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古森義久氏 「中国の’反日’教育」2001年7月11日 CSIS戦略国際問題研究所 (ワシントンDC
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投稿者 TORA 日時 2004 年 10 月 15 日 09:53:06:CP1Vgnax47n1s
 

PRANJワークショップ記録

古森義久氏 「中国の’反日’教育」

2001年7月11日 CSIS戦略国際問題研究所 (ワシントンDC)

     司会:今日は古森義久さんにお話をして頂きます。古森さんは最近、『日中再考』という本を出版されました。初日にして増版が決まったという非常に人気のある本ですけれども、今日は、その中で書かれている「中国の「反日」教育と最近の日中関係」というテーマについてお話して頂きます。お話の後、質疑応答に移ります。それではよろしくお願い致します。

古森:私は本来ワシントンに長くいて、新聞記者として主にアメリカ或いは日米関係報道を担当してきたのですが、たまたま色々と事情が重なって98年の暮れ頃に中国に行き、丁度丸2年滞在した後、今から半年くらい前にまたワシントンに戻ってきました。ご存知かもしれませんが、産経新聞はそれまで31年間北京に駐在が認められていなかった。台湾に特派員を置いていて、そこを閉鎖するという条件を飲まなかったからです。「どちらか1つでなくてはだめだ」ということを中国政府は常に言ってきた。それがどういうわけか98年の夏頃にそれを引っ込めたのです。それによって、両方に特派員を置いてもいいということになって、それをきっかけに当時「産経方式」と言われたその方式に他の新聞社も従いました。そういう呼び方は嫌だからということで後から別の名前にしましたけれど、ともかく現在日本の大手のマスコミは皆、北京と台北にいるわけです。

今日は、主に日中関係について見てきた2年間の経験を通じて得たことをお話します。ご存知の通り、現在日本の歴史教科書が中国と韓国との間で外交問題になっています。そういう中で、「では日中、日韓合同で歴史研究をしようじゃないか」とか、或いは極論として、「教科書を一緒に作ったらいいではないか」というような意見まで出てきていますけれども、そういう動きの中で、日本のマスコミがあまり取り上げていないのは、「では中国では日本について、特に日本に関わる歴史についてどのように教えているのか」ということです。これについて非常に大きな関心を持って調べたので、そのまとめをお話しようと思っています。歴史問題、教科書問題について、皆さん色々と意見がおありだろうとは思いますけれども、まずその意見を形成・表明する前に、日本の教科書の状況は分かっていても―と言ってもそれすら意外と分かっているようでよく分かっていないということもあるのですが―中国の歴史教育はどうなのかということを知るということは、事実を知るという意味で、特に日本の外交とアジアとの関係ということに興味がおありであれば、非常に意味があるのではないかと思います。

  
まず中国の学校制度ですが、これは日本と非常に良く似ている。小学校が大体6歳から11歳くらいまで。その後は初級中学と言われますけれど、これが3年。ここまでの9年間が義務教育。その後に上級中学というのがあり、これが高校に当たるもので、3年間。その後に大学が来るということで、ほとんど日本と同じです。私が教科書をかなり詳細に渡って調べたのは、その小学校・中学校つまり義務教育の部分が主です。 

では中国において、日本は一体どういうイメージで見られているでしょうか。「日中友好」とか「一衣帯水」、「日中は唇と歯の関係だ」、「同文同種」といった表現に見られるように、確かにすごく親しい部分もあります。特に漢字の世界を見れば、我々よりも少し古い世代が中国の文化に畏敬の念を抱く理由というのもよく分かる。全て漢字なわけですから、漢字での表現はすごく豊富です。例えば人に物を差し上げる時に使う、「恵存(けいそん)」という言葉があります。これは日本であまり使わないですし、何となく高級な言葉という感じがするのですけれども、こういう言葉をそこら辺の小さい女の子が平気で使うわけです。そういったことを見ると、「漢字の文化というのはこんなに奥が深いのか」と感銘してしまうという部分はあります。その逆にカタカナ・ひらがなのような表音文字がないということのハンデがあって、例えば「クリントン」という言葉は3つくらい漢字を持ってきて当てはめないといけない。なるべく音が近い文字で表現するのだけれども、そこに意味を加えたりする。「クリントン」の意味を持った漢字はどういうものか、想像するのは難しいと思うけれども、そんなふうにものすごく効率が悪い部分もあるわけです。

