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永田町WINS顛末記(最終回)
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投稿者 竹中半兵衛 日時 2005 年 1 月 01 日 22:14:21:0iYhrg5rK5QpI
 

(回答先: Re: 永田町WINS顛末記(第二回) 投稿者 竹中半兵衛 日時 2005 年 1 月 01 日 22:05:57)

<11月3日>(月)

永田町WINS顛末記(最終回)

議員たちの異常な愛情  〜あるいは、いかにして我々は怖れるのをやめ、テロ馬券を愛するに至ったか〜

SCENE 1 「永田町WINS」3F 馬券売場

 2003年11月30日、濃厚な冬の気配を感じさせる冷たい空気の中に身を置き、内閣総理大臣小泉純一郎は上機嫌であった。

 9月末に行われた自民党総裁選挙で地すべり的な勝利を収め、党内の権威をゆるぎないものにした小泉は、その余勢をかって突入した11月の衆院選挙でも、マニフェスト論争を挑み食い下がった管・小沢民主党の挑戦をかわしきり、見事自民党を単独過半数の政権党に返り咲かせ、政治家としてまさに得意の絶頂にあった。そして。。。小泉は目の前にある建物を見上げた。

 永田町WINS。APECでのブッシュとの電撃的合意からわずか一ヶ月で設立した、構造改革特区にして、日本及び世界の特権階級に圧倒的な低控除率の馬券販売を可能足らしめる、競馬エリートのユートピア。小泉の議員生活31年の総決算とも言える地上9階地下2階建ての建物が、晴れて行われる国際GT競争「ジャパンカップ」の開催に合わせたこけら落としの祝祭ムードの中にそびえ立っていた。

 建物の中は、政界官界の選良たちが詰め掛けておりものすごい賑わいであった。皆が国会審議では見せたことのない真剣な表情でオッズモニターをにらみつけ、競馬新聞にメモ書きしているのを満足そうに見つめた小泉は、自らも記入済みのマークシートを手に自動券売機に近づき馬券を買い求めた。

 1番人気シンボリクリスエスからの馬連10点買い。

通常なら半分以上がガミ馬券であるが、ここではかまわない。なにしろ圧倒的な低控除率のこの特区では「ガミ」という言葉はないに等しいのだから。馬券を見つめながら小泉は幸せであった。選挙ポスターの凛々しい風貌からは想像もつかない弛緩した表情で顔をあげた小泉の視線に、投票所から歩いてくる参院幹事長・青木幹雄の姿が入ってきた。

「よう、幹雄ちゃんじゃないか。どうだい、儲かってるかい。」

機嫌よく声をかけた小泉であったが、青木は眉を上げたまま不機嫌に返した。

「。。。あんたに、ちゃんづけされる謂れはないわいな。」

「まぁ、そういうなって、選挙もこの通り一応大勝利だし、なにそんな仏頂面してんの。」

「ふん、あんたがきちんと道路公団の総裁を飛ばしてれば、もっと大々的に勝てたんだわ。それを芝居っ気たっぷりにやるもんで、こんなにもつれて、野党の格好の攻撃材料にされよって。」

その公団総裁があんな強気に出る原因を作ったのは一体どこのどいつだ。むっとした小泉であったが、それで今の上機嫌が完全に損なわれたわけでもなかった。

「まぁ、勝つには勝ったんだから、どうでもいいじゃん。今の私には恐いもんなんか、何もないね。」

「ほーう、そうかね。その言葉に偽りはないだろうな。」

「そうとも、恐いものなんかなーーんにもないっ!」

「ふん、じゃあ、あれを見てみろ。」

意地悪な光を目に宿しながら青木が指差したのは3階馬券売場の壁一面をしめる馬券販売窓口であった。沢山の窓口が並び、人が列をなしている。

「。。。ただの馬券窓口だが。」

「そこじゃない!右から3番目の303番窓口だ。何が見える?」

「けったいなおばはんが馬券を売っているだけじゃないか。」

「田中真紀子だ。」

「な!!!!」

「なんで、あの女が、窓口の向こうで馬券を売っているのかと、こう聞きたいんじゃろ?」

言葉が出せず、ただ頷くしか出来ない小泉。

「最初はあれも、ただ馬券を買ってるだけだったんだが、自分が買っても全然当たらん。そのうちに人の買ってる馬券に難癖つけて罵倒する方が面白いことに気付いて、いつのまにか病み付きになったんだと。で、現在いろんな人間の買い目が分かる販売窓口に居座って人を罵りまくっていると、まぁこういうわけだわな。どうだ、怖いだろ。」

「怖い!確かに怖い。ううう、な、なんて、いやな女なんだ。」

「さっきも、竹中平蔵が『エセ学者馬券』と罵られて泣きながら走り去っていくのを見たんだがね、天皇賞で8枠のクリスエスが勝った時、JRAのポスターの背景がピンクだったんで、今回は白いから1枠から総流しで買ったらしいわ。まぁ、罵られても当然だわな。」

