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米露の接近、英の孤立(2) 田中宇の国際ニュース解説 2008年3月25日
http://www.asyura2.com/0502/nametoroku3/msg/1249.html
投稿者 金太郎 日時 2008 年 3 月 26 日 01:23:09: IcZ79wqW1Ct9I

この記事は「米露の接近、英の孤立」の続きです。
http://tanakanews.com/080322russia.htm

 第2次世界大戦以来、イギリスの国家戦略の大黒柱は、欧米、特にアメリカ
をロシアと末永く対立させることだった。伝統的・地理的に、イギリスの世界
戦略は「ユーラシア(ロシア、中国)包囲網」である。

 これに対し、ユーラシアとは別の北米大陸をほとんど占有しているアメリカ
の世界戦略は、もともと「各地域に代表勢力がいて、その勢力間で話し合って
世界を安定させる」という「対ユーラシア不干渉主義(多極主義)」である。
1890年代まで、世界はイギリスの覇権下にあったが、アメリカはこの時
代、イギリスの覇権の外にとどまる姿勢をとっていた。

 その後、二度の大戦を経て、イギリスは覇権が弱体化した。だが同時にイギ
リスは、アメリカに覇権国としてのノウハウを提供し、1945年に第二次大
戦が終わったときには、アメリカが覇権国になり、イギリスはアメリカとの
「特別な同盟関係」を通じて、黒幕的にアメリカの覇権戦略を動かす存在になった。

 アメリカの政界や財界は、覇権国としての利権を享受できるようになったが、
その見返りとして、アメリカの世界戦略はイギリス好みのユーラシア包囲網へ
と変質し、不干渉主義は孤立主義と呼ばれ、悪いこととされた。アメリカの国
務省、諜報機関、ジャーナリズムやアカデミズムなどは、いずれも1945年
までの50年ほどの間に、イギリスから考え方の基本を注入された上で発展し、
学者や記者や官僚らの間では、イギリス的な世界戦略を語る人が「優秀」だと
いう評価のされ方が定着していった。

 アメリカの伝統的な不干渉主義の世界戦略は、しつこく残っていた。第2次
大戦後、アメリカは国連の創設を主導したが、そこでは世界の安定について談
合する安保理事会の常任理事国として、米英仏のほか、ソ連と中国が選ばれ、
アメリカの多極的な世界観が反映されていた。

 イギリスは、この体制を潰すため、50年かけて作った米国内の政財界やジ
ャーナリズム、アカデミズムの親英派ネットワークを使って米国内の世論を
「反共産主義」の方向に強く誘導し「赤狩り」キャンペーンなどで、ソ連や中
国を容認する勢力を米主流から追放した。ソ連を封じ込めることが、アメリカ
の最重要戦略になったが、これはまさにイギリスにとって都合の良い戦略であ
り、アメリカの伝統的な不干渉主義とは正反対のものだった。

 アメリカのマスコミは「自由と民主主義を弾圧する共産主義をやっつけよう」
という論調を喧伝し、米世論を反共の方向に持っていったが、この論調の「共
産主義」の部分を「イスラム教」や「サダム・フセイン」に変えたのが、昨今
のテロ戦争やイラク戦争の構図である。第2次大戦中は、この部分が「ナチ
ス」や「軍国主義日本」だった。これらのすべての喧伝は、イギリスにとって
都合の良い「米英による覇権主義」を実現し、アメリカ伝統の不干渉主義
(対外寛容主義)を潰すものとなっている。

(テロ戦争やイラク戦争は、イギリスよりイスラエルにとって都合の良い戦略
であるが、イスラエルは1970年代以来、アメリカを牛耳る技能をイギリス
からもらってアメリカに食い込み、アメリカの戦略を「米英イスラエルによる
覇権主義」の方向に引っ張るための、イギリスの代理勢力として機能してきた)

 冷戦が開始された後、欧米間の軍事同盟であるNATOが1948年に設立
された、NATOは、米英同盟が西欧諸国を傘下に入れ、ソ連側と対峙するた
めの同盟体であり「米英による覇権主義」を軍事面で具現化する組織として機
能した。

