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JMM [Japan Mail Media] 日本の金融機関は「甘やかされている」か?
http://www.asyura2.com/0502/hasan39/msg/390.html
投稿者 愚民党 日時 2005 年 3 月 08 日 07:57:59: ogcGl0q1DMbpk

                              2005年3月7日発行
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JMM [Japan Mail Media]                 No.313 Monday Edition
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                        http://ryumurakami.jmm.co.jp/
▼INDEX▼

■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第313回】

  ■ 回答者(掲載順):

   □中島精也  :伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト
   □真壁昭夫  :信州大学大学院特任教授
   □山崎元   :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
   □菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト
   □津田栄   :経済評論家
   □岡本慎一  :生命保険会社勤務

  ■ 読者からの回答
   □秋山寛   :金融機関勤務

 ■ 『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』


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 ■ 先週号の『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』
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 Q:551への回答ありがとうございました。書き下ろしの小説は著者校正がほと
んど終わり、もうすぐ手を離れます。初めて「登場人物表」を作製しましたが、その
作業に二日かかりました。

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■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第313回目】
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====質問:村上龍============================================================

Q:552
 もうすぐペイオフが解禁されます。この数年のペイオフやゼロ金利を巡る動きを見
ていると、金融機関は「甘やかされている」ような印象を受けてしまいます。実情は
どうなのでしょうか。

============================================================================
※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・
組織の意見・方針ではありません。
______________________________________

 ■ 中島精也  :伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト

 編集長が金融機関は「甘やかされている」ような印象を受ける、と述べておられる
のは庶民的な感情に合致した自然なものかなと察します。ただ、巨額の不良債権に苦
しむ金融機関を自業自得とみなして、仮に政府や日銀が放置しておけば、金融機関の
中で資金調達に支障をきたす恐れがあるところが出てきたのは事実でしょうし、だか
らこそ、それを回避するためにゼロ金利下で潤沢に資金を供給し、またペイオフを延
期することで、そういう金融機関からの預金流出という不測の事態回避に奔走してき
たわけです。

 確かに一人立ちできないので国が手を差し伸べてやったという1点を見れば、金融
機関は「甘やかされている」という結論に到達するのも無理ありません。事業会社は
こんなときには平気でつぶされるじゃないか、という金融機関批判が噴出するのもう
なづけます。しかし、甘やかさなかったらどうなっていたのでしょうか。シミュレー
ションができないので、迂闊なことは申せませんが、金融機関が資金ショートから決
裁不能に陥れば、金融市場でいわゆるシステミック・リスクの問題に発展していた可
能性があります。

 過去数年、事業会社は必死のリストラで過剰3兄弟(過剰設備、過剰債務、過剰雇
用)を解消し、損益分岐点を押し下げることで収益安定につなげました。これが景気
回復のベースになっていることは疑う余地はありません。せっかく、実物経済面で景
気回復の基礎ができつつあるときに、金融機関の資金調達面での不安定性を放置して、
金融機関の中でつぶれるところはつぶれても仕方がない、という政策をやられたら、
事業会社はたまりません。これまでの苦労も台無しになってしまうところでした。経
済の大局的見地に立てば、金融機関の経営がある程度安定化するまでは「甘やかす」
ことも、やむを得なかったと思います。

 その代わり、個々の金融機関への当局の介入は相当に厳しいものになっているよう
です。ひとつが特別検査であり、不良債権の査定見直し、税効果会計における繰り延
べ税金資産の見直しなど従来より破格に厳しいものになっているようです。ですから
多くの金融機関が巨額の不良債権処理を余儀なくされました。もちろん、これが我が
国の金融システムの安定化に寄与したことは言うまでもありません。また、この過程
で、りそなへの公的資金注入が決まりましたし、UFJと東京三菱との合併につな
がっていったわけです。また、特別検査の過程で、銀行が抱える幾つかの案件に関し
て内部告発が相次いだとも報じられており、それがトリガーとなり金融機関内部の権
力構造の変化や体質の転換につながるとの見方もあります。

 また、公的資本が注入されたある銀行の役員OBから聞いたのですが、銀行に電話
を入れても、話をしてくれる行員が少なく、役員OBは敬遠されている、と嘆いてい
ます。多くの方からヒアリングしたわけではありませんので、事の真偽は分かりませ
んが、その役員OBによれば、現役の銀行員が退任した役員OBと接触することは、
禁止ではないが好ましくない、との暗黙の指導があるそうです。

