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在韓米軍問題と韓国の自主国防
http://www.asyura2.com/0406/war59/msg/1146.html
投稿者 らいふぁー 日時 2004 年 9 月 12 日 22:55:45:lhFtlWwKT14gQ
 

はじめに

7月27日に朝鮮戦争の休戦協定50周年を迎えたが、南北分断状態にある朝鮮半島は、昨年10月以来、北朝鮮核問題を巡り大きく揺れ動き、休戦後最大の危機を迎えている。イラク戦争後も北朝鮮の強気な瀬戸際政策は変わらず、核保有の正当性を訴え、金正日体制の保証を求めている。米国をはじめ国際社会は飽くまで平和的な解決を摸索しているが北朝鮮の出方によっては軍事力オプションも排除していない。この緊張の高まりの中で米韓は、「将来の同盟関係」について安保協議を進めているが、在韓米軍の再編・移駐と韓国の自主国防体制に係る問題が論議を呼んでいる。

1.在韓米軍のプレゼンス

米国のアジア・太平洋戦略は、地域安定による権益確保、経済的繁栄と自国及び同盟国の安全確保にあり、関与と抑止のために10万人規模の米軍を前方展開し、韓国には、第2歩兵師団、第7空軍など37,000人が駐留している。情勢緊迫時には、航空戦力、空母戦闘群、緊急展開部隊等を迅速に増派できる態勢をもってプレゼンスを維持している。

(1)韓国の反米感情と在韓米軍

最近の反米感情の高まりに在韓米軍撤退問題がクローズアップされている。反米感情の根底には古くは西洋人に対する攘夷思想があり、駐留軍の地位や韓国軍への指揮権問題などの米国の強大な力に対する反発心がある。昨年6月の在韓米軍装甲車による女子中学生轢死事故と米軍法会議の無罪判決によって反米感情は、若年層を中心に一気に高まった。一方でW杯サッカー4強への躍進に北朝鮮が「民族の誇り」と称賛し、釜山アジア体育大会には美女応援団を送り込み、民族統一志向のコリアナショナリズムを盛り上げた。そこへ過去に在韓米軍撤退を主張した盧武鉉大統領が「7,000万人同胞大統合の時代」を強調して登場し、対米対等と同胞重視とを同等視する並行政策を打ち出した。北朝鮮は呼応して、民族意識高揚宣伝を活発化し、核問題も「北朝鮮の・・」から「民族の自主権、生存権」と変え、平壌においても大規模反米集会を開催するなど巧みに反米感情とコリアナショナリズムとの結合を煽り、「在韓米軍の存在は南北統一の障害」と主張している。

その一方で、国内の反米感情の高まりに危機感を抱くキリスト教徒や退役軍人等の中高年保守層を中心に反米自粛、在韓米軍撤退反対を唱える親米デモが行われ世論が割れている。選挙中には「アメリカ詣は不要、米朝の戦いになれば韓国が止めに入る」と米韓同盟を否定するような発言も見られた盧武鉉大統領であるが、最近、米韓同盟は重要であり、在韓米軍は将来に亘り必要と対米重視をアピールし、国際社会の懸念払拭に努めている。

米国は、嫌いな国に米軍を置く必要は無く、韓国が望まないならば撤退すると牽制し、非公式ながら今年中にも米陸軍第2師団をソウル南方へ移駐したい旨を打診したとされている。しかし、核問題で揺れる今、在韓米軍を削減・移駐することは、北朝鮮に誤ったシグナルを送り、半島情勢の不安定化を招くことになり素より米国の本心ではない。

(2)在韓米軍問題の経緯

在韓米軍の削減、後方移転問題は、今に始まった問題ではなく長年に亘って米韓の間で論議されて来た戦略的問題であり、「韓国の反米感情に発する米韓離間の兆候」とセンセーショナルに捉えるべきでない。

