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「ハーグには判事たちがいる」「隔離壁に対するICJ勧告前後に書かれた文章」(ナブルス通信)
http://www.asyura2.com/0406/war57/msg/802.html
投稿者 シジミ 日時 2004 年 7 月 19 日 05:29:53:eWn45SEFYZ1R.
 

珍しく予告通りに通信が作れました!訳された文章はまだまだあるの
で、せっせと送り出していきたいと思っています。ムラがあるのは、
ご勘弁を。(毎日、コツコツができない編集者より──ここの部分を
転送の際に含めるのはおやめ下さいね。毎度、読んでくださっている
読者の方に向けた一言なので)

      ***以下、転送を歓迎します***

      ○○○ナブルス通信 2004.7.18号○○○
        http://www.onweb.to/palestine/
         Information on Palestine

────────────────────────────────
◇contents◇

◇ハーグには判事たちがいる ウリ・アブネリ
◇隔離壁に対するICJ勧告前後に書かれた文章
────────────────────────────────

◇ハーグには判事たちがいる

7月9日、オランダのハーグ国際司法裁判所(ICJ)は、イスラエルがパ
レスチナ人の土地を奪って建設している隔離壁(イスラエル政府が「分
離フェンス」と呼ぶもの)が国際法に違反するという勧告的意見を出し
た。このことをイスラエル内にあって「壁」反対の運動を行ってきたユ
ダヤ人のひとり、ウリ・アブネリはどのように見たのか。「壁」とシオ
ニズムとの共通性も含めて、勧告の翌日に発表された文章を。[ナブル
ス通信]

**
「ハーグには判事たちがいる」

ウリ・アブネリ
2004年7月10日


There are judges in The Hague
Uri Avnery
10 July 2004


 イスラエルのハアレツ紙が1面で、二つの出来事を報じている。一つ
 は、近代シオニズム運動の創始者テオドール・ヘルツル没後100年記
 念であり、もう一つは、国際司法裁判所がイスラエルの分離壁に対し
 違法判決を下したことである。
 
 この二つの出来事が同時に報じられたことは偶然の一致のように見え
 るかもしれない。歴史的な記念日と最新の時事問題のあいだに、いっ
 たいいかなる関係がありうるというのか?
 
 だが、関係はあるのだ。シオニズムの礎石となった『ユダヤ人国家』
 で、ヘルツルが書いた次の文章にそのことは表れている。
 
 「そこ(パレスチナ)において我々は、アジアに対峙するヨーロッパ
 の壁となるのだ、野蛮に対峙する文明の前哨基地として奉仕するの
 だ。」
 
 この文章が今日、書かれたとしてもなんら不思議ではない。アメリカ
 人の思想家たちは、西洋の「ユダヤ・キリスト教」文化が「イスラー
 ムの野蛮」と戦うという「文明の衝突」論を提起している。また、ア
 メリカの指導者たちは、イスラエルこそアラブ・ムスリムの「国際テ
 ロ」との戦いにおける西洋文明の前哨基地であると宣言している。
 シャロン内閣は、パレスチナ・アラブ人のテロからイスラエルを守る
 ために壁を建設しているのだという。シャロン内閣はあらゆる機会を
 利用して、「パレスチナのテロ」との戦いは、「国際テロ」との闘い
 の一部なのだと言い募っている。アメリカ人たちは、このイスラエル
 の壁を、全身全霊そして全懐(ふところ)をもって支えているのだ。
 
 「分離壁」という、いまや半ば公式名称となったこの名前もこのこと
 を強調するものだ。それが意図しているのは、民族を、文明を、「分
 ける」こと、そしてまさに、文明(=我々)を野蛮(=やつら)から
 分けること、なのである。
 
 壁を建設すること、そこには、たぶんに無意識の、深遠なイデオロ
 ギー的理由がある。表面的には、目下、現実に存在する危険に対する
 実際的な反応のように見える。普通のイスラエル人ならこう言うだろ
 う。「気は確かか。いったいきみは何を言ってるんだ。ヘルツルと何
 の関係があるというんだ。100年も前に死んでるのに!」だが、そこ
 には、直接的な関係が存在するのである。
 