日本のイメージは、ごく簡単に言ってしまうと良くないのですけれども、正確を期すために言うと、「良い時代、良い部分」というのももちろんあったし、あるわけです。例えば80年代には日本の映画がかなり入って、高倉健の映画なんかがものすごい人気になった。日本でも昔、「君の名は」というのがあった時に、その時間帯にはお風呂屋さんががらがらになったと言いますけれど、「おしん」を見るためにみんな帰ってしまって北京の街から人気がなくなってしまったという時代もあったそうです。それから高倉健と言えば、「君よ憤怒の河を渉れ」という映画がものすごい人気を博していた。山口百恵や三浦友和もものすごい人気がある。

けれども今、日本に対する印象についてのアンケートをすると、例えば97年頃に行われたものでは、日本に対して印象が「悪い」、「極めて悪い」というのを合わせると48%くらいになってしまっている。それから「普通」が41%で、「良い」というのが10%以下。もちろん政治体制が特殊ですから、なかなか自由な世論調査はできないというのは事実ですが。「悪い所を見てはいけない、いい所を見ていかないと日中友好の精神に合わない」というような意見が色々あるけれども、客観的に今この時点で中国の人が日本をどう見ているかと言ったら、間違いなくネガティブなわけです。そしてその背景にやはり、これから申し上げる教育の問題があると思うのです。

まず中国の歴史教育における特徴は、特に近代史の部分がすごく多いのですけれども、日本と戦って日本の軍国主義を倒したという「抗日」の要素が非常に大きな比重を占めているということです。例えば、86年版の中国国家教育委員会が作った教科書では、小学校のもので全体のほぼ10%、中学では20%が日本の中国侵略に関する記述だったということです。これは、国防や社会等全ての教科を含めての話です。ですから、「中国共産党が日本軍と戦って今の中国を作ったんだ、だから全て上手くいっているんだ」という論理は、中国の教育において非常に重要な柱となっているわけです。例えば小学校でどういう形で教えられているかというと、小学校低学年用の教科書に、『私は中国を愛する』という読本があるのですが、それを見ると分かります。

これは、6,7歳の幼い子供達に読み書きを教えながら祖国の偉大さ、素晴らしさについて教えるという目的のもので、きれいな絵が入った40ページくらいの本です。その中にどういう章があるかというと、「私は中国を愛す」という章があって、その出だしが「アジアに雄々しくそそり立つ中華人民共和国」というもので始まるわけです。その項目としては「国旗」「民族大団結」「共産党は素晴らしい」「社会主義は素晴らしい」「国防の科学技術を称える」「美しい山河」という非常に前向きなテーマが並んでいて、中国の偉大さと魅力を教えている。ところがほぼ冒頭に近い所、第5章で、「屈辱の歳月」という章が出てくる。この前半は旧中国が西欧列強、イギリス、フランス、ロシア等に財を奪われ国土を裂かれたということが書いてあるのですけれども、後半に来ると、いわゆる「日本の侵略」ということだけになっている。小学校低学年用にどういう表現を使っているかというと、大体次のようなものです。「中国に侵略した日本軍はとても多くの凶悪なことをしました。放火や略奪の罪は天まで届くほどでした。日本軍は我が同胞何千万人をも殺し、中国人民は泥にまみれ、火に焼かれるような苦しみを与えられたのです。」

