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JMM [Japan Mail Media]  踊り場を抜けた日本経済の「格差」は今も拡大しつつあるのか?
http://www.asyura2.com/0505/hasan42/msg/114.html
投稿者 愚民党 日時 2005 年 8 月 23 日 00:54:38: ogcGl0q1DMbpk
 

                              2005年8月22日発行
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JMM [Japan Mail Media]                 No.337 Monday Edition
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▼INDEX▼

■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第337回】

  ■ 回答者(掲載順):

   □真壁昭夫  :信州大学経済学部教授
   □山崎元   :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
   □杉岡秋美  :生命保険会社勤務
   □北野一   :三菱証券 エクィティリサーチ部チーフストラテジスト
   □岡本慎一  :生命保険会社勤務
   □津田栄   :経済評論家
   □土居丈朗  :慶應義塾大学経済学部助教授

 ■ 『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』


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 ■ 先週号の『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』
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 Q:623への回答ありがとうございました。先週郵政民営化法案が否決され、解
散・総選挙となりましたが、小泉首相と党執行部の威勢の良さが目立ちます。自民党
内の造反組も民主党も、見通しが甘かったのだと思います。自民党内、あるいは国会
内では、郵政民営化論議を眺めている多くの「一般的な国民」のことを想像するのが
むずかしかったのでしょうか。自民党内の賛成派と反対派とその支持母体、そして他
の弱小野党と民主党は、自分たちの都合のいい範囲で事態の推移を見ていたような印
象を受けます。当たり前のことですが、解散・総選挙となった瞬間に、自民党内・国
会内の論議は大手既成マスメディアと国民の前に投げ出され、大きく広がります。

 これから投票日まで大手既成メディアは、各選挙区・候補者間の骨肉の争いを「物
語」として報じ続けるでしょう。

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■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第337回目】
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====質問:村上龍============================================================

Q:624
 今月に入ってから、「景気は踊り場を抜けて上昇に転じた」というようなニュース
や記事が目につくようになりました。これは、俗に言う「勝ち組」がさらに業績を伸
ばしたのか、あるいは「負け組」が巻き返しに転じたのか、どっちなのでしょうか。
つまり「踊り場を抜けた日本経済」の「格差」は今も拡大しつつあるのでしょうか、
それとも利益を上げる企業と豊かになっていく人びとがまんべんなく増えつつあるの
でしょうか。

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※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・
組織の意見・方針ではありません。
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 ■ 真壁昭夫  :信州大学経済学部教授

 今年4−6月期のGDP速報値が、前期対比プラス0.3%と3期連続してプラス
成長となったことを受けて、政府も日銀も景気の先行きに強気の見方をしています。
政府は、既に“踊り場脱却宣言”をしていますから、今回のGDPの数値は、それを
裏付けた格好になります。GDPの内訳を見ても、個人消費と設備投資が予想通り堅
調な展開を示していますから、当面、景気回復の基本的な流れはしっかりしていると
見てよいでしょう。

 先ず、今回の景気回復過程を振り返ります。2002年の年初以降、わが国の経済
は、輸出主導で回復に向かいました。簡単に言えば、米国経済が高い成長を示したこ
と、中国の本格的な工業化の進展で、わが国の輸出が大幅に伸びたことによって、わ
が国の経済が回復過程を歩み始めました。それ以降、2003年に、一時GDPがマ
イナスになった時期はありましたが、基本的には、昨年の年央まで、GDPはプラス
成長を維持してきました。

 ところが、昨年の半ば、アテネオリンピックが終わると、デジタル家電の売行きが
減速し始めました。それに伴って、在庫調整が必要になり、昨年4−6月期、7‐9
月期と2期連続でGDPがマイナスに落ち込みました。それを指して、政府は、景気
は“踊り場”を迎えたという表現をしていました。しかし、今年に入って、個人消費
や設備投資が堅調な展開を示したこともあり、GDPは再びプラス軌道に戻り、今回
の4−6月期の数字で3期連続プラス成長を維持しました。全体としてみれば、景気
は上昇傾向を辿っていると考えてよいでしょう。

 GDPの中身を見ると、景気回復の初期段階で、経済を牽引した輸出がややモメン
タムを失い、それに代わって個人消費と設備投資が好調です。直近4−6月期のGD
Pでも、個人消費が前期対比0.7%、設備投資が同2.2%の伸びを示しています。
特に、GDPの約6割を占める個人消費が堅調であることは、今後の展開を考える上
で、心強い要因といえます。

