企業だけでなく、都市部の消費者も貿易開放路線を維持していくことを政府に求めていくだろう。彼らは外国ブランドの車、外国で設計・生産された電子回路を使った携帯電話やコンピューターを所有することをステータス・シンボルとみなしている。

 企業の多くも保護主義には反対している。国内での生産には部品を輸入する必要があるし、保護主義政策によって中国からの輸出に対する報復措置がとられることを恐れているからだ。実際、一九九〇年代に政府に保護主義路線をとるように求めた中国の工作機械、航空機メーカーは、輸入を重視する国内企業の反発によって行く手を阻まれ、結局は衰退の道をたどった。

 開放的な経済をもつ輸入大国としての中国は、グローバルな貿易や金融の多くの領域においてアメリカが連帯するにふさわしい国家である。すでに北京はWTOのルールに従って行動することに前向きの姿勢をみせているし、アメリカが市場開放を求めて長い間苦労した日本と韓国に対して、不公正な貿易慣行を行っていると批判さえしている。北京は二〇〇二年に七十億ドル規模に達する十の輸入品目に対して反ダンピングの調査を行い、〇三年にも二十件の調査を行っている。

 さらに中国は地域的な貿易・投資レジームを率先して促進し、ASEANとの自由貿易構想、太平洋地域におけるアメリカのもっとも緊密な同盟国であるオーストラリアとの二国間自由貿易構想も進めている。北京が提案する地域経済協力構想は、他のアジア諸国の構想よりも、ワシントンの構想に似てきている。

 中国がグローバル経済へ組み込まれていけば、アジアにおけるリベラリズムの促進というアメリカの利益もゆっくりと進展する。現実に、貿易と経済の発展によって中国の商法も進化し、規制も消費者の意向を重視したものへと変化しつつあるし、官僚制もスリム化し、国際的な安全基準、環境基準も守られるようになった。まだ限られているとはいえ、金融・経済メディアを中心に、人々が経済問題、社会問題を論じる機会も増えている。こうした自由化プロセスは不完全だし、まとまりもないが、このトレンドが継続していくようにすることは米中双方の利益である。

……

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George F. Gilboy  ケンブリッジ・リサーチの駐北京代表を経て、現在は北京のシェル・チャイナのシニアマネジャー。MITの研究員も兼務している。中国やアジアを専門とする若手の研究者。フォーリン・アフェアーズ誌にはエリック・ヘジンボサムとの共著で「対中強硬策と中国の政治改革の行方」(フォーリン・アフェアーズ日本語版および日本語インターネット版、2001年7月号)を寄稿している。


Copyright 2004 by the Council on Foreign Relations, Inc. and Foreign Affairs, Japan


http://www.foreignaffairsj.co.jp/top_Gilboy.htm


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