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ブッシュ再選で見えてくる「原理主義国家」アメリカ 田原 牧
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投稿者 愚民党 日時 2005 年 1 月 11 日 01:09:56:ogcGl0q1DMbpk
 

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新春インタビュー アメリカ帝国の行方・上

ブッシュ再選で見えてくる「原理主義国家」アメリカ

東京新聞記者   田原 牧

http://www.bund.org/interview/20050115-1.htm

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たはら・まき

1962年生まれ。95年から1年間、カイロ・アメリカン大学に留学。東京新聞カイロ特派員を経て、現在、東京新聞特別報道部勤務。同志社大学一神教学際研究センターの客員フェロー。著書に『ネオコンとは何か』『イスラーム最前線−記者が見た中東・革命のゆくえ』(田原拓治名)など。
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 昨年末のブッシュ再選では、宗教右派勢力が大きな役割を果たしたと言われる。いまアメリカで何が起きているのか。宗教右派とは何か。同志社大学一神教学際研究センター客員フェローで、アメリカおよび中東・イスラエルの政治・宗教問題に詳しい田原牧さん(東京新聞記者)に聞いた。

「3つのG」ゲイ、ジェンダー、ガン

――ブッシュ再選の要因は、ずばり何でしょう?

★結果は残念ながら予想通りでした。右派が強かったというより、リベラル・左翼が弱すぎた。これは日本でも通用することだと思うのですが。その意味で、今回の大統領選はまず第1に、ブッシュが勝ったというよりは、マイケル・ムーアが負けた選挙だった。マイケル・ムーアに代表される「良識派」は、投票率が上がればブッシュに勝てると言っていた。投票率が上がるということは、理性的・世俗的に物を考える人たちが投票行動をするということ。民衆は宗教右派やネオコンのようなファナティックな人たちに引っ張られている今の共和党に対してノーを突きつけるだろう、とマイケル・ムーアは主張していた。歴史的にも、「投票率が高ければ民主党が有利」という経験則があった。

 ところが今回の選挙では、投票率が格段に上がったにもかかわらず、ブッシュが勝った。ここに問題の本質と、その根深さがあるだろうと思います。

 今回話題になった宗教右派は、70年代後半ぐらいから活動を活発化させてきた。けれども、その当時、いわゆるリベラル――アメリカのなかで左翼といわれる人たちは、宗教右派の活動の活発化についてあまり大きな問題だと思っていなかった。どうしてかというと、リベラルにとって宗教右派のイメージというのは、いわゆる白人男性のイメージ――南部、中西部の白人男性のマッチョなイメージですね。そういう反知性主義は文明の発達の中で自然淘汰されていくものだと考えていた。ところが、そうはならなかった。

 こうした宗教右派の勢力拡大に対して、リベラル派は、結局のところ打つ手がない。右派の壮大な物語に対し、対置すべき物語を持たない。彼らは現在、大きな打撃といいますか、混迷を深めている。

 第2に、9・11からくる恐怖が根深かったがゆえにブッシュが勝ったという評価は、間違いです。そうではなくて、今回の大統領選挙は、物語、すなわち「価値」を争った選挙だった。すでに投票前、ブッシュの大統領顧問カール・ローブは、「恐怖による票はすでに固まっている。これでは不十分だ」と言っていた。実際、AP通信の出口調査でも、「あなたは今回、何を基準に投票しましたか」という質問に、「価値を基準にした」という答えが22%(経済20%、テロ19%)と非常に高かった。

 今回、保守・共和党側は、従来からの教会を核とした草の根作戦に加え、ネット作戦に熱心に取り組みました。そのなかで、注目されたサイトに、「アイ・ボート・バリュー・コム」、つまり「価値に投票する」というサイトがあった。ここにも今回の選挙が「価値を争った選挙」であったことが象徴的に表れている。もちろん、イラク戦争の是非も一つの投票の要素ではあったが、それよりはむしろ人生観を争った。この人生観を先日会ったある研究者が上手に例えていて、3つのGに集約されるというのです。

──三つのジー?  

