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京都市 高野悦子「二十歳の原点」 嵐山で触れた彼女の素顔 【読売新聞】
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投稿者 愚民党 日時 2005 年 9 月 14 日 02:30:42: ogcGl0q1DMbpk
 

2005. 09. 11
[ホントの旅]京都市 高野悦子「二十歳の原点」 嵐山で触れた彼女の素顔
東京朝刊 書評C
13頁 1592字 05段 写真・図


 「二十歳(はたち)の原点を旅しよう」と独り言(ご)ちていたら、文化部の同僚に聞きとがめられた。「あれはハタチではなくニジュッサイと読むのが正しい」と。

 あわてて文庫版の奥付を見ると、確かに「二十歳(にじゅっさい)の原点(げんてん)」とルビが振ってある。二十歳(はたち)と思い続けてきた。ずっとずっと、30年の間。

 初めて手にしたのは大学1年の時だった。仙台にある大学は、赤やら黒やら青やら、色とりどりのヘルメットが入り乱れ、ついには機動隊が入り、期末試験は中止になった。ヘルメットのアジは遠くで聞きながら、それでも機動隊の前に立った。手甲にがつんと殴られた痛さは忘れない。

 〈きのう鼻を機動隊に殴られて赤くはれている。(中略)まるでピエロのようで恥ずかしい〉

 彼女が在学していたころ、立命館大学は運動の渦中にあった。運動とは、恋愛とは、理想とは――。素直で純粋な心は時代と衝突する。

 御所に隣接してあった大学は、彼女の死から約10年後、郊外に移転し、跡地には他の大学の施設などが建っている。ぶらりとしていると、緑陰の小道から自転車の女学生がでてきた。目があったからだろう、ちょこんと頭を下げて走り抜けていった。

 ここから繁華街の四条河原町まで鴨川に沿うように河原町通りが延びる。途中に彼女が通った喫茶店があったが、いまは更地になっている。

 亡くなった知らせを受け、両親は京都へ駆けつけた。下宿の机の上に十数冊の大学ノートがそろえてあった。中学時代からの日記。夜を徹して読みふけった。すべてを知っていると思っていた娘とは別の人間がそこにはいた。

 母、アイさん(82)は「若い娘の日記を公開するなど反対でした。でも、子どもを持つ親に読んでほしかった。いかに子どものことを知らないか」と話した。

 〈独りであること、未熟であること、これが私の二十歳の原点である〉
 「二十歳(はたち)でも、二十歳(にじゅっさい)でもどちらでもいいんですよ」。アイさんは本になってから読んだことはない。10年間は娘の名前を口にできなかった。
 四条のにぎわいは当時と変わらない。亡くなる数日前、娘を案じた母は京都を訪ね、一緒にデパートで買い物をした。茶色のワンピースと靴がほしいという。やさしく明るい様子に、「一緒に西那須野に帰ろう」という言葉をのど元でのみ込んだ。

 嵐山に、彼女はよく自転車で遊びに行った。駅前で自転車を借り、大覚寺へ向かった。駅から延びる道を行くと、清涼寺の豪壮な山門に行き当たる。そこを右折すると人だかりができている店があった。東京でも知られる豆腐屋だった。ここから大覚寺まではひとこぎ。

 特に好きだったという大沢池は境内の東にある。ゆっくりと池をひと回りした。歩を進めると池も姿を変える。彼女はどの方向から見る池が好きだったろう。

 ハシが転げて笑い、おいしいものに舌鼓を打つ、そんな彼女を思い描いてみた。これまで「二十歳の原点」の高野悦子として、その姿を縛り付けてしまってはいなかったか。

 自死した踏切は線路が高架になり、いまはない。下宿からほんの100メートル。真夜中の道を彼女は独りで歩いた。身につけていたのは、母にねだったワンピースだった。

(岡崎裕哉)
         ◇
 ◇高野悦子(1949〜69) 栃木県西那須野町(現那須塩原市)生まれ。県立宇都宮女子高校から立命館大学文学部史学科(日本史専攻)に進学。69年6月24日未明、鉄道自殺。「原点」(69年1月〜6月の日記)は71年5月、新潮社から刊行、たちまちベストセラーとなる。その後、「二十歳の原点序章」(66年11月〜68年12月)、「二十歳の原点ノート」(63年1月〜66年11月)が刊行された。それぞれ文庫にもなり、出版部数は総計300万部を超える。今は「原点」の文庫版のみ刊行。
 
 
http://www.yomiuri.co.jp/index.htm

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