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拉致問題への視点
http://www.asyura2.com/0502/war68/msg/677.html
投稿者 ミネルヴァの梟 日時 2005 年 3 月 23 日 01:38:30: 7usxHQAUfPfZM

(回答先: Re:Nature記事に対する外務省のコメント 投稿者 木田貴常 日時 2005 年 3 月 22 日 10:01:19)

http://www8.ocn.ne.jp/~hashingi/page027.html
拉致問題への視点

゛拉致はテロだ゛と怒りを爆発させる拉致被害者家族連絡会、

それに便乗して制裁と核武装論まで煽る「救う会」ら支援団体、一部マスコミ、

さらに、゛米国の力を借りなくては゛とブッシュ・ドクトリンにのめりこむ小泉外交。

他方の北朝鮮は、゛5人は一時帰国のはずだった゛と約束違反をなじり、

植民地支配や強制連行への謝罪、賠償はどうなった、と一歩も譲らない。

憎悪が憎悪を呼び、四者四様の思惑が渦巻く不毛の構図の中で、翻弄される被害者5人とその子供たち・・・。

外交には゛落としどころ゛が肝要、日朝ともに被害者意識を超え、未来志向で歩み寄れるか。

     

                                             関連トピ 在日コリアン

英誌ネイチャー「横田めぐみ遺骨鑑定は確定的ではない」(3)(05・3・22
英誌ネイチャー「横田めぐみ遺骨鑑定は確定的ではない」(2)(05・3・19)
英誌ネイチャー「横田めぐみ遺骨鑑定は確定的ではない」(1)(05・3・12)

拉致問題の゛日本国内政治化゛をどう解くか(04・5・19)

日本人拉致救出運動の深い闇(03・12・22)

  追跡・検証↓

 @「救う会」熊本元理事が一連のテロ事件への関与を認める(04・1・6)

 A西村議員、献金返還、最高顧問辞任を拒否(04・1・12)

 B村上容疑者ら12人を起訴(04・1・12)

 C村上被告ら10人を追送検(04・2・1) 

D建国義勇軍、連続児童殺傷事件の加害者らへの襲撃も計画(04・4・27)

 E建国義勇軍グループに懲役2年6カ月の実刑判決(04・7・13)

自衛隊イラク急派の裏に拉致問題(03・12・8)

「つくる会」が拉致問題に便乗して不正署名活動(03・8・12)

゛拉致被害者5人の家族帰国打診゛の狙い(03・8・9)

 関連情報↓

 @北、拉致問題と6者協議を切り離す姿勢を強調

 A12日からモスクワでロシア、北朝鮮、韓国外務省高官が準備協議

 B福田訪中への各紙報道採点、良は朝日のみ

 C福田官房長官、「拉致問題は日朝のバイ会談で」と容認

 D中国外務次官、ロ案「米露中の北朝鮮体制保証」に賛意

 E李外相、「拉致問題は議題にならない」

 F家族会長、「やはり日本政府が自力で」とブッシュ頼みを自省

 G安倍官房副長官、朝米不可侵条約に反対表明

佐藤ー安倍強硬ラインの暴走(03・6・30)

曽我ひとみさんの本音(03・6・28)

田中外務審議官、正論が通らない憂鬱(03・5・23)                         

拉致問題の解決 ? を求める「国民大集会」」(03・5・8)                         

占領下の日本に米が多数の諜報工作員配置(03・3・4)                       

盧新大統領の政権引継委に北朝鮮工作員?(03・3・1)                     

「救う会」に利用された拉致被害者家族会(03・2・24)                         

薫、頑張れ!(03・1・10)

「めぐみの子どもであってほしい」と、めぐみさんの両親(02・11・5)

蓮池さん「永住」説得に反論、「24年無駄にするのか」(02・10・23)

蓮池薫さんの自尊心(02・10・16)

韓国の対北朝鮮破壊工作員(02・10・1)

  関連情報↓

 「北派工作員」名誉回復、募集は94年末まで(04・5・31)

日本人拉致とめぐみさんの娘(02・9・20)

関連サイト

 制裁強硬派   「救う会」(北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会)

 人道派      北朝鮮人道支援の会 北朝鮮難民救援基金 北朝鮮人道支援ネットワーク・ジャパン(ハンクネット)

 韓国系      拉北者家族会

その他

         (NGO)レインボーブリッジ 新潟NGO人道支援連絡会

            “拉致被害者・家族の声をうけとめる在日コリアンと日本人の集い

  
            英誌ネイチャー「横田めぐみ遺骨鑑定は確定的ではない」(3)(05・3・22)

               3 安倍晋三氏に攻撃の的を絞った北朝鮮の狙い

 拉致問題は今や外交問題にして、同時に、ポスト小泉を左右しかねない重要な政局でもある。それが問題解決を複雑かつ困難にしているが、ネイチャー記事への対応にもそのことがはっきり現れている。
 同記事を正面から取り上げた骨のある日本のメディアは『週刊現代』(05・3月19日)ぐらいであるが、それによると、ネイチャー記事に対して細田博之官房長官は記者会見で、記事発表後に吉井氏から改めて話を聞いたとしながら、「ネイチャーの記事は捏造されたものだ。吉井講師は『自分が言っていないことを書かれた』と言っていた」と語った。
 一国の政府首脳から公然と言いがかりに等しいことを言われてネイチャー誌が黙っているはずがなく、記事を書いた同誌のデイビッド・シラノスキー記者が「捏造なんてするわけがない。結果的に北朝鮮にとって有利な印象の記事になったかもしれないが、私は火葬された骨をどうやってDNA鑑定するのかに科学的な関心があり、吉井氏に電話して取材を申し込んだ。彼は私の質問に対し、科学者として論理的に答えてくれた」と反論した。そこで、当の吉井氏に取材したところ、「政府からも、警察からも、大学からも、この件についてはコメントするなと止められている。だから話せない」と話した、という。
 どうやら細田官房長官は、国内メディアを抑えこもうと緘口令を敷いた模様である。それにしても、「ネイチャーに論文を発表すれば科学者として一人前」とされるほど世界的に権威のある科学誌の記事をさして「捏造」とはよく言ったものである。国際的な嘲笑の的になりかねないことを覚悟してあえて臭いものに蓋へと強引に動いたのは、まかり間違えば事は責任問題へと発展し、小泉政権を根底から揺さぶりかねないと判断したからであろう。
 日本国内の動きをつぶさに見ている北朝鮮も、そのことは百も承知、と思われる。
 
 北朝鮮はネイチャーという思わぬ味方を得て溜飲を下げた形だが、開き直ってそれほど大きなことを言える立場ではない。拉致行為をした事実は消えないし、その後の対応も誠実さに欠けていたからである。
 今回も、土葬が一般的な国でわざわざ高温処理した「遺骨」を渡し、日朝国交正常化のチャンスをむざむざ逃がしたばかりか、逆にある種の作為ー「横田めぐみ隠し」ではないかとの不信感を日本国民に植え付けてしまった。
 実際、小泉首相の第二次訪朝で拉致被害者5人の家族来日が実現したことを日本世論はこぞって歓迎し(各種アンケート調査では訪朝支持が七割以上)、「遺骨」が横田めぐみ本人のものと鑑定されれば拉致問題は事実上一件落着し、政権に浮揚力が付いた小泉首相が公約した「在任中の日朝国交正常化」へと本格的に向かう可能性があった。
 肝心な段階にきて、北朝鮮は何故、そのような不手際を露呈したのであろうか。
 様々な憶測が飛び交っているが、北朝鮮自身も横田めぐみさんの遺骨を探しあぐねている、というのが存外真相ではないかと考える。これは日朝の葬儀文化の違いを踏まえないと理解しがたいが、その他の安否不明者9人の遺骨も出ていないことからも推測できるように、土葬の国では遺骨を特定するのは難しい。私も北朝鮮で日本から60年代初めに帰国した遠縁の叔父の墓を無理して山中の墓地に訪ねたが、似たような土盛の墓がいくつもあり、雑草が茂って妻に当たる叔母でさえ探せなかった。
 北朝鮮は意図的に何かを隠している、とやたらかんぐる人たちがいるが、かの国の現状に疎く、墓石で区別された日本の墓をイメージしているためそうなるのである。一種のカルチャーショックとでもいうべきもので、その意味で昨今のヒステリックな日朝摩擦は文化の衝突と言えよう。
 とりわけ、横田めぐみさんについては近所づきあいのあった蓮池薫氏が「94年3月に義州の精神病院に入院するというので手伝った」と証言している。私の遠縁の兄もやはり義州の病院に強制入院させられたが、叔母の話では「そこで死んだと聞いた。骨もどこにあるか分からない」という。日本の常識からすればショッキングな話だが、精神病院で死亡すると共同墓地に埋葬され、多くの他人の骨と混ざるので、後に発掘して本人と確認するのは至難の技である。
 遺骨が確認されない以上、生存の可能性がまったく消えたわけではない。遺族としては最後の最後まで生きていると信じたいのが人情である。だが、遺憾なことだが、北朝鮮の最高指導者が死んだと断言している以上、その可能性はほとんどない。生きている人物を死んだと欺く理由は考えられないからである。
 94年以降に目撃した、重要な任務についているので出せない、等々の脱北者情報は不確実であり、精神病を´政治病´とみなす偏見のある北朝鮮で、精神病院から退院するのは難しい、精神病歴を持ったものが要職に付くのはさらに難しい、という理由から信憑性に欠けると考える。
 そこで北朝鮮は、日本側の求めに応じるため、共同墓地からとりあえず遺骨を発掘し、誰のものか分からなくするために高熱処理したのであろう。韓国統一部関係者も「北・米遺骨共同発掘では現地で骨を収集してハワイの研究所で鑑定するが、他人であるケースが少なくない」と指摘するが、横田めぐみさんのケースも現地である程度の期間、共同発掘調査をしないと出てこないと思われる。

 日本政府の拙速に過ぎた鑑定結果も、そうした北朝鮮側の事情に振り回された側面があった。鑑定の結果を聞いて小泉首相は「北朝鮮側は何を考えているのだ」と激怒したと伝えられるが、裏切られたという思いがあったと思われる。
 鑑定不能となれば結果を注視していた国民から「何をしていたのか」と逆に突き上げられるのは必至であった。対応に苦慮した挙句、当座を何とかしのごうと強引に「遺骨は本人のものではなかった」と発表したというのが真相ではないだろうか。ポピュリズム政治の弱点が露呈したとも言える。
 その戦術はある程度成功し、日本世論の怒りは北朝鮮へと向かい、経済制裁を求める声が七割に達した。そうした中、安倍晋三幹事長代理は対北朝鮮強硬派を演じて巧みに世論にアピールし、拉致問題一つでポスト小泉の有力候補の一人にまでのし上がっている。制裁に慎重な小泉首相と役割を分担しているというのが一般的な見方だが、小泉人気にかげりが見え始めた昨今は安倍氏が突出している嫌いがある。  
 小泉、安倍の力学を事細かに注視している北朝鮮は、安倍氏がこれ以上突出するのはまずいと判断している模様である。それを裏付けるように北朝鮮の労働党機関紙「労働新聞」や政府機関氏「民主朝鮮」は対日批判キャンペーンを張り、特に安倍氏に攻撃の的を絞っているが、その中には「阿倍の正体は我々が一番良く知っている」という意味深なフレーズが頻繁に登場する。
 そうした中、韓国で人気のインターネットニュースサイト「オーマイニュース」(2月18日付)が、「安倍晋三の2つの顔」と題して、「安倍氏が昨年1月に代理人を通して『次期首相は自分だから、拉致被害者家族らの日本帰国は小泉首相を通さず次の首相になる自分に任せてくれ』と北朝鮮に要請した」と、同月16日に作成した代理人の北朝鮮へのビザ申請書と安倍氏の委任状のコピーとともに報じた。
 過去、南北関係がいかに悪化したときでも、北朝鮮は韓国側との水面下の交渉を暴いたことはない。今回、安倍氏の隠密行動を暴露する戦術に出たのは異例なことで、今後は安倍氏を交渉の相手にすることはありえないと安倍追い落としを狙っているということである。

 その理由の一つは、安倍氏が自己の政治的野心から北朝鮮への経済制裁の音頭をとり、日朝関係を必要以上に混乱させていると判断しているからと思われる。
 安倍氏が責任者の自民党拉致問題対策本部は2月15日に経済制裁を実施した場合の効果について試算を公表したが、これは「遺骨の鑑定結果」以上に誇張に満ちたものであった。韓国銀行などの統計をもとに00年から03年までの北朝鮮のGDPの平均値を最大約170億ドルと想定したまではよいが、問題は、日朝貿易を全面停止すれば最大約12億ドルの影響を与え、北朝鮮の国内総生産(GDP)を1・25%から最大で7%減少させる効果があるとしたことである。
 これは水増しも甚だしい。財務省の貿易統計によると、04年の日朝貿易は輸出が約96億4000万円(前年比9・2%減)、輸入が約176億4000万円(同12・7%減)、総額272・8億円でしかなく、「最大約12億ドル」なるものは20年以上も前の数字、すなわち日朝貿易がピークに達した80年(約1259億円)の数字を強引に借用したものと思われる。現実には、昨年度の対日貿易が北朝鮮の全貿易額に占める割合は大韓貿易投資振興公社(KOTRA)の03年推計値8・5%をさらに下回り、日本の影響力は限りなく低下している。
 しかも、日本と反比例して中国、韓国の対北貿易が急増しており、韓国貿易協会の資料によると、昨年の朝中貿易額は13億8500万ドル、全体に占める割合は03年の42・8%を上回り50%前後に達すると推算される。韓国との南北貿易も6億9700万ドルに増加し、北朝鮮はすでに貿易の中心を日本から中国、韓国へとシフトしている。これ以外にも、中国はレアメタルが豊富な北朝鮮への投資を活発化しており、KOTRAによると昨年の中国の対北朝鮮投資は前年130万ドルから8850万ドル(小規模投資まで含めると1億ドル超)へと激増し、今年はピョンヤンで5月に北朝鮮初の国際的な大型ビジネスイベント=国際商品博覧会が開催され、中国企業200社が出展を予定していることから投資ブームはさらに強まると考えられている。
 韓国も負けじと開城工団事業造成に力を入れている。
 日本ではいまだに北朝鮮経済は崩壊しつつあるとのイメージで見る傾向が強くあるが、韓国銀行は昨年度の北朝鮮経済は韓中の経済協力強化でかなりのプラス成長を達成したと推定しており、これで1999年度以来のプラス成長が6年継続し、日本の制裁如何に関わりなく、今年はさらなる成長が予想されている。
 こうした状況では、日本が単独で経済制裁を発動しても、韓国、中国が吸収し、さほどの効果は期待できないだろう。安倍氏は「圧力をかければ北朝鮮は折れてくる」と語るが、完全に裏目に出た。北朝鮮は「日本政府が『厳しい対応』を云々していることについて言うなら、思い通りにしろということだ。我々もそれに対応した行動措置を選択する」(2月24日北朝鮮回答)と北朝鮮側が対決姿勢を一段と強め、交渉チャネルも切られてしまった。
 北朝鮮は安倍氏の行為を日本国民にアピールするためのスタンドプレーとみなしているが、それによって日本が米国との軍事的関係強化へと向かい、肝心の対米交渉が不利になることを最も恐れている。日本国民の反北朝鮮感情が対米依存を強めていると判断し、安倍追い落としでその流れを変えたいということであろう。

 その一方で、北朝鮮は小泉首相への個人的批判は一切控えている。意外に思うかもしれないが、シアヌーク・カンボジア前国王との長きに渡る友誼が象徴するように、北朝鮮は先代の金日成時代から外国人士との個人的関係を大切にする義理堅い面がある。金正日総書記との二回にわたる首脳会談で培った小泉首相との信頼(?)関係を維持したいというのが北朝鮮の本音であろう。
 北朝鮮は小泉首相が再度リーダーシップをとって日朝交渉を回復軌道に乗せることを内心、期待していると思われる。これは日本と北朝鮮がかすかにつながっている最後の希望である。
 政治的勘の鋭さでは人後に落ちない小泉首相も、それに気付いていることであろう。内政上のあれこれは別として、こと北朝鮮外交に限って見ると、「公式な発言と真意を見極めないといけない」と制裁に慎重な姿勢を崩さない小泉首相には、妙な説得力があるのも否定できない。
 制裁賛成派も慎重派も巧みに取り込む小泉流は、自民党以上に世論迎合的でいかにも危なっかしい民主党や、これといった対案を示せない他の非力な野党を寄せ付けぬしたたかさがある。
 横田めぐみさんの遺骨鑑定の不備が明らかになったことを奇禍として、日朝両国は互いに譲り合い、再び同じ交渉の土俵に乗り、一歩後退二歩前進するのが問題の究明と双方の利益に合致するのではないだろうか。

 
          英誌ネイチャー「横田めぐみ遺骨鑑定は確定的ではない」(2)(05・3・19)

    「政治的に利用した」と疑惑の目を向ける韓国


 日本人拉致問題は横田めぐみさんの遺骨の「鑑定結果」が発表されてから迷走し始め、日朝間の感情的対立へと発展し、さらに、日朝二国間問題から6者協議など東北アジアの安全保障問題にまで悪影響を及ぼしている。これを本来の日朝ピョンヤン宣言の土俵に引き戻すためには、「鑑定結果」を客観的に検証し、こじれた糸を一つ一つ解きほぐしていく努力が求められている。
  消息筋によると、日本政府は「鑑定は間違いない」と従来の立場を変えず、吉井講師の周辺も関係筋がガードしているために近づけず、動きにくいということらしい。外交とは高度な駆け引きであるから、日本政府の立場も分からぬではない。
 ところが、実に理解しがたいことだが、権威ある英科学誌ネイチャーが横田めぐみさんの「横田めぐみ遺骨鑑定は確定的ではない」と明確に問題提起しているのに、日本のマスコミの反応は全く鈍い。日本政府が公表した断定的な鑑定結果を大本営発表さながらに無批判に報じておきながら、それに根本的疑問を投じたネイチャー記事を一部新聞がベタ記事扱いした程度で知らぬふりを決め込んでいる現状は、異常というしかない。
 これでは、国民は偽りの情報をつかまされたままで、何が起きているのか分からない。事実は事実として報じ、国民の知る権利に応えるのが、政府と距離を置いて牽制的役割を果たすべき民主主義社会のジャーナリズムの基本的使命ではなかろうか。
 「北朝鮮に利用されないように」とのふれが回り、拉致問題では一種の情報統制が働いているとの巷間の噂をマスコミ自ら肯定するような光景だが、談合や根回しがものを言う日本的ムラ社会でならまだしも、国際社会で通じる話ではない。

 韓国では、ネイチャー記事は「やはり」と受け止められた。韓国法医学界は、120人にのぼる犠牲者を出した3年前の大グ地下鉄火災事故を通して高熱で破損した遺体のDNA鑑定経験を積んで国際的に高く評価されている。日本政府が鑑定結果を発表した当初から、火葬した遺骨の鑑定経験がほとんどない日本の法医学者の能力には懐疑的で、「鑑定は第三国ですべきであった」とする見方が支配的であったからである。
 熾烈な読者獲得競争を展開している韓国マスコミが、ネイチャー記事とそれへの日本側の不思議なほどの´鈍い´対応を見逃すはずもなく、大手紙の中央日報電子版が3月10日早朝、「『日鑑定チーム、北遺骨分析誤謬可能性認定』ネーチャー誌」、「新しい局面に入った北・日遺骨攻防」との大見出の記事を連続流し、「日本政府が世論に力を得て対北経済制裁を進める名分にしてきた偽遺骨事件が新しい局面を迎えた」と大きく報じた。
 とりわけ、3月9日付でいち早くネイチャー記事問題を伝えた連合ニュースは二日後、韓国の専門家の意見を事細かに伝えた。
 それによると、1994年の「至尊派事件」で焼却された遺骨からDNAを抽出して遺体の身元確認に成功したリ・ジョンビン・ソウル大医学部教授は「北朝鮮の備忘録にも一理がある。今回のように火葬で粉となった遺骨のDNA鑑定を何度も試みたことがあるが、一件も成功しなかった」と語った。
 また、パク・キウォン国立科学捜査研究所遺伝子研究室長は帝京大が採用したミトコンドリアDNA分析法について「ミトコンドリアDNAを使って分析をするところは多くない。きわめて敏感な実験なので、同じサンプルをもってしても結果が変わりうるからだ」と方法上の不確実性を問題にし、さらに、大邱地下鉄火災で焼けた遺骨の身元確認作業にあたった経験から、「大邱惨事では完全に焼けてしまった犠牲者の骨からDNAを抽出することは出来なかった。事故現場で発見された死体6体はいまだに身元が不明のままだ。高温で白骨化した骨からDNAを抽出、分析に成功したという論文は今まで見たことがない」と付け加えた。
 さらに、リ・スンファン大検察庁(最高検)遺伝子分析室長は、帝京大チームが使用した遺伝子分析技法(nested PCR)について「この方法は遺伝子を2回以上増幅させるが、増幅過程が繰り返されるたびに正確度が下がる。大半の法医学専門家はこの方法による分析結果を認定することに極めて否定的だ」と指摘した。
 このように、韓国法医学界では、帝京大が採用したDNA鑑定方法は偶然的要素に左右されやすい不確実なものであり、サンプルの喪失で第三者が追検証できなければ科学性に欠ける、従って、日本の「鑑定結果」は信頼に値しない誤りであった、とするのが支配的である。
 名分重視の儒教的文化の国だけに、名分を損なった日本政府への見方は厳しくならざるを得ない。3月10日付の東亜日報電子版はずばり、「科学的に確定していない段階で、日本政府は何故発表を強行したのか。政治的に利用した疑惑が浮かんでくる」と厳しい目を向けている。日本政府がしかるべき説明をしないと疑惑は深まるばかりである。

 折りしも盧武鉉大統領が3月1日の三一独立運動記念式典演説で、日本に過去の植民地支配を「心から謝罪し、反省して賠償」することを求め、「(日本人拉致への)日本国民の怒りは理解するが、日本も易地思之(相手の立場で考えるの意)し、強制徴用や日本軍慰安婦問題など数千、数万倍の苦痛を受けたわが国民の憤りを理解すべきだ」と訴えた。国内の行事でわざわざ日本人拉致問題に言及し、あえて日本に苦言を呈したのは異例のことであるが、特別なメッセージを日本側に発信したと見るべきであろう。
  対日批判に多くを割いた盧大統領の三一式典演説は、日本側に衝撃を与え、「植民地支配と拉致は同じ次元の問題ではない」(朝日新聞社説)、「歴代首相が『痛切な反省と心からのお詫び』を表明してきた。まだ足りないということなのか。北朝鮮のすりかえ論法に通じ、日韓離間工作にも利用されかねない」(読売新聞社説)と懸念を表明したが、論点がかみ合わないようである。
 確かに、植民地問題を持ち出して拉致問題を正当化するのは論議のすり替えと言える。だが、拉致問題で植民地問題をないがしろにするのも同様の理由で許されない。拉致一色に染まり、植民地支配への反省や謝罪を忘れ去ってしまったかのような日本国内の雰囲気は、その同時解決を目指したはずの日朝ピョンヤン宣言の精神から外れ、偏っており、「違う意味でのすりかえ論法ではないか」と韓国側には映る。
 日韓条約で基本的に植民地問題は決着を見たが、植民地時代など過去史究明が進む中で日韓条約には強制徴用・連行や慰安婦賠償など欠落していた部分が少なくなかったとの反省から、日朝交渉に対しても、その点がきちんと解決されるかに国民的関心が強まっている。盧発言にはそれを代弁し、日本側の善処を求めた意味合いもある。
 日韓条約締結40周年を迎え、韓流ブームで盛り上がっている日韓友好関係が一部の動きに水を差されるのは困ったものであるが、韓国で今年になって急に対日不信が高まっている事実は無視できない。3月14日の中央日報電子版には「駐日大使召還積極検討」と数十年前に時計を逆戻りさせたような大きな見出しが躍った。
 直接的には島根県の「竹島(韓国名、独島)の日」条例制定に対抗するものだが、四年前に大問題となった「新しい歴史教科書を作る会」編纂の扶桑社の歴史、公民中学教科書が四月に再度検定に出され、少なからぬ日本の中学校で採択されそうだと知れ渡ったことが大きい。従軍慰安婦や強制連行、南京大虐殺などを否定する内容が国会図書館での展示会などを通して明らかになるにつれ、「日本は植民地統治を正当化しようとしている」との批判が一般市民の中に拡散している。

  それとともに、拉致問題も歴史認識と無関係ではないとの見方が強まっている。
 最近の韓国マスコミは日本の歴史認識問題を微に入り細をうがちながら報じており、拉致問題で対北朝鮮強硬派として名を売った人たちの多くが、韓国で目の敵にされている「新しい歴史教科書を作る会」に連なるいわゆる自虐史観反対派の系譜に連なっていることも知られはじめた。自民党拉致問題対策本部長の安倍晋三幹事長代理が以前から「新しい歴史教科書を作る会」に協力的で、官房副長官当時にNHKに圧力をかけ、従軍慰安婦を扱ったNHK番組を改変させた、と朝日新聞が報じたこともちょっとしたニュースになった。
 日本は拉致問題を、朝鮮半島への植民地支配を正当化する口実に利用しているのではないかとの批判が韓国では徐々に高まりつつあるが、日本ではそうした隣国の状況がよく見えていないようである。北朝鮮制裁の音頭を取る自民党北朝鮮制裁シュミレーションチームが、制裁に対する韓国の理解と協力を得るため3月4日から3日間の予定で訪韓を計画していたのは、その典型的例である。
 盧大統領が三一独立運動記念式典演説直後に急遽、訪韓を延期したと報じられたが、その段になって初めて韓国の厳しい対日認識に気づいたとしたら、状況認識が甘きに過ぎると言わざるを得ない。訪韓延期は正解であった。そのままソウル入りしていたら、「あの鑑定結果は何だったのか。制裁云々する前にその釈明が先だ」と突っ込まれ、立ち往生しかねなかったであろう。

 遺骨鑑定に不備があった以上、日本側は北朝鮮との交渉を原点に戻って仕切りなおすべきだ、というのが盧大統領のメッセージであろう。
 というのも、これまで日本は韓国に機会あるごとに拉致問題への理解と協力を求め、6者協議の度に議題に持ち出してきたが、韓国の本音は、拉致問題は日朝二国間で解決すべきことで、6者協議はあくまでも朝鮮半島と周辺地域の安全保障に直結する核問題に焦点をあわせるというものである。
 特に、北朝鮮が2月10日に核保有宣言をして6者協議無期限不参加を表明してからというもの、韓国は、中国とともに水面下で米朝の妥協点探りに腐心しており、日本が北朝鮮との緊張を必要以上に高め、6者協議にまで悪影響を及ぼすことを憂慮していた。
 細田官房長官が緊急記者会見で鑑定結果を発表した直後、日本世論が対北朝鮮制裁論で沸騰していた最中の昨年12月17日、18日の両日、鹿児島指宿での日韓首脳会談に臨んだ盧大統領は、「国民は感情的に流れがちだが、指導者の(大局的)判断とは自ずと異なる」と、日朝国交正常化への意欲を隠さず北朝鮮制裁に慎重な姿勢を崩さない小泉首相を支持し、日本国民の冷静な対応を求める発言をしている。韓国政府関係筋によると、大統領は当時、「北韓(北朝鮮)はどうして偽遺骨など渡したのか」と対日国交正常化の好機をむざむざ逸した北朝鮮側の不可解な態度を訝っていたという。
 だが、三一独立運動記念式典演説の時点ではネイチャー記事は情報として当然入っており、ある意味で、膠着状態に陥った日本人拉致問題を取り上げるグッドタイミングとも言えた。