 「三つのG」というのは、Gay(ゲイ)=同性婚、Gender(ジェンダー)=中絶、家族、それからGun(銃)=銃規制です。これへのアンチと是認を争った。選挙戦を眺めていて、民主党にも勝つ機会はあった。それは5月にアブグレイブ刑務所のスキャンダルが出たときです。ブッシュ政権にとって自由と民主主義のための軍事行動という「戦争の大義」が泥にまみれた。しかし、それからほんの1週間かそこらの時点で、マサチューセッツ州の最高裁が同性婚を認める判決を出した。これがいわば、ブッシュにとっては「神風」になってしまった。身近な価値が再び、争点となったわけです。

凶暴な保守革命の「津波」

 3点目に、ではブッシュの前のクリントン民主党政権はどうだったのか。実はクリントンは、宗教右派を吸収するだけの戦略をもっていた。96年の大統領選でクリントンが直前に出した政策のなかに「宗教教育を充実させる」というのがあった。これはあきらかに宗教右派に対するサービスだった。ひるがえって今回、ケリーはどうだったか。はなから宗教右派の票を捨てていたように見えます。

 ところで私が、キリスト教原理主義とあえて呼ばずに「宗教右派」と呼んでいるのには理由があります。後述するように、宗教右派というのは別にキリスト教に限らない。アメリカの宗教右派には、ユダヤ教も含まれるし、おそらく一部のイスラーム教徒も入ってくるだろう。

 今回の大統領選挙で現れたのは、宗派の問題というよりは、アメリカという国が建国以来、内包している宗教的な啓蒙主義への信仰の深さだったと思います。結果からみれば、アメリカ民衆はそうした「アメリカ主義」ともいえるものへの依存を深めている。それに対し、民主党は何の対策も講じられなかった。この問題についてはあとで改めて詳しく論じます。

 次に4点目。今回の選挙が「価値の対立」であったことは、日本のマスコミも取り上げています。アメリカが二分化された選挙であると。でも、アメリカの二分化は、今に始まった話ではなくて、60年代後半以来ずっと、リベラルと保守の対立は続いてきた。こうしたアメリカの二分化についての日本の新聞の論調は、結局のところ「世俗化しろ。あんまり宗教づくな」と結論づけるのですが、私はそれは非現実的だと思う。

 アメリカというのは、ある種の「宗教国家」なわけです。宗教国家に対して世俗化しろといっても、それは通用しない。むしろ宗教国家であるにしても、その信仰の内容に疑問を投げかける方が、おそらく正しい選択ではないか。これはすなわち原理主義の問題です。「原理主義は傲慢であり、多元と寛容が前提となるべきだ」という問いの建て方はできると思う。だが、世俗化しろというような呼びかけは、おそらく無意味だろう。

 最後に、今回のアメリカ大統領選の結果は、アメリカのリベラル派のみならず日本のリベラル派、左翼、あるいは反ブッシュ的反小泉的な人たちに対しても、大きな問いを投げかけただろうと思います。私たちはブッシュについて「保守反動」という風に考えがちなんですね。保守反動に対して挑むリベラル、という構図で考えてしまう。

 しかし、いまアメリカで進行している事態というのは、非常に凶暴な保守革命なのであって、むしろ、リベラル派――「反戦民主主義派」のほうが保守役を担わされている。詳述は又の機会にするにしても、この「保守革命」は本来、左翼が得意としていたレーニン主義的な前衛と大衆の構造で突っ走っており、それを熟知しているはずの左翼が皮肉にも殴られ放題になっている。何かこう動かない頑とした保守をどう崩そうか、といった発想は完全に間違いです。むしろ保守の方が襲ってくる。さらに彼らの中身に対置するイメージや言葉を左翼が持っていない。マッチョに飲み屋で「ブントの歌」を歌っている団塊の世代と、米国の右派を代表する全米ライフル協会のチャールトン・ヘストンの方が、ゲイと日本の左翼よりはるかに心情的に近いという印象を受けるのですが、これじゃあ左翼は勝てない。あの歌は名曲ですけど(笑)。

