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1枚の写真が指し示すアメリカ「ITER」撤退の真相・立花隆(日経BP)
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投稿者 シジミ 日時 2005 年 7 月 06 日 21:42:48: eWn45SEFYZ1R.
 

NIFのターゲットチェンバー完成を祝う式典
(ローレンス・リバモア研究所より)


http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/050704_iter2/
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2005年7月4日

ここにある1枚の写真は、ついこの間までITER計画を中心的に引っぱってきたアメリカがなぜ99年に突然降りてしまったのか、その背景を示している。

日々大変貌する核融合研究の最前線

いま核融合研究の世界は、とんでもない大変貌をきたしているところなのだが、文藝春秋に書いた私の記事を読まなかった人たちには、このたびのITER日本誘致の失敗が本当のところ何に起因していたのか、いまだによくわからないはずである。

本当の理由がわからないと、どれほどバカげたことが信じられてしまうか、その典型のような記事がしばらく前の東奥日報にでていた。

日本にITERが誘致された場合、その建設予定地として筆頭にあげられていたのは青森県の「むつ小川原地区」だった。そのため、青森県は県知事以下の全関係者が「県ITER誘致推進会議」で誘致活動をこの何年か繰り広げてきた。この推進会議の特別顧問になったのが森茂・元日本原子力研究所副理事長で、この人が次のような過激な表現で、国際交渉に当たっている文部科学省に奮起を促した。

森氏は国内の核融合研究の先駆者の一人で、現在は六ケ所村にある環境科学技術研究所の顧問。文科省幹部の講演後に発言を求めた森氏は、フランス大統領が誘致に自信を示す発言を繰り返していることが我慢ならない様子で「日本が一流国になるのを抑えようというのが彼らの一貫した外交政策。日本が科学技術でトップに立つのを何とか阻止しようとしている」と強調。

原研時代に日米の共同研究で核融合の中心的研究を米国に奪われた逸話も紹介し、「もしフランスに建設されるなら、まさか凱旋門を爆破するわけにはいかないから、凱旋門で焼身自殺でもしてやろうか、というぐらいの気持ちでいる。誘致には日本のステータス(国際的地位)がかかっている、という意識で交渉担当者は頑張ってほしい」と、げきを飛ばした。

いかに地元に迎合するためとはいえ、これほどバカげた意見を公衆の面前で堂々開陳する先生がいるとは、驚きである。

こういうバカげた意見に惑わされぬように、先の文春の記事(文藝春秋2005年3月号「「日本の敗北 核融合と公共事業」)のエッセンス部分を、次に引用しておく。(引用にあたっては、よりわかりやすくするため補注的加筆をかなり加え、図面もふやした)

この引用にいたる前の部分で、ITERのような巨大トカマク装置の開発にここでさらに数千億円を注ぎこむ前に、クリアにしておくべき研究課題がたくさんあるのではないかということを詳しく論じてきている。以下はその議論のつづきである。

なぜアメリカはトカマクを捨てたか

こういうことをいうのは、いま核融合の世界が大変動をきたしはじめているのに、日本の核融合関係者(研究者も官僚もメディアも)の主流が、井の中のカワズ状態にあって、そのような状況変化を知らないか、知っても直視しようとしないからである。しかし、もういやでもそれを直視せざるを得ない状況が目の前にきている。

何をいいたいのかというと、かつて、常に核融合研究の先端を切って走っていたアメリカが、トカマクを捨てたということである。トカマクを捨てたというより、ITERを捨てたということである。

もともと国際プロジェクトとしてITERを開発するという話は、85年の米ソ首脳会談からはじまった。当然のことながら、計画の初期は、日米欧露の共同プロジェクトで、アメリカが中心にいた。

92年からはじまった設計活動においても、はじめはアメリカが中心だった。それが六年つづいて、最初の設計図ができたところで、突然アメリカが計画から降りてしまったのである(99年)。

最重要国が消えてしまったので、このプロジェクトはあやうく瓦解しかけた。関係者はみな呆然としてしまったが、やがて気を取り直し、残った日欧露を中心に、計画を大幅にスケールダウンした上で(建設費1兆円→5000億円。半径8.1メートル→6.2メートル。出力1.5ギガワット→0.5ギガワット。燃焼時間1000秒→400秒)プロジェクトを再開したのが、いまのITER計画である。

