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「取調べの可視化」についての意見書−−2003年(平成15年)7月14日 日本弁護士連合会
http://www.asyura2.com/0502/social1/msg/577.html
投稿者 たけ(tk) 日時 2005 年 7 月 29 日 19:20:08: SjhUwzSd1dsNg

(回答先: 犯罪取調べ状況の公開を! 投稿者 たかす 日時 2005 年 7 月 28 日 23:02:42)

「取調べの可視化」についての意見書

2003年(平成15年)7月14日
日本弁護士連合会

第1 意見の趣旨

日本弁護士連合会(以下「日弁連」という)は、裁判員制度の導入と同時に、被疑者取調べの全過程をテープ録音ないしビデオ録画(以下まとめて「録音・録画」という)する制度が確立されるべきであると考えます。
 
第2 意見の理由

  1 はじめに

わが国の刑事裁判は捜査段階において作成される自白調書に強く依存しています。それにもかかわらず、自白調書は密室で作成され、取調べの過程で何が行われたかを信頼性の高い証拠で検証することが全くできません。そのことが取調べの過程で強制や誘導が行われることを誘発し、ひいては虚偽の自白がなされる危険を温存しているのです。日弁連は、このような現状を改善するために、かねてから、刑事司法改革の最優先課題のひとつとして、捜査官による被疑者の取調過程を録音・録画すること(以下「取調べの可視化」という)の必要性を強く訴えてきました。

今日イギリスやアメリカのいくつかの州のほか、イタリア、台湾などでも、取調べの録音・録画を義務付ける改革が既に行われています。国連の規約人権委員会は、わが国における被疑者取調べ制度の問題点を特に指摘して、取調べの過程を「電気的に記録すること」を勧告するに至っています。周知のとおり政府の司法制度改革推進本部はわが国の司法制度を抜本的に改革すべく議論をしており、その具体的な内容は今年度中にも明らかにされるでしょう。われわれは、いまこそ「取調べの可視化」を実現して、文明国の名に恥じない司法制度の礎の一つとすべきであると考えます。

以下において、取調べの可視化の意義などを述べ、日弁連の立場を明らかにしておきます。

  2 裁判員制度の導入と同時に取調べの可視化が必要である

今回の司法制度改革では、国民の司法参加の一環として、一般市民が刑事裁判において被告人の有罪・無罪を決定する「裁判員制度」が創設されます。この制度のもとでは、一般の市民にとって分かりやすい手続が行われなければならないことは言うまでもありません。できるだけ明瞭で分かりやすい証拠を当事者が提出することによって、裁判員に無用な負担をかけないことが、この制度を成功させるうえで大切なことです。

ところで、刑事裁判においては被告人が捜査段階でしたとされる自白が果たして被告人の自発的な意思で行われたのかどうか(「自白の任意性」)がしばしば重大な争点となり、そのことをめぐって検察側と弁護側が熾烈な攻防を繰り広げることがあります。しかし、現在の実務ではこの重大な争点に関して裁判所に提出される証拠は決して明瞭な証拠ではありません。捜査官から強制や誘導を受けたと主張する被告人と、そのようなことはしていないと主張する捜査官とが、法廷で「証言合戦」を行うだけの場合がほとんどです。要するに、法廷は決め手を欠く「水掛け論」の場と化しており、裁判官は信頼性の低い証拠を評価して結論を出さなければなりません。そのことが誤った有罪判決をもたらす原因の一つともなっているのです。

裁判員制度の導入に際してこの現状が改められなければならないことはあまりにも当然のことではないでしょうか。

取調室の中で何が行われたのかについて明瞭で分かりやすい証拠を用意することはきわめて簡単です。取調べの最初から最後までを録音・録画しておけばよいのです。そうすれば、被告人と捜査官の「証言合戦」に対して裁判員はさほどの苦労をしなくとも適正な判定を下すことができるでしょう。これは誰でも思いつく簡便な方法です。

  3 取調べの可視化がもたらすもの

  1)検察官の自白の任意性立証が容易になる

  取調べの録音・録画によって、検察官が供述の任意性を立証することは極めて容易となることはいうまでもありません。そして、現実には、任意性の争いは、イギリスの例がそうであったように、ほとんど消滅するでしょう。また、「言ってもいないことを書かれた」といった主張も姿を消し、権利告知がなされなかったといった取調手続きの違法が主張されることも少なくなるでしょう。要するに、適正な取調べがなされている限り、被告人が事実無根ともいうべき争いを法廷に持ち込む可能性は封殺されるわけです。捜査官が誤った非難を受けることはなくなり、適正な取調べを心がけている捜査官はこの制度によって保護されるのです。

