★阿修羅♪ 現在地 HOME > 国家破産38 > 972.html
 ★阿修羅♪
次へ 前へ
IT資本論 第60回コンテンツ流通論(1) 文化資本とコンテンツ (近勝彦)
http://www.asyura2.com/0411/hasan38/msg/972.html
投稿者 愚民党 日時 2005 年 2 月 16 日 02:05:59: ogcGl0q1DMbpk
 

【コラム】
IT資本論

第60回コンテンツ流通論(1) 文化資本とコンテンツ

http://pcweb.mycom.co.jp/column/itshihonron/060/

総務省は、コンテンツ市場の伸び悩みを最近発表した(総務省「メディア・ソフトの制作及び流通の実態」調査、平成17年1月)。それによると、総コンテンツ市場の売り上げは、増加どころか減少しているのである。ただし、デジタル・コンテンツの販売金額及び流通量は、増加の一途を辿っている。

そこで、この市場の拡大のためには、これまでのコンテンツ市場の中で再活性化できるものを探し支援するか、まったく新しいコンテンツを創造しなければならないであろう。もちろん、コンテンツ財は、生活必需財というよりも奢侈財または娯楽財が多いので、所得が伸び悩めばまず初めに削られることは考えられる。逆にいえば、景気が回復し所得が増加すれば、コンテンツ消費が拡大することが考えられる。

そこで、これから十数回にわたって、コンテンツ産業及びコンテンツ素材産業を取り上げてその再活性化を取り上げていきたい。そのときに、なるべく今はまだ大きな領域とはなっていないが、今後発展する可能性があるものを拾い上げて論じていくことにしよう。一言で言うならば、「オルタナティブ・コンテンツ」(もうひとつのコンテンツ)をさまざまな領域・事象から拾い上げ、その再評価と再活性化の戦略を提示していきたいと考えるのである。

しかし、さまざまな領域を取り上げることによる散漫さと矛盾を避けるために、統一的な視点と見方を与える基本フレームをまずは示したい。そこで、D・スロスビーの「文化資本」のフレームを基礎にして論じていくことにする(『文化経済学入門』中谷武雄・後藤和子監訳、日本経済新聞社参照)。

彼の理論の大きな特徴は、文化現象や領域を、文化論として捉えるというよりも、文化論を取り込みながらも、経済学の視点(言語)で再認識・再解釈しようという点にある。これまではともすると、文化と経済は背反する概念として捉えられ、後者が前者を破壊するという風に見る向きが多かったであろう。確かに、文化が経済活動によって衰退・淘汰されてきたこともあったろう。しかし、文化活動をおこなうにも当然にコストはかかり、同じコストがかかるのならば、より優れた価値を生み出すほうが望ましいであろう。しかも、福祉国家や文化国家となれば、政府や自治体も文化政策に力を入れざるを得ない。企業といえども、フィランソロピー(社会貢献、慈善事業)やメセナ(文化芸術支援)は取り組まなければならない項目であろう。さらには、工業社会から情報・知識社会へと遷移するにつれて、文化自体を生み出す産業もそのウエイトを増す。現に日本でも、それと関連する情報通信産業は、最大の産業セクターのひとつに成長しているのである。

そこで彼は、文化に資本を結合させた概念を導出したのである。さらに、この経済社会の中には、性格を異にする4つの資本があるという。その4つとは、第一に生産のための有形物資本である「物的資本」、第二は天然資源を保有し、環境を規定している「自然資本」、第三はその国や地域に住んでいる「人的資本」、最後が「文化資本」であるという。

最後の文化資本とは、「文化資産、文化現象、文化活動等の一切を含みながら、社会経済的に価値のある財」であると考えられている。その中の有形のものとしては、絵画、版画、彫像、各種装飾品などの美術工芸品や、建造物、庭園、各種歴史的遺産などが入る。無形のものとしては、音楽や舞踊や劇などがある。または、慣習や知識や言語や一定の行動パターンなども広い意味では入ると考えられる(正確な文化や文化資本の定義は前掲書参照)。これに類する資本としては、知的資本が考えられるが、こちらは生産に関するものを一般に想定しているが、文化資本は、それに限定されないものといえよう。

コンテンツとの関係でいえば、すでにコンテンツ化されているものもあるが、建造物などの有形物は、それから設計図や写真や絵画で映像化されることによって、コンテンツ化すると考えられる。さらに、それらをデジタル変換したものが、デジタル・コンテンツとなる。このように考えてみると、われわれの生活は、あらゆる文化資本によって囲まれていることが分かる。この文化資本の中にコンテンツ自体とコンテンツ素材が含まれているのである。

では、文化資本とIT資本との関係性を考えることにしよう。大きく言うと、IT資本との関係ではふたつの意義が見出せる。その第一は、文化資本をデジタル・コンテンツ化することである。第二は、IT資本によってまったく新しい流通の支援が可能になる、生産に関したコストが削減される、などが考えられる。たとえば、文化財の電子商取引を可能にし、市場を形成し、流通コストを下げるなどである。