 日本の一部には、盧政権は金正日政権を利する´親北政権´だとの誤解があるが、盧政権のスタンスはあくまでも韓国の国益を中心に据えていることを見落とすべきでない。
 その対北朝鮮戦略は金大中前政権以来、開放・改革政策を支援して北朝鮮を内から変える包容的な太陽政策で一貫している。その目玉が北朝鮮最大の経済特区である開城工業団地への全面支援であり、ブッシュ政権の速度調整要求にもかかわらずインフラ整備が急ピッチで進み、昨年末にすでに15社の韓国企業がテスト団地に入居して一部が北朝鮮労働者を雇用して操業した。
 今年に入ってからは、3月15日に韓国電力がムンサンから開城まで総事業費514億ウォン(約53億円)で23キロの送電ケーブルを敷設して1万5千kWの電力供給を開始し、300社の入居が予定されている第一期造成工事(百万坪)が終了する07年にはさらに10万kWに増やす計画である。
 そうした脈絡から韓国は、日朝国交正常化についても早ければ早いほど地域の安定化と経済的交流の活発化に有益と考えている。

 日本の対応次第では、拉致問題は6者協議での日韓連携に亀裂を生み出しかねない状況になってきたと言える。
 靖国批判を強める中国の劉建超・外務省報道副局長が、盧大統領が戦争被害者の補償を補完する対応策を日本に求めたことに、同日、「我々は日本が問題を妥当に処理すべきだと理解している」とすかさずエールを送っているのも、日本としては気になるところだ。韓国とまで亀裂が生じたら、北朝鮮と敵対し、中国といがみ合う日本はアジアから孤立しかねない。
 そうした恐怖感が日本を軍事力強化、対米依存へと走らせているとの指摘もあるが、あながちうがった見方とばかりは言えない。ブッシュ政権も北朝鮮との緊張を意図的に作り、日本を取り込もうとしているふしがある。
 鑑定結果以降、対決へとぶれすぎ、日増しに日本外交の重石になっている対北朝鮮政策を再度練り直し、バランスを回復する必要があるのではないだろうか。

 

            英誌ネイチャー「横田めぐみ遺骨鑑定は確定的ではない」(1)(05・3・12)

               吉井帝京大講師証言で「鑑定結果」の矛盾が明るみに
  
  「以前、火葬された標本を鑑定した経験はまったくない。
  自分が行った鑑定は確定的(not conclusive) なものではなく、サンプルが汚染されていた可
  能性がある」
 驚くなかれ、昨秋の第3回日朝実務者協議で持ち帰られた横田めぐみさんの「遺骨」は「別人であった」と発表した日本政府の鑑定結果を根底から覆す証言が、当の鑑定を担当した帝京大学医学部法医学教室の吉井富夫講師の口から飛び出したのである。今年2月2日付の英科学専門誌・ネイチャー電子版に掲載された「DNA is burning issue as Japan and Korea clash over kidnaps(DNAは日本と朝鮮が拉致問題をめぐって衝突する焦眉の問題)」とのタイトルの記事で紹介された。
 この証言通りなら、科学的には「遺骨」は誰のものか確定できないということになる。北朝鮮側の主張通り横田めぐみさんのものである可能性も排除できないわけで、「帝京大のDNA鑑定により、骨片5つのうち4つから同じDNA、他の1個から異なるDNAが検出され、どちらのDNAも横田めぐみさんのDNAとは異なるという結果が出た。遺骨は別人のものであり、横田めぐみさんのものではない」と断定した日本政府発表はウソであったということになる。
 問題のネーチャー記事要約は、以下の通りである。
  「火葬された遺骨のDNA鑑定をめぐって、日朝両国は拉致被害者の遺骨からDNAを正しく
  鑑定できたかどうかをめぐって言い争いをしている。昨年11月15日、日本当局者は横
  田めぐみのものとされる火葬された遺骨を持ち帰った。帝京大学で5つの遺骨サンプルを
  鑑定し、2つの骨からDNAを発見したが、両方とも横田めぐみの臍の緒から抽出したDNAと
  一致しなかったとされた。
  日本をリードする法医学専門家である吉井講師は5つのサンプルからDNAを抽出できた理
  由が幾つかあると話した。DNA増幅のPCR法(the nested polymerase chain reaction)では
  通常、DNAを一度だけ増幅させるが、今回は2度増幅した。自分が引き受けたサンプルが
  他の研究室のものより質が良かった可能性もあるが、誰もが独自の方法でDNAサンプル
  を扱い、標準化されたものはない、と指摘した。
  日本では火葬された標本に対し法医学的鑑定が行われたことはほとんどなく、専門家たち
  は誰もが1200度で焼かれた遺骨にDNAは残っていないと考え、『私も本当に驚いた』と吉
  井氏は語った。この温度で遺骨にDNAが残存する可能性があるとすれば、焼かれた時間
  が短い場合だけである。
  以前に火葬された標本を鑑定した経験がまったくない吉井氏は、自分が行った鑑定は断
  定的なものではなく、また、サンプルが汚染されていた可能性があると認め、『遺骨は何で
  も吸い取る硬いスポンジのようなものだ。遺骨にそれを扱った誰かの汗や油がしみ込んで
  いたら、どんなにうまく処理してもそれらを除去することは不可能だ』と述べた。
  日本当局者はDNAの再鑑定を行いたいとも述べている。だが、吉井氏は、5つのサンプ
  ルのうち、最も大きい1・5グラムの骨片は鑑定で使い果たしてしまったと語っている。意見
  の相違を解決する可能性はほとんどなくなった」

 要するに、遺骨から何とかDNAを検出することはできたが、サンプル(遺骨)自体のDNAなのか、火葬後に遺骨に触れた人の汗などが染み込んで検出されたのかは確定できない。サンプルの保存状況から推して、後者の可能性の方がはるかに高い、というものである。
 従って、科学的には、同鑑定だけでは遺骨が横田めぐみさんのものだったとも、そうでなかったとも確定的なことは言えない。検出されたDNAをさらに火葬後に遺骨に触れた可能性のある人物のDNAと照合してはじめて、一致→遺骨の鑑定不能、不一致→遺骨は別人のものと、検証は次の段階へと進んでいくことができるのである。その意味で、同記事がサブタイトルで「火葬された遺骨は拉致された少女の運命を証明するのに失敗」と書いたのは妥当な判断と言える。
 こうした衝撃的な証言は、ネーチャー誌の東京駐在員David Cyranoski氏が吉井講師に直接取材して得た。権威ある科学誌として世界的に知られるネイチャーがわざわざ吉井講師にインタビューしたのは、日本の法医学界も含めて一般的には疑問視され、実際に科学警察研究所も不可能と手を上げた1200度の高温で焼かれた骨の鑑定に吉井氏がどうやって成功したのかを確かめる科学的関心からと思われるが、吉井氏はネイチャー側の疑問を晴らすことができず、逆に、鑑定の不備を認めた結果になった。
 ただ、ネーチャーに法医学者としての所見を正直に語っているように、おそらく吉井氏に責任はない。科学警察研究所が失敗したにもかかわらず、ひとり吉井氏だけがすべてのサンプルからDNAを検出できたのはその卓越した能力と幸運の故であろう。
 ちなみに、吉井氏は『DNA鑑定入門 刑事事件への適用と親子鑑定』の共著があり、03年6月に旧厚生労働省が1999年から02年度にかけて旧ソ連、モンゴル等において収集した戦没者遺骨のDNA鑑定連絡会議のメンバーに勝又義直名大教授、玉木敬二京大教授らとともに加わっているが、細田官房長官が「世界的な権威」と持ち上げたほどの実績はない。とりわけ、高温熱処理した遺骨の鑑定経験は本人が認めるように今回が初のケースである。
 責められるべきは、本来なら「遺骨は本人のものでない可能性がある」とすべきであったものを、恣意的、政治的(?)に解釈して「遺骨は横田めぐみのものでない」と断定的な「鑑定結果」を公表した日本政府の方である。
 ところが、奇妙なことに、ネイチャー記事がインターネットで世界に配信されてから一ヶ月以上も経過した現時点でも、日本政府は「国内最高水準の研究機関による客観的で、正確な検査結果である」と言い張っている。もっとも、同記事に「日本当局者はDNAの再鑑定を行いたいとも述べている」とあるように、政府の一部には「鑑定結果の公表は拙速にすぎた」と密かに仕切り直しを模索する動きもあるが、表向きは北朝鮮側に揺さぶられないように極力平静を装い、相手側の動きを慎重に見極めようとしているようである。
  
 これまでの経緯を振り返ると、問題の「遺骨」は、昨年11月14日、第3回日朝実務者協議のためピョンヤン入りした藪中三十二外務省アジア大洋州局長が横田めぐみさんの夫から直接手渡されたもので、安否不明者10人に関する物証や証言の核心部分とされた。警察庁は直ちに「遺骨」を証拠物扱いとし、新潟県警察本部を通して科学警察研究所、帝京大学、東京歯科大学にDNA鑑定と骨相学鑑定を依頼した。
 科学警察研究所と東京歯科大学は鑑定不可となり、残る帝京大学の鑑定に世間の関心が集中していた最中の12月8日、細田博之官房長官が緊急記者会見で「帝京大学医学部によるDNA鑑定の結果、別人のものであると鑑定された。遺骨は2人の他人の骨を混ぜたものであると判明した」と発表した。これを受けて外務省は同25日、北京の北朝鮮大使館に「朝鮮から提示された情報、物的証拠の精密調査結果」という文書を送付し、「迅速かつ誠意ある回答を求め、対応がない場合、厳しい対応をとらざるを得ない」と表明した。
 これに対し北朝鮮外務省代弁人は同30日、朝鮮中央通信社記者の質問に答える形で、「日本政府の『調査結果』は捏造である。受け入れることはできない」と猛反発し、「遺骨」の即時送還、「鑑定捏造の真相究明と責任者の処罰」を求めた。さらに、朝鮮中央通信社が今年1月24日、「日本は反朝鮮謀略劇の責任から絶対に逃れられない」と題する備忘録を発表、同26日、北京の日本大使館に同趣旨の正式回答を送付した。
 日本側が2月10日、「(日本の)鑑定手続きの厳格さやDNA鑑定の技術水準に関する現実を少しも認識していない」とする反論文で突っぱねると、北朝鮮側は同24日、日本大使館にファクスで回答文を送り付け、「日本側の反論は科学的な論証が欠如し、一顧の価値もないお粗末な弁明だ。これ以上、この問題について日本政府と議論する考えはない」と交渉打ち切りを通告した。
 争点は明らかに「遺骨」鑑定の正確性、科学性であるが、それに関して北朝鮮側は北朝鮮政府が委任した人民保安省と法医学専門家の分析結果を基にした備忘録で細部にわたって反論を試みている。日本のマスコミがほとんど無視した備忘録の要旨は以下の通りである。
  「日本政府が断定した検査にはあまりにも疑問点が多い。第1に、科学警察研究所ではDN
  A検出ができなかったのに、帝京大学では「結果」が出たことである。火葬した遺骨からミト
  コンドリアのD NAを分離し、めぐみの臍帯と対照して識別鑑定を行った帝京大学の鑑定
  は、1人の遺骨を2人の遺骨と鑑定し、科学的であると言えない。第2に、遺骨鑑定の分析
  方法である。わが国では通常平均1200℃で死体を火葬しているが、この高温で火葬した
  遺骨の鑑定は個人識別が不可能であることは一般的な常識であり、帝京大学鑑定は信じ
  難い。
  第3に、帝京大学のDNA識別鑑定書はのつじつまが合わないことである。ミトコンドリアの
  塩基配列が骨片1はC型に、骨片2、3、4はA型、骨片5はAG.CT.TC混合型とするが、
  同型で現れるヌクレオチドの塩基配列が3つの型で現れ、一つの骨片は混合型になってい
  るというのは不思議である。
  仮にこの結果が正しいとしても、遺骨は3人以上の人のものと見なすべきで、『本人ではな
  い他の2人の骨』と断定するのは矛盾がある。骨片5に対する1回目と2回目の分析結果
  が異なり、小さな1つの骨片から相反する分析結果が出たというのも科学的に無理がある。
  さらに、遺骨は火葬、運搬、保管過程で多数の人々が扱い、1200℃の高温で燃焼した遺
  骨からDNAを分離するほどの鋭敏な鑑定であるならば、遺骨に触れた人々のDNAも検出
  されるはずなのにそれが一つも検出されていないのは疑問を抱かせる」
 一読して分かるように、この備忘録は意外と率直に科学的な疑問点を提起しており、日本政府が一方的に無視したのは交渉の態度として適切と言えない。代わってネイチャーの記者が吉井講師に疑問点をぶつける形になり、鑑定の矛盾が浮き彫りになってしまったのは皮肉というしかない。
 信じがたいことであるが、日本政府が北側に送付した「鑑定書」には、通常はあるべき分析者や立会人の姓名、分析機関の公印すら押していない。誰が鑑定結果に責任を負うのかもはっきりしないような鑑定書を送ったのは対応に苦慮した日本側のあたふたぶりをうかがわせるが、そこには同時に、北朝鮮のDNA鑑定技術を甘く見て相手を見下す奢りがなかったか。
 北朝鮮は米国との間で、朝鮮戦争で行方不明になった米兵の遺骨の現地共同調査を1996年以来進めており、その過程で日本に勝るとも劣らないDNA鑑定の知識と経験を集積していることを軽視するべきでない。

 日本政府は今後、苦しい対応を迫られそうである。「まずは北朝鮮側こそ、日本と国際社会が納得できるきちんとした説明を行う責任を負っている」と反論文で批判した手前、ネイチャー記事で鑑定の欠陥が明らかにされた以上、ネイチャー記事で鑑定の欠陥が明らかにされたことにいつまでも知らぬ顔の半兵衛を決め込んでいることはできない。
 ことは日朝間の新たな火種に発展する可能性がある。
 日本側は不満でも、北朝鮮側には北朝鮮なりに拉致被害者5人とその家族すべてを日本に返し、やることはすべてやった、という思いがある。それだけに日本側が「遺骨」を捏造したと一方的に非難したことに怒り心頭で、「責任ある者を厳重に処罰すべき」と求め、「日本政府が『厳しい対応』をうんぬんしていることについて言うなら、思い通りにしろということだ。我々もそれに対応した行動措置を選択する」(回答文)と対決姿勢を全面に出しており、ちょっとやそっとで矛を収めそうにない。
 また、国際的にも、過去、機会あるごとに関係国に理解と協力を求め、6者協議の度に日朝二国間問題である拉致問題を持ち出してきただけに、今後の対応次第ではダブルスタンダードと批判され、米朝の妥協点探りに腐心する韓国、中国などで「日本は北朝鮮との緊張を必要以上に高め、6者協議に障害をつくっている」と対日批判が強まることになりかねない。
 さらに、国内的にも、拉致被害者に同情する世論への情報操作ではないかとの批判が高まる可能性がある。
 一番の被害者は拉致被害者家族会ではないだろうか。「鑑定結果」発表後、緊急声明などで「北朝鮮は日本の鑑定結果を捏造と開き直っている」と強く反発し、「圧力をかければ北朝鮮は折れてくる」と一縷の望みを託して制裁発動を政府に強く迫っているが、うそを付いたのが自国政府ということになれば、挙げた拳のやり場に困るのではないか。もっとも、´金正日憎し´から何が何でも金正日政権打倒の報復感情に駆られ、「いまさら細かいことはなし」ということなら話は別であるが・・・。
  
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  拉致問題の゛日本国内政治化゛をどう解くか(04・5・19)

 小泉首相の訪朝が急遽5月22日と決まり、膠着状態にあった拉致問題が解決へと大きく動
き出した。世論も6割以上(訪朝発表直後の15、16日の朝日新聞緊急世論調査)が期待を
寄せるが、ことはこじれにこじれているだけに解決は容易ではない。

 では、゛落としどころ゛はどこなのか。それについて私は日刊ゲンダイ(04・5・18)に次のよう
にコメントした。

 「8人に加え、横田めぐみさんの娘キム・へギョンちゃんを一緒に連れ帰ることでしょう。めぐ 
 みさんの両親と孫のヘギョンちゃんが日本で対面すれば、しばらく日本中、この話題で持ちき
 りになる。めぐみさんの夫だった人が同時来日することもあります。

 へギョンちゃんはいずれ北に帰らざるを得ないから、それをきっかけに、横田さんの両親が 
 北へ行くことも必要になる。

 世論の関心は自然と被害者家族の自由往来と、国交正常化のムードができてくる。日朝両 
 政府が折り合いをつけるなら、このあたりしかありません」

 このコメントを補足すると、拉致問題を原点に戻って見直す必要があるということに尽きる。
横田めぐみさんが拉致問題の出発点であり、あらゆる問題を凝縮している。被害者家族会の
会長がめぐみさんの父親で、へギョンちゃんの祖父であることがそれを象徴しており、二人の
関係をほぐさない限り、事態は進展しないだろう。

 拉致被害者の即時帰国は原則論としては正しいが、8人を連れ帰ると言っても、現実的に
は、曽我ひとみさんの夫、ジェンキンス氏を米国防総省が脱走兵として訴追する構えを崩さ
ず、日本国内に入った時点で引渡しを求めてくるのは間違いない。折りしも今日19日から米
国ジョージア州で、イラクからの休暇帰国途中に雲隠れし、良心的兵役拒否者を宣言したイラ
ク駐留米軍のカミロ・メヒア軍曹が脱走容疑で軍法会議にかけられるが、泥沼化したイラクで
戦う米兵の規律弛緩と脱走を恐れる米国防総省は、あくまでも強硬である。

 小泉首相はブッシュ大統領に電話で特赦など善処を求めたが、色よい返事はもらえなかった
ようだ。ブッシュ支持率も最新のギャラップ調査によると46%と不支持率51%を下回って就任
後初めて支持、不支持が逆転し、再選に赤信号が点った。いかに盟友の小泉首相の要請とは
言え、最後の頼みの軍からそっぽを向かれるようなことは出来ないだろう。

 娘さん二人も高齢の父親を案じて、来日に反対していると伝わる。一部に、「北朝鮮では自
由な意思を表明できない」として疑問視する声もあるが、親子の情を無視した邪推である。曽
我さん家族が日朝間を自由往来できるように計らうべきであろう。

 親子が日本人であることを知らなかった蓮池薫さんらの子供にしても、友人、知人から切り
離し、いきなり環境の異なる日本に放り込まれれば、戸惑うであろうし、順応までに多くの努力
と時間を要するであろうことは中国残留孤児たちの実情を見れば明々白々である。

 主権とか国家主義的観点を全面に押し出して被害者全員を無条件帰らせろ、とするのは聞
こえはよいかもしれないが、実際には、当事者の実情を無視し、生活破壊、人格破壊の危険
を伴う乱暴な意見である。本人達が望むような環境作りを優先し、必要なら自由往来し、徐々
に慣らしていくのが合理的で現実的な方法である。日朝両政府は国家のメンツにこだわらず、
人権や個人を重視する観点から互いに歩み寄り、責任を持ってその実現に努力すべきであ
る。

 遺憾なことに、現状は様々な思惑が渦巻いて当事者本位の対応を取りにくくしているが、そ
の背景には、北朝鮮側の事情もさることながら、日本国内でも、拉致問題が特定勢力と結びつ
き、北朝鮮への必要以上の感情的反発を引き起こし、政治問題化してしまったことがある。

 被害者団体である「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」(家族会)が、世論に訴えながら
政府に圧力をかけ始めたことがその発端である。報復的になりやすい被害者感情としては分
かるが、私的な一団体が政府の外交を縛る現状はやはり異常というしかない。

 のみならず、先の総選挙が示すように、それは選挙にも大きな影響を与えるようになった。
参院選が近づくに連れ、与野党問わず、票になると当て込んだ目敏い政治家が無責任なパフ
ォーマンスに奔走し、事態を複雑化させていることも否めない。

 「制裁、制裁って、北朝鮮を打倒したり、制裁するために運動をやっているのではない。あく
までも拉致被害者の奪還が目的なんです。拉致問題を一部の右傾的な人たちの政治活動に
利用されるべきではないし、家族会はそうした動きとは一線を画すべきです」(FRYDAY04・5・
28)。被害者の蓮池薫氏の実兄で、家族会事務局長の蓮池透氏の言葉であるが、人道主義
の問題をそれぞれの政治的思惑から利用した人たちは心して耳を傾けるべきであろう。

 特に、北朝鮮打倒を以前から主張している佐藤勝巳氏らが中心となった「北朝鮮に拉致され
た日本人を救うための全国協議会」(「救う会」)が、家族会を使ってことさら北朝鮮への敵対意
識と不信感を煽り、対話から逸脱し、制裁、圧力局面へと向けようとしてきたことは紛れもない
事実である。それは日本社会の右傾化の潮流とも関連している。

 無論、北朝鮮の対応にも問題があったが、日本国内でのそうした偏向が日朝間に不必要な
軋轢を生み、事態を膠着状態に陥らせた一因となったことは、過去の一年七ヶ月が物語って
いる。

 ここはやはり人道主義の本道へと立ち戻るべきである。そして、拉致問題の原点である横田
めぐみさんの娘さんとご両親の対面、そこから生まれるものに期待するしかあるまい。

 孫のへギョンちゃんを日本に呼ぶことは横田夫妻が望んでいたことであり、それが人情であ
る。そのビッグチャンスをむざむざ逃すことはない。「北朝鮮に利用される恐れがある」などと
必要以上に臆病にならず、まず祖父母と孫が会うことである。互いに知らないから不安や疑心
が生じ、周囲の雑音に惑わされることになる。会って、娘に何があったのか、直接自分の目と
耳で真実を確かめることがもっとも確実で、安心できる方法であることは言うまでもない。

 関連情報↓

 拉致問題日誌

 02年

  9月17日  小泉・金正日会談。金総書記は拉致を認め、「死亡8人、生存5人」と伝え謝罪。日朝ピョンヤン宣言
          署名

 10月15日   拉致被害者5人帰国。日本政府は当初「10日程度の滞在予定」と説明

     24日   日本政府、(1)帰国した被害者5人の日本滞在(2)北朝鮮にいる5人の家族らの早期帰国要求、 
          などの基本方針決定

     29日   クアラルンプールで日朝国交正常化交渉再開。北朝鮮側は「政府間の約束通り、5人を一旦家族が
          待つピョンヤンに帰すべきだ」と主張、5人の扱いで決裂

 03年

  5月23日   米クロフォードでの日米首脳会談でブッシュ大統領が拉致問題で日本支持を表明

  8月27日   北京で核問題に関する6者協議始まる

     28日   日朝2国間協議。金永日・北朝鮮外務次官「(被害者5人を)帰さないのは約束違反だ」と非難

 12月20日   拉致議連事務局長の平沢勝栄衆院議員らと北朝鮮政府高官が北京で会談。北朝鮮側が拉致被害
          者のピョンヤン出迎え案提示

 04年

  1月13日   外務省北東アジア課首席事務官らピョンヤン入り。内閣官房の拉致問題担当事務官訪朝

      9日   日本単独で北朝鮮経済制裁を可能にする改正外為法成立

  2月11日  外務省田中均外務審議官と薮中三十二アジア太洋州局長訪朝。議論平行線

     25日  第2回6者協議が北京で開幕

  4月 1日   山崎拓前自民党副総裁と平沢が大連で鄭泰和大使らと会談

     19日   金正日総書記訪中

     25日   22日に起きた北朝鮮龍川駅での列車爆発事故で、日本政府が被災者支援のため10万ドル相当 
         医療物資支援決定

  5月 4日  北京で田中・藪中ら鄭大使らと政府間交渉

     22日  小泉訪朝、金正日総書記とピョンヤン宣言再確認。

          蓮池、地村両氏の5人の子供帰国。曽我さんの夫は来日拒否

  7月 9日  曽我ひとみさんと夫ジェンキンスさん(64)、美花さん(21)、次女ブリンダさん(18)、インドネシアの
          ジャカルタで再会

     18日  曽我さん一家、ジェンキンスさんの病気治療を理由に来日。

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           日本人拉致救出運動の深い闇(03・12・22→25加筆)

 国民的関心は高いが、救出運動は行き詰まり

 蓮池薫氏ら拉致被害者5人が帰国して1年以上が経つが、子供らが帰国する見通しは全く
立っていない。この問題への国民的関心は依然として高いが、「救う会」が主導してきた救出
運動は、右傾化、過激化して浮き上がり、行き詰まり状況に陥っているのが偽らざる現実であ
る。

 ある意味では必然とも言えるが、「救う会」熊本の理事が「建国義勇軍」による一連のテロ行
為の実行犯として逮捕され、中心メンバーの西村真悟拉致議連幹事長も同組織と関わってい
た疑いが浮上した。これは「救う会」主導の救出運動が本来の人権、人道主義から外れ、特殊
な政治目的を実現する政治的運動へと偏向していること、そして、先が見えない閉塞感から次
第に暴力依存の傾向に流れていることを物語っている。

 そのような運動が一般国民から浮き上がるのは当然であるが、12月10日夜、「救う会」、家
族会、拉致議連が東京で開催した「経済制裁法案成立を求める緊急国民集会」はそれを現実
問題としてはっきりと示した、と言えよう。

 読売新聞などに「北朝鮮は拉致被害者に謝罪し、早期原状回復すべきだ」とコメントしつつ
も、反北朝鮮が看板の現代コリア研究所がそっくり移り変わった「救う会」には当初から批判の
目を向けていた私は、さる5月の有楽町の東京国際フォーラムでの集会に次いで、今回も会
場に足を運んだ。開場10分前で入場できなかった前回の教訓を踏まえ、開場1時間半前、5
時少し過ぎに九段会館に到着したが、案の定、寒空に長蛇の列ができ、リュックに日の丸の小
旗を手にした一団が最前列に陣取り、京都や埼玉など地方から駆けつけた人々が今や遅しと
入場を待ちわびていた。

 集会を仕切っていたのは今回も「救う会」関係者らで、マイク片手に忙しげに声を掛け合い、
整理券やカイロを配る。一種独特の興奮と熱気が次第に高まる中、ハプニングもあった。「制
裁だけでは無理だ。国交正常化し、援助というアメを与えた方が子供たちは返ってくる。何でそ
んなことも分からないのか!」と甲高い声が響く。(そうそう、それが正論だ)と思いながら声の
した方を振り返ると、白い野球帽を深めに被った初老の人物が誰ともなく持論を開陳していた
が、「黙れ!」「そんな奴はここにいる資格がない!」「そうだ、返れ!」と罵声を浴び、たちまち
沈黙させられてしまった。

 しかし、この盛り上がりが、実は部分的なものに過ぎないことが3〜4時間後に明らかにな
る。主催者発表では約1500人参加だが、実数は会場の収容能力1200余がせいぜいであ
ったろう。やはり主催者発表で1万余の人々が続々詰めかけ、会場内外をぎっしり埋めた前回
とは比べるべくもない。私も意外であったが、1階会場の前列の座席からふと場内を見回した
折に後部に立見がほとんどないことに気付き、もしや?と思いながら閉会寸前に2階、3階を
見て周って空席があるのを確認し、「これなら早く来ることもなかった」と拍子抜けしてしまった。

 開場前の長蛇の列は多くが全国の「救う会」から動員された人々で、期待された通勤帰りの
一般市民が少なく、後が続かなかったということである。蓮池薫さんら5人の参加がマスコミに
報じられて注目され、西村拉致議連幹事長と盟友関係にある石原慎太郎東京都知事までおっ
とり刀で駆けつけて異様な盛り上がりを見せた前回と異なり、「救う会」もある程度の動員力低
下は覚悟していたと思われるが、集会場としては小ぶりの九段会館も埋まらないとは予想もし
なかったであろう。

 「救う会」主導の救出運動が上滑りしていることをうかがわせるが、壇上に並んだ主役の家
族会メンバーも疲れた表情を浮かべ、「(小泉訪朝依頼)動きは全くなく、目処もたっていない」
(横田滋代表)、「この国はいつになったら私たちを助けてくれるのか。これ以上待てない」(蓮
池透事務局長)と、発言の一つ一つに焦りや怒り、無力感をにじませた。