 堅調な個人消費の背景には、労働市場の改善によって、所得・雇用環境が好転した
ことが大きく寄与しています。これは、景気回復初期、一部の輸出主導の大手製造業
だけが景気回復のメリットを享受していた状況とは、かなり異なっています。企業の
リストラがほぼ一巡して、業績回復の恩恵の一部が従業員にまで広がっていると考え
られます。それは、失業率の低下や有効求人倍率の改善、さらには、一人当たりの給
与所得の上昇傾向からも見て取れます。

 また、企業が積極的に正規従業員の雇用を進める背景には、2007年問題がある
と考えられます。2007年問題とは、1947年から49年までに生まれた、いわ
ゆる“団塊の世代”が大量に定年を迎えるため、企業の労働力が大きく減少する現象
です。企業は、それに合わせて労働力を確保する必要から、今までのパートタイム雇
用による人件費削減の方針をやや変更して、正規社員の雇用を進めています。これが、
労働市場の改善の追い風になっていると考えられます。

 雇用・所得環境が好転していることは、人々にとって大きなプラス要因です。雇用
が安定し、給料も上がっているとなれば、生活に安心感が出てきますから、消費に対
するスタンスも少しずつ変わりつつあると思います。それに加えて、企業の設備投資
が盛り上っていますから、当面、景気は上昇傾向を辿ると考えられます。そうした状
況を勘案すると、“勝ち組”の範囲が少し広がってきていると見てよいのではないで
しょうか。

 但し、その広がりは、バブル期のように日本全体に及ぶことは考え難いでしょう。
今回のGDPを見ても、公共投資は、前期対比で1.3%マイナスになっています。
公共投資は、今後も絞られることになるでしょう。これは、公共投資依存度の高い地
方経済には、マイナスに作用するはずです。目立った産業のない地方の経済活動は、
今後も厳しい状況が続くと見られます。経済活動だけで、ものごとを判断することは、
必ずしも適切ではないと思いますが、これからも、地域ごとに経済状況の差異が拡大
すると思います。

                       信州大学経済学部教授:真壁昭夫

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 ■ 山崎元  :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員

 格差どう捉えると良いのかは、なかなか複雑な問題です。たとえば、年収300万
円で貯金が100万円の個人Aと、年収1000万円で資産が1億円の個人Bがいる
と考えてみましょう。

 仮に、個人Aの年収が30万円上昇し、個人Bの年収が50万円上昇したとした時
に、変化率でみると個人Aはプラス10%で個人Bはプラス5%ですが、年収の差は
700万円から720万円に拡大しています。ただ、比率で見ると、Aの年収はBの
年収の30%から約31.4%に差を詰めているように見えます。これをケース1と
しましょう。

 また、Aの年収が300万円から330万円になった時に、Bの年収が変わらな
かったとしても、たとえば、Bが持っている1億円の資産の3割が株式であって株価
が10%上昇していると資産は300万円のプラスなので、A・B両人が使えるお金
という意味での経済力の格差は大幅に拡大したと考えることが出来ます。こちらを
ケース2とします。

 ご質問の「勝ち組」を年収といったフローで捉えるか、「資産」といったストック
で捉えるかという問題はありますが、共通部分を取って所得も資産も大きい人と考え
ると、過去1年くらいの間に起こったことは、上記のケース2に近いと思います(ケ
ース1的な要素もあったとは思いますが、ケース2的な効果が大きかったと思いま
す)。

 一人一人の具体的個人を見た場合に、低賃金層の個人の給料が大きく上がったよう
には思えませんが、失業率が低下したということは、無収入の個人の数が減ったとい
うことであり、プラス10%は大袈裟だとしても、平均で見た「負け組」の年収は上
昇しているということでしょう。

 他方、個人Bやあるいはもっと年収・資産共に大きい「勝ち組」は、会社との関わ
りでいえば経営者か幹部社員であることが典型的でしょう。会社の業績の改善によっ
て、彼らの収入も改善している可能性がありますが、これを除外しても、資産の値上
がりによる経済力の増加が圧倒的だったのではないでしょうか。株価はTOPIX
(東証株価指数)で見ると、現在のざっと1250は昨年8月末の約1129.55
のざっと10%強上にあります。