 このことは、壁のまた別の側面に関しても言える。ヘルツルの時代に
 造られ、シオニズム運動の初期に、その運動のスローガンとなったフ
 レーズがある。「民なき土地を、土地なき民に」。つまり、パレスチ
 ナはからっぽな国だ、というものだ。
 
 壁の建設予定進路を実際に辿ったことのある者なら誰しも、次のよう
 な事実を目の当たりにして衝撃を受けるだろう。すなわち、この壁の
 建設が、そこに現に生きているパレスチナ人という人間たちの生に対
 して、ひとかけらの配慮もなく決定されているという事実だ。人間が
 蟻を踏みつけるように、壁は彼らを粉砕する。農民は耕作地から切り
 離される。労働者は職場から、生徒は学校から、病人は病院から、遺
 族は愛する者の墓から切り離されるのである。
 
 役人や入植者たちが地図の上に屈みこみ、壁の道筋を計画したのであ
 ろうことは容易に想像がつく。あたかも、そこには入植地と軍の基地
 と道路のほかは何も存在しない空っぽの空間であるかのように。彼ら
 は地形や、戦術上、何に配慮しなければならないか、そして戦略的目
 的について議論する。
 
 パレスチナ人だって? どのパレスチナ人だ?
 
 先週、言い渡されたイスラエル最高裁の判決も、主にその点を問題に
 していた *1。壁が必要なのだという将軍たちの主張に対して、それ
 は異議を唱えてはいない。将軍がそう言うなら、法廷は姿勢を正して
 敬礼するのだ。最高裁はまた、イスラエルと、1967年にイスラエル
 が占領した領土のあいだの境界として国際的に認知されたグリーン・
 ライン上に、壁が建設されるべきである、とも言いはしなかった。グ
 リーン・ライン上に建設するほうが、距離も短くてすみ、守るのもよ
 りたやすくもあるのに。だが、最高裁は、壁が建設される土地には、
 パレスチナ人が存在するという事実を認め、彼らが人間として生きる
 上での必要が、考慮されなければならないとしたのである。
 
 判決が出てからこの1週間、軍が、壁の進路をいくらか変更しようと
 していることが分かったが、その基本構想が変わったわけではない。
 「改正された」進路も、以前のものに較べればましというだけで、飛
 び地に住むパレスチナ人住民を生み出し、彼らの移動の自由を制限す
 ることになる。農民たちの中には、切り離された自分たちの土地と再
 びつながる者もいるという、それだけのことだ。
 
 そして今、国際司法裁判所が、壁に対する反対をこれまで行動で示し
 てきたイスラエルの平和勢力が支持する原則にきわめて近い諸原則を
 発表した。それによれば、グリーン・ラインに沿ったものでないかぎ
 り、壁それ自体が違法であり、占領地内部に建設されるものすべて
 が、国際法ならびに、イスラエルが署名している協定や条約に違反し
 ているということだ。
 
 司法裁判所は、占領地内に建設される壁は撤去されねばならず、壁建
 設以前の状態を回復し、パレスチナ人が被った損害を補償しなければ
 ならないとしている。そして、世界中の国々に対して、壁の建設にい
 かなる援助も与えないよう要請している *2。
 
 これは、イスラエルの世論に何らかの影響を与えるだろうか。残念な
 がら与えないと私は思う。ここ数ヶ月というもの、政府のプロパガン
 ダ機械が、この日のために公衆に対する準備をしてきたからだ。それ
 によれば、国際司法裁判所の判事たちは反ユダヤ主義であり、アメリ
 カ合州国以外の国はすべてユダヤ人国家の殲滅を望んでいるのだとい
 うことは周知の事実であるという。何年か前に、こんな愉快な歌が流
 行ったことがある。「世界はみんな、ぼくらの敵。だけど、ぼくらは
 気にしない…だから、みんな地獄に落ちてしまえ!」
 