 蓮池薫氏の父・秀量氏はメモを手にしながら「三つ訴えたい。小泉総理が再度訪朝し、体を
張って交渉すべきだ。在日朝鮮人の方も本国に呼びかけてください。社民党が朝鮮労働党と
友好関係にあることを最近初めて知ったが、それを生かして尽力して欲しい」と悲痛な声を張り
上げた。

 蓮池薫氏の妻の実父・奥土一男氏も「亡くなった妻が孫の顔が見たいと言ったことが無念
だ。結婚適齢期の孫が向こうで結婚すれば日本に帰るのはいやだとなりかねない。一刻も早く
解決してもらいたい」と訴えると、会場は水を打ったように静まり返った。孫(地村保志氏の長
女)と寺越武志氏の長男との縁談が写真週刊誌フライディーなどで報じられた地村保氏も「3
人の孫が心配だ」と早期解決を求めた。

 蓮池秀量氏の訴えはもっともである。私も日刊ゲンダイ(12・12)の「小泉首相は再訪朝を」
の記事で「小泉首相が北に乗り込んで金正日と直談判するしか打開策はない。でないと、また
アッという間に1年が過ぎてしまう」とコメントした。

 しかし、現在のように拉致問題が「救う会」主導の対決姿勢に偏ったままでは、北朝鮮は態
度をますます硬化させ、早期解決は遠のくばかりである。「経済制裁は早期解決の第一歩」な
どと「救う会」は幻想を振りまいているが、実体はこれまでの失敗を糊塗する弥縫策でしかな
い。

 集会には拉致議連の中川昭一・前会長・経済産業大臣、平沼赳夫会長、細田博之内閣官房
副長官ら33人が顔を見せたが、家族会から無為無策を非難されるのを恐れてか、挨拶を終
えると足早に会場を後にした。

 「圧力をかければ北朝鮮は必ず折れてくる」と強硬派を気取ったパフォーマンスで゛国民的ヒ
ーロー゛ともてはやされ、総選挙直前に自民党幹事長に大抜擢された安倍晋三・自民党拉致
問題対策本部長も、ばつが悪そうに途中から参加し、精彩を欠いた表情で儀礼的な挨拶を済
ませるとさっさと席を立った。

票になるかどうかで態度を豹変させるのが政治家の悲しい性である。一度落ちかけた゛小泉
人気゛が日朝首脳会談後に息を吹き返し、゛安倍人気゛との二枚看板で総選挙を戦ったよう
に、拉致問題は自民党の人気取りに巧みに利用されてきた。来春の参院選を意識して、拉致
はまだ票になると踏んでか、漆原良夫・公明党拉致問題対策本部長が盛んにリップサービス
を振りまいた。

 民主党からも鳩山由紀夫・拉致問題対策本部長が参加した。党代表の座を退いてから存在
感の薄い鳩山氏は、「党としてこれまで何もしてこなかったことを反省している。機会があれば
自らピョンヤンに行くつもりだ」とアピールにこれ努め、ヤジとエールが入り混じった拍手を浴び
ていた。が、後日、ある意味で民主党の存在意義をも問われかねない事件の後始末に忙殺さ
れる羽目になるとは夢にも思っていなかったであろう。

 西村真悟・拉致議連幹事長、突然の入院・欠席の謎

 奇妙に思えたのは、会場で配られた進行表に拉致議連活動報告者と記されていた西村真
悟・拉致議連幹事長の姿が見えなかったことである。「体調を崩して入院した」と、司会の桜井
よしこ氏がいたわるように説明したが、(゛晴れの舞台゛に主役の1人が何で?)と疑問が湧い
た。

 何しろ、尖閣上陸、核武装発言、強姦発言などで世間を騒がせ、自己顕示欲(当人は信念と
説明)の強さは半端ではない。拉致問題でも早くから現代コリア研究所長でもある佐藤勝巳
「救う会」会長の指南を受け、「97年の衆院予算委員会で横田めぐみさん拉致問題を質問し、
北朝鮮による拉致被害を世論に喚起した」と、自身のHPで政界における゛拉致問題の草分け゛
を喧伝、テレビでも盛んに売り出し、民主・自由合併後の民主党内で立ち上げた拉致問題対
策本部を引っ張ってくれると「救う会」などから熱い視線を送られていた最中だけに、(欠席せ
ざるを得ない隠れた理由があったのでは)と頭の片隅に疑問がこびりついて消えなかったが、
9日後、後述のような衝撃的な形でその謎は解消する。

 この日、「いつになったら私たちを助けてくれるのか」という家族会の批判の矢面に立つべき
は、他ならぬ佐藤会長ら「救う会」執行部であったろう。

 「北朝鮮は圧力に屈して拉致を認めた。金正日政権は崩壊寸前だ。この政権を倒さない限
り、拉致問題は解決しない」という誤った認識を家族会に植え付け、訪米までしてブッシュ政権
に北朝鮮制裁を懇願し、拉致救出運動を制裁と圧力に偏った政治的運動にねじ曲げてしまっ
た。それが安倍官房副長官ラインを通して小泉政権の対北朝鮮外交にまで影響を及ぼし、日
朝交渉を頓挫させてしまった最大の原因であるからである。

 蓮池秀量氏が「小泉総理が再度訪朝を」と仕切り直しを呼びかけたのは、「救う会」への痛烈
な批判そのものである。

 小泉再訪朝の声は家族会と恐らく被害者5人の総意になりつつあるようで、地村保氏はすで
にこの時点で小泉首相に再度訪朝を求める手紙を送り、集会6日後、拉致問題担当の細田官
房副長官名で返事が届いたことを明らかにした。返事には再訪朝への言及はなく、「6か国協
議の再開を働きかけ、1日も早い被害者ご家族の帰国実現に向け、一層努力していく」という
ものだが、「決意を書くだけではなく、早速実行してほしい」という願いは実現されそうもない。
政府が北朝鮮と交渉する唯一の場と頼む6か国協議も来年に延長され、拉致問題が取り上げ
られる可能性は低くなる一方だからだ。

 不幸なことに、「救う会」は家族会を通して世論を操り、日本政界に誤った北朝鮮観を蔓延さ
せている。先の総選挙にも露骨に干渉し、直前に全候補に「拉致はテロと認識」「外国為替法
改正賛成」「特定船舶入港制限新法制賛成」へのアンケート用紙を送り、結果は実名で公表す
ると踏み絵を踏ませるようなことを行い、それぞれ91%、81・4%、76%の賛成回答を得たと
公表している。

 その゛成果゛を踏まえて集会では、「拉致された日本人と家族を正月までに帰さないなら経済
制裁する」ために、日本単独で送金停止や貿易制限、万景峰号等の入港制限を可能にする
外国為替法改正、特定船舶入港制限新法などの経済制裁立法を求めるとの声明を採択した
が、仮にそれが実現しても、実効性は疑わしい。頼みのブッシュ政権が北朝鮮と和解する方向
に舵を切り始めており、日本独自で制裁に踏み切っても北朝鮮との不要な緊張が高まりこそ
すれ、譲歩を引き出すことは難しいからである。

 このように「救う会」主導の救出運動は現在、大きな壁にぶち当たっている。「バカの壁」では
ないが、色眼鏡をかけた北朝鮮観に目を曇らされ、現実を冷静に見通せなくなっているためだ
が、佐藤会長は懲りずに閉会の挨拶で、「100万人署名運動を展開し、金正日その人に向か
って国民の意思を明確にしたい」と反北朝鮮、反金正日のスタンスを露にした。しかし、ブッシ
ュが頼りないと見てか、今度は「中国政府と一緒になって拉致問題に取り組もう」などと、米国
から中国に船を乗り換えるような支離滅裂なことを呼びかけた。救出運動に展望を持てなくな
っていることを自ら認めたようなものである。

 とはいえ、会場にいる限り、佐藤氏の一挙一動には万来の拍手が上がリ、熱狂的な支持を
受けているようには見えた。「救う会」のカリスマ教祖化し、カルト集団を思わせる興味ある現
象であったが、それはこの集団が、「日本も核武装して北朝鮮に対抗しよう」と公言する教祖の
下で特異化し、一般国民と遊離しつつあることを雄弁に物語る。

 「救う会」熊本理事が広島県教組銃撃犯として逮捕

 冒頭で紹介したハプニングではないが、「救う会」主導の拉致救出運動は、自分と意見が異
なる相手を認めない特異体質を生み、たとえ一部の跳ね上がり分子の仕業とはいえ、愛国を
気取って「国賊」「売国奴」と決めつけて「殺す」「殱滅する」などと書かれた脅迫文や銃弾を送り
つけ、銃撃や爆発物を仕掛ける右翼テロリスト集団と連携する危険な方向に向かっている。

 拉致問題をきっかけに日本国内では反北朝鮮感情が異様な高まりを見せているが、それと
軌を一にして、朝鮮総連関連機関や社民党、日教組、アーレフ、加藤紘一氏や野中広務氏、
田中均外務審議官の事務所や自宅を標的に、「建国義勇軍」「国賊征伐隊」「朝鮮征伐隊」名
で犯行電話を報道機関にかけていたグループによるテロ事件が昨年11月から全国10都道
府県で計23件も続発している。それと「救う会」が浅からず関わっていた驚くべき事実が、警
察によって明らかにされたのである。

 マスコミ報道を総合すると、一連の事件を捜査していた警視庁公安部と大阪府警などの合同
捜査本部は12月19日朝、今年5月29日夜、オウム真理教東京道場(東京都杉並区)に拳銃
1発を発砲、6月13日夜、同大阪道場(大阪市西成区)に拳銃3発を発砲、6月27日夜、広島
県教職員組合事務所(広島市)に拳銃2発を発砲した疑いで、岐阜県岐南町の日本刀愛好会
「刀剣友の会」の関係者が関与したと断定、村上一郎(54)会長をはじめ会社員服部達哉(4
0)(兵庫県姫路市)、古物商手伝い中村隆治(32)(横浜市)、パソコン教室講師麻布孝弘(3
8)(岐阜県岐南町)、古物商経営野々山文雄(52)(横浜市)、会社員速水春彦(46)(岐阜県
柳津町)ら6人を銃刀法違反(発射罪)などの疑いで逮捕、関係先約90か所の捜索を始めた。

 3件の現場で見つかった事件の銃弾はいずれも38口径で銃弾の指紋といわれる線条痕が
一致していたが、今年7月29日深夜、朝鮮総連新潟県本部の正面玄関シャッターに銃弾1発
が撃ち込まれた事件と、8月23日夜、朝銀西信組本店(岡山市)正面出入り口ドア左側のガラ
スに銃弾1発が撃ち込まれた事件の現場に残された銃弾の線条痕とも一致し、村上容疑者ら
が関与していることはほぼ間違いない。それとは別に、速水容疑者の自宅の車の中からアタッ
シェケース入りの45口径自動式拳銃一丁が発見され、岐阜市に住む男性会員の会社のアタ
ッシェケースからライフル用の銃弾20発が押収されている。

 さらに、合同捜査本部は今年9月に田中均・外務審議官宅に不審物が置かれた事件など3
事件も、村上容疑者らの犯行と断定、新たに東京都新宿区下落合4丁目、「刀剣友の会」顧問
の歯科医師田中成治(50)、三重県四日市市桜台2丁目、同会顧問の飲食店経営伊藤金四
郎(52)、名古屋市昭和区石仏町1丁目、同会顧問の住職山崎葉璽(ようじ)(55)、新潟県長
岡市中島1丁目、同会理事の彫刻業土田耕衛(41)、埼玉県草加市吉町4丁目、同会理事の
会社役員鹿野栄治(48)ら5人を銃刀法違反などの容疑で逮捕した。

 村上容疑者は岐南町の刃物販売会社「日本レジン」会長であり、「刀剣友の会」は建前上は
日本レジンの顧客らを対象に同社が運営している愛好会となっている。犯行手口は似通って
おり、各地で「友の会」主催の刀剣類展示即売会「大刀剣祭り」が開催されているが、村上容
疑者らが最初に銃撃の対象を決め、対象に近い場所で祭りを開いたとみられる。村上容疑者
が直接関わることもあるが、「村上容疑者の指示」で動いたと供述する容疑者もいる。犯行声
明は、村上容疑者が考えたものを報道機関に電話で伝えるよう幹部に指示していた。

 一連の事件での逮捕者は12月22日の時点で12人となったが、その12人目のテロリスト
が、ある意味でやはりと言うべきか、「救う会」熊本理事の熊本市田迎1丁目、職業不詳、木村
岳雄容疑者(34)である。

 木村容疑者は広島県教組書記局に拳銃2発を発射して、窓ガラスなどを壊し、銃刀法違反
(発射)と建造物損壊の疑いで逮捕された。調べに「かかわっていない。知らない」と否認してい
るが、広範囲にテロ活動を行い、東京都内で今年10月に起きた日教組関連施設に対する2
件の事件の実行役だった疑いも強まっている。

 

 トカゲの尻尾きりで逃げようとする「救う会」幹部

 木村容疑者が捜査本部によって「救う会」熊本の関係者であることが確認された22日、「救
う会」の西岡力副会長は同容疑者が同会熊本の理事であることを認めたうえで、同日付で解
任し、「容疑が事実なら『家族会』や『救う会』が展開してきた救出運動への重大な裏切り行為
であり、許すことができない」との談話を出した。

 「救う会」幹部がテロリストであったことが発覚し、蜂の巣をつついたような状況にあることは
想像に難くないが、西岡副会長の談話は無責任極まりない。

 この段になっても家族会を持ち出して矛先を交わそうとし、さらに、「重大な裏切り行為」など
とあたかも「救う会」と無関係であるかのように装い、同会幹部である木村容疑者個人に責任
を押し付けることで、「救う会」の社会的、道義的責任に頬被りしているからである。組織防衛
の論理を優先させたトカゲの尻尾きりそのものであり、どこかの校長が「生徒の非行を知らな
かった」と弁明するよりも遥かにたちが悪い。

 北朝鮮を非難しようが、擁護しようが、各自の自由であり、根拠を挙げて意見を闘わせれば
よいことである。だが、自分と意見が違う相手を暴力的に否定するのはテロそのもの、民主主
義社会への挑戦であリ、断じて許すことは出来ない。

 「救う会」は誰彼問わず「拉致はテロ、を認めますか」と強引に迫り、あたかもテロに反対して
いるかのようである。だが、その一方では佐藤氏ら幹部が講演会、著書などで「北朝鮮は話が
出来る相手ではない」と北朝鮮性悪説を口癖のように公言しながら、制裁、圧力だけが意味を
持つかのように説き、北朝鮮への先制攻撃や日本核武装まで主張するに到っている。

 北朝鮮に対してならテロでも何でも許されるかのような攻撃的口ぶりは、田中外務審議官宅
への事件を「爆弾を仕掛けられて、当ったり前の話だ」と言ってのけた石原慎太郎東京都知事
のような同調者を得て、日本各界にもかなり浸透しているが、一連のテロ事件への「救う会」幹
部の関与も、同会の大義を欠いた独善的、ダブルスタンダード的体質が招来したものと言える
だろう。

 「救う会」が「拉致はテロ」などとうそぶくのはもはやブラックジョークだが、木村容疑者以外に
も「救う会」会員がテロ行為に関わっている可能性は否定できない。

 一連のテロ事件の容疑者は歯科医、住職、パソコン教室講師、古物商、彫刻業、会社役員
と底知れない広がりを見せているが、事件がいずれも時期的に「救う会」主導の拉致救出運動
と重なり、スローガンや政治的主張など「救う会」と共鳴している部分が少なくないからである。

 「刀剣友の会」は自称会員数3万、日本最大の刀剣・ナイフ愛好会で、月刊刀剣ナイフ情報
を発行し、「刀は心、刀は資産、一家に一振り日本刀」をテーマにこれまで全国で106回の「大
刀剣祭り」を開き、テロ活動の拠点にしてきた。「救う会」に紛れ込んだテロリストが木村容疑者
以外にもいるであろう、と見るのが自然である。

 関係者の変死はこの種の事件につきものであるが、参考人として事情聴取されていた「刀剣
友の会」理事で、大阪市福島区の運送会社員(54)が12月20日午後7時5分ごろ、淀川の新
十三橋約100メートル下流で遺体で発見された。またかと暗然たる気持ちになるが、当局は
自殺などと予見を持たず、あらゆる角度から徹底的に捜査を尽くすべきであろう。

 西村氏がテロ組織の最高顧問

 迷走する拉致救出運動の底知れぬ闇をうかがわせるのが、西村真悟・拉致議連幹事長が
今年7月に「刀剣友の会」の最高顧問に就任していた事実である。

 西村氏は入院先の病院から秘書を通じて19日に発表した談話で、「私の信条を理解してく
ださる好漢としてお付き合いしていた親しい友人」と村上容疑者との親交があったとし、西村事
務所は99年から先の総選挙まで多額の政治献金を受け取っていたことを認めている。まさ
に、堕ちた偶像、である。

 それで、10日の緊急国民集会に欠席した謎も解けた。「10日から肺炎のため入院」と報じ
たマスコミもあるが、私が西村氏の衆議院会館事務所の秘書に20日に電話確認したところ、
「8日に大阪で急に入院した。総選挙の疲れと聞いているが、それ以上のことはこちらも分から
ない」と当惑した返事が返ってきた。西村本人が談話で「今回の事件について、私自身事前に
知らされていたこともなく、全く寝耳に水のこ と」と示唆しているように、村上容疑者を内偵して
いた段階で西村氏自身が捜査当局からすでに事情聴取されたか、その要請を受けた可能性
があり、司直の影を感じた政治家が世間の批判を交わすために良く使う緊急入院という手を
用いたものと思われる。

 西村氏がHPで公開した談話を基にもう少し掘り下げてみる。

 「村上氏は、私の地元の支持者の紹介で平成11年ごろに知り合い、それ以降何度か招 か
れて刀剣友の会の会合に参加し、講演をしたこともありました。そして今年の7月ごろに村上
氏より最高顧問就任の委嘱を受け、これを受諾したのです。私は私の信条を理解してくださる
好漢としてお付き合いしていたのであり、犯罪を犯したのであれば、親しい友人である私自身
が最も強く指弾しなければならないと考えています。社会を騒がせた人と個人的な付き合いが
あったという意味においては政治家として道義的責任を感じますが、いずれにせよ今は全容解
明を待ちたいと思います」。

 この談話からは自分の信条に忠実であろうとするあまり、独りよがりで、政治家としての社会
的、道義的責任が十分に自覚されていない致命的欠点が読める。それが、病院に閉じこもり、
社会に対する説明責任を果たそうとしない卑劣な態度として現れているのであろう。「村上会長
は日本の将来を憂える愛国者だと思っていました。逮捕容疑が事実とすれば、顧問は辞任す
ることになると思います」(佐々木俊夫秘書)などと、いまだにテロ関連組織の顧問に居座って
いるのは一連のテロ行為と心情的に通じる面があるからではないのか。

 事実、西村氏と村上容疑者には、そう疑われても仕方がない親密な関係が見受けられる。
佐々木俊夫秘書によると、西村議員の地盤が刃物産地の大阪府堺市であることから、地元の
支持者を通じて村上容疑者を紹介された。西村氏の政治活動を村上容疑者が支持し、日本
の伝統文化を世に広げようという友の会の趣旨に西村議員が賛同して交流が始まり、同会が
東京や堺市で開催した刀剣展示会に西村氏が顔を出し、同会講演会で講演したりして年に
1、2回顔を合わせていた。

 また、同容疑者が経営する会社から99年から計6回、西村氏が支部長を務める政党支部
に計218万円の献金を受けた。これ以外に00年4月、今年11月の衆院選選挙でもそれぞれ
村上容疑者が直接100万円を献金している。友の会の会報最新号に西村氏は先の総選挙で
の「当選御礼」とする挨拶文を寄稿しており、村上容疑者の逮捕直前まで親交は続いていた。

 尖閣諸島上陸経験を共有する親密な゛同志゛

 そうした財政的支援もさることながら、それ以上に見逃せないのは、単なる「親しい友人」以
上の政治的な同志関係が認められることである。

 村上容疑者は01年5月、日中台が領有権を主張して争っている尖閣諸島に右翼団体幹部
らとともに上陸した。「刀剣友の会」のHPには「尖閣諸島上陸記」というコーナーがあり、「刀剣
友の会(日本人の会)尖閣諸島上陸敢行記録・平成13年5月26日午前10時45分以上4名
は、良識ある日本人として尖閣諸島上陸を敢行した」と写真が数枚掲載され、「朝敵・支那に
向かって斬奸の一閃!この刀は「尖閣丸」と名付く」と記された写真では、村上容疑者が上半
身はだかの日の丸鉢巻き姿で日本刀を振りおろしている。海上保安庁の巡視船「はてるま」や
上陸翌日に事情聴取を受けた海上保安部前で村上容疑者らが得意そうにポーズをつくってい
るのもあった。

 同年に村上容疑者の尖閣上陸を「祝う会」が持たれ、西村氏は発起人に名を連ねたが、自
分の政治信条を実践する後続部隊の出現に鼻高々であったろう。

 周知のように西村氏も07年に尖閣諸島に上陸している。同氏のHPには「尖閣諸島上陸・視
察(選挙公約を実行)」「5月5日深夜に石垣島を出港、よく6日朝に魚釣島へ。4・5トンの小型
漁船では命懸けだ。国会議員として初めて同島を視察」と誇らしげに紹介されている。

 そこには隠されているが、実は西村氏はこの時も違法行為まがいのことに手を染めている。
私は以前、自著「代議士の自決」でもそのことに言及したが、当時、西村氏は議員辞職した石
原慎太郎氏の斡旋で特別チャーターしたオーシャン9号で石原氏らとともに石垣島に到着した
が、後の99年2月に同船はフイリッピンで調達したM16自動小銃や実弾、手榴弾を搭載してい
たことが発覚して所有者の西崎義展なる人物が銃器密輸入容疑で逮捕、起訴されているので
ある。

 西村氏が魚釣島へ向かうのを確かめるようにオーシャン9号で島周辺を周回した石原氏は
「武器の存在は知らなかった」と言い張った。どういうわけか真相は現在までうやむやにされた
ままで、西村氏の責任も不問に付されているが、弁護士出身でありながら、ばれなければ何で
もありの思考方式は、民主主義社会を根底から揺るがす重大な脅威である。その根を絶つた
めにも、この際、併せて真相を解明する必要があろう。

 このように、尖閣上陸の一事を見ても、村上容疑者の思想、行動は西村氏のコピーそのもの
である。

 拉致問題を偏狭なナショナリズム高揚、国家主義的な政治目的に悪用

 西村氏にとって、尖閣問題は拉致問題と並ぶ十八番というべきものである。西村氏が衆院予
算委員会で横田めぐみさん拉致問題を質問したのは尖閣諸島上陸で世間の注目を浴びた直
後であるが、その動機が改めて問われねばならない。

 西村氏は「正しい歴史を伝える国会議員連盟」結成、「戦後50年謝罪決議」反対、日本核武
装の必要性を主張(当人は核武装の議論の必要性を主張したと弁明)して防衛政務次官辞
任、靖国神社戦没者追悼集会出席をHP上でキャリアとして自慢しているように、民族主義的、
国家主義的なタカ派、右翼(極右に近い)である。

 拉致問題に飛びついたのも、人権、人道主義的問題としてではなく、尖閣問題と同じ発想か
ら、国家の主権、体面が傷つけられたと考えたからである。拉致被害者の救済よりも、北朝鮮
との対立を煽り、軍事力強化や社会・国家の全体主義的再編に利用することが目的であった
と思われる。

 それを裏付けるように、「救う会」主導の拉致救出運動には、「南京大虐殺や従軍慰安婦は
虚構」と喧伝する「新しい歴史教科書を作る会」に賛同し、憲法を否定し、戦前の軍国主義体
制を擁護する人が多い。

 現に、拉致議連前会長の中川昭一氏は中学校の歴史教科書に「従軍慰安婦」記述が登場し
たことに反対して結成された「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」代表、「歴史教
科書問題を考える超党派の会」会長を務め、事務局長の安倍晋三氏同様に、最近も広島県な
どの例に見られるように「拉致問題を掲載した唯一の教科書」などと銘打って「つくる会」教科
書採択運動と巧妙に連動させている。 

 いずれも「つくる会」の中心人物である西尾幹二、藤岡信勝氏らと親密な関係にあり、昨年1
2月の「『新しい歴史教科書をつくる会』緊急シンポ『拉致被害者家族から話を聞く対話集会』」
には、中川氏、佐藤勝巳「救う会」会長、平沢勝栄・拉致議連事務局長らとともに、家族会の横
田滋・早紀江夫妻、蓮池透氏を参加させている。

 また、平沼拉致議連会長は国粋主義団体である日本会議議員懇幹事長であり、同会議集
会には中川氏とともに、西村氏、西岡「救う会」副会長らが常連のように顔をそろえる。

 西村氏に到っては、昨年、小泉首相の靖國神社参拝を求める「国民の会」、「超党派国会議
員有志の会」が共催した「靖國神社に代わる国立追悼施設に反対する国民集会」で、 「大東
亜戦争の意義を英霊と共に子々孫々に語り継いで行きたい。大東亜戦争は戦い方がまずか
ったから負けた。靖國の英霊は、荒ぶる魂となって犬死にさせるな!」と右翼の街宣さながら
のことを叫び、やんやの喝采を浴びている。

 そうした国粋思想の持ち主らが拉致問題を主導し、ねじ曲げているのであるから、一般国民
から浮き上がり、6者協議に見られるように韓国、中国などから冷淡に扱われるのは当然であ
るが、それを極端な形で実践したのが村上容疑者らではなかったのか。

 12月24日、村上一郎容疑者は合同捜査本部の調べに対し、昨年10月、新たに朝鮮総連
福井県本部に放火したことを認める供述を始めた。同放火事件後、報道機関に「拉致事件の
北朝鮮の対応が不満だった」との犯行声明の電話があり、以後、23件の連続テロ事件へとエ
スカレートしていくが、「建国義勇軍なる右翼団体を立ち上げる前のデモンストレーションだっ
た」と供述しているように、一連の事件は発想が根底でつながっている。

 現役の衆議院議員が一連のテロに直接加わったとは思いたくないが、西村氏はテロリストの
村上容疑者を「私の信条をよく理解してくださる好漢」と評していただけに、広義の教唆があっ
た疑いは免れない。

 西村氏は国士、憂国の士を自任し、意見の異なる者に対し「国賊」「天誅」といった言葉を浴
びせ、結果的にテロを助長する発言をいとわなかった。 村上容疑者も西村氏を応援する記事
が掲載された会報やホームページで、自らを日本国臣民と呼び、「我らが闘いの旗印は『反
共』『反米』『反社会主義』に尽きます。愛する祖国のために微力を尽くす」などとアピールして
いた。詳しくは当人の自白を待たねばならないが、村上容疑者は西村氏の信条に共鳴し、実
践しようとしたのではなかったのか。

 西村氏は拉致運動に関わる名分を失ったと断じざるを得ない。氏がテロを非難したり、拉致
被害者の人権、人道を訴えるのは偽善もいいところである。

 西村氏に対しては「議員活動を再開する前に、国民に対して本人の口からきちんと説明して
もらいたい。こんな事件を引き起こす人物と親交があっただけで、政治家としての見識が疑わ
れる」(朝日新聞)と批判が高まっているが、今でも国士を名乗るなら、いつまでも病院の奥に
隠れて口をつぐむのではなく、潔く、自己の政治信条、例えば「村上氏らは愛国の情からしたこ
とで、爆弾を仕掛けられて、当ったり前の話だ」とか正直に所信を明らかにするべきである。倒
錯してはいるが、それはそれで論理的には一貫している。保身からごまかすのは、拉致被害
者を含む国民を欺く卑劣な背信行為と断じざるを得ない。

 私は西村氏が小沢氏に連れられて民主党に合流した時から危ういものを感じていたが、そ
れが的中した。西村氏が所属する民主党では岡田克也幹事長が19日、「調査結果を受けて
から対応を決める」方針を示し、「離党もやむを得ない」との声もあるようだが、早急に同氏の
処遇を含め事件への見解を明らかにすべきである。

