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ハリー事件と英独関係  【太田述正コラム#596(2005.1.16)】
http://www.asyura2.com/0411/idletalk12/msg/428.html
投稿者 どさんこ 日時 2005 年 1 月 17 日 19:12:56:yhLXMcSQdrkJ2
 

(回答先: 英ヘンリー王子がナチスの制服姿 写真掲載で謝罪声明【共同】 投稿者 どさんこ 日時 2005 年 1 月 13 日 16:29:23)

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◆太田述正コラム#596(2005.1.16)
<ハリー事件と英独関係>
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1 始めに

 英国のヘンリー王子(以下、愛称を用い、「ハリー」と呼ぶ)がパーティ
ーでナチスドイツ軍の格好をして、イスラエルのシャロン首相を始めとする
世界のユダヤ人関係者等から顰蹙を買った事件が日本のメディアでも報じら
れました。
 毎日新聞は、「BBCが昨年12月に公表した世論調査(16歳以上の男女4000人
対象)によると、アウシュビッツについて「聞いたことがない」と答えた人
は45%もおり、35歳以下の世代では60%にのぼった。「聞いたことがある」人
のうちの70%も、何が起きたか十分に知らないと答えている」ことを紹介し、
現在の英国の若者の歴史知識不足が事件の背景にある、としています。
 (以上、http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20050115k0000
e030014000c.html(1月15日アクセス。以下同じ)による。)
 この記事の内容は、決して間違っているわけではありません。
 しかし、これだけで記事を終えてしまっているところに、日本のマスコミ
の取材力の乏しさとジャーナリストとしてのセンスの欠如が典型的に現れて
います(注1)。

 (注1)以上は、あくまでもインターネット版を見た限りでの話であること
    をお断りしておく。

2 英国民にコケにされ続けるドイツ

 1974〜76年の米国留学時も感じたことですが、1988年の英国留学中、テレ
ビを見るとドジなナチスドイツ軍が連合軍にこてんぱんにやっつけられると
いうドラマが手を変え品を変えて幾度となく放映されていることに気付き、
ドイツ人はたまったものではないだろうな、と感じたものです。
 この英国留学時に、ドイツ人同僚(ドイツからは陸軍と海軍からそれぞれ
一名ずつでしたが、陸軍の方)がいかにも軍人らしい勇ましい議論をまくし
たてた際、大学校の英国人同僚の軍人の一人が、「ナチスドイツの時とドイ
ツ人は全く変わってないと思わないか」と私にささやきました。私は相づち
をうちつつも、いささか後味が悪い思いがしたものです。
 (以下、http://blogs.guardian.co.uk/news/archives/uk_news/2005/01/
14/meanwhile_in_germany.html、http://www.guardian.co.uk/germany/
article/0,2763,1231329,00.html、http://www.guardian.co.uk/germany/
article/0,2763,1202028,00.html、http://www.guardian.co.uk/germany/
article/0,2763,1336072,00.html、http://www.guardian.co.uk/germany/
article/0,2763,1331974,00.html、http://media.guardian.co.uk/site/
story/0,14173,1200881,00.htmlを参照しつつ、私見を交えた。)
 当時の私の想像通り、ドイツ人は英国人がナチスドイツへのあてこすりを
執拗に続けてきたことに対し、極めて不愉快な思いをしてきたようです。
 ハリー事件が起こってから、ガーディアンに、最近、ドイツの学校で働い
ていたドイツ人女性が、生徒達に「あなたはナチですか」とか「ヒットラー
は叔父さんですか」とか言われて落ち込んだという話が紹介されていまし
た。
 また、昨年の4月には、英エキスプレス(Express)紙のデズモンド
(Richard Desmond)社主がテレグラフ(Telegraph)紙の経営陣との会議の
席上、(自分がエキスプレス紙を買収した時の資金をドイツの銀行が提供し
たことを棚に上げて)ドイツの新聞グループがテレグラフ紙の買収に名乗り
を上げていることをあてこすって、ドイツ語で挨拶をし、「ドイツ人は皆ナ
チだ」と言った挙げ句、怒って退席しようとしたテレグラフ紙経営陣に対
し、エキスプレス紙の他の経営陣にナチス時代のドイツ国家を歌わせ、自ら
はナチスドイツ流の最敬礼をした、と報じられました。
 このような背景の下、昨年の10月、ドイツのフィッシャー(Joschka
Fischer)外相が、英国のメディアがいまだにドイツを「プロイセン式鵞鳥行
進」の国として描き続けていることに苦情を述べました。
 英国の学校が、かつて西欧をリードしたドイツ文化や、民主化し、西側防
衛の第一線の役割を果たし、同時に東西の緊張緩和に尽力した戦後のドイツ
について何も教えていないことに対する不満もドイツ政府から聞こえてくる
ようになりました。
 ドイツ政府の気持ちには同情を禁じ得ません。よくもまあ今まで何も言わ
ずに我慢してきたな、と言いたいくらいです。
 その10月にドイツ政府は、英国の歴史の教師達を(五つ星ホテルに泊める
等52,000ユーロも使った)ドイツ視察旅行に招待するという試みを初めて行
ったのですが、「成果」は今一つだったようです。