神授の「自由と民主主義」

――私たち日本人には、アメリカ国内の宗教問題はよくわからない。そもそも宗教右派というのはどういう勢力なんですか。

★宗教右派というのは、政治勢力的にいえば、共和党内の最大勢力です。宗教右派の論理を私なりにまとめてみると、「アングロ・サクソンが一番であるという優位思想にたった聖書に基づく宗教原理主義」といえると思います。

 その原理主義が力を持ちうるのは、アメリカという国自体が本質的に宗教国家であり、原理主義に対する共感構造を備えているからです。アメリカは決して世俗国家ではない。むしろイランに近いような宗教原理主義国家だとイメージした方がいいかもしれない。これをおさえておかないと、アメリカは理解できない。

 まず、アメリカの建国そのものが現在の宗教右派的な要素を持っていた。1620年でしたか、メイフラワー号が「新大陸」に到着します。初期のアメリカへの移民の動機――表向きの建て前は、「腐敗した欧州のキリスト教世界に対してピューリタニズムによる新天地をつくる」という「宗教的な使命感」が第1にあった。そして、そうした理念が、そもそものアメリカ建国の土台になっている。

 それは、単にキリスト教を広げればいいということではない。先ほどもいったように、アメリカという国は、アングロ・サクソンの思想的優位性ということを意識している。1898年にアメリカは、米西戦争を戦っている。米西戦争はフィリピンをめぐるスペインとの戦争だったのですが、当時すでにフィリピンは90%がキリスト教徒だった。にもかかわらず、時のアメリカ大統領マッキンリーは「フィリピン人を教育し、高め、文明化し、キリスト教化するために、アメリカはフィリピンを統治する必要がある」と言ったのです。

 要するに、アメリカがアングロ・サクソンの思想の最前線であって、もっとも素晴らしいものを持っている。これを世界に輸出しなければならないという話なんです。こうした発想は、イラク戦争であるとか、今日のアメリカの中東政策においても、通じるものです。逆に言えば1898年、100年以上も前から、アメリカの基本的な思考スタンスは全く変わっていない。いわば、アメリカの「DNA」ですね。

 こうしたアメリカの啓蒙主義の中身は、「自由と民主主義」と表現されますが、日本人が考える「自由と民主主義」とはちょっと違う。アメリカ啓蒙主義の「自由と民主主義」というのは「神授」――神がアメリカ人に対して授けたもの――なんですね。彼らはそれを世界に広めていくことが使命だと考えている。

 フランス革命的な、あるいはヨーロッパに根強い宗教的なドグマから解放された上での自由と民主主義とは違う。神が授けた自由と民主主義。なぜ宗教右派が勢力を延ばしているのかといえば、アメリカにそうした土台が存在するからなのです

米国の「市民宗教」

 アメリカは圧倒的にプロテスタントの国ですが、宗教右派のなかでの最大勢力は、プロテスタントのなかの福音主義派(evangelical、エバンジェリカル)と呼ばれる人たちです。福音主義派とは何か。厳密な神学的定義は省略しますが、要するに、「聖書に書かれていることを文字通りに承認する人々」です。ギャロップ社の世論調査によると、アメリカの人口の約40%が福音主義派です。でも、福音主義派の人たちがみな政治的かというととんでもない話で、政治行動・投票行動に熱心に参加する人たちは、この点は同志社大学の森孝一教授が詳しいのですが、彼の著書などによると、1995年にプリンストン大学が行った調査では全人口の18%とのことです。この人たちが原理主義者です。ちなみにアフリカ系アメリカ人の1・5倍です。

 現在の宗教右派の中心は、この福音主義派の中の原理主義派なわけです。が、さっきも言ったように、それだけではない。彼らはあくまで宗教右派の中核ではあるけれども、「アメリカの市民宗教」がここで問題になる。森先生は「見えざる国教」と呼んでいますが、その中身とは何か。それは先ほども言ったアングロ・サクソン的な優位思想にたった聖書に基づくイズムです。そこにはユダヤ教徒、あるいはキリスト教徒のなかでもカソリック、さらには異端的なモルモン教も含まれます。そういう人たちの中で、「世界に冠たるアメリカ」というアングロ・サクソン優位思想にたった上で、神授である自由と民主主義を世界に広める責務を担っていると信じ、個人の信仰を超え、行動を起こす人々すべてが宗教右派なのです。逆にいえば、福音主義者の中にもそうした政治行動に批判的な人々、すなわち宗教右派ではないリベラルな人々もいます。

