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石油資源枯渇論をどう考えるべきか(IDCJ)
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投稿者 エンセン 日時 2004 年 9 月 16 日 03:48:32:ieVyGVASbNhvI
 

 
石油資源枯渇論をどう考えるべきか
(2004年9月14日掲載)


 最近の米国の動向をフォローしていると、大統領選挙に関連があるか否か速断できないが、エネルギー価格を争点としようとするグループがいるのではないかとの問題意識をもつことが多い。そのことは「原油低価格時代は終わったか」という問題意識で書かれた書籍が相次いで出版されていることからも伺えるが、最近参加したセミナーでそれらの点を議論する機会があったので、本日はそれについてまとめておきたい。
 

1.最近の米国の状況

 「原油低価格時代は終わったか」という問題意識で書かれた出版物には、「The end of oil」(著者:ポール・ロバーツ) と「The Party's Over」(著者:リチャード・へインバーグ)等がある。この内、「The end of Oil」はAmazonなどをみても6月あたりまではビジネス部門で中位の売り上げ順位を確保していた。

 6月の上旬に、同書の著者であるポール・ロバーツと「石油の世紀」の著者のダニエル・ヤーギンがテレビで討論を行なっていた。ロバーツ氏が「安い原油の時代は既に過去のものになった。市場は長期に亘り30ドル後半の価格も許容する」と述べたのに対し、ヤーギン氏は「石油生産のピークは2040年当りに訪れる。2010年の原油生産は2000年比20%増えるだろう。価格変動は循環的なもの。再び下がり、低価格時代は必ず来る」としていた。

 ナショナル・ジオグラフィック誌の6月号も、「原油・枯渇が迫る」を特集した。正確には特集の一つとした。即ち、シーア派特集と併せて二大特集を組んでいたが、米国版表紙が石油枯渇問題を掲げるべくワシントン郊外の車が溢れるフリーウェ−の写真を掲げていたのに対し、日本語版はシーア派の男の顔写真を表紙にしていたのが面白いところだった。

 ナショナル・ジオグラフィック誌の特集のポイントは、「将来、原油価格が高騰するという話は以前からあったが、今度こそ、それは現実のものになりそうだ。安い石油の時代は終わりを迎えようとしている。ある学者は、私達が生きているうちに、安い石油の供給はピークを迎えるだろう。そうなれば、人類の生活スタイルは大幅な変更を迫られる。人類は石油への依存を緩和するために、今すぐ何らかの行動に出るべきだ。母なる大地から手痛いしっぺ返しを受けるのを待っていてはならないとしている」とまとめられる。

 こうした考え方はピークオイルの考え方をベースにしている。ピークオイルの考え方というのは、「世界の石油生産はピークに達している。石油は有限である。2010年より前に石油の減耗(Oil Depletion)が顕在化する怖れがある。これはいわゆる石油枯渇論とは異なり、石油生産量がピークを打つというものである。世界の石油生産量はピークを打った後、緩やかに減退に向かうと見られる。石油発見量のピークは1960年代だった。今では発見量は生産量の1/4程度まで落ちこみ、世界は40年前の発見分を食い潰している。頼りとすべきは中東であるが、中東地域でも巨大油田はみな老齢化している」というものである(出所:http://www.007.upp.sonet.ne.jp/tikyuu.myenvironmentalism/philosophy/do_you_know.html)。

 ピークオイルの考え方の支持者は近年の巨大油田の発見事例の減少等を有力な根拠にしているが、そもそもその背景は産油国が1970年代に、石油利権を国有化し、メジャーを閉め出したことにある。中東地域で1980年代以後巨大油田が発見されなかったのは、要は余剰能力を背景に探査活動が一旦留保されことによる。

 冒頭で述べたように、米国の最近の石油資源枯渇論を巡る論調をフォローすると資源の有限性に関する議論を起こそうとする風潮があるように感じられるが、この点に関しては、石油生産のピークは2040〜2045年に来るというヤーギン氏の指摘は重要である。最近原油価格は再度上昇しているが、需給面、投機資金の影響等、様々な要因の相乗効果であり、中でもこの間の投資不足に起因する余剰能力の払底(フル稼働状態の継続)によるところが大きい。従って、これを徒に資源枯渇に結びつけるには慎重であるべきであろう。資源論には常に循環的性格が付きまとうという点を強調したい。

 

2.マイケル・リンチ氏の見解

 8月、9月に相次いで来日し、本テーマで講演・討議に応じた元MIT研究員マイケル・リンチ氏(現在、独立コンサルタントを主宰。石油埋蔵量評価に関する第一人者の一人)は、本件に関し、次のとおりコメントした。

○ ポール・ロバーツ、あるいはリチャード・ハインバーグは、あくまでも環境保護の立場で物を考えており、石油の専門家ではない。また書き方の特徴として指摘できることは、同じ情報、全く同じ事例が繰り返し、述べられていることである。

○ その中で、ケン・ドフェイエス(プリンストン大学)は、恐らく石油生産に関してはピークを迎えたとしている。彼の理論は、すべて一つのグラフにかかっている。すなわち今まで歴史的にあった状況を見て、直線的に点を結んで、そしてクロスオーバーポイントは2004年7月であると彼は主張する。一般には、彼が正確であり議論の余地のない理論であると主張できるのか否かよく理解できない。2000年11月に世界の石油生産量が一つのピークを迎え、それから下がった。景気後退もあり、またOPECの削減があり生産量が下がったが、そこで彼は、ちょうど2000年11月がピークであり、これからはずっと下がり続けるだろうとの見解を示した。ケン・ドフェイエスのような多くの研究者は、科学的研究をやっているつもりでいるが、実は統計解析をやっている。彼らは経済学の係数を見ており、科学的な係数を見ている訳ではない。