その後、アメリカは四年後の2003年になってITER計画に復帰した。一時はアメリカが降りたことでガックリきていた日本の関係者は、アメリカの復帰ではしゃぎまわったが、実はアメリカの戻り方は本気ではない。現実問題として、ITERのための特別の予算はほとんどついていない。アメリカにはまだ沢山のトカマク研究者がおり、ITERのために走り回っている関係者も多数いることはいるものの、本気で政府資金をドンと投じるとか、かつてのようにITER建設を中心的に引っぱろうとするといったことはまるでしていないのである。

アメリカはいったいどうしてしまったのか。核融合の研究を捨てたのかというと、そうではない。研究の中心的な方向を、トカマクなどの磁気閉じこめ方式から、慣性核融合方式に切り換えたのである。慣性核融合とは何かというと、核融合には二つの方式があって、太陽を模す方式と水爆を模す方式といえる。後者が、慣性核融合である。

このあたりこのまま読んでわかる方は、次のページまで飛んで読みつづけてくださればいいが、このくだりの意味がよくわからないという方は、以下に示す、この同じ論文の少し前のくだりをまず読んでいただくとよい。

核融合そのものは、ある条件をととのえれば、必ず起せることが1920年代からわかっている。核融合はそもそも自然界では日常的に起きている。太陽を燃やしつづけているのは核融合エネルギーだし、あらゆる星の輝きも核融合だ。だから、太陽と同じような条件(超高温、超高圧)を与えれば、必ず人工的な核融合を起すことができる。それを爆弾という形でなしとげたのが水爆だ。水爆は、原爆を爆発させて、それがもたらす超高温、超高圧で核融合の火を点けている。

おとなしい形で核融合エネルギーを取りだせたら、これを発電に利用できるという考えは、原理的には1920年代から提唱されていたが、1952年の水爆実験成功以後、それが現実の研究対象になりはじめた。

当時、原爆をゆっくり燃やす原子力発電がすでに現実化していたから、水爆をゆっくり燃やす核融合発電の発想が生まれるのも当然だった(以下、「核融合」の一語を「核融合発電」の意味にも使う)。

核融合(発電)成功のカギは、原爆以外のマッチで核融合に火を点けることと、これを持続的にゆっくり燃焼させることだ。「持続的にゆっくり」とは、核融合現象を暴走させることなく、途中で火を消すこともなく、完全に人為的なコントロール下におくことだ。

二つの核融合方式

前述のように、核融合の基本的な考え方に二種類ある。一つは太陽を模して核融合を起させる考え、もうひとつは水爆を模して核融合を起させる考えだ。

核融合というのは、いずれにしても、物質のプラズマ状態で起きる。物質はすべて、太陽のような超高温、超高圧下に置かれるとプラズマになってしまう。プラズマというのは、原子から電子がはぎとられ、裸になった原子核が激しくとびまわっている状態をいう。そういう状態でプラズマの密度が高まり、原子核と原子核が接近すると、トンネル現象が起きて、必ず一定の確率で核融合が起きる。核融合というのは、裸の原子核と裸の原子核の間で素粒子の組み換えが起きて別の原子核となる(そのとき前の原子核の内部にためこまれていた膨大なエネルギーが放出される)ことをいう。

以下、原文に戻って、核融合の、水爆を模す方式である慣性核融合の説明をつづける。

慣性核融合は、具体的にいうと、きわめて小さい(米粒よりずっと小さい)水爆を作り、それに強烈なレーザー光線をあてて爆発させて核融合を起すという方式で、別名レーザー核融合ともいう。

この方式を考えだしたのは、水爆の父といわれたエドワード・テラー博士である。テラーは、水爆を作った後、水爆と同じ核融合反応を人間の完全コントロール下で起せば発電できると考えて、核融合発電のアイデアを得た。しかし、 「磁力線でプラズマを閉じこめようとするのは、ゴムバンドでゼリーをつなぎ止めようとするようなものだ」