 在韓米軍撤退問題は、1967年にベトナム戦争に疲弊した米国が「自国の防衛は自国の責任」としたニクソンドクトリンに始まる。1971年に韓国の反対を押し切って強行した米陸軍第7師団の撤退に、朴正熙大統領は自主国防体制を主唱し軍事力増強路線に踏み出し、かつ、有事来援を前提にした米韓連合演習「チームスピリット」を開始しプレゼンス低下を補完した。1977年にカーター大統領が再び在韓米軍の段階的撤退構想を明らかにしたが、ソ連の軍事力膨張に逆行すると米国内外の批判を浴びて取り消され、1978年の米韓連合司令部設置の契機となった。1989年には、冷戦の終焉に伴う国防費削減と兵力削減の一環として在韓米軍削減5ヵ年計画が打ち出され米韓協議が行われたが、北朝鮮の急速な軍事力拡張が明らかになり、かつ、1993年の核疑惑も生起して自然に消滅した。このように在韓米軍撤退問題は、浮き沈みを繰り返して来ている。

(3)在韓米軍の意義

ア.戦争抑制力

朝鮮半島の平和と安定は米国のプレゼンスと米韓連合防衛体制によって維持されており、在韓米軍は米国の防衛公約の象徴として、また北朝鮮の武力挑発に対する直接的な抑止力として意義がある。特にDMZに配備された米陸軍第2師団の存在は、北朝鮮軍にとって南侵挑発すれば自動的に米国との戦争となるため、韓国側の言うワナ線(Trip Wire)として目に見える戦争抑制力となっている。その反面、米国にとってはDMZで武力衝突が生じれば、自動的に戦争当事者となるため、国際社会での政戦略的なフリーハンドを失う不利がある。また、米第7空軍の存在はイラク戦争で実証された精密攻撃力、破壊力と相俟って北朝鮮をして朝鮮戦争失敗の悪夢を思い起こさせるに余りある。

  戦争抑制力は、韓国軍側へも作用している。在韓米軍の存在により韓国軍の戦力組成は、防衛的な色彩に強く抑えられ、また米韓連合司令部の存在により共同作戦計画から作戦行動に至るまで韓国軍の行動は統制されている。ラングーン事件やKAL爆破事件などの北朝鮮の蛮行にも韓国軍の過剰反応を抑えるブレーキ役を果たして来たのは、作戦統制権(94年からは戦時のみ)を有する米韓連合司令官の存在であったと言える。

また、在韓米軍の前方展開15,000人の将兵は、北朝鮮の報復攻撃に曝される人質と化しており、米国の北朝鮮に対する先制的な軍事力行使を制止している面もある。

イ.韓国軍不備能力の補完

韓国は米国の核の傘、海空の打撃力、戦略情報網、早期警戒・偵察能力に依存するところ大である。在韓米軍の存在は、韓国軍の不備能力補完だけでなく、米軍の圧倒的な航空優勢と衛星システムを含む情報、偵察、指揮通信能力とのインターオペラビリテイは韓国軍の戦力発揮を最大にしている。また、在韓米軍が新兵器システムの作戦運用基盤を作り上げた数年後に韓国軍が導入するケースが多く、新兵器導入と態勢整備の先鞭的役割として、極めて効率的な戦力近代化を可能にしている。

更に在韓米軍の存在は、前方展開兵力としてだけではなく、米国からの増援戦力受け入れ基盤、また、迅速な戦力発揮基盤として、北朝鮮の戦争挑発に対する大きな抑止力となっている。米軍提供の最先端軍事技術によるC4ISR(指揮・統制・通信・コンピュータ・情報・監視・偵察)ネットワークは、韓国軍の作戦能力、戦闘能力を効果的に発揮させ、また有事展開の米軍戦力は、戦略偵察、戦略打撃力、精密攻撃力などの韓国軍の不備機能、能力を補完する上で重要である。

ウ.軍事戦略上の拠点

朝鮮半島は、地政学的に大陸から日本海と黄海に割って突き出た戦略要衝である。米国にとって近年、戦力近代化が著しい中国軍の動向を東から監視、牽制でき、また復活しつつある露のアジア太平洋地域への進出を抑えられるなど対中国、対ロシア軍事戦略の重要拠点である。朝鮮半島における在韓米軍の駐留は、北朝鮮の脅威への抑止・対処のみではなく、対中、対ロ軍事戦略の上で極めて得難い既得権益であり、統一後においても放棄・撤退はしないと思われる。