 このように政府・日銀はシステミック・リスクを回避する目的から、量的緩和政策
とペイオフ延期で金融機関の資金調達を安定化させる一方で、不良債権の査定見直し
等を足がかりに金融機関の経営に厳しく介入するやり方で対応しています。要するに
飴とむちの併用であり、これを見ると、決して金融機関は「甘やかされている」の一
言では説明しきれないように思われます。

               伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト:中島精也

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 ■ 真壁昭夫  :エコノミスト

 わが国の金融行政について、奇しくも2月28日の日経新聞に、金融社会主義と題
する記事が出ていました。ここでの金融社会主義の意味するところは、国が金融機関
を手厚くサポートする一方、民間企業である金融機関の自由をかなり制約してきた、
わが国の金融行政のことを指しています。それは、あたかも社会主義的な政策に見え
るので金融社会主義と称しています。この記事の論旨は、こうした金融社会主義から
早く、卒業しなければならないというものです。

 そうした行政のスタンスは、従来、“船団行政”と呼ばれてきました。一群の船団
を組む場合、速度の最も遅い船に合わせて船団全体の速度を落とします。そうしない
と、速度の遅い船がついて来られないからです。一方、速度の速い船は、本来の速度
を出さなくて済みますから楽かもしれませんが、一方で、自由度も押さえられること
になります。わが国の一部業界の行政は、長い間、こうしたスタンスを踏襲してきま
した。結果的に、船団行政のスタンスが、金融社会主義といわれるような状況を作り
上げてしまったといえるでしょう。

 わが国が閉鎖型の社会で、金融機関が海外のコンペティターと競争する必要がなけ
れば、取り敢えず、大きな問題は発生しません。しかし、海外の有力金融機関と競争
しなければならない大手金融機関にとっては、自由度を奪われることは大きなマイナ
スの要因となります。また、本来、私企業である金融機関にとって、経営の裁量を制
限されることは、経営の革新を阻害する要因になる可能性もあります。上記の新聞記
事は、これらの要因を考えれば、早期に、金融社会主義から脱却しなければならない
という論法だったと思います。その通りでしょう。

 ただ、社会主義的な政策が取られていたのは、金融の業界に限らないでしょう。他
の業界も、これに近い状況であったと考えられます。あるとき有名政治家が、「各省
庁の一丁目一番地といわれる業界は、殆どのケースで競争力の強い企業が育っていな
い」と言っていたことを思い出します。彼の言った“一丁目一番地”とは、各省庁が、
大切に育成してきた業界のことを意味します。各省庁が、一生懸命手をかけて育てた
業界は、過保護になると同時に、自由度が奪われるため、どうしても私企業としての
強さや、たくましさが不足するのかもしれません。確かに、何かがあっても、最終的
には役所が助けてくれると思えば、経営者の姿勢も、本来のあるべき姿から離れてし
まうかもしれません。どうしても、役所に対する依頼心が強くなります。それでは、
実力のある企業は、育ち難いはずです。

 経営組織論や戦略論の一部専門家は、「一部のわが国企業には、本当の意味での経
営がない」と言います。これは、戦後、わが国の資産価格が上昇傾向を辿った、いわ
ゆる“右肩上がり伝説”があったことに加えて、各省庁の政策スタンス=船団行政が
あったからだと考えます。こうした行政のスタンスは、短期的には、企業の存続を確
かなものにする効用はあるものの、長期的に見れば、決して企業のプラスにはなりま
せん。特に、金融のように、世界的に有力な企業との競争に対するイクスポジャーの
高い業界では、企業をスポイルさせることにもなりかねません。

 ただし、90年代初頭のバブル崩壊後のバランスシート調整局面では、短期的に、
金融機関の存立を政策的に確保する必要があったと考えます。80年代のバブルが大
規模だったため、その調整圧力は莫大なマグニチュードでした。その後始末は、不良
債権の格好で金融機関に集まってきます。それを、金融機関の体力だけで、償却する
ことは至難の業だったといえます。公的資金の注入や、預金保険制度の拡充は、わが
国に限らず、米国や欧州諸国でも行ったことです。国を挙げての大規模なバランス
シート調整には、必要な措置だと考えれれます。