 米英がNATOを作った直後、ソ連は支配下の東欧とともに、対抗組織とし
て「ワルシャワ条約機構」を作ったが、これは米英に誘発された行為である。
NATOとワルシャワ条約機構が永続的に対立し、アメリカは恒久的にイギリ
スの世界戦略を自国の戦略として採用し、西欧や日韓を傘下に入れ、ソ連や中
国と対立し続けるという、イギリス好みの世界ができあがった。

▼ユーゴ紛争介入は冷戦復活を目指す戦略

 その後、1960年代にはケネディ大統領が米ソ冷戦を終わらせようとして
暗殺され、1970年代にはニクソン大統領が中国訪問などで冷戦を終わらせ
ようとしてウォーターゲート事件によって失脚させられた。

 60−70年代に、イギリスは国家としての衰退がひどくなり「政治活動家
国家」ともいうべきイスラエルに、アメリカを牛耳って「米英イスラエル覇権
主義」の戦略を維持させる役目を任せた。1980年代に、イスラエルに支援
されてレーガン政権ができたが、レーガンは「英イスラエルの言いなりのふり
をして、実はその逆」という、今のブッシュ政権がやっている策略の先鞭をつ
け、ゴルバチョフと談合して冷戦を終わらせてしまった。

(またレーガン政権は最後の1年間で、本当は反イスラエルだが表向きイスラ
エルと和解するふりをしたPLOのアラファトを、亡命先のチュニジアからガ
ザに帰還させ、パレスチナ国家を作る中東和平交渉をスタートさせた。当時か
ら今まで、中東和平の隠された意味は、パレスチナ側に力を付けさせ、最終的
にイスラエルを潰させることである。アメリカはイスラエルに「パレスチナ国
家の首脳を傀儡化すれば怖くない」となだめたが、欧米に対する疑心暗鬼が消
えないイスラエルは、いったん受け入れた和平構想を、90年代後半から拒否
し続けている)

 冷戦終結とともに、アメリカでは「もうNATOは不要だ」という議論が強
まった。EUは、経済統合を進めた後、政治・軍事統合への道を模索し始め
た。90年代の米クリントン政権は、経済は金融の米英中心主義だったが、政
治・軍事では米英中心主義を脱する方向をとり「欧州の防衛はEU統合軍を設
立することで良いじゃないか」という隠然としたNATO不要論をとった。

 イギリスや、米軍事産業などアメリカの米英中心主義勢力は、90年代に起
きた旧ユーゴスラビアの紛争を使って、欧米とロシアが対立する冷戦の構図を
復活させようとした。旧ユーゴの中核をなすセルビアは、ロシアと同じスラブ
民族の国であり、米英の扇動によって、ボスニアやコソボなど、セルビア人以
外の旧ユーゴ内の諸民族が分離独立を希求するほど、セルビアを擁護するロシ
アと、周辺諸民族を擁護する欧米との対立が深まる構図だった。

 99年には、国連でのロシアの反対を無視し、NATOがセルビアを空爆し
た。米英中心主義勢力は、米軍の地上軍をコソボに派兵させようとしたが、ク
リントン政権は冷戦再発につながる泥沼化を恐れて拒否し、その後はコソボ問
題をEUに任せる態度をとり、危機を棚上げして沈静化させた。

▼米英中心主義のためイラク参戦した英

 同時期に中東では、イラクのフセイン政権を許して制裁を緩和しようとする
クリントン政権の動きを、イスラエル系の在米勢力が阻止しつつ「いずれアメ
リカでイスラム教徒のテロが起きる」という「テロ戦争」の構図を浮上させ、
これらは2001年の911テロ事件で一気に現実化した。

 しかし、イスラエル系の勢力(ネオコン)の中には「イスラエルの代理人の
ふりをした、多極主義者の代理人」が混じっていたようで、03年からのイラ
ク戦争は失敗続きで泥沼化し、開戦事由だったはずの大量破壊兵器は見つから
ず、テロ戦争はイスラム世界の反米感情を不必要に扇動し、イスラエルを不利
にした。(開戦前から「イラクは大量破壊兵器を持っていない」と、イギリス
の新聞などで報じられていた)

 米英イスラエル中心主義に基づく「新冷戦戦略」のはずだった「100年の
テロ戦争」は、ブッシュ政権のやりすぎによって失敗していった。ブッシュ政
権は02年に「単独覇権主義」の戦略を表明したが、これは「世界最強のアメ
リカには、あらゆる同盟が不要である」という宣言で、意味するところは
「米英同盟や、NATOは要らない」という反英的な宣言だった。