2.米韓安保体制の動向

米国は、冷戦終焉後に多発する地域型の紛争・戦争と新たなテロ・非対称脅威への対応を重要視するとともに、軍事技術革命(RMA)の進展と相俟って軍事戦略・ドクトリンの見直しを行い、大胆な軍の変容・近代化(トランスフォーメーション)を推進している。また、世界規模での米軍の展開配備について見直しており、戦略的効果と経済性を勘案しながら韓国のみでなくドイツなどとも同盟関係のあり方について協議している。

(1)米韓同盟関係の見直し

本年11月に米韓相互防衛条約締結50周年の節目を迎えるが、米韓両国は、安全保障環境の変化と軍事戦略の変換、そして韓国の経済力、軍事力の充実を踏まえて新たな米韓同盟関係のあり方を模索している。米韓同盟の役割を朝鮮半島の安全保障だけでなく地域安定にも拡大する戦略構想をもって練られており、具体的には米韓軍の役割・責任、在韓米軍の兵力規模と再編・再配備、基地・施設の整理統合・返還、駐留経費の分担、米韓連合司令部機構及び戦時作戦統制権など極めて幅広く見直し作業が進められている。         

韓国軍は主として北朝鮮の脅威に直接対備して韓国防衛の責任、役割を一層増大させる一方で、在韓米軍は対北朝鮮のみでなく、機動性、最先端兵器、海空軍打撃力をもって太平洋地域やグローバルな緊急事態への対応を重視する方向で練られている。ラムズフェルド米国防長官は「韓国は、北朝鮮の30倍以上の経済力を有しており、韓国軍、特に陸軍の戦闘能力の向上は著しく、北の侵攻に対して相当の抑止・対処能力を既に有している。軍事技術革命(RMA)による戦力のハイテク化と韓国軍の軍事力の向上によって米国が同盟国防衛の責任を放棄することなく朝鮮半島での兵力削減が可能になった」としている。

7月の米韓安保協議では、第2師団の後方移駐に伴って在韓米軍担任の任務8種類を韓国軍に段階的に移譲することで合意している。詳細は明らかでないが、@板門店の共同警備区域(JSA)を含む非武装地帯(DMZ)の警備、ADMZ沿いの北朝鮮長距離砲・ミサイル陣地に対する制圧、BAH-64アパッチヘリによる北朝鮮特殊部隊の海上からの侵入阻止、―などが含まれている。これに対し韓国側は、前提として先ず韓国軍の戦力、態勢整備、作戦技術の向上が不可欠であり、そのための時間が必要であると強調している。特に、韓国軍の不充分な情報収集、指揮通信機能を強化するには多大な投資と時間を必要としよう。

第2師団が後方に移駐しても、軽機動旅団化により巡回訓練と急速展開をもってプレゼンスを保持出来るとし、陸上火力の削減に対しては空・海軍の航空火力をもって補完すると言及している。従来の対峙型重火力の陸上戦力から即応性、打撃力、精密攻撃力に富む空・海軍の航空戦力へと重点を移すものであり、米国は在韓米軍を世界の新たな安保環境と脅威にも対応できる機動戦力に変容しようとしている。

(2)在韓米軍の再編・再配備

在韓米軍の基地は、人口密集の都市近郊にも多く所在するため、米韓は基地環境問題や財産権侵害問題などについて長年に亘って協議している。在韓米軍の安定的な長期駐留と基地運営を確保するために、2002.3には米軍基地・施設の再編計画を示す連合土地管理計画(LPP: Land Partnership Plan)について合意している。2011年までに段階的に米側が基地・施設を返還し、韓国側が代替地を提供して統廃合を進め、在韓米軍は、使用面積の55.3%を返還、主要基地・施設41ヵ所を23ヵ所に整理統合するとされている。しかし、膨大な予算と10年の期間を要するとされ、具体的な移駐の目途は立っていなかった。