 しかし、そうした施策は、あくまでも短期的な政策であって、それを長期間続ける
ことは正しい政策ではないと考えます。民間の組織である企業に対して、長期間に
亘って、手厚いサポートを提供し続けると、民間企業としての機能が阻害される可能
性があるからです。80年代半ばのプラザ合意で、急速な円高が進んだ後、輸出企業
は厳しい経営合理化や技術開発によって収益を確保し、現在、わが国の中心的産業分
野に育っています。それを見ても、民間組織である企業を過保護にしてはならないこ
とが分かります。

                      信州大学大学院特任教授:真壁昭夫

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 ■ 山崎元  :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員

 この数年に限っても、行政が、広義の金融機関全般に対して一様に甘いわけではな
いでしょうし、「甘さ」の程度も変化しているように思えます。

 ゼロ金利に加えて量的緩和は、銀行の資金繰り倒産の可能性をほぼ無くし、資金調
達コストを低下させることを通じて銀行の業績をサポートする効果があったと思いま
す。一方、低金利は、長期の契約を持つ生命保険会社(主に日本の古い生命保険会社。
俗に言う「漢字生保」)の、将来の債務の現在価値を上昇させると共に、当面の運用
利回り低下を招き、生保業界は長らく「逆ざや」に苦しんでいます。

 また、銀行破綻時には、預金ばかりか、預金保険に加入していなかった金融債まで
を全額保護したのに対して、生保の破綻の場合には、既存加入者の権利がある程度切
り捨てられる処置が取られるケースがありました。

 銀行は金融システムの根幹であるけれども、生保はそうではない、とういう判断が、
行政側で働いていたと思えます。

 一方、他業態からは、銀行は相対的に優遇されているように見えるわけですが、一
昨年から昨年にかけて問題となった、UFJ銀行の検査忌避問題などを見ると、ここ
2年くらい、特に金融庁の銀行経営陣に対する対応が厳しくなったように思えます。
結局、同行は、不良債権の大幅な積み増しを余儀なくされ、旧経営陣は刑事告発を受
け、三菱東京ファイナンシャルグループとの経営統合に追い込まれ、事実上、経営の
自主性・連続性を失う方向となりました(経営統合はこれからであり、事態はそこま
で進行していませんが、私はそのように予想しています)。

 他行に対する金融検査も厳しくなっているような印象を受けます。不良債権の認識
に加えて、経営のガバナンスの問題までチェックする方向と思われ、これ自体は良い
ことでしょうが(大いに厳しくやるべきです)、金融庁が、銀行に対して過去2年く
らいの間により厳しくなった、という印象を受けます。

 もっとも、大手行に対してはある程度厳しくなった印象ですが、地方銀行に関して
は、不良債権の認識に関しても、経営のあり方に関しても、まだそれほど厳しいとい
う印象を受けません。今後、ペイオフの解禁で、顧客の銀行に対する選別が厳しくな
り、経営が立ちゆかなくなる銀行が現れる可能性がありますが、こうしたケースがど
のように扱われるかが注目されます。

 特に銀行に於いて顕著ですが、金融機関では、個々の社員が貢献に対する報酬を受
け取るのに要する期間が極めて長く、途中で失敗すると過去の評価がフイになるので
社員が保守的になりがちですし、組織の連続性を保つことが重視される傾向がありま
す。一般社員のレベルでは、人材の流動化のコストが上昇し、会社全体がビジネス上
の環境変化に適応することを難しくしていますし、社員全体が共同体的に組織防衛に
向かうので経営層のレベルへのチェックが難しくなりがちです。

 現在、ある程度、行政が経営層をチェックするような役割を担っているようですが、
これは必ずしも好ましいことではありません。特に、官僚が、監督対象の業界の会社
ないし関連団体への天下りが可能な状況の下では、良くありません。

 官僚も、金融機関の社員(特に銀行員)も、人生は「人事が万事」的な行動をする
ので、それぞれの目的の下で、人事システムを変えていく必要があるでしょう。とも
かく、官僚には包括的且つ例外のない「天下り禁止」、金融機関の側では、長期延べ
払い的でない給与・ボーナス・年金などの仕組みの変更と人材の流動化が必要です。

 また、銀行も証券も株式会社でかつ多くは上場会社なので、株主のチェックがもっ
と強化するべきでしょうし、株式市場を通じて経営者が変わったり、企業の分割や統
合などが起こってもいいと思います。この際に、外国人の銀行などへの支配を排除す
る理由もありません。加えて、銀行・証券・生損保の別を問わず、参入や退出がもっ
と容易且つ頻繁に起こるような状態が望ましいでしょう。また、多くの生保に残る、
相互会社という形態は、経営陣へのチェックが働きにくく、「論外」と言える代物で
す。