 ブレア政権のイギリスは、アメリカを何とか米英中心主義の方向に引き戻そ
うとして、ブッシュの戦争にとことんつき合う戦略をとった。イラク戦争の直
前、ブッシュはブレアに「米軍だけでやれるので、貴国は参戦しなくていい」
と言ったが、ブレアは「ぜひ一緒に参戦させてくれ」と押し売りし、米英連合
軍でのイラク侵攻となった。
http://news.independent.co.uk/world/politics/article3112818.ece

 ブレアは、一緒に参戦すれば、フセイン政権打倒後のイラクの統治は米英共
同になり、アメリカの中東戦略を裏で牛耳る黒幕になれると考えたが、その見
通しは甘かった。英軍はイラク南部だけを担当させられ、バグダッドでのイラ
ク全体の政策決定はアメリカだけで進められ、イギリスは参加できなかった。

▼EU統合軍に取って代わられるNATO

 イギリスの米英中心主義戦略の破綻が色濃くなる中、アメリカはイギリスに
「米軍はイラクに専念したいので、アフガニスタン占領をNATOでやらない
か」と持ち掛けた。NATOの新たな役割を探しあぐねていたイギリスは、喜
んでこの戦略に乗った。

 しかし、これは隠れ多極主義の米ブッシュ政権が仕掛けた、NATO潰しの
罠だったようだ。「主な戦闘が終わっているので、NATOは復興支援だけや
れば良い」という話だったのが、実際に2006年にNATO軍が駐留の主役
になってみると、山岳地帯からタリバンが出てきて戦闘が激化し、NATOは
窮地に陥った。ドイツなどはアフガンから撤退したがり、アメリカの新聞には
「アフガンで失敗したら、NATOは解体を余儀なくされるだろう」といっ
た、多極主義者のほくそ笑みのような解説記事が出るようになった。
http://tanakanews.com/g1207NATO.htm
http://www.presstv.ir/detail.aspx?id=44724§ionid=3510203
http://fairuse.100webcustomers.com/itsonlyfair/latimes0086.html

 そんな中で出てきたのが、今回の「ロシアがNATOのアフガニスタン占領
に協力する」という、アメリカがロシアにこっそり提案し、ロシアが乗り、
4月初めのブカレストでのNATOサミットで正式に協議される構想である。
NATOは、ロシアの協力を得て窮地を脱するだろう。だが同時に、NATO
がイギリスの「アメリカに欧米を主導させ、ロシアと対峙させる」という世界
戦略のための組織だったことを考えると、ロシアに助けてもらった後のNATO
は結束力を失い、解体に向かうことが予測される。

 イラク戦争後、EUは軍事・政治統合を加速している。05年には「EU憲法」
の草案が加盟各国で国民投票や議会決議にかけられ、フランスとオランダの国
民投票で否決され、一時は葬り去られたかに見えた。しかしその後、昨年にな
って、EU憲法とほとんど同じ内容のものが、今度は「リスボン条約」として
検討され、昨年12月にポルトガルのリスボンで、EU加盟諸国の代表がこの
条約に署名した。すでに多くの国の議会がリスボン条約を批准しており、
05年に国民投票で否決されたフランスでも議会が批准決議を通した。
http://tanakanews.com/f0611EU.htm
http://www.conservatives.com/tile.do?def=news.story.page&obj_id=142045&speeches=1

 05年の「憲法」とは異なり、今回のは「条約」なので、国民投票は不要で、
各国の議会での批准決議だけで発効できるのがポイントである。憲法と条約は、
形式こそ違うが中身はほとんど同じで、EUに大統領と外務防衛大臣のポスト
を作り(すでにある名目的なポストを、実質的なものとして強化する)、これ
までEU各国が個別に保有していた外交と軍事に関する国家主権を、EUに
統合していこうとするものである。

 今の速度で進むと、EUは今後数年以内に、統合的な外交軍事戦略を持つよ
うになる。EU軍の創設も進むだろう。すでに軍事統合の準備事務局のような
ものが、ブリュッセルのEU中央にできている。実体的な兵力を持ったEU統
合軍が立ち上がってきたら、もはや欧州にはNATOは必要なくなる。

