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鬼畜(自称)文士・村崎百郎氏による「華氏911」評(社会派くんがゆく)
http://www.asyura2.com/0406/war58/msg/958.html
投稿者 あややの夏 日時 2004 年 8 月 22 日 15:52:56:GkI4VuUIXLRAw
 

所詮はハリウッド映画だな、ブッシュ一人に悪役を押し付けてそれで終わりかよ(笑)?

                                  村崎百郎

 俺は中島らもの良い読者じゃなかったけど、『華氏911』を観ながら思い出したのは昔の「かまぼこ新聞」で読んだエッセイの一つだ。細部の記憶はあやふやなのだが、それは、らもが友人とルイ・マル監督の『鬼火』(原作はドリュ・ラ・ロシェルの『ゆらめく炎』/同名の日本映画とは何の関係もない)を観に映画館に行った時の話で、こともあろうにらもの友人は、座席に座るなり菓子を喰いながら当然のような顔をして「で、この映画は誰がええもんなの?」というトンチンカンな質問をする。

らもはあきれて「こいつにとっては映画といえば、善玉がいて悪玉がいて、両者が争って最後に善玉が勝つような、そういう単純な勧善懲悪の娯楽映画しかアタマに浮かばないんだろう。『鬼火』はそういう映画じゃなくて、人間存在の根源的な諸問題を深く問いかけた哲学的なテーマの映画で、そもそも登場人物のどっちがええもんとかわるもんとか、そういう視点で語られるような映画じゃねえんだよ!」と憤慨する内容のものだった(と思う)。


あの『鬼火』に対して「誰がええもんなの?」というアホな質問がなされたのが面白くて、俺は当時、何度も繰り返し思い出しては笑ったものだ。そして笑いながら思った、「そうだな、現実はそんなに単純に割り切れるものじゃない。人が善玉と悪玉にくっきり役割分担して機能するのは完全懲悪の芝居や漫画やアニメの世界だけで、我々が生きる現実世界には徹底した“絶対悪や“絶対善”の人間などそう簡単に存在せず、傍目には邪悪な犯罪者であっても家族に対しては“優しくて愛しいお父さん”だったりするもので、あのヒトラーですら誰も愛さなかったわけではない。

人は善にも悪にも染まりきれない弱くて情けない存在なんだ」と。そして、現実が複雑であるからこそ、娯楽の分野では“わかりやすさ”が求められる。善玉悪玉の区別がハッキリして上映時間の枠内の一時間半か二時間そこらで、全ての難事件や事故や疑惑や謎がキレイさっぱり解決して善が勝利する単純明快なハリウッド映画は、まさに娯楽の殿堂だ!(それが良いか悪いかは別にしてな)

 そんなわけで、『華氏911』を観終わって、俺がその直後に素直に思ったのは、「これはドキュメンタリーではなくハリウッド映画だった」ってことだ。それ以上でもそれ以下でもない、これはハリウッド製の娯楽映画だ。断っておくが俺は心情的にはスーパー右翼で、こんな映画なんか観ても観なくても、多くのネイティヴ・アメリカンと野牛を虐殺しまくって建国し、その発生起源からして正義もクソもあったもんじゃねえクサレ鬼畜どものアメリカなんて国は、もうこれ以上嫌いになりようがないくらい大嫌いなんだよ!


 先のサッカーアジア大会で、自国のチームが負けた腹いせに日本大使の車を襲った中国人サポーター程度の歪んだ愛国心で語るならば(それにしても、あれは車のガラスが割られる程度で良かったよな。暴徒に引きずり出されて喰い殺されなかっただけマシだと思うぜ。あいつらホントに喰うときゃ生でも喰うからな!)、「ブッシュもムーアも、どっちも実験感覚で俺の国に原爆二つも落としやがった鬼畜アメリカ人野郎じゃねえかよ! まとめて死ねや馬鹿野郎!」だぜ。

 っても一部のキレた中国人と同じ気持ちでこの映画を語っては説得力もクソもなく、それではせっかく映画の席を用意してくれた編集部の皆さんに申し訳ないので、以下は冷静にこの映画について語ろうと思う。

 とにかくハリウッド映画。善悪二元の構造単純すぎ。あと、俺はムーアの書いた本の邦訳書が出るたびに買って読んでたものだから、映画の内容が著書と重複しすぎて、著書がそのまま映像化された感じで、ネタの新鮮味ってのが何もなくて、それなのに二時間以上あった上映時間はひたすら長く感じられて大変に苦痛だった。最後は「ああハイハイ、ブッシュ悪い、ブッシュ悪い、もう分かったから早く終わってくれ〜!」と叫びたかった。こっちが期待する派手で悲惨な死体や殺害シーンもロクに登場せず、間の抜けたブッシュのアホ面以外さして見どころも何もない、こんな内容の映画なら45分のNHKスペシャル程度で勘弁してくんねえかなあとも思った。

映画の最後の方に出てきた米兵士の遺族の悲痛な叫びって奴も、演技が上手いのか下手なのかよくわかんねえけど観てても何も心に響くものがなく異様につまんなかったんだよなあ(俺が鬼畜のせいかもしれんが)。まあこれは、ちょっと前に美浜原発の事故でスチームボーイになって死んだ作業員の遺族のおっさんの「社長、何とかしてくれや!」という例の血の叫びの方がものすごく見ごたえがあって良かっただけに、比べる方が酷かもしれんけどな(笑)。だから結論だけど、すでにムーアの著書を読んでる奴は、わざわざあわてて映画館に観に行く必要なんかねえぜ、レンタルビデオ(いや、今はDVDだよな)になるまで待っても全然オッケーだぜ! 

