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立川・反戦ビラ弾圧事件-----『良心の囚人』が日本で初めて生まれた(かわもと文庫)
http://www.asyura2.com/0406/war56/msg/332.html
投稿者 竹中半兵衛 日時 2004 年 6 月 04 日 07:40:21:0iYhrg5rK5QpI
 

【世相百断 第61話】立川・反戦ビラ弾圧事件

http://www5a.biglobe.ne.jp/~katsuaki/sesou61.html

(かわもと文庫 http://www5a.biglobe.ne.jp/~katsuaki/index.htm に所収)


 1977年にノーベル平和賞を受賞し、世界140カ国以上に約100万人の会員を擁する国際的な人権NGO・アムネスティー・インターナショナルには、反人権侵害のための基本的な認識のひとつとして「良心の囚人」という考え方がある。

 アムネスティー・インターナショナルが定義する「良心の囚人」とは、「政治的、宗教的、信念や人種、性、肌の色、言語、民族ないし社会的な出自、経済的な地位、生まれやその他の地位を理由に、暴力を用いたり唱導しなかったにもかかわらず、囚われた人々」で、毎月日本支部から送られてくるニュースレターを読んでいると、非暴力による意思表示を行なっただけなのにもかかわらず、思想信条・人種・言語・皮膚の色などの違いを理由に囚われているこうした人々が存在しない国や地域はないと思われるほど、多くの国の監獄に良心の囚人が捕らわれている状況がよくわかる。

 良心の囚人としてはミャンマー(ビルマ)のアウン・サン・スー・チー氏が有名だが、日本の市民に知られていない無名の人々のほうがもちろん圧倒的に多いし、軍事独裁国家だけでなく、アメリカ合州国やフランスなど欧米の国々、中国をはじめとするアジアの国々にも良心の囚人は広く存在している。

 権力者や為政者、彼らが作り上げた社会秩序にとって好ましくないとレッテルを貼られた良心の囚人は、不当逮捕や拷問のあとに、人権無視の法運用のなかで不当な重刑を科され、もっとひどい例では起訴も裁判もなく、長期拘束されている例も多い。健康状態が悪化しても治療も受けられないなど獄中でも人権侵害にさらされることが多く、さらに恐ろしいのは、超法規的措置で恣意的に殺害されたり、"失踪"させられる例も少なくないことだ。

 日本の人権状況も誇れるレベルからはほど遠い。以前『人権小国日本』で書いたように、難民には実質的にほとんど言っていいほど門戸を閉ざしている状態だし、犯罪容疑者や受刑者の人権状況の改善なども国際社会から勧告されている。

 ただひとつ、日本の人権状況で誇れるものがあるとすれば、それはこれまで日本には「良心の囚人」が一人も存在しなかったことだ。

 だが今年3月、アムネスティー・インターナショナルは1961年の発足以来初めて、日本に3人の良心の囚人を認定した。

 いったい何があったのか、まずはこの件に関するアムネスティーの声明をみてみよう。

2004年3月18日
日本:平和運動家の逮捕拘禁は、表現の自由の侵害

AI INDEX: ASA 22/001/2004

アムネスティ・インターナショナルは、平和運動家3人が、自衛隊のイラク派遣に反対するビラを配布したために、2週間以上にわたって警察留置場で勾留されていることにつき、強く抗議する。

男性2人と女性1人のこの運動家たちは、東京西部の立川で2004年2月27日に逮捕された。逮捕の容疑は刑法第130条の住居侵入罪である。
この運動家たちは、自衛隊の派遣についてもっと慎重に考えてほしいと呼びかけるビラを、立川の自衛隊官舎の郵便受けに配っていた。
アムネスティは、この運動家たちは表現の自由を侵害されて拘禁された、良心の囚人であると考える。表現の自由は、日本国憲法の21条、そして日本も締約国となっている自由権規約の19条に定められている。この運動家たちは直ちに釈放されなければならない。

アムネスティは、また、この3人の家族に対しても、家宅捜索、ノートやコンピュータ類の押収などの嫌がらせがおこなわれている点を懸念している。
3人の運動家は立川の警察留置場に勾留されており、逮捕後、毎日ほぼ8時間にも及ぶ取調べを受けている。取り調べ中に弁護人は立ち会っていない。アムネスティが受け取った情報によれば、彼らの取り調べを担当しているのは警視庁の公安二課であり、この事件が公安事件として取り上げられていることを示唆している。
「アムネスティは、彼ら3人を直ちに釈放するよう要求する。また釈放後、日本は彼らの権利が、日本も締約国となっている国際人権基準に保障されているように、きちんと守られるよう要求する。」アムネスティはそのように語った。

 ここで取り上げられている平和運動家3人とは、72年から反戦活動を続けている市民団体「立川自衛隊監視テント村」のメンバーで、彼らは1月17日昼前、立川市内の自衛隊官舎の2棟の1階に集められている郵便受け数十世帯分に、「自衛官・ご家族の皆さんへ 自衛隊のイラク派兵反対! いっしょに考え、反対の声をあげよう!」と題するビラを配布した。

