★阿修羅♪ 現在地 HOME > Ψ空耳の丘Ψ38 > 918.html
 ★阿修羅♪
次へ 前へ
柾木恭介の「びっくり通信」第110号 カールよ なぜ君は最後まで書かなかったのか 1996.04.15発行
http://www.asyura2.com/0411/bd38/msg/918.html
投稿者 乃依 日時 2005 年 2 月 19 日 06:30:40: YTmYN2QYOSlOI
 

http://www.marino.ne.jp/~rendaico/marxismco/marxism_ronsoshi_rosa.htm


柾木恭介の「びっくり通信」
     第110号 カールよ なぜ君は最後まで書かなかったのか 1996.04.15発行  

カールよ なぜ君は最後まで
           書かなかったのか

 一昨年のことになるが、新聞『思想運動』501号(94/6/15)の『変身す
る資本』で、現代の資本主義の性格はその価値増殖の源泉を物的生産から非物的生産
へ重点を移しつつ新しい段階に到達しているのであり、その解明には三巻の『資本論』
と『剰余価値学説史』に続く『資本論』の第五巻が書かれる必要がある、という趣旨
の小論を書いた。そのような考えは、労働者階級はますます窮乏化し、階級闘争は激
化し、破壊的な恐慌は社会主義への序曲になるというような「資本主義」論への疑問
と否定であり、まさしくベルンシュタイン的な修正主義ではないか、というような批
判が当然あるものと予想していた。だが、見当外れの意見が掲載されただけで拍子抜
けした。
 ところが最近、バリー・メイトランドの『マルクスの末裔』(早川書房)を読んで
愕然とした。『資本論』第三巻は第七編第五十二章「諸階級」が邦訳ではわずか一頁
半で中断したまま終わっている。だが、このミステリーでは、マルクスの「遺稿」の
なかには「諸階級」に続く原稿、私流にいうと『資本論』第五巻の原稿が存在し、そ
の原稿をめぐって殺人事件が起きるのである。場所はロンドン旧市街で再開発のため
に、不動産屋の「地上げ」が進んでいる一画、エルサレム横丁である。そこにあくま
で地上げに抵抗している三人の老姉妹が住んでいた。
 ながらくマルクス家を切り盛りしてきた家政婦ヘレーナ・デームートはマルクスの
死後エンゲルス家に移り、1890年11月に死去した。翌日エンゲルスはF・A・
ゾルゲへ手紙を書いた。「きょうは悲しい知らせをお伝えしなければならない・・・
僕たちは1848年前からの古い親衛隊の生き残りのふたりだった。今また僕はこう
してひとりになった。かっては長年にわたってマルクスが、そしてこの7年間は僕が
安心して仕事にはげむことができたのは、おもに彼女のおかげだった」と胸をうつ賛
辞を述べた。ヘレーナ・デームートはロンドン、ハイゲートのマルクス夫妻と同じ墓
に葬られた。
 ヘレーナには息子フレデリックがいた。その父親はエンゲルスであるとまわりの者
は信じていた。ところがエンゲルスは、死の数日前に本当の父親はマルクスであると
弁護士サム・ムアに証言した。フレデリックにはハリという息子が一人いたのは事実
である。だがこの『マルクスの末裔』では、もうひとりメアリという娘がいて、彼女
が結婚して生んだのがメレディス、ペグ、エリナであり、この三人姉妹がエルサレム
横丁に住んることになっている。つまりマルクスの曾孫(ひまご)たちである。この
末娘エレナがマルクスの「遺稿」の一部を相続し、そのなかに問題の「原稿」がある
らしい。
 そのような「原稿」があることは『マルクス遺稿物語』(佐藤金三郎 岩波新書)
にもその他どの資料にも書かれていないが、ここでマルクスが自分の仕事の「最終目
標」と呼んでいたものは『資本論』三巻に続く第四巻としての『剰余価値学説史』を
指しているのではなく、遥か未来の「資本主義」を視野に入れた研究であり、その
「原稿」が既に完成していることになっている。『ゴータ綱領批判』の描く「社会主
義」「共産主義」は、マルクスの想像し得た限りの「機械制大工業」が発展し尽くし
て「葬送の鐘」とともに現われるはずであったが、出現したのは、コンピュータを内
蔵し、価値増殖を非物的領域にまで拡大している「情報産業」であり、それは「機械
制大工業」をコントロールし、それなしでは生産が不可能になった。エレナが守ろう
としたのは、現代から未来にかけて現われてくるにちがいない極限にまで発展した
「資本主義」についての「原稿」である。この「資本主義」の矛盾こそが現代世界の
基本矛盾であり「冷戦」を終結させ「20世紀社会主義」の内部を貫徹し、解体させ
たのである。
 「遺稿」になんらかの係わりを持った多くの人たちにふりかかった悲運については
『マルクス遺稿物語』に詳しい。マルクスの三人姉妹のうち、最も父を尊敬し、理解
者であった末娘エレナは、犬を安楽死させる薬品で自殺、次女ローラはその夫であり
社会主義者であったポール・ラファルグとともに自殺し、カウッキーはエンゲルスに
疎まれ、レーニンには「背教者」の烙印を押され、ナチスに追われ極貧のうちに娘ひ
とりに看とられ死んだ。ベルンシュタインは悪名高い「修正主義者」として弾劾され、
マルクス=エンゲルス研究所の初代所長リャザーノフは大粛清に獄死。エリナ、ロー
ラからカウッキー、メーリングを経て「遺稿」を受け取ったドイツ社会民主党が、
1933年6月にナチスによって非合法化されると「遺稿」はアムステルダムの社会
史国際研究所に移された。36年春、ソビエト政府は「遺稿」を買い取る交渉団を送っ
た。その一員であったブハーリンは『資本論』の最後の一章の原稿を読みながらつぶ
やいた。「カールよなぜ君は最後まで書かなかったのか」と。交渉は成立しなかった。
帰国した「最大の理論家」ブハーリンは翌37年に逮捕38年3月粛清裁判で死刑宣
告、銃殺された。

 次へ  前へ

▲このページのTOPへ      HOME > Ψ空耳の丘Ψ38掲示板



フォローアップ:


 

 

 

  拍手はせず、拍手一覧を見る


★登録無しでコメント可能。今すぐ反映 通常 |動画・ツイッター等 |htmltag可(熟練者向)
タグCheck |タグに'だけを使っている場合のcheck |checkしない)(各説明

←ペンネーム新規登録ならチェック)
↓ペンネーム(2023/11/26から必須)

↓パスワード(ペンネームに必須)

(ペンネームとパスワードは初回使用で記録、次回以降にチェック。パスワードはメモすべし。)
↓画像認証
( 上画像文字を入力)
ルール確認&失敗対策
画像の URL (任意):
投稿コメント全ログ  コメント即時配信  スレ建て依頼  削除コメント確認方法
★阿修羅♪ http://www.asyura2.com/  since 1995
 題名には必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
掲示板,MLを含むこのサイトすべての
一切の引用、転載、リンクを許可いたします。確認メールは不要です。
引用元リンクを表示してください。