 NATOがアフガニスタン占領を成功できていたら、今後EU軍が作られて
も、欧州の防衛はEU軍が担当し、欧州の周辺地域での安定維持はNATOが
担当するという分担が成り立ち得た。しかしNATOのアフガン占領が失敗し、
代わりにロシア中心のCSTOや、中露連携の上海協力機構が、アフガン・
パキスタン・イランなどを取り込んで面倒見るという話になってくる今後は、
アフガンなどの南アジアはNATOの管轄地域ではなく、露中やインドが面倒
見る地域だという見方が強くなる。イランと、サウジアラビアなどアラブ諸国
との結束も強まり、中東も今後は安全保障面で欧米から自立していくだろう。

 ユーラシア大陸の各地域は、地元の大国が中心になって安定維持や紛争解決
をやっていくという多極的な覇権体制が浮上しつつある。ユーラシア全体を米
英中心のNATOが面倒見て、米英を敵視するロシアなどを包囲するというイ
ギリスの戦略は、存在する余地がなくなってきている。NATOがロシアの助
けを受けてアフガンから撤退することは、NATOの「安楽死」を意味するこ
とになるだろう。同時に、イギリスが戦後60年間、アメリカを操って黒幕的
に維持してきたユーラシア包囲網の戦略も終わり、アメリカはようやく昔の不
干渉主義に戻れるようになる。

 戦後一貫して、ユーラシア包囲網の東の要衝だった日本も、その任を解かれ、
世界の中での位置づけが変わっていかざるを得ない。日米同盟は解消の方向で、
日本は中露を重視するようになるだろう。

▼EUもロシアと戦略対話

 最近、ブッシュ政権がロシアとの関係を改善していく方向をたどりだしたの
と同期するかのように、EUとロシアは、06年から頓挫していた、欧露の新
たな協調関係について話し合う戦略対話を、4月に再開することを決めた。欧
露の戦略対話は、イラク戦争後、覇権主義を強めたアメリカを頼って、伝統的
なロシア敵視の傾向を再燃させたポーランドとリトアニアがEU内の合意に拒
否権を発動して潰し、EUとしてロシアに対して協調的な姿勢をとれなくなっ
たため、頓挫していた。
http://www.guardian.co.uk/feedarticle?id=7397661

 しかし昨年、アメリカの覇権主義が破綻色を強め、ポーランドではアメリカ
を頼れないと考える世論が広がって、昨年末の選挙で政権交代が起こって反露
・反独的な傾向が弱まった。東欧諸国では全体的に反露的な姿勢が沈静化し、
EUはロシアと戦略対話の再開にこぎつけた。(ポーランドは、アメリカのイ
ラク占領に全力で協力して派兵したが、アメリカはその見返りを何もくれなか
った)

 ロシア近傍では、まだ反露的な姿勢を残すグルジアとウクライナがNATO
加盟を強く希望しており、グルジアのサーカシビリ大統領は先週、訪米してブ
ッシュ大統領に会い、NATO加盟への支持を取り付けた。しかし、ブッシュ
の約束は口だけだ。米政府の全体としては、ロシアの反対を押し切ってグルジ
ア・ウクライナのNATO加盟を実現してやる気はない。EUの中核であるド
イツとフランスは、ロシアの反対を重視し、両国のNATO加盟に反対している。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/03/23/AR2008032301419.html

▼イギリスのスパイだったオリガルヒ

 イギリスは、冷戦を起こして欧米にロシア敵視戦略をとらせただけでなく、
冷戦後は、欧米中心の国際社会に入れてもらえるものと考えて、国有企業の民
営化などの市場原理導入を進めたロシアを逆手にとって混乱させる戦略を続けた。

 冷戦後のロシアでは「オリガルヒ(オリガーキー)」と呼ばれる何十人かの
新興財閥が登場した。彼らは、民営化される国有企業の株を巧みに買い漁り、
石油や鉱物資源など、ロシアの主要な産業を買い占めた。彼らは、資金力を使
って政界に入り込み、エリツィン政権の中枢に入ってロシア政府を牛耳った
が、その時期のロシアは国民が貧しくなり、治安は悪化し、ひどい状態だった。

 このロシアの窮状を救ったのが、2000年から大統領になったプーチンの
政権で、主要なオリガルヒに相次いで脱税などの罪をかけて逮捕し、民営化の
どさくさの中でオリガルヒが取得したエネルギーなど主要産業を没収し、再国
有化した。オリガルヒの何人かは海外に亡命したが、その行き先はみんなイギ
リスだった(イスラエルに亡命した者も少数いる)。
http://tanakanews.com/e0316russia.htm