3 ハリー事件の本質

 そろそろ毎日新聞の記事のどこが物足らないのか、種明かしをしましょ
う。
 英国人は、アウシュビッツの名前こそ知らないかもしれませんが、ナチス
ドイツが先の大戦において四方八方に侵略を行い、その間にユダヤ人を虐殺
し、最終的に英国等の連合国に敗れたことは熟知しているのです。
 問題なのは、フツーの英国人のドイツに関する知識がそれだけだというこ
とです。
 そもそも英国の歴史教育においては、(われわれからするとちょっと信じ
がたいことですが、)欧州はほとんど登場しないのだそうです。実際、11世
紀におけるフランスのノルマン人によるイギリス征服以降、欧州の話は20世
紀になるまで全く出てこないといいます。
 その20世紀の欧州の話は、「面白くかつ単純明快な」ナチスドイツの話だ
けと相場が決まっているようです。英国の大学資格検定試験(GSCE)で歴史を
選択する生徒が選ぶテーマの60%が「ヒットラーとナチスドイツ」であるほど
です。
 ですから、ハリーはナチスドイツによるユダヤ人虐殺は十分承知しつつ、
クールだと考えて、海賊やマフィアの格好をするノリで、「悪漢」ナチスド
イツ兵のコスチュームをまとった、と推察されるのです。
 このように見てくると、ハリー事件にユダヤ人関係者が抗議したのは、理
解はできるけれど、的はずれであり、むしろドイツ関係者こそ、「いいかげ
んにしてくれ」と抗議すべきだった、と言いたくなってきます。
 しかし、どうしてそんなに英国人はナチスドイツにこだわるのでしょう
か。
 ドイツ人は、どうして英国人は、その大部分が生まれる前の第二次世界大
戦にいつまでもこだわるのか、と問を再構成するのですが、解答を探しあぐ
ね、途方に暮れています。
 日本人の私には分かります。
 第二次世界大戦によって英国は帝国を喪失したからです。
 その直接的原因をつくったのは日本であってナチスドイツではありませ
ん。
 ところが、帝国を喪失したこと、つまりは植民地を失ったこと、をあから
さまに嘆くわけにはいきません。旧植民地の反発と米国等の嘲笑を買うだけ
だからです。しかも、日本は捕虜の虐待は若干したし、また支那等で民間人
を若干は虐殺したけれども、自分達だってその程度のことは戦時中にしてい
る。となると、あからさまに鬱憤をぶつけられるのは、ホロコーストとい
う、文字通りの人類に対する罪を犯したナチスドイツだけだ、ということに
なるのです(注2)。

 (注2)英国人は、ドイツ人に対してはHun(フン族)、日本人に対しては
    (米国同様)Japsという蔑称を使うことがあるが、前者の蔑称の方
    がはるかに陰湿だ。日英同盟を引き合いに出すまでもなく、英国人
    は、アングロサクソン以外では例外的に、日本人に対し敬意と親近
    感を抱いている、と私はかねてから考えている。

4 エピローグ

 (以下は、上記典拠を離れる。)
 最後に二つのことを申し上げます。
 一つは、イラク戦争を契機として、ドイツがフランスと足並みをそろえ
て、英米非難を行うに至ったのは、戦後一貫してドイツ人をコケにし続けて
きた英国と米国に対する憤懣の爆発だ、ということです。冷戦が終わり、東
西ドイツの統一も果たし、フランスという僚友もでき、EUという城もできた
以上、これい以上辱めに耐え続ける必要はない、とドイツが考えたとしても
誰がこれを非難できるでしょうか。
 申し上げたいもう一つは、英国王室の存続の可否が問われている(http://
www.guardian.co.uk/Columnists/Column/0,5673,1391124,00.html)、という
ことです。
 チャールス皇太子は、ダイアナという、血筋は高いけれど高卒の平凡な女
性を、愛人がいながらめとり、ダイアナを離婚と「不倫」、更には悲劇的な
死に追いやり、自らは言わでもがなのきわどい評論家的発言を繰り返してた
まの尊敬と頻繁なる失笑を買い、かつ今回息子達に王族としての矜恃と判断
能力を与えることにも失敗したことが明らかになったことで、英国王室の権
威は墜ちるところまで堕ちた、と思うですが、いかがでしょうか。


     
      ***********************************************
太田述正 http://www.ohtan.net/
NOBUMASA OHTA NEWS LETTER 2005.1.16
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