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NOといえるサラリーマン(Asahi.Com) ー内部告発したサラリーマンのお話
http://www.asyura2.com/0502/nihon16/msg/274.html
投稿者 ああ、やっぱり 日時 2005 年 2 月 18 日 00:40:47: 5/1orr4gevN/c

NOといえるサラリーマン
http://www.asahi.com/job/special/TKY200502160332.html

 偽造、粉飾、ニセ表示。職場の暴走が企業を滅ぼす。誰かが警鐘を発すれば、芽は小さいうちに摘まれるが、「NOという社員」は裏切り者、組織の敵として排除される。これは勇気ある告発に踏み切った人の戦いの日々である。(編集委員・山田厚史)

   ◇      ◇

 警部補への昇進試験の日だった。

 当時30歳。愛媛県警の巡査部長、仙波敏郎さん(55)は「試験の点も悪くない」と面接官に言われ、「合格だな」と手応えを感じ署に戻った。副署長に、

 「なんとか、いくでしょう」

 と控えめに結果を報告すると、

 「キミは、通らんよ」

 一瞬、耳を疑った。

 「アレを書いておらんからなぁ」

 副署長は表情を曇らせた。アレが裏金作りの領収書であることはすぐに分かった。

 一枚3000円ほどの偽領収書を量産し、警察は裏金をプールする。筆跡を変えるため多くの管理職警官が動員される。この数年こそ、この慣行は全国で問題化しているが、当時は日常の風景だった。

 遡ること6年前、その年の受験者最年少で巡査部長に昇格した秋のことだった。署の廊下で、会計課長に呼ばれた。

 「これ書いてよ」

 紙に何人かの氏名があった。いっしょに縦5センチ横10センチくらいの用紙を何枚か渡された。領収額3000円とある。住所・氏名・日付は空白。そこに渡された名前と住所を書いてくれ、という。

 「何ですか、これ?」

 「領収書だ、みんな書いてる」

 と言う会計課長に、

 「こんなことしていいんですか」

 と言い返した。

 その場は終わったが、翌春、同じやりとりが繰り返されたとき、

 「これは私文書偽造でしょ。犯罪に巻き込むのか」

 と言ってしまった。

 「正しいことを言ったまでです」

 呼ばれた署長室では抗弁したが「言い方が悪い。もっと皆のことを考えろ」と注意された。

 その後、職場が変わるたびに、「偽造領収書」の作成を頼まれたが一度も応じたことはない。

 「今からでも遅くはない。書け」

 定年間近な副署長は諭すような口調だった。将来を棒に振ることはない、地位を得て組織を正す道もある、と説得されたが、筋を曲げる気にはなれなかった。

 警部補昇進試験の翌朝、県警本部にいる先輩に、昇格リストを調べてもらった。しばらくして、

 「キミの名前はない」

 受話器の声に、愕然とした。

 会見4日後に人事異動

 それから25年、今年1月20日、仙波さんは松山市の弁護士会館で記者会見した。

 「最初に領収書の偽造を頼まれてから12の部署に勤務したが、10年前までほぼ毎年同じような指示を受けた」「県警はウミを出し切って再出発すべきだ」

 告発に踏み切ったきっかけは、

 昨年5月、愛媛県警大洲署の元会計課長の暴露だった。偽領収書を作っていた本人の証言だったが、県警は形式的な調査で済ませ、「領収書を相手からもらえなかった時に作ったもので、裏金や私的流用はない」と結論づけた。弁護士などが情報公開を求めても「捜査の秘密」を盾に、氏名などを黒く塗りつぶした書類しか開示しない。県の特別監査も腰砕けに終わりそうだった。

 そんなある日、追及側の弁護士にばったり会った。

 「みな知っとる話です。頑張ってください」

 と励まし、別れた。2日後、電話があり、会合で自らの経験談を率直に話した。「その話、実名で出来ますか」と水を向けられ、とっさに、「できますよ」と答えた。出世競争からは、とっくに降りている。怖いものはない。

 同期の出世頭は署長になっているが、今でも呼び捨てで通す。階級社会の警察秩序など気にかけず、誰にでもずけずけものを言う「スーパー巡査部長」。6年前からはJR松山駅構内の鉄道警察隊に勤務している。「待合室で酒盛りするホームレスがいなくなった」と駅のタクシー運転手は言う。

 「息子を安心して電車に乗せられるようになった」

 障害のある息子を毎日駅に送る一色千代子さん(50)は言う。作業所に通う息子は、乗り合わす高校生らにからかわれ、パニック状態になって列車から飛び降りかけた。事情を聞いた仙波さんは、悪さをする生徒を叱り飛ばし、沿線の先生を集め、車内でいじめが起きない指導体制を作らせた。

 記者会見の4日後、配転の内示があった。通信司令室勤務。全く経験のない職場だ。前任者はいない企画主任というポスト。仕事らしい仕事はない。窓から松山城を眺めながら、ひたすら時間が経つのを待つ勤務が始まった。仙波さんは「報復人事」として撤回を求めているが、