と考え、磁気閉じ込め路線に未来はないと判断した。その代り、微小な水爆を高頻度で爆発させる慣性核融合方式が有利として、その研究に走った。

慣性核融合方式の研究を中心的にになってきたのは、水爆を作った核兵器研究所、ローレンス・リバモア研究所(テラーが所長だった)である。ここでは、パワーレーザーを多数ならべて、一点に集中させ、そのパワーで核融合を起させる研究が進められてきた。

慣性核融合は、極小とはいえ、水爆を撃って爆発させるわけだから、本質的には水爆実験と同じであり、その実際のプロセスも実験結果も軍事機密扱いされ、外部の人間にはほとんどうかがい知ることができなかった。しかし、着々研究は進み、炉として点火寸前のところまできていたのである。

それだけ研究が進んだのも、現実の水爆の地下核実験を利用して、慣性核融合のためのターゲット(ペレット状の極小水爆)を実験場に多数の測定器とともにならべておいて、ターゲットはどのような構造がいちばんいいか、核融合を起すエネルギーはどう注ぎ込めばいいかといったことを実験で逐一調べ上げたからだといわれている。

同時に本物の水爆の爆発過程も詳細に調べられ、そのデータから、水爆の爆発過程を完全に計算機の中で再現できるシミュレーション・コードを開発した。それを慣性核融合の研究にも利用できるようにしたことが、研究に長足の進歩をとげさせた(水爆実験を何回も繰り返すのと同じ結果が得られるようになった)。

シミュレーション実験でアメリカは点火が確実にできることを確信した。アメリカは、92年に最後の地下核実験を行い、それでシミュレーション・コードの正しさを最終確認した。それ以後アメリカは、水爆を実際に爆発させることなく、爆発寸前で実験を止める臨界前核実験しか行っていない。

それはそこで止めても、後はコンピュータシミュレーションで完全にフォローできる体制ができたからである。それを機にアメリカは一切の核実験を禁止する包括的核実験禁止条約を世界中の国に結ばせる(96年調印)方向に政策を転換した。

それまでアメリカは包括的核実験禁止条約に断固として反対してきた。自分たちの手を縛られたくなかったからだ。核兵器の世界でも絶えず技術革新があり、新しい核兵器を開発したら、実験が欠かせないと考えていたからだ。

しかし、自分たちが完全なシミュレーション・コードを開発したら、自分たちはそれで実験を継続し、他の国を包括的核実験禁止条約で実験できないように縛ってしまえばよい。そうすれば、アメリカが核の秘密を独占できるからである。

同じ頃、アメリカは同じシミュレーション・コードを利用して慣性核融合の点火に確信が持てたので、約2500億円を投じて(その後かなりの追加予算あり)、「国立点火施設」(NIF)という設備を、ローレンス・リバモア研究所の中に作った。

ここで核融合に人類初の点火をするぞという決意と自信がその名前にあらわれている。これが1993年で、最後の核実験の翌年である。

NIFは点火目前

国立点火施設(NIF)とはどのような施設なのか。その全容は巨大なもので、20キロジュールという大型のパワーレーザーを192本もならべて、それをターゲットチェンバーに導き、その中でターゲットを次から次に爆発させていくという設備だ。

冒頭の写真は、そのターゲットチェンバーが完成したのを祝う記念写真で、国家の要人がズラリとならんでいる。この穴の一つひとつにパワーレーザーが入りこんでいく。この記念式典が行われたのが99年。アメリカが突然ITER計画から降りることを表明した年である。日本の関係者が、アメリカが降りた理由がわからず、みなただ呆然としていた時期に、裏側ではこういうことが進行していたのである。

(この項、次回に続く)




立花 隆

評論家・ジャーナリスト。1940年5月28日長崎生まれ。1964年東大仏文科卒業。同年、文藝春秋社入社。1966年文藝春秋社退社、東大哲学科入学。フリーライターとして活動開始。1995-1998年東大先端研客員教授。1996-1998年東大教養学部非常勤講師。

著書は、「文明の逆説」「脳を鍛える」「宇宙からの帰還」「東大生はバカになったか」「脳死」「シベリア鎮魂歌—香月泰男の世界」「サル学の現在」「臨死体験」「田中角栄研究」「日本共産党研究」「思索紀行」ほか多数。講談社ノンフィクション賞、菊池寛賞、司馬遼太郎賞など受賞。

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