図表 社会資本とIT資本の関係図

文化資本の効果を最大化させるためにデジタル・コンテンツ化は大きな力を発揮すると考えられる。文化資本は、本来的に多面的な効果をもつことが多いであろう。たとえば、地域の中に私立の美術館があったとしよう。その中に収蔵され展示されている美術品は個人所有であるから、私的財である。しかし、それが貴重なものであれば、地域にとって公共財的な働きをもっていると見なされるかもしれない。また、地域の文化歴史的価値のあるものと見なされ保全される必要があるかもしれない。または、その地域の子供たちが観覧することによって、教育的価値が生まれるかもしれない。このような多面的価値をデジタル化によっていかに支援できるかを考えることは重要である。または、その美術品を見るために多くの人々が遠くからやってくれば、観光としての働きももつ。それによって、地域の経済が成り立っている所も少なからずある(現に、お城やお寺や美術館が地域の主要な観光資源となっているところも多々ある)。

他方、次回で述べるように、文化資本の美名のもとにたくさんの博物館が作られた。その意図は多様であるが、地元自治体が大きな期待をかけたことは間違いがない。しかし、地元自治体の財政が逼迫化するなかで、大きな赤字を計上し続けることにも限界があろう。

そこで、施設の評価が厳格化するとともに、中長期的に不必要とみなされる施設は、整理・統廃合されることも必至の状況である。

しかし、文化資本が「コンテンツの宝庫」であるという意味では、非常に価値があると思われる。そこで、これらの文化資本をデジタル化ないしはデジタル化によって活性化するのであれば、文化国家、知的財産立国としての日本にとっては、きわめて意義深いといえよう。そこで、これからさまざまないわば「眠れる獅子」を目覚めさせ、埋もれている資産を再価値化したいと考えるのである。

次回は、まさに「眠れる獅子」がいる動物園を取り上げて、デジタル・コンテンツ化の意義を具体的に考察してみよう。

(大阪市立大学 近勝彦)

-------------
関連リンク
総務省 「メディア・ソフトの制作及び流通の実態」調査結果
http://www.soumu.go.jp/s-news/2005/050128_1.html



【コラム】
IT資本論
近勝彦
新刊案内

IT資本論〜なぜIT投資の効果はみえないのか
本誌連載「IT資本論」を元に再編集し、さらに用語解説や実証データなどを加筆、追加したものです。 コンピュータをはじめとするIT関係投資が、なぜ経済社会に大きな効果をもたらさないか、あるいはもたらしているにしてもそう見えないのは何故か? を明確に論じて行きます。