と、その時、またしても303番窓口から泣きじゃくって駆け出してくる男の姿があった。前自民党幹事長にして、現副総裁の山崎拓であった。

「あ、拓ちゃん。拓ちゃんじゃないか。一体どうしたんだ。」

「あ、純ちゃん、うううう、ひどい、ひどいんだ、ひどいことを言われたんだよう。」

「一体なんて言われたんだ。」

「ううう、僕のこと『変態スカトロ馬券士』だって。。。」

「酷い!なんて酷いことを言うんだ!一体何を買ったらそんな酷いことを言われなきゃならなくなるのだ!」

「何もしてないよう。ただ、パドックで馬っ気出してる(勃起している)牡馬とフケが来ている(発情している)牝馬と、下痢気味のボロ(糞)を出してる馬のボックス馬券を買っただけなんだよう。」

「。。。。。」

「ふん、ま、どっちもどっちと言うことだわな。あんたも友達選んだ方がいいんじゃないかね。」

泣きじゃくって駆け去っていく山崎を尻目に冷笑を浴びせる青木である。

「そ、そろそろ、昼飯時だ、私は失礼するよ。」

「そうかい、それなら1階の軽食コーナーがお勧めだわな。」

「ほう、なにがうまいのかね。」

「土井たか子と辻元清美が焼きそば焼いとるわ。かれが辛口でなかなかいけるんよ。じゃ、御身御大切に。」

得意のきめ台詞を残し立ち去る青木を小泉は恨めしそうに見つめていた。


SCENE 2 「永田町WINS」9F 特別貴賓室

特別貴賓室のモニターに第6レースのパトロールビデオが放映されていた。レースは一番人気馬の追い込みが決まり予想通りの決着かと思われたのであるが、審議の結果、この馬が最後の直線走路で斜行したことにより失格と判定され、大荒れの展開となっていた。

「くそう、どいつもこいつもわしを馬鹿にしおって。これも皆、小泉の小僧が悪いんじゃ!」

自信の馬券が紙屑と化し、朝からおけら状態が続いている元内閣総理大臣にして、大勲位である中曽根康弘は荒れていた。現自民党総裁小泉により、比例終身一位の約束を反故にされ、不本意にも議員生活との別れを強いられた中曽根であるが、いざ議員を辞めてしまうと、その喪失感は想像以上に大きく、競馬にその鬱憤を晴らす毎日が続いていたのである。

「ほほほほ、そう、怒りなさんな、わしらがこうしてここで馬券を買えるのも、その小僧の計らいじゃろうに。」

はずれ馬券を破り捨て、文字通りの紙屑に帰そうと躍起になる中曽根に声をかけたのは、これもまた元総理の宮沢喜一である。

ここは、永田町WINSの特別貴賓室。しかし、今では中曽根の専用特別室、別名「大勲位の間」と呼ばれている。議員を辞めることに強い抵抗を示す中曽根をなだめ懐柔するために、議員を辞めた後もこの一角の使用を終身保証するとの密約が取り交わされていた。

「まぁ、わしらの今日の勝負はジャパンカップじゃ。ここで、どーんと勝てばええ。」

「ふん、しかし、宮さんや、わしゃ、あの小僧にはめられてから、碌なことがなくてのう。今日はこのままおけらじゃなかろうか。」

「なにを気弱なことを。わしらにはシンザンがついておる。シンザンの単勝を買えば間違いないんじゃ。」

「なに、シンザンじゃと、宮さん、ボケたこと言うのも、大概にせい、シンザンはとっくの昔に鬼籍に入っておろうが。」

「はて、そうじゃったかの」

「そうじゃ、わしらが買わにゃならんのはセントライトじゃ。3冠馬セントライトが鬼畜米英の馬を根こそぎ屠ってくれるわ。」

「ちょっと待て、康さんや、ハイセイコーを忘れちゃ行かんぞ。距離は少々不安じゃがあの勝負根性は侮りがたいわい。」

「おお!確かに!よし、それならハイセイコーとセントライトの枠連でどーんと勝負じゃ。見とれよぉ、今日の負けを全部取り戻してくれる。」

「おお、その意気じゃ康さん、でも、今日の第6レース、わしらもう賭けましたかのう。」

今日4度目の昼食を頬張りながら宮沢が言った。

「おう、そうじゃ、宮さん、じゃぱんかっぷの前に6レースでどーんと勝負じゃ!おーい、誰か6レースの馬券を買って参れ、それからわしの昼飯も」

既に終わってしまったレースの馬券と今日5度目の昼食を注文する大勲位であった。特別貴賓室が異次元に飲み込まれようとしていた。。。

<11月6日>(木)

SCENE 3  永田町WINS 7F 特別指定席

「よっしゃ!取ったあああ!」

大勲位が馬券を破り捨てているその同時刻、自民党前幹事長にして「日本遺族会」会長である古賀誠は、岩石のような顔に満面の笑みを浮かべ快哉を叫んでいた。トップでゴールを駆け抜けた人気馬がよもやの降着となり、たなぼた式の万馬券が彼の手元に転がり込んできたのである。無意識に似合わぬガッツポーズを繰り出したりする自分がちょっとだけ可愛くもあった。