 また、拉致問題への対応など党としての対北朝鮮政策の基本スタンスを再定立する必要が
あろう。北朝鮮問題に関心を持つ同党所属議員のテレビなどでの発言を聞いていると、「北朝
鮮は遠からず倒れる」「日本からの送金をストップすればたちまち立ち行かなくなる」などと、北
朝鮮を特殊な色眼鏡で観る佐藤「救う会」会長らの受け売りのような発言がポンポン飛び出す
が、基本的なところからとらえ直さなければならないだろう。北朝鮮経済が99年からプラス成
長に転じ、底を脱したことも知らない、偏った皮相な北朝鮮認識で責任ある政策を立てるのは
難しいからである。

 石原慎太郎氏の責任

 建国義勇軍事件の根は広く、深い。

 2・26事件―三島由紀夫自決事件に見られるように日本にはテロリズムに心情的に共鳴す
る文化的社会的風土がある。それらは元来は右翼社会で伝えられてきたものであるが、社会
の右傾化とともに次第に一般社会に浸透し、建国義勇軍事件で芋ずる式に捕まった容疑者ら
のように、昨日までごく普通に生活していた市井の一市民が刀剣同好会のようなちょっとしたき
っかけでテロリストに豹変するのが日本社会の病んだ現状と言えよう。

 先進国では類がないが、日本では公職にある人物らによって、言論の自由を隠れ蓑に、国
の最高規範である憲法否定が公然と説かれている。その手のものが一般書店に並ぶ雑誌や
著作物に溢れ、時にはテレビを通して茶の間に伝わるが、とりわけ一部の出版・言論機関によ
ってもてはやされているのが、問題となっている西村真悟代議士であり、石原慎太郎都知事で
ある。

 卑近な例を挙げれば、大手出版社とされる文芸春秋社が発行する雑誌『諸君』最新号(04
年2月号)でも、西村氏が岡崎久彦氏と対談「百年の教訓、五十年の安全」、石原慎太郎氏が
佐々淳行氏と対談「国難は、憲法を超える」で持論を展開しているが、そこでは「国賊」「売国
奴」「天誅」「殲滅」などといった特殊用語とともに、かつては右翼が街宣車や機関誌で繰り返し
ていた言葉が平然と語られている。それはテロリストと化した村上容疑者らがHPや会報、著書
で主張していることと寸分違わない。

 現時点において石原氏を村上容疑者と直接つなぐものは出ていないが、それをうかがわせ
る状況証拠には事欠かない。

 第1に、尖閣諸島上陸問題における石原、西村、村上のつながりである。

 既述のように西村氏は07年5月に石原氏とともにオーシャン9号で石垣島に入り、小型漁船
に乗り換えて魚釣島へ上陸し、他方の石原氏はオーシャン9号で同島周辺を周回した。当時
の報道によると、この尖閣諸島上陸計画は西村氏が石原氏に持ち込んだもので、石原氏は旧
知の西崎・元日生劇場プロデューサーに頼み込んで同氏所有のオーシャン9号をチャーター
し、西村、西崎氏らとフィリッピンでM16自動小銃などを積み込んで尖閣諸島に向かった。後に
西崎氏は銃器密輸入容疑で逮捕、起訴されたが、裁判で「石原氏がきちんと事情を説明してく
れればM16の積載は決してしなかった。無論、石原氏は航海時にM16の搭載を知っていた」と
証言した。ところが、尖閣上陸を勲章にして自慢していた石原氏は態度を一変させ、弁護士を
通して武器は「全く知らなかったし、見ていない。聞かされてもいない」と言い張って逃れ、現
職、元職代議士に対する警察当局の政治判断が働いたのか、西村氏も訴追を免れた。

 村上容疑者も01年5月に尖閣諸島に上陸し、西村氏が発起人になって上陸を祝う会まで持
たれているが、石原―西村―村上ラインは同一の行動マニュアルに沿って行動しているかの
ようである。石原氏と村上氏の接点がいかなるものであったのか、解明する必要があろう。

 第2に、田中外務審議官宅への爆発物仕掛け事件との関わりである。

 村上容疑者は「外務省の田中均の自宅に爆弾を仕掛けた」と報道機関に「国賊征伐隊」名で
電話をさせているが、石原氏はそれを擁護して、「田中均というやつ、今度爆弾しかけられて、
あったり前の話だ」と言い放った。

 石原氏は、現在にいたるまで撤回、謝罪を一切せず、逆に記者会見では、自衛隊基地に乱
入・自決した三島由紀夫や浅沼社会党委員長を刺殺した山口二矢を褒め称え、テロリズムを
奨励する発言を繰り返している。単なる失言、放言でない確信犯を思わせるが、それが、その
発言に力を得るようにテロ行為を過激化させていった村上容疑者らとの何らかの関わりから
来るものなのかどうか、これも明らかにしなければならない。

 第3に、先の総選挙における石原、西村、村上のニアミスである。

 村上容疑者らが西村氏に100万円カンパし、選挙運動を手伝ったことが明らかになっている
が、石原氏も同じ頃、西村氏の選挙区大阪17区を訪れている。石原氏は代議士時代の地盤
の東京二区から自民党候補として出馬した三男の応援に釈迦力になっていたが、その合間を
縫って盟友の西村氏支援に駆けつけ、「北朝鮮を攻撃してでも拉致被害者を取り戻すべきだ」
といった激烈な応援演説をぶっている。

 三男は落選、西村氏もかろうじての当選で石原神話も落ち目になったと評されたが、それは
ともかく、選挙期間中、思想、行動的に相通じる中の石原、西村、村上三氏が顔を合わせた可
能性は決して低くない。石原氏は02年に公表されただけでも約1億円の政治献金を受けた
が、村上容疑者からのものがなかったのかどうかを含め、是非全容解明してほしいものであ
る。

 テロリストが権力と結びつくほど危険なことはない。東京都知事という権力の座にある石原氏
がテロリストとの関係を疑われることは日本の民主主義にとって不幸なことであるが、それだ
けに少しの妥協も許されない。

  関連情報↓

 「救う会」熊本元理事が事件への関与を認める

 毎日新聞(1・6)によると、「救う会」熊本元理事、木村岳雄容疑者が広教組銃撃事件への
 関与を認めた。昨年10月26日夜に日本教育会館正面玄関横に粘土とリード線をつないだ
 不審物が置かれた事件と、国立市の多摩島嶼地区教組事務所1階玄関に銃弾1発が撃ち 
 込まれた事件への関与も認めた。教組事務所銃撃後、教育会館へ移動した。国立事件では
 38口径拳銃が使用され、村上容疑者から渡された銃で木村容疑者が撃った。

 木村容疑者は「友の会」の幹部ではないが、同会が開催した刀剣の即売会に顔を出してお 
 り、即売会後の懇親会などで村上容疑者と関係を深めていった。

 これで一連の24事件すべての実行役が判明し、合同捜査本部は3件の銃撃事件で逮捕し 
 た村上容疑者らの刑 事処分が決まった後、他の銃撃事件などで再逮捕し、全容解明を進
 める。野中自民党元幹事長らに銃弾入り脅迫 状が郵送された11件についても火薬類取締
 法違反、暴力行為等処罰法違反(集団的脅迫)容疑で追送検する方 針。また、田中外務審
 議官宅など4件の不審物設置事件は歯科医師の田中容疑者が不審物を作ったが、教育会
 館の不審物は構造が異なり、捜査本部は村上容疑者自ら不審物を作ったとみている。

 (04・1・6)

 西村議員、献金返還、最高顧問辞任を拒否

 朝日新聞(03・12・29)によると、西村議員(55)は昨年12月29日、堺市市民会館で記者
 会見し、「信頼関係にあった人物が犯罪行為に加担したことへの道義的責任」を理由に、内
 定していた衆議院災害対策特別委員長への就任を「辞退したい」と語った。

 西村氏によると、12月8日から28日まで脳内出血で大阪府内の病院に入院していたが、症
 状がよくなり退院した。一連の事件について「なぜあんな幼稚なことをしたのだろうと思う」「村
 上氏と私が共鳴した思想は、銃弾をぶつけようなどという行動に結びつく思想ではなかった」
 などと語り、「疑惑を回避し、注意深く遠ざけるのも公人の務め。内定を辞退するのがある意
 味でのけじめのつけ方」と話した。

 しかし、村上容疑者が役員を務める会社などから受けた218万円の政治献金については 
 「私の政治活動、政治信条に対する献金。返す考えはない」と説明し、最高顧問についても 
 「会の活動と犯罪は別物だ。ただ、メンバーがやったということなので、捜査の進展を見て考
 えたい」と、すぐに辞任する考えはないとした。

 他方、民主党の鉢呂吉雄総務局長は28日、退院した西村氏と面会し、事情を聴いた。岡田
 克也幹事長が同日発表した談話によると、西村氏は「刀剣友の会」の会長と「政治家と支持
 者としての一定の関係があった」ことを認めたが、「建国義勇軍事件」とのかかわりについて
 は完全に否定したという。

 西村氏が開きなおるように事件発覚後も「友の会」からの献金返還、最高顧問辞任を否定し
 続けていることは、一連のテロ事件と何らかの関連があったのではとの疑惑を深めている。 
  (04・1・12)。

 

 村上容疑者ら12人を起訴

 「建国義勇軍」グループによる一連のテロ事件で東京地検は1月9日、「刀剣友の会」会長村
 上一郎、会社員服部達哉、古物商店員中村隆治、パソコン教室講師麻布孝弘、古物商野々
 山文雄ら12人を銃刀法違反(発射)の罪などで起訴した。

 起訴状によると、村上容疑者らは昨年5月29日と同年6月13日、東京都杉並区と大阪市西
 成区にあるアーレフ道場に拳銃の銃弾計4発を撃ち込んだ。同年6月27日には広島県教職
 員組合書記局に銃弾2発を発射。名古屋市の朝銀中部信組や新潟市の朝鮮総連の事務所
 にも銃弾を発射したなどとされる。

 他方、捜査当局の調べで、村上被告らが朝日新聞やNHKなどの報道機関もテロの攻撃対 
 象としていたことがわかった。村上被告が関与を認めた事件は02年10月の朝鮮総連合福
 井県本部への放火から03年11月の加藤紘一・元自民党幹事長の山形県内事務所に郵送
 された散弾入りの脅迫状まで計24件にのぼり、報道機関への襲撃はその後の目標として考
 えていたという。(04・1・12)。

 村上被告ら10人を追送検 

警視庁公安部など合同捜査本部は1月29日、「刀剣友の会」会長、村上一郎被告ら同会メ
 ンバーら10人(うち1人は被疑者死亡)を脅迫などの容疑で東京地検へ追送検した。一連の
 事件に関与したのは計16人、逮捕者15人、同会による24件すべてが立件され、合同捜査
 本部は捜査を終結させるが、押収した拳銃10丁、弾丸計201発が事件に使われたものか
 どうかの鑑定は引き続き進める。

 同会理事で、大阪市福島区の運送会社員(54)は昨年12月20日、事情聴取後に淀川で遺
 体で発見され、一応、゛自殺゛とされた。しかし、その後の調べでこの理事はハナ信組新潟支
 店の不審物設置と朝鮮総連新潟県本部銃撃の2事件に関与したとして被疑者死亡で書類送
 検されるなど、事件の核心にいただけに、他殺説も完全に消えたわけではない。

 不可解なのは同事件に対するマスコミの報道が極めて小さく、西村氏も「友の会」最高顧問 
 を辞めず、民主党議員、拉致議連幹事長に留まっている。学歴詐称で騒がれ、民主党除籍
 になった古賀議員問題と比べても遥かに重大なテロ事件であるだけに、均衡を失した異常事
 態と言う外ない。

 政府が規制に乗り出したイラク報道のように、「北朝鮮を利するからと自粛を求められてい 
 る」と指摘する声もあるが、事実としたら戦前のような言論統制に道を開く危険な兆候であ 
 り、ミイラ取りがミイラになる゛日本の北朝鮮化゛とでも言うべき皮肉な現象である。(04・2・1)

 建国義勇軍、連続児童殺傷事件の加害者らへの襲撃も計画

 朝日新聞(04・4・27)によると、村上一郎被告らが銃刀法違反などの罪で昨年12月に逮捕
 される直前、神戸市で97年に起きた連続児童殺傷事件の加害者らへの襲撃を計画し、実 
 際に関係者の住所を特定するなどの準備を進めていたことがわかった。

 建国義勇軍は「北朝鮮寄りの言動をしている」とみた団体を中心に攻撃を重ねてきたが、さ 
 らに対象を広げようとしたとみられる。

 関係者によると、村上被告らがほかに襲撃対象と考えたのは、「ロス疑惑」の銃撃事件で無
 罪が確定した三浦和義・元雑貨輸入販売会社社長、93年に山形県新庄市の中学校であっ
 たマット死事件で逮捕、補導された元生徒(7人のうち3人に保護処分が確定)、昨年7月、 
 長崎市の幼稚園児が立体駐車場から突き落とされて殺害された事件の加害者らで、村上被
 告は「司法がもはや手を出せない者だから」と動機を供述、「一部を除いて住所を割り出し」、
 新たな襲撃に備え、拳銃2丁を追加入手し、実弾十数発も買い足したという。

 村上被告は昨年4月に正式に建国義勇軍を設立したが、朝日新聞が入手した「設立宣言 
 書」と「設立総会議題」の写しによると、「我々国士の行動は超法規的にならざるを得ない」と
 実力行使路線を明示し、標的の中には朝日新聞、NHK、週刊金曜日の三つの報道機関も 
 含まれていた。調べに対し、村上被告は「北朝鮮寄りの報道をしているように感じたから」と 
 供述している。また、外務省も「拉致事件に対する日本政府の弱腰の象徴だ」として襲撃対 
 象に含めた。設立宣言書には村上被告のほか、設立総会に参加した7人が連署している。

 村上被告に対する初公判は4月28日、東京地裁で開かれるが、関係者によると、村上被告
 は罪状認否で起訴事実をすべて認めるとみられる。(04・4・27)

 建国義勇軍グループに懲役2年6カ月の実刑判決

 「建国義勇軍」グループによる一連の事件で、新潟市の在日朝鮮人系の金融機関を脅したう
 え、朝鮮総連新潟県本部を銃撃したとして、脅迫や銃刀法違反などの罪に問われた彫刻業
 土田耕衛被告(41)の判決が7月12日、東京地裁で下され、大島隆明裁判長は「実行行為
 はしていないが、事前の下見や現場の案内など重要な役割を果たした」と、懲役2年6カ月 
 (求刑懲役4年)の実刑を言い渡した。(04・7・13)

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自衛隊イラク急派の裏に拉致問題(03・12・8)

 6者協議絡みの外圧

 日本人外交官2人が殺害され、イラクへの自衛隊派遣問題をめぐって日本中が賛否両論に
割れ、蜂の巣をつついたような騒ぎになっているが、この国の迷走状態を物語るように、どれ
も目先のことしか見えず、本質的問題を見落している。

 そうした中、私が日刊ゲンダイ(12・6付)で「イラク派兵の裏に『拉致問題』あり」とコメントし
たことがちょっとした反響を惹き起こしているようである。「小泉首相が自衛隊派遣を急ぐの
は、6者協議で拉致問題が取り上げられるようブッシュ政権に後押ししてもらうための一種の
取引」と指摘し、自衛隊イラク急派の隠された動機を浮かび上がらせたのである。

 先の国会予算委員会質疑でも菅直人民主党代表から「同じことをいつまで言っているのか」
と皮肉られたように、小泉首相はイラク復興支援特別措置法制定後のここ数ヶ月間、肝心の
自衛隊派遣時期について「状況を見極めて慎重に判断する」とオウム返しのように繰り返して
いた。ところが、4日突然、イラク措置法に基づき自衛隊派遣の概要を定める基本計画を9日
定例閣議で決定するとの方針を固め、陸空海総勢1100人規模、空自の輸送機だけでも出来
るだけ早く先行派遣する方向で防衛庁長官らと慌しく協議に入った。

特措法が条件とする安全の保証がないとして世論が派遣反対に大きく傾き、与党内ですら慎
重論が高まっている中でのいかにも唐突な゛決断゛であるが、例のごとく、説明責任は果たされ
ていない。

 誰しも、今、何故?と疑問に思うところであるが、私はその謎を解く鍵を、次回6者協議で採
択を目指す共同文書に関してぎりぎりの調整が行われているワシントンに見つけたのである。

 マスコミ各紙はどれも地味に報じたが、実は、小泉゛決断゛の2日前、ブッシュ米政権内でも強
硬派として知られるボルトン国務次官(軍備管理・国際安全保障担当)がワシントンで講演を行
い、今月17〜19日が有力視されていた弟2回6者協議が年内開催か延期か微妙な段階にあ
ることと関連し、次のような極めて注目すべき発言をしている。

 「(日本が北朝鮮による日本人拉致問題を提起したいとしていることは)日本にとって重要な
問題で、提起したいという希望は尊重されるべきだ。参加国が極めて深刻に懸念している問題
を取り上げようとしていることを理由に、6者協議を遅延させようとする試みは、拒絶されるべ
きだ。日本は6者協議のプロセスにおいて欠かせない」

 北朝鮮は日本が拉致問題を取り上げるなら六者協議に参加させるべきでないとの強硬姿勢
を表明し、本題の「体制保証の文書化問題」に加えて、拉致問題が関係国間調整を難航させ
る要因となっているが、小泉首相が後押しを期待する米国のボルトン次官が拉致問題で改め
て北朝鮮を批判し、日本の肩を持ったという訳である。マスコミは気付かなかったようだが、日
本人外交官殺害で小泉首相の腰が引けていたときだけに、そこには特別なメッセージが込め
られていると見るべきである。

 どういうことかと言えば、イラクの泥沼化にともない内外で孤立感を深めているホワイトハウ
スは、数少ないブッシュ支持派でブレア英首相とならぶ双璧とされる小泉首相が自衛隊派遣を
断念することを憂慮し、アーミテ―ジ国務副長官が3日、ワシントンの日本大使館を弔問、記
帳した際に、「日本政府の方針に変わりはなく、間違いなくやると言ったことはきちんとやると思
う」と牽制した。外圧と批判されないように小泉首相の゛自主的判断゛を促すような持って回った
言い方であったが、ラムズフェルド国防長官に近いネオコンのボルトン国務次官はずばり、拉
致問題が政治問題化した日本の特殊事情を見透かし、(自衛隊を早く送らないと、6者協議か
ら外されても知らないぞ)と半ば恫喝するように尻を叩いたのである。

 ボルトン発言が日本で報じられたのは3日であったが、拉致問題を政権浮上の最後の切札
と考える小泉首相は敏感に応じ、ボルトンらの思惑通りに翌日の゛決断゛となったという訳であ
る。小泉首相は翌5日、記者団に6カ国協議の時期について「日本だけじゃなくて米国も中国も
できたら年内に開催したいと努力している」と米中折衝に期待をかけながらも、その可能性に
ついては「分かりません」を連発し、焦りをのぞかせたが、それも無理からぬことである。

 人気取り政策に利用される自衛隊

 中国の温家宝首相が李肇星外相らと7日に訪米し、米国側と文字通りぎりぎりの調整を行う
が、関係5カ国中拉致問題に関しては米国以外に日本に理解を示す国はないのが現実であ
る。

 すでに日米韓3カ国はワシントンで4日開かれた非公式局長級協議で共同案をまとめたが、
韓国はあくまでも核問題に絞り、拉致問題については「日朝間の問題である」との従来の立場
を変えず、議題に含めることには事実上、反対した。李秀赫・韓国外交通商次官補は7日、
「日米韓3カ国案を各国が8日までにそれぞれホスト役の中国側に示し、中国から北朝鮮に伝
達され中朝間で協議される」と協議の年内開催が微妙な状況にある事を明らかにしながら、内
容については「(核問題の)平和的解決や北朝鮮の安全の保証に対する憂慮(の解消)などを
包括的、原則的枠組みの中でまとめた」とだけ述べ、拉致問題についてはまったく言及しなか
った。

 中国も「北朝鮮は2国間の問題を協議に持ち込むことに同意していない。協議の目的は核問
題の解決にあり、日本を含む各国が解決のためになることをするよう望む」(王毅・外務次官。
11・2)と一貫して反対の立場である。先頃も共産党ナンバー2の呉邦国・全国人民代表大会
常務委員長をピョンヤンに送り込み、金正日総書記と会談して、追加的経済援助を約束しな
がら、ようやく次回開催の約束を取り付けた。両者の間で「拉致問題は取り上げない」との合意
が成されたことは確実であり、その後、「日本が拉致問題にこだわるようなら協議から外す」と
いった論調が労働新聞などに現れたように、゛日本外し゛も選択肢として討議されたと思われ
る。

 旧ソ連時代のよしみで北朝鮮に同情的なロシアも当てにならず、小泉首相が唯一頼りとする
ブッシュ政権ですらイラク問題で手一杯となり、「新たに北朝鮮と事を構える余裕はない」と圧
力から対話へと微妙にシフトしている。対話重視派のパウエル国務長官が「クリントン前政権
下で交わされた米朝間の声明などよりも強い安全保証」を北朝鮮に与える方策を練っていると
伝えられ、当初理解を示していた拉致問題についても、6者協議開催を優先させるべきであ
り、中国のメンツを立てるためにも北朝鮮をいたずらに刺激するのは得策でない、と議題に含
めることに消極的になった。

 もともと米国でも、日本政府が拉致という個別的な問題を東アジア全体の安全保証問題より
も優先的な外交目標に掲げる事には「アンリーズナブル(合理的でない)」とする懐疑的見方が
強い。共同通信(12・5)によると、最近明らかにされた米議会調査局の報告書「日朝関係」も
日本人拉致問題について「少数の市民の問題を主要な外交目標に絡めることに驚きもある」と
米国内の冷めた見方を紹介している。同報告書の本旨は北朝鮮核問題の解決であり、日本
の役割は潜在的に極めて大きく、植民地支配の代償として行う経済協力が「最も重要」と強
調、50億ドルから100億ドルと推定される協力額が金正日政権の延命や軍強化に使われる
懸念を指摘しながらも、結論的に、北朝鮮との国交正常化寸前まで行ったクリントン政権時代
の対話路線を踏襲しているのは、軍事力偏重のブッシュドクトリンが破綻しつつある現実を踏
まえた妥当な判断と評価できよう。

 とはいえ、ブッシュ政権は頭越しの決定で小泉政権を窮地に追い込むことは避け、ケリー国
務次官補らが訪日して「拉致問題を議題に含めるのは難しい」と日本側の理解を求めた。総
選挙前のことであるが、朝日新聞などで「日本政府は6者協議で拉致問題を取り上げないこと
にした」との報道が流れた。私は何故それが総選挙の争点にならないのかと不思議な気がし
たものであるが、マニフェスト選挙がまだ地に付いていないということであろう。

 しかし、日本人外交官殺害を機に、日米の政局絡みの複雑な逆流が起きた。ブッシュ政権と
してはブレア英首相が国内の厳しい反戦批判を浴びていることに加え、小泉首相までが自衛
隊派遣を断念するようなことになれば国際的孤立は決定的となり、来年秋の大統領選の致命
傷となりかねない。

 戦力としては自衛隊に期待するものはほとんどないが、日本が緊迫化するイラクにわざわざ
兵員を送り込んでくる政治的精神的効果は大きい。そのことは、逆に小泉政権が自衛隊派遣
を断念するようなことになれば、現在戦闘要員を派遣している30数カ国の多国籍軍に動揺が
走り、ドミノ式に撤退する国が続出するということになりねないことを想定すれば理解できよう。
それこそブッシュ政権がもっとも恐れるシナリオである。

 大統領自ら極秘でバグダッドに飛び、歓呼の声を上げる兵士に涙ぐむパフォーマンスを演じ
て見せるなど、支持率急降下でなりふりかまっていられなくなったブッシュ政権内で、再びラム
ズフェルド―ボルトンの対北朝鮮強硬派が巻き返し、6者協議で日本をバックアップする代わり
に自衛隊を早期派遣するようにと露骨に求めた。国際貢献の美名に隠された小泉政権の対イ
ラク戦争支援は北朝鮮問題と底部でリンケージしているが、緊迫化する情勢の下でそれが表
面に浮かび上がってきたと言えよう。

 事態は小泉政権の命運をも左右する。前述の李外交通商次官補が「6者協議が開かれれ
ば、ワーキンググループ設置など協議の定例化について参加国で話し合う」と述べているよう
に、次回6者協議によって協議の枠組みや定例化が図られ、一度拉致問題が議題から外れる
と、再び取り上げられる機会は失われる。そうなれば拉致問題をめぐる唯一の日朝交渉の場
が失われることになるわけで、5人の拉致被害者の子供の帰国など拉致問題の早期解決を約
束していた小泉政権の責任問題が浮上するのは必至である。

 足元からの揺さぶりも無視できない。総選挙後の11月18日、拉致問題専門幹事会が首相
官邸で開かれ、早期解決の方針を再確認し、議長の細田官房副長官が外務省に6者協議で
拉致問題を取り上げるよう各国と交渉を続けるよう指示した。同日午前の閣僚懇談会でも拉
致議連前会長の中川経産相が関係国への積極的な働きかけを川口外相に要請している。

 政治的賭けに出た小泉首相

 小泉首相の危機感は相当なものであったろう。折りしも冒頭に紹介した私のコメントが載った
同じ12月6日付日刊ゲンダイ一面トップに、「内閣支持、不支持ついに逆転」との大きな見出し
が踊っている。3,4日の共同通信緊急世論調査で小泉内閣不支持率が44・4%と支持率4
3・8%を上回ったのであるが、道路公団や年金問題などで不評を買っているところに外交官
殺害事件というダブルパンチに見舞われた小泉首相の心境は、(拉致問題は最後の切札だ。
ここで失敗すれば政権は持たない)と言ったところか。

 ポピュリストとしては天才的ともいえる政局感を持つ小泉首相は、ここが決断時とひらめいた
ようだ。6者協議に望みをつなぐためには、ボルトン次官の特別メッセージに応え、間近に迫っ
た米中調整で米側の協力を取り付ける必要がある。日米が拉致問題にこだわれば6者協議
の年内開催は一層難しくなるが、国民には一応「努力している」と申し開きはできる、と判断し
たものと思われる。それを裏付けるように、「次回協議が越年しても6カ国協議の重みが損な
われるわけではなく、外交上の影響はない」と言った外務省幹部の強気の弁がマスコミから漏
れ伝わる。

 それは政権の命運をかけた大きな賭けである。周知のように、昨年、下降気味だった小泉人
気は電撃的な日朝首脳会談で息を吹き返し、拉致問題強硬派ともてはやされた安倍幹事長と
の二枚看板で総選挙に臨み、内政上の失敗を補ってどうにか過半数の議席は維持した。柳の
下の二匹目の土壌を狙い、新たな゛決断゛でリーダーシップを誇示し、人気回復を図りたいとこ
ろであろう。

 しかし、ブッシュ政権との取引に利用され、政局の材料、有体に言えば、何の展望もない小
泉首相の人気取り政策の犠牲にされる自衛隊員こそいい面の皮である。

 ブッシュ・ドクトリンに乗ってしまったツケ

 小泉首相は゛決断゛について明9日、国民に説明すると言うが、今ごろねじり鉢巻で作成中の
演説文では恐らく「テロには屈しない」とのフレーズを前面に出し、「(殺害された両外交官の)
遺志を受け継ぐ」と悲憤慷慨する国民感情を巧みに取り込もうとするであろう。「あらゆるテロと
毅然と闘う」と暗に拉致問題を示唆し、反北朝鮮感情に訴える可能性もあるが、その場繕いの
本末転倒の議論とはまさにこのことである。