「勝ち組」達が資産の3割も株を持っていない公算は大きいと思いますが(企業オー
ナーを含めると「平均」では持っているかも知れませんが、数の多い典型的な人物は
持っていないでしょう)、近年価格が底入れし、一部はミニバブルとも称される不動
産の価値を含めると、資産全体に対する年間のプラスのインパクトはおそらくケース
2のような状況を上回るでしょう。

 格差を見るにあたって、フローを見るのかストックを見るのか、あるいは金額の
「差額」か「比率」かは難しいところですが、大体の感覚で言うと、「勝ち組」の経
済力の改善は「負け組」のそれを上回ると思われます。

 しかし、「負け組」についても、以前と比較すると、経済的な状況が改善している、
ということではあります。

 ここ数年間、一つの社会的選択として、規制を緩和して高額所得者の税率を下げる
などして、「勝ち組のモチベーションを高めることで経済全体を底上げすれば、負け
組の経済的状態も改善するだろう。しかし、両者の格差が広がるのはやむを得ない」
という考え方を採ったのだ、ということが言えるでしょう。

 これは、旧来の景気対策で強調された、地方の公共事業に国のお金を使うような
「負け組を底上げすることによる、全体の改善」が所期の効果を上げなかったことに
対する反省を踏まえた選択でもあるといえそうです。

 ただし、人間の価値判断は、自分個人に関する絶対的な状況の改善・悪化だけでは
なく、他人との比較を多大に含むものなので、現在の選択が社会的にいつまでも支持
される保証はないと考えるべきでしょう。

              経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員:山崎元

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 ■ 杉岡秋美  :生命保険会社勤務

 昨今の風潮のなかで経済的な勝ち組といわれるのは、ホリエモンに代表されるよう
なIT長者ではないかと思います。ITに限りませんが、ベンチャー企業を立ち上げ
て創業者利得でかなりの富を獲得した彼らの一部はセレブとよばれ、政治権力に接近
し、女優と結婚しといった華やかな行動や消費スタイルがメディアの注目を集めてい
ます。それほど多数いるとは思えませんが、社会的・文化的な影響力から言うと、一
つの階層を作りつつあるように見えます。彼らの富を作り出した新規株式公開(IP
O)数は、昨年、2000年のITバブル期の水準を回復しましたが、今年に入って
からも堅調で、新たな長者達を生み出しつづけています。

 一昔前までは、新興・中堅企業の目標は必ずしも、公開だけではありませんでした。
ものづくりにこだわりをもった昔かたぎの経営者のいる中小企業等の中には、儲かる
と給料の一年分のボーナスを出し、協力企業を含めて社員こぞって海外旅行に行くこ
とが企業目的であるような会社が結構ありました。そこの従業員は、勝者とはいえな
くともそれなりの満足感を味わうことができたことでしょう。

 しかし、ここ数年で、このような企業は中小企業といえども絶滅種になりつつあり
ます。技術力があっても、長引いた不況と国内・国際での競争激化で、このような行
動様式では企業の存続は難しかったのです。生き抜くための開発や工場移転に必要な
資金が必要となり、借り入れにしろ、増資をするにしろ、いったん外から資本を取り
入れると、銀行や株主のために行動することが第一に求められます。銀行や株主が厳
しく監視していますので、ボーナス一年分や海外旅行で従業員に報いることは無駄遣
いの典型とみなされることでしょう。企業経営者にとって、従業員を含めた企業全体
の福祉をはかることが許されなくなった分、公開を目標とせざるを得ない状況に追い
込まれたという側面があります。

 企業にとって、賃金は削減すべきコストになってしまいました。経営者は銀行・株
主がうるさいだけでなく、生き残るために少しでも安い生産拠点を世界中から探すこ
とになり、人件費は常に削減の対象となります。経営者の頭には、日本の労働力の代
替として、つねに海外の労働力がオプションとして存在します。最近日本での生産が
見直されているように伝えられますが、本当に企業秘密でノウハウの核の部分は、日
本で製造しようとするでしょうが、それ以外の製造は、かなり高度なところまで引き
続き海外に流出しているというのが現場の実感です。