「へっへっへ。さっき怪しげな予想屋に言われて、何とはなしに買ったのが万馬券たい。これだから競馬はやめられんとよ。」

そう言って、何度も拳を突き上げる古賀であった。

「けっ!万券かよ。よくよくついちょるね、あんた。」

羨ましさを隠そうともせず、その手元を覗き込んだのは、自民党元政調会長にして「美しい日本を作る会」会長・亀井静香であった。ハンチング帽によれよれのジャンパー、丸めてポケットへ無造作に突っ込まれた競馬新聞、耳に赤鉛筆(サインペンではない!)をはさみ、吸いかけのショートホープを咥えたその姿は、浅草の場外売り場であったなら完全に風景に溶け込んでいたであろうが、スーツ姿の多いここ永田町WINSではひときわ際立つ精彩を放っていた。

「おっと、見ちゃいかん。おけらのあんたに見られると、おいのツキが落ちるたい。」
「なんじゃとぉ!喧嘩売るなら買っちゃるけん、表出んかい!」

如何に仲のよい者同士でも、片方が浮き、片方が沈む展開になると、自然諍いの芽が生じるものである。沈んで笹くれだった感情に身を置く人間にとって、浮いている人間の言うことは、全てが嫌味に聞こえるのであり(読者諸兄も注意されるがよかろう)、ましてや先程の発言は嫌味そのものであった。これで喧嘩にならないわけがない。

「いい加減にせんかい!おのれら、内輪揉めしとる暇あるんか!」

自民党武闘派シングルマッチ30分一本勝負のゴングがなるかと思われたまさにその時、自民党元幹事長にして「党女性問題連絡協議会」会長・野中広務が一喝した。

「おのれら、何のためにここに集まっとる思うとんのや。小泉の腐れ外道が選挙に勝って、この先どうするか決めるために集まっとんやろうが!俺はほんまに情けないで!」

確かにそうだった。小泉が磐石の権力を手中にした今、小泉にことごとくたてついてきた彼らは当分冷や飯食いを覚悟せねばならない状況に追い込まれていたのである。しかし、二人の反応はつれなかった。

「そうは言っても、今は政治より競馬が大事たい。」

「おおよ、そんな事言うなら、そもそもあんた、なんで引退なんかしよったんじゃ。自分で自分の梯子はずしといて、俺達を煽ろうってのもな。」

野中はぶち切れた。

「おお、よう言うた!おのれらまとめて面倒見たるさかい、表出い!」

ファン垂涎、ダフ屋殺到!自民党武闘派3人による無制限バトルロイヤルのゴングが鳴るかと思われたその瞬間、消え入るような声が聞こえてきた。

「あのう。。。。。。」

振り向くと、特別指定席の入り口に自民党の若き幹事長にして、前青年局長の阿部晋三が、緊張に震えながら立っていた。北朝鮮問題でマスコミを前にした時の勇ましさは微塵もない。

「なんや、お若いボンボン幹事長やないか。今、取り込み中やあとにせい。」

「いや、しかしですね、総裁から野中さんに言伝がありまして。。。」

「なに、小泉の腐れ外道が、俺に何の用や。」

「はあ、その、そ、総裁が言うにはですね。ここ、永田町WINSは議員とか、特別公務員しか入れないところなのに、引退された方が来るのは如何なものか、早々にお引取り願いたいと。。。。」

「おのれ、若造が!血筋の良さだけ誇りよって!誰に向こうてもの言うとんのや!!」

「いや、だから、僕じゃないんです!これは僕の本意じゃないんです。総裁が『幹事長というのは汚れ仕事もやらなくちゃいけないから』って僕に押し付けたんです。」

「ほおお、おもろいこと言うのぉ。じゃあ聞くが、最上階にいる二人の妖怪爺いは、ありゃなんじゃ。現役か?」

「あの人たちは特別なんです。それは野中さんが一番ご存知のはずじゃないですか。とにかく、噂を聞きつけてここに入れろという、政治家OBが列をなして押しかけ騒いでるんです。これ以上例外は認められませんので、どうぞお引き取りください。いいですか。僕、ちゃんと伝えましたからね。じゃ。」

それだけ言うと、安部は逃げるように立ち去った。後に残された古賀と亀井はお互い目を見合わせた後、恐る恐る野中のほうを振り向いた。

野中の顔は般若のように真っ赤であった。全身が怒りの痙攣にかくかくと打ち震え、それが収まると凄まじい怒号が室内を震わせた。

「おのれえええええ!小泉ぃ!やりよったなぁぁぁぁ!人を引退に追い込んで、その後、この仕打ちかい!もう我慢できんぞ!目に物見せてやるわああああ!」

「どうすんだ、殺るとか?」

  恐る恐る古賀が聞いた。

「あほ、人聞きの悪い事言うな!殺さへん。殺さへんけど、死ぬより辛い思いさせたる!一寸の虫にも五分の魂があること思い知らせてやるわ!」

「じゃ、右翼を使って誉め殺しか?俺が警察のルートからスキャンダル聞き出しちゃろうか?」

 それとなく煽りを入れるのは亀井。

「何言うとんのじゃ。競馬の借りは競馬で返したんのや!」

「じゃあ、小泉の買い目の逆にどーんと買いを入れるのか?」

「ぼけ、その逆じゃ!小泉と同じ買い目に全財産つっこんでやんのや。あの腐れ外道、どうせ、クリスエスから馬連で10点くらい買いこんどるに違いない。」

凄い!ご名答である。

「そこに、俺が全財産ぶち込んで全部ガミにしてやンのや!あの外道、ガミ馬券の痛手に耐えられずに、こんなもんこしらえよって、そこでまた、ガミになったら、大恥や。死ぬより辛い思いをするはずや。見とれよおおお、小泉め、一寸の虫の捨て身の攻撃思い知れ!」