 親日的であったイラク国民に反日感情を植え付け、外交官殺害事件を惹き起こした原因は
元はと言えば、小泉政権が「北朝鮮の脅威に対抗するために日米同盟関係を強化する必要
がある」としてブッシュ政権の単独行動主義的なブッシュ・ドクトリンに乗せられ、国連中心主義
から大きく離脱し、大義なきイラク戦争に加担したことにある。

 日本の独自外交と注目された日朝国交正常化交渉も軌道を外れて昨年10月以来頓挫し、
拉致問題は米国頼みになってしまったが、それというのも「イラクの次は北朝鮮」というネオコ
ンのプロパガンダを間に受けて、本筋の対話よりも圧力、制裁に偏り、「国際包囲網」なるもの
で北朝鮮を追い詰め、拉致問題解決につなげるという誤ったシナリオを描いたためである。

 その成功例として小泉首相は8月の6者協議開催を挙げ、マスコミもこぞってそのように報じ
ていたが、私は当時から「国際包囲網なるものは幻想」と批判し、その通りになった。(参照)

 こうした議論はまだ日本では見当たらないが、6者協議の性格そのものがブッシュ政権の単
独行動主義の破綻を示すものである事を知らねばならない。それは、単独では北朝鮮を手に
おえなくなった米国が中国の力を借りようとしたのが始まりであり、関係国が北東アジア地域の
安全保障問題を話し合う国際協調の場に他ならない。日本は米国追随の姿勢を取り続けると
孤立するだけである。

 従って、仮に次回6者協議で拉致問題が取り上げられることになっても、前回8月の協議以
上のものではありえないだろう。当時、北朝鮮代表は「拉致問題を含めた日朝間の問題をピャ
ンヤン宣言にのっとって一つ一つ解決したい」と表明し、日本政府に期待感を持たせたが、議
場で待ち受けた日本代表との立ち話に応じて述べたリップサービス程度の話であり、ホスト国
の中国のメンツを尊重しただけのことでしかない。

 北朝鮮はイラク問題でのブッシュ政権のもたつきぶりに自信を深め、米国との安全保障対話
を優先させ、ますます強気になっている。ブッシュ再選が危ういと見て次の民主党政権誕生ま
で見据え、「核放棄と安全保証の同時履行」で押し切る腹を固めている。日本との実質交渉は
その後と位置付け、1年以上にわたって拉致問題がまったくストップする状況も無しとはいえな
い。

 小泉首相は米国の力に依存し、自衛隊の海外派兵を既成事実化して、北朝鮮への圧力を
強めようとしているが、そうした対決的姿勢は北朝鮮だけでなく、韓国を含む周辺国の反発を
招き、拉致問題の解決をますます困難にするだけである。

 国際協調により、地域の平和と安全保障を構築していく日本国憲法本来の原則的視点に立
ち戻るべきである。

    追跡検証↓

 小泉゛決断゛の時期はいつだったのか、と各紙検証

 小泉首相は12月9日夕の臨時閣議で「イラク人道復興支援特別措置法に基づく対応措置に関する基本計画」を 
 決定した。戦闘状態が続いている地域に武装部隊を派遣するのは初のこと、日本の安全保障政策の転換点ともな
 るが、8日夜、執務室に残り翌日の記者会見の原稿を自ら書いたとされる小泉首相は、その記者会見でも何故、こ
 の時期に?の質問をはぐらかし、「日米同盟関係強化」「憲法の前文」と互いに矛盾する理念を挙げての抽象的な
 説明に終始した。

 問題の決断時期について翌日の新聞各紙は舞台裏を検証しているが、朝日新聞「外交官殺害、首相の選択肢奪
 う」で「12月1日夜、中川国対委員長、福田官房長官、石破防衛庁長官の3人が確認したのが『9日閣議決定」だ
 った」とするが、読売新聞「年内派遣『官邸迷走』」はさらに詳しく、「官邸は、5日午後、9日夕の臨時閣議で基本 
 計画を決定することを最終的に決めた」とする。

 しかし、何が小泉首相を動かしたのかは依然として謎のままである。(03・12・11)

 米政府、「ありがたい発表だ」と歓迎

 基本計画の閣議決定に対しマクレラン大統領報道官は「ありがたい発表だ」と歓迎し、別の政府高官は「首相の決
 断の勇気は特筆に価する」と称賛したと、朝日新聞(12・10)が伝える。

 日米韓局長級会議でまとめた共同文書案に『人道上の問題』盛リ込む

 朝日新聞(12・12)は、日米韓が4日の局長級会議でまとめた共同文書案について「日本政府関係者によると、 
 北朝鮮に対処を求める『参加国の懸念』の一つとして、拉致問題を意味する『人道上の問題』という文言が盛り込ま
 れた。政府は米韓両国に働きかけていた。関係国が次回協議の早期開催を優先する立場にたてば、日米韓案は
 再調整される可能性もあり、最終的に『人道上の問題』が盛り込まれるかどうかは流動的な要素もある」と1面で 
 報じた。さらに、3面の北京電で「中国外務省の副報道局長が日米韓共同文書案をすでに北朝鮮に伝えたことを明
 らかにした」と伝えた。

 米国民の約8割が米朝国交正常化支持

 読売新聞と米ギャラップ社による今年11月末の日米同時世論調査によると、北朝鮮との国交正常化―日本48・
 6%、米78・9%、北への経済協力―日本21・7%、米40・2%、北の政治・経済体制変革―日本55・1%、米5
 8・7%が賛成している。また、北朝鮮に対し日米が優先的に取り組むべきことについて、核兵器開発阻止―日本
 91・1%、米90・2%、ミサイル開発阻止―日本94・0%、米86・6%、日本人拉致事件解決―日本89・9%、米
 70・5%、その他日本1・2%、米14・7%、さらに、6者協議で北朝鮮の核問題が解決に向かうと思うかについ  
 て、解決に向かう―日本32・0、米68・7%、そうは思わない―日本54・3%、米28・5%、無回答―日本13・  
 7%、米2・7%であった。

 拉致問題で感情化している日本国民に比べ、米国民の方が現実的に考えているようだ。(03・12・13)

 「つくる会」が拉致問題に便乗して不正署名活動(03・8・12)

 「新しい歴史教科書をつくる会」の広島組織が県外からの応援を得て広島の繁華街などで
「北朝鮮拉致家族を救おう」と呼びかけながら、その実こっそりと、朝鮮人強制連行や南京大
虐殺、従軍慰安婦を否定する扶桑社の問題教科書の採択を求める要請書に署名させる方法
で、十数万もの署名を集めたことが明らかになった。

 教科書資料センターによると、「つくる会」は不正な署名紙を広島県教育委員会に送りつけ、
8月上旬に決定される予定の、来春開設される広島県中高一貫校教科書として採択するよう
に圧力をかけているというから尋常ではない。広島現地では教育現場の教職員を中心に、拉
致問題に便乗して特定教科書を強引に採択させようとする心無いやり方に批判が高まり、そ
れと知らず署名してしまった人々が怒りをあらわに、撤回を求めだしている。

 東広島市中央公民館で6月28日に開かれた「つくる会」の広島集会には、小泉首相の側近
である中川秀直自民党国会対策委員長本人が駆けつけ、激励したというから、国内外で新た
な政治問題化するのは必至である。

 中川昭一「拉致議連」会長らがかねてから「つくる会」を支援してきた不透明な関係が図らず
も露呈したものといえ、自国中心の靖国的な体質が韓国、中国でさらなる反発を惹き起こし、
拉致問題で協力を得るのはますます難しくなりそうである。

   追跡検証↓

 東京書籍版に急遽決定、背景に教育現場の混乱に付け入る「つくる会」

 広島県教委に13日確認したところによると、前日の12日午前11時、常磐豊教育長は来年
 度の県立中高一貫校で使う公民教科書として東京書籍版を採用すると発表した。「扶桑社版
 を採用するように求める十数万人の街頭署名が教委に寄せられ、検討の対象になったが、
 公正に審議した結果、東京書籍版に決まった」(坂本政規総務課秘書係長)という。

 また、「つくる会」に協力的な保守系県議の事務所職員は「拉致問題を教科書にひっかけた 
 のは事実」としながらも、「『拉致問題を扱っている唯一の公民教科書』と『つくる会』の方針に
 沿ってお願いし、署名を戴いた。騙したとか不正ということはない」と強調した。教科書資料セ
 ンター側と言い分が異なるが、15万7千もの街頭署名は前例がなく、かなりの署名者は扶桑
 者版教科書採択など意識になかったと見られる。拉致問題に託けて署名、募金するまぎらわ
 しい行動が各地で問題化しているだけに、関係者の自覚が求められる。

 広島が「新しい歴史教科書をつくる会」のターゲットになった背景には、民間人出身の慶徳・ 
 尾道市立高須小学校長が今年3月、卒業式直前に自殺し、その調査報告書を作成していた
 山岡・尾道市教育委次長までが7月、相次いで自殺した異常事態がある。

 広島県では県教委が文科省の指示で学校管理を強化し、各種行事での国旗掲揚、国歌斉 
 唱の徹底に取り組んでいるが、現場を無視した強引な方法が教職員の反発を招き、板挟み
 になった小学校長が学校運営に悩みを抱いて自殺にまで追い込まれた。調査に当たった市
 教育委次長まで死を選ばざるを得なかった痛ましい現実が、事態の複雑さを物語る。゛教育
 の荒廃゛を前に、教育基本法の改正(改悪)、愛国心・日の丸君が代教育強化に突き進む文
 科省=教委側と、憲法精神に則った教育の自主性を守ろうとする教職員側との軋轢が全国
 に広がっているが、広島はその縮図といえる。

 それに付けこんだのが「つくる会」である。一昨年の教科書採択で同会主導の扶桑社版教科
 書が内外の批判でほとんど採択されず、消滅したかとも見られていたが、どっこい、「採択率
 10%の達成」などという新目標を掲げてしぶとく生き残り、昨年、愛媛県教育が県立中高一
 貫校(松山、今治、宇和島三校、定員480名)で同会歴史教科書を採択してから「愛媛の勝
 利を全国に広げよう」と各地で活動工作を活発化している。

 最近の特徴は、「つくる会の公民教科書は、拉致問題を取り扱う唯一の教科書です!」を売
 物に、西尾幹二、藤岡信勝氏ら旧メンバーに、雑誌『諸君』などに日本核武装論を寄せた中
 西輝政京大教授らの国家主義派論客を理事(全15人)に加え、拉致問題と教科書採択運
 動をセットにしていることである。

 人道・人権問題である拉致問題を、反北朝鮮の排外感情を煽リ、憲法を否定する国粋主義
 的な偏向教科書を採択させる政治目的に歪曲、悪用する不純な姿勢は、当然、批判されな
 ければならない。

 「つくる会」は愛媛に次いで広島でも野望実現直前まで行ったが、現場教職員に見抜かれて
 頓挫した。しかし、同会のHPで自らアピールしているように、佐藤勝巳「救う会」会長や中川 
 昭一・拉致議連会長らと親密な関係を結び、全国の保守系議員や地方組織をネットワークに
 して拉致問題に便乗する姿勢をさらに強めている。2年後に公立中学校の教科書採択をす 
 る神奈川県を次のターゲットにしており、引き続き注意を払う必要がある。(03・8・14)

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゛拉致被害者5人の家族帰国打診゛の狙い(03・8・9)

 小泉首相に決断を迫る゛変化球゛

 北朝鮮の核問題が、多国間協議が5者から6者へと急展開している中、拉致問題という重し
を抱えて動きが鈍い日本政府の意表を突くような変化球が、北朝鮮から投げられた。

 日本では全く知られていなかった韓国紙・大韓毎日が7月31付で「金正日総書記の意思」と
して、「日本の人道支援団体を通じ蓮池さん夫妻らの家族を日本に帰す意向があると伝えてき
た」と報じたのである。同紙が報じる日本政府への非公式打診は、蓮池薫さん夫妻の子ども2
人と地村保志さん夫妻の子ども3人を帰国させる、拉致問題はそれで最終決着とする、の二
点を骨子とするが、これによって膠着状態にあった日本人拉致問題が一挙に動き出し、小泉
政権はしかるべき対応を迫られることになった。

 青天の霹靂のような韓国紙のスクープに走らされたマスコミ各社が首相官邸に押しかけ事実
確認を迫ると、小泉首相は、「政府間の交渉だ。日本政府は何回も水面下でそういう交渉をし
ている。家族を全部返すように(要請を)している」と、水面下の接触が図らずも表面化したこと
に困惑した表情を浮かべた。福田官房長官も記者団に、「そういう申し入れがあったということ
はない」と韓国紙報道を否定しながらも、「交渉の中のことで言いにくいが、こちらの方から早く
人道上の問題は解決してくれという要請は何度もしている」と、北朝鮮側から何らかの提案が
あったことを渋々認めた。

 小泉首相の歯切れが悪かったのも無理はない。いまさらながら痛感しているであろうが、拉
致問題は小泉政権にとって政権浮揚のカードにも足枷にもなる両刃の剣である。首相官邸筋
によると、最大派閥の橋本派が候補擁立の構えを見せ、厳しくなっている自民党総裁選を勝ち
抜くため、小泉首相は拉致問題で何らかの具体的成果をあげ、世論にアピールしようと密かに
タイミングを計っていた。その思惑が外れてしまったのであるから、「(韓国紙に)どこから漏れ
たのか」と一瞬、気色ばんだのも無理からぬことである。

 北朝鮮の狙いについて、日本のマスコミの反応を見ていると相変わらず情緒的というか単眼
的で、「子どもまで外交カードに使うのか」と反発し、「米国の圧力と国際的孤立に焦り、揺さぶ
りをかけてきた」と月並みに解説するのがやっとといったところである。

 日本の世論に直接訴えようとした側面もあるが、事態の動きはもっと早く、そうした段階はと
うに越していると見るべきである。今回、子ども5人の帰国に際しコメ支援などの条件を付けな
かったのも、狙いがもっと大きな、本質的なところにあるからに他ならない。

 今回の打診の背景には、さる7月31日にニューヨークで持たれた朝米接触で北朝鮮がロシ
アを加えた6者協議に同意したことがある。それを北朝鮮は韓国、中国、ロシアには即日、外
交チャンネルを通して伝えたが、日本にはようやく8月6日になって北京の北朝鮮大使館から
日本大使館に伝えられた。5者協議ばかりに目が行っていた日本は、重要な局面で蚊帳の外
に置かれていたのである。

 正式の外交ルートに代わり大韓毎日を通してメッセージを発したことになるが、6か国協議の
中心議題は核問題であり、拉致問題はそれと完全に切り離し、日朝二国間で別途協議すると
伝えたかったのであろう。「重要なのは枠組みでなく協議の実質性」と、あくまでも対米交渉に
重点を置き、「決裂の場合は核保有宣言もやむなし」と満を持して6か国協議に臨もうとしてい
る北朝鮮側は、のらりくらりとはっきりしない小泉首相に決断を迫ったのである。

 主導権を握ろうと強気の北朝鮮

 北朝鮮外務省報道官は8月4日、「6者協議が北京で近く開かれる」と強気な談話を発表し、
6か国協議での主導権確保に意欲を見せた。日本のマスコミには゛北朝鮮包囲網゛という言葉
が頻繁に登場するが、主観的な願望乃至虚構でしかない。

 あくまでも対話をベースにする韓国、同盟国として朝鮮戦争に関わった経緯から北朝鮮の核
に対し脅威というものを全く感じていない中国、ロシアを味方につけた北朝鮮は、イラク、イラ
ン、アフガニスタン方面に手一杯で、国内でも人気急落しているブッシュ政権に対し、「朝鮮方
面で戦争を起こす余力はない。もう一押しすればどうにかなる」と自信を持ち始めている。8月
末か9月初めと見られる協議で、一挙に米側から体制保証を取り付け、仮にそれが適わない
場合は、9月9日の建国記念日にあわせて核保有宣言をし、核保有国としてブッシュ政権と全
く新たな交渉のテーブルに臨む、というのがピョンヤンの描く青写真と思われる。

 単なるこけおどしと侮ることはできない。北朝鮮はすでにプルトニウム級核爆弾を数発持って
いると見なす゛暗黙のコンセンサス゛が関係国で形成され、それへの対応へと焦点が移りつつ
ある現実を直視しなければならない。

 4月の朝米中3か国協議で中国がいない場所で「核保有」を突きつけられた米政府は「もう止
める術はない」と半ば匙を投げ、微妙に態度を変化させている。「ならずもの」と罵声を浴びせ
てきたブッシュ大統領が「ミスター キム・ジョンイル」と呼び捨てを改めたのは余興だが、国務
省高官らは「核開発の放棄」から「核放棄」へと言葉遣いを変え、テロリストの手に入るのを防
ぐ輸出規制や拡散防止に力点を移し始めた。

 読売新聞(8・8)が「米政府は6か国協議で、関係国、国際機関による経済援助、人道援助
の再開・拡大、北朝鮮を侵略したり敵視したりしないとの約束、経済援助の窓口となる国際機
関への北朝鮮の加盟の後押しなど、北朝鮮が『核放棄の対価』とみなす措置を一括して示す
方針を7日までに固めた」と報じたのも、その脈絡で見るとすんなりと理解できる。

 この「一括提示方式」に拉致問題は一言もない。内容的には、北朝鮮の譲歩に応じ段階的な
支援をあらかじめ決めておくとする盧武鉉政権のロードマップ方式を借用したもので、それを
「最終的な案」として北朝鮮から「核計画の全面放棄の約束」を取り付け、履行や検証方法に
ついては実務者協議の場を設けて処理するというものである。

 核保有にこだわる北朝鮮軍部を金正日国防委員長がいかに説得するか、米国防総省の強
硬派が黙っているかといった不透明な部分が残されており、簡単に一件落着というわけには行
かないだろうが、「北朝鮮の脅しに屈し、見返りを与えることはしない」と公言してきたブッシュ
政権としては、コペルニクス的な政策転換と言ってもよい。

 ブッシュ政権は6か国協議に参加する各国との調整に乗り出しているが、北朝鮮には通告済
みのようで、外務省報道官談話は「米国の提案に留意する」としている。また、対話解決を主
張してきた韓国、中国、ロシアに異論があるはずもなく、事実上残るのは日本の説得だけと見
られる。

 日本が蚊帳の外に置かれる可能性も

 バスは動き始めた。「責任を分担して欲しい」とブッシュ大統領から頼られ、朝米の間で存在
感を増している車掌役の中国は、北朝鮮外務省の招請を受けて7日に王毅外務次官をピョン
ヤンに送り込んで対応を協議しており、10日には李肇星外相が韓国、次いで日本を訪れて調
整にあたる。

 バスに乗り遅れまいと小泉首相も焦りだし、4日、橋本、村山元首相とともに福田官房長官を
9日から訪中させることを決めた。官房長官の外国訪問は8年ぶりで異例とされるが、時期が
時期だけに、中国に格別のコネクションがない外相では荷が重いし、小泉首相も靖国参拝で
株を落とした。中国に知己がいる両首相の助けを借りて、父親の福田元首相が日中平和条約
調印時の首相であったことから受けがよい福田長官に白羽の矢を立てたということである。

 義理を重んじる中国側に、「北朝鮮の核開発阻止、日本人拉致事件解決のためには、中国
の協力が不可欠」(読売新聞8・5)と働きかける事を期待する向きもあるが、中国側から逆
に、6か国協議では核問題に専念し、拉致問題は国交正常化交渉を開いて日朝二国間で処
理したらどうかと諭されることになろう。

 米政府の「一括提示方式」に関係国の経済援助が謳われているように、6か国協議で日本
が果たすべき役割は依然として大きい。北朝鮮もあわよくば米国からの不可侵保証に加え、
日本からのカネもと、6者協議の収支を計算している。しかし、自ずと優先順位というものがあ
る。日本以外の5か国にとって、6か国協議の議題は核に始まり、核に終わるのが現実であ
る。拉致問題は日朝二国間の人道問題であり、北東アジア全体に関わる安全保障問題とは本
質的に次元を異にするとするのが一般的な認識である。

 日本側の誤りは、本来、ピョンヤン宣言に沿って解決すべき拉致問題を、ブッシュ政権の力
を借りて解決しようとしたことである。「救う会」や拉致議連などのメンバーは、集会や著書で、
反金正日、反北朝鮮の立場から武力行使による゛第二のイラク化゛を公然と主張、果ては、日
本核武装による報復まで叫び、北朝鮮側を悪戯に刺激した。

 無論、日本政府内には、「拉致問題は(日朝)2国間の人道上の問題だ。核とは切り離して、
いつでも決断できる問題だという認識をしている」(福田官房長官)と、6か国協議では核問題
と切り離し、拉致問題を2国間で先行解決すべきとの意見もある。それが本来、日朝首脳会談
をお膳立てした田中均外務審議官と北朝鮮の「ミスターX」との約束であったのだが、「救う会」
や拉致議連などが家族会をそそのかし、「国賊」「売国的」と国民のナショナリズム感情を煽っ
て阻害してきた。そのラインの代表格が安倍官房副長官で、今回も、「(拉致問題について)妥
協には応じられないことを6者協議前にはっきり言っておきたい」と頑なに分離論に反対してい
る。

 その意味で福田長官の訪中が注目されるが、最後は、金正日総書記とさしで会談した小泉
首相の決断如何である。その対応次第では6か国協議から日本が外され、二兎を追うものは
一兎をも得ずとなることもありうる。

 と言うのも、多国間協議が6か国に決まる前に、中国が仲介した水面下交渉では一時、朝米
中に韓国を加えた4か国案が有力になったが、結局、日本、ロシアを加えてバランスを取るこ
とになった経緯がある。6か国協議が始まれば、朝米会談を軸に、その実効性を担保する保
証人として他の4か国が参加する形になると見られるが、日本が拉致問題にこだわると場違い
ということになり、自ずと居場所がなくなるであろう。

 子どもの人権が視点から脱落していないか

 ピョンヤンとの「被害者5人の一時帰国の約束」を強引に破ったのは安倍官房副長官らであ
るが、以来、小泉首相の優柔不断さも手伝って、日本政府内には対北朝鮮外交に対し強硬派
と現実派の対立が生じ、非常に分かりにくくなっている。

 曽我ひとみさんの夫のジェンキンスさんと2人の子ども、「死亡」が伝えられた横田めぐみさん
の娘キム・ヘギョンさんを含めた家族9人全員の帰国を求めるのが基本方針とされるが、日本
人同士の子どもである5人の帰国を先行させるのか、あくまで9人全員の一括帰国を求めるの
か、意見が割れている。さらに、被害者5人の家族の帰国だけで最終決着とすることなく、「死
亡した」と伝えられている8人の被害者を含め、拉致された可能性のある事案の全面的な解決
を引き続き求めるとの主張もある。北朝鮮が今年前半、ジェンキンスさんとヘギョンさんの帰国
を打診した時も、日本側は9人全員の無条件帰国を求めて拒否している。

 北朝鮮が今回、変化球を投げたのは日本政府の真意を見極めようとしたことが理由の一つ
と思われるが、それと関連して一躍マスコミの注目を浴びたのが、NGOのレインボーブリッヂで
ある。同団体の小坂浩彰事務局長がピョンヤンで拉致被害者5人の子どもと会い、手紙と写
真を持ち帰ったため、大韓毎日が伝えた「日本の人道支援団体」ではないかと目されたのであ
る。

 なお、小坂氏に一部週刊誌が卑劣な人格攻撃を加えているが、事の本質とは関係ないこと
である。同団体は99年にアジア各国への人道支援を目的に発足し、北朝鮮に廃タイヤチップ
約6万4000トンを送ったり、昨年12月、北朝鮮籍の貨物船「チルソン」が茨城県日立港で座
礁した際には、船の撤去を巡って茨城県との交渉の仲立ちを行ったりし、また、代表の飯坂良
明・聖学院大学学長が世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会評議員であることから、北
朝鮮側の信頼を得てメッセンジャー役を担ったと思われる。

 子どもたちとは数人の日本人が面会している。図らずもその1人となった小坂氏は記者会見
で「北朝鮮からは何のメッセージも受け取っていない」と否定したが、10か月ぶりに音信を交
わした被害者の様子から幾つか教訓的なことが浮かび上がるので、経緯を振り返ってみる。

 小坂氏によると、年数回訪朝するたびに拉致被害者の子どもの健康状態の確認を求めてき
たが、さる7月28日、北朝鮮政府関係者から紹介されて曽我ひとみさんの長女(20)と次女
(18)とまず会い、続いて蓮池薫さん夫妻の長女(21)、長男(18)、地村保志さん夫妻の長女
(21)と長男(19)ら4人と会い、親にあてた手紙を3通預かった。いずれも大学生で、高等中
学(高校)の地村さんの次男だけは林間学校に出かけ、会えなかった。

 さらに、帰国直後の7月29日夕、拉致被害者家族連絡会代表の横田滋さんに電話し、「重
大な情報を直接、伝えたい」と蓮池薫さんら拉致被害者5人への仲介を依頼したが、政府を通
すようにと断られ、内閣の拉致被害者・家族支援室関係者を紹介された。同日深夜、中山参
与ら政府関係者と会ったが、話し合いがつかなかった。4日後の7月2日、小坂氏の代理人が
改めて支援室を訪れ、手紙3通と面談の際に蓮池夫妻と地村夫妻の子供4人や曽我さんの娘
2人を撮影した写真20枚弱を手渡し、同日、新潟県の蓮池夫妻、曽我ひとみさん、福井県の
地村夫妻にそれぞれ届けられた。

 拉致被害者たちは手紙や写真で子どもらの無事を確認し、安堵したようだ。被害者5人に自
由にものを言わせなかった家族会とか「救う会」とかの横槍的な゛代理コメント゛もなく、今回は
当人たちが進んで記者会見に現れ、「無事にいると、ほっとした。手紙は便箋3枚にハングル
の手書きで、裏表にびっしりとつづられていた。親子で楽しく暮らしていたことや、大学生活に
不便はないことなどが書かれていた」(蓮池薫さん)、「私たちが帰国前に住んでいたアパート
で、食料も生活費ももらっているようだ。元気でいることがわかり安心した」(地村保志さん)、
「何回も何回も読みました。夫も子どもたちも健康で、早くお母さんに会える日を待ちながら生
活している、一日も早く4人で暮らしたい、と書いてありました」(曽我ひとみさん)と、それぞれ
率直に喜びを披瀝した。

 しかし、その表情は曇りがちで、家族が人為的に引き裂かれた苦悩、とりわけ、子どもたち
が拉致の事実を知らされないまま再会を願っていることに衝撃を受けている様がうかがわれ
た。蓮池薫さんは、「日本人であること、拉致されてきたことは知らない様子で、帰ってきてと書
くのはちぐはぐで、利用されて書かされている感じがする。早く子どもを帰国させて、すべてを
知らせるしかない」と述べ、地村保志さんも、「中国に出張に行くと言ってきたが、何カ月も帰っ
てこないことに、日本に抑留されていると聞いていると書いていた。子どもたちも焦りを感じて
いるようだ。早く会わないと話ができなくなる」と不安や焦りを口にした。

 帰国による原状回復が原則であるが、帰属とアイデンティティのずれに悩んできた在日の経
験を踏まえて付け加えるならば、子供たちにとっては、何でもかんでも日本に帰れば済む、と
いった単純なことではない。そこには、日本の多くの家庭が抱える世代間の断絶や価値観の
ギャップ以上の、二つの文化の衝突という深刻な問題が潜んでいる。

 父親の蓮池薫さんでさえ、帰国したときの風貌はすっかり北の人間と化し、日本語はたどた
どしく、「洗脳されてすっかり北朝鮮の人間になってしまった。日本人の心を取り戻したい」とす
る兄の透さんと、「俺の25年間を無駄にするのか!」と激しく衝突した。血以外は完全に北朝
鮮人として育った子どもたちのカルチャーショックは、拉致事件の被害者であることとあわせ
て、第三者の想像をはるかに上回るものがあろう。