この章の中に写真が3枚あって、1枚は「百人斬り競争」についてのものです。つまり日本軍の将校2人が、どちらが先に日本刀で百人殺すかという競争をして戦後死刑になったというものです。その根拠は何かというと、『東京日日新聞』、今の『毎日新聞』が、戦意を煽る為に書いた記事。これに関しては今でも論争が起きて、新聞以外には根拠がなかったのではないか、ということが言われています。ごく最近も、トロントにいる日系アメリカ人のWakabayashiという学者が、これはでっちあげだったという論文を"Journal of Japanese Studies"という雑誌に書いています。興味のある方は読んでみて下さい。それから、国民党の蒋介石一派が一時首都を作っていた重慶を日本軍が無差別爆撃した後に、中国人市民が石段に倒れている様子を写したという写真が載っています。そんなふうにヴィジュアルに訴えるという特徴が非常に強い。こういった写真も日本側の研究者の間では非常に疑義が呈されています。重慶の無差別爆撃のものはアメリカの『Life』に載った写真ですが、実は防空壕に入る時に扉を閉めたり開けたりする作業が上手くいかなかったために、非常に多くの人が窒息死したという事件があって、その部分と爆撃の区別が非常に曖昧で分からない、という疑問が提起されている。けれども、ともかくこういう非常にむごい写真を小学校低学年の頃から見せるというのが一つの特徴になっているわけです。

それからもう一つの特徴は、中学に行くにつれてどんどん増えていくわけですけれども、やはり中国共産党というものがあって、建て前にせよマルクス・レーニン主義、共産主義というのも掲げているわけです。ですから、所謂マルクス主義史観をとっている。これはどういうことかというと、人間社会の進歩というのは経済の発展段階によって決まる、という見方を取っているということ。それからその過程で階級闘争が起きて、搾取されている側が搾取している側を打ち倒していく、と。だから資本主義は必ず帝国主義になって滅びていく。ともかく生産段階の発展によって物事を説明するという傾向が非常に強いのです。

例えば、江戸時代の歴史を中学で教えているのですけれども、この江戸時代260年くらいの歴史の中で、ある一人の人物だけ紹介している。1人だけ選ぶとしたら誰だと思いますか?徳川家康じゃない。西郷隆盛でもない。大塩平八郎です。「大阪で反乱を起こした町奉行配下の下級武士。貧民の為に食糧を与えようとしてお金持ちを襲った。天保8年の飢饉の時。」そしてこれはやはり、江戸時代がどういう風に明治に変わっていったかについての理解と一致しているわけです。その部分は大体次のような説明をしています。「将軍や大名は、生産活動は何もしないけれども、種々の政治的・経済的特権を享受していた。将軍と大名は自分達の贅沢な生活を保つ為に農民達を残酷に搾取した。自由に税金を取って、毎年収穫の50%以上を上納させ負担を増していった。同時に商品経済の発展により、封建経済が崩れ始めた。資本主義的な生産関係が少しずつ形成されていき、当時全国で職工10人以上を雇う手工業の工場は既に3,4百あった。」こういう風に、経済発展段階を一番の中心に据えて歴史を解く、という特徴があるわけです。

この考え方は明治維新、それから明治の状況についても大体同じで、中学の歴史教科書に次のような記述があります。「日本の大資本は封建制と軍事制を有して、武士道を貫き天皇に忠誠な皇軍の増強により対外侵略の路線を進み出し、軍事封建制を持つ帝国主義へと発展していった。天皇制を支える大地主や大資本家階級は、帝国主義の発展とともに中国の征服を支配層の政策目標にしていった。中国の征服には、まず朝鮮の征服を跳躍台にするという考え方であった。」ですから、日清戦争も日露戦争も、明治の初めから日本側が非常に緻密に練っていた謀略であるというような言い方をしています。どちらも侵略戦争である、という特徴付け、しかも中国に対する侵略戦争だという言い方になっている。ご存知の通り、中国は色々な国に侵略され、日本の軍事占領が一番長くひどく広範に渡るものだった、というのは疑いもない事実であったわけですけれども、しかしその前の段階においても日本に関する歴史の教え方は非常に厳しい。例えば1900年に起きた義和団の乱というのがあります。義和団が西欧列強軍に最終的に負けるのですが、この時先頭になったのが日本軍です。当時の日本軍は国際ルールを守っていたということは証明されているわけですが、これについても「日本軍が非常に残虐なことをした」というようなことを中国の教科書は特記しています。