「ううううむ、確かに捨て身だ。しかし。。。」
「なんか意味がないような。。。」

首をかしげる二人にお構いなく、野中は続けた。

「というわけで、こんな蹴ったくそ悪い所は、引き上げることにするわ。亀井君、後で、金を届けるから、それで小泉の買い目にバーンと張り込んどいてくれ。では。それにしても、見とれよぉ、小泉め!」

悪態を続けながら、立ち去って行く野中であった。残された古賀と亀井は目を見合わせため息をついた。

「坊主憎けりゃとは言うが。それにしてもなあ。」

「ま、あの人も喧嘩してるときが一番生き生きしとるから、少なくともボケる事はあるまいよ。どうでもいいが、あんた、とんでもないことを引き受けたとよ。まぁ、頑張りんしゃい。おいは自分の万馬券換金してくるとよ。」

そう言うと、古賀は万馬券を亀井の前でひらひらさせながら、スキップを踏んで出て行き、後には亀井一人が取り残された。

「さてどうしたものか。」

聞くものもないのにつぶやく亀井であった。

もうしばらくすると、野中の使者が恐らくは10億を下らない大金を引っさげてやってくるはずである。「どうせ、ガミ馬券になること必定のよこしまな買いだ、呑んでやろうか。」という元警察官僚とは思えない破廉恥な考えが頭をよぎったが、考えてみればガミ馬券にするための買いゆえ、これを呑めばすぐにばれる。そうなったら、あの執念深い野中からどのような報復を受けるか分かったものではなかった。

しばし考えた後、素晴らしい考えがひらめいた。

・皆が当てたいと思って投票するなか、人のオッズを下げたいという邪な気持ちだけでこれだけの金を投入する基地外がいる。
・この買いを入れれば、クリスエス関連のオッズは間違いなく下がる。これは実力以上に高い評価であり、相対的に他の馬券は通常期待値をはるかに上回るオッズとなる、→言い換えれば大変お買い得な馬券となるはずである。
・しかも、ここ永田町WINSなら、通常なら20倍見当の馬券がどう少なく見積もっても50倍、いや、ことによっては万馬券も夢ではなくなるはずである。

「フフフフ。ふははははは。」

笑う亀井の目に凶猛の光が現れていた。

「官僚出の、うだつの上がらない代議士に、ようやく巡ってきた幸運か、はたまた破滅の甘い罠か。」

どこかで聞いたような台詞をつぶやき、オッズモニターを睨みつける亀井であった。

<11月29日>(土)

Scene 4  永田町WINS地下2階 海外投票受付センター

「イギリス首相トニー・ブレア様 3000ポンドお買い上げぇ!」

高らかな叫び声とともに拍手が沸き起こり、鐘と太鼓が打ち鳴らされた。

「いよぉー!」 「パン!」

最後は一本締めである。

ここ、永田町WINS地下二階は、海外からの電信投票馬券の受付センターであり、本来ならデータを受信するサーバーとこれを管理する数人のシステムエンジニアがいるだけの極めて静寂な一角であるはずであったが、こけら落としの今日は法被をまとった多数の職員が駆り出され、各国からの買いが入るたびに、バブル期のお歳暮コーナーのごとき狂躁的なムードが演出されていた。

「ふん、なかなかの賑わいじゃないかね。」

満足とも皮肉とも取れる笑みを浮かべながら、内閣官房長官・福田康夫は、側にいる外務大臣川口順子につぶやいた。

「時差の影響もなく、発売と同時に各国首脳の方々から、本当にたくさんの発注が来ておりますわ。」

事務的な笑みを絶やさずに川口が答える。そのそつのない仕草は、大臣というよりは有能な秘書官のそれであったが、それも無理はない。身から出た錆とは言え、ゴジラ対キングギドラを髣髴とさせる田中真紀子・鈴木宗夫の確執に巻き込まれ、完膚なきまでに破壊された外務省の尊厳を立て直す力量の大臣など滅多にいるものではなく、外交上の重要案件は事実上内閣官房がこれを統括し、外務大臣はこの補佐役を勤めるという体制がいつのまにか形成されていたのである。

「ほう、どのくらい?」

「9Rが終了した時点で、すでに103カ国の方々から。」

「そんなに沢山!人のことは言えぬが、皆本当に。。。」

好き者であることよ。という言葉をしまいこみながら、今度は心底満足そうな笑みを浮かべる福田である。

「イタリア首相シルヴィオ・ベルルスコーニ様 5000ユーロお買い上げぇ!」

またしても、拍手・鐘太鼓・一本締め。

「あら、イタリア首相は、デムーロ馬券ね。さっきのブレア首相はイギリス馬イズリントンの単勝だったけど、イタリアからは出走馬もいないし、ここはイタリアンジョッキーで勝負っていうことかしら。」 「なんだ、君も随分詳しいじゃないか、じゃあ、3頭も出てくるフランスからは?」