 一方、行政側では、顧客(たとえば預金者)を保護するために、金融機関(典型的
には公的資金を入れた銀行)を保護するのではなしに、経営に失敗した金融機関は、
いかに大規模な会社であろうと、分け隔て無く、且つ整然と倒産させることが出来る
ような用意が必要でしょう。

 健全な金融システムとは、金融機関が潰れないシステムではなく、どんな金融機関
でも幾つの金融機関でも、整然と潰れることが出来るシステムを意味するべきです。

              経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員:山崎元

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 ■ 菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト

 金融機関が甘やかされているとは言えないと思います。ペイオフが当初解禁予定の
2001年4月から延期されたのも、2001年3月に日銀の量的金融緩和が導入さ
れたのも、金融機関への甘やかしが主目的ではなく、日本の経済や金融市場の安定化
が主目的だったと考えられます。

 ペイオフ解禁延期も量的金融緩和も、直接的な国民負担は見え難いですので、むし
ろ金融機関救済に当たるかどうかの議論は、税金を使う公的資金注入時の方が大き
かったといえます。現在もライブドアによるニッポン放送買収の試みで、放送会社の
公共性が問われていますが、実態経済に与える影響は銀行の公共性の方が大きいとい
えます。バブル崩壊以降、不良債権の実態把握が遅れ、結果として銀行に対する公的
援助が遅れたため、不況が長引く結果になったと判断されます。

 今週はペイオフ解禁と量的金融緩和で興味深い発言がありました。伊藤金融相は金
融システムが安定し、ペイオフ全面解禁の環境が整ったと発言しました。福井日銀総
裁は異例の金融緩和政策の下では行き過ぎに注意する必要があると述べました。信用
スプレッドやイールドカーブのフラット化が、緩和の長期化を過度に織り込んでいる
可能性を注意したものです。

 また、今週はみずほFGが政府保有の優先株を買い入れ消却し、公的資金残高を半
減すると発表しました。日本の経済や金融市場の安定化を目的に行われた緊急避難的
な政策が役目を終えつつあり、政策を正常化へ戻す時期が近づいていることを示しま
す。今後の経済状況や量的金融緩和のタイミングによりますが、短期金利が上がり始
めると、貸出スプレッドが拡大し、銀行に恩恵をもたらす可能性が高いでしょう。

 金融機関は直接的な公的資本注入に加えて、ペイオフ解禁延期や量的金融緩和策の
恩恵を間接的に受けたのは事実でしょうが、金融機関自身も身を切る努力をしました。
現在、大手銀行で銀行名が15年前と変わっていないのは住友信託だけとなりました。
外資系金融機関のリストラほど厳しくないにしても、大手銀行は合併に次ぐ合併を繰
り返す中で、リストラを行ない、管理職や役員のポスト数は少なくなりましたので、
合併行の行員には多大な負担がかかったと推測されます。全国銀行の店舗数は10年
連続で減少し、2004年3月末の店舗数は14060店と、10年前に比べて3千
店も減少しました。

 04年9月末の全国銀行の行員数は29.9万人と、94年3月のピーク46.2
万人の3分の2に減少しました。銀行員数が30万人を割ったのは、70年3月以来
のことです。銀行員の給与も削減されました。会社四季報では単体ベースの平均給与
だけが明らかになりますが、例えば、みずほFGの平均年収は976万円と、好況を
謳歌する大手鉄鋼メーカーJFEの1016万円を下回りました。近年、大手銀行は
人材採用を抑制しすぎたため、来年度以降の大卒採用を増やす銀行が出てきています。

 銀行の儲けすぎや銀行員の給料が高すぎるとの批判は今や聞かれなくなりました。
最近、政府が国家公務員の基本給を全国一律5%引き下げる方針を固めたと報じられ
ました。社会保険庁の数々の問題や、改革が進まない国会議員の寛大な年金を含め、
リストラが遅れて甘えが残るのは、金融機関よりむしろ公的部門と言えましょう。