2)違法な取調が著しく減少する

また、取調べの可視化によって、捜査官による違法行為の可能性は著しく減少するでしょう。そして、仮に、そのような行為が行われれば、録音テープやビデオテープがその証拠として保全されることになるわけです。これによって、本来、任意性に疑いがあるものとして採用されるべきでなかった自白が、誤って証拠採用されるような危険−それは、とりもなおさず、無実の者が有罪とされる危険といえますが−は著しく減少するでしょう。実際のところ、今日でも、暴力さえ伴う違法・不当な取調べが存在しています。これは、近時においても、そのような取調べの存在を認める判決例を見出すことができることからも明らかです。今般の刑事司法改革において、これに完全に終止符を打たなければなりません。

4 可視化に反対する意見はいずれも根拠がない

  1)真相解明を妨げることにはならない

取調べが録音・録画されていると被疑者は事件の真相を話したがらなくなるので、「取調べの可視化」は事案の真相の解明を妨げると言って反対する人がいます。しかし、この反対論は全く理由がありません。

客観的に検証することができない密室でしか「真実」は話されないなどという実証は何処にもありませんし、そのような経験則もないはずです。密室でしか「真実」は話されないという見解は、直接主義・伝聞法則の下での公判中心主義、すなわち、近代における裁判制度を否定する考えではないでしょうか。取調状況の一部とはいえ、これが録音・録画された事例は現にいくつも存在しているのですから、捜査官の側から、このような見解が表明されるのは、実に奇妙なことといわなければなりません。

実際、録音・録画がされていても、取調官と被疑者の密室での対のやりとり自体が変質するわけではありません。要は、テープやビデオの存在を意識するか、しないかの違いだけのことで、この制度が導入されれば、いずれは、誰もがその存在に慣れ、テープやビデオの存在を意識しなくなるでしょう。イギリスにおいては、その経験から取調官も被疑者もテープやビデオの存在を意識しなくなったとの報告がなされており、すでに実証されています。また、現在の録音・録画技術の水準からすれば、被疑者にテープやビデオが回っていることを意識させずに、録音・録画することは極めて簡単なことです。

「録音・録画されていると真相を話したがらない」という議論は、録音・録画を是非してほしいという被疑者の要求を拒否する理由とならないことも明白です。

むしろ、取調過程がそのまま保存されることによって、その過程に作為や加工が入り込む可能性は封殺され、その意味で、虚偽が混入する要素は低められることが明らかです。取調べの状況がありのままに明確にされ、その「真相」が示されることによって、事案そのものの真相解明にも資することになるというべきでしょう。真相解明を妨げるという立論は全くの謬論と断じることができます。

  2)捜査構造論とは無関係である

また、取調べの可視化を論ずるにあたって、刑事訴訟構造全体との関連を考えるべきだとして消極論を展開する向きもあります。捜査の構造に関して、糾問的捜査観、弾劾的捜査観、訴訟法的捜査構造論といった説がありますが、可視化それ自体は、「価値的には中立」であり、被疑者の「主体性」を高める方向に働くと同時に、被疑者の証拠方法化を高め「客体化」する方向にも働きうるものです。取調べの可視化はどのような理念に立っても捜査の構造論そのものに変化をもたらすものではありません。したがって、捜査構造を変えるとの立場から反対する理由はまったくありません。

5 書面による記録化は不十分で混乱をもたらす

取調過程を書面によって記録する制度の創設ということがいわれ、まもなく実施されるともいわれています。これは、従来、ほんのまれにしか公判に提出されてこなかった「取調経過一覧表」を、制度として明確に規定しようとするものです。リアルタイムの記録化が義務づけられたうえで、その記録を法廷に顕出することをも予定するという意味で、これは、従来よりは一歩前進したものと言えなくはありません。

しかし、裁判員制度のもとでの適正で充実した集中審理(正確でわかりやすい集中審理)という観点からみると、このような書面による記録が、それを実現させることになるとは、とても思われません。捜査官が、自ら「私は脅迫して自白を得ました」と記録するわけはありません。それゆえ、任意性の争いは消滅しません。また、被疑者・被告人に適正な取調べを担保し、重要な証拠を付与するという要素も決定的に欠けています。書面による記録は、法廷における「水掛け論」をより細密化するばかりで、裁判員をより混乱させるおそれさえあるでしょう。結局、審理はより長期化するおそれさえあるといわねばなりません。