「ド・ヴィルバン外相は、エリザベスで3着したタイガーテイルの単勝。まぁ、こちらは単なるロマンチストさんなんですけど、面白いのはシラク首相ね。フランス馬3頭とシンボリクリスエスのボックスをお買い上げですわ。フランス勢が今一自信が持てないということで、フランス人(ペリエ)が乗ってるからと言う理由で無理やり1番人気馬を引っ掛けてくるところが、なかなか厚顔というか、したたかというか。」 こういう、したたかさが、外務省に一番欠けているのだと、つい愚痴りたくなる福田である。

「中華人民共和国首席 胡錦涛様 10万元お買い上げぇ!」
「大韓民国大統領 盧武鉉様 20万ウオンお買い上げぇ!」

 拍手・鐘太鼓・一本締め。今度はその上、銅鑼・爆竹まで鳴らされている。

やりすぎだ。注意しようとしたその時、更にVIPからの買いを告げる掛け声がこだました。

「バチカン市国、ヨハネ・パウロス2世様 5000ユーロお買い上げぇ!!」

おおうという、どよめきの後、盛大な拍手と歓声、鐘と太鼓、おまけに一足速いクリスマスジングルがかき鳴らされる。さすがに唖然とする福田である。

「な、なんと、畏れ多くもローマ法王が。確か猊下はご健康を崩されているはずでは。」

「なんでも、競馬ができると分かった途端、素晴らしい回復振りを示されたそうで、今では法王庁の廻りをジョギングしておられるほどとか。他にも宗教界からはカンタベリー大司教、ダライラマ14世、ロシア正教会アレクシー総教主、日本からも池田大作・又吉イエス両先生をはじめそうそうたる方々からの注文を受け付けています。」

「うううむ、凄い!最後の方は宗教家とはちょっと違う気もするが、凄すぎる!」

と、そこで、電話の音。

「はい、福田ですが。」
 「久しぶりだな、元気かね。」
 「あ、その声はアメリカのパウエル国務長官!ご無沙汰してます。」

「ふむ、元気そうで何よりだ。実はだな、緊急会議があるということで大統領に呼び出されて現在待ちぼうけを食っているところでな、この間に投票を済ませてしまおうかと思ったんだが、電話で頼んでもかまわんかね?」
 「どうぞ、どうぞ、長官ならいつでもOKです。で、なんですか、長官はやはりネオユニヴァースで?」

「いや、ネオは桜花賞のときに牝馬と勘違いして指名して、大恥をかいたからな、今回はやめにしておこうと思っているのだ。ネオの革命(レボルーション)は不発に終わったとも言うしな。」
 「お戯れを。今回は牝馬も牡馬も出れますから大丈夫ですよ。実は私も、彼と心中しようかなどと考えている次第で。」

「いいのだ、夜も寝ないで考えて出した結論だ。今度は大丈夫、絶対来る。」
 「ほほう、それはまた大した自信で。で、何をお買い上げになるのですか?」

「ふふふ。聞いて驚くな。私が買うのはビッグウルフ。単勝で500ドルばかし買っておいてくれないかね。」
 「ぎょえー!ビッグウルフですと?」

「そうだ、驚くなと言っただろう。大いなる狼の牙が、一足早いクリスマスプレゼントを私の枕もとの靴下に投げ入れてくれるはずだ。」
 「いや、しかしですな。」

「いいか、確かに彼は小柄な3歳馬であり、世界の歴戦の勇者達の中に入れば非常に頼りない外観をしているのは事実だ。しかし、その内に秘めた闘志と、大いなるパワーを侮る者は空になった財布を握り締めて泣くことになるであろう。」
 「いや、そういう事ではなくてなくてですね。」

「黙って聞きたまえ。逃げてよし、差してよし、視線は勝利をのみ見つめ、勝利をのみ欲する。そのパワーはまさにアメリカ馬以上にアメリカンスピリットにあふれた存在で、イラクに侵攻した我が軍もハイテク化だの情報化だのという前にこの馬の精神に立ち返り、謙虚にもののふの原点を見つめなおしていれば、あのような体たらくになることはなかったのだ。当日はきっと。。。」

「長官!聞いてください!」
 「なんだよ、うるさいなぁ。人の話は最後まで聞くのが。。。」
 「ビッグウルフはダート馬なんです。ですからジャパンカップには確かに出ますけど、ダート競争、つまり昨日のレースに出てしまっていて、今日はもう走らないんです!」

「。。。。。。。。。。。。。。。。」
 「。。。。。ご存じなかったんですか?」
 「わははははは。あ、大統領が戻ってきたみたいだ。では、また。」

電話の切れる音。

「一体なんだったんだ!」

急に疲労感を覚える福田である。その間にも景気のいいアナウンスが続いている。

「イスラエル首相アリエル・シャロン様 40000シェケルお買い上げぇ!」
 「キューバ共和国評議会議長フィデル・カストロ様1000ペソお買い上げぇ!」

拍手・鐘太鼓・一本締め。

「パレスチナ暫定自治政府長官 ヤーセル・アラファト様 3000ディナールお買い上げぇ!」
 「シリア共和国大統領 バッシャール・アサド様 5000シリアポンド お買い上げぇ!」