 所得・富の分布の山の右側に位置することが勝ち組みの定義だとすると、このよう
な競争の荒波に大なり小なりさらされる給与で、所得・富の分布の右側に位置するだ
けの金銭的な成功を収めることは不可能な状況になったといえましょう。今回の「景
気の踊り場を脱する局面」においても、代替可能な労働の条件が良くなっているとは
とても思えません。

 現在において、山の右側に位置する鍵は、キャピタルゲインにあります。六本木ヒ
ルズ周辺のIT長者たちの成功の秘訣は、何らかの意味で起業に関わり、新規公開時
のキャピタルゲインで大もうけしたことでしょう。ホリエモンのようなトップでなく
ても、その部下ないしは周辺にいて、新株引受権の幾ばくかを手に入れることが出来
ていれば、かなりな富を獲得できたはずです。

 ホリエモンのニッポン放送騒動のとき、ホリエモンの上前をはねた外資系インベス
トメントバンカーも儲かりそうですが、いずれにせよ山の右側に行くには、普通の賃
金では不可能で、株式の新規公開、合併、買収といった資本の取引に参加し、キャピ
タルゲインの分け前に預かることが必須条件であるということが明らかになりつつあ
ります。

 経済なインセンティブが、起業家とその周辺に偏って与えられるということは、失
われた10年の深刻な反省の結果、商法などを整備した結果が意図したように素直に
現れたことだと思えます。ただ真面目に働くだけでは山の左側にしかいけず、経済的
な勝ち組みの条件は、天才だったり、超人的努力、それ以上に幸運であることになっ
てしまったことに、少しばかり戸惑いを感じることもあります。プラス面もマイナス
面もはっきりしてきたと思います。

                         生命保険会社勤務:杉岡秋美

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 ■ 北野一  :三菱証券 エクィティリサーチ部チーフストラテジスト

 今回の景気回復局面で、どのような「階級」が、文字通り「回復」してきたのか、
年齢階級別の失業率の推移を見てみましょう。まず、全体の失業率は、一年前の4.
6%から4.2%に低下してきました。4.2%という失業率は1998年7月以
来約7年ぶりの低水準です。

 こうしたなか、この1年間で、最も失業率が低下した年齢階級は、15〜24歳
という若年層です。昨年6月に9.2%だった失業率は、1.4%低下し、今年6
月は7.8%になりました。二番目に失業率の低下幅が大きかったのは25〜34
歳で、5.8%から5.0%まで0.8%低下しました。一方、昨年6月に3.7
%であった35〜44歳の失業率は、今回も3.7%で変化はありませんでした。
この1年間で見る限り、若年層ほど、景気回復の恩恵を受けたということになるで
しょう。

 もっとも、彼等がこの1年間で巻き返して来たのは、それまで回復が遅れていた
ことの反動だと思われます。失業率がピークをつけた年次をみると、15〜24歳
と65歳以上は2003年ですが、25〜34歳、35〜44歳、45〜54歳、
そして55〜64歳はいずれも2002年が失業率のピークです。株式相場的に表
現すれば、出遅れ組みのキャッチアップが始まったということです。

 昔、米国で「trickle down」理論というのが流行ったことがあります。簡単に言
えば、経済を自由化すれば、強者がまず儲けて、しずくが滴り落ちるように、その
恩恵を弱者も得ることができるという話でした。現象面だけをみると、ここ一両年
の日本経済は、まず強者である企業の収益が回復し、その恩恵(しずく)が、よう
やく弱者である若年層にまで及んできたということになります。

 なお、この場合の強者・弱者というのは、技量の優劣や、才覚の有無によって区
別されるものではなく、企業対労働者、労働者対学生といった社会的立場によるも
のです。そもそも、企業収益が回復した一因は、従業員をリストラし、新卒採用を
見送り、費用を減らしたことにあります。また、一口に若年層の「巻き返し」と
いっても、巻き返しているのは、3年前の22歳ではなく、現在の22歳なのです
から、生年による運・不運もあります。

 ところで、こうした若年層の「巻き返し」が、一時的な現象なのか、重要なトレ
ンド転換の兆しなのかといえば、まだ何とも言えません。ただ、少なくとも趨勢的
な悪化トレンドに歯止めが掛かってきた感じはします。若年(20〜24歳)失業
率と壮年(40〜44歳)失業率の相対的な関係(若年/壮年失業率の10年移動
平均)の推移をチェックしましたが、1991年から11年間続いた増加傾向は2
001年で止まり、ここ数年は、この値(若年/壮年失業率の10年移動平均)が
僅かですが縮小しております。