本年2月、ラムズフェルド米国防長官は議会公聴会で、在韓米軍の配備位置は冷戦の遺物だと述べ、反米感情や政治的な論議の的になる首都ソウルの「龍山基地」及び有事の際の人質、自動的戦闘加入となるDMZ近傍の第2師団の後方移転を含む在韓米軍の再編・再配備の方針を明らかにした。韓国の反米感情と盧武鉉新政権の反米姿勢を牽制するものとの見方もあったが、むしろ世界規模での米軍の軍事戦略の転換、海外配備兵力の見直し、戦力の変容・近代化(トランスフォーメーション)の一環としての意味合いが強い。これに対して韓国は米国の韓国関与の低下、防衛公約の後退と不信感を顕わにするとともに、第2師団の削減・移駐は北朝鮮への誤ったメッセージとなり危険、北朝鮮核問題で揺れる今はその時期ではなく凍結すべき、また、韓国軍の防衛態勢も未だ未だ整っていない、―などと強く反発し再考を求めた。米側にしても南北の軍事バランスを崩すような第2師団の削減・移駐を今、急激に推進する考えはなく、むしろ緊迫の度を深める朝鮮半島情勢を踏まえて、従来からの在韓米軍配備見直し構想を、世界規模での米軍の再編、戦力近代化計画に最優先で取り込み、実現しようとしている。第2師団の削減・移駐による戦力ダウンに対しては、空・海軍戦力の強化とRMAハイテク兵器の導入により、米軍自体の脅威対応力を高めるとしており、また韓国軍に対しても任務の肩代わりと戦力強化を求めている。

在韓米軍の再編・再配備に関する米側の強い取り組み姿勢を反映して、米韓は5月の米韓首脳会談において、ソウル中心部・龍山基地の移転については速やかに着手し、ソウル以北・米軍基地の再配置についても朝鮮半島情勢を慎重に考慮して推進する旨を合意するに至った。ソウル「龍山基地」の移転について韓国側は、戦時の米韓連合軍の作戦指揮には大統領府と米大使館との緊密な連携が不可欠として、米韓連合司令部、在韓米軍司令部、国連軍司令部のソウル残留を要求している。従って、米陸軍第8軍司令部及び関連部隊・機関が移転の対象となるが、移転候補地として米第7空軍司令部が所在する烏山基地への隣接地(330万u)の取得を希望している。また米側は、韓国の反米感情も勘案して一部でも今年中に移転を開始し象徴的な意味合いを持たせたいと提案している。国防部もこれに同意しており本年中に具体的な移転計画策定と一部移転が実現する可能性が高い。

第2師団の南方移駐の狙いは、北朝鮮の火砲・ミサイル攻撃に曝されている米軍将兵を人質状態から離脱させるにある。また、最前線配備の正面対備から転用が利かない戦闘部隊の後方移駐により作戦運用の柔軟性を確保して多様な作戦要求に応じられるようになる。また米陸軍は、変容・近代化(Army Transformation)計画として、陸軍部隊のデジタル化、軽火力・軽機動型化を進めており、従来の前方展開対峙型の重歩兵師団から地域紛争・戦争に緊急投入できる軽機動旅団へと進んでいる。第2師団の南方移駐は、その一環として軽機動旅団への改編、スリム化(一部削減)を伴って段階的に行われると思われる。移転先として米国はヘリ旅団が駐屯する平澤のキャンプ・ハンフリー隣接地(1320万u)取得を希望しており、米陸軍第8軍司令部も合わせて移転することになろう。

在韓米軍基地の移駐は、第1段階でソウル以北・米軍の小規模基地を東豆川、議政府の2か所に統廃合し、第2段階でソウル以南に移転する2段階方式により推進するとしている。また、第2段階の完了以降も、米軍はソウル以北において戦闘部隊の巡回訓練を実施することで米軍駐留効果を維持するとしている。米側は、早急に第1段階を開始するとともに2006年までに第2段階を完了するよう強く要望している。用地取得などの問題で韓国側の新基地整備が遅れる場合はテントを張ってでも移駐すると強い決意を示している。

