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米国医療保険制度の「負担の逆進性」〔連載〕続 アメリカ医療の光と影 第 55 回
http://www.asyura2.com/0406/health9/msg/685.html
投稿者 memento mori 日時 2005 年 3 月 09 日 14:32:20: 1mvWlnKGcvCrw
 


http://202.238.86.4/cl/JuU/oPU/bW/o18j7
第2624号 2005年3月7日

〔連載〕続 アメリカ医療の光と影 第 55 回
メディケイド危機(1)
安全網が切れる危険
李 啓充 医師/作家(在ボストン)

(2622号よりつづく)
米国医療保険制度の「負担の逆進性」
 米国の医療保険制度は伝統的に市場原理に委ねられてきた。市場原理の下では,消費者は,あまたある商品の中から「自分の財力と必要に見合った」ものを「選択」して購入するのが原則である。しかし,雇用主を通じて保険に加入する場合,保険を選択するのは勤務先の企業なので,被用者(消費者)レベルでは実質的に保険「選択」の自由は存在せず,保険に入るか否かの選択しか許されない(註1)。

 しかし,選択を許されないとはいっても勤務先の企業などを通じて保険に加入することができる人々は,企業が雇用主負担分の保険料を負担するからまだ恵まれている。しかも,米国の場合,企業が提供する医療保険は,歴史的には,「求人用の給与外ベネフィット」として発達した背景があるので,昇進するにつれて自己負担分が減ることが慣行となっている。日本の場合は,保険料負担は「応能負担」であり,収入の多寡と連動して保険料も増減するのが原則だが,米国の場合は,たとえば,重役になると自己負担がまったくなくなるなど,富める者ほど負担が少ない,「負担の逆進性」が制度上の一大特徴となっているのである。
低所得者にのしかかる「税負担の相対的重さ」
 一方,被雇用者に保険を提供する財力のない小企業の従業員,大企業に勤めていても「ベネフィット」が提供されないパートの労働者,自営業者,失業者などの場合,医療保険を購入しようと思ったら,保険料は全額自己負担となる。しかも,大企業の場合は,大口顧客として保険会社から保険料の「大幅ディスカウント」を受けることが当たり前となっているが,個人として医療保険を購入する場合は「定価」を払わなければならないので,その保険料は大企業の従業員と一桁違うということも珍しくない(註2)。

 ここで注意しなければならないのは,個人加入者が保険料を全額自己負担していることと比較すると,重役などが企業に出させている保険料は実質的には「非課税所得」に相当するという「不公平」があることである。たとえば,クリントン政権の試算によると,企業負担の保険料を個人の「所得」として算定していないことで,1999年の場合,連邦政府は760億ドル(約8兆円)の歳入を失ったという。

 しかも,企業の保険料負担という「免税」効果は,大企業の重役など高所得者に手厚く現れる。企業提供の保険に加入する道を閉ざされている低所得者にとって,「負担の逆進性」は,「保険料が高い」ということだけでなく,「税負担の相対的重さ」という形でものしかかってくるのである。
弱者救済のため保険制度が「二階建て」に
 実は,米国で,何ら医療保険を有しない無保険者が年々増え続けているのも,「負担の逆進性」が医療保険制度の隅々に張り巡らされていることが大きな原因となっている。勤め先の企業の都合でレイオフされたり,病気になるなどの理由で失職したりした場合,ただ収入が減るだけでなく,保険料負担がべらぼうに高くなるので,途端に医療保険を購入することが不可能となり,無保険者となってしまうのである。

 極言すれば,市場原理は「強者が勝つ」という仕組みに他ならず,医療保険制度を市場原理で運営した場合,弱者が容易に切り捨てられ,無保険者となってしまう事態は避けようがないのである。弱者の典型は,高齢者・障害者・低所得者であるが,これらの弱者が医療へのアクセスを拒否される事態を放置した場合,社会そのものの存立が危うくなりかねない。だからこそ,米国では,1965年以降,高齢者・障害者にはメディケア,低所得者にはメディケイドと,放っておけば市場原理から落ちこぼれてしまう弱者を救済するために,国家として公的医療保険を運営,民間の医療保険とあわせて「二階建て」の保険制度としてきたのである。
べらぼうに高くつく「二階建て」保険制度
 いわば,市場原理の結果生じた医療保険制度のほころびを繕うための修復処置として公的医療保険が設立されたのだが,米国が公的医療保険の運営に投じている税額は国民1人当たり年額2306ドルに上り,これだけで日本の1人当たり医療費総額2130ドルを上回る(註3)。市場原理の果てに生じる「無保険社会」を是正せんと,公的医療保険という国家による是正処置を講じているのだが,公的保険に投じている税額の巨大さを見てもわかるように,米国の「二階建て」医療保険制度は,社会全体にとってべらぼうに高くつく制度となっているのである。しかも,巨額の税を投入しているにもかかわらず,無保険者が4060万人(=国民の7人に1人)(註3)と,市場原理から落ちこぼれてしまった人々を救済しきれずにいるのだから,医療保険制度を市場原理に委ねることの愚かさは明らかであろう。

 米国の医療保険制度の問題は,市場原理から落ちこぼれてしまった人々を救済しきれずにいることにとどまらない。ここ数年,低所得者用医療保険メディケイドが財政破綻に陥る州が続出,市場原理から落ちこぼれた人々を救済するはずの「安全網」が,切れてなくなってしまう危険に見舞われているのである。

(この項つづく)

註1:従業員が複数のオプションから保険を選択することを可能としているのは,一部の大企業や,連邦政府が雇用主である場合に限られる。
註2:被用者は,退職後18か月間に限り,勤務先の企業で提供されていたのと同じ医療保険を,全額自己負担で継続することができる(COBRA coverageという)。私事になって恐縮だが,筆者の場合,被用者保険からCOBRAに変わった途端,月々の保険料が,220ドルから1080ドルに跳ね上がった経験がある。
註3:数字は2001年米保健省調べ。

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