以下同。

「イラン大統領 タハニ様 85万リアルお買い上げぇ!」
 「リビア元首 カダフィ大佐 9000リビアディナールお買い上げぇ!」

以下略。

「おいおい、なんだ、ここら辺になってくると、呉越同舟というか、随分きなくさい面子じゃないか。」
 「ふふふふ。素敵ですわ。」

事務的な薄ら笑いを浮かべる川口の目に、いつしか凶猛の光が浮かび上がっている。

「朝鮮民主主義人民共和国総書記 金正日様 1000万朝鮮ウオンお買い上げぇ!」

拍手と鐘太鼓がかき鳴らされかけて、ぴたりと止んだ。

「今。。。。なんと。。。。」

「えー、朝鮮民主主義。。。」

「何故だ!何故奴までが、こんなところに馬券を頼んでくるのだ!」

「私が総理に頼んで、相手を勧誘してもらいました。」

天気の話題をするかのように語る川口である。

「な、なんだと!気は確かか!あの国とわが国が今どのような状態にあるか、知らないのか。」

「だからこそですわ。双方意地になって閉ざしあった外交ルートを、正常化するいいツールですわ、この永田町WINSは。拉致問題と核開発問題に筋道をつけるには、こういうことを突破口にしないと。」

「な、何故私の頭越しにこんなことをする!認められん、認められんのだ、こういうことは。」

「長官はここの開設でお忙しかったから。でも、「北」に限らず、日本の競馬を解放するというだけで、これだけの大国・小国・宗教者、果ては、ならず者国家までが集まってくるのです。ホストとして日本のプレゼンスを高めるのにこれほどの機会はありませんわ。その上、テラ銭まで稼げるんですのよ。人の顔を札束で張り倒し、あまつさえ、相手国の汚職役人と日本の土建屋を潤すだけのODAに比べれば、よほどまっとうな外交手段ではありませんこと?」

「そういうことを聞いているのではない!」

「まぁ、そうお怒りにならないで。総理の跡目を継いだときのことを考えれば、長官にもきっとご理解いただけると思いますわ。あら、もうすぐ10Rが始まるわ。では、私はこれで。今日はだいぶ浮いてるから後はほどほどにしないとね。」

薄ら笑いを浮かべたまま、川口が立ち去っていった。 くそう、あの女、単なる小役人と軽く見ていたが、ここまで油断の出来ない奴だったとは。憤然とした福田であったが、川口の言うことにも理があることを認めざるを得なかった。しかし、どうも引っかかる。川口の姑息な仕掛けだけではなく何かが釈然としない。この違和感は何だろう。。。

そうだ!これだけ沢山の海外首脳が投票している中、ここ永田町WINSを作るきっかけを作った張本人であるアメリカ合衆国大統領ジョージブッシュはいまだ投票してこない。これは何故だ?それに、「あの男」!これだけのならず者国家の元首たちが投票する中、あの男がこのジャパンカップに不参加のはずがない。これは何を意味するのだろう。急に不安に駆られ背筋に寒いものを覚える福田であった。


Scene 5  永田町WINS 6F 馬券売場

永田町WINS特設オッズモニターに異変が発生したのは第9Rの発売締め切り直後のことであった。本日のメインレース・ジャパンカップにおいて、永田町WINSの低控除率により、これまで常時10倍以上をキープしていた1番人気・シンボリクリスエス関連の馬連オッズが見る見るうちに下がりだしたのである。

「ん、なんだ、これは?故障か?」

一瞬、いぶかしげな表情を浮かべ電算センターに問い合わせた小泉であったが、これが故障ではないこと、クリスエス関連に膨大な買いが入っていることを知るや否や、真っ青になってうろたえた。

「な、な、な、なんと言うことだ。一体何があったというのだ!ガミが嫌で、ここにこういう施設を作ったというのに、何故ガミになる!」

そう叫ぶ間にもオッズはますます下がりつづけていった。

「あ、ああああ、タップダンスシチーとの組み合わせが4倍を切っている。大穴狙いのアナマリーとの組み合わせが何故9倍なんだ!これはテロだ!テロ馬券だ!公安は何をやっている!!今すぐシンボリクリスエスを買ってる奴を逮捕しろ!このままじゃ俺はガミだ!ガミラス星人だ!嫌だ!行きたくない、イスカンダルには行きたくない!」

わけのわからないことを叫びながら貧血を起こし、その場にへたり込む小泉。その時、背後から男の声が語りかけた。

「お困りのようだな。力になって差し上げよう。」

振り向くと、ハンチング帽にジャンパー姿の初老の男が立っている。どこかで見た顔だ。壊れかけている意識の中で判別するのにしばしの時間を要した。鼻の下に立派な髭を蓄え、肉付きのよい頬、鋭い目つきの貫禄たっぷりの顔、そして、いかにも競馬親父然とした上着の下には迷彩服を着込んでいる。