 オリガルヒの多くは、最初から企業の買収や経営の技能があったわけではな
く、ソ連崩壊までは、技術者や教師など、企業の買収や経営とは全く関係ない
仕事に就いていた。ノウハウのない彼らが、どうやって数年間で新興財閥にの
し上がったのか。そして、プーチンに退治された後の亡命先が、なぜみんなイ
ギリスなのか。

 おそらくオリガルヒたちは、イギリスが冷戦後のロシアを弱体化させておく
ために支援した勢力である。イギリスは冷戦時代から、イスラエルとつながり
があるユダヤ系ロシア人などを使って、ソ連国内にある程度のスパイ網を持ち、
冷戦後はスパイ網を一挙に拡大させ、その過程で接点があった何人かのロシア
人に企業買収の情報やノウハウ、資金などを供給し、オリガルヒとして台頭さ
せたのだろう。オリガルヒの多くはユダヤ系だ。
http://tanakanews.com/e0309russia.htm

 エリツィンに評価され、2000年に大統領となったプーチンは、おそらく
就任前から、オリガルヒを退治して、彼らが私物化していたエネルギーや鉱物
資源の企業を没収して再国有化することを目標としていた。プーチンは諜報機
関KGBの出身だから、ロシアがイギリスでスパイをやったり、オリガルヒを
使って混乱を助長していたことは、よく知っていたはずだ。強いロシアを取り
戻すためには、イギリスによる破壊活動を止める必要があった。

▼イギリスとのスパイ戦争に勝つロシア

 米英がイラク占領に失敗し、世界的に外交力を失った2006年ごろまでに
は、プーチンはオリガルヒ退治を完了し、黒幕であるイギリスをロシアから追
い出す戦略に着手した。イギリス系の石油会社が冷戦後にオリガルヒから買っ
た石油開発権などを、次々と理由をつけて安く手放させ、再国有化した。

 昨年には、イギリスに亡命したオリガルヒであるベレゾフスキーの手下とし
て動いていたロシア人リトビネンコが、放射性物質で謎の死を遂げる事件があ
ったが、これも英露どちらが仕掛けたのかはわからないものの、英露のスパイ
間の戦いであろう。ロシア政府は最近、モスクワなどにあるブリティッシュ・
カウンシル(英政府の文化交流施設)が、スパイ行為を行っているとして閉鎖
を命じた。これも英露のスパイ戦争であり、英マスコミが報じているような、
ロシアによる無根拠な攻撃ではない。
http://www.guardian.co.uk/world/2008/mar/21/russia.foreignpolicy

 3月19日には、イギリスの石油会社BPがロシア企業と合弁で作っている
モスクワの石油ガス会社に、ロシア当局が強制捜査に入り、翌日にはロシア人
従業員らがスパイ容疑で逮捕された。ロシア政府は、BPがロシア国内に持っ
ている石油ガスの利権を没収(格安買い上げ)することを狙っている、と英側
は考えている。この合弁企業の油田の産油量はロシア第3位で、BPは全社的
な原油生産量の2割を、この合弁会社の油田から出している。
http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=20601087&sid=aDIOOr9cws34
http://www.reuters.com/article/marketsNews/idUSN1933086620080319

 ロシア政府は、欧米全体を標的にしているように受け取られているが、必ず
しもそうではない。BPの合弁会社がロシア当局に強制捜査され、対露投資を
奪われる過程に入った翌日、フランスの石油ガス会社トタールの幹部は米AP
通信社の取材に応えて「石油ガス部門におけるロシアの投資環境は安定してい
る。ロシア政府のガス会社ガスプロムと、新たなガス田を開発したい」と述べ
ている。
http://www.iht.com/articles/ap/2008/03/19/business/EU-FIN-France-Russia-Total.php

 英露間のスパイ戦争は、2000年にプーチン大統領が就任するまではイギ
リスの優勢だったが、その後はロシアが巻き返し、今では完全にロシアの勝ち
になっている。ロシアの次期大統領になるメドベージェフは、若いころからの
プーチンの忠実な部下だから、イギリスを痛めつけるロシアの戦略は、今後も
変わらないだろう。
http://news.ft.com/cms/s/72ede4b6-e626-11dc-8398-0000779fd2ac.html

