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李 啓充氏「続 アメリカ医療の光と影 第43回」(週刊医学界新聞)
http://www.asyura2.com/0406/health9/msg/110.html
投稿者 シジミ 日時 2004 年 9 月 22 日 05:08:53:eWn45SEFYZ1R.
 

(回答先: 李 啓充氏「続 アメリカ医療の光と影 第42回」(週刊医学界新聞) 投稿者 シジミ 日時 2004 年 9 月 22 日 05:05:00)

http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n2004dir/n2595dir/n2595_05.htm

シンデレラになれなかった患者たち:
負担の逆進性(2)

李 啓充 医師/作家(在ボストン)

前回,米国では,病院や医師が無保険の患者に法外な「定価」をふっかけることが常態化していることを紹介したが,そもそもこのような馬鹿げた現象が起こるようになった原因は,医療の市場化を押し進めるために「官製市場」を取り払ってしまったことにあった。

 歴史的には,手術や処置に対して病院ごとに「定価」をつけるようになったのは,60年代に高齢者用の公的医療保険メディケイドが設立されたことがきっかけだった。当時,米国の医療は自由価格制で運営されていたが,医療サービス供給側から「ぼられる」ことを恐れた連邦政府が,保険者の違いで料金に差をつけてほしくないと,病院側に定価をつけることを奨励したのだった。その後,定価は「実費(コスト)プラス相応のマージン」で決められてきたが,83年にメディケアが「DRG/PPS(診断群別包括支払い方式:入院診療報酬を病名に応じた定額で支払う方式)」を導入したことから,出来高払いを前提とした定価制の意味が薄れることになった。さらに,80年代後半から医療保険の主流となったマネジドケアが価格交渉力を強め,大幅な「ディスカウント」が当たり前になるに及んで,定価は「値引き交渉のスタート価格」というシンボル的な意味しか持たなくなったのだった(註)。

医療の市場化がもたらした「商慣習」と「個人倒産」
 前回は虫垂炎の患者に法外な手術料を請求したニューヨーク・メソディスト病院の例を紹介したが,実は,ニューヨーク州では,97年まで「病院の定価にコストの30%を越えるマージンを付加してはいけない」と州法で規制していた。しかし,医療の市場化が推進される中で,日本の総合規制改革会議がいう「官製市場の打破」ではないが,定価も自由化され,03年の段階で,定価に含まれるマージンの対コスト比は平均87%まで上がってしまったのだった(同じく価格が自由化されたカリフォルニア州ではマージンの対コスト比は178%まで上昇したが,定価規制を続けたメリーランド州では28%に抑えられていた)。
 「官製市場」を取り払って,保険者と医療サービス供給側が自由に価格交渉をしてよいという制度を押し進めた結果,強い価格交渉力を持つ者(=民間保険会社)が大幅なディスカウントの恩恵に与ることができるようになった反面で,価格交渉力とは無縁な弱者(=無保険者)に対して,コストから乖離した法外な定価を請求することが「商慣習」として定着してしまったのだった。

 かくして,医療の市場化が進展すると同時に,所得の乏しい人がひとたび病気となった場合の経済的負担が年々拡大,医療費が払えないという理由で「個人倒産」する例が急増するようになった。ハーバード大学のエリザベス・ワレン教授によると,「医療費負担」は,「クレジットカード負債」に次いで,いまや,個人破産の直接原因の第2位となっているという。さらに,病気になったために失職したなど,間接的な原因まで含めると,個人倒産の半分以上で「医療費負担・疾病」が関与しているという。

個人の「医療倒産」を招来しかねない日本の医療制度改革
 日本の医療制度改革論議の中で「医療保険の『公』の部分を減らし,『民』の部分を増やす」とする主張があるが,これは,米国に倣って「負担の逆進性」を制度化せよという主張に他ならない。「公」を「減らす」と言う以上,将来的に,民間保険でしかカバーしない医療サービスが続々出現すると想定せざるを得ないが,「民」の保険を購入する財政的余裕がない患者は,自動的に「(部分的)無保険者」とならざるを得ない。さらに,「官製市場」を取り払って,「民」が病院と交渉して自由に価格を決めるようになると,保険を持つ患者と持たない患者で「定価」に差がつく事態も到来しかねない。仮に,保険の種類・有無による「定価」の違いを容認しないとしても,「民」の保険に加入する財力が元々ない患者ほど医療費の自己負担が増えることに変わりはなく,「負担の逆進性」が日本の医療を襲うことは間違いない。日本でも,個人が「医療倒産」する時代が来ることを覚悟しなければならないのである。
深刻化する「低保険」の問題
 このように,「民」を主流として医療の市場化を追求した場合に「負担の逆進性」が必発することが避け得ないのは明らかだが,医療の市場化が本当に恐ろしいのは,「負担の逆進性」が「生じる」だけにとどまらず,「止めどなく拡大する」ことにある。たとえば,前述したワレン教授によると,最近は,ミドル・クラスで保険を有している人の「医療倒産」が増えているといい,「医療倒産」は,もはや,無保険者に限られた問題ではなくなっている。というのも,ミドルクラスが加入する医療保険は,給付額の上限などさまざまな制限があるのが普通で,普通の財力で購入することができる医療保険では,真の意味でのカタストロフに対応しきれなくなっているからであり,ワレン教授は「無保険(uninsured)も問題だが,これからは低保険(underinsured)の問題が深刻化する」と警告する。
 前回,無保険者にとっては医療保険を持つこと自体が「シンデレラ」への変身を意味すると書いたが,米国では,保険を持つだけではシンデレラへの変身が保証されない時代がやってきているのである。


(この項続く)
註:「DRG/PPS」の導入自体が,マネジドケアを運営する保険会社の価格交渉力を強める大きな原因となったことは,拙著『アメリカ医療の光と影』(医学書院刊)に詳述したので参照されたい。

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