 蓮池さんは、北朝鮮側が「世界中が知っている拉致」を知らせないでいることに不満を表明し
た。拉致の記憶が蘇えり、怒りが増幅しているようだが、もう少し冷静になる必要がある。「二、
三週間で帰ってくると」と言い残して家を出た親を子どもが待つのは自然なことで、「日本に抑
留されていると聞いている」のはせめてもの計らいというものである。逆に、北朝鮮側が事情を
一方的に通告し、学友や学校から隔離するような荒っぽい真似をしたりすれば、子どもたちは
取り返しのつかない精神的なショックを受け、大きなトラウマが残る。

 蓮池さんらは「北朝鮮の分断工作に乗せられる」などと引っ込み思案になったり第三者任せ
にしておくのではなく、自ら情報を求め、小坂氏とも直接会って子どもたちの状況を聞くべきで
あった。

 小坂氏によると、子どもらと会う前、北朝鮮当局者に「親たちが日本で暮らしていることを明
かしていいのか」と尋ねると、「子供たちはまだ知らないことだ」と難色を示したため、協議した
末、「現在は北京にいる親たちの友人」という設定で面会を行った。蓮池さんらの子供たちはと
ても礼儀正しく、明るい感じで、親に会いたいと口にすることはなく、「元気にしている、と伝えて
ください」などと話していた。しかし、別に会った曽我さんの娘2人は、母親が日本にいることを
知っているため、深刻な表情を見せていた、という。

 日本にいることを知っているのか知らないのか、地村さんが明かした手紙の内容と食い違う
部分があるのは、事がそれだけ微妙だからで、親が自己の責任で直接、時間をかけて説明
し、理解させるしかあるまい。

 子どもたちを白眼視しかねない環境

 と同時に、日本側に子どもたちを受け入れるしかるべき環境がなくてはならない。人間形成
のバックボーンとなる幼少青年期に学んだことを全否定され、いたずらに同情されたり、逆に
何か言えば゛洗脳゛が抜けないと非難され、対立する二つの国家の狭間で自尊心をずたずた
にされる状況に放り込むようなことは避けるべきである。

 地村夫妻の子どもの手紙には「(地村夫妻の世話をしていた)近くに住む高齢の男女に身の
回りの世話をしてもらっているので、心配しないように」とあったそうだが、北朝鮮にはそれなり
の地域コミュニテイーや人間関係がある。それを無理に引きはなそうとせず、子どもたちの
個々の状況や精神的準備などを考慮し、段階を踏まえるべきである。

 強制連行の過去と決別しようと「祖国」北朝鮮に渡った在日2世は、言葉や習慣の違いに逆
に戸惑い、「敵国」日本から来た異質分子と白眼視され数々の辛酸を舐めた。蓮池さんらの子
どもたちは豊かな日本で経済的に困ることはなかろうが、生まれ育った北朝鮮とその文化を敵
視する風潮が蔓延る中、すんなり順応できるとは考えにくい。

 そうした意味で遺憾に思うのは、拉致問題に゛熱心゛とされる拉致議連(自民党や旧民社党系
のタカ派が多い)や「救う会」メンバー、保守系マスコミが、最近も朝鮮学校卒業生への大学入
学資格付与に反対するなど、民族差別を助長し、反北朝鮮の風潮を煽る行為を強めているこ
とである。

 本来の人権、人道主義から逸れ、日の丸意識をかざして国家のメンツや民族の対立へとす
り替えることが、被害者や子どもらを股裂きこそすれ、よい結果をもたらすわけが無かろう。
「北朝鮮崩壊は間近だ」と無責任な認識を植え込み、金正日政権打倒などという政治運動化し
た重い課題を背負わせると、しっぺ返しを喰らうのが関の山である。

 さらに、レインボーブリッヂは「政府を通さず出過ぎた真似をした」とか、「北朝鮮の対日工作
に利用された」とバッシングを加えているマスコミの対応にも首をかしげざるをえない。曽我さ
んの夫や娘さんのビデオ・メッセージを報じたフジテレビが「利敵行為だ」と批判されてから腰
が引けたようだが、゛お上意識゛や大本営発表の癖が依然として抜け切らないのではないか。

 「政府間交渉が行き詰まる中、NGOが果たした役割は評価すべきだ」(吉田康彦・北朝鮮人
道支援の会代表)とするのが正論であろう。当然のことであるが、NGOは非政府組織であり、
政府の下請ではない。北朝鮮政府は無論、日本政府からも利用されてはならないのである。こ
れといった確かな見通しも無く、一挙に解決しようと功を急ぎ、10か月も子どもらの安否ひとつ
確認できなかった日本政府の無策、無能こそ問題にすべきではないか。

        追跡・検証↓

 @北、拉致問題と切り離す姿勢を強調

 朝鮮中央通信は8月9日、6か国協議に関して論評を出し、日本が「朝日間ですでに解決済
 みの『拉致問題』を持ち出し、人為的な難関を作り出そうとしている。会談の前途に暗雲を投
 げかけるものだ」と批判し、拉致問題とは切り離す姿勢を改めて強調した。(03・8・10)

 A12日からモスクワでロシア、北朝鮮、韓国外務省高官が準備協議

 北京を訪れているにいるロシアのアレクサンドル・ロシュコフ外務次官(アジア太平洋担当) 
 は8月10日、タス通信とのインタビューで、6か国協議について12日からモスクワで「ロ外務
 省と、北朝鮮、韓国の外務省高官の間で準備協議が行われる」と明らかにし、「日本との間 
 でも近く、同様の準備協議を行う可能性が検討されている」と付け加えた。

 日本抜きで交渉の下準備が着々と進んでいるようである。(03・8・11)

  B福田訪中への各紙報道採点、良は朝日のみ

 胡錦涛(フー・チンタオ)中国国家主席は8月9日夜、日中平和友好条約調印25周年の記念
 レセプションに先立って日本政府代表団と会談し、6者協議で拉致問題を扱うよう求めた福 
 田官房長官に対し、「6者協議は重要な一歩だが道のりは長く、中日その他の共同努力が必
 要だ。対話を通じた拉致問題の解決と、日朝国交正常化を望む」と述べ、間接的な表現なが
 ら、6者協議は核問題が議題であり、拉致問題は日朝二国間の対話で解決すべきだと日本
 側に協調を促した。

 会談には北朝鮮から帰国したばかりの王毅外務次官が同席したが、記念レセプション会場 
 で記者団に、6者協議を8月25日から31日までの間のいずれかの3日間、北京で次官級ク
 ラスに格上げして開くことで北朝鮮側と合意したと明らかにしながら、ずばり、「日本人拉致問
 題を6者協議で取り上げるのは難しい。ただし、日本が望めば、日朝2国間協議は設定でき
 る」との見通しを示した。

 私が予測した通りとなったが、それを10日の日曜朝刊で一斉に報じた各紙の客観度と分析
 力を採点してみよう。

 まず朝日新聞だが、一面トップで「拉致『日朝間で』」と王次官の言葉を大きく報じ、事の本質
 を比較的正確に捉えていた。2面の記事でも、「歓迎の陰にわだかまり」と拉致問題を扱う日
 中温度差を紹介するなど背景にも目を向けており、米国や「国際包囲網」への認識に甘さが
 あるものの、まあまあ良の75点を与えられる。

 それと対照的なのは産経新聞で、「拉致、日朝個別対話で」と、朝日同様にトップに6段抜き
 の見出しをつけたが、ちぐはぐぶりは隠せず、反北朝鮮の立場から拉致問題解決を最優先
 したい主観的願望と、客観的事実を混同する弱点を今回もさらけ出した。「拉致問題に関し 
 日本政府が各国に働きかけ、国際包囲網が形成された。経済大国である日本を抜きにして
 北朝鮮問題の解決はありえないことを各国が熟知している」(主張8・5)はずが、全く逆の結
 果になろうとしているのに、相も変わらず、二面解説記事で「拉致事件に関する何らかの動き
 が出てくる可能性が見えてきたといえそうだ」と回りくどい苦しい表現で強気な姿勢を崩そうと
 せず、「北朝鮮問題での連携が今後の日中関係改善の試金石になりそうだ」と中国側に八つ
 当たりし、聞きようによっては恫喝するかのようなことまで書いている。点をあげようにも40 
 点が限度、落第である。

 他紙のスタンスは概ね両紙の間にあるが、読売新聞はトップに三井住友銀行関連記事をも
 ってきて、その下の4段見出しで「北の核、日中連携」と報じた。問題の次官発言も「下旬の6
 か国協議、北朝鮮もほぼ同意」とベタ記事扱いで逃げた。「拉致被害家族情につけ込む北朝
 鮮の非道」(社説8・4)と小坂レインボーブリッジ事務局長を非難し、「日本は近く始まる六か
 国協議の場で、拉致問題も取り上げる。核問題だけでなく、拉致問題の解決なくして、国交正
 常化はあり得ない」とボルテージを上げていた割りには地味になったのは、「中国の側面支 
 援」を期待できなくなったことを悟り、失望感があったからであろう。

 毎日新聞はというと、一面6段トップの見出しは「6ヶ国協議、25日以降に」と当り障りのない
 ものにし、その中に4段で「拉致問題 日朝協議の場設定も」と付け加えた。日経は経済紙ら
 しく一面トップは鋼板共同購入問題で、中ほどに「北朝鮮の体制保証必要」と中国主席の言
 葉を見出しにしてなんとか体裁だけは繕った。

 いずれも60点、可といったところか。(03・8・11)

 C福田官房長官、「拉致問題は日朝のバイ会談で」と容認

 福田官房長官は8月11日午前、北京市内で記者会見し、「(拉致問題を)6者協議でも取り 
 上げたいが、核開発問題が6者協議の最重要課題で、国際社会の共通課題だ。日朝両国 
 間のバイ会談(2国間協議)という形を取らざるを得ない」と述べた。昨年10月のクアラルン 
 プールでの第12回国交正常化交渉に次ぐ公式折衝となるが、会談の日時や場所について
 は「調整中で申し上げられない」と語った。

 福田長官は日本語に堪能な王毅外務次官と10日、通訳を交えず2人だけで約30分話し込
 み、ようやく状況を理解したものと見られる。(03・8・12)

 D中国外務次官、ロ案「米露中の北朝鮮体制保証」に賛意

 王毅外務次官がロシアのロシュコフ外務次官と8月11日、北京で会談し、米国に加えロシ 
 ア、中国が北朝鮮に体制保証する代わりに、核開発放棄を確約させるとのロシア案に支持 
 を表明した。共同が12日、在モスクワ外交筋の話として伝えたもので、同案を6カ国協議に
 提示することでも一致し、ロシュコフ外務次官が13日に韓国、北朝鮮外務次官と会談、ロシ
 ア案の受け入れを打診する。ロシア案には北朝鮮への経済支援としてパイプラインを通じた
 ロシアの天然ガス提供が含まれるという。(03・8・12)

 E李外相、「拉致問題は議題にならない」

 来日中の中国の李肇星外相が8月12日、与党3党幹事長や民主党の菅直人代表と相次い
 で会談し、「一部の国が核以外の問題を提起するとなるとホスト国としてはとてもやりにくい。
 核問題の平和的解決がメーンと理解してほしい」と、27日から3日間開催される予定の6か
 国協議で拉致問題は議題にならないことを明らかにしながら、「日朝2国間での交渉は結構
 で、便宜は図りたい」と、日本側に個別交渉での解決を促した。また、李外相は「戦争を指揮
 したハイレベルの指導者が合祀される事態が続いている。日中関係を傷つけるものではな 
 いか」と、靖国神社問題で改めて山崎自民党幹事長に注文をつけた。

 これを受け、日本政府内では日朝2国間で解決との現実論が大勢になりつつある。米国の 
 力を借りて拉致問題をあくまでも核問題と絡めたいとする安倍官房副長官らは、13日からの
 日米韓3か国非公式協議で議題とするよう働きかけたいと淡い望みをつなぐが、孤立感は否
 めない。(03・8・13)

  F家族会長、「やはり日本政府が自力で」とブッシュ頼みを自省

 拉致被害者家族会らは8月21日、米国大使館を訪れ、「北朝鮮は核をテロに使う危険があ
 る国際社会の脅威。拉致もテロと位置付け、解決してほしい」と、6カ国協議で拉致問題も議
 論するよう要望した。その後、外務省の薮中三十二アジア大洋州局長と面会、6カ国協議の
 場で北朝鮮側に、帰国した被害者5人の家族だけでなく、死亡とされた8人も含めた被害者 
 全員を返すよう要望する、核問題で進展があっても拉致事件が解決しない限り、一切の経 
 済・食糧支援をしない、という意思を示すよう求めた。

 産経新聞(03・8・22)によると、薮中局長は、6カ国協議で拉致問題を提起し、核とともに包括
 的解決を目指すとの政府側の姿勢をあらためて示したという。また、家族会会長の横田滋さ
 んは「拉致は米政府の協力も大事だが、やはり日本政府が自力で解決することが大事だ」と
 強調した、という。

  ブッシュ頼みの誤りにようやく気付いたのは一歩前進である。だが、同行した佐藤勝巳「救う
 会」会長や中川昭一拉致議連会長のアドバイスであろうが、依然として「北朝鮮への制裁」を
 求めたのは認識が甘いといわざるを得ない。肝心な時期に小泉首相はドイツ、ポーランド、 
 チェコと6カ国協議と無縁な地域を外遊してお茶を濁しており、゛頼り゛の安倍官房副長官も姿
 を見せず、打つ手がないことを自らさらけ出している。

 なお、「日本核武装による報復」をぶち上げ、物議を醸した佐藤氏が「救う会」会長にとどまっ
 ているようだが、同会の良識が疑われても仕方がない。(03・8・22)

  G安倍官房副長官、朝米不可侵条約に反対表明

 安倍官房副長官が8月30日、金沢市内で講演し、6者協議で北朝鮮が米国に不可侵条約 
 締結を求めたことに「日米安保条約を無力化する。日本の立場としては、米国に不可侵条約
 を結んでもらっては困る。万が一、北朝鮮が日本を攻撃した時に、米国が北朝鮮に報復でき
 なくなる。米国が反撃しないとなると、安心して日本を攻められるじゃないか、となる」と述べ 
 たと朝日新聞(03・8・31)が報じた。

 北朝鮮が核を持つ必要をなくすために米国が不可侵を約束するのが合理的であることが理
 解できない状況認識力の未熟さを露呈し、さらに、「不可侵は日米安保と矛盾しない」とする
 川口外相の発言と食い違い、閣内一致の原則にも反する軽率な発言と言うべきである。拉 
 致問題解決にもマイナスに影響することが懸念される。

 また、小泉首相が05年11月までの改憲案策定を打ち出したことに「祖父(岸信介元首相)も
 最後までこの運動に全力を尽くした」と改憲に積極姿勢を示した。40代という年齢からニュー
 リーダーのイメージを振りまこうとしているが、頭の中身は首相の靖国公式参拝に熱心な旧 
 思考の持ち主であり、アジア侵略などの戦争責任を問われてA級戦犯になりながら、冷戦に
 対処し、旧勢力糾合に方針変更したGHQによって釈放され、首相に押された祖父の陰から 
 抜け出せないでいる。(03・9・1)

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佐藤ー安倍強硬ラインの暴走(03・6・30)

 北朝鮮からも「核武装化の野望」と批判される始末

 日本人拉致問題は佐藤ー安倍強硬ラインに引きずられるように本筋の人道問題からずれよ
うとしているが、その最大の危険性は、日本の核武装へと世論を導こうとしていることである。

 家族会を背後で操る佐藤勝巳「救う会」会長は2月18日、東京都議会での「北朝鮮に拉致さ
れた日本人を救出する地方議員の会」主催の集会で、「北朝鮮に圧力をかけるしか問題解決
の道はない」との持論の制裁論を改めて強調しながら、「向こうは制裁を宣戦布告とみなし、ミ
サイルを撃ち込むということに必ずなる。戦争を恐れてはならない。長期的には我が国が核ミ
サイルを持つこと。要するに、核に対する防御には相互抑止力しかない」と公言した。

 その発言が問題視されると、「一般論として・・・」とか逃げた。だが、同会は、今の今まで訂正
声明を出すことも、会長の責任を問うことも無く、内部では「何が悪い。よく言った」という意見
が支配的と伝え聞く。要するに、個人的な失言ではないということである。

 他方、北朝鮮問題を佐藤氏を所長とする現代コリア研究所グループからレクチャーされてい
る安倍晋三官房副長官はといえば、これも昨年5月、早稲田大での講演で「憲法上は原子爆
弾も保有できる」と発言し、原水禁らが発言撤回の抗議文を出す騒動を惹き起こした前科があ
る。中国、韓国ばかりか、北朝鮮の朝鮮中央放送からも「核武装化の野望が露骨に表面化」と
批判される始末であった。

 小泉首相の陰に隠れた地味な存在であった安倍氏が、上司の福田官房長官を差し置いて
ポスト小泉レースの候補の1人として急浮上したのは金正日総書記が拉致問題を公式に認め
た昨年9月の日朝首脳会談後であるが、おっとりとした外見に似合わぬ異常に高揚したモチベ
ーションは、対北朝鮮感情の悪化に乗って一挙に対北強硬派として売り出そうというところにあ
るようだ。

 日本政府内では、防衛庁出身の大森敬治官房副長官補(安保・危機管理担当)が中心にな
って米国の国家安全保障会議(NSC)のような常設諮問機関設置の研究に着手している。現
在の安全保障会議の機能を強化して、安全保障政策について首相に直接助言し、それを受け
て首相がトップダウンで指揮する大統領的権限を持たせようとするものであるが、この日本版
NSCの検討を働きかけ、背後でプッシュしているのが安倍官房副長官と自民党国防族であ
る。 

 冷戦時代の゛ソ連の脅威゛に代わる゛北朝鮮の脅威゛を口実に、日本保守層の悲願である軍
備強化が進められているが、安倍氏はその流れにうまく乗った格好である。さしずめ佐藤氏は
指南役、彼の家庭教師をしていた平沢勝栄氏はサポーターという役割になる。

 それによって北朝鮮との対立が一層悪化し、その終点が日本の核武装だとしたら、拉致被
害者5人は立つ瀬がなかろう。「救う会」ならぬ「殺す会」、といったら言い過ぎだろうか。

 「米が核攻撃すると脅しているのに、国家と国民を守るために核武装して何が悪い」。金正日
総書記の口癖だが、佐藤ー安倍氏らの言っていることはそれと寸分、違わない。その軍事的、
政治的愚かさについては別のところで述べるとして、核兵器の反モラル性は広島、長崎に行け
ば分かることである。

 過去の拉致を否定する反モラル性

 彼らは日本人拉致問題を挙げて北朝鮮制裁を正当化するが、そこには不純な政治的動機
が隠されているばかりか、モラルとしても重大な問題がある。

 在日言論界の重鎮の一人である作家の金石範氏が昨年10月26日、都内で開かれた市民
団体主催の討論集会で、「金総書記が日本の植民地支配への補償要求を放棄して経済協力
方式で妥協したのは韓日条約と同じであり、売国的屈辱外交である」と手厳しくピョンヤン宣言
を批判した。さらに、日本に対しても、「(拉致問題に関して)朝鮮人としての大きな責任を感じ
るが、マスメディアは拉致報道ばかりで日本の戦争責任に触れず、歴史健忘症だ。植民地支
配などに関する責任を日本はずっと放置してきた。こんな国家は世界に他にあるか」と問い掛
けた。

 翌日の朝日新聞の片隅に簡単に報道され、ほとんど無視されたが、これは、もの言わぬ多く
の在日、朝鮮南北の人々の率直な気持ちを代弁している。

 日本人の中にも、右にならえの反北朝鮮風潮にまゆをひそめる人は少なくない。昨年10月
8日、朝鮮人強制連行真相調査団(日本側代表=鈴木二郎都立大名誉教授)が、日本、韓
国、北朝鮮で集めた朝鮮人強制連行者名簿が23万人に達したと全名簿を公開した。日本各
企業や各国政府が作成した徴用者名簿から調査団が作成したもので、日本の良心もちゃんと
生きている。

 無論、過去がどうであろうと日本人拉致が正当化されるわけではなく、私もマスコミのインタビ
ューに「被害者が加害者になってしまったが、その責任は厳しく問われねばならない」と答えて
いる。しかし、それがあたかも免罪符のようになって、過去の罪が忘れられたり、許されるもの
ではなかろう。

 その点、不可解なのは、佐藤氏が「教科書批判はいつまでつづくのか」(『日本外交はなぜ朝
鮮半島に弱いのか』草思社)、「『謝罪と償い』は国辱的失態」(『北朝鮮―日朝交渉急ぐべから
ず』(ネスコ)と日本の植民地支配や強制連行などへの謝罪と償いを否定していることである。
強制連行は今風に言えば拉致であるが、朝鮮人拉致を否定する人が日本人拉致を口を極め
て非難、攻撃する精神構造とは何なのか。

 人間を民族で差別する思考方式に、良心とかモラル性といったものがあるのであろうか。一
部の人は個人の言論の自由、と弁解しているが、履き違えも甚だしい。実は、「救う会」にはこ
の種の考えをする人が少なくないし、先の麻生太郎自民党政調会長の暴言が示したように、
反北朝鮮の風潮の暗部にはそれが潜んでいる。

 金石範氏は在日の生き字引みたいな存在であり、大作『火山島』(文芸春秋)で日本の植民
地から解放された直後、政治的意見の違いから内戦状態に陥り、旧ユーゴのような虐殺行為
が起きた済州島内乱の悲劇を描き、政治的エゴの残虐さ、愚かさを鋭く告発してきた。ブルー
リボン運動をリードする人々の中に、歴史の教訓を学ぼうとしない人が多いのは極めて遺憾な
ことである。

 拉致問題は、国家や民族の威信や体面の次元ではなく、個人の人権、人道の本筋に立ち戻
るべきであろう。

 横田滋氏が孫のキム・へギョンさんのインタービューを見て、目をまっかにはらしながら「二つ
の国の板ばさみになって可愛そうだ」とお孫さんを気遣っていた。「『立派に育ててくれてありが
とう』とへギョンさんのお父さんに手紙を書く」と述べ、「会いに行きたい」とも語っていた。報道
陣を引き連れて北朝鮮に乗り込み、北朝鮮当局を批判し、思いのたけをぶちまけた方が、アメ
リカや韓国に行ったり来たりするよりもずっと効果的であるように思えるのだが、「北朝鮮に利
用されかねない」との「救う会」ら周囲の声に押されて、いまだに実現していない。

 「孫に会いたいと素直に言えない状況はおかしい」と小牧輝夫国士館大教授らが批判してい
るが、被害者5人ら当事者が自由にものも言えない現況は、まさに異常というしかない。

曽我ひとみさんの本音(03・6・28)

 曽我ひとみさんがベーカー駐日大使と面会したのは5月9日のことであったが、その席で、
「私には夫がいて、娘2人がいて、北朝鮮で過ごしています。夫と私は北朝鮮で運命的な出会
いをしました。・・・4人の生活は幸せなものでした。一日も早く家族と暮らせるよう力を貸してい
ただければと思います」と、切々と訴えたことが明らかになった。

 この発言に対してそれぞれの思惑から様々な解釈が成されているが、曽我さんの本音が出
ていると素直に受け取るべきであろう。

 この国では拉致被害者に関して事実上の言論統制が敷かれ、マスコミは曽我さんの発言を
ほとんど報じなかったが、週刊新潮(03・6・12)が、「曽我ひとみさんがベーカー米大使に漏ら
した『意外な言葉』」との見出しですっぱ抜いた。帰国後半年経った4月14日の記者会見発言
でも「家族には1〜2週間で帰ってくると言ってきた。その(一時帰国の)約束を破って私たち家
族をばらばらにしたのは誰なんでしょうか!」と涙ながらに苦しい心情を吐露しているから、「意
外な言葉」でも何でもないのだが、被害者5人の本音を外に漏らすまいと必死にガードを張っ
ている家族会、「救う会」らの反発覚悟であえて真実を掲載した同誌記事のジャーナリズム魂
にしかるべき敬意を表しながら、事実関係を抜粋してみよう。

 それによると、面会は、夫のジェンキンス氏が脱走兵の疑いをかけられている曽我さんの強
い要請を受けた外務省が何回か折衝して実現し、同日午前中、30分程度もたれた。安倍晋
三官房副長官、平沢勝栄自民党代議士、中山恭子内閣参与、外務省幹部らが同席する中、
曽我さんが用意してきた手紙を読み上げ、大使が答える形で進行したが、曽我さんは手紙を
読み読み終えた後、゛自分の言葉゛で大使に直接訴えた。手紙の内容はこれまで゛公式゛に報
じられたモノとあまり変わらない。冒頭の発言は゛自分の言葉゛の中で飛び出したものだけに、
本音、と見るのが妥当である。

 「娘たちは今、年齢的に大人になる大事な時期を迎えています。夫は心臓が強い方ではない
ので彼の健康について心配しています。どこの国にもあるようなありふれた家族ですが、自分
にはかけがえのない家族です。(北朝鮮での家庭生活は)世間で言われているほど悲惨では
ありません」

 同席した関係者は、曽我さんがそうも語ったと証言する。さぞかし安部氏らは狼狽したであろ
うが、これは明らかに拉致被害者5人に対する無責任な報道を意識して批判している。病院の
ベッドに横たわる夫のジェンキンス氏や娘さんが曽我さんにあてたビデオ・メッセージがフジテ
レビで報じられた時には、「仮病だ」「北朝鮮当局の指示で言わせられている」と一部家族会、
救う会関係者、保守系マスコミは声をきわめて非難し、果ては「北朝鮮の宣伝に乗せられた利
敵行為だ」とフジテレビ担当者をつるし上げ、以後、「自粛」の名で自由な報道が規制されると
いう異常な状況が続いている。

 無論、曽我さんは北朝鮮がよいといっているわけではない。拉致被害者であり、一緒に拉致
された母親は行方不明である。「自分だけのことを考えているのではありません」と大使に語っ
ているように、母親ら他の被害者の救出と、「運命的な出会いをした夫」や子供たちとの生活を
守りたいという気持ちの狭間で揺れていることは十分に想像できる。

 だが、後者を選択したとしても誰も責めることはできまい。重要なことは、ピョンヤン宣言にあ
るように国交を速やかに正常化し、被害者らが北朝鮮であれ、日本であれ、家族と好きなとこ
ろで暮らし、自由に行き来できるようにすることにある。

 札付きの反北朝鮮勢力は、大量破壊兵器を口実にブッシュ政権がイラク攻撃をしたような状
況を作ろうと、「金正日はフセインより悪い」と拉致問題を扇情的な政治的キャンペーンに利用
しているが、これが問題を必要以上にこじらせ、曽我さんらを苦しめている。

 会談に同席した平沢氏は、「確かに僕も曽我さんの発言を聞いている」とコメントしながらも、
「でも、彼女が日本に残ろうと決断したのは、政府が家族を取り戻してくれると信じたからです。
それが半年以上経つのに進展しないどころか、北に対して弱腰の姿勢を見せるので、ついあ
んなことを漏らしてしまったのでしょう」と、いかにもまずいことを言ってしまったものだとでも言
いたげに、暗に、曽我さんの゛弱気゛をなじりながら、手前味噌の解釈をして見せている。

 他方、西岡力「救う会」副会長は「曽我さんが言ったことは偽らざる気持ちだと思いますよ」と
こちらは一応同情する素振りを見せながらも、「そもそも曽我さんは他の4人とは置かれた状
況が違う。自動車も持っているし、食事もパンにコーヒー」と、蓮池薫さんら他の4人に動揺が
波及しないように予防線を張ることを忘れない。

 5人の言動は家族会や「救う会」幹部から特定のメディアを通じて、「誰々さんは、こうこう言っ
ていた」と都合よい解釈を加えて世間に流される談合方式がすっかり定着してしまっているが、
「(蓮池薫夫妻は)食事が終わるとすぐに自分たちの部屋に行ってしまう」(週刊文春6・19)
と、子供たちのことでピリピリし、現状に苛立っている様子が漏れ伝わる。