 国際司法裁判所の判決は、国際世論に影響を与えるだろうか。同裁判
 所の「勧告」は拘束力がなく、また、同裁判所にはその判決を強制す
 るための軍隊も警察もないが、しかし、にもかかわらず、おそらく影
 響を与えるだろう。この件を安保理に持っていっても無意味だ。アメ
 リカの拒否権によって自動的に撃墜されてしまうのだから。それはい
 つでもそうなのだが、とりわけ大統領選前夜はそうだ。アメリカの行
 政当局は、親イスラエルであるユダヤ・ロビーと福音主義者のロビー
 の両方を攻撃するようなことはしたがらないからだ。合州国は国際司
 法裁判所を無視して、壁に対する財政援助を続けるだろう。
 
 だが、拒否権に関係ない国連総会においてなら、壁の本性に脚光を当
 てる広範な議論がなされるだろう。シャロン内閣のプロパガンダ機械
 は、世界の大半のメディアの支援を受けて、壁は、イスラエル国内で
 の自爆攻撃を阻止するために必要な手段なのだというイメージを生産
 してきた。国連総会における議論は、この怪物の本当の狙いを公にし
 てくれるだろう。
 
 判決の前日、私は、アッ・ラムの大きなテントの中にいた。アッ・ラ
 ムは、エルサレムの北にある、壁の犠牲になる主たる街の一つであ
 る。壁に反対するパレスチナ人とイスラエル人たちがそこでハンガー
 ストライキを行っていた。国じゅうから巡礼者のように人々が続々と
 訪れていた。
 
 テントの中で、ある映画のワールド・プレミア上映が行われた。北ア
 フリカ出身でパリ在住のイスラエル人シモーヌ・ビットン監督は、壁
 をありのままに描いていた *3。
 
 映画の中では、パレスチナ人たちが、壁が彼らに何をしたかを語る。
 ユダヤ人のキブツのメンバーは、壁をイスラエルの災いと呼ぶ。我々
 自身の手で作りだした災いと。防衛省局長、アモス・ヤアロン将軍
 (彼は、サブラー・シャティーラ事件への関与で、カハーン調査委員
 会によって軍司令官を解任されている)は、パレスチナ人は自業自得
 なのだと説明する。彼らが占領に抵抗するのを止めさえすれば、壁を
 建設する必要などないのだからと。
 
 だが、映画の中でもっとも感動的な場面は、純粋に視覚的で、言葉を
 伴わないある場面である。緑の畑とオリーヴの林が地平線まで広が
 り、ミナレットの立つ村々が点在する。クレーンがコンクリートの塊
 を壁の上に積み上げる。すると、今まで見えていた風景の一部が見え
 なくなる。また塊が持ち上げられると、風景はさらに見えなくなる。
 3つ目の塊がとうとう風景全体を遮ってしまう。それを見て観客は理
 解する。今、まさに自分の目の前で、また一つの村が、その命から永
 遠に切り離されたのだということを。8メートルもの高さの巨大な壁
 に、村の四方を取り囲まれてしまうことで。
 
 けれども同時に、ある思いが私の脳裡に浮かんだ。結局のところ、ブ
 ロックを積み上げているこのまさに同じクレーンが、それを取り除く
 ことになるのではないか。ドイツで起きたように。それは、ここでも
 起こるのではないか。15カ国からやってきた、ハーグの判事たちの
 判決は、そのことに寄与したのだ *4。
 
 おそらく歴史の皮肉なのだろう。ヨーロッパ文明を代表する判事たち
 が要求しているのが壁の撤去だということは。ヘルツルがこれを見た
 なら、当惑を隠せなかっただろう。

---------------------------------------------------------------
翻訳:岡真理

※筆者ウリ・アブネリ(Uri Avnery) はドイツ生まれ。ジャーナリス
ト。1948年の戦争に参加し、1950~1990年までイスラエルの国会議
員をつとめた。イスラエルによる占領の停止とパレスチナの独立国家創
設を目指す団体「グッシュ・シャローム」の設立(92年)に大きく寄
与した。