結局、客観的で直接的な証拠、すなわち、録音・録画による取調べの記録に優るものはないのです。さらにいえば、書面による記録化には膨大な作業を要します。これと比べて、録音・録画は簡便・容易です。記録装置のスイッチを入れるだけの手間で済みます。これは捜査機関の作業を効率化させるという点でも重要です。司法全体の資源ということを考えれば、相当のコストダウンが図れるというべきでしょう。

6 取調べの一部ではなく全過程の録音・録画が必要である

取調べの全部ではなく、その一部だけを記録すべきだという意見もあります。しかし、これでは、上述した可視化の効果が生じるとは思えません。

例えば、当初犯行を否認していた被疑者がその後に自白したとします。この場合に自白した後の状況だけを記録しても、問題の解決にならないことは明らかでしょう。重要なのは、被疑者が自白する前の取調べで何が行われていたのかです。この部分について「証言合戦」「水掛け論」が解消されなければ、録音・録画の意味はありません。

取調べの過程の一部に録音・録画されていない部分があれば、必ず、記録されていない部分で何が行われたのかについて争いが起こり、その部分を巡って信頼性の低い証拠が提出されて、審理は紛糾することでしょう。

このように考えますと、取調べの最初から終わりまでを録音・録画することが不可欠であることは自明です。正確でわかりやすい集中審理を実現させるためには、取調べの「全過程」の録音・録画が実現されなければならないのです。

そして、取調べの全過程が録音・録画されていない場合には、自白の証拠能力は否定されるべきです。取調べの一部だけでも録音・録画していれば自白調書を証拠として採用することができるということになれば、捜査官は全体を録音・録画しようとはしなくなるからです。少なくとも、「全過程」でないことが判明したときは、任意性の疑いが推定されるものとしなければなりません。併せて、そのテープ・ビデオのコピーを、被疑者に交付し、あるいは、遅くとも公訴提起後直ちに、被告人に交付するものとすべきでしょう。これらは「全過程」の録音・録画制度を実質的に機能させるために必要な措置です。

ちなみに、取調べの全過程を録音・録画することは非常に簡単なことです。被疑者と捜査官が取調室に入ったときに機械のスイッチを入れればいいのです。取調べが中断するときには、そのことを告げてスイッチを切り、再開するときにもう一度スイッチを入れて、再開されたことを告げればそれで良いでしょう。

7 録音・録画は当面は証拠許容性の判断に用いるべきである

録音・録画したテープやビデオの法廷への顕出についてですが、さしあたり、これらの記録は、自白の許容性の判断のために、取調べの状況・過程を立証するという限度で用いられることとすべきでしょう。これを被告人の有罪を証明する証拠として採用することを許すべきとする見解もないではありませんが、法曹三者の間で現段階で異論のないレベルは、上記限度と考えられ、まずは、その限度で施行すればよいと考えられます。

もっとも、自白の信用性判断のため、取調べの状況・過程を証明する証拠として利用することも許されるべきでしょう。また、被告人・弁護人が、供述の一貫性を立証する趣旨で、これを利用することも許されるべきです。

このように、録音・録画を証拠の許容性判断に用いることを想定すれば、捜査段階の「自白」の証拠能力の有無は公判準備手続の過程において、まずは裁判官の判断でなされるとすることも一つの考えですが、いずれにせよ、被告人・弁護人は、裁判員も参加した公判審理の過程で、その証拠排除を求めることができ、その際、公判廷でテープを再生しうるものとすべきです。

自白が真に被告人の自発的な意思に基づいてなされたかどうかという問題は、単なる法律問題というよりも事実問題の要素が極めて強く、これを裁判員の判断の対象から除外することは相当ではないからです。

8 参考人の取調べ可視化も前向きに検討すべきである

参考人に対する取調べの可視化については、賛否両論があります。直接主義・口頭主義を徹底するためには、刑事訴訟法321条1項2号を削除すべきであり、あくまでも法廷証言のみを資料とする審理が想定されるべきです。また、参考人については「全過程」を記録するという担保措置を採ることが困難だという問題や弁護人によるチェックの不存在という問題をあげる向きもあります。

しかし、参考人供述の録音・録画化を禁じる理由自体は何もないのです。とりわけ、共犯者の自白には問題が多く、その取調過程を録音・録画しておく必要性は、被疑者の場合とほとんど同じでしょう。したがって、参考人の取調過程についても録音・録画の制度化を前向きに検討すべきです。
 
9 おわりに

日弁連は、上記のような理由から、裁判員制度の実現と同時に取調べの可視化が実現するよう、各会員の実践を呼びかけると共に、会として総力をあげて取り組む決意です。

以上

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