 繰り返しますが、アメリカの市民宗教=キリスト教ではありません。ブッシュも演説のなかで神とは言いますが、イエス・キリストという単語を使ったことはない。イエス・キリストの名を使ってしまうとユダヤ教徒が入りませんから、決して言わない。

 宗教右派の人達は、地域的には中西部、南部に多いと言われる。確かにそうなのですが、ニューヨークにもロサンゼルスにもいる。決して地域性のみでは語れない。それよりも中身、先ほど言ったような人生観や価値の問題です。アメリカでは60年代にヒッピーに代表されるようなカウンター・カルチャーが出てきてから、ずっと文化戦争(カルチャー・ウオー)が続いています。簡単に言うと、ゲイや銃規制の問題。あるいは中絶の問題などをめぐっての対立です。カウンター・カルチャー的なものに反対する人たちは、当然都会の中にもいる。だいたい、彼らと仲が良いネオコンの起源もニューヨークです。

 今回、カソリックの中でかなりブッシュに投票した人が出ました。カソリックというのは伝統的な民主党の支持母体の一つでした。結局のところ、宗派性というよりはむしろ「信仰の在り方」が問題なのです。モルモン教徒でもユダヤ教徒でも同じですが、「信仰の在り方」こそが宗教右派か否かの分水嶺なのであって、宗教右派というのは特定の宗派を指すものではない。

 ブッシュについて言えば、彼は公には英国国教会の系統に属する「聖公会」(the Protestant Episcopal Church)に所属しており、本来福音主義とは関係ない。しかし、ブッシュ自身は「ボーン・アゲイン」で、この手の人々の信仰は強い。飲んだくれのろくでなしが、奇跡によって真人間に生まれ変わったというので、「ボーン・アゲイン」。これは一つの身体経験です。オウム真理教がなぜあれだけ強かったのかというと、その根底にあるのは身体経験です。全てを捨て去れる快感というか。言ってみれば、カルトに身体経験は付き物で、その強力さを考えるとブッシュ自身が福音主義者かどうかはあまり大きい問題ではない。ブッシュの「信仰の在り方」こそが問題なんです。

 ところが、ブッシュの宗教性については、きちんと注目されてこなかったように思う。ブッシュは、2001年1月の大統領就任演説の中で、「我々は自らの姿に似せて我々を作りたもうたより大きな力によって導かれる」と語っている。「より大きな力」というのは、間違いなく神のことです。それから9・11直後にはブッシュは、「この十字軍によるテロリズムとの闘いは長い時間かかる」という有名なセリフを語っている。

 ブッシュは、そのテロリズムがイスラームだとは決して言わない。しかし、宗教右派の主流であるキリスト教右派を代表する組織モラル・マジョリティー(道徳的多数派)のリーダー、ジェリー・ファルウェルは、「(イスラームの預言者)ムハンマドはテロリストである」と言った。もう一つの大きい団体で、今ちょっと組織的には崩壊しているようですが、キリスト教者連合(クリスチャン・コアリション)のパット・ロバートソンも「イスラーム教徒は邪悪である」と発言した。ブッシュのいうテロリズムはイスラームと重なっているわけです。

 9・11から一周年、イラク戦争開戦にむけてブッシュは、「アメリカの理想は全ての人類の希望である」と演説した。これが啓蒙主義国家アメリカの本質であり、建国以来のDNAなのです。それが今、表面に出てきているだけのことで、宗教右派という特定のカルトが突然現れたのではなくて、もとからあったDNAが全面的に爆発していると見た方がいいでしょう。

 日本人にはアメリカに対する誤解があって、「アメリカ=東部、西海岸のリベラル派」と思っている。それはあくまでもアメリカの一部であって全てではない。むしろ宗教右派のような宗教原理主義こそが、アメリカを揺り動かしている本質なのです。


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(2005年1月15日発行 『SENKI』 1166号4面から)



http://www.bund.org/interview/20050115-1.htm



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