               メリルリンチ日本証券 ストラテジスト:菊地正俊

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 ■ 津田栄  :経済評論家

 金融機関は「甘やかされている」という印象は、国民の多くが感じているように思
います。確かに、一部の金融機関は、破綻して国有化されたり、合併を選択したりし
て、痛みを負い、行員の給料カットやリストラなどで身を削ることはしました。ただ、
金融機関が自助努力で現在の姿になっているとは国民は見ていないのではないでしょ
うか。そして、依然として顧客を重視しない姿勢を取る金融機関、それを黙認する行
政に対する不満・不信が背景にあるからではないでしょうか。

 まず、金融機関は、日銀のゼロ金利・量的緩和政策という超金融緩和政策によって、
預金者にほとんど利息を払わずに預かった預金などを国債などに運用することができ
ました。それは、長短金利差を利用した確実で約束された収益といえます。その結果、
それを原資として、不良債権処理を進め、経営的に安定に向かいました。

 また、97年の金融システム不安から、政府の公的資金注入を受けて、経営的にも
危険な状況から脱することができました。その公的資金は、最終的には国民の負担で
すが、どうも、金融機関からは、国民への感謝の言葉も聞こえず、立ち直ってからの
国民への還元もなされていません。

 こうした面を見れば、確かに、金融機関は「甘やかされている」、あるいは「優遇
されている」という印象は否めません。ただ、日銀は、一向に解消されないデフレ状
況を考え、ゼロ金利・量的緩和政策を採用し、政府も、金融システム不安を悪化させ
れば、金融機能が麻痺し、恐慌に至る可能性を考慮して、金融機関の信用の下落を食
い止めるために公的資金を注入する選択をしたといえます。それらは、つきつめれば、
国民のためでもあったといえます。

 しかし、それを差し引いても、金融機関は「甘やかされている」と感じるのは、本
来、金融仲介機能を発揮して経済のために資金循環を寄与すべき金融機関が、巨額な
不良債権処理を優先して、資金の必要な企業への貸し出しを避けたり、融資を引き上
げたりする貸し渋り・貸し剥しを行い、本来の機能を停止して、国民に資する社会的
責務を放棄することを監督官庁から許されてきたように見えるからでしょう。

 しかも、手数料の一斉大幅値上げなどで、利用者である多くの国民に負担を負わせ、
4月実施されるペイオフでも、今後金融機関の責任を限定化し、預金者に自己責任と
いう名のリスクを負担させようとしています。また、銀行の偽造カードによる不正引
き出しに対しても、顧客である預金者に誠実な対応をせず、その防止策も講じずに、
全ての責任を預金者に負わせようとしてきました。これに対して、金融庁は、ようや
く重い腰を上げて金融機関に対策を検討するよう命じましたが、それも金融機関に対
する国民の強い反発があったからであって、これまで黙認して間接的に金融機関を擁
護してきました。

 こういう点を考えると、金融機関が「甘やかされている」という裏側に、「甘やか
している」主体である政府の姿があります。確かに、日本経済の重石となり、デフレ
を招いている巨額の不良債権を早期に処理することは、政策として最重要であったこ
とは否定できません。そのために、ある程度、金融機関の状況を踏まえ、経済にとっ
て重要な金融システムを維持する上で、収益の確保や公的資金注入は必要であり、結
果的に優遇せざるを得なかったかもしれません。

 しかしながら、その結果として、金融機関のモラルハザードを生んだともいえまし
ょう。不良債権を早期に処理し、金融システム不安を緩和して、金融機関を存続して
いくために、金融機関は何でもありが許されることになり、それが「甘やかされてい
る」印象となっています。もちろん、金融機関が必要であることは国民も認めます。
ただ、責任を不問に付して、何でも許されるものではないはずです。つまり、金融機
関存続優先のために、責任・負担を預金者に一方的に負わせている状況が、そういう
印象を持たせているのだと思います。

 一方、金融庁は、厳しい特別検査などで、金融機関の不良債権処理を急がせ、それ
に抵抗したり、その内情が酷ければ、厳しい処置をしてきたことをみると、必ずしも
「甘やかしている」とはいえないかもしれません。ただ、それも見方を変えると、金
融庁が自ら策定した金融の将来ヴィジョンに即して行われたもので、それに従う金融
機関には甘く、それに従わない金融機関には厳しく対処するという二面性を感じます。
つまり、以前の行政が上に立って行う金融監督行政に戻ったのであり、今、優位に立
つ金融機関は、金融庁に従順で、優等生として扱われ、「甘やかされている」ともい
えます。