 「異動は業務の効率化や本人の実績、経歴などを考慮して適材適所に配置した」

 と県警は説明する。

 「組織に逆らった者は、こうなるという見せしめでしょう」

 仙波さんは笑う。励みは全国から寄せられる激励の手紙や電話だ。携帯には知り合いからメールが次々に飛び込む。そこには、「無力な私たちをお許しください。主人もありがたく思っています。頑張って」とあった。

 人との接点が欲しい

 仕事と言えば、研修の参加者にコーヒーを出し、終われば片づけてカップを洗う。研修は、月に6日間ぐらいだ。冬は雪かき、夏は草取りで気分をまぎらわす。

 串岡弘昭さん(58)の「幽閉」は今年で30年目を迎える。いまは2月23日を指折り待ち続けている。富山地裁に持ち込んだ損害賠償訴訟の判決日だ。

 「トナミ運輸に謝らせたい」

 その一念で屈辱に耐えてきた。

 明治学院大学卒業後、地元ナンバーワン企業のトナミ運輸に就職。さまざまな業種の荷主を回る営業の仕事は楽しかった。ところが業界に闇カルテルがあることを知って、職場との関係は一変した。

 73年の石油ショック。貨物が毎年増えていたときは目立たなかったが、成長にブレーキが掛かると、闇カルテルが表面に出た。他社の荷主を取ることは厳禁された。競争を避け、運賃をつり上げるためだ。業界の身勝手が零細業者を痛めつけていることを痛感した。

 副社長が来店したとき闇カルテルの不合理を直訴した。独占禁止法違反は明らかなのに「役員会で決めたこと」と無視された。

 やむなく新聞社に情報を流した。国会で取り上げられ、公正取引委員会が動き社会問題になった。

 出どころが串岡さんと察知した会社は、退社するよう圧力をかけた。役員が深夜自宅に押しかけ朝まで粘って「辞めろ」と迫り、暴力団風の男がやってきて「退職願を書け。さもないと組の若い者が交通事故を装って」と脅した。

 闇カルテルは公取の改善勧告を無視して続いていた。「辞めたら負けだ」。その結果が研修所送り。29歳から「窓際族」である。

 時の経過は、圧力よりつらかった。唯一の支えである世間から忘れられてゆく。仕事もなく狭い部屋でぼうっと過ごしていると「いっそ辞めた方が」と心は揺らぐ。子どもの教育費は親に頼らざるを得ず、家族も肩身が狭い……。

 富山県立近代美術館がボランティアを募集していると知り応募した。のどが渇くほど人との接点がほしかった。37歳の時だった。日曜、美術館を訪れる人に作品の説明をする。学芸員やボランティア仲間との交流が生まれた。

 人生を賭けた裁判の結果がまもなく出る。不当配転に伴う給与減額などの損害賠償だが、内部告発者への報復の不当性を問う訴訟である。

 昨年11月、裁判長は和解を提案したが、串岡さんは丁重に拒否した。和解をのめばある程度の金額は手にはいるだろう。蹴れば条件は悪くなるだろう。それでも判決を求めた。「トナミ運輸に非がある」と判決で勝ち取りたい。

 「政策形成訴訟と考えています」

 と串岡さんは言う。正しいことをしたのに、白眼視され一生を棒に振る。そんな企業を社会は認めない、という仕組みができてこそ、孤独な戦いが報われる。

 上司に言われても

 内部告発者は、主張が正しくても、「あいつは変わり者だから」「人事に不満があってやった」という悪評が投げつけられる。勤務先の日本経済新聞に、子会社の融資問題で株主代表訴訟を起こした大塚将司元ベンチャー市場部長(54)もそんなレッテルを貼られたは。

 「会社人間はそう考えてしまうから情けない」

 社内では劣勢だった。大塚さんは懲戒免職、つまりクビにされたが、社外では批判を受けたのは日経新聞の経営者だった。鶴田卓彦社長は、会長に退いて批判をかわそうとしたが2カ月で相談役に。それも一年ももたず社を去った。

 「鶴田さんの敗因は、私のクビを切ったことだ」

 騒がず時の経過に委ねれば、いずれ世間は忘れ、社内力学で経営刷新の声は力を失ったかもしれない、と大塚さんは分析する。

 「日経の内紛」は東京地裁で和解し、一応の幕引きが図られた。大塚さんは職場復職を果たしたが、古巣の編集局ではなく、系列シンクタンクへの出向。「これで経営が刷新されたとはいえないが、とりあえず第一歩」と妥協した。

 右往左往した社内で、人物の器が見えた。94年、日経新聞は「官僚」という連載で新聞協会賞を受賞した。その時の執筆陣の責任者はいま編集幹部だ。批判的に取り上げた官僚像は、そっくり「わが社」に当てはまる。書いたことと今回の言動は正反対だったと語る。