▼アメリカから距離を置き出したイギリス

 米ブッシュ政権は、表向きはイギリスに味方しているが、本質的にはロシア
の味方である。米露が戦略対話を進展させ、NATOのアフガン占領の窮地を
ロシアに救ってもらうことでNATOの存在意義を消失させようとしているこ
とが、ブッシュの「隠れ親露戦略」「ロシアを敵視しすぎることによって強化
する戦略」を象徴している。

 イギリス政府は、昨年夏にブラウン政権になってから、アメリカとの関係を
「特別な関係」と呼ぶことをやめている。イギリスにとってアメリカは「最も
重要な諸国の一つ」に格下げされた。米英の外交官たちは、アメリカにとって
欧州で最も重要な国は、イギリスからサルコジのフランスに交代したと指摘し
ている。アメリカ国務省では「イギリスはすでに、わが国の外交的な視界から
ほとんど消えてしまった。ブラウンには失望した」と言われている。
http://www.telegraph.co.uk/news/main.jhtml?xml=/news/2008/03/16/wspecial116.xml

 この件を報じた英テレグラフ紙は、米英関係の悪化はブラウン新首相の個性
に原因があると指摘しているが、そんなはずはない。イギリスにとって絶対的
に重要な国家戦略は、アメリカと特別な関係を続け、アメリカを操ってイギリ
ス好みの世界支配を続けさせることである。これができなくったら、イギリス
は世界一の外交力を失い、単なるさえない中規模な国に転落する。英政府が
「特別な関係」と言わなくなったのは、もうアメリカは二度とイギリス好みの
戦略をとってくれないだろうと、英政府が考えていることを意味している。

 アメリカは来年から大統領が替わる。ヒラリーやオバマが当選したら、アメ
リカは以前のような、イギリス好みの「国際協調主義」を復活してくれるかも
しれない。それなのになぜ、イギリスは緊密な対米関係を維持しないのか。こ
れに対しては明確な答えはないが、ドイツのフィッシャー元外相は今年2月に
すでに「誰が米次期大統領になろうと、アメリカが以前のような対欧協調路線
に戻る可能性は非常に低い。アメリカは欧州(EU)が、アメリカに頼らず世
界に責任を持つ(独自の覇権勢力になる)ことを望んでいる」と書いている。
http://www.dailystar.com.lb/article.asp?edition_id=1&categ_id=5&article_id=88619

▼アメリカがダメならEUを牛耳る

 イギリスの黒幕的な世界戦略は急速に破綻している。だがイギリスはしぶと
い。アメリカを牛耳れないなら、代わりにEUを牛耳ろうと動き出している。
たとえば、今後EUが決める大統領のポストに、ブレア英前首相を推す話が出
てきている。
http://www.ft.com/cms/s/0/f73df906-d805-11dc-98f7-0000779fd2ac.html

 また今後、米金融危機の中でドルが急速に価値を失い、代わりにユーロが国
際基軸通貨になっていくかもしれないと予測されているが、それに呼応して
「イギリスが通貨をユーロに切り替え、ロンドンがユーロ圏の金融の中心にな
る」という構想が出てきている。基軸通貨がドルからユーロに代わり、世界的
な金融の中心をニューヨークからロンドンに戻す策略である。
http://www.ft.com/cms/s/0/5fe5773a-f8eb-11dc-bcf3-000077b07658.html

 しかしその一方で、ドイツは、ロシアとEUの関係を緊密にして、イギリス
がEUを牛耳って反ロシア的な方向に持っていくことを阻止しようとしている。
ロシアはすでに欧州が暖房用などに消費する天然ガスの3割を供給し、米英の
新聞では「ロシアはEUをガスで縛り、反露的な姿勢をとれないようにしてい
る」とロシア批判をしている。

 だが実は、ドイツはむしろロシアに縛られたがっている。ドイツは「ガスで
ロシアに縛られているので、イギリスが主張するような反露的な態度はとれな
い」と言えるからだ。フランスも、ドイツほどではないものの、親露的な態度
をとっている。ロシアと欧米の関係がどうなるか、今年から2−3年間の暗闘
の結果が、今後数十年の未来を決めることになるかもしれない。

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