著者:近勝彦
予価:1,680円
A5判 240ページ
ISBN4-8399-1646-2
発売日:2004年12月17日

http://pcweb.mycom.co.jp/column/itshihonron/
--------------------------------------------------------------------------------
掲載回 タイトル
【第60回】 コンテンツ流通論(1) 文化資本とコンテンツ
【第59回】 コンテンツ消費論(13)コンテンツ交換経済モデル
【第58回】 コンテンツ消費論(12) コンテンツ消費戦略
【第57回】 コンテンツ消費論(11) 情報支出の中のコンテンツの意義
【第56回】 コンテンツ消費論(10) 口コミの実証分析
【第55回】 コンテンツ消費論(9) メタ・コンテンツとしての口コミ
【第54回】 コンテンツ消費論(8) e-デモクラシーという情報公共圏
【第53回】 コンテンツ消費論(7) 情報公共圏の中のコンテンツ
【第52回】 コンテンツ消費論(6) スモール・コンテンツ・マーケット
【第51回】 コンテンツ消費論(5) サークル・コンテンツの本質
【第50回】 コンテンツ消費論(4) ジフ構造への挑戦
【第49回】 コンテンツ消費論(3) ディープ・コンテンツ
【第48回】 コンテンツ消費論(2) コンテンツ消費の多様性
【第47回】 コンテンツ消費論(1) ユニバーサル・コンテンツ
【第46回】 コンテンツ経済序説(4) コンテンツ経済の発展原理
【第45回】 コンテンツ経済序説(3) コンテンツ・マーケットの成長
【第44回】 コンテンツ経済序説(2) コンテンツの定義を巡って
【第43回】 コンテンツ経済序説(1) 蓮の花が美しく咲く理由は?
【第42回】 8つのパラドクス - IT資本のパラドクス(4) 新しい人的資本の誕生
【第41回】 8つのパラドクス - IT資本のパラドクス(3) 組織制度資本
【第40回】 8つのパラドクス - IT資本のパラドクス(2) 知的資本の再検討
【第39回】 8つのパラドクス - IT資本のパラドクス(1) IT資本の変容
【第38回】 8つのパラドクス - 情報戦略のパラドクス(4) IT経済は終焉するか?
【第37回】 8つのパラドクス - 情報戦略のパラドクス(3) 組織情報戦略
【第36回】 8つのパラドクス - 情報戦略のパラドクス(2) 競争戦略の実現
【第35回】 8つのパラドクス - 情報戦略のパラドクス(1) 情報戦略圏の統括
【第34回】 8つのパラドクス - 不確実性のパラドクス(8) メタ・リエンジニアリング戦略
【第33回】 8つのパラドクス - 不確実性のパラドクス(7) アドバース・シンメトリ戦略
【第32回】 8つのパラドクス - 不確実性のパラドクス(6) リスク・アバージョン戦略
【第31回】 8つのパラドクス - 不確実性のパラドクス(5) アドバース・セレクション戦略
【第30回】 8つのパラドクス - 不確実性のパラドクス(4) リピュテーション戦略
【第29回】 8つのパラドクス - 不確実性のパラドクス(3) クオリティ戦略
【第28回】 8つのパラドクス - 不確実性のパラドクス(2) スクリーニング戦略
【第27回】 8つのパラドクス - 不確実性のパラドクス(1) シグナリング戦略
【第26回】 8つのパラドクス - 学習パラドクス(4) 持続学習
【第25回】 8つのパラドクス - 学習パラドクス(3) 仮想学習
【第24回】 8つのパラドクス - 学習パラドクス(2) 跳躍学習
【第23回】 8つのパラドクス - 学習パラドクス(1) 棄却学習
【第22回】 8つのパラドクス - 隠れた資産のパラドクス(8) 大切なものは目に見えない
【第21回】 8つのパラドクス - 隠れた資産のパラドクス(7) 「スピード」と「スロー」
【第20回】 8つのパラドクス - 隠れた資産のパラドクス(6) 「共感」という財
【第19回】 8つのパラドクス - 隠れた資産のパラドクス(5) オタクとオワライという財
【第18回】 8つのパラドクス - 隠れた資産のパラドクス(4) 精神資本の誕生
【第17回】 8つのパラドクス - 隠れた資産のパラドクス(3) トレビの川を作れ
【第16回】 8つのパラドクス - 隠れた資産のパラドクス(2) 知識資本を価値化せよ
【第15回】 8つのパラドクス - 隠れた資産のパラドクス(1) ピュア・シークレットを求めて
【第14回】 8つのパラドクス - イノベーション・パラドクス(6) 破壊的イノベーションは新世界を導く
【第13回】 8つのパラドクス - イノベーション・パラドクス(5) 経験力と次世代イノベーション
【第12回】 8つのパラドクス - イノベーション・パラドクス(4) イノベーションと競争形態
【第11回】 8つのパラドクス - イノベーション・パラドクス(3) イノベーションと市場様式
【第10回】 8つのパラドクス - イノベーション・パラドクス(2) IT資本と生産構造
【第9回】 8つのパラドクス - イノベーション・パラドクス(1) IT資本とイノベーション
【第8回】 8つのパラドクス - ネットワーク・パラドクス(2) ネットワーク外部不経済性
【第7回】 8つのパラドクス - ネットワーク・パラドクス(1) スタンダード・パラドクス
【第6回】 8つのパラドクス - 生産性パラドクス(2) その解消に向けて
【第5回】 8つのパラドクス - 生産性パラドクス(1) 生産性とはなにか
【第4回】 3つのジレンマ - 企業内でのIT投資のジレンマ
【第3回】 3つのジレンマ - 産業発展とIT投資のジレンマ
【第2回】 3つのジレンマ - マクロ経済成長とIT投資のジレンマ
【第1回】 連載を開始するにあたって

↓第1回〜第60回までを読む
http://pcweb.mycom.co.jp/column/itshihonron/



 次へ  前へ

▲このページのTOPへ      HOME > 国家破産38掲示板



フォローアップ:


 

 

 

  拍手はせず、拍手一覧を見る


★登録無しでコメント可能。今すぐ反映 通常 |動画・ツイッター等 |htmltag可(熟練者向)
タグCheck |タグに'だけを使っている場合のcheck |checkしない)(各説明

←ペンネーム新規登録ならチェック)
↓ペンネーム(2023/11/26から必須)

↓パスワード(ペンネームに必須)

(ペンネームとパスワードは初回使用で記録、次回以降にチェック。パスワードはメモすべし。)
↓画像認証
( 上画像文字を入力)
ルール確認&失敗対策
画像の URL (任意):
投稿コメント全ログ  コメント即時配信  スレ建て依頼  削除コメント確認方法
★阿修羅♪ http://www.asyura2.com/  since 1995
 題名には必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
掲示板,MLを含むこのサイトすべての
一切の引用、転載、リンクを許可いたします。確認メールは不要です。
引用元リンクを表示してください。