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【幸せってなに?】ブータン紀行(1) 失われた「日本」求めて 【産経新聞】
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投稿者 愚民党 日時 2005 年 6 月 20 日 17:12:01: ogcGl0q1DMbpk
 

【幸せってなに?】ブータン紀行(1) 失われた「日本」求めて
「GNP」より「GNH」…物ごいのいない最貧国
息づく「輪廻転生」の思想


 明治、大正時代に来日した西洋人から見た日本は、こんなふうだったのかとも思う。ヒマラヤ南麓の標高千−三千メートルの山あいに位置するブータン王国。三十年ほど前まで「鎖国」に近い政策だった。現在も観光客の入国は制限されており、他国の文化的影響をほとんど受けずに存在してきた世界でも異質の国である。

 道行く人の顔立ちは驚くほど日本人によく似ている。伝統文化を守るため国民に着用が義務付けられた「ゴ」「キラ」と呼ばれる民族衣装は、日本の丹前や着物のよう。同様に規制をかけた家屋の建築様式も日本の古い農家を思い起こさせる。敬虔(けいけん)なチベット仏教徒でもある彼らは、むやみな殺生をことのほか嫌い、わが国の原風景のような農村社会で自給自足に近い生活を送っている。

 「GNP(国民総生産)」ではなく「GNH」。この国が世界に向けて発信している新しい概念だ。「H」は「Happiness(幸福)」。つまり「国民総幸福量」。そこには「先進国のような物質的な幸せではなく、精神的な幸せを目指したい」というささやかな願いが込められている。

 わずか一分半の遅れを取り戻すために百人以上が死亡する列車事故が起きた日本。働いても働いても、家族と食卓を囲む余裕すらなく、「幸せ」などという言葉を堂々と口にする人はほとんどいない。快適さを追求した電化製品に囲まれ、子供までもが海外のブランド品を身につける一方で、年間約三万人が自殺に追い込まれている。

 人々の顔やしぐさは似ていても、両国はまるで対極にある。

 ブータンの一人当たりの国民所得は約六百ドルで日本の五十分の一以下。電気の普及率は三割、水道ですら七割に満たない。国家予算は、水力発電による売電で外貨を稼ぐほかは、海外からの援助資金に頼る。そうした世界でも最貧国の一つでありながら、街中でホームレスや、子供たちの物ごいを見かけることはない。強盗やひったくりなどの犯罪もない。

 かつて日本の田舎がそうであったように、現地の人は「食べられなくても家族や親戚(しんせき)が助けてくれる」。核家族は少なく、いまだ家父長を中心とした大家族制が残っているのだ。

 ただ、彼らの意識も一九九九年にテレビ放送が解禁され、インターネットも導入されるにつれ、次第に変わりつつある。地方では過疎化が進む一方、人口が急増している首都ティンプーではマンションの建設ラッシュも始まっている。

 「文明開化」と「近代化」「情報化」「IT化」が一度に訪れたような状況が生まれ、物やお金に対する執着心も芽生え始めた。まるでタイムマシンに乗って日本の「いつかきた道」をもう一度眺めているような気にさえなる。

 「GNH」とはどのような概念か。そして、人間にとって「幸せ」とは何だろうか。


 イヌ、イヌ、イヌ…。犬だらけである。ブータンの首都ティンプーでは犯罪に遭う心配はないが、「犬には気をつけろ」といわれる。衛生状態は決していいとはいえず、噛まれたら狂犬病にかかる危険性すらあるからだ。

 なぜ、犬が多いのか。それは、この国の人々の考え方をよく表した現象の一つでもある。

 「あなたと、ここで出会ったのも、前世で知り合いだったからだ」。旅の初め、空港で自己紹介した現地ガイドのツゥリン・ノルヴさん(29)からは、そんな言葉が自然に出てきた。

 人間は肉体的な死で終わりではなく、来世で別の存在に生まれ変わるという「輪廻(りんね)転生」の仏教的思想。ブータン人は今も、そうした世界観の中に生きている。

 「犬は次に人間になる可能性が高い」とされており、生まれたら生まれただけ増えてしまう。野犬化しても市民は平気でエサを与える。

 夜更けのホテルの一室で、幾重にも響く遠吠えを聞きながら、ある本の一節を思いだした。養老孟司氏のベストセラー「死の壁」(新潮新書)。同氏がブータンを旅したときのことだ。

 ≪その食堂で、地元の人が飲んでいるビールに蝿が飛び込んだ。が、彼は平気な顔でその蝿をそっとつまんで逃してあげて、またビールを飲みつづけた。その様子を私が見ていると、(彼は)「お前の爺さんだったかもしれないからな」…≫

 日本でいう「縁」のようなものだろうか。長い長い輪廻のサイクルの中で、たまたま交わった「この世」での出会い。彼らはそれを決して偶然とは考えない。そしてすべての生き物に対しても、そうした意味を見いだしている。だからこそ、食べられるものは素直に食べるし、そうでないものは蝿一匹、殺さないのである。

 わが国から見れば荒唐無稽(むけい)な話かもしれない。ただ、むやみな殺生を戒める感覚は、かつての日本人なら当たり前に持っていたのではないか。部屋に飛び込んだ蝿や虫をムキになって追いかけ回すようになったのは、日本の長い歴史からみればごくごく最近のことではないか。

 ブータンも変わりつつある。街中に自動車が増え、片足を引きずった犬が見られるようになった。ホテルやレストランでは衛生上、蝿は邪魔者になりつつあり、従業員が自責の念から目をふさいだまま殺虫剤をまいているという。

 そんなこの国の社会に最も大きな影響を与えたのは六年前のテレビの導入だった。

 文・写真 皆川豪志

                   ◇

 ブータン王国 面積は約4万6500平方キロメートルで九州とほぼ同じ。人口60−70万人、首都ティンプーは5−6万人(いずれも推定)。17世紀にチベットから入った高僧が国家として統一し、1907年に現王朝が支配体制を確立した。59年の中国のチベット併合に危機感を抱き、周辺国の政治的、文化的侵入を防ぐため、他国との付き合いは最小限にとどめている。74年から一般観光客に「開国」した。大阪とのつながりは深く、58年に大阪府立大の故・中尾佐助名誉教授による日本初の学術調査隊が入国、64年からは同大学出身の故・西岡京治氏が20年以上にわたって現地で農業指導を行った。大使館はないが、両国の関係は良好で、現在も青年海外協力隊(JOCV)の関係者ら数十人が滞在している。主要言語はゾンカ(ブータン語)と英語。


http://www.sankei.co.jp/news/evening/21iti001.htm



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