原文:
http://www.gush-shalom.org/archives/article311.html

「グッシュ・シャローム」
(アッ・ラムでのハンスト・テントの写真などが現在はトップに来てい
る)
http://www.gush-shalom.org/english/index.html

[編集者註]
*1 6月30日、イスラエル最高裁は隔離壁(イスラエルの言う「分離
フェンス」)のルートがパレスチナ人の生活を脅かすものだとして、
ルートの変更を言い渡した。「壁」に関する申し立てで、このような裁
決が下されたのは初めて。このことは大きく報道されたが、変更を言い
渡されたのは全長700kmのうちのわずか30km区間のみ。

*2 中東調査会による「分離壁に関するICJの勧告的意見についての各
国反応」にはパレスチナ、イスラエルの反応と勧告の概要などがまとめ
られている(pdf書類でダウンロード、44k)。
http://www.meij.or.jp/members/kawaraban(all)/2004-07/20040714icj-hp.PDF

*3 シモーヌ・ビットンは、1955年モロッコ生まれの、彼女自身の言
葉を借りるならjuive arabe(アラブ系ユダヤ人)。中東地中海世界の
歴史と文化をテーマに、いくつものドキュメンタリー作品を撮ってい
る。パレスチナ関連では、『パレスチナ、ある大地の物語』、詩人のマ
フムード・ダルウィーシュをテーマにした『マフムード・ダルウィー
シュ そして大地、言語のような…(Mahmoud Darwich et la terre,
comme la langue...)』など。

『壁 Mur』は、今年のカンヌ映画祭でも上映され、マルセイユドキュ
メンタリー映画祭での金賞など数々の賞を受賞した。現在、西エルサレ
ムで行われているエルサレム国際映画祭にも参加中。また、パレスチナ
では本物の「壁」をスクリーンにして上映するなどということも行われ
ている。一切のナレーションが入らないこの映画は、淡々と「壁」の周
辺で生きる人々を追っているが、監督自身は「壁は私自身でもある」と
語っている。(省略版。全文はウェブサイトに)

*4 正確に書くと、「米国を除いた14カ国の判事」。

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◇隔離壁に対するICJ勧告前後に書かれた文章

今、勧告を受けての文章が続々と発表されています。が、こちらではほ
とんど訳して紹介できないかもしれません。興味のある方は以下に一例
を。(編集者自身も読み切れていません、今のところ)

From the Hague to Mas'ha/Tanya Reinhart [占領に反対するイス
ラエル人のターニャ・ラインハルトによるマスハー村のことを中心にし
た短文]
http://electronicIntifada.net/v2/article2915.shtml

Before and After the Wall in Jayyous/
Sharif Omar writing from Jayyous, Occupied Palestine[壁で農地と
切り離されたジャユース村の農民シャリフ・オマールによる「壁」後の
村。印象深い写真も]
http://electronicIntifada.net/v2/article2922.shtml

The Peaceful Fall of Israel's Wall/Ayed Morrar[壁建設に抗うブドゥ
ルス村のアィエッド・モラールによる村の闘いを綴った文章]
http://electronicIntifada.net/v2/article2921.shtml

About A Wall/Glenn Bowman[英国の研究者による隔離壁と国境を定
めない国家・イスラエルの思想的関連を描いた論文(長文)]
http://electronicIntifada.net/v2/article2872.shtml

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◇この文章は以下に掲載
http://www.onweb.to/palestine/siryo/avnery-aftericj10jul04.html

────────────────────────────────
◇P-navi info  <http://nekokabu.blogtribe.org/>
[ほぼ毎日更新中。編集者ビーのblog。速報、インフォ、コラム]

・イスラエル軍で自殺が急増
・日本の兵役拒否者、北御門二郎さん逝去 (などなど)
────────────────────────────────
◇ナブルス通信の配信お申し込み、バックナンバーは以下に。
http://www.melma.com/mag/84/m00109484/
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