(3)指揮権・作戦統制権問題

米韓指揮関係問題は、「韓国への敵対行為が継続する間、陸海空全軍の指揮権を国連軍司令官に委譲する」とした朝鮮戦争勃発直後の1950.7大田協定に始まる。1954.11米韓相互防衛条約に伴う合意書の中で国連軍司令官に委任された指揮権(Command Authority)は作戦行動のみを規制する作戦統制権(Operational Control Authority)に修正され、かつ、「作戦統制権は国連軍が韓国防衛に責任を負っている間、行使される」旨確認された。1978.10米韓連合司令部の創設に伴って作戦統制権は、米韓連合司令官に移行され、1994年の米韓連合軍の改編に伴って平時の作戦統制権は韓国に返還された。従って戦時の作戦統制権は今も、米韓連合軍司令官たる米陸軍大将に掌握されているが、作戦統制権は米韓相互防衛条約に基づき、米韓の最高統帥権者(NCA)の下で、米韓連合司令部を通じて行使される米韓共有かつ同等の権利である。しかし、一般国民には作戦統制と作戦指揮との混同や国軍に対する全ての指揮権が米国に握られているかのような誤解がある。それが反米感情の根拠の一つとなっており、北朝鮮は「国軍指揮権の欠如は、国家統治権の放棄であり主権国家としての資格失格」と非難宣伝している。対等な米韓関係を標榜する盧武鉉大統領は、戦時に大統領が韓国軍を作戦指揮出来ない点には、国の体面が保てないと反発していると伝えられるが、韓国国民の心情としても、国力・戦力が充実した現在の韓国に指揮権回復を望む声は強い。米韓当局者間では戦時の作戦統制権の帰趨については、予測される脅威と戦争形態、米韓連合軍の兵力比と作戦能力などを踏まえて、軍事的合理性の高い作戦・作戦運用体系を追求するとしている。在韓米軍の再編・再配備が進み、第2師団の後方移転が実現すれば「戦時作戦統制権」を韓国側へ返還する可能性が高い。

3.在韓米軍と韓国軍の戦力強化

米韓連合軍は、北朝鮮の軍事的挑発に備えて各種の作戦構想を策定し態勢を整えているが、情勢、彼我の軍事力、戦争挑発態様などの変化に応じて常に見直し検討を行っている。各種の米韓合同演習は、この作戦構想と態勢が予期される事態に有効であるか否かを検証するために積極的に実施されている。本年の3月には、陸海空、海兵隊の4軍による総合実動演習「フォール・イーグル」と戦時増援演習「RSOI: Reception, Staging, Onward-Movement & Integration」とが同時に行われ、また8月には、朝鮮半島有事に備えたコンピュータ指揮所演習「ウルチ・フォーカスレンズ」が行われ、政府や自治体も参加している。この実動及びシミュレーション演習で明らかになった不備欠落の問題点や教訓が作戦構想の修正や態勢強化、戦力近代化に反映されることになる。本年は、朝鮮半島情勢の変化と米軍戦略の転換、戦力変容・近代化(トランスフォーメーション)を踏まえて、作戦計画「5027」とりわけ展開兵力の大幅な見直しが行なわれ、かつ、米韓双方に相当規模の戦力増強、態勢強化が計画されると伝えられている。

(1)在韓米軍

本年5月、在韓米軍司令部は、在韓米軍の戦力増強のため、2006年までに110億ドルを追加投入して、情報収集能力の向上、防空・ミサイル防衛能力の強化、精密誘導弾の増強などを図ると表明した。6月、ウォルフォウィッツ米国防副長官は、「北朝鮮の非対称脅威に対抗し、抑止力を強化するためにはRMAハイテク兵器を活用するとともに、時代遅れの概念から脱却して不要な負担を軽減すべき」と発言している。RMAハイテク兵器導入により脅威対処能力を高めながら第2師団の1個旅団を削減する構想と推測される。

詳細は明らかではないが、主なものとして、@情報センサーとターゲッティング能力に加えて至短時間に精密攻撃を可能にするネットワークの構築と精密誘導武器の取得により、北朝鮮が隠蔽した火砲を1発でも撃てば位置は曝露され直ちに制圧されよう。レーザー誘導爆弾搭載可能なAH-64アパッチヘリも増強。Aスカッドミサイル攻撃に対しては、PAC-2ミサイル(48個ランチャー、600発保有)からPAC-3ミサイル(数100発規模)への導入更新を行い、韓国軍が新規装備するPAC-3ミサイルも組み込んでKAMD(韓国防空・ミサイル防衛ネットワーク)を構築。B最新鋭の装輪式軽装甲車「ストライカー」など数100輌の戦闘車装備の機動旅団への改編。8月に米本土の部隊が韓国に展開し10日間の慣地訓練を実施。C-130輸送機に搭載可能であり、簡易着陸場の整備により急速展開可能。―などが含まれよう。また、北朝鮮の地下施設を攻撃するための戦術核型「バンカーバスター」爆弾も検討との情報もある.