 新潮記事は「つまるところ曽我さんを苛立たせているのは、北に対していまだ強気に出られ
ない日本外交にあるというのだ」と、平沢、西岡両氏のコメントを総括しているが、曽我さんの
言葉のどこからそんな解釈を引き出せるのだろうか。北朝鮮を不必要に刺激して事態を膠着
状態に追い込んだ責任に頬被りした筋違いの強弁と言うべきである。

 彼らの狙いは、すべての責任を何かと目障りな北朝鮮に押し付けて、日本外交を北朝鮮制
裁へと向けることにあり、曽我さんらはそのダシにすぎず、本音は封印したいということであろ
う。

 新潮記事は、後半は、対北朝鮮政策を巡る安倍官房副長官、藪中三十二アジア大洋州局
長、中山参与ら強硬派と福田官房長官、竹内事務次官、田中審議官ら宥和派の対立に焦点
をあて、「田中審議官は北朝鮮と裏交渉し、゛ミスターXから食糧支援と引換に横田めぐみさん
の娘とジェンキンス氏の帰国を打診され、アーミテ―ジ国務副長官らに打診したが一蹴され
た」「5月23日の日米首脳会談に向かう政府専用機内で小泉首相に対し、共同宣言に経済制
裁や圧力など刺激的な文言は入れてはいけないと演説。ついには安倍官房副長官と怒鳴りあ
いになった」と、内幕をリアルに暴露している。

 それなりに興味深いのだが、北と何のパイプも無く(従って何もできず)、世間受けを意識し
た゛強硬意見゛をがなり立ててばかりいる安倍氏らが事態をこじらせたことにはやはり目を背
け、「包括的解決の中で日朝関係の解決を」と縁の下で汗を流す健気な外交官を、「田中審議
官の独走」「また身代金を要求されるのか」とのセンセーショナルな中見出しまで掲げてこきお
ろし、安部氏らに一方的に肩入れしているのはファエーでない。

 「もはや裏交渉している場合じゃない。弟だって゛もう堂々と交渉すべきだ゛と言っていますよ」
と蓮池透家族会事務局長のコメントで結んでいるが、冷徹に落としどころを探るのを本質的使
命とする外交がエキセントリックな被害者感情に左右されるようになったら先は見えている。

 それと、被害者本人を隠して極力語らせず、゛代理コメント゛で世論を操る方法にもそろそろ
終止符を打つべきである。

 田中外務審議官、正論が通らない憂鬱(03・5・23)

 日朝首脳会談を裏部隊でセットし、被害者5人を日本に取り戻した大功労者でありながら、そ
の後の対応を巡って「救う会」や拉致議連などから国賊扱いされている田中均氏が、テレビキ
ャスターの田原総一郎氏との対談(朝日新聞03・5・23)で、思いのたけを語った。

 「北朝鮮は日本を敵性国家と見ている。植民地支配の記憶をずっと持っている事実は捨象で
きない。その上で共通の土俵を作り、拉致や安保問題を解決する。核問題と切り離して拉致問
題のみ解決するのは難しい。包括的解決の中で日朝関係の解決を図るのが戦略だ」。そう述
べながら同氏は、「小泉首相は訪朝して拉致問題を認めさせたが、制裁といった手段を用いた
わけではない。外交はまず互いの共通利益を作り、その上で協議や交渉を・・・。リーダーが国
民感情に加え中長期的な指導力を発揮(すべきで)、重要な外交がワイドショー的な切り口で
扱われることには違和感がある」と感情的な制裁論を牽制し、さらに、「ブッシュ政権に変わり、
北朝鮮は米国と話をするのが難しくなった。(北朝鮮問題は)北東アジアでの安保を担保する
新しい秩序を考えていく機会にできる。冷戦の終結以降、欧州では扉が開いたのに、北東アジ
アでは逆にロックがかかってしまった。これを何とかしなければならない」と訴えた。

 これが問題の本質と現実を冷静に見据えた正論である。彼が北朝鮮側と日朝首脳会談開催
で合意できたのもそうした戦略思考が相手側に通じたからである。「救う会」などは「北朝鮮が
拉致を認めたのは追い詰められたから」と曲解し、「さらに圧力を加えれば拉致問題は解決す
る」と短絡的に考える傾向が強いが、要するに、相手を知らないのである。

 恐らく、北朝鮮側の意図、日本の立場と国益を正確に理解している数少ない日本政府要人
の1人が田中氏である。その人物が北寄りと批判され、大衆迎合的で無責任な議論がまかり
通っている現状では、ブッシュの顔色をうかがいながら右往左往する日本外交の漂流は当
分、収まりそうにない。

拉致問題の解決 ? を求める「国民大集会」(03・5・8)

 家族会とそれを支援する立場の「救う会」、「北朝鮮に拉致された日本人を早期に救出する
ために行動する議員連盟」(拉致議連)は5月7日、東京都千代田区の東京国際フォーラム
で、拉致問題の解決を求める「国民大集会」を開いた。

 集会は99年以降、年1回程度開いている。拉致被害者5人が帰国した直後は2千人ほど集
まった集会も、拉致問題が長期化するとともに下火となり、風化まで憂慮されたが、拉致被害
者の蓮池薫さん(45)ら5人が初めて参加することがマスコミなどで大きく報じられたことから、
定員約5千人の会場が満席となり、入場できなかった人も含め、推計で約1万人(主催者発
表)が集まった。

 私も開始10分前に会場に着いたが、すでに場外に人があふれていた。消息筋によると、「人
が集まらなかったら、忘れられてしまう。『救う会』が全国に総動員をかけた」というが、確か
に、一見して地方から上京したと思われるグループの姿が目に付いた。日の丸を手にした人も
いたが、これほど集まるとは当人たちも思わなかったらしく、「せっかく来たんだ。もう一つ予備
会場を設けたらどうか」と整理員と押し問答する光景も見られた。

 5人が東京にそろうのは昨年10月15日の帰国以来。集会参加には「北朝鮮を刺激して
は・・・」との消極意見もあったが、「冒頭だけ」ということで意見一致を見、マイクを向けられると
硬い表情で「北朝鮮に残した子供たちに、どうか早く会わせてください」とだけ訴え、全員、数分
で会場を後にした。

 北朝鮮に残した子供たちを心配し、一日も早く会いたいと願う5人の心情は痛いほどわかる
が、北朝鮮への制裁を求める対決姿勢剥き出しの集会がそれに寄与するかは甚だ疑問であ
る。

 集会はさながら強硬派の総決起集会の趣があった。安倍晋三・官房副長官や石破茂・防衛
庁長官、中山恭子・内閣官房参与らは対話よりも対決に重点を置いて日朝交渉を暗礁に乗せ
てしまったタカ派ラインであるし、かねてから「戦争してでも」と吹聴し、ここぞパフォーマンスの
見せ所とばかりに押っ取り刀で駆けつけた石原慎太郎・東京都知事は「報復」を呼びかけ、や
んやの喝采を浴びた。「日本も核武装して対抗すべき」と発言して物議を醸した佐藤勝巳「救う
会」会長もしっかりと顔を見せていた。

 常日頃から過剰な日の丸意識を売物にした面々が主導する集会は、自ずと人道、人権の本
筋から逸れ、「北朝鮮に舐められてたまるか」と、「主権侵害」に青筋を立てる国防族やナショ
ナリストによる過激な北朝鮮糾弾集会と化した。

 招待された韓国の拉北者家族会の代表も少々勝手が違ったであろう。韓国政府の02年度
統計によると1950年の朝鮮戦争以後に拉致された韓国人は486人だが、いまだにうやむや
にされたままで、5人が曲がりなりにも帰ってきた日本がうらやましく映るのも事実。「これから
は韓国に活動拠点を移す」と家族会などは日韓連携に期待するが、人道主義ならともかく、日
の丸意識プンプンでは早晩、韓国側の反発を招き、足並みが乱れるのは目に見えている。

 そもそも集会の共催団体である「拉致議連」会長の中川昭一自民党代議士は、「日本軍国
主義の復活」と韓国で厳しく批判された「新しい歴史教科書をつくる会」を支援する自民党若手
代議士の会の中心メンバーで、当時の文部省に、「自虐的な」既成教科書に替わって日本の
朝鮮植民地化を正当化する同会教科書採択を事実上、働きかけた経歴の持ち主である。

 6年前に横田めぐみさん拉致問題を契機として拉致議連は、4年間の休眠、石破茂・拉致議
連会長辞任、解散などを経て、02年4月、新たに自民、民主、自由、保守各党の衆参国会議
員31人と代理30人が出席する総会で会長に中川氏、幹事長に西村真悟・自由党代議士、事
務局長に平沢勝栄・自民党代議士を選出して発足した。それまではメンバーは日朝友好議員
連盟にも重複加入しており、97年の自民、社民、さきがけの与党訪朝団副団長の中山正暉
初代会長が「日本人拉致被害者を行方不明者として第三国で発見」する解決案を北朝鮮に打
診し、森善朗首相が日英首脳会談で「第三国での発見案」を英国側に提示し、理解を求める
などした。

 しかし、中川氏ら新執行部はそれを手ぬるいと批判し、対話による解決から制裁論へと極端
に舵を切った。自民党の若手ナショナリストとして特定グループを率いる中川氏を新会長に担
いだのが自ら新幹事長に収まった西村氏であるが、この人は中川氏に優るとも劣らぬ破天荒
な人物で、石原慎太郎氏とも近く、強姦発言、違法な武器を搭載したチャーター船による尖閣
列島への強行上陸、核武装容認発言などで世間の顰蹙を買った前歴がある。

 こうした陰のある胡散臭い人々が拉致問題に群がり、ここぞとばかりに自分を売り込み、そ
れぞれの政治的思惑を秘めて背後で蠢く。そうして、゛北朝鮮の脅威゛が情緒的に歪曲、誇張
されるなかで、有事体制なる社会の軍事的再編と自衛隊の軍隊化がなし崩し的に進み、憲法
が形骸化し、国の根本規範が腐食していくのは、この国の未来にとって悲劇的としか言いよう
がない。

 

   占領下の日本に米が多数の諜報工作員配置(03・3・4)

 北朝鮮以上に世界をまたにかけて諜報、破壊工作を行ってきたのが米中央情報局(CIA)で
あるが、その前身組織が終戦後の日本で多数の工作員と情報提供者らを主要都市に配置す
る極秘の諜報ネットワークづくりを計画していたことが、米国側の資料でわかった。

 朝日新聞(3・2)によると、「日本における戦後の秘密諜報工作プラン」と題された問題の資
料は、山本武利早大教授が米国立公文書館でトップシークレット扱いの機密文書の中から見
つけたもので、東南アジア全域の活動を記した総論と、国別の各論からなる100ページほど
の文書の一部。米国が日本の再軍備や反米活動を探るため、対日諜報工作を強化してきた
ことは知られているが、研究者らは「今もベールに包まれている占領時期の米情報機関の極
東工作を知る手がかりとして貴重な資料」と話している。

 米国情報機関は日本軍の真珠湾奇襲攻撃をきっかけに組織化され、戦略諜報局(OSS)が
生まれ、CIAにつながっていったとされる。今回の資料はOSSがCIAに継承される前の戦後の
過渡期に1年余り存在した戦略諜報隊(SSU)が作成し、46年初めに最高幹部に提出した。

 資料によると、SSUは「終戦の混乱期こそ工作員を日本に浸透させる好機」ととらえ、秘密
情報の収集対象に宗教、政治、経済、陸海軍、外交団を含め、日本を南北2方面に分けて将
校が統括し、主要都市に秘密諜報ネットワークをめぐらせる。工作員は当面20人近くで、企業
などから引き抜き、派遣社員として日本に駐留させる。情報の聞き込み役や提供者として外国
系企業も活用するとし、約50社の所在地、代表者名が記載されている。

 資料全訳は20世紀メディア研究所のメディア研究誌「インテリジェンス第2号」(紀伊國屋書
店)に掲載される予定という。

 以前、CIAが政界を含む日本各界に広く情報提供者を抱えていることが明らかにされたが、
SSUの秘密諜報ネットワークがその走りになったと思われる。

    盧新大統領の政権引継委に北朝鮮工作員?(03・3・1)

 94年、北朝鮮→総連の指令によって韓国内に作られたとされる地下組織「救国前衛」事件
が起き、それと連座して李ジェボム(41)という人物が国家保安法違反容疑で逮捕され、起訴
取り下げになったが、ソウル地検公安1部関係者は2月27日、「最近、国家情報院(国情院)
から、李氏が自ら出頭し、任意捜査を受けているとの通報を受けた」と明らかにした。

 今になって過去の話が蒸し返されるのは、李氏が盧武鉉新大統領の政権引継委員会の行
政官として活動していたためで、金大中政権の太陽政策を継承する盧新政権に対し「前政権
以上に北朝鮮より」と警戒する保守派が批判の声を上げている。

 国情院は、李氏と「救国前衛」の責任者だった安ジェグ氏(76)などから、李氏の「救国前衛」
での活動、政権引継委で活動した経緯などについて調べた後、検察に事件を送致する方針と
言う。

 94年当時の国家安全企画部(国情院)の調査によると、「救国前衛」は韓国内に潜入した総
連系工作員の指令で結成された朝鮮労動党の地下組職で、李氏はソウル首都圏の学生運動
を背後指導する要員に選ばれ、安氏の集中教育を受けた後、宣伝理論担当として活動した。
後に起訴取り下げにはなったが、容疑そのものは晴れていなかったようだ。

 李氏の出頭が遅れたことについて政権引継委高官は、「国会で先月22日、引継委法が通過
して引継委の参加資格が公務員に準ずるものとなり、身元照会を行う過程で李氏の起訴取下
げの過去が判明した。身元照会に時間がかかった」と語った。

 大統領選当時から盧候補を攻撃し、新政権の失点探しに躍起の保守系マスコミは、「国情院
は李氏の出頭前から内査していたのに、政治的影響を憂慮して(逮捕時期を)延ばした」と書
き立てている。

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      「救う会」に利用された拉致被害者家族会(03・2・24)

 安倍官房副長官らの稚拙な対応が事態をこじらせた

 先週の土曜日、久しぶりに飲みかわした小学校時代の旧友が、おもむろに、「例の北朝鮮拉
致問題だがね・・・、政府の方針は間違っている。5人を一旦返せばよかったんだ」と、ふってき
ました。厳しかった亡父から受けたトラウマを吐き出すように語り、「人生ってのは・・・」と重い
沈黙が流れた後でした。不況風に煽られて長年務めた会社が倒産し、某メーカー総務部に運
良く再就職できた彼の政府への視線は厳しさを増していますが、「5人を一旦返せばよかった」
は、ちょっと意外でした。

 「ホー、何故そう思うんだい」と思わず聞き返すと、「約束を破ったから北朝鮮を怒らせてしま
ったじゃないか。ブッシュなんかに頼って解決できるわけがないよ」と、実に簡潔明瞭な言葉が
返ってきました。「よく観ているな。周囲にもそんな見方をする人がいるのかい?」。岡田克也
民主党幹事長が1月19日のNHK番組で「(5人を北朝鮮に戻さないと)政府が決める必要は
なかった。そのことで北朝鮮は態度を硬化させた」と日本政府の対応を批判していますが、私
は、ごく普通の50代会社員に、感情論と一線を画した冷徹な認識が広がっていることに驚か
されました。

 そうです。いまや日朝交渉はピョンヤン宣言の大筋からずれ、日本人拉致問題も膠着状態
に陥り、蓮池薫さんら拉致被害者5人が北朝鮮に残された子供らと再会する道はほぼ塞がれ
ようとしています。拉致を惹き起こした北朝鮮に原状回復責任があることは言うまでもありませ
んが、相互信義に則るピョンヤン宣言を大前提に交渉が始まった以上、日本側も北朝鮮側の
体面を尊重し、「5人はいずれも2、3週間で北朝鮮に戻り、子供たちと一緒に帰国を話し合う」
との約束を守るべきでした。

 北朝鮮側は金正日総書記自ら拉致を認め、5人とその家族の送還を既定方針化していただ
けに、その手続きさえ踏んでいたら、5家族の離散という新たな悲劇は起きていなかったことで
しょう。対米交渉を見ても分かるように、かの国は頑ななほど原理・原則にこだわる国であり、
拉致を認めた以上、5人と子供たちを帰さない理由がありません。

 20余年の空白を埋めるには日本側の対応は、いかにも拙速に過ぎました。日本の植民地
支配や在日朝鮮人強制連行問題ではあれほど韓国、北朝鮮側をじらした日本政府が、かくも
性急に走ってしまったことについては様々な原因が考えられます。が、やはり、その過程で突
出し、一時は「拉致問題で大いに株を上げた」と囃された安倍晋三官房副長官の動きに象徴さ
れる一部関係者の政治的偏向を指摘しないわけにはいきません。

 

 「救う会」に引きずられる

 その縮図が「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」(家族会)の訪米問題です。

 産経新聞(1・25)によると、家族会のメンバーは1月24日、安倍官房副長官と懇談し、蓮池
透事務局長が「仮に米国が譲歩して北朝鮮への支援が行われた場合、拉致問題がかやの外
に置かれる可能性がある。米議会や国民に訴えかけたい」と訪米の意向を示し、安倍副長官
は「イラク情勢などもあるのでタイミングをよく考える必要があるが、政府としても支援したい」と
応えました。「訪米時期や訪問先など、家族会は二十五、二十六の両日に『救う会』(佐藤勝巳
会長)などと話し合い、具体化させる。『救う会』はこれに先立ち二月二日、幹事二人が渡米し、
事前調整する」といいます。

 要するに、安倍官房副長官らとしては打つ手がなくなったために、米政府に頼ろうとしている
わけです。「このままでは拉致問題が忘れられてしまう…」との焦りも分からないではありませ
んが、国際世論から大義なきイラク攻撃を批判され、同盟国であるイギリス国民ですら半数が
「世界平和への脅威」「弱いものいじめの暴れ者」(サンデー・タイムス世論調査03・2・23)と
非難の声を上げるブッシュ大統領の力の政策に依存するのは、世界情勢の流れを見誤った
危険な冒険です。日本政府は「拉致問題などの解決のためには米国の力を借りるしかない。
だからイラク攻撃を支持する」との意見に傾いていますが、世界から孤立した米国の政治軍事
行動に与することは拉致被害者としての正当性すら傷つける結果を招来することになりかねま
せん。

 家族会訪米を巡る動きには、拉致問題をこじらせたキーパーソンがすべて登場しています。
そして、人権、人道主義を名分にすべき家族会が特定の政治目的を秘めたグループが主導
する「救う会」(=「北朝鮮に拉致された日本人を救うための全国協議会」)にミスリードされる
構図がそのまま透けて見えます。

 家族会を操って日本外交にまで影響力を及ぼしている「救う会」の佐藤会長は、現代コリア
研究所の創設者、現所長です。その是非はともかく、現代コリア研究所は反北朝鮮、反金正
日をスタンスとしていることは発行している雑誌を読めば一目瞭然、知る人ぞ知ることです。そ
の研究所に「救う会」事務所が置かれ、「研究所の業務を犠牲にしても拉致問題の解決を最優
先せざるを得ません」と自ら述べているように、西岡力編集長や荒木和博研究部長がそれぞ
れ「救う会」の副会長、事務局長.に収まって家族会に色々と智恵をつけ、思うように誘導してい
るわけです。

 反北朝鮮、反金正日運動に利用

 もともと横田めぐみさんらの拉致問題を取り上げたのは佐藤氏らでした。その動機が本当に
人道主義に立脚するものであるなら評価されるべきですが、当初から反北朝鮮、反金正日の
スタンスに基づく政治活動の一環としての側面が濃厚でした。

 家族会幹事でもある西岡氏も、雑誌「正論」(01・6月号)に掲載した論文「新段階を迎えた
横田めぐみさんら救出作戦」で「ブッシュ政権は筋の通った姿勢をとっている。主権を侵された
日本は経済制裁も辞さずという毅然たる姿勢で取り組むべきだ」と、人道主義を国家主義的な
主権云々にすり替え、ブッシュの強硬策に与することを主張しています。

 西岡氏らは以前から、「テロ国家・北朝鮮に騙されるな」「北朝鮮が戦争を起こす5つの根拠」
といった扇情的な著書・論文で金日成・金正日体制打倒を喧伝しています。そのため現代コリ
ア研究所は北の労働新聞から名指しで批判されたこともあり、家族会がその影響下で動くの
は、喧嘩の一方に肩入れするようなものです。

 ところが、常識的には信じがたいことですが、今や日本の対北朝鮮政策は、現代コリア研究
所グループ→救う会→家族会→安部副長官、という図式で動いていると言っても過言ではあり
ません。現代コリア研究所グループが家族会を巧みに使って5人に同情する世論を感情的な
反北朝鮮へと向かわせ、これを機に政治的発言力を付け、あわよくばポスト小泉をとうかがう
安倍氏を通して政府を動かす仕組みです。

 例の約束違反も、5人を佐藤氏らと直結した家族会一部メンバーがガードして外部と接触さ
せない状況で巧みに演出されました。透さんらがスポンサー役を買って出て、弟の薫さんはこ
う言っていた、ああ言っていたと自己の解釈を交えて世論を誘導し、最後は「政府に任せます」
という発言を引き出して一時帰国の約束を体よく反故にしてしまったわけです。

 安部官房副長官らは「そんな約束は当初からなかった」と言い張りましたが、嘘はいけませ
ん。曽我さんは日本政府が5人を帰国させない方針を決めた後、テレビで「家族は一緒の方が
いい。帰ってくるといったのに(約束を)破ってしまった」と揺れる心情を吐露し、二女ブリンダさ
ん(17)からの手紙に「早く戻ってきてほしいと言われると、正直、心が痛い」と顔をゆがめまし
た。下手にしゃべると非国民扱いされかねない雰囲気ではそれがせめてもの抵抗だったでしょ
う。

 自分の意思に反して拉致され、帰ってきた祖国でも思うようにもの言えず、家族離散の苦痛
に耐えるしかない。最大の被害者は国家対立の狭間で翻弄されている5人と、北に残された子
供たちです。このことが意外と忘れられているのではないでしょうか。

 佐藤「救う会」会長、「我が国も核ミサイルを持て」と公言

 小泉首相の訪朝から一カ月後の昨年10月に内閣府がまとめた「外交に関する世論調査」で
は「日朝国交正常化に賛成」が66・11%となリ、小泉首相の支持率も6割台に跳ね上がりまし
たが、5人の帰国後、時間がたつにつれ正常化反対が増え、逆転しました。救う会による反北
朝鮮キャンペーンと無関係とはいえないでしょう。

 「救う会」の佐藤会長らは「北朝鮮に圧力をかけるしか問題解決の道はない」が口癖です。折
りしも、佐藤氏は2月18日、東京都議会での「北朝鮮に拉致された日本人を救出する地方議
員の会」主催の集会で、拉致問題解決のための制裁を政府に求め、「向こうは制裁を宣戦布
告とみなし、ミサイルを撃ち込むということに必ずなる。戦争を恐れてはならない。長期的には
我が国が核ミサイルを持つこと。要するに、核に対する防御には相互抑止力しかない」と述べ
ました。

 ことさら対決と戦争を煽る発言は、被爆国民の良識とはかけ離れ、妄想的というか、極めて
主観的で狂気性すら感じさせます。恐らく、佐藤氏が在日朝鮮人の北朝鮮送還に協力した日
朝協会新潟県本部幹部を辞めて以来、抱いてきた北朝鮮への私的な怨念と無関係ではなく、
拉致問題はそれを晴らす格好の材料ということでしょう。不況が長引く日本ではこの種のキレ
タ人が増えていますが、拉致問題をとんでもない方向にねじ曲げてしまう危険な思考方式と断
じざるを得ません。

 少しずれますが、日産を再建したゴーン社長は米誌ニューズウィークとのインタビューで、「日
本に対する外部からの大きな脅威はない。重大な脅威は国内にある」とやたら外部の脅威論
を振りまく昨今の風潮に警鐘を鳴らしています。ゴーン氏が言うように、日本は「明確なビジョ
ン」を持てず低迷していますが、混乱のどさくさにまぎれたためにする議論に乗せられ、自ら危
機を深めるようなことがあってはならないでしょう。

 自分を打倒する敵意を秘めた相手とまともに交渉するバカはいませんから、日朝交渉も行き
詰まるほかありません。今では少なくない人がそれに気付き始めているようですが、不純な政
治的思惑を秘めた図式を早く断ち切ることが日朝交渉を正常化させ、5人の家族再会を実現
する上で不可欠です。

 そのためには、隣国の韓国民が半島の平和を脅かしていると猛反発しているブッシュ政権へ
の情けない他力本願を止め、日本の国民の利益に沿った自主外交が必要です。

 日本に北朝鮮とのチャンネルがそれほどあるわけではありません。電撃的な小泉・金首脳会
談でピョンヤン宣言をとりまとめ、「日本もやるな」と韓国政府をも唸らせ、敗戦後の日本外交
が恐らく初めて半島問題に関与しうる地平を開いた田中均外務省審議官らは「売国奴」などと
前時代的な批判を浴び、退けられましたが、大衆迎合的な素人外交に速やかに終止符を打
ち、東アジアの現実を踏まえた合理的な交渉ができるプロフェッショナルなラインを復活させる
べきでしょう。

 北朝鮮は何故日本人拉致を認めたのか

 では、北朝鮮は何故日本人拉致を認めたのでしょうか。

 何故拉致が起きたのか、と言い換えても良いのですが、この拉致問題の原点について、現
代コリア研究所グループ→救う会→家族会→安倍官房副長官という図式に乗って、誤った認
識がかなり意図的に広められています。

 それを端的に示すもう一つの実例が、「救う会」が荒木氏を会長に新たに発足させた「特定
失踪者問題調査会」が「拉致の可能性のある失踪者名簿」なるものをマスコミに仰々しく公表し
たことです。名簿には一次40人、二次44人が載っていますが、拉致問題とは無縁な1950年
代、60年代の失踪者名まで相当数含まれており、案の定、その後、何人か日本国内にいる当
人から連絡があり、バタバタしています。

 荒木氏らは「北朝鮮による拉致の可能性のある失踪事件であり、国内で無事見つかればそ
れにこしたことはない」と予防線を張っていますが、拉致が起こりうるはずのない年代の失踪者
まで含めるところに、何でもかんでも北朝鮮と強引に結びつけ、排外主義的感情を社会に醸し
だそうとする政治的意図が浮かんで見えます。それにしても、1日280人、年間3万前後に達
するといわれる失踪者まで利用しようとする狐の狡知はなかなかのものです。

 佐藤氏らは「北朝鮮が拉致を認めたのは、追い詰められたからだ」と言っていますが、誤っ
た認識です。北朝鮮に行ったこともなく、一部亡命者などからのまた聞き情報に頼っているか
ら、「圧力をかけ、制裁を加えれば拉致問題は解決する」という安易な考えに陥るのです。

 北朝鮮の政治文化を理解している人には、下手な圧力や制裁は反発を招き、逆効果である
ことがわかるはずです。朝鮮中央テレビは1999年から衛星使用の国際放送をスタートさせま
せたが、最近は、日本のテレビ各局もタイの衛星経由で北朝鮮の最新テレビ映像をお茶の間
に流し、高視聴率を稼いでいます。北朝鮮への認識が深まり、白河夜船のようなまがい物情
報が淘汰されるのは大いに結構なことですが、まだまだ不十分です。

 根源は南北分断と韓国革命化路線に

 拉致問題の背景は一般に思われているほど単純ではなく、東アジア地域の安保と密接に関
わっており、根が深いのです。前にも述べましたが、日本人拉致事件の根源は南北分断にあ
り、直接的には革命統一路線=韓国革命化路線を捨て切れなかった北朝鮮の焦りから出た
ものです。