 現場は国家公務員住宅の一角にあり、道路からの入り口に門扉などはなく、宅配業者や出前業者などが自由に出入りし、この自衛隊官舎の郵便受けには日常的に宣伝チラシや自治体議員の議会報告なども入れられていたという。集合住宅の郵便受けなら日常どこででも見られる平凡な光景といえるだろう。

 また、「立川自衛隊監視テント村」のメンバーも以前自分たちが発行する冊子を防衛庁官舎に配布したことがあるという。そのときは逮捕されなかったが、今回は逮捕された。

 団地の集合郵便受けにチラシを配っただけで逮捕とは常軌を逸しているというほかはないが、配った相手とチラシに書かれた内容を考えれば、これはアムネスティーの声明もいうように、表現の自由の侵害・思想信条の弾圧と受け取るのが当然だろう。

 警視庁によると、官舎の住民から「各戸にビラを配布している男女がいる」との110番通報があり、捜査した結果、刑法第130条の住居侵入罪にあたるとして、ビラ配布から1カ月余りたった2月27日朝、テント村の事務所や関係者の自宅などを捜索、名簿などを押収するとともに3人を逮捕したという。

 しかしこの逮捕には無理なところが幾つもある。

 刑法130条は親告罪、つまり告訴がなければ公訴提起ができない。だから警視庁は官舎住民から110番通報があったというが、110番通報=告訴なのか。仮にそうだとしても、配布されたビラには団体の名前も連絡先も記されていた。なぜ110番通報から40日も経ってからの逮捕なのか。110番通報が、刑法130条の「正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。」という内容に該当するかどうかなら、即日でも事実関係の確認に入れる。おまけに、事務所・個人住宅など6ヵ所もの家宅捜索まで行なっている。

 実際は、国論を二分する自衛隊のイラク派遣に関する反対ビラが当の自衛隊の官舎にまで撒かれたことに危機感をもった何者かが、じっくり時間をかけて検討し、公安警察を使って見せしめの逮捕を行なった、というところだろう。後日裁判所に提出した陳述書の中で被告の一人が、「運動をやめて立川から出ていけ」と警察官から何度も怒鳴られたと言っているのがこのあたりの事情をよく物語っている。国の方針に反対する意見の封じ込めの意図がありありで、住居侵入罪の濫用である。

 この3名は立川署と警視庁多摩庁舎に留置され、アムネスティによれば、弁護人の立会いもないまま、毎日6時間から8時間にも及ぶ取調べを警視庁から受けていたという。3人が黙秘していたためであろうと思われるが、本人を説得するようにという脅迫まがいの説得が家族に対しても行われたらしい。

 当然のことながら、この人権侵害に対して広範な抗議の声があがった。

 たとえば3月3日には、奥平康弘・東大名誉教授、水島朝穂・早大教授、阪口正二郎・一橋大教授ら憲法学者や刑法学者ら56人が『立川自衛隊監視テント村への弾圧に抗議する法学者声明』を出している。

 この声明の中で法学者たちは、「住居侵入罪によって保護される法益はプライバシーの享有を期待できる区画された場所内の平穏な利用であり、郵便受けは外から内部に向けて発せられる情報を受け取るために居住者自らが設置したものであり、チラシを郵便受けに配布するために他人の敷地に立ち入ることは住居侵入罪にあたらない」さらには、「当該行為は、自衛隊のイラク派兵というそれ自体憲法上疑義がある事態を憂慮する市民が、自衛隊員とその家族に対して、市民として共に考えることを直接促すために行われたものであり、その手段も、ビラという通常の媒体を使用して、郵便受けという外に開かれた空間にそれを投函したという極めて穏健なものです」といい、「今回の措置には、自衛隊のイラク派兵に反対する市民団体を狙い撃ちにし、その正当な表現活動を制限することに真の目的があると言わざるを得ません」と断じている。

 法解釈上も社会常識上も、まっとうな意見だといえよう。

 さらに101名の社会科学者による『自衛隊イラク派遣に反対するビラ入れへの逮捕に抗議し3名の即時釈放を求める社会科学者有志の声明』も発表された。

 この中で社会科学者たちは、「私たちは学問にたずさわる者として、政府の方針に反対する意見のものだけが選別され犯罪に問われたということに大きな危惧を覚えています。とりわけ社会科学においては、政府がすすめる政策の是非をめぐっては常に激しい論争が繰り広げられます。もし特定の意見や思想だけを禁止するのであれば、それは学問にとっての死を意味すると考えます」

「イラク戦争や自衛隊のイラク派兵は国論を二分する問題です。そうしたなかで特定の表現行為を一方的に取り締まるということは、戦前の言論統制の例を持ち出すまでもなく、民主主義の原則を大きく逸脱したものと言わなければなりません。私たち社会科学者は、基本的人権を侵害し自由な議論を規制する今回の弾圧に対し、強く抗議」し、「東京地方検察庁(八王子支部)は起訴することなく、3名を即時釈放すること」を求めている。