 一方で若手が決起した。管理職の制止を振り切って、「新聞の主張に恥じない行動を」と呼びかけた。暗い社内に一筋の光明を見た思いだった。

 社会経済生産性本部による昨年秋の調査で、「上司から良心に反する仕事を指示されたらどうしますか」という質問に「できる限り避ける」と答えた新入社員が、初めて過半数になった。調査は春と秋。半年も経つと企業に馴染み、良心に反する仕事にも妥協する傾向があったが、昨年は春より秋は13.8ポイントも上昇した。

 「最近の企業不祥事が影響したのではないか」

 調査担当の岩井茂さんは言う。

 こうした傾向を、「フリーターやニートなど企業社会を拒否する若者と根は同じ」と、船曳建夫東大教授は見る。大人社会のダブルスタンダードに敏感な学生が増えている。きれいごとを言っても、利害損得で動く企業の現実に若者は拒否反応を示し始めた。

 「論理や積極的な行動で戦うのではなくサボタージュで拒否する『日常的抵抗』が静かに広がっている」

 高度成長期は、「生きてゆくには多少の泥水をすすることもいとわず」の精神が充満していた。豊かになって「泥水をすするくらいなら、辞めます」という若者が増えているのもうなずける。

 社会も変わってきた。雪印食品の牛肉偽装を告発した西宮冷蔵の社長、水谷洋一さんは畜産業界を敵に回し会社は倒産したが、「告発企業を支えよう」という人たちの応援を得て営業を再開した。

 企業や業界という土俵ではイジメられても、一歩出れば風向きは違う。警鐘を鳴らす人を支えようという動きは各地で起きている。

 ◆告発者は守られるか 法治企業と放置企業の差

 内部告発は「企業の安全弁」という受け止め方が、経済界にも広がっている。

 牛肉偽装で雪印食品が解散し、データ改竄の東京電力では原発が運転停止に、リコール隠しの三菱自動車は消費者から見放された。職場の暴走は企業生命に関わる時代なのだ。

 倒産までいかなくても、現場の不祥事で社長が世間に頭を下げる事態も多発している。最近も、JFEスチールが、千葉の製鉄所で水質データを10年以上も改竄していたことがわかり、数土文夫社長が、フラッシュを浴びながら頭を下げたばかりだ。

 大企業になるほど現場に目が届きにくい。「従業員を信頼している」というのは建前で、経営者も「現場でヘンなことやっていないか」と心配なのだ。

 改善ない場合は外部へ

 来年4月から公益通報者保護法が施行される見通しだ。職場の不正に気付いた人は、まず社内組織に通報し、改善が無い場合は外部(所轄官庁やマスコミ)に通報しても処分されない、という制度だ。

 たしかに「内部告発させない、内部告発防止法というべきもの」(トナミ運輸の串岡弘昭さん)という側面は否定できない。マスコミにいきなり通報したら処罰する、と言わんばかりだからだ。「まず、会社に言ってくれ」という制度だが、会社がきちんと対応しなければ告発されても文句は言えない仕組みでもある。

 日本経団連は「社内に業務ラインとは別に内部通報ラインを設けなさい」と呼びかけている。隠蔽すれば取り返しがつかない事態になる、早めに芽を摘め、というのが社内窓口の狙いだ。

 不正があれば、上司に問題を指摘するのが本筋だが、出来るような職場なら不正は起こらない。相談しても無視されたり、握りつぶされたり、逆に問題社員あつかいされる職場に不正がはびこる。

 制度あっても機能せず

 経済同友会の調査(04年春)によると、会員企業の63.4%が通報窓口を設けている。しかし「十分機能しているか」との問いに「はい」と答えたのは27.7%だった。

 企業倫理に詳しい国広正弁護士は、「形だけ整えた企業が多い。従業員が安心して通報できるようにするためには、企業トップの姿勢や意志が問われる」と、ポイントを次のように指摘する。

 (1)通報者を保護する規定が明文化されているか。秘密の保持は確保されているか。漏れた場合の罰則規定があるか。

 (2)報復を禁止する保証はあるか。人事異動を装った報復はないか、職場でのイジメを排除できるか。

 (3)通報窓口が経営から独立しているか。弁護士やコンサルタントなど信頼出来る第三者で構成されているか。会社の顧問弁護士が兼務していないか。

 (4)通報者に結果を誠実に告知する仕組みはあるか。調査の結果はどうだったか、どんな改善策をとったか、いかなる処分をしたか。通報者の期待に沿わない結果になった場合でも、なぜそのように判断したのか説明責任を果たす。

 「犯人捜し」はどんな職場でも始まる。人情として起きやすいが、「捜したくても分からない仕組み」が必要だ。独立した機関が秘密を管理し、社長に聞かれてもいわない。それほど徹底させなければ、制度は機能しない。

 残念ながら、そのような企業はまだ数えるほどなのが実情だ、という。まだ始まったばかりだが、企業倫理にまじめに取り組む「法治企業」と、無関心な「放置企業」の差は、今後はっきりしてくるのだろう。  (AERA:2005年2月14日号)

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