それから日清戦争に勝った結果、当時の国際条約に基づいて台湾を得た。これも今では侵略、略奪というふうに特徴付けられているわけですけれど、中国側はもちろん「間違いなく日本の侵略だ」というふうにはっきりと厳しく断罪しています。「それ以後も日本の台湾統治は略奪、占領のひどい時代だった」と書いているわけです。義和団の乱については、「北京の税務署などの金庫類が日本軍に奪われた」という記述があります。しかし、アメリカ、アヘン戦争を戦った相手のイギリス、旧満州・東北部をずっと占領していたロシアなどについては、意外と厳しい記述はない。

そしてもう少し行くと、これは具体的な例ですけれど、高校生の歴史教科書の中に「田中上奏文/田中メモランダム」というものが出てきます。これは、当時非常に重要とされ有名になった、日本のいわゆる秘密文書です。田中義一という元陸軍の将軍が、1927年、昭和の初めに総理大臣になったのですが、非常に攻撃的なタイプの人だった。この人が、実は世界制覇を企んでいたという前提があって、1929年に田中上奏文というものが発見され、中国の雑誌が報道した。中国でもアメリカでも大々的に取り上げられ、「大日本帝国というのはこういう野望に燃えている国なんだ」ということの決定的な証拠とされて、戦争が終わるまで常にそれに対する言及があったという文書です。どういう内容かというと、「支那を征服しようと欲すれば、まず満蒙(満州、蒙古)を征服せねばならない。世界を征服しようと欲すれば、まず支那を征服せねばならない。我が国、満蒙の利権を手に入れ、満蒙を拠点に貿易などの仮面で支那400余州を服従させ、全支那の資源を奪うだろう。支那の資源を全て征服すればインド、南洋諸島、中小アジア諸国そして欧州までが我が国の威風になびくだろう」というとんでもないものですが、これが田中総理大臣から天皇陛下に進言された政策文書だったということなのです。ところが戦後すぐに、これは世紀の偽造文書だったということが2重、3重にも証明された。しかし中国の教科書では、これを一つの目玉のコラムとして教えているわけです。
 

     それから個別の件を見ると、盧溝橋事件というのがあります。これは1937年の7月7日、七夕の日の夜に、北京の郊外にある盧溝橋という素晴らしい美しい橋―マルコポーロがあまりの美しさに感嘆したことにちなんで、西側の人は「マルコポーロ・ブリッジ」と呼んでいると言われますが―ここで日本と中国の軍隊がぶつかって、それが日中全面戦争の契機になったという事件です。ここの記述も、簡単に言うと、「日本側はそれを契機にして一挙に全面侵略、中国との全面戦争に出るということを決めた上で始めた、しかも日本側が始めに撃って仕掛けた」とされている。日本側で、中国に対して非常に同情的というか理解の深い歴史学者でも、最初に発砲したのは日本軍ではないということと、日本の中央には不拡大方針というのがあって、中国と全面戦争をする体制には全くなかったということを言っているのですけれども、中国の教科書では日本側が全てやったということをはっきり書いています。