 その意味で、今の金融行政は、金融コングロマリットを容認する方向にあるなど、
銀行中心に回帰している感があり、行政と金融機関は、持ちつ持たれつの関係に戻り
つつあります。そして、金融機関は、過去のように行政の保護の下で、「甘やかされ」
た状況にあり、行政も、金融システム維持という名目のために金融機関を優遇し、
「甘やかしている」という関係になっているのではないでしょうか。その結果、国民
は、金融機関が国民の期待にこたえた存在として脱皮することができず、その身勝手
な姿、それを容認する行政を捉えて、金融機関に対する印象を「甘やかされている」
と感じているのではないでしょうか。

                             経済評論家:津田栄

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 ■ 岡本慎一  :生命保険会社勤務

 第二次大戦が終了すると、いろいろな産業で規制緩和がすすみましたが、銀行業で
は戦中の規制が形を変えて残りました。1947年の「臨時金利調整法」に基づいて
実施された金利規制により、預金金利を中心として利子率は自由に設定することがで
きなくなりました。銀行はコスト競争を回避しましたが、その代わりに商品(預金)
の自由な開発を放棄することになったのです。

 また「業務分野規制」は、銀行を普通銀行、長期信用銀行、信託銀行に分断し、相
互の参入を規制しました。価格競争と新規参入の脅威が失われた銀行業界では、銀行
に既得権益と超過利潤を発生させました。戦前に頻発した取り付け騒ぎなどの混乱を
回避するために残った保護や規制は、半世紀の間に「銀行」と「銀行経営者」を守る
仕組みに変貌してしまいました。

 規制という名の業界保護が銀行や金融システムに与えた影響は、90年代後半以降
の銀行業界の大混乱を見れば明らかでしょう。保護によって甘やかされた銀行業界は
独創性やダイナズムを見失い、不良債権の山を築き、その精算に10年以上を費やし
ました。

 ただ、甘やかしの構図は銀行業界だけの責任ともいえません。市場メカニズムを制
限する経済活動では規制当局による規律付けが不可欠ですが、規制当局は金融システ
ムではなく、銀行や銀行経営者を守る仕組みをつくってしまいました。競争というア
クセルと、規律というブレーキを失った結果、銀行は大きな損失を生み出しました。
その損失の大きさは保護によって得られた利益よりもはるかに大きかったはずでしょ
う。

 しかし90年代末頃から銀行行政は転換し、半世紀以上続いた保護と甘やかしの政
策は変貌しつつあります。相次ぐ合従連衡が新たな寡占構造をもたらすという不安も
ありますが、まずは銀行業界がダイナミズムを回復しつつあることを歓迎すべきで
しょう。

 一部には2000年以降の量的緩和政策が新たな銀行業に対する甘やかしだという
指摘も出ています。確かにゼロ金利は銀行の収益を助ける反面、生保や年金、金利生
活者には厳しい環境を強いていますが、その一方で低金利は景気を支え、住宅ローン
を抱える人達等をはじめとして多くの企業や家計に広く薄い恩恵を与えていることも
事実です。

 全ての政策が所得移転を伴うという現実を踏まえれば、ゼロ金利政策が銀行を甘や
かしていると単純に非難することは難しいでしょう。むしろ銀行にだけ恩恵を与え、
結果的に金融システムを脆弱化させてしまった業界保護政策よりは、ゼロ金利政策の
方がはるかに筋が良い政策だといえると思います。

 ゼロ金利政策は銀行を守るためではなく、日本経済を守る政策のはずです。した
がって、日本経済がデフレを脱却し普通の国に戻ることができた時には迅速な解除が
必要です。ゼロ金利を解除すると銀行が大量に保有する国債価格が下落するから危険
だという声もありますが、これは銀行業界を守る代わりに、デフレを続けろと言って
いるに過ぎません。万能の政策というものが存在しない中で、私は個別業界保護につ
ながる政策よりも、広く薄く恩恵が行き渡る政策の方が、フェアであり効率的である
と考えてます。

                         生命保険会社勤務:岡本慎一

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 ■ 読者からの回答:秋山寛

 他業界経験者としては、金融機関は甘やかされていると実感しています。金融庁検
査など、ここまで行政が介入するか? と思えるほど厳しい面もあるのですが、裏腹
の甘やかされている部分がそれ以上にあると思います。