 って書いたら配給元から営業妨害って言われそうなんで、ここでハッキリ言っとく。「ムーアの著書をちゃんと読んでる読者ならわざわざ観に行く必要なんかねえ映画だよ。そんな金あまってんだったらイラク人民への義援金として慈悲深い高遠サンにでも送金してやったらどうだ?」。

 ……なんてイヤミいいたくなるほど、俺にとっては、『華氏911』は映画としては前作の『ボーリング・フォー・コロンバイン』みたいに良い出来ではなかったんだよ。ムーアにお得意のギャグをかます余裕がねえっていうか、ブッシュへの批判手法がストレートすぎてヒネリがほとんどない。そのくらい真剣に怒りまくって作ったともいえるんだろうけど強引すぎて粗が目立ちすぎ。

先月の対談で俺がさんざんバカにした自民党の参議院選挙対策のミエミエの情報戦と同じで、『華氏911』は、ムーアが、ブッシュの画像を意図的につなぎ合わせて、そこに効果的なコメントを入れて「諸悪の根源はブッシュ、とにかくこいつが一番悪い」という印象を、これでもかといわんばかりに観客に訴えてるその必死さが伝わりすぎて、俺みたいに素直じゃない奴が見ればかえってシラケるだけなんだよ。

 「なーんだ、ムーアがこの映画使ってブッシュにやってることって(善悪は別として)、それはそのままブッシュがイラク戦争の開戦理由の大義名分に、なりふりかまわず世界に向けて“諸悪の根源はフセイン、とにかくこいつが一番悪い”って、プロパガンダかましたのと全く同じじゃねえかよ!」って、この映画観てそこを感じなかったら絶対嘘だぞ。

実際、この世は様々な情報が錯綜して、ネットもメディアもそこらじゅうに他人を操ろうとする意図が溢れかえっている。そこで「善の情報操作は良くて悪の情報操作は悪い」なんて学級委員長みたいなコトは言うなよな。いまを生きる我々は、とりあえず全ての情報操作について誰かに指摘される前に、ちゃんと敏感に気づいて自分で考えて、それが情報操作であることを分かった上で操られてやれよ。

 俺はこの映画を観ている最中にずっとある種の不快感がつきまとった。その一つはブッシュ一人に悪役を押し付けて、それで済ませていいのかという疑念からくるものだ。ブッシュは確かに悪い。イラク戦争の責任はこいつにある。だが、ブッシュがいなければイラク戦争が起きなかったというのは怪しいものだ。イカサマで当選したとはいえ、かなりの数のアメリカ人がブッシュとブッシュの政策に共感したのも事実だろう。映像を見ていても、俺にはブッシュだけが特別悪いアメリカ人だとはとても思えないのだ。

おそらく誰の心の中にもブッシュはいる。アメリカ人に限らず、人は誰も皆、聖人君子でなければどこかにブッシュのような部分を持っているだろう。そして、それはとびきり邪悪な欲望ではない。「他人よりも良い思いをしたい」とか、「いい暮らしがしたい」とか、「楽をして儲けたい」とか、「いい女を抱きたい」とか、「美味しいものが喰いたい」とか、そういう他愛のない欲望が“ブッシュ的なもの”の起源なのだ。それが妄想にとどまらず極限までエスカレートすると「イラクを殺ってしこたま儲けよう」になるのだ。

だからもちろんブッシュを倒したって、全ての人の心の中のブッシュな部分を何とかしない事には、問題の根本的な解決にはつながらない。ブッシュが死んでも必ずまた別のブッシュが出てきて別のイラク戦争を起こすだろう。

ブッシュは悪い。確かに悪い。ものすごく悪い。一秒でも早くこの世から消えてなくなった方がいい人間かもしれない。でも、この映画を観てブッシュが悪いと思う自分の心の中には、ブッシュにつながる欲望やブッシュ的な部分は全くないといえるだろうか? 自分の利益のためにささいな不正やズルをしても平気でいられるような所は自分の中にはないか? そういう部分が少しでもあるなら我々もみんなブッシュと同じだ。ブッシュを「分かりやすい悪党」に祭り上げて、それを叩いて満足して済ませるのは、果たしてそれが人類にとって正しい事なのか? 

 『華氏911』を観た観客が、みんなそうやって自省して、人種国境を超えて人類の幸福のありかたについて深く考える契機になるならば、この映画は優れたドキュメンタリー映画といえるだろうが、「ブッシュ憎し」で観客の心にブッシュへの憎悪と不快感だけが残るようなら、それは単なるプロバガンダ付きの娯楽映画である。この映画を観たことを意義あるものにしたかったら、我々は単純にブッシュだけを憎んで終わってはいけないのだ。

 そして、もう一つ不愉快だったのが、この映画を観た場所が都内でもとびきりナウくてオシャレなトレンディスポットである恵比寿のガーデンブレイスの中の清潔な映画館であったことだ。冷房のきいた快適な空間で、罪もそんなにあるとは思えない貧しい人々が虫けらのように無残に殺されていく実写の入った映画を涼しい顔をして鑑賞している自分……何なんだよこの状況は? 

 こんな真面目な映画ですら、数ある“流行”の一つとして体制内に組み込んで処理してしまう現状ってのも反吐が出るほど鬼畜だねえ。あえてそういうギャップを演出して観客に居心地の悪さや罪悪感や不快感を与え、この映画を単なる“流行”以上のものにしようというのが配給元の意図だとしたら大したもんだけどな(笑)。

http://www.shakaihakun.com/data/


写真:
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