「ああああ、あなたは!」

イラク戦争の後、消息を絶って1年近く。イラク共和国の前大統領にして独裁者サダム・フセインが、今永田町WINSの馬券売場に凶猛のオーラを漂わせながら佇んでいた。

「電話では話したことがあったが、会うのは初めてだな。私は悩める競馬ファンに救済をもたらす馬券伝道師。以後お見知り置き願おうか。」

「何故だ、何故あんたが、ここにいる!」

「だから、君のようにガミの恐怖に震える者に救済をもたらしに来たと言っておる。趣味と実益を兼ねたボランティア、まぁ、早い話がコーチ屋だな。」

「ここは、国会敷地内だ、何故お尋ね者のあんたがここにいる!警備のものは何をやってたんだ!」

「ふん、ここにいる者は、競馬新聞の馬柱と、場内モニター以外のものは何も見ておらんのだ。人の顔など見ても馬券の足しにはならんからな。皆素晴らしい集中力だ。バース党の大統領警護隊にも見習わせたいくらいだな。そんなことより君、困っているんじゃないのかね?」

「そ、そうだ、私は困っていたんだ!いやだ、ガミは嫌だ!イスカンダルには行きたくない!ガミにならないためには悪魔と取引してもかまわない!」

「ふふふ、素直でよろしい。では、取って置きの穴馬を教えよう。」

「なんだ、何を買えばいいんだ?」

「ずばり、サンライズペガサス!」

「ええっ!サンライズペガサスぅ?前回クリスエスに0.7秒もちぎられた馬で、しかも今回は大外じゃないか!」

「前回は休み明け。ローエングリーンの滅茶苦茶なレース運びにもめげずにそれでもよくやっておる。外枠だってごちゃつかずに自分の競馬ができるから大歓迎じゃないか。」

「しかし、これはいくらなんでも。。。」

「誰も勝つまでとは言っておらん。だが、外国招待馬とジョッキーが半数も占める故、乱ペース必至のこのレース。必ず2・3着には伏兵が飛び込んでくる展開となるわけだ。血統はまさにこのレース向きだし、実績だってよく見ると申し分ないし、それなのに人気は全然ないしまさにこれぞお買い得な穴馬と、まぁ、こういうわけだな。出でよ万券!」

「そういうものかなぁ。。。」

「そういうものだ。三連複でクリスエスを中心に手広く買うのがよいだろう。あ、当たったら配当の半分はいただくからな。」

「なんだ、金を取るのか?」

「当たり前だ。趣味と実益とさっき言ったばかりだろうが。」

「随分虫がいいじゃないか。じゃ、なにか?はずしたらあんた、半分私に賠償してくれるというのかね?」

「ふ、よく当たった後で、そういうダダをこねる奴が出て来るんだがね。見よ、そういう罰当たりの末路を!」

そう言ってフセインが指差した6階と7階をつなぐ階段の踊り場に一人の男がぼこぼこになって横たわっていた。

「ああっ!あれは古賀誠!」

「あの男、人の助言で万馬券を手中にしたというのに支払いを拒みおったので、少々礼儀というものを教えてやったのだ。まぁ、殴る前からぼこぼこの顔をしておるので殴り甲斐もなかったのだがな。それにほれ、あっちはまさに制裁中だ。」

フセインが再び指差す方向を見ると、清涼飲料の自動販売機の陰で、人相の悪い髭面の中年男二人が、公明党代表・神埼武法を羽交い絞めにして殴りつけている。

「ああっ!あれは、ウダイにクサイ!死んだはずでは!」

「死んだのは影武者だ。これだから、平和ボケした国の宰相は幸せだというのだ。それに、ほれ、有望な新人が入ったのでこれも紹介しておこうか。」

更にフセインの指差す、喫煙所横のトイレの入り口付近ではウ・サマ・ビンラーディンがAK47ライフルの銃尻で民主党代表・菅直人の腹部にきつい一発を見舞っていた。

「なんなのだ、ここは本当に日本なのか。。。。」

「まぁ、こういうわけで、お互いビジネスライクに行こうじゃないか。どうだ、困ってるんだろ。買うのかね。買わんのかね。あと15分で締め切りだぞ。」

選択の余地もなかった。慌てて自動券売機に駆け寄り投票する小泉である。元いたところを振り返った時には、フセインはすでにいずこへかへと消え去っていた。

「一体、何だったんだろう。何か悪い夢でも見たような。。。」

急に我を取り戻した小泉である。その時、大変だと騒ぎながら走ってくる男の姿が目に入った。

「おお!君は防衛長官の石破茂君じゃないか。なんだ、ミリタリーおたくの君もやるんだ、競馬。」

「あ、総理、今日のレースは、センドミサイルとか、フサイチイージスとかリスティアアーミーとか、とにかく心を騒がす名前の馬が沢山出ているもので。と、それどころじゃない。大変です。一大事です。」

「もういいよ、馬券売場の真紀子とか、お尋ね者のコーチ屋とか、大変なのはもう見飽きたし聞き飽きた。明日聞かせてくれ。」

「とんでもない!一刻を争う事態なんです。先ほど、横須賀の米軍基地から総理に宛て連絡がありました。内容を見ると『日本・永田町でフセインとアルカイダの所在が確認されたので、これをトマホークにて殲滅する。よって、事後処理を頼む。』と、こうなんですわ。」 「なに、日本で、ミサイルをぶっ放すだと。馬鹿も休み休みに言え。そんな非常識なことがあるものか。」