 また、公共性を大義名分として保護されながら特権意識に甘えているようすなど、
金融機関の実態は、ライブドアへの回答で言及されていた放送業界の実態と似かよっ
ていると思います。免許事業ということで政府の保護・監視のもとにある、天下りを
受け入れて権力と一体化している、など、同じ構造です。それどころか、放送業界は、
権力批判というスピリットを幾分かは併せ持っているため、金融機関のほうが分が悪
いとさえ言えるのではないでしょうか。

「甘やかされている」源泉は、金融機関の公共性という点にあると思います。確かに、
本当に金融システム危機となればかなり広範囲の人間に悪影響を及ぼすことになりま
すが、現在のように情報と金融のネットワークが発達した状況下において、アクシデ
ントとしては、あまり起こり得ないと思われます。

 情報ネットワークの発達により、情報はかなり早く伝わりますし、早すぎて誤った
風説が流れたとしても、リカバーする情報が流れるのにも、それほどの時間を必要と
しません。また、金融ネットワークの発達により、マネーの流れは複線化しています
(ネットワークの脆弱さという面では、極端に保守的な日銀ネットが一番危険かもし
れません)。

 起こりうるのは、あくまでも個々の銀行の倒産に伴う混乱程度だと思われます。も
ちろん多少の混乱は有るにしろ、決済に関しては業務継承金融機関が行いますし、預
金に関してもペイオフなどにより対応は確定しており、個々の預金者の自己管理の範
疇で収まる範囲のリスクだと思われます。つまり、セーフティネットは、ある程度整
備されているのです。そうであれば、あとは、個々の金融機関が市場の中で自由に動
いたほうが、金融業界全体の発展のためには有効であるように思います。

 かつて北海道銀行が無くなったため北海道経済が大打撃を受けた、というような話
もありましたが、今から考えれば、あれは一銀行の影響ではなく、構造不況により日
本の地方部の経済が崩壊したという話の一部であった気がします。

 つまり、多少のオーバーシュトはあるにしろ、日本経済がブラックアウトしてしま
うような金融システム危機が起こる可能性は低いといえると思います。現在、マスコ
ミで言われている金融システム危機とは、本来の意味の金融システム危機ではなく、
金融機関自身の自浄作用不全やそれから派生した、問題先送りに起因する不良債権な
どを大げさに言っているのに過ぎないと思います。はっきり言って、金融機関の組織
だけを残し、責任者たる経営幹部に責任を取ってもらい、交代させれば大方片付く話
だと思います。

 金融システム危機を大げさに言い立てているのは、まだ、金貸しの延長の発想しか
ないことの裏返しです。もう勝負は、金融情報のフィールドに入っています。金融機
関が抱える豊富な・質の高い情報をいかに活用していくか、新しいルールのなかでい
かに早く・効率的に進んでいけるか、そうしたことが力を注ぐべきポイントなのです。

 それに、もし金融機関の公共性を担わせるとしたら、郵便貯金をその役割に充てる
のが最もシンプルかつ合理的です。なぜなら、民間金融機関は「公共性も」あるので
すが、郵便貯金は「公共のために」あるのですから。

 最も明解なのは、金融の公共性は郵便貯金が担い、民間金融機関は市場のルールな
かで、目一杯それぞれ独自の方法で顧客のニーズを満たしていく、というものです。
公共性に反する行為が横行するようになると思われるかもしれませんが、今日、公共
性を放棄した形で、まっとうな企業が成り立っていけるはずはありません。

 抽象的な「公共のため」ではなく、「お客様のため」に、金融機関はその能力を発
揮し、競いあってより高度なサービスを提供することこそ、シームレスな現代社会で
は、結果として最も公共のためになることにつながるのです。

                            金融機関勤務:秋山寛

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■■編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■

 Q:552への回答ありがとうございました。あと1日で書き下ろし小説『半島を
出よ』がすべて著者の手を離れます。いわゆる校了を迎えます。見本ができるまでは、
ほかの仕事が手につきません。ボーっとして日々を過ごしています。

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Q:601
 わたしが生まれ育った高度成長期、「経済成長」という言葉はごく自然なものとし
て耳に入ってきました。成熟期に入ったとされる現在、「経済成長」について、どの
ように考えればいいのでしょうか。つまり、そもそも日本の「経済」は「成長」すべ
きなのか、日本経済にはどの程度成長の余地があるのか、今の中国のような「経済成
長」がバブル以外で可能なのか、そういったことです。

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                                   村上龍

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