 1968年の韓国大統領官邸襲撃事件が語るように、北朝鮮は当初、38度線などからゲリラ
やスパイを潜入させ、対韓破壊工作をしていました。

 しかし、韓国側の警備強化でそれが難しくなると、日本を韓国革命化工作の後方基地と位置
付ける迂回作戦を強化し、日本に来る韓国人や韓国系在日を包摂し、革命思想を注入して韓
国に送りこむことに力を入れました。1974年の在日韓国人・文世光による朴正煕大統領狙
撃事件はその典型です。この時期を前後して、韓国の海岸などから韓国人が数百人拉致され
ています。

 だが、それも思うような成果を上げられなくなったため、70年代後半から、日本経由で北朝
鮮工作員を韓国に送り出すようになりました。その時期から日本人拉致が起きるわけで、金正
日総書記が小泉首相との会談で認めたように、拉致日本人をつかって北朝鮮工作員にネイテ
イブな日本語、習慣などを教えて゛現地人化゛し、偽造パスポートで本人に成りすまして韓国に
潜入するのです。その中で起きたのが1987年11月の大韓航空機撃墜事件で、実行犯は日
本人になりすましました。流暢な日本語をしゃべる金賢姫の姿をまだ記憶している人は少なく
ないでしょう。

 ところで、北朝鮮の対日本、対韓国への秘密工作ばかり問題にされていますが、実は韓国も
負けじと、北朝鮮への破壊工作を行ってきたのです。釜山でアジア大会開会式があった昨年9
月、ソウルで元北朝鮮派遣工作員でつくる「大韓民国HID北朝鮮派遣雪岳同志の会」会員が
自分らの社会的認知と処遇改善を求め、暴動を起こしました。彼らは1948年に創設された韓
国秘密諜報部隊・HID(Headquarters Intelligence Detachment)に直属し、北朝鮮への潜入、
破壊工作を担ってきました。

 その存在は長く秘密のベールに包まれていましたが、00年10月の国政監査で与党議員か
ら1952年から1972年まで約1万人が北に派遣され、7726人が死亡、行方不明になってい
ることが明らかにされました。現在、それぞれが北派遣工作員HID−UDV、諜報部隊雪岳団
などのHPを立ち上げ、元隊員、家族らが情報交換をしていますが、「今も北にいる同志、夫」
といった書き込みも見えます。1973年の金大中拉致事件が示すように、日本も工作の対象
地でした。

 南北が激しく対立し、革命や安保を大義名分にした゛国家の犯罪゛が非公然と行われていた
時代の話です。韓国はいち早くその時代を脱しましたが、北朝鮮はその緒についた段階です。
拉致問題の本質を理解するには、こうした時代的背景を正確に捉えておくことが必要でしょう。

 金総書記が日本人拉致を公式に認めたのは、00年の南北首脳会談で韓国と和解し、韓国
革命化工作を事実上、放棄したためです。そうでなければ、拉致問題は今でも闇の中に閉ざさ
れていたでしょう。佐藤氏ら「救う会」幹部は「太陽政策は失敗」などと言っていますが、それが
あったから北朝鮮が軟化し、まがりなりにも5人が日本に戻れたのであり、それを忘れると本
末転倒の議論になってしまいます。

 北朝鮮は今、中国に倣って開放・改革路線に踏み切りました。日本との国交正常化で賠償
金を得て、経済再建に役立てたいと考えています。経済危機で日本からの賠償金が必要にな
り、拉致を認めたとの見方は、当たっているようですが、軍事優先の北朝鮮側の狙いとはちょ
っと違うのです。また、核問題は米国との安保に関することで、別の次元に属することです。生
半可な糞味噌の議論は有害無益です。

 こうした大局観に立てば、日本はピョンヤン宣言で約したように、早く北朝鮮と関係正常化を
実現し、その過程で拉致問題を解決し、朝鮮半島や地域の安定に独自の視点から関与してい
くべきです。それが同地域の繁栄と日本経済の再建にもつながってゆくことでしょう。

 横田滋さん、お孫さんに会いに行きなさい

 家族会代表の横田滋さんは1月19日、神戸市で記者会見し、「私が訪朝することで(帰国し
た拉致被害者)5人の家族が出てくるかもしれず、プラスの面もあるかもしれない」と述べ、訪
朝への希望を改めて示し、26日に開かれる家族会で相談する意向を明らかにしました。地村
保志さんの父保さんも孫に会いに行きたいと述べるのをテレビで聞いたことがあります。「救う
会」や家族会には反対も強いようですが、人間として当然の感情であり、早くお孫さんに会って
ほしいものです。

 政治の怠慢から絡み合った糸をほぐし、未来につなげる鍵は、やはり子どもです。特に、日
朝の血が流れた横田めぐみさんの一粒種、金ヘギョンさんとハラボジ(お爺さん)滋さんの交流
から生まれるものに期待したいと思います。5人の子どもたちにも言えることでしょうが、彼らの
未来は日朝関係が正常化し、両国間を自由に行き来できるときに輝くでしょう。

 彼らを政治的に利用するようなことはあってはならないし、許してはなりません。今後、北朝
鮮側が子供たちを人質にする可能性は排除できませんが、他方で、拉致問題を金正日政権を
追い詰める無謀な企みに利用することも慎むべきです。

 拉致問題は戦後半世紀、さらには植民地時代にまでさかのぼる日朝の不幸な歴史の凝縮で
もあります。それを生んだ国家や民族の壁を限りなく低くし、個人の人権や人道主義の風通し
を良くしていくことが必要ではないでしょうか。

                           
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      薫、頑張れ!(03・1・10)

 蓮池薫さん(45)が1月9日、地元である柏崎市の柏崎地域国際化協会が開くハングル初級
講座で、10人の受講生を相手にさっそうと講師を務めました。

 「まず文字から入って会話を中心にやっていきたい」と、「今後の参考に」と飛び入り参加した
奥さんが見守る中、白板にハングルを板書し、自ら手本を見せながら発音練習を始めました。
奥さんとの息の合った会話も披露しました。

 終了後、「自分が教わったときのことを思い出しながらやってみたが、あまりいい出来ではな
かったかもしれない。これからも研究して頑張っていきたい」とやる気満々だったといいます。

 講座は同協会が12年前からはじめましたが、講師役の新潟産業大学の韓国人留学生が勉
学の事情で出来なくなり、蓮池さんに急遽バトンが回ってきました。毎週木曜日夜、2月27日
まで計8回開かれます。

 蓮池さんは「韓国と北朝鮮では(発音などで)多少の違いがあるが・・・」と、24年間慣れ親し
んだ言葉だけに自信があるようでした。経緯はどうあれ、北朝鮮で朝鮮語や文化をせっかく身
に付けたのですから、上手に役立てて自立して欲しいものです。

 不肖ながら、大学の先輩として、「薫、頑張れ!」とエールを送りたいと思います。

    「めぐみの子どもであってほしい」と、めぐみさんの両親(02・11・5)

 横田めぐみさんの両親が10月4日、川崎市の自宅で読売新聞社のインタビューに応じ、父
の横田滋さん(69)は、めぐみさんの娘とされる15歳の少女(キム・へギョンさん)について、
「DNAを調べて、孫だという科学的な根拠が得られれば、北朝鮮に行って実際に会いたい」と
話されたということです。また、母の早紀江さん(66)も「めぐみのいとこに似ているような感じ
はあるが、私は北朝鮮の説明を信じていないので、(孫だとは)思えないのかも知れない」と、
戸惑いを幾分にじませながら孫への熱い思いを吐露しました。

 同日午後、東京都港区の外務省診療所で早紀江さん、めぐみさんの弟の拓也さんらと血液
採取などを終えた滋さんは「その少女がめぐみの子どもであってほしい。早く(鑑定の)結果が
出ればと思う」と笑顔を交えて話したということです。早紀江さんは「夢のような話です。娘を探
していたのに、急に知らないところで孫が出てきた。まだ信じられない」と述べましたが、心情
は滋さんと同じでしょう。

 娘が可愛ければ孫も可愛い、のが人情の自然な発露ではないでしょうか。折りしも翌日5日
はめぐみさんの38歳の誕生日で、11月15日には消息を絶ってから25年になります。母から
子に絶対的に受け継がれるミトコンドリアDNAが日本海の闇に包まれた血縁関係を明らかにし
てくれさえすれば、不憫な娘への思いはより一層熱く孫へと向かうことでしょう。

 「少女は医者になりたいと言っているそうです。出来ればホームステイの形で引き取って教育
を与えたい」と滋さんは語ったそうです。・・・・・・人間の絆というものを改めて感じさせられまし
た。

 北朝鮮側は日本政府調査団に、めぐみさんは93年3月、ピョンヤン市内の病院で自殺した
と説明し、めぐみさんや少女の顔写真、入院先の病院の写真、死亡診断書などの資料を提出
していました。また、少女の血液と毛髪も提供されました。それを受けて両親らはDNA鑑定の
試料として、めぐみさんのへその緒と毛髪、自分たちの血液などを外務省に提出しました。

 警察庁研究所でDNA鑑定の結果が出るのは約3週間後です。そこから憎しみや対立を超
え、将来につながるものが芽生えることを期待したいものです。

    蓮池さん「永住」説得に反論、「24年無駄にするのか」(02・10・23)

 読売新聞(電子版10・23)によると、一時帰国している蓮池薫さんが、招待所に収容された際
に北朝鮮政府関係者から「祖国統一のため拉致した」と説明され、植民地となった歴史や言葉
の教育を受けたことから、次第に北朝鮮側の主張に同調するようになったとの経緯を兄の透さ
んに語り、永住帰国するよう友人4人と透さんで説得すると「おれの24年間を無駄にするの
か」と反論したそうです。

 透さんが明らかにしたことによると、薫さんは当初は「(妻の奥土祐木子さんと)一緒じゃなか
ったので、つらく、心細かった」が、名所見学や映画鑑賞、朝鮮語の勉強などが続き、日本に
よる植民地支配の歴史も学んだそうです。急性肝炎で2か月間入院した時に一緒だった日本
語の話せる中年女性とも話すうちに、「北朝鮮に協力しよう」という気持ちになったと言います。
 奥土さんと再会して結婚した時は「それまで苦しかっただけに、うれしかった」。その後も「(北
朝鮮で生きられるように)自分をつくり上げてきた」と言います。

 激論は5時間に及び、友人が「とにかく1度、子供を日本に連れて帰って、それから北朝鮮に
戻るか決断すればいいだろう」「子供はいくらでも順応する」と説得すると、蓮池さんは「向こう
が謝って、おれにはおれの24年間がある。その辺は分かってくれ」と反論し、友人の激しい追
及に「おれを洗脳するのか」と言い返す場面もあったそうです。

 さらに、透さんが「おまえは被害者。なぜ(北朝鮮を)許すのか」と詰め寄ると、「その話はや
めよう。とにかく時間がほしい」と、口論に疲れたのか言葉少なになったと言います。「蓮池さん
の気持ちは開いているか」と報道陣に聞かれた透さんは「芯がある感じ。向こうの歴史を勉強
し、向こうのために努力しなければいけないという気持ちがしみついている」と説明しました。

 兄の透さんや友人が原状回復を求めるのは至極当然のことです。しかし、薫さんが置かれた
状況の中で生きるために決断したこと、その積み重ねの24年間を無視することもできませ
ん。

 かつて日本植民地時代に強制連行された在日朝鮮人は原状回復を求め、9万3000人が
北朝鮮に帰国しましたが、必ずしもその結果が良かったわけではありません。薫さん、透さん、
そして彼らを取り巻く状況は、在日が歩いた道を彷彿させます。

 抽象論や感情論で先走ることは禁物です。一部政治家が「5人を北朝鮮に帰すな」と日本政
府にねじこんだそうですが、当人の意思を無視し、政治的に利用するようなことはあってはなり
ません。

 

蓮池薫さんの自尊心(02・10・16)

 昨日(10・15日)は日本中が羽田空港に注目した一日でした。

 この日正午過ぎにピョンヤンの順安(スナン)国際空港を飛び立った日本政府チャーター機
が約2時間後の午後2時20分、羽田に到着し、北朝鮮による日本人拉致事件の被害者5人
が24年ぶりに家族と再会しました。一目見て名を呼び合い、抱き合う姿に家族の絆、人間の
絆の強さを感じさせられ、涙した人も少なくなかったと思います。

 私も他人ごととは思えず目頭が熱くなりましたが、改めて考えさせられたのが人間の自尊心
です。

 特に印象深かったのが蓮池薫(45歳)さんです。家族の姿を認め、手を振り、笑顔でタラップ
を降りてくる人もいましたが、テレビカメラを意識してか、固い表情を崩そうとせず、何かに思い
を巡らせているようでした。宿舎に向かうバスの中では「ほとんど会話はなかった。いただいた
花束をしっかり抱きしめながら、自分の映像をテレビで直視していた」(父の秀量さん)と伝えら
れ、羽田に向かう機内でもテレビの報道番組に映る自分たちをじっと見つめ、何かを考えてい
る様子だったといいます。

 拉致被害者家族の記者会見で兄の透さんが明らかにしたところによると、「ここでこうやって
会うのは不思議だなあ」と言ったら、「俺はどこで、どうなって、向こう行ったかちゃんと知ってい
る。だから、あんまり不思議には思わない」と答えました。さらに、「事件の発生状況はどうだっ
た」と聞くと、「今はいいじゃないか。いずれ話そう」と交わし、拉致現場にも「行きたくない」と言
ったそうです。

 横田めぐみさんのお父さんの滋さんが会長を務める拉致被害者家族連絡会がセットした合
同記者会見を「私のようなものが皆さんの前に出るのは忍びない。表に出るような身分ではな
い」と断り、「お前には出る責務がある」との透さんの説得にも渋っていました。一緒に拉致され
北朝鮮で結婚した奥土祐木子さんに促されてようやく了承しましたが、表情は固く、他の4人同
様に一言、二言述べただけで、5分ほどで退席しました。

 多くを語ろうとしないのは、自分の置かれた微妙な立場を考えているからでしょう。それにつ
いて、北朝鮮に残した子どもらが人質にされているとか、胸に金日成バッジを付けていたことな
どを挙げて「マインドコントロールされている」と解釈する向きが少なくありませんが、そういう単
純なことだけではないようです。

 他の4人も同様ですが、蓮池さんが北朝鮮で結婚し、子どもを育て、24年間北朝鮮で生活し
てきた事実の重みを無視することはできません。過去は現在をより良く生き、未来につなげる
ために意味を持つのではないでしょうか。

 ピャンヤンの電子計算機単科大学生などに通う二人の子どもたちは、ピャンヤンのランナン
区域でごく平凡に北朝鮮の人間として生きているのです。「北朝鮮は食糧もない、自由のない
独裁国だ。日本にきた方が幸せになれる」と全員の即時帰国を声高に叫ぶ人がいますが、そ
れは一方的な決め付け、押し付けであり、子どもたちを友達から引き離し、ささやかな家庭の
団欒や未来の夢を奪いかねません。

 誤解を恐れずに言えば、テレビ画面を通して見た蓮池さんの姿も、私の目には拉致被害者と
いうよりも、゛北朝鮮の人間゛のように見えました。

 20歳になった78年に柏崎市で日本語教官確保のために拉致されたことは心の傷として残
っていることでしょう。しかし、彼は日本で過ごした以上の長い、人生の貴重な歳月を北朝鮮で
過ごしてきました。父親に語った゛将来は弁護士に゛の夢は不幸にも実現できませんでしたが、
現在は同僚の池村保志(47歳)さんとともに、社会科学院民俗研究所資料室翻訳員という北
朝鮮の知的階層の一角に属しています。

 その歳月を否定され、「可哀想な拉致被害者」という一面だけで塗りつぶされ、安っぽい同情
を買うことは彼のプライドが許さないでしょう。

 仲の良かった兄の透さんに「まだタバコを吸っているのか」と北朝鮮製のタバコを差し出し、
兄は自分のタバコを差し出したそうです。透さんがバス内でロックグループのCDを見せ、「知ら
ないだろう」とからかうと、「馬鹿にするなよ」とやり返しました。宿舎の夕食では寿司や天ぷら
などを食しましたが、「向こうでも刺身ぐらい食えるよ」と語ったそうです。

 こうした会話を聞いていると、かつて北朝鮮を訪れ、交流した人々を思い出します。北朝鮮の
人々は、日本のように物質的には貧しくとも、非常にプライドが高いのです。自尊心という言葉
は南北を問わず朝鮮人が好む言葉ですが、薫さんも半分は朝鮮文化を受容した北朝鮮の人
間になっているように見受けられました。それをも洗脳とか言って精神異常者のように見なす
のは、個人への甚だしい侮辱ではないでしょうか。

 北朝鮮のインテリでもある蓮池薫さんの頭の中には、恐らく、数年前に一時帰国した日本人
妻たちのように、戦前の日本の朝鮮植民地支配や朝鮮人強制連行に関する知識が入ってい
るでしょう。そして、日本はその謝罪や賠償をしていないとの価値判断もあるはずです。たとえ
最初は現実研究や現実体験などを通して注入されたものであっても、それは歴史的事実であ
り、否定できるものではありません。

 自分たちの拉致問題を真剣に考えてくれるのは有難い。それなら同じくらい、かつて同じ痛
みを味わされた朝鮮人強制連行問題も考えてほしい。問題の本質的解決はそこにある―。

 「今はいいじゃないか。いずれ話そう」と語る蓮池薫さんの沈黙には、政治の狭間で翻弄さ
れ、好むと好まざるとに関わらず゛日朝の架橋゛となった人間の、そうした深い思いが込められ
ているような気がします。

 拉致問題は戦後半世紀、さらには植民地時代にまでさかのぼる日朝の不幸な歴史の凝縮で
す。政治の怠慢から入り組んだ糸をほぐし、未来につなげる鍵はやはり子どもです。

 子どもたちの意思を踏みにじったり、大人の勝手な打算でそれをねじ曲げてはなりません。
蓮池さんらだけなく、その子どもたちも自由に日本と北朝鮮の間を行き来し、思う存分に学び、
両国にわたる生活設計ができるような環境を早くつくり上げることが何よりも必要ではないでし
ょうか。

 韓国の対北朝鮮破壊工作員(02・10・1)

 北朝鮮の対日本、対韓国への秘密工作ばかり問題にされていますが、実は韓国も負けじ
と、北朝鮮への破壊工作を行ってきたのです。南北対立の狭間で生じた日本人拉致問題は、
地域の安保と密接に関わっており、根が深いのです。

 釜山でアジア大会の華々しい開会式が行われた9月29日午前、ソウル泳登浦区泳登浦駅
前の国道は騒乱状態に陥りました。軍服に覆面で顔を覆った一団が突然、往復6車線の片道
2車線を1時間にわたり占拠し、大量のシンナーを道路に注いで火をつけ、鉄パイプを振り回
して暴れました。付近の露天商から液化石油ガス(LPG)3本を取り上げ、爆発させると脅しな
がら、駆けつけた1500人の警察隊と睨み合う緊張した局面もありました。結局、227人が逮
捕連行され、双方30人余が負傷し、病院にかつぎ込まれました。

 韓国に潜入した北朝鮮工作員のテロ行為、と一瞬思われるかも知れませんが、逆です。暴
徒らは「大韓民国HID北朝鮮派遣雪岳同志の会」の会員で、自分らの社会的認知と処遇改善
を求め、違法デモを強行したのです。当初は国会議事堂前での集会を計画していたのです
が、警察に封鎖され、急遽、場所を変えてのゲリラ活動に及んだ模様です。9人が斧などを持
って国会議事堂前の地下車道で逮捕されたというから尋常ではありません。

 警察は3000人の特攻隊を動員して厳重警戒にあたったにもかかわらず裏をかかれたわけ
ですが、無理もありません。一団はかつて韓国情報機関に直属し、北朝鮮への潜入、破壊工
作を担ってきたプロのエイジェント集団だったからです。

 その存在は長く秘密のベールに包まれていましたが、与党民主党の議員が00年10月の国
政監査の準備資料で、1952年から1972年まで北朝鮮派遣工作員数が約1万人であり、う
ち7726人が死亡したり行方不明になっていると明らかにし、世間の知るところとなりました。
無論、72年以降も、少なくとも軍事政権が崩壊し、民主化された88年までこうした工作は続け
られていたと思われます。その範囲も北朝鮮に限らず、73年に現大統領の金大中氏が韓国
CIAに亡命中の東京から拉致された金大中拉致事件が象徴するように、日本も含まれていま
した。

 安保を大義名分に゛国家の犯罪゛が非公然と行われていた時代の話です。韓国はいち早くそ
の時代を脱しましたが、北朝鮮はその緒についた段階と言えるでしょう。

 悲劇的なのは、国家に絶対忠誠を誓い、名も知れぬ゛草゛として人生を捧げた元工作員たち
です。

 しかし、体制が変わり、彼らの怨念が噴出しはじめました。元工作員たちは「大韓民国HID北
朝鮮派遣雪岳同志の会」を結成してその存在を公然化し、今年3月にもソウル鐘路区の中心
にある世宗(セジョン)文化会館前で道路を占拠し、一部がLPGに火をつけて自害行為を行っ
ています。その方法はともかく、社会的認知と正当な補償を求める元工作員たちの要求は人
間として当然のことです。

 最近、日本の政治家の中に゛国家の為に死ねるか!゛などと国士を気取った発言をするもの
を見かけますが、南京大虐殺などの教訓を忘れた実に危険で、馬鹿げた話です。国家に絶対
忠誠を誓うなど今や時代錯誤であり、こう言ったら当人たちには酷かもしれませんが、犯罪行
為にもつながることです。

 韓国政府はまだ北朝鮮派遣工作員の存在を正式には認めていません。だが、関係省庁が
彼らと水面下の協議を行っていると言いますから、その点では幾分救われる気がします。

 北朝鮮はこれからです。金総書記は「関係者を処罰した」と述べました。そのうち、対南担当
の労働党書記を公開処刑するのかもしれませんが、それで一件落着というわけにはいかない
でしょう。

  関連情報↓

 「北派工作員」名誉回復、募集は94年末まで

 旧暦の4月8日釈迦誕生日の花祭りに当たる04年5月25日、韓国政府は352人の特赦、
 復権を発表したが、その中に、対北秘密送金に関わった林東源元国家情報委員長らととも 
 に、元「北派工作員」55人が名誉回復された。さる2月には彼らへの国家補償と支援2法が
 成立し、7月から実施される予定で、南北対立の闇に封印されていた北派工作員問題が全 
 面解決される運びとなった。

 新たに明らかになったことだが、「北派工作員」は1948年の李承晩政権発足直後に陸海空
 軍に特殊工作諜報隊が創設され、職種は明記せず、身分はあくまで民間人として募集され 
 たが、募集は何と、94年末まで続けられていた。

 産経新聞(04・5・28)によると、52年10月から54年末にかけて北朝鮮に浸透した朴富緒
 「対北参戦国家有功者連帯」会長(73歳)は「船、陸路、落下傘で潜入し、人を殺すか捕まえ
 てくる」と語り、河泰俊「北朝鮮工作員遺族同志会」会長(44歳)は「高い報酬を約束されて8
 4年に2年間、工作活動をした。人間兵器になる訓練を受け、暗殺と拉致を学んだ」と述べ 
 た。95年以降も訓練だけ受けた若者がおり、A氏(29歳)は兵役検査途中で選抜されたが、
 任務は知らされなかった。70年以降は3千人(死亡数不明)が北に派遣された、という。

  (04・5・31)

 
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日本人拉致とめぐみさんの娘(02・9・20)

 私が横田めぐみさんら日本人拉致被害者8人の死亡を初めて知ったのは、9月19日午後に
読売新聞の電話取材を受けた時でした。最新の情報を与え、感想を求めるのは私自身、記者
時代に何度も行ったことですが、「えっ!」と思わず絶句してしまいました。

 翌日の朝刊社会面に短い談話が紹介されていましたが、実際はずっと多くのことを語ってい
ます。「衝撃的でした。・・・事件の背後には厳しい国際情勢があります。二度とこの種の事件
が起きないように対話の窓口を広げ、国交を正常化してほしい・・・」

 日本人拉致事件の根源は南北分断にあり、直接的には革命統一路線=韓国革命化路線を
捨て切れなかった北朝鮮の焦りから出たものです。

 北朝鮮は日本を韓国革命化工作の後方基地と位置付け、当初は日本に来る韓国人を包摂
し、革命思想を注入して韓国に送り返すことに力を入れていました。その一方で、韓国の海岸
などから韓国人を直接拉致し、その数は数百人に上るとされています。

 しかし、思うような成果を上げられなくなったため、70年代後半から、日本経由で北朝鮮工
作員を韓国に送り出すようになりました。

 その時期から日本人拉致が起きるわけですが、金正日総書記が小泉首相との会談で認め
たように、その目的は、゛現地人化゛と称される工作員教育と他人の身分を利用した韓国潜入
の二つです。北朝鮮工作員にネイテイブな日本語、習慣などを教えて゛日本人化゛し、偽造パス
ポートで本人に成りすまして韓国に潜入するのです。

 それは極めて組織的です。労働党中央の作戦部(工作員らを運んだり帰還させたりする)、
統一戦線部(宣伝・扇動工作)、調査部(情報収集)、対外連絡部(旧社会文化部。韓国内のス
パイ組織の管理など)、軍の偵察局、国家安全保衛部がいわゆる対南工作にあたってきまし
たが、 韓国政府関係者は日本人拉致は朝鮮労働党の中にある「35号室」が受け持ち、金賢
姫らの大韓航空機爆破事件にも関与したと指摘しています。

 金総書記が日本人拉致を公式に認めたと言うことは、韓国革命化工作を事実上、放棄した
ことを意味します。テロ国家からの脱皮を宣言したということで、その意味で、小泉訪朝は大き
な外交的成果を挙げたと評価できます。

 しかし、冷酷な政治に翻弄された拉致被害者のことを思うと、心が痛みます。拉致の卑劣さ、
非人道性は言うまでもなく本人の意思を踏みにじっていることにあります。8人の拉致被害者
が死亡したということは、゛証拠隠滅゛の可能性も否定し切れませんが、主たる原因は、北朝鮮
の国家理念への精神的同化を求める過酷な思想事業(ササンサオップ)に耐えられなかった
ことにあると考えられます。

 厚遇されているよど号メンバーを見れば分かるように、日本人であれ何人であれ、思想転向
をした人を北朝鮮は゛同志゛として受け入れます。一部マスコミが報じるように、日本人だから
殺した、ということは考えられません。

 横田めぐみさんも、ある意味でエリート学校である金正日政治軍事大学の日本人化担当教
官として働いていたとの亡命者証言があります。不本意ながら、与えられた環境において゛生
きる道゛を選択したということでしょう。中学生で拉致された人間の選択が具体的にいかなるも
のであったのかは、本人しか分からないと思います。

 いや、それを証言してくれるであろう人物が一人います。めぐみさんが遺した、十五歳になる
娘さんです。小泉訪朝に随行した日本の駐英公使が本人とめぐみさんの夫に会ったというから
事実でしょう。一部には、結婚などさせるはずがないという説がありますが、坊主にくけりゃ袈
裟までも式の感情論です。DNA鑑定すればはっきりすることで、北朝鮮側もその程度のことは
知っているでしょう。

 日朝の血が流れるめぐみさんの娘さんこそ、真実を、事件の悲劇性と今後の対処のあり方
を教えてくれる最大の生き証人ではないでしょうか。彼女が亡くなった母親の分まで幸せに生
きられるように環境を整えること―北朝鮮側も日本側も、それを根本に据えるべきではないで
しょうか。

 北朝鮮側は厳しい日本世論を交わす盾として娘さんを利用しようとするかもしれません。

 また、日本側にも、洗脳されているから信用できないと娘さんの言葉を否定したりねじ曲げた
りと、金正日政権を追い詰める口実に使おうとする動きが現れる可能性があります。

 いかなる理由であれ、めぐみさんの一粒種を政治的に利用するようなことは絶対にあっては
ならないし、許してはなりません。

 めぐみさんのご両親が早期訪朝を望んでいるようです。人間として当然の感情ですが、早くお
孫さんに会ってほしいものです。そこから始まることを注視したいと思います。

  

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