 仮に、「景気低迷局面が深刻になればなるほど、社会的弱者(労働者、あるいは
労働者のように団結も出来ない学生)にしわ寄せが行く」という命題が真であるな
ら、ここで若年/壮年失業率の趨勢的な悪化に歯止めが掛かりつつあることは、脱
「踊り場」というよりも、脱「失われた10年」のエビデンスになるかもしれませ
ん。

         三菱証券 エクィティリサーチ部チーフストラテジスト:北野一

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 ■ 岡本慎一  :生命保険会社勤務

 日本では経済成長には経済格差が当たり前の様に発生すると考えられていますが、
経済成長と経済格差の関係については諸説あり、成長が格差拡大につながるかどうか
は分からないということが実状だと思います。

 有名な経済学者であるサイモン・クズネッツは、低所得国から中所得国へと経済発
展が進むにつれて経済格差が拡大し、さらに高所得国まで達すると再度格差が低まる
という「逆U字仮説」を主張しました。

 世界各国の所得格差をみてみると、アフリカ等の低所得国の経済格差は日本やアメ
リカ等の先進国に比べて圧倒的に高く、概ね逆U字仮説が妥当であることを示してい
ます。別の見方をすれば、一定程度、所得格差が平準化しなければ、高い経済成長は
続かないということであり、経済成長=格差拡大という考え方に対立する結果を示し
ています。

 しかし、アメリカやイギリス、そして日本などの先進国では80年代以降所得格差
が拡大しているという研究も発表され始めており、先進国では逆U字仮説に代わる新
たな説明が必要になってきています。例えば、京都大学の橘木俊詔教授は『日本の経
済格差』(岩波新書、1998年)の中で、豊富な統計と説得的な論理を駆使しながら、
経済が(逆U字仮説で説明される水準よりも)更に高度に発達すると、再度不平等化
が進むという仮説を提示しています。

 ただ、こうした格差拡大説に対する反論も多くあることも事実です。例えば、80
年代に入って所得格差は拡大している様に見えますが、その多くは年齢構成や世帯構
成の変化に起因する「みせかけ」の拡大だという研究もあります。日本における経済
格差が拡大しているかどうかという点について一致した見解があるとは言い難い状況
にあります。

 今の所は経済統計の見方を変えれば結果が変わってしまう程度の変化しか生じてい
ないにも関わらず、20〜30歳代の企業経営者が出現し始めているためか、格差社
会の拡大という雰囲気が過度に強調され過ぎていると感じます。TVの街角インタ
ビューが決して実像を語れない様に、六本木ヒルズに住まう成功者を捉えても、格差
社会の将来は分からないと思います。

 むしろ最近生じている劇的な変化として注目すべきは、失業率の低下に代表される
雇用環境の改善だと思います。2002年8月に367万人もいた失業者は、05年
6月には278万人へと約90万人も減少しています。日本経済が通常の成長軌道に
戻るにつれ、失業という最大の無駄が小さくなってきていることに注目したいと考え
ます。

                         生命保険会社勤務:岡本慎一
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『日本の経済格差』橘木俊詔/岩波新書
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/400430590X/jmm05-22
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 ■ 津田栄  :経済評論家

 日本経済は、経済統計から全体として回復しているかのように見えます。それを受
けて、政府・日銀は景気踊り場脱却を表明し、国民に景気の回復を印象付けようとし
ています。もちろん、総選挙を控え、政治的に配慮して景気回復を強調したかったか
らだという見方もあります。一方、マスメディアの一部で、高額商品が売れ、雇用が
回復し、設備投資が伸びていると報道しているのをみると、景気が踊り場を抜けたよ
うな錯覚を感じます。

 確かに、景気は、都市部で、そして経済が堅調な米中などの海外需要を受けて輸出
を伸ばしている大企業を中心に、回復しているといえます。また地方でも、少しばか
りですが、その恩恵は受けています。しかしながら、それも、地方のなかの中心都市
にいえることであって、そこを外れた地方は、その恩恵をあまり受けていません。