○ 彼らが根拠としているのは、現在では新たなる石油の発見が非常に少なくなっているという点であり、これには地質学的な根拠があると主張する。しかし、実際はこのような新たなる石油資源の発見が少なくなったのは1970年代以来のことであり、地質的な原因というよりは、外国石油会社の資産の国有化を背景としている。その後は、あまりにも余剰能力が高かったために、探鉱活動が見送られた。

○ コリン・キャンベルのような専門の科学者は、自然を研究するに当たっては、地下に眠っている石油の発見は地質的な要素に起因していると述べているが、それは正しい。しかし、実際の石油の発見、地下に眠っている状況というのは、実際の掘削活動によってもたらされる。そして、こういう作業を行うか否かはビジネス上の判断であり、かつ地政学上の判断を背景にしている。従って、ラフェレールが、中近東における石油資源の発見量に関して、その減少ぶりを見て、非常に地質学的な原因により、発見油田の規模が小さくなってきている、一油田当たりの発見量が減少してきている、さらに、それだけ石油資源が貴重な存在になっているということを主張する場合には、一つの誤解に基づく意見ということになる。彼自身は、発見油田の規模に関して、1980年以前と80年以後の状況を比較しているが、確かにそこには規模の減少が見られる。しかし、彼は、1980年にイラン・イラク戦争が勃発したため、両国では探鉱活動は一切中止され、またいろいろな設備がオマーン、イエメン、シリア等効率の悪い地域で稼働を開始したことを考慮していない。

○ コリン・キャンベルは、1989年からピークを迎えたと主張したが、それはノルウェーのある雑誌で書かれたことであり、あまり多くの人たちには読まれなかった。また、91年には92年にピークを迎える、95年には2年後がピークである、そして97年には1年後がピークであると彼は主張を変えてきた。

○ 私は、当分の間はピークを迎えることはないと考えている。また、問題となるのは、どれだけ生産能力を高めることができるか、どれだけ需要に応えていくことができるかということであると考えている。

 

3.最近の石油産業活動との関連で

 原油価格の騰勢はやや緩んで来たが、NYMEX原油先物市場では、8月上旬〜中旬の2週間ほぼ連日にわたり史上最高値を更新する展開をみせた。原油価格高騰の一つの原因と考えられるイラク情勢に関しては、イスラム教シーア派聖地ナジャフを巡る米軍とサドル師派民兵組織との対立激化やイラク南部石油会社(SOC)本部が武装グループにより襲撃される事件も起きており、原油供給に対する不透明感が払拭できない状態が続いている。

 そうした中で、サウジアラビアは原油供給不安を払拭するため生産を拡大した。同国の原油生産量は、6月910万B/D、7月の930万B/Dから、8月には950万B/D程度に達したとみられる。

 余剰供給能力が払底しつつあるために、石油の高価格時代がしばらく続きそうな状況であることは動かない。しかしながら、石油産業は極めて循環性が大きいことを特徴とする産業である。資本集約的な特徴を持ち、特に上流部門では探鉱投資は7〜8年後に回収されるという長いリードタイムをもつ。現在の高収益が探鉱投資に向かい、これが将来の供給力の確保・増強につながる。また一部には開発投資に向かうので、総じて供給力の増強が予想されるため、原油価格は2〜3年後には30ドルの水準に収斂するとの見方も現れてきた。

 この点については、先週、8月30日付米国有力石油専門誌の巻頭の論説が非常に重要である。タイトルは、「開発投資が余剰生産能力不足を解消する」というものである。要旨は、「石油価格高騰の上に胡座をかき、何もしていないという批判はしばしば見当違いである。実際のところ、メジャー5社は本年590億ドルもの探鉱投資を行う。原油価格の低かった1990年代にエネルギー部門から引き上げられた資本を再度引き寄せるため、石油会社は原油想定価格を従前の20ドル弱から35ドル見当に引上げた。一方では、エクソンモービル、BP、シェル、シェブロンテキサコは自社株の買い戻し等を行っているので、これらの株主への利益還元が将来の石油生産能力の拡張を一部犠牲にするということはある。しかし、石油会社(大手5社)は、2002年の506億ドル、2003年の535億ドルに比べて、2004年には590億ドルもの探鉱投資関連支出を順調に進めている」というものである。

 石油情勢・中東情勢が今後どうなるか不透明な部分が多いとはいえ、順当にいけばイラクからの供給が増えることも価格押し下げ圧力になる。昨年3月イラク戦争開戦の頃は、戦後にイラクの復興が順当に進めば同国からの石油供給が急増するとみていたからこそ、サウジアラビアをはじめ他の産油国は石油開発(生産能力増強)のための投資を手控えていた。それがイラクの供給能力が思うように伸びず、また原油価格も高騰に次ぐ高騰を繰り返して来たので、サウジアラビア等は石油開発に踏み切らざるをえなくなってきた。

 サウジアラビアの石油開発への本格着手は、イラクの戦後復興(=石油開発)の一層の遅れを、周辺諸国が認知したということでもある。

 現在の価格高騰から上流部門投資が軌道に乗ってくることで供給力の増強が予想されるため、既述のように、原油価格は2〜3年後には30ドルの水準に収斂するとの見方も現れてきた。石油資源枯渇が当面心配ないとするならば、今日の高価格は、「産油国・石油会社の資金蓄積」→「探鉱・開発部門への再投資」→「供給力の増強」というサイクルを通じて、明日の低価格を準備する。石油産業は、宿命的に循環的な性格を負った産業であるといえよう。

(エネルギー・環境室 主任研究員 須藤 繁)

http://www.idcj.or.jp/1DS/11ee_josei040914.htm

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