 この他労働組合、平和団体、市民などからも広範な非難・抗議の声があがった。

 だがこうした非難・抗議を嘲笑うように、3人は3月9日に起訴された。そして起訴後も留置場などに勾留され、ようやく保釈されたのは、彼らが5月6日の八王子地裁の第1回公判でビラ配布を認めたあとの5月11日である。

 ビラ配りで75日間も勾留されていたことになるが、こんなに長期の勾留がなぜ必要だったのか。被疑者を逮捕後、家宅捜索をして書類やパソコンまで押収した。そうまでしてさらに、公判の維持に容疑者の身柄の拘束が欠かせないわけではあるまい。

 アムネスティ・インターナショナル日本支部の寺中誠事務局長は、「これまでも様々な理由で警察が不当な介入をすることはあった。しかし、今回は住居侵入罪の乱用で起訴まで到った点を深く憂慮し、許されないことと強く抗議する。今回、『良心の囚人』が日本で初めて生まれた訳だが、これは日本における表現の自由が危機に瀕している現実を映し出しているものと捉えている」と述べている。

 一連の経緯は警察だけの暴走とはいえない。警察の意図を引き継いで無理が見え見えの住居侵入罪で起訴した検察も、警察の言い分を鵜呑みにして被告の権利を無視した不当な長期勾留を認めた裁判所も、つまり警察・司法が一体となって政府の軍事化に力を貸し、法の執行者として中立公正の立場で守らねばならない市民の表現の自由を弾圧し、人権を侵害したといわれても仕方があるまい。

 また、この事件は突発的に出てきたものではない。

 NPO型インターネット新聞『JANJAN』によると、「去年4月、東京都杉並区の公園の公衆トイレに「反戦」落書きをした青年が、1カ月半も拘置されたうえ、起訴され、今年2月12日、懲役1年2カ月、執行猶予3年の有罪判決を受けた」そうだし、さらに「昨年秋の総選挙直前に、社会保険庁職員が自宅近くのマンションで共産党の機関紙を配ったとして、今年3月、国家公務員法違反容疑で逮捕され、起訴」されたという。こうした出来事の延長線上に今回の逮捕と起訴もなされたと考えなければなるまい。

 われわれ市民にいま、何が問われているのか。

 最大野党・民主党の右傾化や市民の政治に対する無関心と現状肯定をいいことに、ここ数年、有事法制など日本を戦争のできる普通の国にし、アメリカの世界戦略と歩調を共にするための法体系づくりがしゃにむに進められ、戦争状態のイラクを〈非戦闘地域〉と認定した自衛隊の派遣が行なわれ、日本の空気は年々確実にきな臭くなっている。そうした軍事大国化に危機感を強めた市民の批判も強くなっているが、政府が軍事化をしゃにむに進めようとすればするほど、市民の批判は邪魔になってくる。市民の批判が強まれば、やがて強権をもって弾圧・排除しようとする。どの国、どの時代でもこうした政治状況の中ではこういう現象が強まってくることは、歴史をすこし勉強すればすぐにわかることだ。

 こうした政治状況の中で、これら一連の表現の自由の侵害を見過ごすことは、明確な思想弾圧の第一歩を見過ごすことにほかならない。それはやがて、我々が自由にものを言えない社会を現出させる。

 異議申立ては、権力をもつものには煩わしく、邪魔で、排除したくなるものである。権力の力が強まれば強まるほど、彼らの異議申立てを排除したい欲求は強まる。日本に初めて「良心の囚人」が生まれたということは、戦後日本がそういうところまできてしまったということだ。

 だが、異議申立てこそが、社会や組織の健全性を確保する。少数意見、反対意見を許容できる社会、組織は、柔軟性と公明性と包容力を維持して健全に存続しつづけることができる。そういう社会や組織では、人々も活き活きと生きることができる。異議申立てを認めることのできない社会や組織は、チェック機能を失ってやがて暗黒と破綻に向かう。そういう社会の人権に未来はない。

 そうした堅苦しい言い方をしなくても、ポストにビラを入れたくらいで捕まるなんて、何かおかしいと、ごく普通の市民の感覚をもっていれば感じるはずだ。こうした警察や検察の行為が許されるなら、これからは団地のポストにチラシ広告を投函する全ての行為が弾圧の対象になりうる。いや、何が弾圧の対象となるかは彼らの意のままになる。その行き着く末は、治安維持法が猛威をふるった戦前の恐怖社会である。

 第1回の公判で3人の被告はビラ配りの外形事実は認めたが、無罪を主張した。この裁判がどのように推移していくか、この国が「違った考えや価値観を持つ人々を力で押さえ付けるような社会」(5月21日付朝日新聞社説)になっていくのかどうかという視点で、注目していきたい。

(2004年6月2日)
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