 むしろ、地方で起きているのは、地方の末端から地方の道府県庁所在の都市に、ヒ
ト、モノ、カネが移転し、地方が、過疎化・高齢化のなかで産業の維持が困難な農漁
村、中小都市から衰退していることです。そして、その道府県庁所在都市でも維持す
るのが精一杯な状況です(そのために、地方によっては、地域の中心の都市部を重点
的に投資し、田舎を見捨てているのではないかとさえ感じられます)。さらに、地方
の中心都市から九州、関西、北陸、関東、東北など広域経済圏の中心都市へ、そして
東京や名古屋など日本の中心都市部へとヒト、モノ、カネが集中しています。

 そうしてみてくると、日本経済は、一極集中型(あるいはペンシル型)の経済に変
質しつつあると言え(友人は、都市部のみの地価の上昇や消費の強さをペンシルバブ
ルといって、近い将来の破裂を危惧しています)、そのなかで、堅調な外需と民間の
努力で一部の地域・企業・個人のリードにより、全体的には景気が回復しているかの
ように見えているだけといえます。そう考えると、景気の回復や脱踊り場を経て、経
済的格差は依然解消するどころか、拡大しつつあるといえるのではないでしょうか。
つまり、より強い者はより強く、弱い者は強くなれず弱いままに苦しんでいる状況で
す。

 これは、「勝ち組」がさらに業績を伸ばし、「負け組」は巻き返しができず、負け
たままでいるということになります。ただ、この「勝ち組」「負け組」の表現は誤解
を与えかねません。そもそも、競争条件が公平ななかで行われた競争の結果、「勝ち
組」「負け組」というのであれば納得がいきますが、競争の始まる前から条件に格差
があって、最初から「勝ち組」「負け組」が固定化されていては、この表現はおかし
いといえます。したがって、競争が始まれば、さらに両者の格差は拡大・強化され、
景気の回復の恩恵は「勝ち組」に集中するだけです。

 こうしたことを、いくつかの事例で見ていきます。企業業績の面では、大企業は、
連続して増益を予想されていますが、中小企業は何とか食いつないでいると聞きます。
その背景は、大企業のコストカットを、従業員などだけでなく、下請けの中小企業に
注文価格引下げで対応したり、資本的に余裕のある大企業が市場参入・強化で攻勢を
かけ、中小企業の経営を圧迫していることが挙げられます。もちろん、能力のない中
小企業、経営に失敗した中小企業が撤退していくのは仕方がありません。最近の倒産
件数や倒産額の減少は、こうした中小企業がほぼ淘汰された結果ということを聞いて
います。それでも生き残った多くの中小企業は大企業の下請けや大企業の攻勢のなか
で苦しい状況にあります。

 一方、従業員への所得カットは、ここにきて景気の回復とともに大企業ではあまり
聞きませんが、それでも給与は相変わらず低く抑えながら、業績連動型のボーナスで
所得を幾分改善しているだけです(業績が悪くなれば、すぐにボーナスカットになり
ます。つまり、人件費は変動費扱いということです)。その点で、今の大企業の従業
員は、景気の回復、脱踊り場の恩恵を受けていますが、中小企業はそうはなっていま
せん。大企業のコストカットや攻勢を受けて業績が伸びない中小企業では、従業員の
所得は伸びていないのではないでしょうか?
 
 また、失業率の改善、雇用の回復についても、確かに東京などの都市部や大企業を
中心に見られます。しかし、地方や中小企業では、そんな状況ではありません。もち
ろん、団塊の世代の大量退職を控え、若年層の雇用が広がりつつあります。しかし、
それも都市部、大企業のことであって、地方や中小企業には広がりは大きくありませ
ん。しかも、雇用者が増えているのは医療・福祉、サービス業などであって、製造業
その他の業種では増えず、減少気味です。その内容が本当に雇用の回復につながって
いるのか、今一度検証してみるべきでしょう。

 また、個人消費は、堅調に推移しているという見方が強いですが、それはあくまで
都市部の景気回復の恩恵を受けた一部の人たちです。そして、上場している企業や輸
出企業の業績拡大が、株価の上昇の形で、株式保有の個人に恩恵をもたらしています。
こうした個人投資家は、資産を持った、どちらかというと裕福な人たちであり、彼ら
が消費をリードしているといえます。もちろん、新規上場の企業オーナーも、大きな
上場益を得て、高額商品や高額サービスを買って個人消費をかさ上げしています。し
かし、地方では、それほど消費が盛り上がっているようには見えません。設備投資に
ついても、どちらかというと内需よりも強い海外需要に牽引されたものであり、それ
はとりもなおさず輸出に強く、また資金的に余裕のある大企業など限られたものとい
えます。