それから例の南京大虐殺です。中国の教科書ではこれがやはり一番の目玉というか、詳しく、生々しい表現で繰り返し繰り返し教えているわけです。例えば小学校の4年生くらいから高学年向けの読本で、『小学生が知らねばならない中国の十の話』というものがあって、産業とか自然とか歴史とか中国全体のことを書いてあるのですが、その十のうちの一つが「南京大虐殺」という項目で、そこには次のような記述があります。「日本の侵略軍は古い城壁の都市の南京を一つの虐殺場にしてしまいました。日本軍は狂ったように人間を殺すことで、自分達の勝利を誇って見せました。日本軍の司令官は公然と部下の悪事を許しました。日本の将兵は我が同胞の中国人を銃撃し、銃剣で刺し、軍刀で首を切り、腹を切り裂き、溺れさせ、焼き殺し、生き埋めにし、色々な残忍な方法で殺しました。殺人ゲームを楽しみ、恥をすっかりなくして婦女を暴行し、12歳の幼い女の子から60歳以上のおばあさんまで逃しませんでした。」小学校4年生でこういうことを習うわけです。
段々中学に入ると、南京虐殺なるものの全体的な内容に入っていくのですけれども、「30何万人の殺害というのははっきりしていて、これを少しでも疑うということは許されない」というような記述が何回も出てくるわけです。これについても、アイリス・チャンのこと等色々あって興味がおありだと思うけれども、あまり詳しく述べる時間はありません。結局、この中国側の30何万人殺害の根拠というのは、戦後行われた極東軍事裁判、つまり東京裁判で、検察側、南京の国民党政府が出した調査結果なのです。集団で殺されたのが19万人、そうでなくバラバラに殺されたのが15万人という報告があって、全部足すと34万になる。しかしこれは、極東軍事裁判では採用されなかった。「当時の南京の住民全体は30万人いなかったのではないか」という反論が弁論側から出て、判決では退けられた。結局人数としては10万とか20万とかという数字が判決部分では出てきているのですけれど、それだけの違いがあるわけです。ただ中国の教科書では、それを極東軍事裁判で断定された数という形で提示をしている。これは明らかに事実関係には反する。もちろん、「30万でも20万でも1万でも虐殺は虐殺じゃないか」というのはまさにその通りなわけですけれど、中国側はこの「30万」という数字にものすごくこだわるのです。その理由として、一つには長崎と広島で亡くなった人たちを足すと20何万になるということがあります。「それを上回ることを日本人はやっているんだぞ」と言う時の材料に使うために、この30何万という数字はすごく重要になる。日本側で、この問題に非常に同情を感じている日本のある学者が、中国のあるテレビ討論で、「あなたは30何万人が虐殺されたことを認めるか認めないか」と問われ、「私は分からない。その数字の根拠を知らないから分からない」と言ったら、すごい言葉で罵られ、その部分は放映されなかった、というようなことがあった。やはり南京に関しては、この数は非常に重要なわけです。
 

   それからもう一つの特徴は、戦後の日本についてほとんど何も教えないということです。これはとても大きな問題点だと思います。中学の段階では、戦後50年以上の日中関係史や、日本がいわゆる「平和憲法」を持っていて、第9条において国際紛争を武力で解決しないと内外に誓っているとか、戦後一度もよその国に対して武力を行使したことがないとか、中国にODAを上げ続けているとか、そういったことに関する記述は全くない。2行くらい、「1972年に日中の国交正常化があって、田中角栄という総理大臣が来てそういう文書に署名した」とその程度です。ですから、日本が中国を侵略したとされる日清・日露戦争まで遡ったとしてもおそらく50年くらいで、戦後それを上回る年月についての記述がない、ということは非常に大きな特徴だと思います。