在韓米軍の装備品購入費は、毎年約30億ドル程度なので2006年までの3年間は2倍強の増額予算で戦力強化が進められ、第2師団の南方移駐と時期を同じくして態勢が完整することになる。最新のRMAハイテク兵器による在韓米軍の戦力強化は、朝鮮半島の新たな緊張要因に成るとの見方もあるが、米国の韓国防衛に対するコミットメントの証となり北朝鮮の武力挑発に対する抑制効果の方がより高いと言える。

(2)韓国軍

盧武鉉大統領が登場するや、「韓国の国防をいつまでも在韓米軍に依存するのは正しくない。何年か何十年後に予測される在韓米軍の撤退に備えて国防力の再構築が必要」と軍首脳に対して自主国防体制強化の検討を命じている。国防部は早速、大統領の意向を追い風に、2004年度からの5カ年防衛計画に反映させ、念願の戦力近代化を一気に推進しようとしている。情報、作戦能力強化など200を超えるプロジェクトには、RMA(軍事技術革命)導入によるC4ISR(指揮統制通信と情報センサー機能)、F-15K戦闘機、精密誘導爆弾、AH-64攻撃ヘリ、K1A1戦車、地対空PAC―Vミサイル、地対地ミサイルの射程延伸(300km)などに加えてAWACS(空中警戒管制機)、空中給油機、イージス巡洋艦、AIP潜水艦などの戦力近代化項目が目白押しに挙げられている。特に海空戦力の増強が目覚ましく、北朝鮮の脅威よりも朝鮮半島周辺の不特定脅威に対する国防力を意識しており、韓国国防戦略の新しい方向性として注目される。

このため国防予算は、少なくとも今後10年間は従来のGDP比2.7%規模から3.4%規模に増大させる必要があるとしているが、陰りが見え出した韓国経済状況と財政難の中で、軍事力強化のみが優先的に認められるか否かが大いに注目される。2004年度予算は、前年度比28%増の総額22兆3,000億ウォン(GDP比3,2%)が計上されており、正面装備費は、前年度比42.1%増の8兆1,000億ウォンを占めている。大幅な予算増は、米国の要請を受けたもので在韓米軍の戦力強化計画(総額110億ドル)と脈絡一貫しており、北朝鮮に対する米韓の強固な意思表示となっている。

4.米韓同盟関係の変質とわが国の対応

在韓米軍の再編・移駐と米韓同盟関係の変質がわが国の安全保障に及ぼす影響は、極めて大である。北朝鮮の核問題を巡って朝鮮半島情勢が大きく揺れ動くこの時期に朝鮮半島の戦略構図を変化させ、地域不安定化をもたらすと危惧されたが、米韓安保協議を重ねるに従って憂慮された軋みも解消されつつある。米韓は、現下の北朝鮮脅威には現実的に対応しつつ逐次態勢の強化を図りながら、在韓米軍の柔軟運用を可能にする改編・移駐と韓国の自主国防体制による新たな米韓同盟関係の構築とに向かって着実に歩み出したように見える。米韓の整合された防衛努力が結実すれば、北朝鮮の核・ミサイルを含む非対称脅威に対して有効に対処・封殺できる圧倒的に優勢な軍事態勢が完整しよう。

米国は、北朝鮮の瀬戸際政策に対して平和的解決を追求する一方で、軍事力オプションも排除しないと言明しているが、戦争事態になれば未曾有の人的被害が予測され、現段階では先制攻撃を行い難い状態にある。従って当面は、武力行使を敢えて否定しつつ、核問題を国際化しながら徐々に孤立、制裁へと締め付けを図るとともに、情勢緊迫に応じて情報収集、偵察活動、警戒監視態勢を強化しつつ、逐次、米韓連合軍の軍事態勢を強化して北朝鮮の挑発行為を抑圧して行くものと思われる。