 このように見てくると、景気が回復し、そして踊り場から脱却したからといって、
裾野が広がって、利益を得、豊かになった企業や人が増えたわけではなく、より格差
が拡大し、富める者はより富を得、貧しき者は貧しさから抜けられず、むしろより貧
しくなるような経済構造が定着しつつあるといえるのではないでしょうか? しかし
ながら、統計では、全てを足して平均的に表しており、そういった点から、外需で海
外から稼いだ利益の恩恵を受けている企業や個人、そして地域など一部のリードに
よって、景気は回復している、踊り場を脱却しているかのように見えているのではな
いでしょうか。

 最後に、景気や経済は、もはや日本全体で語るのは難しくなっているように思いま
す。景気が回復しているといっても、日本全体を表すことはなく、地域、企業、個人
によって経済状況は異なっています(私たちは、机上ではなく、もっと現場、現実を
見て、日本の多様な経済の姿を捉える必要があります)。その意味で、今回のことか
ら、私たちは、この景気、経済という言葉を依然国家単位、一律同質的な見方で使っ
ていて、そこから脱却できていないのではないかと感じます。したがって、こうした
中央中心の景気、経済の捉え方をやめ、国のあり方を含めて構造改革が進められるこ
とが今後求められます。

                             経済評論家:津田栄

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 ■ 土居丈朗  :慶應義塾大学経済学部助教授

 私の現状認識は、景況が改善しつつある目下の状況では、一時的であれ、格差の拡
大は起こりえるでしょうが、それがどれだけ持続的であるかは、その後の所得再分配
政策の程度にもよると考えます。産業間の格差(成長産業と衰退産業など)を埋め合
わせるような(直接的・間接的な)所得再分配政策は、実はこれまでの日本では多用
されてきました。それは、露骨な補助金分配だけでなく、税制などを通じたものでも
行なわれてきたわけで、景況の改善によっていち早く恩恵を受ける成長産業で稼いだ
お金が、法人税、その従業員が納める所得税等で吸い上げて、財政を通じて成長の恩
恵を直接受けてないセクターの人々に渡っていたわけで、そうして中期的には成長の
恩恵を満遍なく受けていました。

 近年では、産業間の格差よりも、地域間の格差に焦点が移ってきていると思われま
す。例えば、1990年代の日本経済の低迷の最中に、東京だけが栄えているとか、
地方経済は疲弊しているなどとの認識が巷間で広まっていたことは、そのあわられで
しょう。当然、財政政策も、それに呼応するような政策が大なり小なり行なわれまし
た。

 確かに、IT産業や金融業にいるのような、多くの人が目で見て観察できるような
「勝ち組」(夜の「六本木」界隈に行けばよく観察できるらしいですが)という、産
業に根ざした格差の認識もさることながら、政治的に見ると、そうした格差よりも、
東京を始めとする都市部と、農村部での経済格差(実は、今となっては高度成長期に
比べればたいした問題ではないのですが)が今後、政策対応としてクローズアップさ
れる可能性があります。特に、今般の衆議院総選挙がらみで、特に小選挙区で出馬し
ている候補者には、「改革派」と自称する候補者で構造改革に積極的な姿勢を示して
いる方でありながら、地元経済活性化、地域の産業を大切にする、などというような
個人的公約を掲げている方が結構あります。

 そうしたことは、今後の政策形成の中で、さほど日本経済にとって重要ではないよ
うな地域経済再生策とか、地方分権改革で地方交付税の改革を鈍らせるようなことに
なったりとか、結局は地域間での所得再分配政策を依然として行おうとする方向に作
用することを懸念しています。

                    慶應義塾大学経済学部助教授:土居丈朗

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■■編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■

 Q:624への回答ありがとうございました。今、海外のリゾートで休養していま
すが、モデムの調子が悪くまったくネットにつなげません。この原稿は、近所のホテ
ルのビジネスセンターで書き、送信しています。

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Q:625
 おもに自民党から、続々と新人議員候補が名乗りを上げているようです。ある個人
が、政治家・国会議員となることに、何らかの経済合理性があるのでしょうか。

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                                   村上龍

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