それから、どういうことを意図して中国側は教育をしているのか、つまり教え方についてです。これに関しては学習指導要領というのがあって、これも実際にいくつか見ることができました。中学の歴史学習指要領の中にはこう書かれています。「本書(『中国歴史』という教科書)は生徒の素質を高めることを目的とし、生徒に祖国を熱愛すること、生徒に中国共産党を熱愛すること、社会主義事業を熱愛すること、さらに4項の基本原則を守るための教育を与えることを目的とした。」この4項の基本原則とは何かと言うと、一つはマルクス・レーニン主義、2番目は共産党指導、3番目は社会主義路線、4番目がプロレタリア専制政治。マルクス主義用語だと「プロレタリア独裁」という言葉を使っていることが多いのだけれども、「独裁」と言うとあまり響きが良くないということで、「専制」という言葉になっています。けれども、「市場経済や改革解放によって、中国にはもうマルクス主義なんてないじゃないか、共産党もイデオロギー的に何も意味がないじゃないか」と思う人も多いでしょうし、まさにその通りの部分も多いのですが、本質の思想教育はこういう要素をまだまだ放棄していない、ということです。
そして、「生徒にとにかく日本の帝国主義・軍国主義対する憎悪と憤怒を持たせることが目的だ」という言い方をはっきりしているのです。これはこれでいいのですけれども、ただそこだけ教えて日本の戦後についての状況を教えないとなるとそれは問題です。今の中国の歴史教育においては、昭和20年の8月15日に日本が降伏した時点で、日本はレーダーからぱっと消えてなくなってしまうわけです。だからどうしても戦前、戦中の日本だけが残っていて、その日本の帝国主義・軍国主義に対する憎悪とか怒りを煽ると、どうしても今の日本にまで続いてきてしまうという部分があるのではないか。こういう教育をするために、中国当局が中学生・高校生まで1年に4,5本ずつ見なければならないと指定している愛国主義的映画が100本くらいあるのですが、このうちの15本くらいがやはり、日本と戦ってやっつけた、そして日本がいかに残虐かという内容になっている。ですから、今こういうことを言うといかにも「反中」と言うか、「中国はけしからん」というようなことだけを言っているように思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、こういうことを教えているというのは事実なのです。

もう一つ、中国共産党を絶対的に熱愛、尊敬しなくてはいけない。彼らが良く歌う歌に、「中国共産党がなければ新しい中国はない」というものがありますが、中国共産党が達成した歴史的な最大の偉業は何かと言うと、日本の帝国主義者を追い払って、しかも国民党を破り、真の独立を達成して人民を解放したということなのです。ですからやはり、日本がいかに悪かったか、ということを愛国主義の教育の中に組み込んで、それを中国共産党が永遠に統治を続けていく正統性の根拠とする、という仕組みはかなり明確に論理として打ち立てられているわけです。

私が最初に行ってびっくりしたのは、「日本が侵略をしてけしからん」とか「色々な残虐なことをした」というような話が中国のマスコミに出るのは、石原慎太郎さんのような人が「侵略をしていない」とか「正当だった」とか中国に対する挑戦をして、それに対するリアクションとしてのみ出てくるものだと思っていたらそうではないということです。常に反日・抗日ということはやっているのです。例えば、小渕首相が99年の7月に訪中したその日に、日本人らしい兵隊が鉄兜を被って中国人らしい生首を2つ持ってにっこり笑っているような写真が、中国の新聞に半ページくらい使ってどーんと出るのです。小渕さんは、中国がけしからんと思うようなことを言っているわけでないのにそういった写真が出るということで、中国の人民を教育する為にやはり「日本が悪いのだ」ということを言っていかなきゃならない部分があるということです。「対日抗戦というのは神聖だったのだ」ということが何回も言われているわけです。ですから、日本側の理解としては「充分に謝っていないからそういう批判が出てくるのだ」ということが言われるけれども、日本側はほとんど謝っていないというのが中国側の認識だし、南京についても何も教えていないというのが大体の認識だし、事実関係からして違うのです。