近い将来、北朝鮮の核大量保持や核弾頭化が警戒されるが北朝鮮の非対称脅威に対しては、RMAハイテク兵器導入やC4ISRネットワークの拡充によるトランスフォーメーションにより即応性、機動性、精密攻撃力を高めて封殺できる態勢を構築するとしている。米韓の戦力強化策が計画通り進めば、2007年頃にはミサイル・砲撃に対する防空態勢と敵陣地を至短時間に制圧出来る攻撃能力が整うことになる。甚大な人的被害の軽減が可能となり、また、先制攻撃戦略が成り立ち得る状態になる。

在韓米軍の再編・移駐と基地削減は、相対的に在日米軍の比重と役割が増大することになろう。陸上戦力削減を補完するため海空戦力を充実するとされるが、韓国よりも、むしろ嘉手納、三沢などの米空軍基地への戦闘機増派やグアム島への爆撃機展開を図る可能性が強い。また、周辺海域への空母戦闘群の増派が予期されるが、米海軍・佐世保基地配備の強襲揚陸部隊にトマホーク巡航ミサイル搭載のイージス艦、攻撃型原子力潜水艦など戦闘艦艇4隻を加えて「遠征攻撃群(ESG)」に改編する動きがある。新編成の「遠征攻撃群(ESG)」は、従来の上陸作戦能力にミサイル攻撃能力と艦隊防護能力を具備することで、緊急事態に対する即応性と機動性を高め、かつ、先制攻撃戦略の実行部隊とも位置づけられる。更には、東アジアにおける後方機能を強化するため、在日米軍基地の整備補給施設の拡充や在日、在韓の司令部を統合した北東アジア司令部を日本に置く構想も伝えられる。

在韓米軍の再編・移駐と米韓の軍事力強化は、わが国の安全保障環境を大きく変えるものである。米韓の問題として看過することなく、わが国も当事者意識を持って対応策について検討する必要がある。在韓米軍の再編・移駐問題は、世界規模の米軍事戦略の転換及び米軍トランスフォーメーションの一環であるだけに、地域全般の安全保障を見据え、同盟諸国の協調の下で実施されるべきである。朝鮮半島情勢の特異性と北東アジア不安定化の重大性、そして戦争被害予測の甚大性に鑑み日米韓の緊密な調整、協調を図りながら慎重に進めるべきであろう。

わが国としては、在韓米軍の再編・移駐と米韓の軍事力強化に比して北朝鮮脅威への対応力が相対的に低下し、バランスを欠かぬように配慮する必要がある。具体的には弾道ミサイル防衛システムの構築により核・ミサイル脅威への対処能力を高めるとともにRMA導入によるC4ISRネットワークと装備品の近代化を図り、情報、作戦テンポを共有できるインターオペラビリティの確保が必要になろう。実現化には防衛予算の制約があるが国家危機に備えるには判断の先見性と態勢整備のリードタイムを要し、それに何よりも平時とは違った特別予算措置が必要である。朝鮮半島事態において、わが国が防衛態勢的に、行動的に、同盟国側の弱点・障害になることは避けなければならない。

米陸軍第2師団の後方移駐は、前述した日米韓の態勢を充分に整えてから実行すべきである。時期尚早な後方移駐は、北朝鮮の誤判断による朝鮮半島の不安定化を招きかねない。かつて、米国の朝鮮半島への関心の低下と撤退が朝鮮戦争を誘発した苦い教訓があり、その非を.繰り返してはならない。わが国としては、金正日体制の崩壊や核問題の解決、或いはDMZ兵力削減・引離しなどの軍事信頼関係の構築がない限り、日米韓の新しい対応態勢が整うまでは米陸軍第2師団の前方配備による現態勢を厳然と保持する必要がある旨を明確に表明すべきであろう。           

北東アジアの平和と安全は、日米、米韓の2国間安保体制と米軍プレゼンスによって維持されている。情勢変化に応ずる新たな軍事態勢の整備は日米韓の緊密な理解と協調をもって推進されるべきであり、わが国の防衛政策にも適時適切に反映する必要がある。

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