「アメさんは、最近あの連中にはやられっぱなしなんで、相当頭に血が上っているらしいんです。フセインと聞いただけでもう、アドレナリン全開です。何するかわかったものじゃない。」

「大体、フセインだったら、今までそこにいたんだぞ。二人の息子とビンラーディンも一緒にな。」

「な、なんですと!」

大声で叫んだ後、しきりに考え込む石破である。

「おい、何を考えているんだ。」

顔を上げた石破はおもむろに語りだした。

「トマホークには水上艦艇搭載型RGM-109TRAMと、潜水艦搭載型UGM-109と大きく分けて2つの種類があります。横須賀基地での配備状況を考えるとここは前者が使われている可能性が高い。おそらくは、現在停泊中のイージス艦チャンセラーズビルかカウベンスから発射されたと考えるのが妥当です。弾頭は使用目的から察するに単一弾頭のBlock−TypeU、通称C型」

小泉は呆れた。

「君は本当にそういうことはよく知ってるなぁ。」

「ロケット推進エンジンではなく小型ターボファンエンジンを搭載のため速度は亜音速しか出ませんが、このタイプは従来型に比べ飛行性能に優れ、東京の雑多なビル街も登録された地図座標と無線誘導で難なく潜り抜けます。」

「ほう、それで?」

遠くでミサイルの爆音が聞こえる。

「横須賀との距離を考えた場合、あと10秒で着弾するのではないかと。」

「馬鹿、それを先に言え!」

逃げろ!と叫び、入り口へ走り出したまさにその時、永田町WINSの窓をぶち抜いてトマホークらしきものが飛び込んできた。

「のわっ!」

窓をぶち抜いた衝撃のせいか、急に減速した物体はそのまま床をすべりつつ小泉のほうに向かってくる。

「どわわわわわ」

慌てて壁の方に後ずさる小泉。それを見るかのように物体も方向を変える。

「わ、来るな、来るな!」

壁を背に逃げ場を無くし、へたり込む小泉の前にやって来た物体は小泉の手前10cmのところでぴたりと止まった。

「。。。。。。。。。た、助かったのか?」

「あれえ、これ、トマホークじゃないや。無線誘導偵察機サイファーUの改良型ですよ。多分、トマホークに乗せて運んで、途中で切り離したんですね。」

「な、な、な、」

「なんか手紙が付いてますよ。あ、総理宛てです。読みますか?」

石破から手紙を引ったくり、目を通す小泉。そこにはこう書かれてあった。

「どうだ、我が軍の最新鋭、ミサイル弾頭型の偵察機は。なかなか愉快なジョークだろ?ま、この前、私がはずしたのに、ガミとは言え馬券を当てた君への意趣返しと思ってくれたまえ。何はともあれ、我々のユートピアの誕生を祝す。(G・B) 追伸:大事なことを忘れていた。ジャパンカップは、我がアメリカが誇るジョハーの単勝を1000$買っておいてくれ。」

わーい、最新鋭だぁ。と叫んで駆け寄る石破の姿を横目に小泉は気絶した。

Epilogue  12月中旬 衆院本会議場

「賛成多数と認めます。よって本案は可決されました。」

衆院議長河野洋平の声が朗々と響き渡り、イラク関連の追加法案が衆院を通過するのを小泉は腕を組んだまま仏頂面で見つめていた。額には先日の騒ぎで受けた傷を隠すためバンソウコウが張られており、これが却って痛々しさを際立たせていた。

それにしても、先日のブッシュの悪戯はジョークというにはたちが悪すぎる。あのテキサスの田舎者め、おまえはスタン・ハンセンか。思い出す度にはらわたが煮え繰り返る小泉である。 と、その時、後ろから肩を叩く者がいた。振り返ると参院幹事長青木幹雄が立っている。

「なんじゃね、あんた、法案が通って嬉しくないのかね。」

「ふん、ほっておいてくれ。」

「まぁ、あんたも、あれで懲りたじゃろ。アメリカ一辺倒じゃ碌なことがないわいな。」

「今更、一度決めた旗色を変えられるか。」

「ふん、でも、考えても見ろ。あの手紙の文面から察するに、アメリカはあの時本当にあそこにフセインがいたとは知らなかったみたいぞな。もし、知っていたらあの時飛び込んできたのが本物のトマホークじゃないとあんた断言できるかね。」

「。。。。。。」

「ふん、まぁ、御身御大切に。」

「ちょっと待てよ、飯に行くなら俺も付き合う。」

「ほお、じゃ、永田町WINSの軽食コーナーにするかね。」

「土井たか子の店か?確か『憲法第9条』とかいったっけ?」

「その隣に鈴木宗夫が『ムネヲハウス』という店をオープンしてな、そこの海鮮丼が北方領土直輸入の数の子を使ってて、これがなかなかいけるんよ。」

「輸入というな。あれは日本固有の領土だ。」

冷笑を浮かべながら歩き出す青木。小泉も立ち上がりその後を追った。

(そして、永田町WINSは日本が誇る競馬のユートピアだ。このままにはしない。絶対にこのままにしておくものか。)

歩き出す小泉の目には凶猛の気配が漂っている。競馬の祭典、グランプリ・有馬記念の開催があと二週間後にせまっていた。 <了>


編集者敬白

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