中立の立場にあるアメリカとイギリスの記者が最近かなり思い切ったことを言っている。APの記者で今北京にいる人がいるのですけれども、マーティン・ファクラー (Martin Fackler)という人で、中国が過去の問題を持ち出して日本を叩き続けるのは、まさに先程申し上げたように、「中国共産党の統治の正統性を証明する為に言い続けなければならないことだからだ」という言い方をしています。それからサウス・チャイナ・モーニング・ポストという香港の英字新聞があるのですが、ここでずっと書いているイギリス人のマーク・オニール (Mark O’Neil)という記者がかなり大胆なことを1年位前に書いています。「歴史問題での大部分の中国人の意見は間違った情報に基づいている。中国人民は、日本側で自国の戦争犯罪に関する映画や本が、元兵士、学者、左翼活動家らによって膨大に出されていることを知らされていない。日本の戦後の歴代首相や天皇は自国の戦時の行動に対し謝罪を表明したが、中国側指導者はあえてそれを認めず、日本側がなお不誠実だと非難する。」

結論としてこのオニール記者が言っているのは、なぜ中国がこうした日本糾弾をいつまでも続けるのかという理由として、「それはこの反日政策が大成功であることだ。日本を間断なく攻撃しても中国側には何の不利な結果もないことだ。日本の企業は中国に依然投資を続け、観光客は訪中を依然続け、政府は援助資金を依然として提供し続けてきている。だから中国にとってこれほど便利な外交戦略はない」と。もちろん皆さんの中に反論もあるでしょうが、イギリスの記者からこういう診断が出ているということもまた事実なわけです。

             
やはり中国人にとっては道義の問題なのです。この歴史問題というのは事実を究明していって南京で本当に殺された人が一体何人なのだということを科学的に証明していくことのように思えるけれども、中国での歴史教育がこうだと、日本との共通の分母を見つけるということは非常に難しいと私は思っています。つまり、彼らは、自分達は道義的に2段も3段も高い立場にいると考えているから、この問題に関して日本が何を言ってもだめなんだ、と思わざるを得ない。「心から反省しろ、心から謝れ」ということで、やはり"state of mind"というか、心の問題なのです。彼らから見た日本人の心。だからどうしたらいいか分からない、という部分があるわけです。今、普通の日本人は誰だって、南京で中国人が殺されたということについては申し訳ないということは思うでしょうけれど、「それが充分でない」という心の診断をされたら、一体何を基準にしてその心の診断というものを定義付けたらいいのか分からないという部分があるわけです。ですから、やはり歴史教育というのは国が違うと拠って立つ立場が違うのだから、全て一体になって日中共通の歴史を書くということは全く不可能だ、ということをこの調査の結果として思いました。ですから、"Let’s agree to disagree."という言い方がありますけれども、そのようなアプローチが取れればいいと思うのです。

もう一つ付け加えると、人間というのは、自分の親や祖父母がしたことに対して懲罰を受けなければならないのか、という議論があります。これについては日本でも反論はあるのですけれども。93年頃に、アメリカにジョン・シャリカシュビリという人が統合参謀本部議長に任命された時に議論が起きました。というのは、この人のお父さんは、ウクライナでナチのSSの将校をしていたのです。「そういう人の息子が米軍の一番偉い立場に立つのはおかしいじゃないか」という議論がちらっと出たのですけれども、「人間は親のやったことで懲罰を受けることはないのだ」という主張が出て収まった、という経緯があります。これが日中関係のアナロジーとして適切かどうかは分からないけれども、我々が生まれていない時にあったことについていつまでも謝り続けなければならないのかということについては、やはり議論の余地があるのではないか。もう一つ言えば、その時点で責任者とされた人は皆、懲罰を受けているのです。A級戦犯で絞首刑になった人が10人近くいるし、南京裁判で、BC級戦犯では実に1100人くらいが死刑になったわけです。それでもなお何らかの贖罪をしなければならないか。それ程日本が悪いことをしたのだという意見もあるのでしょうけれど、それについては皆さんの意見を聞きたいくらいなので、このくらいで終わりにし ます。

文責 木下史子氏 (ありがとうございました)

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◆阿修羅サイトにも、中国の反日宣伝工作員がいるようですが、このような日本叩きは日本国民を怒らせて、反中国感情を煽るだけだと言うことに気がつくべきだ。



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